慣らし保育で泣くのは子どもだけじゃない
入園期の親子と感情の言語化
「ママー!」と手を伸ばして泣くわが子を、保育士さんの腕に預けて玄関を出る。背中で泣き声を聞きながら、早足で駅へ向かう。電車の中でスマホを開くと、復職初日の予定表。なのに、なぜか目の前がにじんでくる。悲しいのか、申し訳ないのか、ほっとしているのか、自分でもよくわからない。その揺れは、あなたが弱い親だからではありません。入園期には、子どもだけでなく親にも「分離」が起きています。愛着理論とアドラー心理学をもとに、親子の気持ちを言葉にしながらこの時期を乗り越える方法をお伝えします。
結論:入園期は、子どもと親の「二人分の分離」が同時に起きる
結論からお伝えします。慣らし保育の時期に親が泣きたくなるのは、ごく自然なことです。入園期は、子どもが親から離れる練習をする時期であると同時に、親が子どもから離れる練習をする時期でもあります。二人分の分離が、同じ朝に、同じ玄関で起きているのです。
この記事のポイントは3つです。
- 子どもが泣くのは、愛着がしっかり育っている証拠。泣かずに離れられないのは「慣れていない」からではなく、「この人が自分の安全基地だ」と体で知っているから。
- 親の罪悪感は、いくつもの感情が一つに固まったもの。悲しさ、心配、仕事への焦り、ほっとした気持ち、そのほっとした自分を責める気持ち。分けて名前をつけると、ずっと扱いやすくなる。
- 親が自分の気持ちを受けとめるほど、子どもの気持ちも受けとめやすくなる。それが自己受容感(6つの感の「幹」)を親子で育てることにつながる。
ここで手がかりになるのが、アレキシサイミア(失感情症)という心理学の言葉です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態の人を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本はアレキシサイミア(失感情症)とはでまとめています。
ふだんは自分の気持ちをよくわかっている人でも、生活が大きく変わる時期には、感情が一時的に迷子になることがあります。入園、復職、寝不足、慣れない送迎。やることに追われていると、心は「感じるのはあと回し」にして、とりあえず一日を回そうとします。その結果、夜になって理由のわからない涙が出たり、パートナーの一言に急にいら立ったりします。それは、感じる余裕がなかった感情が、やっと出口を見つけたサインです。
なんで私まで泣いてるんだろうって」
数字と研究で見る入園期|愛着理論と「安全基地」
子どもが親から離れるときに泣く理由を、心理学はかなり前から研究してきました。中心にあるのが、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)の愛着理論です。押さえておきたい知見を整理します。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 愛着理論 | 子どもは特定の大人との間に情緒的な絆(愛着)を結び、不安なときにその人に近づくことで安心を取り戻す | Bowlby『Attachment and Loss』第1巻(1969) |
| 安全基地 | 安心できる大人を「基地」にして、子どもは外の世界を探索し、不安になると戻ってくる | Ainsworth et al.(1978)ストレンジ・シチュエーション法の研究 |
| 保育と愛着 | 保育を利用すること自体は、母子の愛着の不安定さを予測しなかった。家庭での関わりの質と重なったときに影響が見られた | NICHD Early Child Care Research Network(1997, Child Development) |
| 気持ちの名前 | 保育園の子どもに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールや考える力が育った | Katan(1961) |
| 感情ラベリング | 感情に言葉でラベルをつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の反応がおだやかになる | Lieberman et al.(2007) |
ボウルビィは、子どもが親から離されたときの反応を観察し、子どもにとって特定の大人との絆は、食べ物と同じくらい生きるために必要なものだと考えました。この考えを実験で確かめたのが、アメリカの心理学者メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)です。彼女は、子どもが安心できる大人を「安全基地」にして遊びに出かけ、不安になると戻ってくる、という行き来を丁寧に描き出しました。
