また引っ越し、また『はじめまして』
転勤族の家族と感情の言語化
夫の「内示が出た」のひと言で、また段ボールを組み立てる日々が始まる。やっと見つけたパートを辞め、ようやく打ち解けたママ友に別れを告げ、子どもの転校手続きに走り回る。新しい土地では、また公園で「はじめまして」から。それなのに、まわりからは「転勤族なんだから慣れてるでしょ」「いろんな土地に住めていいね」と言われる。笑ってうなずきながら、胸の中の何かがすっと冷えていく。その冷たさには、まだ名前がついていない感情がたくさん詰まっています。転勤族の配偶者と子どもに向けて、その感情をほどく方法をお伝えします。
結論:「慣れた」のではなく「感じないようにしてきた」
結論からお伝えします。転勤のたびに心が平気になっていくように感じるのは、本当に慣れたからではなく、別れのつらさを感じないように心が守りに入っているからかもしれません。何度も別れを経験するうちに、「どうせまた離れるのだから」と、最初から深く関わらない、深く感じないというクセがついていくのです。
この記事のポイントは3つです。
- 転勤は、家族一人ひとりにとって「喪失の連続」。友人、仕事、なじんだ店、子どもの学校。失うものに名前をつけないまま次の土地へ移ると、感情は積み重なっていく。
- 「慣れたでしょ」がつらいのは、感情を否定されたように感じるから。転勤族の家族のつらさは、まわりから見えにくく、本人も言葉にしにくい。
- 居場所は「どこに住むか」だけで決まらない。アドラー心理学の所属感と課題の分離の視点で、転勤に振り回される感覚から、自分で選んで暮らす感覚を取り戻すことができる。
こうした「感じているはずなのに言葉にならない」状態は、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる特性と関わっています。感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もがもつ特性の濃淡です。別れや環境の変化が繰り返されると、心を守るために、一時的にこの傾向が強まることもあります。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。
なお、海外赴任から帰国した家族の悩みは帰国生の記事で扱いました。この記事では、国内で数年ごとに転勤を繰り返す家族に絞ってお話しします。
数字と研究で見る転勤と家族の心
転勤族の家族が感じるしんどさは、気持ちの弱さではなく、研究でも裏づけられている心の動きです。関連する統計と研究を紹介します。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 2倍以上 | 共働き世帯の数は、専業主婦世帯の2倍を超えている。転勤が「配偶者の仕事」に与える影響は、以前よりずっと大きくなった | 総務省「労働力調査」(労働政策研究・研修機構の集計) |
| 20点・20点・26点 | 人生の出来事のストレスの大きさを点数化した尺度で、「住居の変化」は20点、「学校の変化」は20点、「配偶者が仕事を始める・やめる」は26点。転勤では、これらが一度に重なることがある | Holmes & Rahe(1967)社会的再適応評価尺度 |
| 子ども時代の引っ越し | 子どもの頃に引っ越しが多かった人ほど、大人になってからの幸福感が低い傾向が見られ、とくに内向的な人でその傾向がはっきりしていた | Oishi & Schimmack(2010, Journal of Personality and Social Psychology) |
| あいまいな喪失 | 相手は生きているのに会えなくなるなど、区切りのつかない喪失は、悲しみを言葉にしにくく、長引きやすい | ポーリン・ボス(Pauline Boss) |
| 感情のラベリング | 感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がる | Lieberman et al.(2007) |
アメリカの精神科医ホームズ(Holmes)とレイ(Rahe)が1967年に発表した尺度では、さまざまな人生の出来事がストレスの大きさで点数化されています。注目したいのは、転勤では「住まいが変わる」「子どもの学校が変わる」「配偶者が仕事をやめる」など、いくつもの出来事が一度に重なることです。一つひとつは中くらいの出来事でも、重なれば心への負担は大きくなります。
