認知症の家族に「怒ってしまう自分」がつらいとき|介護する家族の感情の言語化

認知症の家族に「怒ってしまう自分」がつらいとき|介護する家族の感情の言語化

認知症の家族に「怒ってしまう自分」がつらいとき
介護する家族の感情の言語化

「今日は何曜日だったかね」。朝から5回目の同じ質問に、4回目までは笑顔で答えられた。けれど5回目、気づいたら「さっきも言ったでしょ!」と大きな声が出ていた。母はびくっとして、黙って下を向いた。台所に戻って食器を洗いながら、涙が出てくる。怒りたいわけじゃない。でも、怒ってしまう。そして、そんな自分がいちばん許せない。認知症の親や配偶者と一緒に暮らしながら、毎日の介護を担っている方へ。怒ってしまう自分を責める前に、その怒りの下にある気持ちに、そっと名前をつけるところから始めてみませんか。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

同じ質問に、つい声を荒らげてしまう夜

よくある相談の典型例
「夫に怒鳴ったあと、寝顔を見ながら
『ごめんね』と何度もつぶやいています」
場面70代の女性。数年前に認知症と診断された夫と二人で暮らしている。夫は、財布をしまった場所を忘れては「おまえが取ったんだろう」と言うようになった。最初は冷静に一緒に探していたが、ある晩、疲れが限界に達して「いいかげんにして!」と叫んでしまった。夫はその後けろりとしていたが、彼女のほうはその夜、一睡もできなかった。
介護の中で怒ってしまうのは、愛情が足りないからではありません。疲れや悲しみ、やり場のない気持ちが、言葉になる前に「怒り」という形であふれ出ているのです。

認知症とともに生きる人は、決して少なくありません。厚生労働省の研究班が2024年に公表した推計では、2022年時点で65歳以上の認知症の人は約443万人、その手前の段階とされる軽度認知障害(MCI)の人は約559万人とされています。その一人ひとりのそばに、毎日をともに過ごす家族がいます。

約443万人
2022年時点の65歳以上の認知症の人の推計数。軽度認知障害(MCI)の人は、さらに約559万人と推計されている
出典:厚生労働省 研究班による推計(2024年公表)公的推計

同じ屋根の下で認知症の家族を介護する毎日は、休みのない毎日です。同じ質問、同じ話、昼夜の逆転、身に覚えのない疑い。頭では「病気のせいだ」とわかっていても、心がついていかない瞬間があります。そして、怒ってしまったあとには、「なんてひどいことを」という強い自己嫌悪が待っています。

この記事では、心理学のアレキシサイミア(失感情症)という考え方を手がかりに、介護する家族の心の中で何が起きているのかを見ていきます。怒らない人になる方法ではありません。怒りの下にある気持ちに気づき、言葉にすることで、怒りに振り回されにくくなるための記事です。

介護する家族が「感情迷子さん」になりやすい理由

アレキシサイミアとは、自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態のことです。感情がないのではなく、感じてはいるのに、それをつかまえて言葉にするところがうまく働きにくくなっている状態です。研究によって約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向があるとされ、病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡と考えられています。DSM-5やICD-11でも独立した診断名にはなっていません。基本的な特徴はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。もともと傾向の強い人だけでなく、強いストレスが長く続く状況では、誰でも一時的に感情迷子さんになることがあります。在宅での認知症介護は、まさにそうした状況です。

自分の気持ちを後回しにする毎日

介護をしていると、一日の中心はいつも家族の状態です。今日は機嫌がいいか、薬は飲んだか、夜は眠れたか。相手の様子には敏感になる一方で、自分がどう感じているかを確かめる時間は、ほとんどありません。「私が頑張らなければ」「私さえ我慢すれば」と、自分の気持ちを脇に置くことが習慣になっていきます。

『感情迷子さんの本』には、30代の会社員アカネさん(仮名)の事例が出てきます。アカネさんは職場でも家庭でも「大丈夫」「問題ありません」を繰り返し、体に不調が出るまで自分の限界に気づけませんでした。ワークに取り組んで数か月後、アカネさんは「今日は疲れてイライラしているから、早めに休む」と自分に許可を出せるようになったと話してくれたといいます。介護する家族にも、この「自分への許可」がとても大切です。

