帰国してから笑わなくなった子へ
帰国生の逆カルチャーショックと感情の言語化
海外の学校では毎朝「Good morning!」と元気に駆け出していった子が、日本に戻ってから口数が減った。学校のことを聞いても「別に」「普通」。家族写真の中の笑顔が、いつのまにか消えている。「語学ができてうらやましい」と言われる帰国生の多くが、実は「帰ってきた国が外国のように感じる」逆カルチャーショックの中で、言葉にならない気持ちを抱えています。二つの言語のあいだで感情の言葉が迷子になる仕組みと、親自身の「駐在ロス」まで含めて、家族でできる関わり方をお伝えします。
結論:帰国生の「笑わない」は、心が二つの文化のあいだで迷子になっているサイン
結論からお伝えします。帰国してから子どもが笑わなくなったり、口数が減ったりするのは、「わがまま」でも「日本になじむ気がない」のでもありません。二つの文化と二つの言語のあいだで、自分の気持ちにぴったり合う言葉が見つからなくなっている状態であることが多いのです。
この記事のポイントは3つです。
- 「帰国」は「慣れた場所に戻ること」ではない。数年の海外生活を経た子どもにとって、日本は「知っているはずなのに、なじめない場所」になっている。これを逆カルチャーショックと呼ぶ。
- 感情の言葉は、言語ごとに少しずつ違う。英語でなら言える気持ちが日本語では言えない、日本語の「空気」を表す言葉が英語にはない。そのすき間で、気持ちが迷子になりやすい。
- 親も一緒に迷子になっている。駐在先で築いた暮らしや仲間、役割を失う「駐在ロス」は、親の心にも起きる。親が自分の気持ちを言葉にすることが、子どもの言葉を育てる近道になる。
背景にあるのは、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる状態です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではありません。一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。
帰国生の場合、もともと感情を言葉にするのが苦手だったわけではない子がほとんどです。大きな環境の変化と、「ちゃんとなじまなければ」という緊張が続くと、心は自分を守るために感じる回路を一時的に絞ることがあります。強いストレスから心を守るためのこの反応は、専門的には「2次性アレキシサイミア」と呼ばれ、環境が落ち着き、安心できる関わりが増えると薄れていくことが多いとされています。
数字で見る帰国生と逆カルチャーショック
海外で暮らす日本人は、いまや特別な存在ではありません。そして、異文化への適応と再適応については、半世紀以上にわたって研究が重ねられてきました。押さえておきたい数字と知見を整理します。
| 知見 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| U字曲線 | 異文化に入ると、高揚→落ち込み→回復という U字のような適応の波をたどりやすい | Lysgaard(1955)、ノルウェーの留学生研究 |
| W字曲線 | 帰国したあとにも、もう一度同じような落ち込みと回復の波(逆カルチャーショック)が来る | Gullahorn & Gullahorn(1963) |
| サードカルチャーキッズ | 親の文化とも滞在国の文化とも違う「第三の文化」を生きる子どもたち、という捉え方 | Pollock & Van Reken『Third Culture Kids』 |
| 言語と感情 | 複数の言語を話す人は、言語によって感情の感じ方や表しやすさが違うと語ることが多い | Pavlenko(2005)『Emotions and Multilingualism』 |
| 感情のラベリング | 感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がる | Lieberman et al.(2007) |
U字曲線やW字曲線は、すべての人がこの順番どおりにたどるという「法則」ではありません。その後の研究では、波の形には大きな個人差があることもわかっています。それでも、この考え方が多くの家族を助けてきたのは、「帰国後に落ち込むのは、異常なことではない」と教えてくれるからです。
「海外では楽しそうだったのに」「日本に戻ればほっとするはず」。そう思っていた親ほど、帰国後の子どもの変化に戸惑います。けれども研究の世界では、帰国後の再適応は、海外に出たときの適応と同じくらい、ときにはそれ以上に難しいと考えられてきました。「戻る場所」だと思っているぶん、なじめないことへの驚きや失望が大きくなりやすいのです。
「帰ってきたのに、ここが外国みたい」|逆カルチャーショックとは
……ただ、どこにいればいいのかわからない」