また、大石繁宏(Oishi)とシマック(Schimmack)は2010年の研究で、子どもの頃に引っ越しが多かった人ほど、大人になってからの幸福感が低い傾向があることを示しました。ただし、これは「転勤族の子どもは不幸になる」という意味ではありません。研究では、とくに内向的な人でその傾向がはっきりしていたと報告されています。つまり、一人ひとりの気質に合わせて、別れと出会いの感情を丁寧に扱うことが大切だということです。
そして、家族療法家のポーリン・ボス(Boss)が提唱した「あいまいな喪失」という考え方は、転勤族の別れによく当てはまります。友人は亡くなったわけではありません。連絡を取ろうと思えば取れます。けれども、もう毎日のように会うことはできない。区切りのはっきりしない別れは、悲しんでいいのかどうかもわからず、感情が宙に浮きやすいのです。
転勤は、引っ越し一回分の出来事ではない。
住まい、仕事、学校、友人。
いくつもの「さよなら」が一度に重なる出来事。
繰り返す別れ|「どうせまた離れる」が心にふたをする
つくろうと思えなくなったんです」
転勤族の家族は、「別れ」が人生の中に組み込まれている暮らしをしています。辞令が出れば、どんなに大切な関係でも、数週間で手放さなければなりません。最初の数回は、別れのたびに涙を流し、新しい土地でまた一から関係を築こうとします。けれども、それを何度も繰り返すうちに、心は自分を守る方法を覚えていきます。最初から深く関わらなければ、別れもつらくない、と。
この守り方は、ある意味ではとても賢い方法です。けれども、感情は選んでふたをすることができません。悲しみを感じないようにすると、喜びやわくわく感も一緒に感じにくくなります。「毎日が色あせて見える」のは、心がふたをしたままになっているサインかもしれません。
別れの前後に動いている感情
| 時期 | よく出てくる言葉 | その下にありそうな感情 |
|---|---|---|
| 内示が出たとき | 「またか」 | 驚き、怒り、あきらめ、「また一からか」という疲れ |
| 引っ越しの準備中 | 「忙しくてそれどころじゃない」 | 悲しみを感じる暇がない焦り、別れを先延ばしにしたい気持ち |
| 別れの挨拶のとき | 「また会おうね」 | 感謝、さみしさ、もう会えないかもしれないという予感 |
| 新しい土地で | 「まあ、なんとかなる」 | 心細さ、緊張、前の土地への恋しさ |
| 半年後 | 「もう慣れた」 | 深く関わることへのためらい、つながりたいのにつながれないもどかしさ |
表を見ると、転勤のどの時期にも、言葉にされないまま流されていく感情があることがわかります。とくに引っ越しの準備中は、手続きと荷造りに追われ、悲しむ時間すらありません。そうして感じそびれた感情が、新しい土地で「なんとなく元気が出ない」というかたちで表れることもあるのです。
配偶者のキャリア断絶|「ついていく」と決めた人の言葉にならない気持ち
共働きが当たり前になったいま、転勤は家族のもう一人のキャリアにも大きく影響する出来事です。正社員の仕事を辞めて帯同する、転勤先で一から仕事を探す、資格を生かせる職場が見つからない。家族のために「ついていく」と決めた人の胸には、言葉にしにくい感情がたまりやすくなります。
文句を言う資格はないんです」
「ついていく」という選択は、多くの場合、家族の事情、子どものこと、経済的なことなど、さまざまな事情を考えたうえでの決断です。自分で決めたことであっても、失ったものを惜しむ気持ちは自然なものです。選択に納得していることと、その選択で失ったものを悲しむことは、矛盾しません。
「ついていく側」の感情を分ける
- 喪失感:積み上げてきた仕事、職場の仲間、「働く自分」という居場所を失ったこと
- 焦り:ブランクが長くなるほど、仕事に戻れなくなるのではという不安
- うらやましさ:キャリアを続けている友人や元同僚、転勤しない家族への気持ち
- 怒り:転勤を命じる会社へ、そして選択の余地がなかった状況へ
- 罪悪感:パートナーに怒りを感じてしまうこと、家族のための選択を後悔しそうになること