働く親にとって気になるのは、「保育園に預けると、親子の絆が弱くなるのでは」という心配でしょう。アメリカの国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)が1990年代に行った大規模な追跡研究では、保育を利用していること自体が、子どもの愛着を不安定にするわけではないという結果が報告されています。影響が見られたのは、家庭での親の応答が乏しい状態と、長時間の保育や質の低い保育が重なったときでした。大切なのは、預けるかどうかよりも、一緒にいる時間に子どもの気持ちをどう受けとめるかなのです。
預けることが、絆を壊すのではない。
戻ってきたときに受けとめることが、
絆を太くしていく。
泣く子の心の中|分離不安は「愛着が育っている」サイン
親から離れるときに強い不安を示すことを、分離不安といいます。一般に、人見知りが始まる生後半年すぎから目立ちはじめ、1歳前後に強くなり、2〜3歳ごろにかけて少しずつ落ち着いていくことが多いとされます。もちろん個人差は大きく、0歳の春にはけろっとしていた子が、1歳の秋に急に泣くようになることもあります。
ここで知っておきたいのは、分離不安は「困った反応」ではなく「健全な発達のサイン」だということです。泣くのは、親という特定の人を見分け、その人を自分の安全基地だと知っているからです。むしろ、誰に預けられても平気な状態のほうが、愛着の形としては心配されることがあります。
子どもはまだ、気持ちを言葉にできない
1〜2歳の子どもは、自分の中で起きていることを「さみしい」「こわい」「不安」と見分けることができません。心理学者のレインとシュワルツは、感情の気づきは体の感覚から始まり、少しずつ言葉になっていくと説明しました。乳幼児はちょうどその入り口にいます。だから、心の中の大きな揺れは、泣く、しがみつく、のけぞる、食べない、眠れないといった体の言葉で表に出てきます。
| 入園期によく見られる姿 | その奥にあるかもしれない気持ち |
|---|---|
| 朝の玄関でしがみついて泣く | 離れるのがこわい、何が起きるのかわからない不安 |
| 園ではおとなしいのに、家で大荒れ | 園でがんばった緊張がほどけた、安心できる場所で甘えたい |
| お迎えのとき、親を見て泣き出す | ずっと我慢していたさみしさ、ほっとした気持ち |
| 夜泣き・寝つきの悪さが戻る | 環境の変化による疲れ、昼間に処理しきれなかった気持ち |
| お迎えのときに目をそらす、親を無視する | 「置いていかれた」ことへの怒りやすねた気持ち |
とくに、お迎えのときに泣く、家で荒れるという姿に戸惑う親は多いものです。「園では泣かずに過ごせたと聞いたのに、どうして家で」と思うかもしれません。けれどこれは、園で精いっぱいがんばった子どもが、安全基地に戻ってきて、ようやく気持ちを出せたしるしです。家で荒れるのは、家が安心できる場所だからなのです。
親が「代わりに言葉にする」
まだ言葉を持たない子どもの気持ちは、大人が代わりに言葉にして映し返すことで、少しずつ子ども自身のものになっていきます。泣いているとき、「泣かないの」「大丈夫だから」で止めるのではなく、「ママと離れるの、さみしいね」「知らないところで、どきどきしたね」と、感じていそうなことを言葉にして差し出してみてください。ゴットマンの感情コーチングの研究でも、子どもの気持ちに名前をつけて受けとめる親の子どもは、感情を調整する力が育ちやすいことが示されています。
泣くのは、まだ慣れていないからではない。
あなたが、その子の
帰る場所になっているから。
泣くのは子どもだけじゃない|親の罪悪感の正体
入園期の相談でとても多いのが、「預けることへの罪悪感」です。「こんなに小さいうちから預けていいのか」「泣かせてまで働く意味があるのか」。頭では保育園に預けることが悪いことではないとわかっていても、朝の泣き声を聞くたびに、胸がぎゅっと痛みます。
けれど、この「罪悪感」という一語は、実はいくつもの感情がひとかたまりになったものです。まとめて「罪悪感」と呼んでいるうちは、重たくて扱えません。分けて名前をつけると、一つひとつは意外と扱える大きさになります。
「ほっとした」自分を責めなくていい
とくに、多くの親が口にしにくいのが「安堵」です。子どもを預けて一人で電車に乗ったとき、久しぶりに温かいコーヒーを最後まで飲めたとき、ふっと肩の力が抜ける。そして次の瞬間、「子どもが泣いているのに、ほっとするなんて」と自分を責めてしまう。
けれど、24時間ずっと小さな子どもと向き合ってきた人が、少し離れてほっとするのは当然のことです。安堵は、愛情が足りないしるしではなく、それだけ全力で向き合ってきたしるしです。さみしさと安堵は、同じ心の中に同時にあっていい。矛盾した気持ちを両方持てることは、心が成熟している証拠でもあります。
罪悪感を強める「3つの声」
入園期の罪悪感は、外から聞こえてくる声によって強くなることがあります。
