「食べたくない」の奥にある気持ち|給食・偏食と感情の言語化

『食べたくない』の奥にある気持ち|給食・偏食と感情の言語化

『食べたくない』の奥にある気持ち
給食・偏食と感情の言語化

連絡帳に「今日も給食をほとんど残しました」。夕食では、好きなもの以外に手が伸びず、気づけば30分以上お皿の前でうつむいている。「一口だけでいいから」と言うほど、子どもの顔はこわばっていく。子どもの「食べたくない」は、わがままや好き嫌いだけでは説明できないことがあります。その奥に、不安や緊張、感覚のつらさ、まだ言葉にならない気持ちが隠れていることがあるのです。食べさせ方のテクニックではなく、「食べられない気持ち」をどう受けとめ、言葉にしていくか。親と先生が今日からできる関わりを、研究とアドラー心理学の視点からお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:「食べない」は、わがままではなく気持ちのサインかもしれない

結論からお伝えします。給食や家での食事で子どもが「食べたくない」と言うとき、そこには味の好みだけでなく、不安・緊張・恥ずかしさ・体の感覚のつらさといった「気持ち」が混ざっていることが少なくありません。そして子どもは、その気持ちを「まずい」「いらない」「おなかいっぱい」という短い言葉でしか表せないことが多いのです。

この記事のポイントは3つです。

  • 食べる量や速さは、心の状態に左右される。緊張や不安が強いとき、体は「食べるどころではない」状態になる。これは意志の弱さではなく、体のしくみ。
  • 「食べさせる圧力」は、かえって食べる量を減らすことがある。研究でも、無理に食べるよう促された子どもは、食べる量が増えず、食べ物への否定的な発言が増えたと報告されている。
  • 食べるかどうか、どれだけ食べるかは、子どもの課題。大人の役割は「食べさせること」ではなく、安心して食卓につける場をつくり、気持ちを言葉にする手伝いをすること。

この背景を理解するうえで役に立つのが、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる考え方です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではありません。一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。子どもはもともと感情を言葉にする力が育っている途中なので、大人以上に、気持ちが体や行動に出やすいのです。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。「迷子」という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。

先にお伝えしておきたいのは、この記事は「食べさせられない親や先生が悪い」と責めるためのものではないということです。子どもの健康を願うからこそ、「少しでも食べてほしい」と思うのは自然なことです。ここでは、その願いを生かしながら、子どもの気持ちに近づく方法を考えていきます。

数字で見る「食べさせる圧力」と子どもの心

「残さず食べなさい」「一口だけでも」。多くの大人が、子どものころに言われ、親や先生になって言ってきた言葉です。けれども、食べることと心の関係を調べた研究は、私たちの「常識」とは少し違う結果を示しています。押さえておきたい知見を整理します。

約10人に1人
一般の人のうち、感情に気づき言葉にすることが難しいアレキシサイミア傾向が強いとされる人の割合(調査により約10〜16%)
出典:TAS-20等を用いた複数の疫学研究疫学データ
知見内容出典
食べさせる圧力スープを「残さず食べて」と促された条件の子どもは、促されなかった条件より食べる量が増えず、食べ物について否定的な発言が多かったGalloway et al.(2006)
くり返しの体験はじめての食べ物も、くり返し目にしたり口にしたりする機会があるほど、子どもの好みは増していくBirch & Marlin(1982)ほか
新しい食べ物への警戒見慣れない食べ物を避ける「食物新奇性恐怖(フード・ネオフォビア)」は、幼児期に強まりやすい自然な反応とされるPliner & Hobden(1992)ほか
強制された記憶子どものころに食べることを強制された経験を持つ大人は、その食べ物を大人になっても避けやすいという回想調査があるBatsell et al.(2002)
感情と食の悩み摂食障害のある人では、アレキシサイミア傾向が高い割合で見られる(拒食症で約63%、過食症で約56%という報告)中島輝・自己肯定感アカデミー講座資料より
感情のラベリング感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がるLieberman et al.(2007)

