「いや」と言える子は自分を守れる|からだの境界と感情の言語化

『いや』と言える子は自分を守れる|からだの境界と感情の言語化

『いや』と言える子は自分を守れる
からだの境界と感情の言語化

親戚の集まりで、久しぶりに会ったおじさんが「大きくなったな」と子どもを抱き上げようとする。子どもは体をこわばらせて、親の後ろに隠れる。とっさに口から出るのは「ほら、ごあいさつは?」「いい子にしてて」。どこの家庭にもある、ほんの数秒の場面です。けれども、この数秒に、子どもが自分のからだと心を守る力の芽が隠れています。「いや」と言えることは、わがままではありません。自分の感じたことに気づき、それを言葉にできる力です。この記事では、幼児から小学生の子をもつ保護者の皆さんに向けて、からだの境界と「いやな気持ち」の言語化を、家庭で無理なく育てる方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「いや」が言えない子は、わがままを言わない子ではない

よくある相談の典型例
「くすぐられて笑っているから、
てっきり楽しいんだと思っていました」
場面5歳の子をもつ30代の母親。いとこのお兄さんにくすぐられて、子どもはずっと笑っていた。ところがその夜、布団の中で「もうやだった」とぽつりと言った。母親は「笑っていたのに、どうして言わなかったの?」と聞きかけて、言葉をのみこんだ。
幼い子どもは、からだが「いやだ」と感じていても、それを「いや」という言葉に結びつけるのがまだ難しいことがあります。笑いは、楽しさだけでなく、緊張や戸惑いから出ることもあります。夜になって安心したときに、ようやく気持ちが言葉に追いついたのです。

「うちの子は素直で、いやなんて言わないんです」。そう話してくださる保護者の方は少なくありません。手がかからないことは、親にとってありがたいことです。けれども、「いや」と言わないことと、「いや」と感じていないことは、同じではありません。

自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はあるのに言葉に届きにくい状態です(くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒント)。一般の人の約1割に強い傾向が見られ、誰もが濃淡をもっている特性だと考えられています。

幼児や小学校低学年の子どもは、そもそも感情を言葉にする力を育てている途中です。大人と同じようには言えなくて当然です。そのうえで、周りの大人が「いやな気持ちは言ってはいけないもの」というメッセージを、知らず知らずのうちに送っていると、子どもは感じたことを口に出す前にしまい込むクセを身につけていきます。

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。子どもの「いや」も、言葉にしてよい場所があれば、ちゃんと帰ってきます。

「いや」は、わがままではない。
「私はこう感じている」という、
からだと心からの大切な報告。

数字で見る、子どもを守る仕組みと「からだの学び」

子どもを守るための社会の仕組みは、この十数年で大きく変わってきました。家庭での関わりを考える前に、いま何が起きているのかを数字と制度で確認しておきます。

189
児童相談所虐待対応ダイヤル「いちはやく」。
子どものことで心配なとき、近くの児童相談所につながる全国共通の番号
出典:こども家庭庁(通話料無料・24時間)公的窓口
数字・年内容家庭への意味
20万件超全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数(年間)。統計を取り始めてから増え続け、過去最多の水準が続いている(こども家庭庁・厚生労働省の統計)周りの大人が「気づいて、相談する」ことが社会に広がってきた表れでもある
2023年度〜文部科学省・内閣府が作成した「生命(いのち)の安全教育」を全国の学校で推進。幼児期から高校・大学向けまでの教材がある「水着で隠れるところは自分だけの大切なところ」といった内容を、園や学校でも学ぶ時代になった
2009年
(2018年改訂)
ユネスコなどが『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を公表。5歳からの年齢に応じた学びを整理からだ・同意・人との境界は、年齢に合わせて少しずつ教えるもの、という国際的な考え方
1961年カタン(Katan)の観察。保育園の子どもに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールと考える力が伸びた「いやな気持ち」に名前をつける練習は、幼児期から意味がある
2007年リーバーマン(Lieberman)らの研究。感情に名前をつけると、脳の扁桃体の反応が落ち着く「いやだったね」と言葉にしてもらうだけで、子どもの心は少し静まる

ここで伝えたいのは、怖がらせることではありません。子どもを守る仕組みは、子ども自身の「いや」と、それを受けとめる大人の耳がそろって、はじめて働くということです。どんなに良い教材があっても、家に帰って「いや」と言えなければ、その学びは生かされません。

中島輝より一言

講演で「子どもに『いや』と言わせると、わがままになりませんか」と質問されることがあります。私はいつも、「いやと言える子ほど、人の『いや』も大切にできるようになります」とお答えしています。自分の境界を知っている子は、相手にも境界があることに気づけるからです。

からだの境界とは|プライベートゾーンを年齢に合わせて伝える

からだの境界とは、「ここから先は自分のもの。触れてよいかどうかは自分が決める」という見えない線のことです。大人は自然にこの線をもっていますが、子どもは周りの大人との関わりの中で、少しずつこの線を育てていきます。

プライベートゾーンは「水着で隠れるところ」と「口」

幼児期からよく使われる伝え方が、プライベートゾーンです。水着を着たときに隠れるところと、口。そこは自分だけの大切な場所で、ほかの人に見せたり触らせたりしなくていい。ほかの人のその場所も、見たり触ったりしない。この二つをセットで伝えます。