最近では、配偶者の転勤に合わせて一時的に休職できる制度や、転勤先の拠点で働き続けられる制度を設ける企業も出てきています。国家公務員には、2014年から配偶者の海外転勤に同行するための「配偶者同行休業」の制度もあります。リモートワークの広がりで、転居しても同じ仕事を続けられる人も増えました。感情を言葉にすることは、こうした選択肢をパートナーや職場と話し合うための準備にもなります。
子どもの転校|「大丈夫」と言う子の心の中
転勤族の家族にとって、子どもの転校はとりわけ心配の大きい出来事です。親の心配をよそに、子どもが「大丈夫」「平気だよ」と言うことも少なくありません。けれども、その「大丈夫」が、本当の気持ちなのか、親を心配させないための言葉なのかを見分けるのは簡単ではありません。
『別に』しか言わないんです」
子どもは、大人以上に感情を言葉にする力が育っている途中です。しかも転勤は、子ども自身が選んだことではありません。自分ではどうにもできない出来事への怒りや悲しみを、どう表していいかわからないのです。年齢によっても、表れ方は違います。
| 年齢の目安 | 表れやすいサイン | かけたい言葉の例 |
|---|---|---|
| 幼児 | 赤ちゃん返り、夜泣き、親から離れたがらない | 「前のおうちの〇〇ちゃんに会いたいね」 |
| 小学校低学年 | 腹痛や頭痛、朝の不機嫌、前の学校の話ばかりする | 「前の学校、楽しかったもんね」 |
| 小学校高学年 | 「別に」「普通」、学校の話をしない、イライラ | 「急に転校になって、腹が立つよね」 |
| 中学生以上 | 部屋にこもる、反抗的な態度、「どうせまた転校する」 | 「振り回されている感じがするよね。話したくなったら聞くよ」 |
大切なのは、子どもの気持ちを「前向き」に変えようとしないことです。「新しい友だちができるよ」「ここもいいところだよ」と励ましたくなる気持ちはわかります。けれども、まずは「さみしいよね」「腹が立つよね」と、子どもの感情を言葉にして返してください。気持ちを受けとめてもらえたと感じてはじめて、子どもは新しい土地に目を向ける余裕を持てます。朝の腹痛などの体の症状が続く場合は、小児科やスクールカウンセラーに相談してください。
「慣れたでしょ」と言われるつらさ
転勤族の家族が口をそろえて「いちばんつらい」と言うのが、まわりからの「慣れたでしょ」「いろんな土地に住めていいね」という言葉です。言う側に悪気はありません。むしろ、気づかいや励ましのつもりで言っていることがほとんどです。それなのに、なぜこれほど心に刺さるのでしょうか。
それは、この言葉が、「あなたはもうつらくないはずだ」という前提で語られているからです。何度経験しても、別れはつらいものです。何度経験しても、知らない土地での一から始める緊張は消えません。それなのに「慣れたでしょ」と言われると、まだ感じているつらさを否定されたように感じてしまうのです。
「慣れたでしょ」と言われたときの心の守り方
相手の言葉を変えることはできません。けれども、自分の受けとめ方を準備しておくことはできます。心の中で「慣れたんじゃない、慣れるしかなかったんだよね」と自分に言ってあげる。それだけでも、言葉の刺さり方は変わります。
信頼できる相手には、少しだけ本音を伝えてみるのもよいでしょう。「実は、毎回けっこうさみしいんです」。この一言で、相手が「そうだったんだ」と受けとめてくれれば、その人とのつながりは一段深まります。同じ転勤族どうしで話せる場があれば、それも大きな支えになります。
所属感と課題の分離|アドラー心理学で「根なし草」の感覚をほどく
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングを行ってきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方の中に、転勤族の家族を支える二つの視点があります。
視点1|所属感は「長くいる場所」だけで生まれるものではない
アドラー心理学では、人には「自分はここにいていい」と感じられる所属感が欠かせないと考えます。転勤族の家族がよく口にする「根なし草のよう」という言葉は、この所属感が揺らいでいるサインです。
所属感は、同じ土地に長く住むことでしか得られないものではありません。アドラー心理学では、所属感は誰かの役に立とうと関わり、「ここで自分にできることがある」と感じる中で育つものだと考えます。数年しかいない土地でも、近所の人に道を教える、子どもの学校の行事を手伝う、前の土地で覚えた料理をおすそ分けする。小さな貢献の一つひとつが、「いま、ここ」での所属感を育てます。
