「泣かないの!」をやめると子どもは強くなる|感情コーチングとアドラーの勇気づけ

「泣かないの!」をやめると子どもは強くなる|感情コーチングとアドラーの勇気づけ

「泣かないの!」をやめると子どもは強くなる
感情コーチングとアドラーの勇気づけ

スーパーのレジ待ちで、お菓子を買ってもらえなかったわが子が泣き出す。周りの視線が気になって、つい「泣かないの!」「もうお兄ちゃんでしょ」と言ってしまう。そんな経験は、多くの親にあると思います。ところが、子どもの感情を長年研究してきた心理学者ゴットマンは、泣くのを止めさせるより、その気持ちに寄り添って名前をつける親の子どものほうが、気持ちの立て直しが上手になる傾向を見いだしました。「泣かせない=強い子」という常識を、いちど見直してみませんか。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「泣かない子」は本当に強い子なのか

「泣かないで、えらいね」。私たちは子どものころから、泣かないことを「強さ」としてほめられてきました。だから親になった今、わが子が泣くと、なんとか泣きやませなければと焦ってしまいます。

でも、少し立ち止まって考えてみてください。泣かなくなった子どもは、悲しさや悔しさを感じなくなったのでしょうか。そうではありません。多くの場合、感じた気持ちを「出してはいけないもの」として、心の奥にしまうようになっただけです。

よくある相談の典型例
「うちの子、何があっても
『別に』しか言わないんです」
場面小学4年生の子をもつ母親。低学年のころまでは、よく泣く子だった。泣くたびに「泣いてもわからないよ」「泣かないで話しなさい」と言い聞かせてきた。最近は泣かなくなったが、学校で何があっても「別に」としか答えない。ときどき理由を言わずに腹痛を訴える。
このご家庭の関わりは、決して間違っていたわけではありません。「言葉で伝えてほしい」という願いはもっともです。ただ、子どもにとっては「泣く=いけないこと」というメッセージとして届き、気持ちそのものを外に出さなくなっていた可能性があります。言葉にならなかった気持ちは、腹痛という形で表に出てきていました。

感情を感じても、それに気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情が「ない」のではなく、言葉が届いていない状態です。一般の人の約10〜16%にこの傾向が強いとされ、育ちの中で感情を映し返してもらう経験が少ないことも、背景の一つと考えられています。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはで解説しています。

私は近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で、この状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。子どもの気持ちも、親の関わり方ひとつで、ちゃんと帰り道を見つけることができるのです。

本当の強さとは、泣かないことではない。
泣いたあとに、自分の気持ちを言葉にして、
また立ち上がれること。

研究と数字で見る「感情を受けとめる子育て」

アメリカの心理学者ジョン・ゴットマンは、親子のやりとりを長年にわたって観察し、その成果を著書『Raising an Emotionally Intelligent Child』(1997年)にまとめました。そこで示されたのは、子どもの感情を「しつけの邪魔」ではなく「教えるチャンス」として扱う親の子どもは、感情のコントロールが上手で、友だちとの関係もよい傾向がある、ということでした。ゴットマンは、このような親の関わり方を「感情コーチング」と名づけました。

感情に名前をつけることの効果は、ほかの研究でも裏づけられています。

研究わかったこと
Gottman (1997)感情を受けとめ、名前をつけ、一緒に解決を考える親の子どもは、感情のコントロールや友人関係がよい傾向があった
Lieberman et al. (2007)
UCLA
不快な感情に「怒り」「恐れ」などの名前をつけると、脳の扁桃体(感情の警報装置)の活動が落ち着いた
Katan (1961)保育園の子どもに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールだけでなく考える力も伸びた
Durlak et al. (2011)
213プログラム・約27万人
学校で感情や社会性を学んだ子どもは、学力が11パーセンタイルポイント向上した
約10〜16%感情を言葉にしにくい特性が強いとされる人の割合(TAS-20等を用いた疫学研究)

これらの研究に共通するのは、感情は抑えるより、名前をつけたほうが落ち着くという事実です。「泣かないの!」は、感情を外から止めようとする言葉です。一方で「悔しかったんだね」は、感情に名前をつけて、子どもが内側から落ち着くのを助ける言葉です。どちらが長い目で見て子どもを「強く」するかは、研究が示しているとおりです。

親の4つのタイプ|あなたはどれに近い?