逆カルチャーショック(リバース・カルチャーショック)とは、海外で暮らしたあと自分の国に戻ったときに、母国の文化や習慣、人間関係にかえってなじめず、戸惑いや疎外感を覚えることをいいます。「自分の国なのに、外国にいるようだ」と感じる人も少なくありません。
子どもが戸惑いやすい「日本の当たり前」
- 授業中に手を挙げて意見を言うと、浮いてしまう
- 「みんなと同じ」持ち物、同じ髪型、同じ話題が求められる
- 先輩・後輩の上下関係や、敬語の使い分けがわからない
- はっきり言わずに察すること、「空気を読む」ことを求められる
- 給食・掃除・係活動など、集団で動く場面が多い
- 海外の話をすると「自慢」と受けとられる
大人から見ると小さなことでも、子どもにとっては「自分のふるまいの何が正しいのか、わからない」という不安の連続です。そして、何が正しいのかわからないとき、多くの子は「目立たないこと」「何も言わないこと」を選びます。笑わなくなる、口数が減るのは、その結果であることが多いのです。
「悲しい」と言いにくい喪失がある
もう一つ、見落とされがちなことがあります。帰国は、子どもにとって大切なものを失う体験でもあるということです。仲のよかった友だち、通い慣れた学校、好きだった先生、住んでいた家、海外での「自分」。けれども周りの大人は「日本に帰れてよかったね」と言います。喜ぶべきことのはずなのに、悲しい。その矛盾した気持ちを、子どもはうまく言葉にできません。
二つの言語で、感情の言葉が違う
帰国生の感情が迷子になりやすい、もう一つの大きな理由があります。それは、感情を表す言葉が、言語ごとに少しずつ違うということです。
言語学者のアネタ・パヴレンコは、複数の言語を話す人たちへの調査をもとに、人は使う言語によって、感情の感じ方や表しやすさが変わると語ることが多いと報告しています(Pavlenko, 2005)。たとえば「母語で言うと生々しすぎる気持ちも、第二言語なら言える」「逆に、第二言語で言う『愛している』は軽く感じる」といった声です。
英語なら言えるのに、日本語では言えない
海外で数年過ごした子どもは、学校の友だちと英語(あるいは現地の言葉)で笑い、けんかをし、仲直りをしてきました。つまり、友だち関係にまつわる感情の多くを、日本語ではない言語で覚えてきたのです。「I’m frustrated」「That’s not fair」は言えても、同じ気持ちを日本語でどう言えばいいのかわからない。日本の教室でそのまま言えば、きつく聞こえてしまうかもしれない。そう感じて、口を閉じる子もいます。
日本語にしかない気持ちの言葉もある
反対に、日本語には英語に置き換えにくい感情の言葉があります。精神科医の土居健郎は『「甘え」の構造』(1971)で、日本語の「甘え」にぴったり当てはまる言葉が英語にないことに注目しました。「気まずい」「遠慮」「空気を読む」「申し訳ない」も、日本の人間関係ならではの感情の言葉です。帰国したばかりの子どもは、周りの子が当たり前に感じている「気まずさ」や「遠慮」の感覚を、まだ言葉として持っていないことがあります。
| 子どもの中で起きやすいこと | 表に出る姿 |
|---|---|
| 英語で覚えた感情を、日本語でどう言えばいいかわからない | 「別に」「普通」「わかんない」が増える |
| 日本の教室の「気まずさ」「遠慮」の感覚がつかめない | 何が悪かったのかわからないまま、友だちとの距離ができる |
| 言葉を間違えるのがこわい | 発言しない、笑わない、目立たないようにする |
| 海外での自分と、日本での自分がつながらない | 「どっちが本当の自分かわからない」と感じる |
ここで大切なのは、子どもの心の中に感情がないわけではないということです。感情はちゃんと動いています。ただ、それを受けとめる言葉が、二つの言語のすき間に落ちてしまっているのです。だから家庭では、どちらの言語で気持ちを話してもいいと伝えることが、とても大きな助けになります。
英語で言えた気持ちも、
日本語でまだ言えない気持ちも、
どちらも、あなたの本当の気持ち。
「帰国子女なんだから」というレッテルと劣等感
帰国生がよく耳にする言葉があります。「帰国子女なんだから、英語ペラペラでしょ」「帰国子女っぽいよね」。悪気のない一言でも、子どもにとっては、自分という人ではなく「帰国子女」という枠で見られているように感じられることがあります。
レッテルが二重の苦しさを生む
帰国生へのレッテルには、二つの方向があります。一つは「英語ができて当然」という期待です。現地での年数や学年によっては、英語が思ったほど身についていない子もいます。そういう子は「帰国子女なのに」と言われるのがこわくて、英語の授業でも黙ってしまいます。もう一つは「日本のことを知らない人」という見方です。漢字が苦手、敬語がぎこちない、日本の流行を知らない。そのたびに「やっぱり帰国子女だから」と言われると、日本語にも自信が持てなくなります。