- 「3歳までは母親が」という声:いわゆる「3歳児神話」は、1998年版の『厚生白書』で「少なくとも合理的な根拠は認められない」と述べられています。それでも、親世代や周囲から言われると心に刺さります。
- 「かわいそうに」という声:悪気のない一言でも、迷いのある時期には責められているように聞こえます。
- 自分の中の「ちゃんとした親」の声:いちばん厳しいのは、多くの場合、自分自身の声です。
どの声も、あなたの気持ちを代わりに決めることはできません。「そう言われて、私は悲しかった」「本当は不安だった」と、声を受けたあとの自分の気持ちに名前をつけることで、外の声と自分の気持ちを切り分けることができます。
復職と慣らし保育が重なるとき|仕事モードと親モードのはざまで
入園期が特別に揺れやすいのは、多くの家庭で職場復帰の時期と重なるからです。慣らし保育は、園によって違いますが、短い時間から始めて1〜2週間ほどかけて少しずつ延ばしていくことが一般的です。その間にも、復職の手続き、職場との面談、生活リズムの切り替えが進んでいきます。
この時期の親の心は、二つのモードを高速で行き来しています。朝は泣く子をなだめる親モード。電車に乗った瞬間から、メールを確認する仕事モード。昼休みに園からの電話が鳴らないかスマホを気にし、夕方は時計を見ながら仕事を切り上げる。切り替えが続くと、心はどちらのモードでも「感じる」ことを後回しにしがちです。
慣らし保育中の「呼び出し」と、職場への気まずさ
入園直後は、子どもが熱を出しやすい時期でもあります。集団生活が始まると、いろいろな感染症に出会うからです。慣らし保育が延びたり、復職したばかりなのに呼び出しで早退したりすることもあります。そのたびに、職場への申し訳なさ、子どもへの心配、「また休むのか」と思われていないかという不安が重なります。
こうした状況では、感情を整理するより先に、まずやるべきことを片づけることになります。それは仕方のないことです。ただ、一日の終わりに「今日いちばん心が動いたのはどこだったか」を一行だけ書くことを続けると、感じきれなかった気持ちが少しずつ消化されていきます。
パートナーと「気持ち」も分担する
送迎や呼び出しの分担は話し合っても、気持ちの分担までは話していない家庭は少なくありません。どちらか一方だけが朝の泣き声を毎日聞き、罪悪感を一人で抱えていることもあります。
「今日の預け方、どうだった?」を事実ではなく気持ちで聞く
「何時に預けた?」「泣いてた?」という事実の確認だけでなく、「預けるとき、あなたはどんな気持ちだった?」と聞いてみてください。片方が「実は毎朝つらい」と言葉にできるだけで、もう片方は「自分が送る日を増やそう」と動きやすくなります。気持ちを共有することが、具体的な分担を変える入り口になります。
復職後の働き方や職場での気持ちの整理については復職と感情の言語化の記事も参考にしてください。
園との連絡で気持ちを伝える|連絡帳とお迎えの3分
入園期に意外と大きいのが、園とのコミュニケーションです。保育士さんに聞きたいことはたくさんあるのに、「忙しそうだから」「心配しすぎと思われそう」と遠慮してしまう親は多いものです。けれど、親の不安や子どもの家での様子を伝えることは、保育士さんにとっても子どもを理解するための大切な情報です。
連絡帳(アプリ)には「家での気持ちのサイン」を書く
連絡帳や保育アプリには、体温、睡眠、食事といった事実を書く欄がありますが、そこに一行だけ「気持ちのサイン」を加えてみてください。
| 事実だけの書き方 | 気持ちのサインを添えた書き方 |
|---|---|
| 昨夜は22時に寝ました。 | 昨夜は寝つくまで「ママいる?」と何度も確かめていました。少し不安が強いようです。 |
| 朝ごはんは少し残しました。 | 朝、靴をはくときに急に泣き出しました。園のことを思い出したのかもしれません。 |
| 特に変わりありません。 | 帰宅後はいつもより甘えん坊でした。園でがんばっているのだと思います。 |
こうした一行があると、保育士さんは「今日は朝、少し丁寧に受け入れよう」と関わりを工夫しやすくなります。そして、書くことで親自身も子どもの気持ちを言葉にする練習になります。
お迎えの3分で聞くこと
お迎えのときは、「今日はどうでしたか?」と大きく聞くより、「どんなときに泣いていましたか?」「何をしているときに落ち着いていましたか?」と具体的に聞くと、子どもの気持ちの手がかりが返ってきやすくなります。保育士さんの「お母さんが帰ったあと、10分ほどで泣きやんで、ブロックで遊んでいましたよ」という一言は、親の心を何より軽くしてくれるものです。
そして、自分の不安も一言だけ伝えてかまいません。「実は私のほうが毎朝つらくて」と言われて困る保育士さんはいません。親の不安を知っていることで、保育士さんも親子を一緒に支えるチームの一員になれます。園の先生方も、毎年たくさんの親子の入園期を見てきたプロです。
