「言わなくてもわかるでしょ」がすれ違いを生む
恋愛・夫婦関係と感情の言語化
送ったLINEに既読がついたまま、3時間たっても返事がない。週末の予定を聞けば「どこでもいいよ」。少しモヤモヤを伝えたら、相手は黙りこんでスマホを見はじめる。「好きなら、言わなくてもわかるでしょ」。そう思ってしまうのは、あなただけではありません。実は、すれ違いの多くは愛情の量ではなく、感情を言葉にする「技術」の問題です。恋愛中のカップルにも、長く連れそった夫婦にも役立つように、研究と心理学の視点から、ふたりの言葉を取り戻す方法をお伝えします。
結論:「察してほしい」は愛情の証ではなく、すれ違いの入り口になりやすい
最初に結論をお伝えします。「言わなくてもわかってほしい」という願いは自然なものですが、それをふたりの前提にすると、関係はかえって苦しくなります。理由はシンプルで、人は相手の心を正確に読むことができないからです。どれほど長く一緒にいても、相手の頭の中をのぞくことはできません。
日本には「察する」「空気を読む」ことを美徳とする文化があります。言葉にしなくても伝わる関係は、たしかに心地よいものです。けれども、その心地よさに頼りすぎると、伝わらなかったときに「わかってくれない」「愛されていない」という大きすぎる結論にたどり着いてしまいます。本当は「少しさみしかった」だけなのに、です。
自分でもうまく言えないんです」
このように、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。「感情がない」のではありません。感情はちゃんと動いているのに、言葉にたどり着く前に迷子になっているのです。私は、この状態にある人を親しみをこめて「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはの記事でくわしく解説しています。
大切なのは、感情迷子さんは「どちらか一方」の問題ではないということです。言えない側も、察してほしい側も、じつは同じように自分の気持ちを言葉にする練習が足りていないことが少なくありません。この記事では、責め合うのではなく、ふたりで言葉を育てていく方法を見ていきます。
数字で見る、感情の言語化とふたりの関係
「気持ちを言葉にするかどうか」は、性格の好みの問題に見えるかもしれません。けれども研究の世界では、感情の言語化がパートナー関係の質と結びついていることが、くり返し報告されています。主なものを整理します。
| データ・研究 | わかっていること |
|---|---|
| 一般の人のアレキシサイミア傾向 (TAS-20などを用いた疫学研究) | 一般人口の約10.1〜16.3%に強い傾向が見られる。およそ10人に1人。カップルのどちらかが当てはまることは珍しくない。 |
| カップル満足度との関連 (2008年の研究) | アレキシサイミア傾向が強いほど、カップルとしての満足度が低くなるという関連が報告されている。 |
| 対人関係の特徴 (IIP-64を用いた研究) | アレキシサイミア傾向は、対人関係の「冷たさ/距離感」「非主張的(言いたいことを言えない)」という特徴と関連している。 |
| 感情ラベリング (Lieberman et al., 2007) | 感情に名前をつけると、脳の扁桃体(不安や怒りの警報装置)の活動が下がる。言葉にするだけで、気持ちは少し落ち着く。 |
| 夫婦の相互作用研究 (ジョン・ゴットマン) | 関係を壊しやすい4つの会話パターン「4つの毒」と、関係を立て直す「リペア(修復)」の働きを明らかにした。 |
ここで注目したいのは、IIP-64の結果です。アレキシサイミア傾向のある人は、周りから「冷たい」「距離がある」と見られやすい一方で、本人の側では「言いたいことを言えない」という苦しさを抱えていることが多いのです。外から見える「冷たさ」と、内側にある「言えなさ」。このギャップこそが、恋愛や夫婦のすれ違いの正体であることが少なくありません。
冷たいのではなく、言えないだけ。
わかってくれないのではなく、
まだ伝わる言葉になっていないだけ。