「怒ってはいけない」が、かえって怒りを大きくする

介護の本や講座では、「否定しない」「怒らない」と教わります。それは認知症の人にとって大切な関わり方です。けれど、それが「怒りを感じてはいけない」というルールになってしまうと、家族は自分の怒りを感じないようにふたをするようになります。ふたをされた気持ちは、消えるのではなく、たまっていきます。そして、限界を超えたある瞬間に、大きな声となってあふれ出てしまうのです。

怒りを感じることと、怒りをぶつけることは違う。
感じるのは、あなたが人間である証拠。
大切なのは、ぶつける前に気づくこと。

怒りの下にある、悲しみ・あきらめ・疲れ

介護の中でこみ上げてくる怒りは、多くの場合、ほかの気持ちを覆っている表面の感情です。怒りの下には、もっと言葉にしにくい気持ちが重なっていることがあります。

介護する家族の「気持ちの地層」 上に見えるのは怒り。下へいくほど、言葉にしにくい気持ちが眠っている 怒り・イライラ 「さっきも言ったでしょ!」 疲れ・眠れなさ 夜中に何度も起こされる、休みがない 不安・孤独 この先どうなるの、誰もわかってくれない あきらめ・無力感 何をしても良くならない、私の人生はどこへ 悲しみ 元気だったころの母・夫が、少しずつ遠くなっていく
▲ 介護の中の怒りは、地層のいちばん上に見えている部分です。その下には、疲れ、不安や孤独、あきらめ、そしていちばん深いところに、大切な人が変わっていく悲しみが眠っていることがあります。

たとえば、同じ質問を繰り返されて怒りがこみ上げるとき。その下には、夜中に何度も起こされて眠れていない疲れがあるかもしれません。さらにその下には、「この生活がいつまで続くのだろう」という不安、誰にも本音を話せない孤独、どれだけ頑張っても病気は良くならないというあきらめがあるかもしれません。

そして、いちばん深いところにあることが多いのが、悲しみです。しっかり者だった母が、同じことを何度も聞くようになった。頼りがいのあった夫が、自分の名前を時々忘れるようになった。目の前にいるのに、少しずつ失っていく。この悲しみは、誰かを亡くしたときの悲しみとはまた違う形で、介護する家族の心に積もっていきます。

悲しみは、怒りより言葉にしにくい

怒りは、外に向かうエネルギーを持っているので、表に出やすい感情です。一方で、悲しみやあきらめは、内側に沈んでいく感情なので、本人も気づきにくいものです。しかも、介護をしている最中に悲しんでいる余裕はありません。悲しむ暇がないから、悲しみが怒りの形をとって出てくる。そう考えると、怒ってしまう自分を、少し違う目で見られるのではないでしょうか。

神経科学者リーバーマン(Lieberman)らの2007年の研究では、感情に言葉でラベルをつけると、不安や恐れに関わる脳の扁桃体の活動が下がることが示されました。「私は今、怒っている」だけでなく、「私は今、疲れていて、悲しいんだ」と名前をつけ直すことで、心は少し落ち着きを取り戻します。

認知症の人の「気持ち」は、残っていることが多い

介護する家族が知っておきたいのは、認知症になっても、感情は残っていることが多いということです。出来事の記憶は薄れても、そのときに感じた気持ちは、しばらく心に残りやすいといわれています。

アイオワ大学のグスマン=ベレス(Guzmán-Vélez)らが2014年に発表した研究では、アルツハイマー型認知症の人に悲しい映画や楽しい映画の場面を見てもらったところ、映画の内容を思い出せなくなったあとも、悲しさや楽しさの気持ちはしばらく続いていたと報告されています。何を言われたかは忘れても、どんな気持ちになったかは残る。だからこそ、関わり方が大切になるのです。

言葉より、表情と声のトーンが伝わる

認知症が進むと、言葉の意味を理解することが少しずつ難しくなります。その一方で、相手の表情や声のトーン、触れ方からは、多くのことを感じ取っています。「大丈夫よ」と言いながら険しい顔をしていると、言葉ではなく険しさのほうが伝わります。反対に、言葉がうまく伝わらなくても、穏やかな声とやわらかな表情は、安心として届きます。

