教室で気持ちを言えない子に向き合う先生へ
教員のための感情の言語化とセルフケア
休み時間のトラブルのあと、廊下で「どうしたの?」と聞いても、返ってくるのは「別に」「わからない」。もう一度聞くと、黙ってうつむいてしまう。放課後は所見の文案、明日の授業準備、保護者への電話。気づけば自分の気持ちも「疲れた」の一言しか出てこない。もし思い当たるなら、それは子どもも先生も、気持ちの言葉を探している途中なのかもしれません。授業と学級経営の視点から、教室でできる感情の言葉の育て方と、先生自身のセルフケアをお伝えします。
「どうしたの?」に「別に」と返ってくる教室で
『わからない』しか言わないんです」
先生方からいただく相談の中で、とても多いのがこの「わからない」「別に」です。朝の会でスピーチをしても「楽しかったです」で終わる。作文の「思ったこと」の欄が埋まらない。けんかの事情を聞いても、出来事の順番は話せるのに、気持ちになると口が閉じてしまう。
忙しい教室では、どうしても「早く言葉にしてほしい」と思ってしまいます。けれど、気持ちを言葉にする力は、算数の九九と同じように、少しずつ教わり、練習して身につくものです。最初から言える子もいれば、ゆっくり育つ子もいます。この記事では、教室という場所だからこそできる「感情の言葉の育て方」と、子どもの気持ちを受けとめ続ける先生自身のセルフケアを、順番にお話しします。
「わからない」は、答えたくないのではなく、
まだ答えにたどりつけていないというサイン。
そこから、感情の言葉の授業が始まります。
気持ちを言えない子は「困った子」ではなく「困っている子」
感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。名前は少し硬いのですが、「感情がない」という意味ではありません。感情は確かに生まれているのに、それをつかまえて名前をつけるところで、うまくいかなくなっている状態です。くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。
研究によって幅はありますが、一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向が見られるといわれます。30人学級なら、数人いても不思議ではありません。ただし、これは病名ではありません。アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)や国際疾病分類(ICD-11)でも独立した診断名ではなく、誰もが持っている特性の「濃い・薄い」と考えられています。
私は、この状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で使っている言葉で、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を指します。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。道に迷っているだけで、帰り道は必ずある。教室の子どもたちを見るときにも、この見方を持っていてほしいのです。
子どもの感情の言葉は、大人との関わりの中で育つ
子どもは生まれつき「これは悔しさだ」と見分けられるわけではありません。泣いたとき、怒ったとき、大人が「くやしかったね」「びっくりしたね」と表情と言葉で映し返してくれることで、少しずつ体の感覚と感情の名前がつながっていきます。
1961年に精神分析家のカタン(Katan)が報告した保育園での観察では、子どもたちに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールだけでなく、考える力まで伸びたとされています。感情の言葉を教えることは、生活指導であると同時に、学力の土台を育てることでもあるのです。
心理学者のレイン(Lane)とシュワルツ(Schwartz)は、感情の気づきを5つの段階で説明しました。体の感覚としてだけ感じる段階、「何かしたい」という衝動として感じる段階、「いい・嫌」のような大まかな言葉で表せる段階、混ざった気持ちを見分けられる段階、そして自分と他者の繊細な感情まで理解できる段階です。筆箱を投げた子は、ちょうど「衝動」の段階で止まっていたのかもしれません。先生の役割は、その子を次の段に一段だけ上げる手すりになることです。
4つのタイプ別・教室で見える感情迷子さんのサイン
感情迷子さんには、大きく4つのタイプがあります。もともとは大人のカウンセリングから整理したものですが、教室の子どもに当てはめると、次のような姿として見えてきます。一人の子が複数のタイプにまたがることもよくあります。
| タイプ | 教室で見えやすい姿 | 先生の声かけのヒント |
