片づけられない親の家の前で立ち尽くす|ため込みと感情の言語化

片づけられない親の家の前で立ち尽くす|ため込みと感情の言語化

片づけられない親の家の前で立ち尽くす
ため込みと感情の言語化

久しぶりに帰った実家の玄関を開けると、積み上がった新聞と紙袋の間に、人ひとりがやっと通れる細い道。台所のテーブルは見えず、母は「全部いるものだから、さわらないで」と言う。思わず「なんでこんなになるまで」と声を荒らげ、その夜、帰りの電車で涙が止まらなかった。怒りなのか、悲しみなのか、恥ずかしさなのか、自分でもわからない。物をため込む家族の問題は、片づけの技術だけでは解決しません。研究とアドラー心理学の視点から、ため込む本人と、立ち尽くす家族の両方の感情を言葉にし、一歩を踏み出す方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:ため込みは「だらしなさ」ではなく「手放せなさ」の問題

結論からお伝えします。物があふれて暮らしに支障が出るほどのため込みは、多くの場合、片づける意欲や能力が足りないのではなく、物を手放すときに強い苦痛を感じることから起きています。そして、その苦痛の中身は、本人にもうまく言葉にできないことが少なくありません。家族が「だらしない」「わがまま」と責めるほど、本人は物を守ろうとして心を閉ざし、状況はこじれていきます。

この記事のポイントは3つです。

  • ため込みには、研究で整理されてきた心理的な仕組みがある。2013年には、アメリカ精神医学会の診断基準で「ためこみ症」が独立した診断名として位置づけられた。
  • 本人にとって、捨てることは「喪失」でもある。だから、本人の同意のない一斉撤去は、深い傷と不信を残し、再びため込む結果になりやすい。
  • 家族自身の感情を言葉にすることが、最初の一歩。怒りや恥を言葉にできると、親を責める言葉が、親と話し合う言葉に変わっていく。

ここで手がかりになるのが、アレキシサイミア(失感情症)という心理学の言葉です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。基本はアレキシサイミア(失感情症)とはにまとめています。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。

物をため込む本人も、それを見つめる家族も、実はどちらも感情迷子になっていることがあります。本人は「なぜ捨てられないのか」を言葉にできず、家族は「この気持ちが何なのか」を言葉にできない。二つの言葉にならない感情がぶつかり合うことで、家の前に立ち尽くす状況が生まれるのです。

よくある相談の典型例
「母の家に行くたびにけんかになって、
もう行きたくないんです」
場面50代の女性・会社員。70代後半の母が一人で暮らす実家は、父が亡くなってから少しずつ物が増え、今では玄関から台所まで細い通路しかない。帰省するたびに片づけを勧めるが、母は「いつか使う」「思い出があるの」と言って譲らない。近所の人から「火事が心配」と言われ、恥ずかしさと申し訳なさで頭がいっぱいになった。
これは、いくつもの相談に共通する要素を組み合わせた典型例です。「行きたくない」という言葉の下には、母への怒り、近所への恥ずかしさ、母を一人にしている罪悪感、そして元気だった頃の母がいなくなっていくような悲しみが重なっています。父を亡くしたあとに物が増えたという流れにも、言葉にならない喪失の気配があります。

数字と研究で見る|ためこみ症は独立した診断名になった

物をため込む状態は、長いあいだ「性格の問題」や「片づけられない人」として語られてきました。けれど1990年代から、アメリカの心理学者ランディ・フロスト(Randy Frost)やゲイル・スティケティー(Gail Steketee)らによって研究が進み、心理的な仕組みが少しずつ明らかになってきました。押さえておきたい知見を整理します。

数字・概念内容出典
2013年アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5で、「ためこみ症(Hoarding Disorder)」が独立した診断名になったAmerican Psychiatric Association(DSM-5)
ICD-11世界保健機関の国際疾病分類でも、強迫症に関連する状態の一つとして「ためこみ症」が位置づけられたWHO(ICD-11、2022年発効)
成人の約2〜6%DSM-5に記載されている、ためこみ症の有病率の推定American Psychiatric Association(DSM-5)
3つの要素①物を手に入れすぎる ②手放すことが難しい ③整理が難しい、という3つの要素で説明する認知行動モデルFrost & Hartl(1996)
9段階の写真部屋の散らかり具合を、9段階の写真と見比べて評価する尺度(Clutter Image Rating)Frost et al.(2008)

DSM-5での診断の考え方の中心は、実際の価値とは関係なく、物を捨てたり手放したりすることが持続的に難しく、それは「保存しておきたい」という強い思いと、捨てることにともなう苦痛によるものだという点です。その結果、住まいが物でふさがり、本来の使い方ができなくなります。