どちらの言語でも「足りない」と感じてしまう。この状態は、子どもの心に強い劣等感を生みやすくなります。
アドラー心理学で見る劣等感
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングを行ってきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は、劣等感そのものは悪いものではないと考えました。「もっとよくなりたい」という目標があるからこそ生まれる感情であり、成長のバネにもなるからです。
問題になるのは、劣等感が「劣等コンプレックス」に変わるときです。アドラー心理学でいう劣等コンプレックスとは、劣等感を「だから自分には無理だ」という言い訳に使い、行動しなくなる状態のことです。「どうせ自分は帰国子女だから、日本の子とは仲良くなれない」「どうせ英語も中途半端だから」。この「どうせ」が口ぐせになっていたら、劣等感がコンプレックスに変わりはじめているサインかもしれません。
| 劣等コンプレックス(動けなくなる) | 健全な劣等感(前に進める) |
|---|---|
| 「どうせ帰国子女だから、なじめない」 | 「日本の学校のことを、少しずつ知りたい」 |
| 「英語も日本語も中途半端」 | 「二つの言葉を、どちらも育てている途中」 |
| 「みんなと違う自分はダメ」 | 「違うところがあるのは、二つの文化を知っているから」 |
親ができるのは、子どもの劣等感を否定することではありません。「そんなことないよ、英語できるじゃない」と打ち消すと、子どもは「わかってもらえない」と感じます。まずは「中途半端な気がして、くやしいんだね」「比べられて、いやだったね」と、その気持ちに名前をつけて受けとめること。そのうえで、子ども自身が「では、どうなりたいか」を考えられるように寄り添うことが、劣等感を成長のバネに変える関わりです。
言葉にならない気持ちのサイン|家庭で気づきたいこと
感情を言葉にしにくい子どもは、言葉の代わりに、体や行動で気持ちを表します。帰国後しばらくして、次のような様子が見られないか、そっと観察してみてください。
- 朝になると、おなかや頭が痛いと言うことが増えた
- 以前より笑わなくなった、表情が乏しくなった
- 学校の話をしなくなった、聞くと「普通」「別に」で終わる
- 海外の友だちとのやりとりや、海外の動画にばかり没頭する
- 小さなことでかんしゃくを起こす、きょうだいに当たる
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める、食欲にむらがある
- 「どうせ」「無理」という言葉が増えた
- 反対に、家でも学校でも「完璧にいい子」でいようとしている
こうしたサインは、子どもが「言葉にできない何か」を抱えていることを教えてくれます。サインに気づいたら、原因を問いただすよりも、「最近、おなかが痛いことが多いね。何か心配なことがあるのかな」と、体のサインを手がかりにそっと声をかけてみてください。
「海外のことばかり話す」は、逃げではない
帰国後、子どもが海外の友だちとのビデオ通話や、現地の言葉の動画に夢中になると、「日本になじもうとしていない」と心配になる親もいます。けれども、それは失ったものとのつながりを保ちながら、心のバランスをとろうとしている行動であることが多いのです。無理に切り離すよりも、「向こうの友だち、元気だった?」と話題にしてあげるほうが、子どもは安心して日本での生活に目を向けられるようになります。
専門家に相談する目安
次のような状態が2週間以上続く場合は、学校の担任やスクールカウンセラー、小児科などに相談してください。眠れない、食べられない、学校に行けない日が増えている、家でもほとんど話さない、何をしても楽しそうでない。帰国子女教育に関わる公益財団法人など、帰国家族向けの相談窓口を設けている団体もあります。相談することは、子どもを「問題のある子」として扱うことではありません。子どもを支える大人を増やすことです。
親の「駐在ロス」|親自身の感情も迷子になっている
帰国生の感情について考えるとき、忘れてはならないことがあります。親もまた、帰国という大きな変化のただ中にいるということです。
自分のことなんて考える余裕がなくて」
駐在先での暮らしには、日本にはない豊かさがあります。同じ境遇の仲間との濃い付き合い、現地での役割、ゆったりした時間。けれども帰国すると、それらは一度に消えてしまいます。海外での自分を知る人が、身近にいなくなる。この喪失感を、ここでは「駐在ロス」と呼んでおきます。
駐在ロスで起きやすいこと
- 帯同のために仕事を辞めた親が、帰国後のキャリアに焦りを感じる
- 赴任していた親が、本社に戻って裁量や立場の変化に戸惑う