場面伝わりやすいこと関わりのヒント
同じ質問を繰り返す「また?」というため息や苛立ちの表情答えを紙に書いて見える場所に貼る。「気になるよね」とまず気持ちを受けとめる
物を盗られたと言う否定されたときの「疑われた」という感覚正しさを争わず「それは困ったね、一緒に探そう」と不安に寄り添う
夕方に落ち着かなくなる周りの慌ただしさ、急かす声照明を明るくし、ゆっくりした声で話す。好きな音楽やお茶で一息
家に帰ると言い出す「ここが家でしょ」と言われたときの混乱「帰りたいんだね。おうちの話を聞かせて」と、帰りたい気持ちを聞く

こうした関わり方は、家族の気持ちに余裕があるときにしかできません。だからこそ、家族自身の気持ちを整えることは、認知症の人のためでもあるのです。自分の疲れや悲しみに気づき、手当てをすることは、決してわがままではありません。

「正しさ」より「安心」を優先していい

家族はつい、間違いを正したくなります。「今日は日曜じゃなくて火曜でしょ」「そのお金は自分でしまったんだよ」。正しく伝えれば分かってもらえるはず、と思うのは自然なことです。けれど、訂正されるたびに、認知症の人の心には「また間違えた」「責められた」という気持ちだけが残りやすくなります。事実を正すことより、まず「不安だったね」と気持ちを受けとめることを優先してかまいません。それは手抜きではなく、相手の心に届く関わり方を選んでいるということです。そして、正すことをやめると、家族の側の苛立ちも少し軽くなっていきます。

なお、認知症の症状や進み方、薬の使い方などの医学的な判断は、必ず医師に委ねてください。ここで紹介しているのは、日々の関わりの中で家族ができる工夫です。気になる変化があれば、かかりつけ医や専門医に相談しましょう。

怒りがこみ上げたとき、その場でできること

怒らないように我慢するのではなく、怒りに気づいてから、ぶつけるまでの間に、小さなすき間をつくる。それが、その場でできる一番の対処です。『感情迷子さんの本』のワークを、在宅介護の場面に合わせて組み立て直しました。

ステップ1|5秒|5秒ルール
言い返す前に、心の中で5つ数える

同じ質問をされて、カッとなった瞬間。返事をする前に、心の中でゆっくり5つ数えます。『感情迷子さんの本』のワーク「5秒ルール」は、反射的な反応と、自分で選んだ反応の間に、ほんの少しの間を置く練習です。5秒あれば、「さっきも言ったでしょ」の代わりに、「今日は火曜日だよ」と言える可能性が生まれます。

ステップ2|3秒×3回|感情タイムアウト
その場をいったん離れて、深呼吸

5秒では足りないほど怒りが強いときは、安全を確かめたうえで、いったん別の部屋へ移ります。トイレでも、ベランダでもかまいません。そこで、3秒かけて息を吸い、3秒かけて吐く。これを3回繰り返します。ワーク「感情タイムアウト」です。その場を離れることは、逃げではありません。大切な人を傷つけないための、賢い選択です。

ステップ3|30秒|今日のオノマトペ
今の気持ちを、音で表してみる

落ち着いてきたら、今の気持ちを「ムカムカ」「ぐったり」「しょんぼり」「ズーン」のような音の言葉で表してみます。ワーク「今日のオノマトペ」です。感情の名前がすぐに浮かばなくても、音の言葉なら出てきやすいものです。「ムカムカの下に、ぐったりがある」と気づけたら、それだけで十分です。

ステップ4|1分|「ごめんね」と「ありがとう」
怒ってしまったあとは、短く伝え直す

それでも怒ってしまったときは、落ち着いてから、「さっきは大きな声を出してごめんね」と短く伝えてみてください。相手は出来事を覚えていなくても、あなたのやわらかな声と表情は、安心として届きます。そして、自分に向けても「よく頑張ってるね」と言ってあげてください。謝ることは、自分を責め続けることとは違います。

怒ってしまった日も、
あなたは介護をやめなかった。
自己嫌悪におちいった夜に、思い出してほしいこと

怒ってしまったことよりも、それでも毎日そばにいて、食事をつくり、薬を用意し、夜中に起きて付き添ってきたことのほうが、ずっと大きな事実です。完ぺきな介護者はいません。

一日の終わりに、自分の気持ちを言葉にする

その場の対処に加えて、一日の終わりに自分の気持ちを振り返る習慣をつくると、気持ちがたまりにくくなります。どれも数分でできるものばかりです。家族が眠ったあとの、ほんの少しの時間を使ってみてください。

