「小1の壁」で親子の気持ちが迷子になるとき|入学期の不安と感情の言語化

「小1の壁」で親子の気持ちが迷子になるとき|入学期の不安と感情の言語化

「小1の壁」で親子の気持ちが迷子になるとき
入学期の不安と感情の言語化

朝7時45分、玄関で靴をはいた子が「おなかいたい」としゃがみこむ。会社の始業まであと1時間。「また?」と言いかけた言葉を飲みこみながら、頭の中では今日の会議と、学童のお迎え時間と、「私が仕事を辞めれば済むの?」がぐるぐる回る。「小1の壁」は、時間や制度の壁であると同時に、親子それぞれの気持ちが迷子になる壁でもあります。この記事では、入学期に親子が抱える不安・焦り・罪悪感に名前をつけ、「どうするか」を決める前に「何を感じているか」を整理する方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「小1の壁」は時間の問題だけではない|親子の気持ちが迷子になる季節

よくある相談の典型例
「保育園のときは平気だったのに、
入学してから毎朝、親子で泣いています」
場面30代後半の母親。フルタイム勤務。保育園では朝7時半から預けられたが、小学校は登校時刻が決まっていて、子どもを送り出してから出勤すると始業ぎりぎりになる。5月の連休明けから子どもが朝に腹痛を訴えるようになり、自分も通勤電車の中で理由のわからない涙が出るようになった。
この方は、子育てが下手なわけでも、心が弱いわけでもありません。生活の形が一気に変わったことで、親子の両方に「言葉にならない不安」が積もっているのです。子どもはそれを腹痛として、親は涙として出していました。

「小1の壁」という言葉は、一般には保育園から小学校に上がるときに、子どもを預けられる時間が短くなり、仕事との両立が難しくなることを指します。保育園なら夕方まで預かってもらえたのに、小学校は午後早い時間に下校する。夏休みなどの長期休みもある。放課後児童クラブ(学童保育)に入れるかどうかも、地域によって事情が違います。

こうした「時間」や「制度」の問題は、もちろんとても大切です。ただ、カウンセリングの現場で入学期の親御さんの話を聞いていると、もうひとつの壁が見えてきます。それは「気持ちの壁」です。子どもは新しい環境で緊張し、うまく言葉にできない不安を抱えている。親は時間に追われながら、「わが子のつらさに気づけていないのでは」という罪悪感と、「職場に迷惑をかけている」という焦りを同時に抱えている。どちらの気持ちも、忙しさの中で言葉にならないまま積み重なっていきます。

自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はあるのに言葉に届きにくい状態です(くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒント)。一般の人の約10〜16%に強い傾向があるとされますが、強いストレスが続く時期には、ふだん気持ちを話せる人でも一時的にこの状態に近づくことがあります。入学期は、まさにそういう時期です。

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。入学期に親子の気持ちが迷子になっても、言葉という道しるべがあれば、ちゃんと帰ってこられます。

数字で見る小1の壁|共働きの増加と放課後の居場所

なぜ今、小1の壁がこれほど話題になるのでしょうか。背景には、家族の働き方の大きな変化があります。数字と研究で整理してみます。

データ・研究わかっていること
共働き世帯の増加共働き世帯は長く増え続け、現在は専業主婦世帯を大きく上回っている。保育園を利用する家庭が増えたぶん、小学校入学で生活が切り替わる家庭も増えた。
放課後児童クラブ(学童保育)の待機児童利用を希望しても入れない子どもが、毎年1万人を超える水準と報じられている。入れた場合も、定員の多さや雰囲気になじめない子がいる。
不登校の増加
(文部科学省、令和5年度調査)
小中学校の不登校は約34万6千人で過去最多。低学年の「行き渋り」も、早い段階で気持ちを受けとめることが大切とされている。
感情ラベリング
(Lieberman et al., 2007)
気持ちに言葉で名前をつけると、脳の扁桃体(不安や恐れの警報装置)の活動が下がる。「不安なんだね」と言葉にするだけで、不安は少し小さくなる。
感情コーチング
(Gottman, 1997)
子どもの感情を受けとめ、名前をつけて返す関わりをする親の子どもは、感情のコントロールや友だち関係がよい傾向にあると報告されている。

