日本語で「大丈夫です」しか言えない留学生へ
異国で学ぶ人と感情の言語化
授業のあと、先生に「最近どう?」と聞かれる。本当は、アルバイトで寝不足が続いていて、ゼミの議論についていけず、母国の家族とのビデオ通話のあとは毎回胸が苦しい。でも口から出てくるのは、いつもの言葉。「大丈夫です。ありがとうございます」。言いたいことがないのではなく、それを日本語でどう言えばいいのかわからない。母語で考えても、なぜかうまく言葉にならない。それは、あなたの日本語力が足りないからでも、心が弱いからでもありません。異国で、第二言語で暮らす人の心に起きやすいことです。言語と感情の研究、アドラー心理学をもとに、留学生本人と、受け入れる大学・日本語学校の教職員の両方に向けてお伝えします。
結論:「大丈夫です」は、言える数少ない気持ちの言葉かもしれない
結論からお伝えします。留学生の「大丈夫です」は、本当に大丈夫だという意味とはかぎりません。日本語で使い慣れた、数少ない「気持ちを伝える言葉」が、たまたま「大丈夫です」だった、ということがよくあります。その一語の奥には、疲れ、さみしさ、焦り、悔しさ、申し訳なさが、言葉にならないまま重なっていることがあります。
この記事のポイントは3つです。
- 第二言語では、感情が「遠く」感じられやすい。単語の意味は知っていても、その言葉が心にひびく感じが母語より弱い。これは多くの研究で報告されている、ごく普通のことです。
- 孤立、アルバイト、帰国の迷いが、感情を後回しにさせる。毎日を回すことに精いっぱいだと、心は「感じるのはあと」にしてしまう。
- 「ここにいていい」と感じられることが、感情を取り戻す土台になる。アドラー心理学でいう所属感と、6つの感の根にあたる自尊心≒自己存在感が、そのカギです。
ここで手がかりになるのが、アレキシサイミア(失感情症)という心理学の言葉です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態の人を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本はアレキシサイミア(失感情症)とはでまとめています。
母国では自分の気持ちをよく話していた人でも、慣れない国、慣れない言葉、慣れない生活の中で強い緊張が長く続くと、心は自分を守るために感じる回路を一時的に絞ることがあります。専門的には「2次性アレキシサイミア」と呼ばれる反応です。「最近、楽しいも悲しいもよくわからない」と感じているとしたら、それは心が冷たくなったのではなく、がんばり続けている心の非常事態モードかもしれません。
でも、母国語でも何て言えばいいかわからない」
数字と研究で見る留学生の心|第二言語では感情が「遠く」なる
日本で学ぶ外国人留学生は、決して少数ではありません。そして、母語ではない言葉で暮らすことが心にどう影響するかについては、言語学と心理学の両方から研究が積み重ねられています。押さえておきたい知見を整理します。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 約28万人 | 日本の大学・専門学校・日本語教育機関などに在籍する外国人留学生の数(2023年5月1日現在) | 日本学生支援機構(JASSO)「外国人留学生在籍状況調査」 |
| 30万人 | 2008年に政府が打ち出した「留学生30万人計画」の目標 | 文部科学省ほか関係省庁 |
| 週28時間以内 | 留学生がアルバイトをする場合の資格外活動許可の原則(長期休業期間中は1日8時間以内) | 出入国在留管理庁 |
| 感情の距離 | 多言語話者は、第二言語で感情語を使うとき、母語より心へのひびきが弱いと感じやすい | Pavlenko(2005)『Emotions and Multilingualism』 |
| 母語の重み | 多言語話者の多くが、怒りや愛情などの強い感情は母語のほうが表しやすい、または重く感じると回答 | Dewaele(2008, Journal of Pragmatics)ほか |
| 感情ラベリング | 感情に言葉でラベルをつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の反応がおだやかになる | Lieberman et al.(2007) |