そして、所属の場は土地だけではありません。家族、オンラインでつながる前の土地の友人、同じ転勤族の仲間、趣味のコミュニティ。どこへ引っ越しても持ち運べる居場所を、いくつか持っておくことも、根なし草の感覚をやわらげます。
視点2|課題の分離:転勤は誰の課題か
アドラー心理学の「課題の分離」は、岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった考え方で、「その結果を最終的に引き受けるのは誰か」で課題を分けます。転勤族の家族の場合、次のように整理できます。
| 自分の課題 | 他者の課題 |
|---|---|
| 新しい土地で、どう暮らしたいかを選ぶこと | 会社がいつ、どこへ転勤を命じるか |
| 自分のキャリアをどう続けるかを考え、パートナーと話し合うこと | まわりの人が「慣れたでしょ」と言うかどうか |
| 自分の感情に気づき、言葉にすること | 子どもが新しい学校で、誰と友だちになるか |
| 子どもの気持ちを受けとめ、そばにいること | 子どもが新しい環境にどのくらいの時間でなじむか |
転勤族の配偶者、とくに子どもの世話を主に担う人は、「子どもが新しい学校でうまくやれるか」まで自分の責任として背負い込みがちです。けれども、新しい友だちをつくり、新しい環境になじんでいくのは、最終的には子ども自身の課題です。親にできるのは、子どもの気持ちを受けとめ、困ったときに相談できる安心の土台になることです。そう線を引くことで、親自身の心にも余裕が生まれます。
中島輝より一言
転勤族の方からご相談を受けると、「私はどこの人でもない気がする」という言葉をよく耳にします。けれども、私はこう思うのです。何度も「はじめまして」を繰り返してきたあなたは、どこへ行っても、新しいつながりをつくり直せる力を持っている人なのだと。その力は、別れのたびに傷つきながら、それでも人とつながろうとしてきたあなたが育ててきたものです。どうか、その強さと同じくらい、その陰にあるさみしさも大切にしてあげてください。
転勤族の家族のための感情の言語化ワーク|自己受容感を育てる
自己肯定感の「6つの感」を一本の木にたとえると、転勤族の家族の悩みと特に深く関わるのが、幹にあたる「自己受容感」です。自己受容感は、「いまの自分をありのままに受け入れる」感覚です。「慣れなきゃ」「さみしいなんて言っていられない」と感じているとき、この感覚は揺らいでいます。さみしい自分も、うらやましい自分も、怒っている自分も「そう感じていいんだ」と認めることが、どこへ植え替えられても折れない幹を育てます。書籍原稿のワークを、転勤族の家族の場面に合わせてアレンジして紹介します。
感情ことば帳:引っ越しのたびに1ページ
小さなノートを1冊用意し、土地ごとに1ページを使います。そこで感じた気持ちを、ひと言ずつ書き足していきます。「さみしい」「ほっとした」「うれしい」「くやしい」。引っ越しのたびに見返すと、どの土地にも、つらさだけでなく大切な感情があったことがわかります。
比喩レッスン:いまの暮らしを何かにたとえる
「いまの私は、新しい鉢に植え替えたばかりの観葉植物みたい」「旅の途中の駅のベンチに座っているみたい」。たとえで表すと、言葉にしにくい気持ちにも輪郭が出てきます。家族で一人ずつたとえを言い合うと、子どもの気持ちを知るきっかけにもなります。
3段階温度計:内示から半年までを記録する
内示が出た日から、新しい土地での半年後まで、週に一度「さみしさ」「楽しみ」「疲れ」をそれぞれ1〜3で記録します。感情の波を目で見ることで、「いまはいちばんつらい時期なんだ」と、自分を責めずに受けとめられるようになります。
感情が動いた瞬間日記:「さよなら」と「はじめまして」を書く
引っ越しの前後に、前の土地で心が動いた瞬間と、新しい土地で心が動いた瞬間を一つずつ書きます。「最後の日、ママ友が手紙をくれて泣いた」「新しい公園で、娘に声をかけてくれた子がいた」。別れの感情をきちんと書き残すことが、新しい出会いに心を開く準備になります。
さよならを、きちんと悲しむ。
それができてはじめて、
次の「はじめまして」に心が開く。
気持ちが沈む日が続くときは、一人で抱え込まないでください。眠れない、食欲がない、何をしても楽しくない状態が2週間以上続く場合は、医療機関や自治体の保健センターに相談してください。転勤先で相談先がわからないときは、自治体の窓口に問い合わせると、地域の相談先を教えてもらえます。