|---|---|---|
| タイプ1 感情がわからない | 「別に」「普通」が多い。理由のわからない腹痛や頭痛で保健室に行く。急に泣いたり怒ったりして、本人も驚いている。 | 気持ちより先に体を聞く。「おなかはどんな感じ?」「肩に力が入ってるね」 |
| タイプ2 感情を説明できない | 何かあるのは表情でわかるのに、「何でもない」と言う。作文で手が止まる。言葉を慎重に選びすぎて黙ってしまう。 | 正確な言葉を求めない。「モヤモヤ? ザワザワ?」とオノマトペの選択肢を出す。 |
| タイプ3 感情に興味がない | 出来事や事実は詳しく話せるが、気持ちの話になると退屈そうにする。友だちが泣いても「なんで泣くの?」と不思議がる。 | 理屈を否定しない。「このとき、相手は何を感じたと思う?」と推理として問う。 |
| タイプ4 想像できない | 「将来の夢」の作文で困る。物語の登場人物の気持ちを読む問題が苦手。「どうせ無理」が口ぐせ。 | 答え合わせのない「もしも」の問いで遊ぶ。「もし1日自由な時間があったら?」 |
表の右の列を見るとわかるように、4つのタイプに共通するのは、いきなり「どんな気持ち?」と聞かないことです。気持ちの言葉は、体、音、推理、想像といった「入り口」から入ると、ずっと出てきやすくなります。
なお、どのタイプでも、言葉にできない気持ちが体の不調や行動として出ることがあります。保健室への来室が増えている、急に乱暴になった、朝の登校しぶりが続くといった変化が見られるときは、担任一人で抱えず、養護教諭やスクールカウンセラーと情報を共有してください。不登校やいじめの場面での関わり方は、不登校の子が「理由がわからない」と言うとき|感情迷子さんの視点で考える関わり方でくわしく書いています。
「どんな気持ち?」は、いちばん難しい質問。
体から、音から、推理から、「もしも」から。
入り口を変えると、言葉は出てきやすくなる。
トラブルのあとの聞き取りで「わからない」と言われたら
けんかや物の取り合いのあとの聞き取りは、先生にとって神経を使う時間です。事実を確認しなければならない。相手の子や保護者への説明もある。次の授業も迫っている。そんな中で「わからない」と言われると、つい「わからないわけないでしょう」と言いたくなります。
けれど、強い感情が動いた直後の子どもは、心のエネルギーのほとんどを「落ち着くこと」に使っています。このとき無理に言葉を求めると、子どもは「答えられない自分はだめだ」と感じ、ますます口を閉ざしてしまいます。聞き取りは、事実の確認と気持ちの確認を分けて、順番に行うのがおすすめです。
「座ろうか。お水飲む?」から始める
呼吸が速い、顔が赤いうちは、まだ話を聞く段階ではありません。隣か斜め前に座り、正面から見つめないようにします。「少し落ち着いたら話そうね」と時間の見通しを伝えるだけで、子どもは安心します。
「何があったか、順番に教えて」
気持ちより先に、出来事を聞きます。出来事を話すのが得意な子は多いので、まず「話せた」という感覚を持ってもらいます。「それから?」「そのとき、○○さんは何て言った?」と、短い質問でつなぎます。
「そのとき、体はどうなってた?」
「手がぎゅっとなった」「顔が熱くなった」「おなかがキュッとした」。体の言葉なら答えられる子はたくさんいます。体の変化は、感情がそこで動いた証拠です。
「くやしい? はずかしい? どれも違う?」
先生が感じた気持ちを2〜3個、選択肢として差し出します。「どれも違う」という選択肢も必ず入れます。選んだ言葉が違っていてもかまいません。「違う」と言えたら、それも大事な一歩です。
「くやしかったんだね。でも投げるのはやめようね」
気持ちは受けとめ、行動については約束をします。「くやしい気持ちはあっていい。投げる以外の方法を一緒に考えよう」と分けて伝えると、子どもは自分の気持ちを否定されずに、行動を振り返ることができます。
この順番を、先生方からは「時間がかかりそう」と言われることがあります。けれど実際には、いきなり「なんでやったの?」と聞いて沈黙が続くより、短い時間で話がまとまることが多いのです。そして何より、子どもは「先生は、わからない自分のことも待ってくれた」という経験を持ち帰ります。
中島輝より一言
私は小学生の頃、理由もなく涙が流れて止まらなくなることがありました。大人に「どうして泣いてるの?」と聞かれても、本当にわからなかった。5歳で育ての親と離ればなれになってから、私は感情を出すのをやめていたのです。あのとき誰かが「わからなくていいよ。ここにいていいよ」と言ってくれていたら。先生方の「待つ」一言は、子どもにとって、それほど大きな意味を持つことがあります。
朝の会の「心の天気」と感情語の掲示|クラスで育てる感情の言葉