これらの研究が教えてくれるのは、食べることは「体の作業」であると同時に「心の作業」でもあるということです。安心している子どもは、少しずつ新しい味にも手を伸ばします。反対に、プレッシャーや不安の中では、食べ物そのものが「いやな体験」と結びつきやすくなります。

ここで誤解のないように添えておくと、摂食障害の数字は「偏食の子は摂食障害になる」という意味ではまったくありません。感情を言葉にしにくい状態と、食べることの悩みは、つながりやすい。だからこそ、子どものうちから食卓で気持ちを言葉にする経験を重ねておくことに意味がある、ということです。

給食の時間、子どもの心と体で起きていること

よくある相談の典型例
「給食の時間になると、
おなかが痛くなる」
場面小学2年生の男の子。家では好きなものならよく食べるが、学校では給食をほとんど残す。担任から「食べるのが遅く、いつも最後まで残っています」と連絡があった。母親が「何がいやなの?」と聞いても、「わかんない」「おなかが痛くなる」としか言わない。
この子は、ただ好き嫌いをしているのではないかもしれません。「時間内に食べ終わらなければ」「みんなに見られている」という緊張が、腹痛という体のサインになっている可能性があります。子どもは「緊張している」「みんなの前で食べるのが恥ずかしい」と言葉にできないので、「おなかが痛い」という体の言葉で伝えているのです。

緊張しているとき、体は「食べるモード」にならない

人の体は、緊張や不安を感じると、交感神経が働いて「戦うか逃げるか」の準備に入ります。心臓の鼓動が速くなり、筋肉がこわばり、そして消化の働きは後回しにされます。口が渇く、のどが詰まった感じがする、胃が重い。大人でも、大事な会議の前にご飯がのどを通らなかった経験があるのではないでしょうか。

給食の時間は、子どもにとって案外、緊張の多い時間です。決められた時間内に食べ終える。班の机をくっつけて、友だちと向かい合って食べる。先生が見回っている。「いただきます」から「ごちそうさま」までが、評価の場のように感じられる子もいます。家では食べられるのに学校では食べられない、という子が少なくないのは、このためです。

「食べるのが遅い」の奥にある気持ち

食べるのが遅い子には、さまざまな理由があります。かむ力や飲み込む力がゆっくり育っている子、一口ずつ確かめながら食べる慎重な子、おしゃべりに夢中になる子。そして中には、食べ物を前にして心がぎゅっと固まってしまう子もいます。

「早くしなさい」と言われるほど焦り、焦るほど体が固まり、さらに食べられなくなる。この悪循環の中で、子どもは「自分はダメな子だ」と感じはじめます。食べるのが遅いことそのものより、この「ダメな子だ」という気持ちのほうが、子どもの心に長く残ることがあります。

「食べたくない」の奥にある気持ち 見えているのは一番上だけ。その下に、言葉にならない気持ちが重なっている 見えている言葉・行動 「いらない」「まずい」「おなか痛い」 体の感覚 のどが詰まる・におい・舌ざわり・おなかの張り・口の渇き その場の気持ち 緊張・焦り・はずかしい・見られている・こわい・怒られたくない もっと奥にある気持ち さみしい・学校が不安・家のことが気がかり・「どうせ自分はダメ」 (食事と関係のない気持ちが、食べることに出てくることもある)
▲ 子どもの「食べたくない」は、いちばん上に見えている言葉です。その下には体の感覚、その場の気持ち、さらに奥の気持ちが重なっていることがあります。大人が下の層に目を向けるだけで、関わり方は変わります。

食事と関係のない気持ちが、食卓に出てくることも

もう一つ知っておきたいのは、食事とまったく関係のない気持ちが、食べることに表れる場合があることです。友だちとのトラブル、きょうだいの誕生、引っ越し、家庭の中の緊張。子どもはそれを言葉にできないまま、「食べない」「食べすぎる」という形で表すことがあります。急に食べる量が変わったときは、食卓の外で何が起きているかにも目を向けてみてください。