表を見ると、小1の壁が「個々の家庭の努力不足」ではなく、社会の変化の中で多くの家庭がぶつかる構造的な問題だということがわかります。つまり、あなたが今つらいのは、あなたの段取りが悪いからではありません。

そしてもうひとつ、研究が教えてくれるのは、気持ちに名前をつけることには、それ自体に心を落ち着かせる力があるということです。制度や時間の問題はすぐには解決できなくても、親子の気持ちを言葉にすることは、今日の夜から始められます。

小1の壁は、あなたの努力不足ではない。
多くの家庭がぶつかる、社会の壁。
だからこそ、ひとりで抱えなくていい。

「行きたくない」の前に体が話している|入学期の子どものサイン

6〜7歳の子どもは、自分の気持ちを細かく言葉にする力がまだ育ちきっていません。心理学者のレイン(Lane)とシュワルツ(Schwartz)は、感情の気づきは「体の感覚」から始まり、少しずつ言葉へと育っていくと考えました。入学期の子どもの多くは、まだその途中にいます。だから、不安や緊張は言葉より先に、体や行動に出てきます。

  • 朝になると「おなかいたい」「頭いたい」と言うが、休むと昼には元気になる
  • 朝の支度が極端に遅くなる、着替えの途中で固まる
  • 理由を聞いても「わかんない」「べつに」しか返ってこない
  • 下校後や夕方に、ささいなことで泣いたり怒ったりする
  • 「赤ちゃん返り」のように甘えが増える、抱っこをせがむ
  • 夜なかなか寝つけない、夜中に目を覚ます
  • 週末は元気なのに、日曜の夜になると機嫌が悪くなる

こうしたサインは、「わがまま」でも「甘え癖」でもなく、子どもなりの気持ちの報告です。新しい教室、45分座っている授業、たくさんの同級生、保育園とは違うルール。大人から見れば小さな変化でも、子どもにとっては毎日が初めてだらけです。その緊張は「緊張している」という言葉にはならず、「おなかいたい」という体の言葉で出てきます。

「なんで行きたくないの?」より「どこがいたい?」

朝に「行きたくない」と言われたとき、親はつい「なんで?」と聞いてしまいます。けれど、理由を言葉にできる子は多くありません。答えられない質問を重ねると、子どもは「言っても伝わらない」と感じて、ますます黙ってしまいます。

おすすめは、体から入って、気持ちの名前を親が差し出す聞き方です。

声かけ1|体から
「おなかのどのへんが、どんなふうにいたい?」

「ぎゅーってする」「もやもやする」など、子どもなりのオノマトペが出てきたら、それで十分です。原稿のワーク「今日のオノマトペ」の入学期版です。

声かけ2|名前を差し出す
「学校、ドキドキするのかな。それとも、ちょっとさみしいのかな」

選択肢を2つくらい出すと、子どもは「どっちかというと、こっち」と選びやすくなります。当たらなくてもかまいません。「気持ちには名前がある」と伝わることが大事です。

声かけ3|受けとめて、決めるのは後で
「そっか、ドキドキするんだね。それは朝つらいよね」

気持ちを受けとめることと、学校に行くかどうかを決めることは別です。まず受けとめてから、「じゃあ、今日は校門まで一緒に行こうか」と次の一歩を考えます。

なお、腹痛や頭痛が続く、食欲が落ちる、体重が減るなどの場合は、まず小児科で体のチェックを受けてください。体の病気がないことを確かめたうえで、気持ちの面からの関わりを考えるのが安心です。