個別の聞き取りと並んで大切なのが、クラス全体で感情の言葉を「ふだん使いの道具」にしておくことです。トラブルが起きてから初めて気持ちの言葉を探すのでは、間に合いません。何もない平和な日のうちに、言葉の在庫を増やしておくのです。
朝の会で1分の「心の天気」
朝の会の健康観察のあとに、「今日の心の天気」を一人ひと言ずつ言ってもらいます。晴れ、くもり、雨、かみなり、にじ、きり。言葉で気持ちを言うのが苦手な子でも、天気なら答えやすくなります。書籍原稿で紹介している「比喩レッスン」(今の気持ちを何かにたとえる練習)を、教室向けにやさしくしたものです。
- 理由は言わなくてよい。「くもり」だけでOKにする
- 「パス」も選べるようにする。言わない自由があることで、安心して参加できる
- 先生も必ず言う。「先生は今日、ちょっと曇りかな。朝バタバタしたから」
- 「雨」や「かみなり」を言った子には、その場で深掘りせず、あとでそっと声をかける
- 週に一度、「先週いちばん多かった天気」をみんなで振り返る
この活動のよいところは、先生自身が自分の気持ちを言葉にするお手本になれることです。「先生にも曇りの日があるんだ」とわかると、子どもは「曇りの自分」を隠さなくてよくなります。
感情語の掲示は「子どもと一緒に育てる」
教室の後ろの掲示板に、感情の言葉を集めたコーナーをつくります。最初から完成した一覧を貼るのではなく、国語の物語や道徳の授業、学級会で出てきた言葉を、その都度付せんで足していくのがおすすめです。「ごんぎつねの兵十は、最後にどんな気持ちだったかな」と考えた日に、「後悔」「もうしわけない」が加わる。自分たちで集めた言葉は、子どもの中に残ります。
このとき大切なのは、怒りや悲しみを「悪い気持ち」として扱わないことです。「怒ってはいけません」ではなく、「怒りは大事なことを守ろうとしている気持ち。伝え方を工夫しよう」と伝えます。気持ちに良い悪いはなく、扱い方に工夫がある。この考え方がクラスに根づくと、子どもは安心して自分の感情を見られるようになります。
教科の中に「気持ちの問い」を一つだけ
新しい活動を増やす余裕がないときは、すでにある授業に一つだけ問いを足してみてください。理科の実験で予想が外れたとき「今、どんな気持ち?」。体育で負けたとき「くやしさは何点?」。社会科で昔の人の暮らしを学ぶとき「この人たちは何がうれしかったと思う?」。感情の言葉の授業は、特別な単元ではなく、毎日の授業の中でできるのです。
研究でも、感情に名前をつけるだけで、脳の扁桃体(感情の警報装置のような部分)の活動が落ち着くことが示されています(Lieberman et al., 2007)。ざわついた教室が、「今のこの感じ、なんていう言葉かな」と一緒に考えるだけで少し静かになる。そんな経験をした先生は少なくないはずです。
通知表の所見と保護者面談で、子どもの感情をどう伝えるか
学期末の通知表の所見は、先生が子どもの姿を言葉にする大切な機会です。ところが、気持ちを言葉にしにくい子の所見は、つい「落ち着いて生活できました」「まじめに取り組みました」といった行動の記述だけになりがちです。
所見に「気持ちが動いた瞬間」を一つだけ書き込むと、保護者にとっても、その子にとっても、印象がまったく変わります。
| 行動だけの所見 | 気持ちの瞬間を添えた所見 |
|---|---|
| リレーの練習にまじめに取り組みました。 | リレーの練習で、バトンパスがうまくいった日に「よしっ」と小さくガッツポーズをしていました。うまくいったうれしさを、体いっぱいで表していた姿が印象的です。 |
| 友だちとのトラブルもありましたが、落ち着いて過ごせるようになりました。 | 友だちとうまくいかなかったとき、最初は「わからない」と話していましたが、2学期には「くやしかった」と自分の言葉で教えてくれるようになりました。気持ちを言葉にする力が育っています。 |
右の列の書き方は、日々の観察で「気持ちが動いた瞬間」を短くメモしておくとぐっと書きやすくなります。書籍原稿で紹介している「感情が動いた瞬間日記」を、子どもの観察用に作り直したものです。名簿の余白に「3/12 給食おかわりで満面の笑み」「5/8 鉄棒できず涙→放課後に再挑戦」と書いておくだけで、学期末に慌てずにすみます。
保護者面談では「行動→体→気持ち」の順で話す
保護者面談で、子どもの気がかりな行動を伝えるのは難しいものです。「手が出てしまうことがあります」とだけ伝えると、保護者は責められたように感じます。そこで、行動の前後にあった体の変化や気持ちの推測を、一緒に伝えるようにしてみてください。
行動を伝えるだけでなく、学校で何をしているかと、家庭に聞きたいことをセットにすると、保護者は「一緒に考えてくれる先生だ」と受けとめやすくなります。