多言語話者の感情を研究してきた言語学者アネタ・パヴレンコ(Aneta Pavlenko)は、母語ではない言葉で暮らす人の多くが、第二言語の感情語を「意味はわかるけれど、心に届きにくい言葉」として感じていることを示しました。たとえば、母語で「さみしい」と言うと胸の奥がきゅっとするのに、学んだ言葉で同じ意味の単語を言っても、どこか他人事のように聞こえる。子どもの頃から体の感覚と一緒に覚えてきた母語の言葉と、教科書で覚えた言葉とでは、心とのつながり方が違うのです。
ロンドン大学の言語学者ジャン=マルク・ドゥヴァール(Jean-Marc Dewaele)らの調査でも、多言語話者の多くが、強い感情は母語のほうが表現しやすい、あるいは母語で言われたほうが重く感じると答えています。ただし、これには個人差があり、逆に第二言語のほうが恥ずかしさが少なく本音を言いやすいという人もいます。どちらが正しいということではなく、言葉によって感情との距離が変わる、ということが大切です。
日本語の「大丈夫です」が軽く感じるのは、
あなたの気持ちが軽いからではない。
言葉と心の距離が、まだ遠いだけ。
「大丈夫です」の中身|言葉にならない5つの気持ち
日本語を学ぶと、早い段階で「大丈夫です」という便利な言葉を覚えます。断るときにも、遠慮するときにも、心配をかけたくないときにも使える。けれど、便利な言葉ほど、たくさんの気持ちをひとまとめにしてしまいます。留学生の相談でよく出てくる「大丈夫です」の中身を、5つに分けてみます。
| 「大丈夫です」の中身 | よくある場面 | 体に出やすいサイン |
|---|---|---|
| さみしさ | 寮に帰っても話す人がいない。母国の祝日に一人で過ごす | 夜に眠れない、食事がおろそかになる |
| 焦り | 授業やゼミの議論のスピードについていけない | 肩や首まわりのこり、頭痛 |
| 悔しさ | 母語なら言えることが、日本語では子どものような言い方になる | 人前で話すとき顔が熱くなる |
| 申し訳なさ | 学費や生活費を出してくれた家族、手伝ってくれる日本人の友人への遠慮 | 胃が重い、ため息が増える |
| 疲れ | 学業、アルバイト、手続き、慣れない生活習慣の積み重ね | 朝起きられない、何もしたくない |
これらの気持ちは、一つだけ出てくることは少なく、たいていいくつも同時に重なっています。だから「どうしたの?」と聞かれても、どれから話せばいいのかわからず、結局「大丈夫です」になる。それは、話すことがないからではなく、話すことが多すぎて、入り口が見つからないからです。
「孤立」は、言葉の問題だけではない
留学生の孤立というと、日本語ができないから友だちができない、と考えられがちです。けれど実際には、日本語がかなり上手な留学生でも孤立を感じています。その理由の一つが、日本の人間関係の「空気を読む」文化です。はっきりとは言われないけれど、なんとなく輪に入れていない気がする。冗談の意味がわからず、笑うタイミングがずれる。その小さな違和感が重なると、「自分はここに属していない」という感覚が強くなります。
カナダの人類学者カレルヴォ・オバーグ(Kalervo Oberg)が1960年に「カルチャーショック」という言葉を広めて以来、異文化の中で暮らす人の心の揺れは、多くの研究で取り上げられてきました。新しい環境に入ると、最初は何もかもが新鮮でも、しばらくすると疲れや戸惑いが強くなり、やがて少しずつ適応していく、という流れがよく知られています。ただし、その道のりは人によって違い、まっすぐ回復するのではなく、行ったり来たりしながら進むのがふつうです。
中島輝より一言
カウンセリングの現場では、「何を感じているかわからない」と話す方に、私はよく「その気持ちに色をつけるとしたら、何色ですか?」と聞きます。言葉が見つからなくても、色や天気や音なら答えられることがあるからです。言語が違っても、色や体の感覚は国境を越えて共有できます。日本語の感情語が足りないと感じている方こそ、言葉の手前にある感覚から、気持ちに近づいてみてください。
アルバイトと学業のあいだで|「働きに来たのではない」のに
多くの留学生にとって、アルバイトは生活を支える大切な収入源です。学費、家賃、食費、国民健康保険料、そして母国への仕送り。日本での暮らしにかかるお金は少なくありません。留学生のアルバイトは、資格外活動許可のもとで原則として週28時間以内と決められています。この上限の中で、学業と生活を両立させなければなりません。
アルバイトの現場では、日本語を使う機会が増え、日本人の同僚と知り合えるというよい面もあります。けれど同時に、こんな気持ちを抱えている留学生も多いものです。