学童になじめない、宿題と連絡帳|放課後と夜に積もる気持ち

小1の壁は、朝だけではありません。放課後と夜にも、言葉にならない気持ちが積もっていきます。

学童になじめない子の「本当の気持ち」

学童保育は、共働き家庭にとって大切な放課後の居場所です。一方で、学校で1日がんばったあとに、さらに集団の中で過ごすことになるため、疲れや緊張が出やすい場でもあります。「学童いやだ」という言葉の下には、いろいろな気持ちが隠れています。

子どもの言葉下に隠れているかもしれない気持ち
「学童つまんない」疲れた、ひとりでのんびりしたい、知っている子がいなくて心細い
「〇〇くんがいじわるする」上級生がこわい、遊びの輪に入れなくてくやしい
「ママ早くむかえにきて」さみしい、自分だけ最後まで残るのが不安
「もう行かない」がんばりすぎて限界、気持ちをわかってほしい

放課後の子どもの気持ちについては、支援員さん向けに書いた兄弟記事放課後の子どもの「荒れ」を受けとめるあなたへ|学童保育の現場と感情の言語化もあわせて読むと、学童の中で子どもに何が起きているかがよりわかります。

宿題と連絡帳が「親の通知表」に見えてしまう

夜7時、ようやく帰宅して夕食の支度をしながら、連絡帳を開く。音読カードにサイン、計算プリント、明日の持ち物。「プール道具」「空き箱」。そこに子どもが「宿題やりたくない」とぐずる。このとき親の中で起きているのは、多くの場合「疲れ」と「焦り」と「恥ずかしさ」の混ざった気持ちです。

持ち物を忘れさせたら、先生に「ちゃんと見ていない家庭」と思われるのではないか。宿題が雑だと、自分が責められている気がする。そんな気持ちから、つい子どもに強く言ってしまう。けれど、その強い口調の正体は、子どもへの怒りではなく「ちゃんとした親でいなければ」という自分への焦りであることが少なくありません。

ここで役立つのが、原稿のワーク「3段階温度計」です。連絡帳を開く前に、自分の気持ちを「ぬるい(まあ平気)」「あたたかい(ちょっとしんどい)」「あつい(もう限界)」の3段階で測ってみます。「あつい」日は、宿題の丸つけは明日の朝にまわす、持ち物は大人が用意する、と決めてかまいません。親の気持ちの温度を下げることが、結果的に子どもの気持ちを守ることになります。

連絡帳は、親の通知表ではない。
「あつい」日は、手を抜いていい日。
温度を下げることも、子育てのうち。

「仕事を辞めるべき?」を感情で分解する

入学期に多くの親御さん、とくに母親が一度は考えるのが、「私が仕事を辞めれば、全部うまくいくのでは」という問いです。この問いはとても重く、だからこそ、疲れきった夜に一気に答えを出そうとすると、苦しくなります。

カウンセリングでよくお伝えするのは、「辞めたい」「辞めるべき?」という一語の中には、いくつもの感情が混ざっているということです。混ざったまま判断すると、あとで「本当はそうしたくなかった」と後悔しやすくなります。まず、感情を分けてみましょう。

「仕事を辞めるべき?」の中にある気持ち 一つの問いに見えても、中身は別々の感情。分けると打ち手が見えてくる 辞めるべき? (ひとかたまり) 疲れ 朝と夜の 綱渡りが限界 → 時間の工夫 罪悪感 子どものつらさに 気づけていない → 関わりの質 申し訳なさ 職場に迷惑を かけている → 職場との相談 不公平感 なぜ私ばかり 調整するの → 夫婦の分担 迷い 仕事も好き 手放したくない → 大切な価値
▲ 「仕事を辞めるべき?」という問いの中には、疲れ・罪悪感・申し訳なさ・不公平感・迷いなど、別々の気持ちが混ざっています。それぞれに合った打ち手は違うため、まず分けてみることが、後悔の少ない選択につながります。