- 海外での経験を話すと「自慢」と思われそうで、誰にも話せない
- 地元の友人やママ友と、話がかみ合わない
- 子どもの適応がうまくいかないと、「連れて行った(連れて帰った)自分のせい」と責める
- 夫婦で帰国後の大変さを話し合う余裕がなく、すれ違う
親が気持ちを言葉にすると、子どもも言葉にしやすくなる
子どもは、親の表情や声の調子から、家庭の空気を敏感に読みとります。親が気持ちを飲み込んで「大丈夫」とふるまっていると、子どもも「ここでは気持ちを言ってはいけないのだ」と学びます。反対に、親が「お母さんも、向こうの友だちに会えなくてさみしいんだ」「お父さんも、新しい職場でちょっと緊張してる」と、自分の気持ちを言葉にすると、子どもは「気持ちを話してもいいんだ」と感じることができます。
親の感情の言語化は、子どものための「お手本」になるだけではありません。親自身の心を守ることでもあります。親が自分を大切にすることは、決してわがままではありません。それが、家族全体の再適応の土台になるのです。親が海外経験をもとに外資系企業などで働きはじめ、言語や文化の違いに疲れを感じている場合は、英語では言えるのに日本語の本音が言えないもあわせてご覧ください。
中島輝より一言
私は幼い頃、里親のもとで育ちました。5歳のとき、その暮らしが突然終わり、私は感情を出すことをやめてしまいました。住む場所や一緒にいる人が急に変わるとき、子どもは「悲しい」と言う前に、心にふたをすることがあります。あの頃の私に必要だったのは、「さみしいね」「びっくりしたね」と、気持ちに名前をつけてくれる大人でした。帰国は前向きな出来事でも、子どもにとっては大きな別れを含んでいます。その別れを、どうか一緒に悲しんであげてください。
「ここにいていい」を取り戻す|共同体感覚と自尊心≒自己存在感
アドラー心理学では、人が幸せに生きるための大切な感覚として「共同体感覚」を挙げます。自分は共同体の一員であり、そこに居場所があり(所属感)、誰かの役に立っている(貢献感)と感じられる感覚のことです。
帰国生がつらいのは、この所属感が大きく揺らぐからです。海外では「日本人」として少し特別な存在だった。日本に戻ると「帰国子女」として少し違う存在になる。どちらの場所でも、完全には「ふつうのメンバー」になれない。この感覚が、子どもの心の根っこを揺らします。
揺らぐのは、木の根
自己肯定感の「6つの感」を一本の木にたとえると、所属感が揺らいだときにいちばん影響を受けるのは、木の根にあたる「自尊心≒自己存在感」です。「自分はここにいていい」「自分には価値がある」という、すべての土台となる感覚です。根が揺らぐと、幹にあたる自己受容感(ありのままの自分を受け入れる感覚)や、枝にあたる自己効力感(自分にはできるという感覚)も育ちにくくなります。
「どちらか」ではなく「どちらも」
帰国後、早く日本になじませようとして、「もう向こうのことは忘れなさい」「日本ではそういうことは言わないの」と、海外での経験を切り離そうとする関わりがあります。けれども、それは子どもにとって、自分の一部を否定されることになりかねません。
根を太くするのは、「どちらか」を選ばせることではなく、「海外で過ごした自分も、日本で暮らす自分も、どちらもあなた」と認めることです。アドラーのいう共同体は、いまいる学校のクラスだけを指すのではありません。家族、海外の友だち、同じ帰国生の仲間、習い事の仲間。所属できる場所は一つではないと知ることが、子どもの心の根を守ります。
貢献感は、小さな「ありがとう」から
家庭で所属感と貢献感を育てる一番の方法は、子どもに「あなたがいてくれて助かった」と伝える場面を増やすことです。料理を手伝ってくれた、きょうだいの面倒を見てくれた、英語の看板を読んでくれた。ほめるのではなく、「ありがとう」「助かったよ」と、横の関係から感謝を伝える。アドラー心理学ではこれを勇気づけと呼びます。家庭で「自分は役に立っている」と感じられる子は、学校という新しい共同体にも、少しずつ足を踏み出せるようになります。
家族でできる感情の言語化ワーク
書籍原稿で紹介しているワークを、帰国家族の暮らしに合わせてアレンジして紹介します。どれも短い時間でできるものです。子どもだけにやらせるのではなく、親も一緒に取り組むのがポイントです。
心の体温チェック:「日本語でも英語でもOK」の朝の一言
朝ごはんのときに、家族全員が「いまの心の温度は何度?」を一言ずつ言います。「36度、ふつう」「ちょっと低め、cold」。どちらの言語で答えてもかまいません。言語を選ばなくていい場をつくることで、子どもは気持ちを口にするハードルが下がります。
感情ことば帳:二つの言語の「気持ち辞典」をつくる