- 「勉強しに来たのに、働いてばかりいる」という虚しさ。疲れて授業中に眠くなり、そんな自分が情けなくなる。
- 職場で強く言われても言い返せない悔しさ。日本語で反論するのが難しく、黙って頭を下げてしまう。
- 「外国人だから」と思われたくない緊張。小さなミスでも、自分の国の評判まで背負っているような気がする。
- お金の不安と、家族への申し訳なさ。仕送りを受けている人も、仕送りをしている人も、それぞれの重さがある。
こうした気持ちは、アルバイト中には感じる余裕がありません。お客さんの前では笑顔で、店長の指示にはすぐに「はい」。感情を後回しにして働くうちに、仕事が終わっても気持ちのスイッチが入らなくなることがあります。帰り道、何も感じずにただ歩いている自分に気づいたら、それは心が疲れているサインです。
職場で困ったときは、一人で抱えない
アルバイト先で給料が払われない、約束より長く働かされる、ひどい言葉をかけられるといったことがあれば、それはあなたが我慢すべきことではありません。大学や日本語学校の留学生担当の窓口、都道府県の労働局や労働基準監督署の相談窓口(外国語に対応しているところもあります)に相談してください。「言っても仕方ない」とあきらめる前に、誰かに一度話してみることが大切です。
帰るか、残るか|進路の迷いと家族への遠慮
卒業が近づくと、多くの留学生が大きな選択に向き合います。日本で就職するか、母国に帰るか、別の国へ行くか。この選択は、仕事だけでなく、家族、恋人、在留資格、将来の生活のすべてに関わります。
この迷いがつらいのは、決められないことそのものより、迷っている気持ちを誰にも話せないことにあります。母国の家族には「日本で成功してほしい」と期待されているかもしれない。あるいは「早く帰ってきてほしい」と言われているかもしれない。日本の友人には、母国の事情まではわかってもらえない気がする。キャリアセンターでは就職の手続きの話はできても、心の迷いまでは話しにくい。
| 迷いの言葉 | その下にある感情 |
|---|---|
| 「日本で就職したほうがいいと思う」 | ここまでがんばった時間を無駄にしたくない気持ち、帰国して「失敗した」と思われる恥ずかしさ |
| 「帰国しようかな」 | 家族への恋しさ、日本での疲れ、安心できる場所へ戻りたい気持ち |
| 「まだ決めていない」 | どちらを選んでも何かを失う悲しさ、決めることへの不安 |
| 「家族が決めることだから」 | 自分の希望を言うと家族を裏切るような罪悪感 |
進路の迷いを整理するとき、多くの人は「どちらが得か」という条件を比べます。給料、ビザ、家族との距離。それも大切です。けれど、条件の比較だけで決めると、あとで「本当はどうしたかったのか」がわからなくなることがあります。条件と同じくらい、「それを想像したとき、自分はどんな気持ちになるか」を言葉にしてみてください。日本で働く自分を想像して胸が躍るのか、それとも重くなるのか。母国に帰る自分を想像して、ほっとするのか、悔しいのか。体の反応は、言葉より先に答えを知っていることがあります。
どちらを選んでも、何かを失う。
だから迷うのは当然のこと。
失うものの悲しさにも、名前をつけていい。
アドラー心理学で見る留学生活|共同体感覚と所属感
私はアドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方は、異国で暮らす人の心を理解するのに大きな助けになります。ここでは2つの考え方を紹介します。
所属感|「ここにいていい」という感覚
アドラー心理学では、人は誰でも「自分はこの集団の一員だ」と感じられる所属感を求めていると考えます。留学生活がつらくなるとき、その中心には、この所属感の揺らぎがあることが少なくありません。日本の大学にも、アルバイト先にも、まだ自分の居場所がない気がする。かといって、母国からも少しずつ離れていく。どこにも完全には属していない感覚は、とても心細いものです。
アドラーは、所属感は「受け入れてもらう」ことだけでなく、自分がその場に何かを差し出すことによっても育つと考えました。研究室で自分の国の視点からコメントをする。アルバイト先で外国から来たお客さんの対応を手伝う。日本人の友人に母国の料理を教える。小さな貢献でかまいません。「自分がいることで、誰かの役に立っている」と感じられたとき、その場所は少しずつ自分の居場所になっていきます。
共同体感覚|国籍を超えたつながり