そしてもう一つ。Liebermanらの研究が示すように、感情に名前をつけることには、それ自体に心を落ち着かせる力があります。けんかの最中に「いま私、すごくイライラしてる」と口にするだけで、怒りのボリュームは少し下がります。感情の言語化は、相手のためだけでなく、自分を守るための技術でもあるのです。
LINEの既読、デートの「どこでもいい」…すれ違いが生まれる場面
では、すれ違いは日常のどんな場面で生まれているのでしょうか。カウンセリングでよく伺う場面を3つ取りあげ、それぞれの「言葉の裏側」を見てみましょう。
場面1|既読がついたまま、返事がこない
LINEの既読は、便利で残酷な機能です。「読んだのに返さない」という事実だけが見えて、その理由は見えません。送った側は、返事を待つあいだに「怒らせたかな」「どうでもいいと思われているのかな」と、頭の中で物語を作りはじめます。
一方で、返さない側に事情を聞くと、「仕事中で、ちゃんと考えてから返したかった」「どう返せばいいかわからなくて、あとまわしにした」という答えが多いのです。とくに感情迷子さんは、気持ちを書く返信ほど時間がかかります。「了解」なら一瞬で返せても、「会えなくてさみしい」には何と返せばいいのか、言葉が見つからないのです。
場面2|「どこでもいい」「なんでもいい」
デートの行き先や夕食のメニューを聞いたとき、「どこでもいい」と返ってくる。聞いた側は「私とのことに関心がないのかな」と感じます。けれども、この言葉の裏にはいくつかのパターンがあります。
| 「どこでもいい」の裏にあるもの | 本当の気持ちの例 |
|---|---|
| 相手に合わせたい | 「あなたが楽しそうなら、それがうれしい」 |
| 選んで外すのがこわい | 「自分が選んで、つまらなかったら申し訳ない」 |
| 疲れていて考えられない | 「今日は正直へとへとで、決める余力がない」 |
| 自分の好みがわからない | 「何が食べたいか、自分でもピンとこない」 |
4つ目は、まさに感情迷子さんに多いパターンです。「好き・嫌い」「したい・したくない」という小さな感情のセンサーが鈍っていると、選択を求められても答えが出てきません。これは関心がないのではなく、心の中の声が小さくなっているサインなのです。
場面3|「別に」「普通」で会話が終わる
「今日どうだった?」「普通」。「何かあった?」「別に」。毎日がこの会話のくり返しになると、聞く側はだんだん聞くこと自体をやめてしまいます。すると会話は、ゴミの日や支払いの確認といった「連絡事項」だけになっていきます。
40代の管理職タカシさん(仮名)は、まさにこのタイプでした。「感情はノイズだ」と考えて生きてきたタカシさんは、家族が話しかけてきても、つい論理的に返してしまう。悪気はまったくありません。ただ、話しかけた側は、気持ちを受けとってもらえなかったと感じていたのです。感情に目を向けるワークを続けて半年ほどたったころ、タカシさんは身近な人に「つらかったね」と言えるようになり、相手の表情が変わることに驚いたといいます。そして「自分もなんだか、スッとするんです」と話してくれました。
中島輝より一言
「どこでもいい」と言う人を、私は責める気になれません。多くの場合、それはやさしさと疲れと、少しの自信のなさが混ざった言葉だからです。だからこそ、「どこでもいいなら、A と B だったらどっちの気分?」と、選びやすい形で聞き直してあげてください。小さな「こっち」が言えるだけで、心のセンサーは少しずつ目を覚まします。
けんかで黙るのは「冷たいから」ではない|ゴットマンの4つの毒
アメリカの心理学者ジョン・ゴットマンは、数多くの夫婦の会話を長年にわたって観察し、関係を壊しやすい会話のパターンを明らかにしました。それが「4つの毒」です。
行動ではなく、人格を責める
「どうしていつもそうなの」「あなたって本当に気がきかない」。不満そのものは伝えてかまいませんが、「いつも」「本当に」で相手の人格を丸ごと否定すると、相手は守りに入ります。
見下す、あざ笑う
ため息、あきれた目つき、皮肉。ゴットマンは、これを4つの中でもっとも関係に悪い影響を与えるものとして挙げています。相手を下に見る「縦の関係」の態度です。
言い訳で返す