大切なのは、家族がこの記事を読んで「母はためこみ症だ」と決めつけないことです。物が増える背景には、認知症、うつ病、体の衰え、ほかの心の状態など、さまざまな可能性があります。診断ができるのは医師だけです。ここで知っておいてほしいのは、ため込みには理由があり、責めても解決しないという一点です。

物を捨てられないのは、
だらしないからではなく、
手放すことが、それほど苦しいから。

「なぜ捨てられないの」の答え|物に宿る感情と、捨てることの喪失

家族からすると、古い新聞や空き箱、使っていない食器がなぜ大切なのか、理解しにくいものです。けれど本人にとって、それぞれの物には、言葉にならない感情が結びついています。フロストとスティケティーは、著書『Stuff』の中で、ため込む人が物に向ける思いを、思い出、役に立つかもしれないという考え、安心感など、いくつかの面から描いています。

物に結びついている「言葉にならない感情」 家族には「ただの物」でも、本人には手放すと痛む理由がある 「全部いるもの」 表に出てくる言葉 水面 思い出 捨てると、その時間や 人まで失う気がする → 喪失の恐れ いつか役に立つ 捨てるのはもったいない 無駄にしたくない → 罪悪感・後悔の恐れ 安心 物に囲まれていると 守られている気がする → 不安・さみしさ 自分の一部 物を否定されると、自分を否定された気持ちになる 水面の下の感情に触れずに片づけると、本人には「奪われた」体験になる
▲ 「全部いるもの」という言葉の下には、思い出を失う恐れ、無駄にしたくないという罪悪感、物に囲まれる安心感、そして物が自分の一部になっている感覚などが隠れていることがあります。家族が水面の下に目を向けることが、話し合いの入口になります。

とくに、配偶者を亡くしたあと、退職したあと、子どもが家を出たあとなど、大きな喪失や役割の変化をきっかけに物が増えていくという相談は少なくありません。人とのつながりや役割が減っていく中で、物が心のすき間を埋めていることがあるのです。

こう考えると、「捨てなさい」という言葉が、本人にとってどれほど重いかがわかります。家族は「ゴミを捨てて」と言っているつもりでも、本人には「あなたの思い出も、安心も、あなたの一部も手放しなさい」と聞こえているかもしれません。だからこそ、本人は強く抵抗するのです。

そして本人もまた、なぜこれほど苦しいのかを言葉にできないことが多くあります。「いるものはいる」としか言えないのは、その下にある感情に名前がついていないからでもあります。

無理な一斉撤去が逆効果になる理由

家族が思い詰めて、本人の留守中に業者を呼んで一気に片づけてしまう。あるいは「今日こそ全部捨てる」と、本人の反対を押し切って運び出す。こうした本人の同意のない一斉撤去は、一時的に部屋をきれいにしても、多くの場合、長続きしません。

本人の同意のない一斉撤去本人と少しずつ進める支援
本人は「大切なものを奪われた」と感じる本人が「自分で選んだ」と感じられる
家族や支援者への不信が深まる信頼関係が少しずつ育つ
喪失の苦しさから、再び物を集めやすい手放す苦しさに少しずつ慣れていける
その後の支援を拒まれやすくなる次の相談につながりやすい

ため込みの研究や支援の現場では、本人の同意のない強制的な片づけは、本人に強い苦痛を与え、再びため込む結果につながりやすいことが指摘されてきました。家族にとっては「やっと片づいた」と思えても、本人にとってはつらい喪失体験として残り、親子の関係そのものが壊れてしまうこともあります。

まず「安全」から考える

では、何もしないで待つしかないのかというと、そうではありません。支援の現場では、ハーム・リダクション(害を減らす)という考え方が用いられることがあります。一度にすべてを片づけるのではなく、まず命と健康を守ることを優先する、という考え方です。

  • 玄関から寝室、トイレまで、つまずかずに歩ける通路を確保する
  • ガスコンロやストーブ、コンセントの周りから燃えやすい物を離す
  • 階段や廊下に物を置かないようにする
  • 冷蔵庫の中の傷んだ食べ物など、健康に関わる物から話し合う
  • 火災警報器が働いているか確かめる

「全部片づけて」ではなく、「お母さんが転ばないように、この通路だけ一緒に空けよう」と、目的を本人の安全に絞って伝えると、受け入れてもらいやすくなります。

中島輝より一言

物があふれた家の相談で、私はご家族にまず「お母さんは、その物たちの話をしてくれたことがありますか?」とお尋ねします。多くの方が「捨てるか捨てないかの話しかしたことがない」とおっしゃいます。一つの物の思い出を聞くことは、片づけを遠回りさせるようで、実は一番の近道です。自分の気持ちを聞いてもらえたと感じた人は、少しずつ、自分から手放す準備を始められます。