ゴットマンは、子どもの感情に対する親の反応を、大きく4つのタイプに分けました。自分を責めるためではなく、自分のクセを知るために読んでみてください。多くの親は、場面や疲れ具合によって、いくつかのタイプを行き来しています。

タイプよくある言葉子どもが受けとるメッセージ
感情を退ける
(取り合わない)
「そんなことで泣かないの」「ほら、お菓子あげるから」自分の気持ちは大したことではない
感情を否定する
(叱る・罰する)
「泣くのはやめなさい」「怒るなんて悪い子」この気持ちを感じる自分はダメだ
感情を放任する
(受けとめるが導かない)
「いいよ、好きなだけ怒って」(叩いても止めない)気持ちはわかってもらえるが、どうすればいいかわからない
感情をコーチする「悔しかったんだね。でも叩くのはなし。どうしたらいいか一緒に考えよう」どんな気持ちもOK。行動は選べる

「退ける」親は、冷たいわけではない

大切なことをお伝えしておきます。感情を退けたり否定したりする親は、子どもを愛していないわけではありません。むしろ、子どもに早く悲しみから抜け出してほしい、強くなってほしいと願う親ほど、このタイプになりやすいのです。また、親自身が子どものころに「泣くな」と育てられていると、子どもの涙を見ると落ち着かなくなるのは自然なことです。

「放任する」タイプも、子どもの気持ちを尊重したいという優しさから来ています。ただ、気持ちを受けとめるだけで行動の限度を示さないと、子どもは感情の扱い方を学ぶ機会を逃してしまいます。

目指したいのは、気持ちはまるごと受けとめ、行動には限度を示すという4つ目のタイプです。次の章で、その具体的な手順を見ていきましょう。

感情コーチングの5ステップ

ゴットマンは、感情コーチングを5つのステップで説明しています。一見むずかしそうですが、慣れると数分でできるようになります。

感情コーチングの5ステップ(Gottman, 1997) 1 気づく 小さな気持ちの うちにキャッチ 2 チャンス つながり、教える 機会と捉える 3 共感して聴く 言い分を最後まで 「そうだったんだ」 4 名前をつける 「悔しかったね」 一緒に言葉を探す 5 一緒に解決 限度を示しつつ 方法を考える 気持ちはまるごと受けとめる / 行動には限度を示す ステップ1〜4で心が落ち着いてから、ステップ5へ進むのがコツ
▲ 感情コーチングは「気づく→チャンスと捉える→共感して聴く→名前をつける→限度を示しつつ一緒に解決」の5ステップ。いきなり5の「解決」から入らないことが最大のポイントです。
STEP 1
子どもの感情に気づく

大泣きや大爆発になる前の、小さな気持ちのサインに目を向けます。口数が減る、ため息が多い、ランドセルを乱暴に置く。大きな感情も、最初は小さなサインから始まります。

STEP 2
感情を「つながり、教えるチャンス」と捉える

子どもが泣いたり怒ったりしている場面を、「困った事態」ではなく「親子の距離が縮まり、感情の扱い方を教えられるチャンス」と捉え直します。この捉え方の切り替えが、感情コーチングの出発点です。

STEP 3
共感しながら耳を傾ける

アドバイスや説教をいったん脇に置き、子どもの言い分を最後まで聴きます。「そうだったんだ」「それで?」と相づちを打ち、子どもの目線の高さで話を聞きます。言い分に賛成できなくても、「そう感じた」こと自体は受けとめます。

STEP 4
感情に名前をつけるのを手伝う

「悔しかったんだね」「がっかりしたね」「ドキドキしてたんだね」。子どもが自分で言葉にできない気持ちに、親が名前を差し出します。外れていてもかまいません。「ちがう、悲しかったの」と言い直せたら、それは子どもが自分の気持ちを見分けられた証拠です。

STEP 5
限度を示しながら、一緒に解決策を考える

気持ちが落ち着いてから、「気持ちはOK。でも叩くのはなし」と行動の限度を示し、「次はどうしたらいいと思う?」と一緒に考えます。答えを親が出すのではなく、子どものアイデアを引き出すのがコツです。

いきなり「どうしたらいいか」を教えない。
まず「どう感じたか」に名前をつける。
順番を守るだけで、子どもは話しはじめる。

「ほめる」と「勇気づけ」はどう違う?|アドラーの視点

感情コーチングと相性がよいのが、アドラー心理学の「勇気づけ」です。アルフレッド・アドラー(1870〜1937)はオーストリアの精神科医で、子育てや教育にも大きな影響を与えました。私も、アドラー心理学をベースにカウンセリングを続けてきました。

アドラー心理学では、ほめることも、叱ることも勧めません。どちらも「できる親が、できない子を評価する」という縦の関係にもとづいているからです。代わりに大切にするのが、人としては対等な横の関係から相手を支える「勇気づけ」です。