「だって忙しかったんだから」「そっちだって」。自分を守るための反応ですが、相手には「聞いてもらえなかった」という感覚だけが残ります。
黙りこむ、その場を離れる
話しかけても返事をしない、スマホに目を落とす、部屋を出ていく。石の壁(ストーンウォール)のように反応をなくしてしまう状態です。
黙る人の内側では、何が起きているのか
4つ目の「逃避」は、感情迷子さんととても深く関わっています。黙りこむ側は、相手を無視しようとしているわけではないことが多いのです。むしろ内側では、心拍が上がり、頭が真っ白になり、何を言えばいいのかわからない状態になっています。感情があふれているのに、それを見分けて言葉にする回路が追いつかない。その結果、外からは「無反応」に見えてしまいます。
ゴットマンは、こうした状態を「感情の洪水」にたとえ、いったん休憩をとって体を落ち着かせることをすすめています。黙ってしまう人に必要なのは、責められることではなく、「落ち着いたら話そう」と言える合図です。逆に黙られる側も、「今は言葉が出てこないだけかもしれない」と知っておくだけで、追いつめ合う悪循環を避けられます。
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この記事で紹介しているのは、おたがいを大切にしたいと思っているふたりのための工夫です。相手が怖くて意見を言えない、人格を否定する言葉をくり返される、お金や行動を一方的に管理される。そうした状態は「すれ違い」ではありません。あなたが悪いのでもありません。迷わず専門の窓口に相談してください。
アドラー心理学で見るふたりの関係|愛のタスクと横の関係
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は、「すべての悩みは対人関係の悩みである」と考えました。そして、人生で向き合う課題を「仕事のタスク」「交友のタスク」「愛のタスク」の3つに整理しています。恋愛や夫婦の関係は、この中でもっとも距離が近く、もっとも難しい「愛のタスク」です。
「察して」は、相手に自分の課題を渡すこと
アドラー心理学には「課題の分離」という考え方があります。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった整理で、「それは誰の課題か」を見分けることです。判断の目安は、その選択の結果を最終的に引き受けるのは誰か、という点にあります。
この目で見ると、「自分の気持ちを伝える」のは自分の課題です。そして、伝えられた気持ちにどう応えるかは相手の課題です。「言わなくてもわかってほしい」は、じつは自分の課題(気持ちを言葉にすること)を、相手の課題(察すること)にすり替えている状態だといえます。だから伝わらないと、相手を責めたくなってしまうのです。
逆も同じです。パートナーが不機嫌なとき、「私が何とかしなければ」と先回りして機嫌をとり続けるのは、相手の課題を自分が背負いこんでいる状態です。課題の分離は冷たく突き放すことではなく、「あなたの気持ちはあなたのもの。私はそれを聞く準備がある」という、おたがいへの信頼の表明なのです。
上下ではなく、横に並ぶパートナーシップ
アドラーは、人間関係を「縦の関係」と「横の関係」に分けて考えました。縦の関係とは、ほめる・叱る・評価する・教えてあげる、といった上下のある関係です。横の関係とは、立場や役割は違っても、人として対等である関係です。
| 縦の関係の言葉 | 横の関係の言葉 |
|---|---|
| 「なんでそんなこともできないの?」 | 「どこで困ってた?手伝えることある?」 |
| 「えらいね、ちゃんとできたじゃん」 | 「ありがとう、すごく助かった」 |
| 「普通はこうするでしょ」 | 「私はこうしてもらえるとうれしいな」 |
| 「言ってくれなきゃわからないよ」 | 「言いにくかったよね。聞かせてくれてうれしい」 |
感情迷子さんは、縦の関係の中では言葉をさらに失います。評価される場所では、「間違った気持ち」を言ってしまうことがこわいからです。横の関係の言葉、とくに「ありがとう」「うれしい」「助かった」は、相手に「ここでは気持ちを出しても大丈夫」という安心を届けます。