家の前で立ち尽くす家族の感情|恥・怒り・罪悪感・悲しみ

ここからは、家族の側の感情に目を向けます。物をため込む親を持つ家族は、いくつもの感情が同時に押し寄せて、何を感じているのか自分でもわからなくなることがよくあります。

感情よくある場面言葉にすると
怒り何度言っても聞いてくれない「わかってもらえなくて悔しい」
恥近所の人やケアマネジャーに家を見られる「親の家を見られるのが恥ずかしい」
罪悪感離れて暮らしていて、気づくのが遅れた「もっと早く手を打てばよかった」
悲しみきれい好きだった親が変わってしまった「昔の母がいなくなっていくようでさみしい」
不安火事や転倒、近所からの苦情「何かあったらと思うと怖い」
あきらめ何をしても変わらない気がする「もう疲れてしまった」

このうち、とくに言葉にしにくいのが「恥」です。親の家がゴミ屋敷と呼ばれる状態にあることを、友人にも職場にも、きょうだいにさえ話せない。恥は人を孤立させる感情です。そして孤立すると、家族はますます一人で解決しようとして、強引な手段に追い込まれていきます。

もう一つ見落としやすいのが「悲しみ」です。家族が親に強く怒ってしまうとき、その下には「元気だった頃の親がいなくなっていく」という喪失の悲しみがあることが少なくありません。怒りの下にある悲しみに名前がつくと、親を責める言葉は、親を心配する言葉に変わっていきます。

実家の片づけや実家じまいの場面で手が止まる感情については、実家じまいと言葉にならない気持ちでも扱っています。この記事では、親が今もその家で暮らし、物を手放せずにいる状況に絞ってお話ししています。

アドラー心理学で見る|ため込みの「目的」と課題の分離

私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方の中から、ため込みに悩む家族の助けになる2つを紹介します。

目的論|「なぜ」より「何のために」

アドラー心理学の目的論は、人の行動を「原因」ではなく「目的」から見る考え方です。「なぜ捨てられないのか」と原因を問い詰めると、本人は責められていると感じ、言い訳や沈黙で身を守ろうとします。かわりに、「この物を持っていることで、お母さんは何を守っているのだろう」と目的に目を向けてみます。

思い出を守っているのかもしれない。誰かの役に立てる自分を守っているのかもしれない。一人の夜の不安から、自分を守っているのかもしれない。目的が見えてくると、物そのものではなく、その目的を別の形で満たす方法を一緒に考えられるようになります。思い出なら写真に残す。役に立ちたい気持ちなら、地域の集まりや孫との時間につなげる。不安なら、見守りや人とのつながりを増やす。

この目的論は、家族自身にも使えます。親に強く言ってしまう自分の怒りは、何のためにあるのか。親を変えるためか、近所に申し訳が立つようにするためか、それとも自分の不安を静めるためか。自分の怒りの目的に気づくと、伝え方を選び直せます。

課題の分離|物は親の課題、安全は一緒に考える課題

「課題の分離」は、岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった整理です。目の前のことが「誰の課題か」を見分け、他人の課題には踏み込まず、自分の課題には責任を持ちます。

家の中の物をどうするか、何を残し何を手放すかは、まずその家で暮らす親自身の課題です。家族がどれほど正しいと思っても、本人の代わりに決めてしまえば、本人の課題を取り上げることになります。一方で、自分の気持ちを伝えること、相談先につながること、自分の生活を守ることは、家族の課題です。

ため込みをめぐる「課題の分離」 誰の課題かを分けると、責め合いが話し合いに変わる 親の課題 何を残し、何を手放すか どんな暮らしを望むか 支援を受け入れるか 共同の課題 火事・転倒を防ぐ 衛生と健康を守る 近隣の安全に配慮する (専門職・行政も交えて) 家族の課題 自分の気持ちを伝える 相談先につながる 自分の生活と心を守る 「全部捨てて」ではなく「転ばない通路を一緒につくろう」と、共同の課題から話す
▲ 物をどうするかは親の課題、気持ちを伝え相談につながるのは家族の課題です。そのあいだに、火事や転倒、衛生など、親の命と近隣の安全に関わる「共同の課題」があります。話し合いは、この共同の課題から始めると受け入れられやすくなります。

