起業して一年、誰にも弱音を吐けない|創業者の孤独と感情の言語化

起業して一年、誰にも弱音を吐けない|創業者の孤独と感情の言語化

起業して一年、誰にも弱音を吐けない
創業者の孤独と感情の言語化

ピッチイベントでは「市場は確実に伸びています」と言い切った。SNSには「最高のチームと前進中」と書いた。その夜、ひとりでオフィスに残り、来月の資金繰り表を何度も見直す。共同創業者とは、この2週間、必要なこと以外話していない。家に帰れば、パートナーに「順調だよ」と答える。不安なのか、怒っているのか、もう疲れ切っているのか、自分でもわからない。それは、あなたが経営者に向いていないからではありません。起業1〜3年目の創業者ほど、感情が迷子になりやすい構造があります。起業家の心の研究とアドラー心理学から、その正体を言葉にし、ひとりで抱え込まないための方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:創業者の孤独は「弱さ」ではなく、構造から生まれる

結論からお伝えします。起業1〜3年目の創業者が弱音を吐けないのは、性格の問題ではありません。社員には不安を見せられない、投資家や取引先には自信を示さなければならない、家族には心配をかけたくない。どの相手にも「強い自分」を見せる必要がある立場そのものが、感情を言葉にする場所を奪っているのです。

この記事のポイントは3つです。

  • 創業者は「感情を話せる相手」が構造的にいない。会社員時代の同僚も上司もいなくなり、立場の違う人ばかりに囲まれる。孤独は、起業という選択に最初から組み込まれている。
  • 「強い起業家」像は、劣等感の裏返しになりやすい。アドラー心理学でいう優越コンプレックス、つまり弱さを隠すために強く見せる状態に陥ると、判断も人間関係もこわばっていく。
  • 感情を言葉にすることは、経営判断の質を守ることでもある。恐れや焦りに名前をつけて扱える創業者ほど、感情に振り回されずに決められる。それが自己決定感と自己信頼感を育てる。

ここで手がかりになるのが、アレキシサイミア(失感情症)という心理学の言葉です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本はアレキシサイミア(失感情症)とはでまとめています。

もともと情熱的で感情豊かな人でも、先の見えない状況で長く緊張が続くと、心は自分を守るために感じる回路を絞ります。強いストレスによる一時的なこの反応は、専門的には「2次性アレキシサイミア」と呼ばれます。「事業のことしか考えられない」「何が楽しいのかわからなくなった」という状態は、情熱が冷めたのではなく、心が非常事態モードに入っているサインかもしれません。

よくある相談の典型例
「つらいとかじゃないんです。
ただ、最近、何も感じなくなってきて」
場面30代の創業者。会社員を辞めて友人と2人でIT系の会社を立ち上げ、1年半。シード資金で採用した社員は5人。売上は計画の半分ほど。次の資金調達の面談が続き、夜は眠りが浅い。社員の前では明るくふるまい、共同創業者とは方針の違いで口数が減っている。
これは、いくつもの相談に共通する要素を組み合わせた典型例です。「つらいとかじゃない」という言葉の奥には、会社がつぶれるかもしれない恐れ、社員の生活を背負う重さ、友人だった相手とぶつかる悲しさ、うまくいかないことへの恥ずかしさが、名前をつけられないまま重なっています。何も感じないのは、感じることが多すぎるからです。

数字と研究で見る起業家の心|「強い起業家」像の裏側

起業家は、メディアでは「挑戦する人」「リスクを恐れない人」として語られます。けれど研究の世界では、起業家の心が抱える負担にも目が向けられてきました。押さえておきたい知見を整理します。

項目内容出典
49%と32%米国の起業家242人のうち49%が、生涯で何らかの心の不調を経験したと回答。比較群(起業家ではない人)では32%Freeman, Staudenmaier, Zisser & Andresen(2019, Small Business Economics)
経営者の孤独小規模事業の経営者の多くが孤独を感じており、それがストレスと結びついていると指摘Gumpert & Boyd(1984, Harvard Business Review)
感情ラベリング感情に言葉でラベルをつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の反応がおだやかになるLieberman et al.(2007)
筆記開示つらい体験と感情を数日間書き出すと、心身の健康によい影響が見られたPennebaker(1980年代〜)
約10〜16%一般の人のうち、アレキシサイミア傾向が強いとされる人の割合TAS-20等を用いた複数の疫学研究