ふたりの関係で育つ「幹」と「実」|自己肯定感の6つの感
私は自己肯定感を、1本の木にたとえて「6つの感」で説明しています。恋愛や夫婦関係で感情を言葉にしていくとき、とくに大きく育つのが「自己受容感」(幹)と「自己有用感」(実)です。
自己受容感とは、ありのままの自分を「それでいい」と受け入れる感覚です。「こんなことでさみしいと思うなんて」「嫉妬するなんて恥ずかしい」と自分の気持ちを否定していると、言葉にする前に心が気持ちを押し戻してしまいます。パートナーに「そう感じたんだね」と受けとめてもらう経験は、この幹を太くしていきます。
自己有用感とは、「自分は誰かの役に立っている」と感じられる感覚です。アドラーの言う「貢献感」とよく重なります。「ありがとう」「あなたがいてくれて助かった」と言葉で伝えられると、相手の木には実がなります。言わなくてもわかっているつもりの感謝こそ、言葉にする価値があるのです。
「わかってほしい」を伝える技術|Iメッセージと感情の3点セット
では、実際にどう伝えればいいのでしょうか。ここで役立つのが、心理学者トマス・ゴードンが親子のコミュニケーション法の中で広めた「Iメッセージ(わたしメッセージ)」です。主語を「あなた」ではなく「わたし」にして伝える方法です。
| Youメッセージ(責める形) | Iメッセージ(伝える形) |
|---|---|
| 「なんで連絡くれないの?」 | 「連絡がないと、私は何かあったのかなって不安になるんだ」 |
| 「あなたはいつも自分のことばっかり」 | 「最近ふたりの時間が少なくて、私はちょっとさみしい」 |
| 「どこでもいいって、やる気ないよね」 | 「一緒に選べると、私はうれしいな」 |
Iメッセージのよいところは、相手の人格を評価せず、自分の気持ちだけを差し出せることです。相手は責められていると感じにくいので、守りに入らずに話を聞くことができます。ゴットマンの言う「批判」の毒を、自然に避けられる伝え方でもあります。
感情の3点セット|「出来事」+「気持ち」+「お願い」
感情迷子さんにとって、いきなり「私は〜と感じる」と言うのは難しいかもしれません。そこでおすすめしたいのが、次の3つをセットにする伝え方です。
事実だけを短く言う
「昨日の夜、LINEの返事が朝まで来なかったとき」。評価や推測を入れず、カメラで撮ったような事実だけを言います。
気持ちに名前をつける(強さもつける)
「ちょっと不安だった」「すごくさみしかった」。近刊『感情迷子さんの本』で紹介しているワーク「3段階温度計」のように、「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さを添えると、相手も受けとりやすくなります。正確な言葉でなくてもかまいません。「モヤモヤした」でも十分です。
相手にしてほしいことを1つだけ言う
「遅くなるときは、スタンプ1つでいいから送ってもらえるとうれしい」。具体的で、相手が実行しやすい小さなお願いにするのがコツです。お願いをどう受けとるかは相手の課題なので、断られても自分を否定されたとは考えなくて大丈夫です。
「なんで〜してくれないの?」は、
「私は〜だった。〜してもらえるとうれしい」に。
主語を変えるだけで、けんかは相談に変わる。
聞く側の技術|解決策の前に「共感の一言」
伝える技術と同じくらい大切なのが、聞く側の技術です。とくに論理的に考えるのが得意な人は、相手の話を聞くと、すぐに解決策を出したくなります。「じゃあ、こうすればいいんじゃない?」。善意からの言葉ですが、話した側は「わかってもらえなかった」と感じてしまいがちです。
同じく近刊で紹介しているワーク「5秒ルール」と「共感の一言」は、この場面にぴったりです。相談されたら、解決策が浮かんでも5秒だけ待ち、「この人は今、何を感じている?」と自分に問いかける。そして、アドバイスの前に「それは不安だったね」「大変だったね」と一言だけ添える。カウンセリングでも、パートナーが懸命に解決策を伝えてきたのに、本人はずっと「わかってもらえなかった」と感じていた、というケースはとても多いのです。本当にわかっていなくても、「わかろうとしてくれている」と感じたとき、相手の心の扉は開きます。