感覚の過敏さ|「まずい」の奥にある「こわい」「いやだ」

偏食の強い子の中には、味やにおい、舌ざわり、温度、見た目などを、ほかの人より強く感じている子がいます。大人には何でもない野菜の繊維が、口の中でとげのように感じられる。混ざった料理の見た目が、どうしても受けつけない。給食室のにおいだけで気分が悪くなる。こうした感覚の受けとり方の違いは、一人ひとり異なります。

研究の世界でも、味の感じ方には生まれつき大きな個人差があることが知られています。たとえば、苦味を特に強く感じる人がいることは、味覚研究者のバートシャック(Bartoshuk)らによって紹介され、「スーパーテイスター」という言葉で知られるようになりました。同じピーマンでも、子どもによって感じている苦さはまったく違うのです。

診断名を探すより、その子の「感じ方」を知る

感覚の過敏さは、発達の特性と関係していることもあれば、そうでないこともあります。ここで大切なのは、大人が診断名を当てはめようとすることではなく、その子が何をどう感じているのかを知ることです。気になる場合は、小児科や地域の発達相談の窓口など、専門家に相談してください。判断は専門家にゆだね、家庭や学校では「その子の感じ方」に寄り添うことに力を注ぎましょう。

感覚が敏感な子にとって、「まずい」は、実は「こわい」「いやだ」「気持ち悪い」という感情の言葉の代わりであることがあります。けれども、「わがまま」「好き嫌いしないの」と言われ続けると、子どもは自分の感覚そのものを否定されたように感じ、「自分の感じ方はおかしいんだ」と、感じること自体にふたをするようになっていきます。これは、感情迷子さんへの入り口になりかねません。

感覚を言葉にする手伝い

感覚の過敏さがある子には、「どんな感じがするの?」と、感覚そのものを言葉にする手伝いが役に立ちます。

子どもの言葉大人が差し出す言葉の例
「まずい」「にがい感じ?すっぱい感じ?それとも口の中がもぞもぞする?」
「気持ち悪い」「においがいや?ぐにゃっとした感じがいや?」
「食べられない」「見た目がこわい感じがするのかな。それとも、のどがきゅっとなる?」
「いらない」「今はおなかがいっぱい?それとも、なんだか気分が乗らない?」

選択肢を差し出すと、子どもは「そう、それ」と選ぶだけで、自分の感覚に言葉をつけることができます。正解を当てる必要はありません。「ちがう、もっとこう」と子どもが言い直してくれたら、それこそが、感覚を言葉にする力が育っている証拠です。

完食指導の見直し|「残さず食べなさい」が逆効果になるとき

かつては、給食を食べ終わるまで昼休みも席に座らせる、という指導も珍しくありませんでした。いま、その時代を振り返って「つらかった」と語る大人は少なくありません。近年は、無理に完食させる指導を見直し、一人ひとりの量や体調、感覚に合わせる考え方が、学校現場や食育の分野で広がってきています。食物アレルギーへの配慮が進んだことも、「全員が同じものを同じだけ食べる」という前提を見直すきっかけになりました。

「もったいない」と「食べたくない」のあいだで

完食指導には、食べ物を大切にする心を育てる、作ってくれた人への感謝を伝える、栄養をしっかりとる、という大切な願いがあります。その願い自体は、まちがっていません。問題になるのは、その願いが「全部食べるまで許さない」という圧力に変わったときです。

先ほどの研究が示すように、圧力の中で食べた体験は、食べ物を好きになることにはつながりにくく、むしろ「いやな記憶」として残りやすいのです。そして、食べられなかった子は「みんなができることを、自分だけができない」という恥ずかしさを抱えます。恥ずかしさは、子どもがもっとも言葉にしにくい感情の一つです。

完食の代わりに大切にしたいこと

  • 量を自分で調整できる:配膳のときに「少なめ」「ふつう」を選べると、子どもは「全部食べられた」という体験を積みやすい。
  • 一口の挑戦は、本人が決める:「なめてみるだけ」「においをかぐだけ」も立派な一歩。大人が決めるのではなく、子どもが選ぶ。
  • 食べられなかったことを責めない:「今日はここまで食べられたね」と、できた部分に目を向ける。
  • 感謝は言葉で伝える:「作ってくれた人にありがとうって言おうか」と、完食とは別の形で感謝の気持ちを育てる。