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の精神科医マイケル・フリーマン(Michael Freeman)らの調査では、起業家の約半数が、生涯のうちに何らかの心の不調を経験したと答えていました。この数字は、起業家が心の弱い人たちだという意味ではありません。むしろ、エネルギーにあふれ、感受性が強く、新しいことに挑む人ほど、強いストレスの中で心の負担を抱えやすいという見方もできます。

もう一つ、1984年にハーバード・ビジネス・レビューに掲載されたガンパートとボイドの論文は、小規模事業の経営者が抱える孤独を正面から取り上げました。最終的な責任を一人で負うこと、社員と距離を置かざるをえないこと、相談できる同じ立場の人が身近にいないこと。40年前に指摘されたこの構造は、いまのスタートアップの創業者にもそのまま当てはまります。

弱音を吐けないのは、
あなたが弱いからではない。
弱音を吐く場所がない立場にいるから。

資金繰りの夜|言葉にならない恐れと恥

創業1〜3年目の多くの創業者にとって、いちばん重い感情はお金にまつわるものです。口座の残高があと何か月分の人件費になるか。次の入金はいつか。資金調達がうまくいかなかったらどうするか。資金繰り表を見る夜は、心がぎゅっと縮みます。

この「ぎゅっと縮む」感覚を、多くの創業者は「プレッシャー」や「疲れ」という言葉でまとめてしまいます。けれど、ていねいに見ていくと、その下にはいくつもの感情が重なっています。

表に出る言葉その下にある感情体のサイン
「プレッシャーがすごい」会社がなくなるかもしれない恐れ寝つけない、夜中に目が覚める
「数字が足りない」計画どおりにいかない恥ずかしさ胃が重い、食欲が落ちる
「みんなに申し訳ない」社員・家族・出資者への罪悪感肩や首のこわばり、ため息
「早く何とかしないと」時間がなくなっていく焦り呼吸が浅い、じっとしていられない

とくに見落とされやすいのが恥です。「あれだけ大きなことを言って会社を辞めたのに」「出資してくれた人に合わせる顔がない」。恥は、人に話すことでしか軽くならない感情なのに、恥を感じているときほど人に話せなくなります。この悪循環が、資金繰りの悩みを一人で抱え込ませる大きな理由です。

感情に名前がつかないまま判断を急ぐと、条件の悪い資金調達に飛びついたり、逆に決断を先延ばしにしたりしやすくなります。リーバーマンら(Lieberman et al., 2007)の研究が示すように、感情に言葉でラベルをつけるだけで、扁桃体の過剰な反応はおだやかになります。「いま私は、恐れている」と言葉にできた創業者は、恐れに飲み込まれずに数字を見られるようになります。

共同創業者との対立|「事業の話」の下にある感情

創業期のつまずきとしてよく語られるのが、共同創業者との対立です。最初は同じ夢を語り合った仲間なのに、事業が動き出すと、方針、採用、お金の使い方、役割分担をめぐって意見が食い違うようになります。

やっかいなのは、対立の多くが「事業の話」の形をとりながら、実は感情の話であることです。「その施策は費用対効果が合わない」という言葉の下に、「自分の意見が軽く扱われている悔しさ」があるかもしれません。「もっとスピードを上げるべきだ」という主張の下に、「自分ばかりが負担を背負っている不公平感」があるかもしれません。

共同創業者の対立は「事業の言葉」と「感情」の二層でできている 事業の言葉だけで話し合うと、感情の層がすれ違ったまま残る Aさん(事業の言葉) 「その採用は時期尚早だ」 「もっと数字を見て決めよう」 Bさん(事業の言葉) 「いま攻めないと負ける」 「慎重すぎて機会を逃す」 衝突 水面 Aさんの感情 資金が尽きる恐れ 意見を軽く扱われる悔しさ Bさんの感情 取り残される焦り 自分だけが背負う不公平感 水面の下の感情を言葉にすると、対立は「共通の不安」に変わりはじめる
▲ 共同創業者の対立は、表に見える「事業の言葉」と、水面の下にある「感情」の二層でできています。事業の言葉だけでぶつかると平行線になりやすく、それぞれの恐れや焦りを言葉にすると、二人が同じ不安を別の形で抱えていたことに気づけることがあります。

「事業会議」とは別に「感情の会議」を持つ

共同創業者との関係を立て直すには、事業の意思決定をする会議とは別に、お互いの気持ちを話す時間を意識してとることが役に立ちます。月に一度、30分だけでもかまいません。議題は一つ、「最近、この会社のことでいちばん心が動いたことは?」。ここでは結論を出さないと決めておくのがコツです。