アドラー心理学のもう一つの柱が共同体感覚です。共同体感覚とは、自分を周りの人とつながった存在だと感じ、他者を仲間だと思える感覚のことです。アドラーは、この共同体は家族や国にとどまらず、もっと広い人のつながり全体にまで広がりうると考えました。
留学生は、複数の共同体のあいだに立っています。母国の家族、日本の大学、同じ国から来た仲間、ほかの国から来た留学生、アルバイト先の人たち。どれか一つに完全に属さなければならないわけではありません。それぞれの場所に少しずつつながりを持つことが、異国で暮らす心の支えになります。とくに、ほかの国から来た留学生同士は、国は違っても「第二言語で暮らす苦労」を分かち合える仲間です。
日本に来た意味がない気がして」
根を育てる|自尊心≒自己存在感と、母語も使う感情の言語化ワーク
自己肯定感を木にたとえると、6つの感は次のように表せます。根は自尊心≒自己存在感、幹は自己受容感、枝は自己効力感、葉は自己信頼感、花は自己決定感、実は自己有用感です。
留学生活でとくに揺らぎやすいのが、根にあたる自尊心≒自己存在感です。自己存在感とは、何ができるか、どれだけ成果を出したかに関係なく、「自分はここに存在していていい」と感じられる感覚のこと。母国では「よく話す人」「頼られる人」だったのに、日本では「日本語がうまく話せない外国人」として見られる。その落差が、根を揺らします。
けれど、日本語がうまく話せないことは、あなたの価値が下がったことを意味しません。あなたは、母語で考え、感じ、生きてきた時間を丸ごと持ったまま、ここにいます。そのことを思い出すためのワークを紹介します。中島輝の近刊で紹介しているワークを、第二言語で暮らす人向けにアレンジしました。
心の体温チェック
朝起きたとき、自分の心の温度を「あたたかい」「ふつう」「つめたい」の3つから選びます。日本語でも母語でも、どちらでもかまいません。言葉にならなければ、手のひらで胸をさわって、温度を感じるだけでも大丈夫です。
色彩感情カレンダー
カレンダーやスマホのメモに、その日の気持ちを色で記録します。赤、青、灰色、黄色。色は言語に関係なく使える、感情の共通語です。1か月続けると、アルバイトの多い週は灰色が多い、母国の家族と話した日は青が多い、といった自分のパターンが見えてきます。
二つの言葉で書く「感情が動いた瞬間日記」
夜、今日いちばん心が動いた場面を、まず母語で、次に日本語で一行ずつ書きます。母語で書くと気持ちが近く感じられ、日本語で書くと少し距離をおいて眺められます。二つを並べると、「母語ではこんなに強い言葉が出たのに、日本語だと『少し困った』になった」といった、自分の感情の深さに気づくことがあります。
感情ことば帳(日本語版)
日本語の感情語を、意味だけでなく「どんな場面で使うか」と一緒に集めていきます。「もやもや(すっきりしない、はっきりしない気持ち)」「せつない」「くやしい」「ほっとする」。日本人の友人やアルバイト先の人が使っていた言葉をメモしておくと、少しずつ「大丈夫です」以外の言葉が増えていきます。
日本語が上手かどうかで、
あなたの価値は変わらない。
あなたは、ここにいていい。
受け入れる教職員の方へ|「大丈夫です」の先を聞く声かけ
ここからは、大学や日本語学校、専門学校で留学生を受け入れている教職員の方に向けてお伝えします。授業、研究指導、生活相談、キャリア支援。どの場面でも、留学生の「大丈夫です」をそのまま受けとってしまうと、本当に困っていることを見落とすことがあります。
「大丈夫?」ではなく、選べる質問を
「大丈夫?」と聞かれると、多くの留学生は反射的に「大丈夫です」と答えます。日本語として最も答えやすい言葉だからです。代わりに、答えを選べる質問や、具体的な場面を聞く質問を使ってみてください。
| 答えにくい聞き方 | 答えやすい聞き方 |
|---|---|
| 「大丈夫?」 | 「最近、眠れていますか? よく眠れる・少し・あまり、のどれに近い?」 |
| 「何か困っていることある?」 | 「授業、アルバイト、住まい、お金、家族のことで、いちばん気になっているのはどれ?」 |
| 「ゼミの議論についてこられている?」 | 「さっきの議論で、言いたかったけど言えなかったことはありますか? 母語やメールでもいいですよ」 |
| 「帰国するの?就職するの?」 | 「将来のこと、考えると、どんな気持ちになりますか?」 |
沈黙を「問題なし」と受けとらない