「全部食べた」よりも、
「安心して食べられた」を増やしたい。
安心の中でこそ、子どもは新しい味に手を伸ばす。

食べるのは子どもの課題|アドラーの課題の分離と勇気づけ

私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。アルフレッド・アドラー(1870〜1937、オーストリアの精神科医)の考え方は、子どもの食事の悩みを整理するうえで、とても役に立ちます。ここでは2つの考え方を紹介します。

課題の分離|「それは誰の課題か」

アドラー心理学には、「課題の分離」という考え方があります。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった整理で、「その選択の結果を最終的に引き受けるのは誰か」を考え、自分の課題と相手の課題を分けるというものです。

食事に当てはめてみましょう。実際に口に入れるかどうか、どれだけ食べるかは、最終的には子ども自身の課題です。大人がどれだけ願っても、子どもの口を代わりに動かすことはできません。一方で、何を用意するか、いつ食卓を囲むか、どんな雰囲気をつくるかは、大人の課題です。

アメリカの栄養士エリン・サッター(Ellyn Satter)は、これを「食事における責任の分担」として整理しました。大人は「何を・いつ・どこで」食べるかに責任を持ち、子どもは「食べるかどうか・どれだけ食べるか」に責任を持つ、という考え方です。アドラーの課題の分離と、とてもよく重なります。

食卓の「課題の分離」 エリン・サッターの「責任の分担」とアドラーの課題の分離を重ねて 大人の課題 何を用意するか いつ・どこで食べるか 安心できる雰囲気をつくる 気持ちを言葉にする手伝い → 大人が責任を持つ 子どもの課題 食べるかどうか どれだけ食べるか 一口挑戦するかどうか 自分の感じ方を伝える → 子どもが決める 大人が子どもの課題に踏み込むほど、食卓は「戦いの場」になりやすい
▲ 大人は「何を・いつ・どこで」と食卓の雰囲気に責任を持ち、「食べるかどうか・どれだけ」は子どもにゆだねます。境界線をはっきりさせると、食卓から力比べが減っていきます。

課題の分離は、「放っておく」という意味ではありません。子どもの課題に土足で踏み込まず、子どもが自分で決められるように環境を整え、必要なら手伝うということです。「食べなさい」と迫る代わりに、「このお皿、少しだけ置いておくね。食べたくなったらどうぞ」と伝える。それだけで、食卓の空気はずいぶん変わります。

勇気づけ|ほめるのでも叱るのでもなく

アドラー心理学のもう一つの柱が「勇気づけ」です。ほめたり叱ったりして大人が望む行動をとらせる「縦の関係」ではなく、対等な「横の関係」から、子どもが自分の力を信じられるように支える関わりです。

ほめる・叱る(縦の関係)勇気づけ(横の関係)
「全部食べてえらいね」「おいしそうに食べてるね。お母さんもうれしいな」
「また残したの?」「今日はここまで食べられたんだね」
「ピーマン食べられたらごほうびね」「においをかいでみたんだね。挑戦したね」
「好き嫌いしないの」「この食感が苦手なんだね。教えてくれてありがとう」

「全部食べてえらいね」とほめることは、一見よい関わりに見えます。けれども、それが続くと、子どもは「全部食べないと認めてもらえない」と感じることがあります。結果ではなく、過程やその子の気持ちに目を向ける。それが勇気づけです。

自己受容感|「食べられない自分」もそのままでいい

自己肯定感の「6つの感」を木にたとえると、自尊心≒自己存在感が根、自己受容感が幹、自己効力感が枝、自己信頼感が葉、自己決定感が花、自己有用感が実にあたります。食事の悩みでもっとも揺らぎやすいのが、幹にあたる自己受容感、つまり「できない自分も含めて、ありのままの自分を受け入れる感覚」です。