保護者自身も、仕事や家庭で余裕がなく、自分の気持ちを言葉にしにくくなっていることがあります。面談の最初に「お忙しい中ありがとうございます。お仕事のあとで、お疲れではないですか」と一言そえるだけで、保護者の表情がゆるむことがあります。共感の一言を先に出してから、本題に入る。これは書籍原稿で「共感の一言」として紹介しているワークでもあります。
先生自身の感情労働|精神疾患による休職者7,119人が示すもの
ここまで、子どもの感情の言葉を育てる話をしてきました。けれど、私が先生方にいちばんお伝えしたいのは、ここからです。子どもの気持ちを受けとめ続ける先生自身の心は、誰が受けとめているでしょうか。
教員の仕事は、典型的な感情労働です。感情労働とは、社会学者のホックシールド(Hochschild)が名づけた言葉で、仕事として自分の感情をコントロールし、相手にふさわしい表情や態度を保つことが求められる働き方を指します。
子どもがけんかをしても、先生は冷静でいなければならない。保護者から厳しい言葉を受けても、笑顔で対応しなければならない。自分の家庭で何かあっても、教室に入れば「元気な先生」でいる。先生という仕事は、自分の感情を後回しにすることが、半ば当たり前になっているのです。
「先生モード」が自分の感情を見えなくする
感情を後回しにする日々が続くと、自分の感情に気づく回路そのものが細くなっていきます。これは強いストレスから心を守るための、一時的な防衛反応(2次性のアレキシサイミア)とも考えられます。次のようなサインに、思い当たるところはないでしょうか。
- 休日も頭の中が学校のことでいっぱいで、何をしても楽しめない
- 「疲れた」「忙しい」以外の気持ちの言葉が、しばらく出てきていない
- 子どもの前では笑えるのに、家に帰ると表情がなくなる
- 日曜の夜になると、理由のわからない胃の重さや頭痛がある
- 以前は心が動いていた子どもの成長に、最近あまり何も感じない
- 家族に話しかけられても、上の空で返事をしてしまう
いくつか当てはまっても、それは先生が弱いからではありません。それだけ真剣に、子どもと向き合ってきた証拠です。ただ、そのまま放っておくと、言葉にならなかった疲れが体の不調や燃え尽きとして表に出てくることがあります。眠れない、食欲がない、朝起き上がれないといった状態が2週間以上続くときは、一人で抱えず、管理職や産業医、医療機関に早めに相談してください。教育委員会や共済組合が設けている教職員向けの相談窓口を利用するのも一つの方法です。
子どもの気持ちを受けとめる先生にも、
気持ちを受けとめてもらう場所が必要。
それは、甘えではなく、仕事を続けるための技術。
放課後の職員室でできる、先生のための4つのワーク
忙しい先生に「自分の時間をつくってください」と言っても、現実には難しいものです。そこで、すでにある学校の時間の中で、数秒から数分でできるワークを選びました。どれも書籍原稿の第4章のワークを、先生の一日に合わせて作り直したものです。
チャイムで「心の体温チェック」
授業の終わりのチャイムが鳴ったら、手のひらを胸に当てて「今、自分の体は温かい? 冷たい?」と3秒だけ聞きます。「温かい」「冷たい」「よくわからない」、どれでもかまいません。1日に何度も鳴るチャイムを、自分の心に戻る合図にするワークです。続けるうちに、どの時間帯に心が冷えやすいかが見えてきます。
職員室に戻ったら「今日のオノマトペ」
放課後、職員室の椅子に座ったら、手帳の端に今の気分をオノマトペで一つ書きます。「ぐったり」「ザワザワ」「じんわり」「カリカリ」。正確な言葉を探さなくてかまいません。音の言葉は、感情の言葉の入り口です。子どもに「モヤモヤ? ザワザワ?」と聞くときの練習にもなります。
同僚に「共感の一言」を先に
同僚から「今日、保護者からまた電話があって」と相談されたら、アドバイスの前に「それは大変だったね」と一言だけ返します。共感の一言は、相手のためであると同時に、自分の感情の回路を温める練習です。職員室にこの一言が増えると、先生同士が弱音を言いやすくなります。
帰りの電車で「感情だけ日記」
帰り道に、スマホのメモへ「今日感じたこと」だけを書きます。出来事は書きません。「あせった」「ほっとした」「くやしかった」「少しうれしかった」。出来事を書くと仕事の振り返りになってしまうので、あえて感情だけに絞ります。気持ちを書き出すことで心身の負担が軽くなることは、心理学者ペネベーカー(Pennebaker)の筆記開示の研究などで繰り返し確かめられています。
学年団と管理職ができること|職員室を「感情を言ってもいい場所」に