話すときは、「あなたは慎重すぎる」というあなたメッセージではなく、「私は、このままだと取り残される気がして焦っている」というIメッセージを使います。相手を評価する言葉ではなく、自分の感情を伝える言葉に変えるだけで、話し合いの温度は大きく変わります。

家族への負担|「応援してくれている」の陰で

起業は、本人だけの挑戦ではありません。収入が不安定になる、休日がなくなる、家にいても頭は仕事のことでいっぱい。パートナーや家族は、多くの場合、言葉にしない我慢を重ねています。

創業者の側にも、家族に対する複雑な感情があります。「応援してくれているのだから、弱音を吐いたら申し訳ない」「心配をかけたくない」「うまくいっていないと知られたら、反対されるかもしれない」。その結果、家では「順調だよ」と答え、本当の状態を話さなくなります。

創業者の心の声家族の心の声
「心配をかけたくないから、黙っておこう」「何も話してくれないから、余計に心配」
「家族のためにも、今は仕事を優先しないと」「家族のためと言いながら、家族の時間がない」
「失敗したら、家族に申し訳ない」「失敗しても、話してくれればそれでいい」

家族を守ろうとして黙ることが、かえって家族を不安にさせる。このすれ違いは、創業者の家庭でとてもよく起きます。家族に必要なのは、すべてがうまくいっている報告ではなく、「いま、少し不安なんだ」という本当の気持ちであることが少なくありません。毎日でなくてかまいません。週に一度、「今週の心の天気」を一言ずつ伝え合うだけでも、家族は「一緒に挑戦している」と感じられるようになります。

アドラー心理学で見る|優越コンプレックスと横の関係

私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方の中から、創業者の助けになる2つを紹介します。

劣等感と優越コンプレックス|「強い起業家」を演じる理由

アドラーは、劣等感を誰もが持つ自然な感覚であり、成長のきっかけになるものと考えました。「理想の自分に比べて、いまはまだ足りない」という感覚が、人を前に進ませます。多くの起業家は、この劣等感をエネルギーにして会社を立ち上げたはずです。

ところが、劣等感を正面から受けとめられないとき、人は二つの方向にゆがみやすくなります。一つは劣等コンプレックスで、「どうせ自分には無理だ」と挑戦を避けること。もう一つが優越コンプレックスで、自分の弱さや不安を隠すために、実際以上に自分を強く、優れているように見せることです。

健全な劣等感優越コンプレックス
心の声「まだ足りない。だから学ぼう」「弱みを見せたら終わりだ」
ふるまいわからないことを聞く、助けを求める常に自信満々にふるまう、実績を誇張する
人間関係仲間と対等に話せる社員や共同創業者を見下す、意見を聞けない
感情不安も焦りも言葉にできる不安を感じないふりをして、迷子になる

スタートアップの世界には、「強い起業家」でいることを求める空気があります。資金調達の場では自信を示す必要がある場面も確かにあるでしょう。けれど、その「強さ」を24時間、すべての相手に向けて演じ続けると、優越コンプレックスに近い状態になります。不安を感じないふりを続けると、やがて本当に自分の感情がわからなくなる。これが、創業者が感情迷子になる大きな道筋です。

横の関係|社員・共同創業者・投資家と対等に話す

アドラー心理学では、人間関係を縦の関係(上と下、評価する側とされる側)ではなく、横の関係(役割は違っても人として対等)で捉えることを大切にします。

創業者はどうしても、縦の関係に囲まれやすい立場です。社員に対しては上、投資家に対しては評価される側。縦の関係の中では、上にいるときは弱みを見せられず、下にいるときは本音を言えません。横の関係に立つと、「社長として」ではなく「同じ船に乗る仲間として」気持ちを話せるようになります。

たとえば社員に、「正直に言うと、今月の数字には私も不安がある。だからみんなの知恵を借りたい」と伝える。これは弱さを見せることではなく、仲間を信頼して、共通の課題に一緒に向き合う姿勢です。アドラー心理学の勇気づけは、ほめたり叱ったりすることではなく、横の関係から「ありがとう」「助かった」を伝えることです。創業者が先に感謝と本音を言葉にすると、チームにも感情を話せる空気が生まれます。