たとえば、いちばん大きいのが「疲れ」なら、必要なのは退職ではなく、時短勤務や在宅勤務、ファミリー・サポートなどの時間の工夫かもしれません。「不公平感」が大きいなら、話し合うべき相手は職場ではなくパートナーです。「罪悪感」が大きいなら、一緒にいる時間の長さより、短い時間でも気持ちを受けとめる関わりの質で応えられることもあります。そして「迷い」の中に「仕事が好き」「手放したくない」という気持ちがあるなら、それはあなたにとって大切な価値です。

感情だけ日記で、1週間ぶんの気持ちを見る

原稿のワーク「感情だけ日記」を、入学期の1週間だけ続けてみてください。寝る前に、出来事は書かずに「感じたこと」だけを1〜3語メモします。「焦った」「さみしい」「ほっとした」「くやしい」。1週間たって読み返すと、自分を一番苦しめている感情が何なのかが見えてきます。

仕事を続けるか、辞めるか、働き方を変えるか。その選択に正解はありません。ただ、感情を分けてから選んだ答えは、どれを選んでも「自分で決めた」と思える答えになります。それが、あとで自分を責めないための、いちばんの備えです。

夫婦の分担は「タスク」より先に「気持ち」から話す

小1の壁の話し合いが夫婦げんかになりやすいのは、多くの場合、タスクの話をしているつもりで、実は気持ちがぶつかっているからです。「朝の送り、週に何回できる?」という質問の裏に、「なぜ私ばかり」という不公平感や、「わかってもらえていない」という孤独感がある。それが言葉にならないまま、口調だけが強くなります。

話し合いの順番を変えてみましょう。

STEP 1|気持ちを先に
「今、私はこう感じている」から始める

「あなたは何もしない」ではなく、「朝、一人で送り出していると焦って、子どもに優しくできない自分がつらい」と、自分を主語にした言い方(Iメッセージ)で伝えます。相手を責める言葉より、ずっと届きやすくなります。

STEP 2|相手の気持ちも聞く
「あなたは今、どう感じている?」と聞く

パートナーにも、職場で言い出しにくい、何をすればいいかわからない、という気持ちがあるかもしれません。気持ちを聞く質問は、責める質問とは違うと伝わるだけで、話し合いの空気が変わります。

STEP 3|それからタスクへ
朝・放課後・夜・長期休みに分けて書き出す

気持ちを分かち合ってから、具体的な分担に入ります。紙に書き出して見える化すると、「どちらがどれだけやっているか」の言い争いではなく、「二人でこの壁をどう越えるか」という共同作業になります。

話し合いがうまくいかないときは、「今日は気持ちを話すだけにしよう」と区切ってかまいません。タスクを決める日と、気持ちを話す日を分けるのも、立派な工夫です。

中島輝より一言

私は幼いころ里親に育てられ、5歳のときにその里親が突然いなくなりました。そのとき私は、気持ちを外に出すのをやめてしまいました。小学生になってからも、理由もわからず涙が流れることがありました。今振り返ると、あの頃の私に必要だったのは、「どうしたの?」と答えを求められることではなく、「さみしかったね」と気持ちに名前をつけてもらうことだったのだと思います。入学期のお子さんに、毎日完璧に向き合う必要はありません。1日1回、気持ちに名前をつけてあげる。それだけで、子どもの心には「わかってもらえた」が積もっていきます。

アドラー心理学|勇気づけと課題の分離、そして所属感

私はアドラー心理学をベースにカウンセリングを行ってきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方は、入学期の親子にとって、とても実用的なヒントになります。

ほめるでも叱るでもない「勇気づけ」

アドラー心理学では、子どもを上から評価する「ほめる・叱る」ではなく、横の関係から「ありがとう」「助かった」「うれしい」を伝える「勇気づけ」を大切にします。

ほめる・叱る(縦の関係)勇気づけ(横の関係)
「ちゃんと学校に行けてえらいね」「今日も行ってきたんだね。ドキドキしたのに、がんばったね」
「また忘れ物!なんで確認しないの」「明日の準備、一緒に見てくれると助かるな」
「泣かないの、もう小学生でしょ」「泣きたいくらい、つらかったんだね」