「みんなは食べられるのに、自分だけ食べられない」。この思いを抱えた子どもは、自分の体や感覚を否定しはじめます。だからこそ大人が、「苦手があってもいいんだよ」「あなたの感じ方を教えてくれてうれしい」と伝えることに意味があります。苦手を受けとめてもらえた子は、自分の感覚を信じられるようになり、そのうえで、自分のペースで新しい味に挑戦していけます。幹が太くなれば、枝(自己効力感)も自然に伸びていくのです。

家庭の食卓でできる感情の言語化ワーク

家庭の食卓は、子どもが感情の言葉を育てるのに最適な場所です。毎日あり、時間が決まっていて、家族が顔をそろえる。ここでは、中島輝の近刊で紹介しているワークを、食卓向けにアレンジして紹介します。どれも「食べさせる」ためではなく、気持ちを言葉にする練習として行ってください。

ワーク1|3秒
食卓の「心の体温チェック」

「いただきます」の前に、家族みんなで「今日の心の温度は?」と聞き合います。「ぽかぽか」「ふつう」「ひんやり」の3つから選ぶだけ。親も一緒に答えます。「お母さんは今日ひんやり。仕事でちょっと疲れたんだ」と親が先に話すと、子どもも話しやすくなります。

ワーク2|30秒
今日のオノマトペ

食べ物を口にしたとき、「シャキシャキ」「もちもち」「ぐにゃっ」と、感じたことを擬音語で表してみます。苦手な食べ物も「どんな音?」と聞くと、子どもは感覚を言葉にしはじめます。「ぐにゃっとしてるのがいやなんだね」と受けとめれば、それは否定ではなく理解になります。

ワーク3|1分
3段階温度計で「食べたい度」

おかずを前に、「これ、食べたい度は1・2・3のどれ?」と聞いてみます。1なら「今日はお休みしようか」、2なら「においだけかいでみる?」、3なら「どうぞ」。数字にすると、子どもは「食べる・食べない」の二択から解放され、自分の気持ちを細かく伝えられるようになります。

ワーク4|2分
給食の「感情が動いた瞬間」を聞く

夕食のとき、「今日の給食、何が出た?」と出来事を聞いたあとに、「給食の時間、どんな気持ちだった?」と一言足します。「楽しかった」「急いだ」「先生に言われていやだった」。答えが短くても大丈夫です。毎日続けると、子どもは「給食の時間の気持ち」を言葉にする習慣を少しずつ身につけていきます。

ワーク5|継続
「食べなくても座っていていい」と伝える

どうしても食べられない日は、「食べなくてもいいから、一緒に座っていてくれるとうれしいな」と伝えます。食卓は食べる場所であると同時に、家族が気持ちを分け合う場所です。食べる量より、食卓にいる時間が安心で満たされることを大切にしてください。

食卓で避けたい言葉

  • 「〇〇ちゃんは全部食べてるのに」(比較は恥ずかしさを強める)
  • 「食べないなら、デザートなし」(食べ物が取引の道具になる)
  • 「作ってあげたのに」(罪悪感で食べさせることになる)
  • 「そんなことじゃ大きくなれないよ」(不安をあおる)

思わず言ってしまった日があっても大丈夫です。気づいたら、「さっきはきつく言っちゃったね。ごめんね」と伝えてください。親が自分の気持ちを言葉にして謝る姿は、子どもにとって何よりの感情の言語化の手本になります。子どもの気持ちを受けとめる関わりについては、「手のかからないいい子」ほど危ない?|我慢する子どもと感情の言語化もあわせてお読みください。

中島輝より一言

カウンセリングで大人の方の話を聞いていると、「子どものころの食卓の記憶」が驚くほど鮮明に残っていることに気づきます。「食べ終わるまで席を立てなかった」「泣きながら飲み込んだ」。その記憶は、食べ物の好き嫌いよりも、「自分の気持ちを聞いてもらえなかった」という感情として残っているのです。逆に、「残しても『いいよ』と言ってもらえた」記憶は、大人になっても心を温め続けます。食卓の記憶は、心の根っこに残ります。