中島輝より一言

経営者や創業者の方のカウンセリングでは、最初の数回、ほとんどの方が事業の数字や戦略の話をされます。あるとき私が「その話をしているとき、胸のあたりはどんな感じがしますか?」と尋ねると、しばらく黙ってから「……怖いんだと思います」とつぶやいた方がいました。「怖い」と言えたその日から、その方の決断は目に見えて落ち着いていきました。感情を認めることは、弱さではなく、経営者としての土台を固めることだと、私は思っています。

花と葉を育てる|自己決定感・自己信頼感と感情の言語化ワーク

自己肯定感の「6つの感」は、木にたとえることができます。根にあたる自尊心≒自己存在感、幹にあたる自己受容感、枝にあたる自己効力感、葉にあたる自己信頼感、花にあたる自己決定感、実にあたる自己有用感です。

起業は、本来自己決定感の花が大きく開く選択です。自分で決めて会社を辞め、自分で決めて事業を始めた。ところが創業期の現実は、資金の都合、投資家の意向、市場の反応など、自分ではコントロールできないことの連続です。「自分で決めているはずなのに、何かに追い立てられている」と感じるとき、花はしぼみはじめます。

同時に揺らぐのが、「自分の判断を信じられる」という自己信頼感の葉です。計画どおりにいかない月が続くと、「自分の見立ては間違っていたのではないか」と、判断のたびに迷いが生まれます。花と葉を育て直すために、感情の言語化のワークを紹介します。

ワーク1|5秒
決める前の「5秒ルール」

大事な判断をする前に、5秒だけ手を止めて「いま、私はどんな気持ちで決めようとしている?」と自分に聞きます。恐れ、焦り、意地、期待。感情に名前がつくと、「焦りで決めようとしているから、一晩おこう」と自分で選び直せます。これが、自己決定感を取り戻す最小の練習です。

ワーク2|1分
3段階温度計で「不安の内訳」を測る

「資金」「チーム」「事業の方向性」「家族」の4つについて、今日の不安の強さを弱・中・強の3段階でメモします。漠然とした「全部が不安」が、「今週は資金が強、チームは中」と分かれて見えると、どこから手をつけるかを自分で決めやすくなります。

ワーク3|2分
感情が動いた瞬間日記

一日の終わりに、「①何があった ②体はどうなった ③気持ちに名前をつけると」を1行ずつ書きます。「投資家面談で厳しい質問→胃が縮んだ→悔しい、少し恥ずかしい」。続けると、自分がどんな場面で揺れやすいかがわかり、「この場面ではこう揺れる自分」を知っていることが自己信頼感の葉を茂らせます。

ワーク4|15分
誰にも見せない「本音のノート」

心理学者ペネベーカーの研究で知られる筆記開示を、創業者向けにアレンジします。誰にも見せないと決めたノートに、いちばん不安なこと、いちばん腹が立っていること、本当は言いたいことを、15分間、手を止めずに書きます。書いたものは読み返さなくてもかまいません。人前で演じている「強い起業家」を、ノートの中でだけは脱いでいいのです。

ワーク5|5分
「なぜ始めたか」の未来日記

3年後、会社がどんな形であっても、自分がどんな気持ちで一日を過ごしていたいかを、日記の形で現在形で書きます。売上や規模ではなく、気持ちを書くのがコツです。「自分で選んだ仕事に、納得して向き合っている」。数字に追われる毎日の中で、起業した理由の原点を自分の言葉で確かめる時間になります。

強さを演じ続けなくていい。
不安に名前をつけて決めた判断は、
あとで自分を支えてくれる。

弱音を吐ける場所をつくる|創業者のための相談の地図

創業者の孤独は、意志の力だけでは解決しません。必要なのは、立場を気にせずに本音を話せる場所を、意識して複数持つことです。一人の相手にすべてを話す必要はありません。話す内容によって相手を分けておくと、心の負担はぐっと軽くなります。

相談先の例話しやすいこと
同じ時期に起業した創業者仲間資金調達や採用の悩み、「自分だけじゃない」という共感
メンター、先輩経営者経営判断の迷い、共同創業者との関係
公的な経営相談窓口(各都道府県の「よろず支援拠点」、商工会・商工会議所など)資金繰り、事業計画など具体的な経営課題
カウンセラー、医療機関眠れない、気分が沈む、何も感じないといった心の状態
パートナー・家族「今週の心の天気」、本当の気持ちの一言