ほめる勇気づけ
関係縦の関係(評価する人・される人)横の関係(対等な仲間)
注目するもの結果・できばえ過程・工夫・気持ち・貢献
言葉の例「100点すごいね」「えらいね」「最後まであきらめなかったね」「手伝ってくれてありがとう、助かった」
長い目で見た影響ほめられないと動かない、失敗をおそれる自分で挑戦する力、人の役に立とうとする力が育つ

勇気づけには「親の感情の言葉」が入る

勇気づけの言葉をよく見ると、「助かった」「うれしい」「ほっとした」など、親自身の感情の言葉が入っていることに気づきます。「えらいね」は評価ですが、「うれしいな」は気持ちの共有です。

つまり、勇気づけを続けることは、子どもの前で親が感情を言葉にするお手本を見せることでもあります。感情コーチングが「子どもの気持ちに名前をつける」関わりだとすれば、勇気づけは「親の気持ちを言葉で手渡す」関わりです。この2つを組み合わせると、家庭の中に感情の言葉が自然に増えていきます。

泣いている子への勇気づけ

泣いている子に「泣かなくてえらいね」と言うのではなく、泣きやんだあとに「悔しい気持ち、ちゃんと話してくれてありがとう」と伝えてみてください。泣かなかったことではなく、気持ちを言葉にできたことに光を当てる。それが、感情コーチングとアドラーの勇気づけが重なるところです。

宿題・片づけでもめたら|「それは誰の課題?」

毎日の「宿題やったの?」「早く片づけなさい」。このやりとりで親子ともにイライラしている家庭は少なくありません。ここで役に立つのが、アドラー心理学の「課題の分離」です。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった整理で、「その選択の結果を最終的に引き受けるのは誰か」で、誰の課題かを見分けます。

場面子どもの課題親の課題
宿題やるかどうか、いつやるか。やらなかった結果(先生に注意される)を引き受ける困ったときに手伝える準備をしておくこと。自分の不安な気持ちに気づくこと
部屋の片づけ自分の部屋をどう使うか家族の共有スペースのルールを話し合うこと
友だちとのけんかどう仲直りするか、しないか話を聴き、気持ちに名前をつける手伝いをすること

課題の分離は「放っておく」ことではない

誤解されやすいのですが、課題の分離は子どもを突き放すことではありません。「あなたの課題だから、あなたが決めていい。でも、手伝ってほしいときはいつでも言ってね」と、援助の扉は開けておきます。これは先ほどの親の4タイプでいえば、「放任」ではなく「コーチ」の関わりです。

イライラの正体は「親の課題」かもしれない

「宿題やったの?」と何度も言ってしまうとき、その奥にある親の気持ちに名前をつけてみてください。「この子が先生に叱られたらかわいそう」「ちゃんと育てられていないと思われたくない」「将来が不安」。こうした気持ちは、子どもの課題ではなく、親自身の課題です。

アドラーの目的論では、感情は何かの目的のために使われると考えます。たとえば「怒り」は、相手を自分の思いどおりに動かすための道具として使われることがある。宿題をめぐる怒りの目的が「子どもを動かすこと」なら、怒りを使わずに伝える方法もあるはずです。「宿題のことが気になって、お母さんはちょっと不安なんだ」。怒りの下にある不安を言葉にして伝えるほうが、子どもは素直に耳を傾けやすくなります。

場面別・感情コーチングの声かけ例

ここでは、小学生までの子どもによくある場面で、「つい言ってしまう言葉」と「感情コーチングの言葉」を比べてみます。完璧に言えなくても大丈夫です。1つでも試してみてください。

場面つい言ってしまう言葉感情コーチングの言葉
習い事の発表会で失敗して泣く「泣かないの。次がんばればいいでしょ」「あんなに練習したから、悔しいよね。どのあたりが一番悔しかった?」
ゲームで負けてコントローラーを投げる「そんなに怒るならもうやめなさい」「負けて頭にきたんだね。気持ちはわかる。でも物を投げるのはなし。次はどうする?」
友だちに「遊ばない」と言われた「気にしなくていいよ、そんな子」「それはさみしかったね。そのとき、どんな気持ちだった?」
予防接種の前に怖がる「痛くないから大丈夫」「怖いよね。ドキドキしてるね。手をぎゅっとしていようか」
運動会のリレーの選手に選ばれなかった「別にいいじゃない、選ばれなくても」「がっかりしたね。選ばれたかったんだね」
「ママなんて嫌い!」と言う「そんなこと言う子は知りません」「嫌いって思うくらい、腹が立ったんだね。何がいやだった?」