夫婦で話すとき、子どもと話すとき
転勤族の家族では、転勤を命じられる側と、ついていく側で、見えている景色が違います。転勤する本人も、新しい職場での緊張や、家族を振り回している申し訳なさを抱えています。お互いの感情を言葉にしないまま暮らしていると、すれ違いが大きくなりやすいのです。
話すときの3つのポイント
「あなたのせいで」ではなく「私は〜と感じている」
ついていく側は、「あなたの転勤のせいで」ではなく「仕事を辞めて、私は自分の居場所がなくなったようで心細い」と、自分を主語にして伝えます。責める言葉ではなく感情を伝える言葉にすると、相手も防御せずに聞くことができます。
転勤する側も、自分の感情を話す
転勤する本人も、「家族に負担をかけて申し訳ない」「新しい職場でうまくやれるか不安だ」と、自分の気持ちを言葉にしてみてください。「仕事だから仕方ない」で済ませず、感情を分け合うことで、家族は「一緒に乗り越えるチーム」になれます。
子どもには「決まったこと」と「選べること」を分けて伝える
子どもに転勤を伝えるときは、「引っ越すことは決まった。でも、新しい部屋のレイアウトや、前の友だちへの手紙のことは一緒に決めよう」と伝えます。選べることがあると、子どもは「振り回されるだけ」の感覚から少し抜け出せます。
引っ越しのタイミングが小学校入学と重なる家庭は、「小1の壁」の記事もあわせて読んでみてください。
よくあるご質問
「慣れるしかなかった」あなたへ。
さよならの数だけ、感情に名前を。
言葉にすれば、それは持ち運べる居場所になります。
自分を大切にしよう
転勤族の家族の暮らしは、住まい、仕事、学校、友人といういくつもの「さよなら」が、数年ごとに一度に重なる暮らしです。繰り返す別れ、配偶者のキャリア断絶、子どもの転校、そして「慣れたでしょ」と言われるつらさ。何度も経験するうちに心が平気になったように見えても、それは本当に慣れたのではなく、別れのつらさを感じないように、心がふたをしてきたのかもしれません。
そのふたを、少しずつ開けてみてください。別れの前後に動いている感情に名前をつける。手放した仕事や居場所を惜しむ気持ちを、選択への後悔と混同せずに認める。子どもの「別に」の下にある気持ちを、前向きに変えようとせずに受けとめる。そして、アドラー心理学の所属感と課題の分離の視点から、小さな貢献で「いま、ここ」の居場所を育て、自分の課題と他者の課題を分けていく。そうした一つひとつが、どの土地に植え替えられても折れない、自己受容感という幹を育てていきます。
何度も段ボールを組み立て、何度も「はじめまして」を言い、家族を支えてきたあなたは、本当によく頑張っています。その頑張りを、「慣れなきゃ」「さみしいなんて言っていられない」と自分を追い込むことに使わないでください。「今回の引っ越しも、やっぱりさみしい。でも、新しい公園の桜はきれいだった」。その一言で十分です。自分を大切にしよう。あなたの感情は、どこへ引っ越しても、あなたと一緒に新しい土地へ根を伸ばしていきます。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- 総務省「労働力調査」、労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯と共働き世帯」
- Holmes, T.H., & Rahe, R.H. (1967). The Social Readjustment Rating Scale. Journal of Psychosomatic Research, 11, 213-218.
- Oishi, S., & Schimmack, U. (2010). Residential mobility, well-being, and mortality. Journal of Personality and Social Psychology, 98(6), 980-994.
- ポーリン・ボス『あいまいな喪失とトラウマからの回復』(誠信書房)
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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