とくに、眠れない、食べられない、何をしても楽しめない、朝起きられないといった状態が2週間以上続く場合は、心療内科などの医療機関に相談してください。医学的な判断は医師にゆだねることが大切です。創業者が心身を崩すことは、会社にとっても最大のリスクの一つです。自分の心の手入れは、経営の仕事の一部だと考えてください。

組織のトップとして感情をどう扱うかはトップのための感情言語化マネジメントで、ひとりで働く人の孤独についてはフリーランスと感情の言語化でも扱っています。

よくあるご質問

社員の前で不安を見せたら、会社が動揺しませんか?
不安をそのままぶつけることと、感情を言葉にして共有することは違います。「数字は厳しいが、こう考えている。みんなの知恵を借りたい」というように、事実と自分の気持ちと次の一手をセットで伝えれば、社員はむしろ安心することが多いものです。何も話さない社長の沈黙のほうが、社員を不安にさせることもあります。
共同創業者と話すと、すぐに口論になってしまいます。
事業の意思決定の場で感情までぶつけ合うと、議論が平行線になりやすくなります。意思決定の会議とは別に、結論を出さない「気持ちを話す時間」を設けてみてください。「あなたは〜だ」ではなく「私は〜と感じている」というIメッセージで話すことも助けになります。二人だけで難しい場合は、信頼できる第三者に同席してもらうのも一つの方法です。
家族に事業の状況をどこまで話せばいいかわかりません。
すべての数字を話す必要はありません。大切なのは、状況の細かさよりも、あなたの気持ちが伝わることです。「今月は少し厳しくて、正直不安がある」と一言伝えるだけで、家族は「話してもらえた」と感じられます。家族の生活に関わる大きな判断(借入や自宅を担保にすることなど)は、決める前に必ず相談してください。
起業してから、何をしても楽しいと感じなくなりました。
強い緊張が長く続くと、心は自分を守るために感じる回路を絞ることがあります。情熱がなくなったのではなく、非常事態モードが続いているサインかもしれません。まずは睡眠を確保し、感情が動いた瞬間を一日一つ書き留めてみてください。楽しめない状態が2週間以上続く場合は、医療機関に相談することをおすすめします。
事業をたたむことを考えています。逃げでしょうか?
事業をたたむことも、続けることも、どちらも経営者としての決断です。逃げかどうかを判断するより、「何がいちばんつらいのか」「何を大切にしたいのか」を言葉にしてみてください。恐れや恥に押されて決めるのか、自分で納得して決めるのかで、その後の心の回復は大きく変わります。公的な経営相談窓口や専門家の力も借りながら、自分で選んだと言える道を探してください。
誰にも弱音を吐けないあなたへ。
不安を言葉にすることは、経営者の仕事の一部。
強さを演じる時間の外に、本音の居場所を。
恐れも焦りも、名前がついた分だけ扱える。
自分で選んだ道を、自分を信じて歩くために。

自分を大切にしよう

起業1〜3年目の創業者が弱音を吐けないのは、性格が弱いからでも、経営者に向いていないからでもありません。社員にも、投資家にも、家族にも「強い自分」を見せなければならない立場そのものが、感情を言葉にする場所を奪っているのです。資金繰りの夜の恐れや恥、共同創業者との対立の下にある悔しさや不公平感、家族への申し訳なさ。名前をつけられないまま重なった感情は、「何も感じない」という状態として表に出てくることがあります。

アドラー心理学は、弱さを隠すために強く見せる優越コンプレックスの落とし穴と、縦ではなく横の関係で仲間と向き合う大切さを教えてくれます。5秒ルール、3段階温度計、感情が動いた瞬間日記、本音のノート、未来日記。小さなワークで感情に名前をつけるたびに、自分で選び直す自己決定感の花と、自分の判断を信じる自己信頼感の葉が、少しずつ育っていきます。そして、立場を気にせず本音を話せる場所を、意識して複数持ってください。

起業という選択をしたあなたは、すでに大きな勇気を持っています。その勇気は、不安を感じないことではなく、不安を抱えながら一歩を踏み出すことです。自分を大切にしよう。会社を守るあなた自身の心にも、守られる場所と、本音を話していい相手が、ちゃんと必要です。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • Freeman, M.A., Staudenmaier, P.J., Zisser, M.R., & Andresen, L.A. (2019). The prevalence and co-occurrence of psychiatric conditions among entrepreneurs and their families. Small Business Economics, 53, 323-342.
  • Gumpert, D.E., & Boyd, D.P. (1984). The loneliness of the small-business owner. Harvard Business Review, 62(6).
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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