ほっとしたのに、少しさみしかった」
アドラー心理学で見る入園期|勇気づけと所属感
私はアドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方は、入園期の親子にとってたくさんのヒントを含んでいます。ここでは2つの考え方を紹介します。
所属感|「ここにいていい」と感じられること
アドラー心理学では、人は誰でも「自分はこの集団の一員だ」と感じられる所属感を求めていると考えます。子どもにとって入園は、家庭という一つの集団から、園という新しい集団に入っていく、人生で最初の大きな挑戦です。
子どもが朝泣くのは、まだ園に所属感を持てていないからでもあります。所属感は、時間をかけて育ちます。担当の保育士さんの顔を覚え、お気に入りのおもちゃができ、友だちの名前を呼ぶようになる。そうやって園が「もう一つの安全基地」になっていくまでの時間が、慣らし保育なのです。
そして、子どもが新しい集団に所属感を持てるかどうかは、家庭という最初の集団で「ここにいていい」と感じられているかに支えられています。朝どんなに泣いても、夕方に「おかえり、待ってたよ」と迎えられる。その繰り返しが、子どもの所属感の土台になります。
親にとっても、所属感は大切です。復職した職場に「戻ってきていい場所」だと感じられるか。園の保護者の中で浮いていないか。親もまた、新しい集団の中で居場所を探しています。自分の所属感が揺れているときに、子どもの所属感まで支えようとするのは大変なことです。
勇気づけ|ほめるのでも叱るのでもなく
アドラー心理学のもう一つの柱が勇気づけです。勇気づけとは、相手を上から評価してほめたり叱ったりするのではなく、横に並んで「あなたには困難を乗り越える力がある」と信じ、それを伝えることです。
| 場面 | ほめる・叱る(縦の関係) | 勇気づけ(横の関係) |
|---|---|---|
| 朝、泣いて離れない | 「泣かないの。お兄さんでしょ」 | 「離れるの、さみしいね。お迎えに必ず来るからね」 |
| 泣かずに預けられた | 「えらいね、泣かなかったね」 | 「今日はバイバイできたね。ママもうれしいよ」 |
| お迎えで泣き出した | 「もう泣かなくていいでしょ」 | 「待っててくれてありがとう。がんばったね」 |
「泣かなかったからえらい」とほめると、子どもは「泣くのは悪いこと」と学んでしまうことがあります。そうすると、さみしさを感じても、それを出さないようにがんばる子になっていきます。泣いても泣かなくても、あなたのがんばりと気持ちを受けとめているよ、と伝えることが勇気づけです。
そして、勇気づけは親自身にも必要です。「泣かせてしまった」と自分を責めるのではなく、「今日も送り出せた。今日も迎えに行けた」と、自分にも横から声をかけてください。親が自分を勇気づけられるとき、子どもを勇気づける言葉も自然に出てきます。
中島輝より一言
私は5歳のとき、育ててくれていた里親が突然いなくなる、という経験をしました。その日から、私は感情を出すのをやめました。いま振り返ると、あのとき私の心がいちばん必要としていたのは、「必ず戻ってくる」という約束と、それが守られる経験だったのだと思います。だからこそ、毎朝「お迎えに来るからね」と言って、夕方に本当に迎えに来てくれる親の存在がどれほど大きいかを、私は身にしみて感じます。泣かせてしまう朝があっても大丈夫です。約束が守られる夕方を重ねていけば、それが子どもの心の根っこになっていきます。
幹を育てる|自己受容感と親子でできる感情の言語化ワーク
自己肯定感を木にたとえると、6つの感は次のように表せます。根は自尊心≒自己存在感、幹は自己受容感、枝は自己効力感、葉は自己信頼感、花は自己決定感、実は自己有用感です。
入園期にとくに揺らぎやすく、同時に育てるチャンスでもあるのが、幹にあたる自己受容感です。自己受容感とは、うまくいっている自分も、うまくいかない自分も、「これが今の自分だ」と受け入れる感覚のこと。泣いてしまう自分、罪悪感を抱える自分、ほっとしている自分。そのどれも否定せずに受け入れられると、幹はしなやかに太くなっていきます。
親の自己受容感は、そのまま子どもにも伝わります。「泣いてもいいんだよ」と子どもに言える親は、自分にも「泣いてもいいんだよ」と言える親です。ここでは、中島輝の近刊で紹介しているワークを、入園期の親子向けにアレンジしてお伝えします。
今日のオノマトペ
朝、園の門を出たときの気持ちを、音で表してみます。「ずーん」「そわそわ」「ふわっ」「ぎゅっ」。感情の名前が出てこなくても、オノマトペなら言えることがあります。毎朝の音を記録すると、1週間で「ずーん」が「そわそわ」に、やがて「ふう」に変わっていく様子が見えてきます。
3段階温度計