ただし、課題の分離は「放っておく」ことではありません。命や健康、近隣の安全に関わることは、家族と行政、専門職が一緒に考える共同の課題です。そこは遠慮せず、次の章で紹介する相談先につないでください。

幹を太くする|自己受容感を育てる感情の言語化ワーク

自己肯定感の「6つの感」は、木にたとえることができます。根にあたる自尊心≒自己存在感、幹にあたる自己受容感、枝にあたる自己効力感、葉にあたる自己信頼感、花にあたる自己決定感、実にあたる自己有用感です。

ため込みの問題で揺らぐのは、「ありのままの自分を受け入れる」自己受容感です。本人は「片づけられない自分」を恥じ、家族は「親を変えられない自分」「親に怒ってしまう自分」を責めます。どちらも、自分の感情を否定するほど、幹は細くなっていきます。「怒っていい」「恥ずかしいと感じていい」と自分の感情を認めることが、幹を太くし、落ち着いて話し合う力になります。

ワーク1|30秒
今日のオノマトペで、家の前の気持ちを言う

実家の玄関を開ける前に、いまの気持ちを擬音語で一つ言ってみます。「ずーん」「もやもや」「かっか」「ひやっ」。感情の名前が出てこないときも、オノマトペなら出てきやすいものです。家に入る前に自分の状態を知っておくと、強い言葉が出る前に気づけます。

ワーク2|1分
3段階温度計で「今日は話せる日か」を決める

自分の気持ちの温度を、「1:落ち着いている」「2:イライラしている」「3:もう爆発しそう」の3段階で測ります。「3」の日は、片づけの話をしない日と決めます。お茶を飲んで帰るだけでもかまいません。話し合う日を自分で選べると、けんかの繰り返しから抜け出せます。

ワーク3|1分
比喩レッスンで、言葉にならない気持ちを表す

「この家を見たときの気持ちは、まるで〇〇みたい」と、たとえで表してみます。「出口のない迷路みたい」「重たい荷物を背負わされたみたい」「昔の母が物の山に埋もれていくみたい」。比喩は、名前のつかない感情をすくい上げる網になります。最後の例のように、比喩から悲しみに気づく人もいます。

ワーク4|30秒
感情ことば帳に「怒り以外」を一語

実家から帰ったあと、スマートフォンのメモに「怒り」以外の感情を一語だけ書きます。「さみしい」「心配」「申し訳ない」「懐かしい」。怒りの下にある感情を一つ見つける練習です。

ワーク5|1回5分
物の思い出を、一つだけ聞く

次に実家に行ったとき、片づけの話をする前に、一つの物について「これ、どうしたものなの?」と聞いてみます。親が語る思い出を、否定せずに最後まで聞きます。聞いてもらえたという体験は、親の自己受容感を支え、自分から手放すことを考える余地をつくります。

親に怒ってしまう自分も、
恥ずかしいと思う自分も、そのままでいい。
感情を認めたところから、話し合いは始まる。

ひとりで抱えない|行政・地域包括支援センターと支援者の役割

ため込みの問題は、家族だけで解決しようとすると行き詰まりやすいものです。早めに外の力を借りることは、親を見捨てることではなく、親を守ることです。

  • 地域包括支援センター:親が65歳以上なら、最初の相談先になります。介護保険のサービス、見守り、ケアマネジャーとの連携などを相談できます。
  • 市区町村の福祉や環境の担当窓口:自治体によっては、いわゆるゴミ屋敷への対応の仕組みや条例を設けているところもあります。
  • 保健所・精神保健福祉センター:心の健康についての相談を受けています。
  • かかりつけ医・医療機関:物が急に増えた、もの忘れが目立つ、気分が沈んでいるなどの変化があれば、医師に相談してください。診断や治療の判断は医師にゆだねます。

本人が自分の健康や生活を保てなくなっている状態は、「セルフ・ネグレクト(自己放任)」と呼ばれることがあります。食事や入浴ができていない、病気を放置している、などの様子があれば、ためらわずに地域包括支援センターや自治体に相談してください。

支援者の方へ

民生委員、ケアマネジャー、自治体の職員など、ため込みのある家に関わる支援者の方にもお伝えしたいことがあります。近隣からの苦情と、本人の拒否のあいだで板挟みになるのは、とてもつらい立場です。本人の「いらない、来ないで」は、恥ずかしさや、物を奪われることへの恐れの表れであることが少なくありません。物の話から入らず、体調や暮らしの困りごとの話から、少しずつ関係をつくっていくことが大切です。