声かけの3つのコツ

  • 「でも」より先に「そうだね」:気持ちを受けとめる言葉を、指導の言葉より先に置く
  • 気持ちの名前は「〜だね」と差し出す:決めつけず、「ちがう」と言える余地を残す
  • 行動の限度は短く、はっきり:「叩くのはなし」「投げるのはなし」。長い説教にしない

感情の言葉が少ない子には、気持ちを色や天気でたずねるのも効果的です。「今の気持ち、晴れ?くもり?雨?」。言葉にするのが難しい子でも、選ぶことならできます。子ども向けにまとめた気持ちがうまく言えないきみへ|「もやもや」に名前をつけるとラクになる理由は、親子で一緒に読める内容になっています。

親の気持ちにも名前をつけよう

感情コーチングを始めようとすると、多くの親が同じ壁にぶつかります。「子どもの気持ちに寄り添う余裕なんてない」。仕事、家事、きょうだいの世話。子どもが泣き出したとき、親の心の中もすでにいっぱいになっていることがほとんどです。

だからこそ、感情コーチングは親が自分の気持ちに名前をつけるところから始まります。自分の感情に気づけていない親が、子どもの感情に気づくのは難しいからです。

3段階温度計で、自分のイライラを測る

ワーク|1分
3段階温度計

イラッとしたら、心の中で「今のイライラは、『ちょっと』『そこそこ』『すごく』のどれ?」と3段階で測ってみます。「ちょっと」なら、そのまま感情コーチングへ。「そこそこ」なら、深呼吸を3回。「すごく」なら、「お母さん(お父さん)、ちょっと気持ちを落ち着けてくるね」と子どもに伝えて、いったんその場を離れます。

数字で測るだけで、感情との間に少し距離が生まれます。不快な感情に名前をつけると扁桃体の活動が落ち着く、というリーバーマンらの研究と同じしくみです。そして、「ちょっと落ち着いてくるね」と言える親の姿は、子どもにとって「感情は、こうやって扱えばいいんだ」という生きたお手本になります。

今日のオノマトペで、気持ちを一言に

ワーク|30秒
今日のオノマトペ

夜、子どもが寝たあとに、今日の自分の気持ちをオノマトペ(擬音語・擬態語)で一言にしてみます。「ずっとバタバタ」「夕方からモヤモヤ」「寝顔を見てホッ」。感情の名前が出てこない日でも、オノマトペなら言えることがあります。

親が自分の気持ちを「モヤモヤしてたんだな」と受けとめられるようになると、子どものモヤモヤにも「そういう日もあるよね」と言えるようになります。親の自己受容は、そのまま子どもへの受容になるのです。

中島輝より一言

私は5歳のとき、育ててくれていた里親が突然いなくなり、それから感情を表に出すのをやめました。「自分のつらさを人に見せてたまるか」と、泣くことも、甘えることもしなくなったのです。周りの大人からは「しっかりした子」に見えていたと思います。でも本当は、悲しさも怒りも、行き場をなくして心の中にたまっていました。だから私は、泣かない子を見ると「強いね」より先に「何を我慢しているのかな」と思ってしまうのです。子どもが泣ける家は、子どもが安心している家です。

根っこから育つ|6つの感と感情コーチング

私は、自己肯定感を1本の木にたとえて「6つの感」で説明しています。感情コーチングが子どもの心のどこを育てるのかを、木の図で見てみましょう。

感情コーチングは「根」から木を育てる 根:自尊心≒自己存在感 「どんな気持ちの自分でも、ここにいていい」 実:自己有用感 「ありがとう、助かった」 花:自己決定感 「次はどうする?」 葉:自己信頼感 感じ方を否定されない 枝:自己効力感 気持ちを立て直せた経験 幹:自己受容感 「悔しかったね」
▲ 感情コーチングの言葉が、6つの感のどこに届くか。気持ちを否定されずに受けとめてもらう経験が、根にあたる「自尊心≒自己存在感」を太くします。

根:自尊心≒自己存在感

木の根にあたるのが、「自分はここにいていい」と感じる自尊心≒自己存在感です。泣いても怒っても、親が離れていかない。気持ちごと受けとめてもらえる。この経験の積み重ねが、根を深く張らせます。「泣かないの!」が続くと、子どもは「泣く自分は受け入れてもらえない」と感じ、根が浅くなってしまうおそれがあります。

幹と枝:自己受容感・自己効力感

「悔しかったね」と気持ちに名前をつけてもらうと、子どもは「悔しいと感じる自分もOK」と思えるようになります。これが幹にあたる自己受容感です。そして、気持ちを言葉にして落ち着けた経験は、「自分は気持ちを立て直せる」という枝の自己効力感につながります。