「えらいね」は、条件を満たしたときだけもらえる評価です。学校に行けなかった日は、もらえません。一方、勇気づけは、結果ではなく、その子の気持ちと過程に目を向ける言葉です。行けた日も行けなかった日も、「あなたの気持ちをわかっているよ」というメッセージは届けられます。

子どもの友だち関係は「子どもの課題」

岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった「課題の分離」は、「それは誰の課題か」を見分ける考え方です。入学期には、親が子どもの課題まで背負いこんでしまいがちです。

たとえば、学校や学童で友だちができるかどうか。これは、最終的には子ども自身の課題です。親が友だちを選んだり、関係を代わりに修復したりすることはできません。親の課題は、子どもが話したくなったときに話を聞ける場所でいること、そして本当に困ったときに先生と連携することです。

課題の分離は、突き放すことではありません。「あなたならできると信じているよ。困ったら、いつでも話してね」という信頼の表明です。親が自分の課題に集中すると、子どもの課題に口を出しすぎて疲れることが減り、親自身の気持ちにも余裕が生まれます。

「ここにいていい」という所属感

アドラーは、人は「自分はこの集団に居場所がある」という所属感を求める存在だと考えました。入学期の子どもは、保育園という慣れた居場所を離れ、新しいクラスと学童で居場所を探している最中です。

だからこそ、家庭が「どんな気持ちでいても、ここにいていい」と感じられる場所であることが大切です。学校で緊張している子にとって、家で「こわかった」「いやだった」と言える時間があることは、新しい居場所を探しに行くための安全基地になります。

「えらいね」より「がんばったね」。
友だち関係は、子どもの課題。
家は、どんな気持ちでもいていい場所。

6つの感の根と幹|自尊心≒自己存在感と自己受容感を入学期に育てる

私が提唱している自己肯定感の「6つの感」は、心を1本の木にたとえています。根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。

入学期に育てたい「根」と「幹」 枝・葉・花・実 自己効力感・自己信頼感・自己決定感・自己有用感 勉強・友だち・自分で決める力は、根と幹の上に育つ 幹 自己受容感 根|自尊心≒自己存在感 幹を育てる声かけ 「ドキドキしてもいいんだよ」 「いやだったんだね」 根を育てる声かけ 「おかえり。会えてうれしい」 「あなたがいてくれて幸せ」
▲ 入学期は、勉強や友だち関係(枝・葉・花・実)に目が向きがちです。けれど、それらを支えるのは「ここにいていい」という根(自尊心≒自己存在感)と、「どんな気持ちの自分もOK」という幹(自己受容感)です。

根|「できたから」ではなく「いるだけで」

入学すると、子どもは初めて「できる・できない」で比べられる場面にたくさん出会います。ひらがなが書ける、計算が速い、忘れ物をしない。そんな中で、「できなくても、自分はここにいていい」という根の感覚が育っていると、子どもは失敗を必要以上に怖がらずにすみます。

根を育てるのは、条件のない言葉です。「おかえり。会えてうれしい」「今日も一緒にごはんを食べられてよかった」。学校での出来ばえとは関係なく、存在そのものを喜ぶ言葉を、1日1回、意識して伝えてみてください。

幹|「どんな気持ちの自分もOK」

幹にあたる自己受容感は、「ドキドキしている自分」「いやだと思っている自分」も、そのまま受け入れられる感覚です。感情の言語化は、この幹を太くする作業そのものです。「行きたくない」と言った子に「そう思うのは、おかしなことじゃないよ」と返すたびに、子どもの幹は少しずつ太くなります。

そして、これは親にも当てはまります。「仕事を辞めたいと思ってしまった自分」「子どもにイライラした自分」も、責めずに受けとめてあげてください。親の幹が太くなると、子どもの揺れを受けとめる余裕も生まれます。家庭で子どもの気持ちを受けとめる関わりについては、「泣かないの!」をやめると子どもは強くなる|感情コーチングとアドラーの勇気づけでもくわしく紹介しています。