「つらい」を「少しつらい」「けっこうつらい」「すごくつらい」の3段階で測ります。毎日すごくつらいわけではないと気づけると、それだけで気持ちが落ち着きます。「すごくつらい」が何日も続くときは、パートナーや園、身近な人に助けを求めるサインです。
感情ことば帳
スマホのメモに、入園期に感じた気持ちの言葉を集めていきます。「さみしい」「心配」「申し訳ない」「ほっとした」「誇らしい」「うれしい」。ネガティブな言葉だけでなく、子どもの成長に気づいたときの言葉も書き加えてください。後から読み返すと、自分がこの時期をどう乗り越えてきたかの記録になります。
気持ちの実況中継
お迎えのあと、子どもの様子を見ながら「ママに会えて、ほっとしたね」「今日はたくさん遊んで、つかれたね」と、感じていそうな気持ちを実況中継します。2〜3歳になると、絵本の登場人物の顔を指さして「この子、どんな気持ちかな?」と聞く遊びもできます。子どもが空想の話を始めたら、子どもの空想に全力で乗るつもりで付き合ってみてください。
別れの「決まりの言葉」をつくる
毎朝の別れ際に、同じ言葉と同じしぐさを繰り返します。「ぎゅーしてタッチ。おやつのあとにお迎えね」のように、いつ戻るかを子どもにわかる言葉で伝えるのがポイントです。こっそりいなくなるより、きちんと「行ってくるね」と伝えて離れるほうが、子どもは見通しを持ちやすくなります。決まりの言葉は、親の気持ちを整える合図にもなります。
「泣いてもいいよ」と
子どもに言えるあなたは、
自分にもそう言っていい。
入学期の親子の気持ちについては「小1の壁」で親子の気持ちが迷子になるときでも扱っています。数年後にまた訪れる「分離」の練習として、読んでおくのもよいでしょう。
よくあるご質問
その涙は、わが子を大切に思う気持ちのかたち。
親子で「行って、戻る」を重ねていこう。
名前をつけて受けとめるたびに、親子の幹は太くなる。
自分を大切にしよう
慣らし保育の時期に親が泣きたくなるのは、弱いからでも、覚悟が足りないからでもありません。入園期には、子どもが親から離れる練習と、親が子どもから離れる練習が、同じ朝に同時に起きているのです。子どもが泣くのは、愛着がしっかり育っているしるし。家で荒れるのは、家が安心できる安全基地だからです。そして、親の「罪悪感」の中には、さみしさ、心配、焦り、安堵、自分責めといった気持ちが重なっています。
愛着理論は、保育を利用すること自体が親子の絆を壊すわけではなく、一緒にいる時間に気持ちを受けとめることが大切だと教えてくれます。アドラー心理学は、子どもが新しい集団に所属感を持つまでの時間を見守り、ほめるのでも叱るのでもない勇気づけで支えることを教えてくれます。今日のオノマトペ、3段階温度計、感情ことば帳、気持ちの実況中継、別れの決まりの言葉。小さなワークで親子の気持ちに名前をつけるたびに、どんな自分も受け入れる自己受容感の幹が、親子の両方で育っていきます。
毎朝送り出し、毎夕迎えに行く。その繰り返しは、子どもにとって「必ず戻ってきてくれる」という信頼の土台になります。泣いた朝も、泣かなかった朝も、あなたは十分にがんばっています。自分を大切にしよう。子どもの安全基地であるあなた自身にも、ほっとできる場所と、気持ちを話せる相手が必要です。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss, Vol. 1: Attachment. Basic Books.(邦訳『母子関係の理論 I 愛着行動』岩崎学術出版社)
- Ainsworth, M.D.S., Blehar, M.C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of Attachment: A Psychological Study of the Strange Situation. Erlbaum.
- NICHD Early Child Care Research Network (1997). The effects of infant child care on infant-mother attachment security. Child Development, 68(5), 860-879.
- 厚生省『平成10年版 厚生白書』(1998)
- Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16.
- Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Gottman, J. (1997). Raising an Emotionally Intelligent Child. Simon & Schuster.
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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