葉・花・実:自己信頼感・自己決定感・自己有用感

自分の感じ方を否定されない経験は、葉にあたる自己信頼感を育てます。ステップ5の「次はどうする?」は、花にあたる自己決定感を育てます。そして、勇気づけの「ありがとう、助かった」は、実にあたる自己有用感を実らせます。アドラーのいう共同体感覚、つまり「自分は家族の一員で、誰かの役に立てる」という感覚は、この実と深くつながっています。

感情コーチングは、根を育てる関わり。
勇気づけは、実を実らせる関わり。
2つがそろうと、木は丸ごと育っていく。

よくあるご質問

泣くたびに受けとめていたら、甘えん坊になりませんか?
感情コーチングは「何でも言うことを聞く」ことではありません。気持ちは受けとめますが、行動には限度を示します。「悲しいのはわかる。でもお菓子は今日は買わない」と伝えてかまいません。気持ちを受けとめてもらえた子どもは、むしろ早く落ち着き、自分で立ち直る力が育っていきます。
忙しくて、毎回5ステップをやる時間がありません。
毎回すべてをやる必要はありません。まずはステップ4の「名前をつける」だけでも十分です。「悔しかったね」の一言に数秒しかかかりません。時間がある日に、話を最後まで聴くステップ3を加えてみてください。
ついカッとなって「泣かないの!」と言ってしまいました。もう手遅れですか?
手遅れではありません。あとで「さっきは強く言ってごめんね。お母さん(お父さん)、焦ってたんだ。悲しかったよね」と伝え直せば大丈夫です。親が自分の気持ちを言葉にして謝る姿は、子どもにとって大切なお手本になります。
ほめてはいけないのですか?
ほめることが絶対にいけないわけではありません。ただ、「えらいね」「すごいね」ばかりだと、子どもは評価のために動くようになりがちです。「がんばってたね」「うれしいな」「ありがとう、助かった」など、過程や気持ち、貢献に目を向ける言葉を少しずつ増やしてみてください。
子どもがまったく気持ちを話してくれません。どうすればいいですか?
無理に聞き出そうとせず、親が先に自分の気持ちを話してみてください。「今日、お母さんは仕事でちょっと悔しいことがあってね」。色や天気で気持ちをたずねるのも効果的です。気になる様子が長く続いたり、体の不調が続いたりする場合は、学校や小児科、地域の相談機関に相談してください。
「泣かないの!」の代わりに、
「悔しかったね」を。
その一言が、子どもの心の根を育てる。
気持ちはまるごと受けとめ、行動には限度を。
そして、「ありがとう」で勇気づけを。

自分を大切にしよう

「泣かない子」が強い子とは限りません。泣かなくなった子どもの中には、気持ちを感じなくなったのではなく、しまいこむようになっただけの子もいます。心理学者ゴットマンの研究では、子どもの感情を受けとめ、名前をつけ、一緒に解決を考える親の子どもは、感情のコントロールや友人関係がよい傾向がありました。不快な感情に名前をつけると脳の扁桃体の活動が落ち着くという研究も、それを裏づけています。

感情コーチングの5ステップは、気づく、チャンスと捉える、共感して聴く、名前をつける、限度を示しつつ一緒に解決する。そこにアドラー心理学の勇気づけを重ねると、ほめるでも叱るでもない、横の関係の言葉が家庭に増えていきます。宿題や片づけでもめたら「それは誰の課題?」と考え、親自身のイライラの下にある不安にも名前をつけてみてください。気持ちを受けとめてもらう経験は、6つの感の根にあたる自尊心≒自己存在感を深く育てます。

そして何より、子どもの気持ちに寄り添おうとしているあなた自身の気持ちも、同じくらい大切です。うまくいかない日があっても、「さっきはごめんね」と言い直せばいいのです。自分を大切にしよう。親が自分の気持ちに優しくなれたとき、その優しさは、いちばん自然な形で子どもに届いていきます。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • Gottman, J. (1997). Raising an Emotionally Intelligent Child: The Heart of Parenting. Simon & Schuster.(感情コーチングの5ステップ、親の4タイプ)
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5).
  • Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16.
  • Durlak, J.A. et al. (2011). The impact of enhancing students’ social and emotional learning: A meta-analysis of school-based universal interventions. Child Development, 82(1).
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』(勇気づけ、共同体感覚、目的論)
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)(課題の分離、横の関係)
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』原稿(3段階温度計、今日のオノマトペ)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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