ノートの左に英語(または現地の言葉)、右に日本語で、気持ちの言葉のペアを書きためていきます。「frustrated=もどかしい、くやしい」「awkward=気まずい」「homesick=向こうが恋しい」。ぴったり合わない言葉があったら、「日本語にはない気持ち」として、そのまま残しておきます。二つの言語を持っていることが、気持ちの言葉の豊かさになると実感できるワークです。
色彩感情カレンダー:言葉にしにくい日は色で
カレンダーに、その日の気持ちを色で塗るだけのワークです。言葉を探すのがつらい日も、色なら選べます。1か月たって見返すと、「月曜日は灰色が多い」「海外の友だちと話した日はオレンジ」など、気持ちの波が見えてきます。その色について、親子で少しだけ話してみてください。
感情が動いた瞬間日記:「向こう」と「こっち」の両方を書く
週に一度、「海外にいたころ、心が動いたこと」と「日本で、今週心が動いたこと」を一つずつ書きます。過去の思い出を大切にしながら、いまの生活の中にも小さな喜びがあることに気づくワークです。親も一緒に書いて、見せ合ってみてください。
未来日記:1年後の「ここでの私」を書く
「1年後、日本の学校で、どんな気持ちで過ごしていたい?」を書きます。「友だちと笑っている」「英語も日本語も楽しく使っている」。望む気持ちを先に言葉にすると、そこに向かう小さな一歩が見えやすくなります。
二つの文化を生きてきたことは、
迷子の原因ではなく、
気持ちの言葉を二倍に増やせる力。
こうしたワークは、木の根にあたる自尊心≒自己存在感を育てます。自分の気持ちに気づき、それを「どちらの言葉で言ってもいい」と受けとめてもらう経験が、「自分はここにいていい」という感覚を少しずつ取り戻させてくれるのです。思春期に入って気持ちの揺れが大きくなってきたら、理由のわからないイライラに悩む10代へもあわせて読んでみてください。
よくあるご質問
気持ちの言葉を、まだ探している途中。
どちらの言葉でもいい、と伝えてあげてください。
その子の心の根を太くする力になります。
自分を大切にしよう
海外から帰国した子どもが笑わなくなったり、「別に」「普通」しか言わなくなったりするのは、わがままでも、日本になじむ気がないからでもありません。「戻る場所」のはずの日本が外国のように感じられる逆カルチャーショックと、二つの言語のあいだで感情の言葉が見つからない迷子の状態が、そこにあることが多いのです。「帰国子女なんだから」というレッテルは、どちらの言語でも「足りない」という劣等感を生みやすくします。
だからこそ、家庭でできることがあります。体や行動のサインに気づき、気持ちに名前をつけて受けとめる。どちらの言語で話してもいいと伝える。海外での経験を切り離さず、「どちらもあなた」と認める。そして親自身も、駐在ロスの気持ちを言葉にする。その積み重ねが、子どもの所属感を取り戻し、自尊心≒自己存在感という心の根を太くしていきます。
慣れない場所で毎日を過ごしている子どもも、その子を支えながら自分の新しい生活を立て直している親も、本当によく頑張っています。「今日はちょっとさみしかった。でも、学校に行けた」。その一言で十分です。自分を大切にしよう。二つの文化を生きてきた経験は、家族の誰にとっても、かけがえのない財産です。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Lysgaard, S. (1955). Adjustment in a foreign society: Norwegian Fulbright grantees visiting the United States. International Social Science Bulletin, 7, 45-51.
- Gullahorn, J.T., & Gullahorn, J.E. (1963). An extension of the U-curve hypothesis. Journal of Social Issues, 19(3), 33-47.
- Pollock, D.C., & Van Reken, R.E. Third Culture Kids: Growing Up Among Worlds. Nicholas Brealey.
- Pavlenko, A. (2005). Emotions and Multilingualism. Cambridge University Press.
- 土居健郎『「甘え」の構造』弘文堂(1971)
- Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- 外務省「海外在留邦人数調査統計」
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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