ワーク1|2分|感情だけ日記
出来事ではなく、気持ちだけを書く

介護日誌には、食事の量や排泄、薬のことを書くことが多いでしょう。それとは別に、自分の気持ちだけを書くノートを一冊用意します。『感情迷子さんの本』のワーク「感情だけ日記」です。「朝、イライラ。昼、ほっとした。夕方、悲しかった。夜、ぐったり」。出来事を書かずに、気持ちだけを並べると、自分の一日の心の動きが見えてきます。

ワーク2|1分|3段階温度計
今日いちばん大きかった気持ちの強さを測る

日記に書いた気持ちのうち、いちばん大きかったものを一つ選び、「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で強さをつけます。「すごく」が何日も続くようなら、それは休息や支援が必要だというサインです。数字や段階で記録しておくと、ケアマネジャーや医師に相談するときにも、自分の状態を伝えやすくなります。

ワーク3|1分|色彩感情カレンダー
一日を色で表して、カレンダーに塗る

言葉で書くのも疲れる日は、今日の気持ちを色で表して、カレンダーに小さく塗るだけでもかまいません。ワーク「色彩感情カレンダー」です。グレーの日が続いている、と目で見てわかることが、自分をいたわるきっかけになります。

心理学者ペネベーカー(Pennebaker)は、つらい出来事について感情も含めて書き出すこと(エクスプレッシブ・ライティング)が、心身の健康によい影響をもたらすことを報告してきました。誰にも見せないノートだからこそ、「もう嫌だ」「逃げたい」という気持ちも、そのまま書いてかまいません。書くことで、その気持ちを心の外に置くことができます。

中島輝より一言

私は子どものころ、感情を出すのをやめて生きていました。小学生の頃、理由もわからないまま涙が流れてきたことがあります。今思えば、しまい込んだ悲しみが、出口を探していたのでしょう。介護をしている方とお話しすると、「泣いている暇なんてない」とおっしゃる方がとても多いのです。でも、悲しみは、感じてもらえるのを待っています。怒ってしまう自分を責める夜は、その下にある悲しみに「つらかったね」と声をかけてあげてください。悲しみに場所をあげると、怒りは少しずつ小さくなっていきます。

家族だけで抱えない|地域の支えにつながる

在宅介護でいちばん避けたいのは、家族が一人で抱え込んでしまうことです。「家族のことだから」「人に迷惑をかけたくない」と、助けを求めるのをためらう方は少なくありません。けれど、認知症の介護は、もともと一人で担えるものではないのです。

介護する家族を囲む「支えの輪」 気持ちを話せる場所を、一つでも多く持っておく 介護する 家族 地域包括支援センター 介護の総合相談の入口 認知症カフェ 本人と家族が気軽に集う 家族の会 同じ立場の人と話せる ケアマネジャー サービスの調整・相談 デイ・ショートステイ 家族が休む時間をつくる かかりつけ医 医学的な判断・助言
▲ 介護する家族のまわりには、地域包括支援センター、認知症カフェ、家族の会、ケアマネジャー、デイサービスやショートステイ、かかりつけ医など、さまざまな支えがあります。気持ちを話せる場所を一つでも多く持っておくことが、長い介護を続ける力になります。

認知症カフェと家族の会で「わかってもらえる」体験を

地域には、認知症の人と家族、地域の人や専門職が気軽に集える認知症カフェが各地にあります。お茶を飲みながら、ほかの家族の話を聞くだけでも、「うちだけじゃなかった」とほっとする方が多いものです。また、介護する家族どうしが集まる家族の会や家族交流会では、同じ経験をした人だからこそわかる言葉に出会えます。

『感情迷子さんの本』で紹介されているワーク「共感の一言」は、相手の気持ちに「つらかったね」と言葉を添えるものです。介護する家族は、いつも共感する側にいます。けれど、家族の会のような場では、自分が「つらかったね」と言ってもらえる側になれます。その体験が、また明日の介護に向かう力になります。

認知症の介護で相談できる先(一般的な例)
・地域包括支援センター:介護や認知症の総合相談窓口。どこに相談すればいいかわからないときの最初の入口
・担当のケアマネジャー:デイサービスやショートステイなど、家族が休むためのサービスの調整
・認知症カフェ、家族の会・家族交流会:同じ立場の人と気持ちを分かち合える場
・かかりつけ医、認知症の専門医療機関:症状や薬など医学的なことの相談
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556:介護する家族自身の心の不調が続くとき