そして、支援者自身の感情にも目を向けてください。無力感、いら立ち、悲しみ。それを支援者同士で言葉にして共有できる場があると、燃え尽きを防げます。認知症の家族と向き合う場面については認知症の家族と感情の言語化も参考にしてください。

よくあるご質問

親の留守中に業者を呼んで、一気に片づけてもいいでしょうか。
本人の同意のない一斉撤去は、本人に深い喪失感と不信を残し、再び物を集める結果になりやすいと指摘されています。親子の関係が壊れてしまうこともあります。まずは通路の確保や火の元の安全など、命に関わることから、本人と一緒に少しずつ進めてください。困ったときは、地域包括支援センターなどに相談しながら進めることをおすすめします。
親は「ためこみ症」なのでしょうか。
この記事で紹介した内容だけで判断することはできません。物が増える背景には、認知症やうつ病、体の衰えなど、さまざまな可能性があります。診断ができるのは医師だけです。気になる変化があれば、かかりつけ医などに相談してください。大切なのは病名をつけることより、本人がなぜ手放すことに苦しんでいるのかに目を向けることです。
近所の人に謝ってばかりで、恥ずかしくて仕方ありません。
恥ずかしさは、とても言葉にしにくく、人を孤立させる感情です。まず「私は恥ずかしいと感じている」と自分で認めてみてください。そのうえで、一人で抱え込まず、自治体や地域包括支援センターに相談することが、近隣の安全を守ることにもつながります。あなたが親の状態のすべてに責任を負う必要はありません。
親に会うたびに怒ってしまい、自己嫌悪になります。
怒りの下には、さみしさや心配、元気だった頃の親を失っていくような悲しみが隠れていることがあります。会う前に3段階温度計で自分の状態を測り、「3」の日は片づけの話をしないと決めておくのも一つの方法です。怒ってしまったあとは、「さっきは心配で、きつく言ってしまった」と一言伝えるだけでも、関係は少しずつ変わっていきます。
親が支援を拒んで、誰も家に入れようとしません。
支援を拒むのは、恥ずかしさや、物を奪われる恐れからであることが少なくありません。片づけの話ではなく、体調や暮らしの困りごとの話から入ると、受け入れてもらいやすくなることがあります。食事や入浴ができていない、病気を放置しているなど、命や健康に関わる心配があるときは、ためらわずに地域包括支援センターや自治体に相談してください。
片づけられない親の家の前で立ち尽くすあなたへ。
その怒りの下には、悲しみと心配がある。
物の話の前に、気持ちの話から始めよう。
親の課題は親に返し、命と安全は一緒に守る。
ひとりで抱えず、外の力を借りていい。

自分を大切にしよう

物があふれて暮らしに支障が出るほどのため込みは、だらしなさではなく、物を手放すことに強い苦痛をともなう「手放せなさ」から生まれていることが多くあります。2013年にはDSM-5で「ためこみ症」が独立した診断名として位置づけられ、フロストらの研究によって、その心理的な仕組みが明らかにされてきました。本人にとって、捨てることは思い出や安心、自分の一部を失う喪失でもあるのです。だからこそ、本人の同意のない一斉撤去は、深い傷と不信を残しやすくなります。

アドラー心理学の目的論は、「なぜ捨てられないのか」ではなく「この物で何を守っているのか」に目を向けることを教えてくれます。課題の分離は、物をどうするかは親の課題、気持ちを伝え相談につながるのは家族の課題、命と安全は一緒に考える課題だと整理する手がかりになります。今日のオノマトペ、3段階温度計、比喩レッスン、感情ことば帳、物の思い出を聞くワーク。怒りも恥も悲しみも、自分の感情として認めるたびに、自己受容感という幹が少しずつ太くなっていきます。

家の前で立ち尽くしてしまうのは、あなたが親を大切に思い、どうにかしたいと願っているからです。地域包括支援センターや自治体、医療機関など、一緒に考えてくれる人は必ずいます。自分を大切にしよう。親の暮らしを心配するあなた自身の暮らしと心も、同じように守られていいものです。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition (DSM-5).(ためこみ症 Hoarding Disorder)
  • World Health Organization. International Classification of Diseases 11th Revision (ICD-11).
  • Frost, R.O., & Hartl, T.L. (1996). A cognitive-behavioral model of compulsive hoarding. Behaviour Research and Therapy, 34(4), 341-350.
  • Frost, R.O., Steketee, G., Tolin, D.F., & Renaud, S. (2008). Development and validation of the Clutter Image Rating. Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment, 30, 193-203.
  • Frost, R.O., & Steketee, G. (2010). Stuff: Compulsive Hoarding and the Meaning of Things. Houghton Mifflin Harcourt.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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