よくあるご質問

朝の「おなかいたい」が毎日続きます。休ませてもいいのでしょうか?
まず小児科で体のチェックを受けて、病気がないかを確かめてください。そのうえで、毎日の腹痛は「不安」や「緊張」の体からの報告であることが多いものです。休ませるかどうかは家庭と学校で相談して決めてかまいません。大切なのは、休む・休まないにかかわらず、「ドキドキするんだね」と気持ちを受けとめることです。続く場合は担任の先生やスクールカウンセラーに相談しましょう。
子どもに「なんで?」と聞いても「わかんない」としか言いません。
6〜7歳では、気持ちの理由を言葉にできないのは自然なことです。「なんで?」の代わりに、「ドキドキ?それともさみしい?」と選択肢を出したり、「おなかのどのへんがいたい?」と体から聞いたりしてみてください。「わかんない」も、立派な気持ちの報告です。
仕事を辞めるかどうか、毎晩悩んでしまいます。
疲れきった夜に大きな決断をすると、あとで後悔しやすくなります。1週間ほど「感情だけ日記」をつけて、疲れ・罪悪感・申し訳なさ・不公平感・迷いのどれがいちばん大きいかを見てみてください。それによって、退職以外の打ち手(時間の工夫、職場との相談、夫婦の分担の見直し)が見えてくることがあります。
夫(妻)と分担の話をすると、いつもけんかになります。
タスクの話の前に、「今、私はこう感じている」と気持ちを先に伝えてみてください。相手の気持ちも聞いてから、朝・放課後・夜・長期休みに分けて紙に書き出すと、言い争いではなく共同作業になりやすくなります。今日は気持ちを話すだけ、と区切るのもよい方法です。
学童に行きたがらない子を、無理に行かせていいのでしょうか?
「学童いやだ」の下には、疲れ、心細さ、上級生へのこわさなど、いろいろな気持ちが隠れています。まずは気持ちを聞き、必要なら支援員さんに様子を相談してみてください。子どもの気持ちを支援員さんと共有することで、学童での過ごし方が変わることもあります。
小1の壁は、親子の気持ちの壁でもある。
「どうするか」の前に「何を感じているか」を。
今夜、気持ちに一つだけ名前をつけてみよう。
名前のついた気持ちは、
親子で一緒に越えていける壁になります。

自分を大切にしよう

「小1の壁」は、預けられる時間が短くなるという制度や時間の壁であると同時に、親子の気持ちが迷子になる壁でもあります。子どもは新しい環境への不安を、朝の腹痛や不機嫌、夕方のかんしゃくとして体や行動で表します。親は時間に追われながら、罪悪感、焦り、申し訳なさ、不公平感を言葉にできないまま抱えこみます。共働き世帯が増え、学童の待機児童も毎年1万人を超える水準と報じられる中で、これは多くの家庭がぶつかる社会の壁です。

子どもには「なんで?」ではなく、体から聞いて、気持ちの名前を差し出す。親は「仕事を辞めるべき?」を感情に分けてから考える。夫婦の話し合いは、タスクより先に気持ちから。アドラー心理学の勇気づけは、結果ではなく気持ちと過程に目を向け、課題の分離は、親が背負いすぎないための考え方を教えてくれます。そして、家庭が「どんな気持ちでもいていい場所」であることが、子どもの所属感と、6つの感の根と幹を育てます。

入学期に、毎日完璧である必要はありません。泣いた朝があってもいい。イライラした夜があってもいい。自分を大切にしよう。親であるあなたの気持ちに名前をつけることが、子どもの気持ちを受けとめる力の、いちばんの源になります。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(令和5年度)
  • こども家庭庁「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • Gottman, J. (1997). Raising an Emotionally Intelligent Child. Simon & Schuster.
  • Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』(岸見一郎訳、アルテ)
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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