先生ができること|給食の時間を安心の時間に

先生にとって、給食の時間は配膳、片づけ、アレルギー対応、時間の管理と、気の休まらない時間です。その中で一人ひとりの気持ちに目を配るのは簡単ではありません。それでも、少しの工夫で、給食の時間は「緊張の時間」から「安心の時間」に変えることができます。

教室でできる小さな工夫

工夫1
配膳のときに量を選べるようにする

「少なめにしたい人は言ってね」と最初に伝え、食べられる量から始められるようにします。「自分で決めて、食べきれた」という体験は、子どもの自己決定感と自己効力感を同時に育てます。

工夫2
「残すこと」を責めない言葉を共有する

「今日は食べられなかったんだね。また今度ね」と、残すことを特別扱いしない雰囲気をつくります。クラス全体に「食べられる量は人それぞれ」と伝えておくと、ほかの子からの「残してる!」という指摘も減っていきます。

工夫3
見回りの声かけを「気持ち」に変える

「早く食べなさい」の代わりに、「今日の給食、どんな感じ?」と声をかけます。「これ苦手」と言えたら、「教えてくれてありがとう」。苦手を言葉にできたことを、まず受けとめます。

工夫4
気になる子は、保護者と「気持ち」の情報を共有する

連絡帳には、食べた量だけでなく、「給食の時間、少し緊張しているように見えます」といった様子も書き添えます。家庭での様子と合わせて見ると、食べられない理由が見えてくることがあります。

保護者に伝えるときのポイント

「給食を残しています」とだけ伝えると、保護者は責められたように感じ、家で子どもに「なんで食べないの」と迫ってしまうことがあります。「〇〇さんは、苦手なものも見てはいるんです。教室で少し緊張しているのかもしれません。おうちではどんな様子ですか」と、観察と問いかけをセットにして伝えると、保護者と一緒に子どもの気持ちを考えるきっかけになります。

先生自身も、給食の時間に焦りやいら立ちを感じることがあるはずです。「時間内に片づけなければ」「残食が多いと言われる」。その気持ちに気づき、「いま私は焦っている」と心の中で言葉にするだけでも、子どもへの声かけはやわらかくなります。先生の感情の言語化は、子どもの安心につながっています。

医療機関に相談したい目安

多くの偏食や少食は、成長とともに、また安心できる関わりの中で、少しずつ変わっていきます。けれども、中には医療的な支援が必要な場合もあります。次のようなときは、小児科やかかりつけ医に相談してください。必要に応じて、児童精神科や専門の医療機関を紹介してもらえます。

  • 体重が減っている、または成長曲線から外れてきている
  • 食べられる食品が極端に少なく、種類がどんどん減っている
  • 食べることへの強い恐怖があり、のどに詰まる・吐くことへの不安が続いている
  • 体型や体重を極端に気にする、食べたあとに吐く、隠れて食べる様子がある
  • 食事以外にも、元気がない、眠れない、学校に行けないなどの変化が続いている

食べることの悩みの中には、摂食障害や、食べ物を避けたり制限したりする症状として医師が診断するものもあります。思春期以降は、体型への強いこだわりから食事を極端に減らすケースもあります。家庭や学校で判断しようとせず、「心配なことがあれば、早めに医療機関へ」を合言葉にしてください。相談したけれど「様子を見ましょう」と言われた、というのも大切な情報です。