こじれたあとに関係を立て直す「リペア」の一言
どれほど気をつけていても、けんかはなくなりません。ゴットマンの研究で興味深いのは、うまくいっているカップルも、けんかをしないわけではないという点です。違いは、こじれかけたときに、関係を立て直す働きかけ(リペア)ができるかどうかにあります。
リペアとは、言い合いの途中や後に、関係の緊張をゆるめるための小さな言葉や行動のことです。大げさな謝罪である必要はありません。ちょっとしたユーモア、肩にふれる、「さっきの言い方はきつかったね」と一言添える。そうした小さな働きかけが、相手に届くかどうかが大切だとされています。
感情迷子さんのための「リペア」フレーズ集
- 「さっきはうまく言えなかった。ちょっと時間をもらってもいい?」
- 「言い方がきつかったね。ごめん。本当は不安だったんだ」
- 「あなたを責めたいわけじゃないんだ」
- 「いったんお茶でも飲もうか」
- 「その気持ちはわかる気がする。私の気持ちも聞いてくれる?」
- 「どうしたら、ふたりとも少し楽になるかな」
- 「話してくれてありがとう」
ポイントは、「ごめん」のあとに気持ちを一つ添えることです。「ごめん」だけだと、その場を収めるための言葉に聞こえることがあります。「ごめん。本当は不安だったんだ」と、怒りの下にあった気持ちを言葉にすると、相手は「そういうことだったのか」と受けとりやすくなります。
怒りの下にある「一次感情」を探す
怒りは、よく「二次感情」だといわれます。最初に「さみしい」「不安」「悲しい」「がっかり」といった一次感情があり、それが受けとめられないときに、怒りという形で表に出てくるという考え方です。アドラー心理学の目的論で見ると、怒りは「相手を動かすため」「自分の正しさを守るため」に使われることがあります。
「なんで連絡くれないの!」と怒りたくなったら、その一歩手前で自分に聞いてみてください。「この怒りは、何をわかってほしくて出てきている?」。たいていそこには、「大切にされていると感じたい」という願いがあります。怒りの目的に気づけると、怒りを使わなくても、その願いを言葉で伝えられるようになります。
中島輝より一言
幼いころ、私は里親のもとで育ち、5歳のときにその家族が突然いなくなるという経験をしました。それ以来、気持ちを出すことをやめ、長いあいだ「さみしい」という言葉を知らないまま生きてきたように思います。だから、けんかで黙りこむ人の気持ちも、怒ってしまう人の気持ちも、どちらも他人事とは思えません。言葉にならない気持ちの奥には、たいてい「大切にされたい」という同じ願いがある。ふたりがそこに気づけたとき、けんかは関係を深めるきっかけにもなります。
「好き」以外の愛情の言葉を増やす|ふたりでできる5分ワーク
「好き」「愛してる」は大切な言葉ですが、それだけでは伝えきれない気持ちがたくさんあります。感情迷子さんにとっては、むしろ大きすぎて言いにくい言葉でもあります。ここでは、もっと小さく、日常で使いやすい愛情の言葉を増やすワークを紹介します。どれも近刊『感情迷子さんの本』のワークを、ふたりの関係向けにアレンジしたものです。
今日のオノマトペを交換する
夕食のときや寝る前に、「今日の気分を音で言うと?」と聞き合います。「ぐったり」「ふわふわ」「ざわざわ」。感情の名前が出てこなくても、オノマトペなら言えることがよくあります。理由を聞き出さず、「そっか、ざわざわか」とくり返すだけで十分です。
比喩で「ふたりの今」を表す
「最近の私たちは、○○みたい」とたとえてみます。「冬眠中のクマみたい」「ちょっと散らかった部屋みたい」。比喩は、直接言いにくい気持ちを伝える足場になります。深刻な話も、比喩にすると口にしやすくなります。
「ありがとう」に理由を一つ足す
「ありがとう」だけでなく、「ゴミ出ししてくれてありがとう。朝バタバタしてたから、本当に助かった」と、自分の気持ち(助かった・ほっとした)を一つ足します。アドラーの言う勇気づけの言葉であり、相手の自己有用感を育てる言葉です。
感情ことば帳をふたりで育てる