ゼミやミーティングで黙っている留学生は、考えがないのではなく、日本語で考えをまとめるのに時間がかかっていることがあります。発言の前に考える時間をとる、事前に質問を共有する、メールやチャットでの意見も受けつける、といった工夫で、発言しやすさは大きく変わります。英語や母語の資料を参照してよいと伝えるだけでも、安心感が違います。
気になるサインと、つなぐ先
- 授業の欠席が急に増えた、課題の提出が止まった
- 以前より表情が乏しく、話しかけても反応が少ない
- アルバイトの話ばかりで、学業の話が出てこない
- 体調不良(頭痛、腹痛、不眠)の訴えが続いている
- 母国の家族の病気や経済的な事情を口にした
こうしたサインに気づいたら、一人の教員で抱え込まず、留学生センター、学生相談室、保健管理センターなどと連携してください。カウンセリングを母語や英語で受けられる体制があるか、事前に確認しておくと、いざというときに紹介しやすくなります。医学的な判断は医師にゆだね、在留資格に関わる手続きは専門の担当部署や行政書士などにつないでください。大学教職員の関わり方については「特に問題ありません」と言う学生たちでも詳しく扱っています。
そして、留学生を受け入れる教職員自身も、言葉の壁や文化の違いの中で、もどかしさや無力感を感じることがあるでしょう。「うまく伝わらない」と感じたときの自分の気持ちにも名前をつけ、同僚と共有してください。支える人が自分の感情を言葉にできるほど、学生の言葉にならない気持ちにも気づきやすくなります。
中島輝より一言
留学生の方の話を聞いていると、「日本語が下手で、すみません」という言葉をよく耳にします。けれど、母語ではない言葉で、自分の気持ちを伝えようとしている。それだけで、どれほどの勇気が必要かを、受けとる側は忘れないでいたいと思います。完璧な日本語より、たどたどしくても本当の気持ちのほうが、ずっと大切です。
よくあるご質問
母語でも、日本語でも、色でもいい。名前を。
あなたは、ここにいていい。
ここも、あなたの居場所の一つになっていく。
自分を大切にしよう
日本で学ぶ留学生が「大丈夫です」しか言えないのは、日本語力が足りないからでも、心が弱いからでもありません。第二言語では感情語が心に届きにくく、慣れない環境での緊張が感じる回路を絞ってしまう。そこに孤立、アルバイトと学業の両立、帰国か残るかの迷いが重なると、さみしさ、焦り、悔しさ、申し訳なさ、疲れが、名前のつかないまま「大丈夫です」の中に押しこめられていきます。
アドラー心理学は、「ここにいていい」と感じられる所属感と、国籍を超えて人とつながる共同体感覚が、心の支えになることを教えてくれます。心の体温チェック、色彩感情カレンダー、二つの言葉で書く日記、感情ことば帳。小さなワークで気持ちに名前をつけるたびに、何ができるかに関係なく「自分はここにいていい」と感じる自尊心≒自己存在感の根が、異国の土にも少しずつ伸びていきます。受け入れる教職員の方には、答えを選べる質問と、つなぐ先の準備をお願いしたいと思います。
母語ではない言葉で学び、働き、暮らしているあなたは、毎日とても大きなことをしています。自分を大切にしよう。うまく言えない気持ちも、あなたの大切な一部です。母語でも、日本語でも、色でもいい。その気持ちに名前をつけて、話せる相手を一人ずつ増やしていってください。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- Pavlenko, A. (2005). Emotions and Multilingualism. Cambridge University Press.
- Dewaele, J.-M. (2008). The emotional weight of I love you in multilinguals’ languages. Journal of Pragmatics, 40(10), 1753-1780.
- Oberg, K. (1960). Cultural shock: Adjustment to new cultural environments. Practical Anthropology, 7, 177-182.
- 日本学生支援機構(JASSO)「外国人留学生在籍状況調査」
- 文部科学省ほか「留学生30万人計画」骨子(2008年)
- 出入国在留管理庁「資格外活動許可について」
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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