先生のセルフケアは、一人ひとりの努力だけでは限界があります。教室で子どもに「気持ちを言っていいよ」と伝えている先生自身が、職員室では弱音を言えない。この矛盾が続くと、先生の心はすり減っていきます。子どもに求めることを、まず大人同士でやってみる。それが、感情の言葉が育つ学校の、いちばんの土台になります。
学年会の最初の1分に「先生の心の天気」
学年会や打ち合わせの最初に、朝の会と同じ「心の天気」を先生同士でやってみてください。「今日は晴れ。久しぶりに授業がうまくいった」「くもり。行事の準備が重なって、少し焦ってる」。理由は言っても言わなくてもかまいません。たった1分でも、「この人は今、余裕がないんだな」とお互いがわかるだけで、仕事の頼み方や声のかけ方が自然と変わります。
管理職の「どうだった?」を「しんどかったね」に
難しい保護者対応や、子どもの大きなトラブルのあと、管理職が先生にかける最初の一言はとても大切です。「どうだった?」「ちゃんと説明した?」と経過を確認する前に、「しんどかったね」「遅くまでありがとう」と、気持ちのほうを先に受けとめる。書籍原稿に登場する40代の管理職タカシさん(仮名)は、「感情はノイズ」だと考えて、部下の相談にはまず解決策を返してきた方でした。半年ほど練習を続けたあと、「部下が落ち込んでいるとき、つらかったね、と言えるようになった。それだけで部下の表情が変わる」と話してくれました。学校の管理職にも、まったく同じことがいえます。
一人で抱えない仕組みをつくる
- 困難な保護者対応は、できるだけ複数の教員で受ける
- 大きなトラブルのあとは、その日のうちに学年主任か管理職と5分話す
- スクールカウンセラーを、子どもだけでなく教員の相談相手としても活用する
- 長期休み前に、「この学期でいちばんしんどかったこと」を話せる時間をとる
こうした仕組みは、先生を甘やかすためのものではありません。感情を言葉にして受けとめてもらった先生は、子どもの感情も受けとめられる。職員室の空気は、そのまま教室の空気になります。
自己肯定感の「6つの感」でいえば、自分の感情をそのまま認める力は、木の幹にあたる自己受容感を育てます。そして「自分は誰かの役に立っている」という自己有用感は、木の実にあたります。子どものために働く先生は、実をたくさんつけている木です。だからこそ、幹である自己受容感にも、ときどき水をあげてください。
よくあるご質問
自分の「わからない」にも、やさしくしていい。
チャイムが鳴ったら、3秒だけ自分の心に。
先生の心が守られている教室から始まります。
自分を大切にしよう
「どうしたの?」に「別に」「わからない」と返す子どもは、感情がないのではありません。胸の中で動いた何かを、見分けて言葉にする道具がまだ手元にないだけです。感情の言葉は、大人が表情と言葉で映し返し、くり返し使ってみることで、少しずつ育っていきます。トラブル後の聞き取りでは、落ち着く、事実、体、選択肢、行動と気持ちを分けて返す、という順番を意識するだけで、子どもの口は開きやすくなります。
朝の会の「心の天気」、子どもと一緒に育てる感情語の掲示、授業に足す一つの問い、所見に書き込む「気持ちが動いた瞬間」、保護者面談での共感の一言。どれも特別な時間をとらずに、今ある教室の営みの中でできることです。そして、その教室を支えているのは、毎日自分の感情を後回しにしながら子どもと向き合っている先生方です。精神疾患による休職者が過去最多となった今、先生の心を守ることは、子どもの学びを守ることそのものです。
チャイムで3秒、職員室で30秒、帰り道で2分。自分の気持ちに名前をつける小さな時間を、どうかご自身にも許してあげてください。曇りの日があっていい。雨の日があっていい。それを言葉にできる先生の姿こそが、子どもにとって何よりの感情の教科書になります。自分を大切にしよう。子どもたちの「わからない」を待てるあなたは、もう十分に、すてきな先生です。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- 文部科学省「令和5年度 公立学校教職員の人事行政状況調査」
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16, 184-188.
- Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
- Hochschild, A.R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.(邦訳『管理される心―感情が商品になるとき』石川准・室伏亜希訳、世界思想社)

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。






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