家庭と学校の役割は、診断することではない。
子どもの「食べられない気持ち」に気づき、
必要なときに医療につなぐこと。

よくあるご質問

好きなものしか食べない子に、どこまで付き合えばいいですか?
食卓には、子どもが食べられるものを一品必ず入れたうえで、ほかのおかずも少量並べておく方法がおすすめです。食べなくても、目にする・においをかぐ機会が重なることで、少しずつ受け入れやすくなることがあります。無理に食べさせず、「並べておく」ことを続けてみてください。体重の減少など心配な変化があれば、小児科に相談しましょう。
先生から「給食を残す」と言われ、家で叱ってしまいました。
子どものためを思えばこそですから、ご自分を責めすぎないでください。今からでも、「この前は怒っちゃってごめんね。給食の時間、どんな感じなのか教えてくれる?」と聞き直すことができます。親が気持ちを言葉にして関わり直す姿は、子どもにとって大切な経験になります。
食べるのが遅いのは、甘えではないのですか?
甘えだけで説明できることは多くありません。かむ・飲み込む力の発達、慎重な性格、感覚の敏感さ、緊張や不安など、さまざまな理由が考えられます。「早く」と急かすより、「どこで時間がかかるのかな」と一緒に見てみると、理由が見えてくることがあります。
感覚の過敏さがあるかもしれません。どこに相談すればいいですか?
まずはかかりつけの小児科や、市区町村の子育て・発達相談の窓口、学校のスクールカウンセラーなどに相談してみてください。診断の有無にかかわらず、その子の感じ方に合わせた工夫を一緒に考えてもらえます。家庭では、子どもの「いやな感じ」を言葉にする手伝いを続けていきましょう。
食べ物を残すことに、どうしても罪悪感があります。
食べ物を大切にしたいという気持ちは、とても大切な価値観です。その気持ちは、「一緒に料理する」「作ってくれた人にありがとうを言う」「食べられる量を盛りつける」など、完食以外の形でも子どもに伝えられます。大人自身の「もったいない」という気持ちも、言葉にして子どもと分け合ってみてください。
「食べたくない」は、わがままではなく、
まだ言葉にならない気持ちの入り口。
食卓を、気持ちを分け合える場所に。
食べる量より、安心できる時間を。
その積み重ねが、子どもの心の幹を太くします。

自分を大切にしよう

子どもの「食べたくない」の奥には、緊張や不安、恥ずかしさ、感覚のつらさ、そして食事とは関係のない気持ちが隠れていることがあります。子どもはまだ感情を言葉にする力が育っている途中なので、それを「まずい」「いらない」「おなかが痛い」という短い言葉や体のサインで伝えます。研究でも、食べるよう圧力をかけることは、かえって食べる量や食べ物への気持ちによくない影響を与えることがあると示されています。

だからこそ、大人ができることがあります。食べるかどうかは子どもの課題として尊重し、大人は安心できる食卓をつくる。結果をほめるより、過程や気持ちに目を向けて勇気づける。「どんな感じがする?」と感覚を言葉にする手伝いをする。そして、体重の減少や強い恐怖など心配なサインがあれば、早めに医療機関へつなぐ。その積み重ねが、「苦手があっても、自分は自分でいい」という自己受容感を育てていきます。

この記事を読んで、毎日の食卓や給食の時間を思い浮かべた方は、それだけ子どもと真剣に向き合ってきた方です。食べさせられない自分を責めてきた親御さんや先生もいるかもしれません。けれども、あなたの「食べてほしい」という願いは、子どもを大切に思う気持ちそのものです。その気持ちを、どうかあなた自身にも向けてください。自分を大切にしよう。安心して食卓につける大人がいることが、子どもにとっていちばんの栄養になります。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Galloway, A.T., Fiorito, L.M., Francis, L.A., & Birch, L.L. (2006). ‘Finish your soup’: Counterproductive effects of pressuring children to eat on intake and affect. Appetite, 46(3), 318-323.
  • Birch, L.L., & Marlin, D.W. (1982). I don’t like it; I never tried it: Effects of exposure on two-year-old children’s food preferences. Appetite, 3(4), 353-360.
  • Pliner, P., & Hobden, K. (1992). Development of a scale to measure the trait of food neophobia in humans. Appetite, 19(2), 105-120.
  • Batsell, W.R., Brown, A.S., Ansfield, M.E., & Paschall, G.Y. (2002). “You will eat all of that!”: A retrospective analysis of forced consumption episodes. Appetite, 38(3), 211-219.
  • Bartoshuk, L.M. らによる味覚の個人差(スーパーテイスター)に関する研究
  • Satter, E. 「食事における責任の分担(Division of Responsibility in Feeding)」
  • Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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