スマホの共有メモに、ふたりの「気持ちのことば」を集めていきます。「ほっとした」「くすぐったい」「誇らしい」「心強い」「名残惜しい」。「好き」の周りにある言葉が増えるほど、愛情の伝え方の選択肢が広がります。
もしもタイムで、未来を想像する
「もし1日自由な時間があったら、ふたりで何をしたい?」。小さな「もしも」を考える遊びです。正解はありません。想像を話し合うことは、おたがいの「好き」や「したい」を知る近道です。「どこでもいい」と言いがちな人も、空想の中なら答えやすくなります。
愛情は、大きな言葉で一度だけ伝えるより、
小さな言葉で毎日伝えるほうが届きやすい。
「ありがとう、助かった」から始めよう。
ワークを続けるための3つの約束
- 相手の答えを「正しい・間違い」で評価しない
- 「わからない」「うまく言えない」も立派な答えとして受けとめる
- 相手が乗り気でない日は、自分の言葉だけを出して、強制しない
3つ目はとても大切です。ワークをするかどうかは相手の課題です。ふたりで同じペースで進めなくても、あなたが先に言葉を出しはじめるだけで、関係の空気は変わっていきます。言葉は、言葉を呼ぶからです。
働きながら自分の気持ちを後回しにしてしまう方は職場で「大丈夫です」と笑ってしまう私へも、子育て中で子どもの気持ちの受けとめ方に悩んでいる方は「泣かないの!」をやめると子どもは強くなるもあわせて読んでみてください。
よくあるご質問
「言ってくれてうれしい」関係へ。
今日の気持ちを、ひとことだけ言葉に。
小さな言葉が、ふたりの距離を近づけていきます。
自分を大切にしよう
「言わなくてもわかるでしょ」という思いは、相手を大切に思うからこそ生まれるものです。けれども、人は相手の心を正確に読むことはできません。すれ違いの多くは、愛情が足りないからではなく、気持ちが言葉になる前に迷子になっているから起こります。既読のまま返ってこないLINEも、「どこでもいい」も、けんかで黙る姿も、その裏には言葉にならない気持ちが隠れています。
ゴットマンの研究が示すように、関係を壊すのはけんかそのものではなく、批判・侮辱・自己弁護・逃避という会話のくせです。そして関係を守るのは、こじれたときの小さなリペアの一言です。アドラー心理学の課題の分離と横の関係の視点に立てば、自分の気持ちを言葉にするのは自分の課題であり、その言葉は「ありがとう」「うれしい」から始められます。Iメッセージ、感情の3点セット、共感の一言、ふたりで育てる感情ことば帳。どれも、今日から試せる小さな技術です。
パートナーとの関係で悩むとき、私たちはつい相手を変えようとしてしまいます。でも、最初に大切にしてほしいのは、あなた自身の気持ちです。さみしいと感じた自分、うまく言えなかった自分を、まずは「そう感じたんだね」と受けとめてあげてください。自分を大切にしよう。自分の気持ちを大切にできる人は、相手の気持ちも大切にできるようになります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料(一般人口における割合、IIP-64との関連、カップル満足度に関する2008年の研究)
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Gottman, J.M., & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. Crown.(邦訳『結婚生活を成功させる七つの原則』)
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
- Gordon, T. Parent Effectiveness Training(邦訳『親業』)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
- 内閣府男女共同参画局「DV相談+(プラス)」「DV相談ナビ #8008」

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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