もし、怒りがおさまらず手が出てしまいそうになる、あるいは実際に手が出てしまったことがあるなら、それはあなたが悪い人だからではなく、限界を超えているサインです。一人で抱えず、すぐに地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してください。ショートステイなどで距離をとる時間をつくることは、家族の関係を守るための大切な手段です。

介護職の立場から見た関わり方は「何もいらない」と言う高齢者の本音|介護職のための、感情を言葉にしにくい人への関わり方で紹介しています。同居の介護と仕事を両立している方は、ビジネスケアラーの記事もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

怒ってしまったことを、本人は覚えているのでしょうか?
出来事そのものは忘れてしまうことが多い一方で、怖かった、悲しかったという気持ちはしばらく残りやすいといわれています。だからこそ、怒ってしまったあとに、やわらかな声で「ごめんね」と伝えたり、好きなお茶を一緒に飲んだりして、安心の気持ちを届けることに意味があります。ただし、病状や進み方は人によって違うので、気になることは医師に相談してください。
介護を始めてから、何も感じなくなってしまいました。
強いストレスが長く続くと、心が自分を守るために感じることを弱めることがあります。何も感じないのは、心が限界に近づいているサインかもしれません。心の体温チェックや色彩感情カレンダーなど、小さなワークで少しずつ気持ちに触れてみてください。眠れない、食欲がない、何をしても楽しくない状態が2週間以上続く場合は、かかりつけ医や心療内科に相談しましょう。
ほかの家族が介護に協力してくれず、腹が立ちます。
その怒りの下には、「わかってほしい」「一人にしないでほしい」という気持ちがあるのかもしれません。「なんで手伝わないの」ではなく、「毎日一人で介護していて、正直すごく疲れている。月に一度でいいから、週末を代わってほしい」と、気持ちとお願いを具体的に伝えてみてください。家族で話し合いにくいときは、ケアマネジャーに間に入ってもらう方法もあります。
ショートステイを使うことに罪悪感があります。
介護する家族が休むことは、介護を長く続けるために欠かせないことです。罪悪感を感じたら、「私は今、申し訳ない気持ちと、ほっとした気持ちの両方を感じている」と言葉にしてみてください。どちらの気持ちも本物です。あなたが休んで元気を取り戻すことは、認知症の家族にとっても、穏やかな関わりという形で返っていきます。
怒ってしまうのは、
悲しむ暇もなく頑張ってきたから。
怒りの下の気持ちに、名前をつけよう。
言葉は忘れても、気持ちは残ります。
あなたの心が穏やかであることが、いちばんの介護になります。

自分を大切にしよう

認知症の家族と暮らしながら、つい怒ってしまう。そのたびに自分を責めてしまう。それは、あなたが冷たい人だからではありません。疲れや不安、あきらめ、そして大切な人が変わっていく悲しみを、言葉にする暇もないまま抱えてきたからです。悲しむ余裕がないとき、悲しみは怒りの形をとって出てきます。

怒りがこみ上げたら、5秒ルールや感情タイムアウトで小さなすき間をつくりましょう。一日の終わりには、感情だけ日記や3段階温度計で、自分の気持ちを言葉にしてみてください。認知症の人は、言葉を忘れても、表情や声のトーンから気持ちを受け取っています。だからこそ、家族自身の心を整えることが、そのまま認知症の人の安心につながるのです。地域包括支援センター、認知症カフェ、家族の会など、気持ちを話せる場所も、ぜひ使ってください。

そして何より、毎日そばにいて介護を続けている自分を、ねぎらってあげてください。完ぺきな介護者はいません。怒ってしまった日も、あなたは介護をやめなかった。自分を大切にしよう。あなたが自分の気持ちを大切に扱えるようになると、目の前の家族との時間も、少しずつやわらかなものに変わっていきます。

ひとりで抱えないで(相談先の例)
地域包括支援センター(介護・認知症の総合相談)
担当のケアマネジャー(家族が休むためのサービスの調整)
認知症カフェ、家族の会・家族交流会
かかりつけ医・認知症の専門医療機関
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • 厚生労働省 研究班「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(2024年公表)
  • Guzmán-Vélez, E., Feinstein, J.S., & Tranel, D. (2014). Feelings without memory in Alzheimer disease. Cognitive and Behavioral Neurology, 27(3), 117-129.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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