年齢の目安伝え方の例
2〜3歳ごろお風呂や着替えのときに、からだの部位の名前を普通の言葉で伝える。「ここは大事なところだから、タオルで隠そうね」
4〜5歳ごろ「水着で隠れるところと口は、あなただけの大切なところ。いやなときは『いや』って言っていいし、すぐおうちの人に話してね」
小学校低学年「家族でも、お医者さんでも、さわる前には『いい?』と聞くものなんだよ。いやなのにさわられそうになったら、逃げて、話していい」
小学校高学年からだの変化とあわせて、ネットやSNSでの写真のやりとりにも境界があることを話す。「写真を送ってと言われたら、一人で決めずに相談してね」

伝えるときに大切なのは、恥ずかしそうにしたり、怖い話として語ったりしないことです。大人がもじもじすると、子どもは「この話題は口にしてはいけないんだ」と受けとります。歯みがきや手洗いと同じトーンで、からだを大切にする話として伝えてください。

「いやな秘密」と「うれしい秘密」

もう一つ、幼児期から伝えておきたいのが秘密の区別です。誕生日のプレゼントのように、あとで相手がよろこぶ秘密は「うれしい秘密」。からだのことや、いやな気持ちになることを「誰にも言っちゃだめ」と言われたら、それは「いやな秘密」。いやな秘密は、守らなくていい。おうちの人や先生に話していい。この一言があるだけで、子どもは迷ったときに話してよいと知ることができます。

子どもに伝えたい「からだを守る3つの合言葉」 どれも、まず「いやな気持ち」に気づくところから始まる いや 「やめて」「いや」と 声に出していい 言えなくても あなたは悪くない にげる その場をはなれて 安全な大人のところへ 失礼かどうかは 気にしなくていい はなす おうちの人や先生に 「いやだった」と話す あとからでも 何日たってからでもいい 土台にあるのは「いやな気持ちに気づく力」と「話せば受けとめてもらえる」という安心 合言葉を覚えるだけでは足りない。家庭での毎日の小さな「いや」の受けとめが、いざというときの力になる
▲ 子どもの安全教育でよく使われる「いや・にげる・はなす」の考え方。言えなかった、逃げられなかったとしても、子どもは悪くありません。そのことも必ずセットで伝えます。

この3つの合言葉には、とても大切な前提があります。「いやだ」と感じたことに、子ども自身が気づけることです。そして、言えなかったとしても、あとから話してよいと知っていること。からだの境界を守る力は、感情に気づき、言葉にする力と、深くつながっています。

「いやな気持ち」は体から始まる|感情の言語化と境界

感情は、いきなり言葉として生まれるわけではありません。まず体に反応が起きます。おなかがきゅっとする。肩がかたくなる。顔が熱くなる。息が止まる。その体の感覚に気づき、「これは『いや』なんだ」と名前をつける。この流れが育っていると、子どもは境界を越えられそうになったとき、すばやく反応できます。

心理学者のレイン(Lane)とシュワルツ(Schwartz)は、感情の気づきは「体の感覚だけ」の段階から、「いい・いや」といった大まかな言葉の段階、さらに細かな感情を見分ける段階へと、順に育っていくと考えました。幼児期の子どもは、まさに体の感覚を「いや」「すき」という最初の言葉に結びつける練習をしているところです。

家庭でできる小さな練習

練習1|3秒
心の体温チェック

朝の着替えや寝る前に、「今日の心は、ぽかぽか?ふつう?ひんやり?」と聞きます。答えられなくても大丈夫です。大人が「ママは今日ちょっとひんやり。眠いからかな」と自分の気持ちを先に言ってみせると、子どもは「気持ちは言っていいもの」と学びます。

練習2|30秒
今日のオノマトペ

「いや」の手前には、言葉にならない感覚があります。「ぞわぞわ」「もやもや」「ぎゅっ」「どきどき」など、擬音語で体の感じを言ってもらいます。「さっき、ぞわぞわした?」と聞いてみると、子どもは自分の体の声に耳を澄ませるようになります。

練習3|1分
3段階温度計

「いや」にも大きさがあります。指を1本、2本、3本と立てて、「ちょっといや」「けっこういや」「すごくいや」を表してもらいます。大きさを分けられると、「1本くらいなら我慢できる」「3本のときはすぐ逃げる」と、自分で判断する力が育ちます。

練習4|30秒
感情ことば帳

冷蔵庫に、子どもと一緒に描いた顔のイラストと気持ちの言葉を貼っておきます。「いや」「こわい」「はずかしい」「びっくり」「ほっとした」。指さすだけで気持ちを伝えられる道具があると、言葉が出にくい子も「いや」を伝えやすくなります。

からだの「ぞわぞわ」に気づける子は、
境界を越えられそうなとき、
すばやく自分を守ることができる。

「いい子にして」「ちゃんとあいさつして」の思わぬ副作用

親が「いい子にしてね」と言うとき、そこに悪意はまったくありません。人前で恥ずかしくないように、相手を不快にさせないように。しつけとして、とても自然な言葉です。ただ、言い方や場面によっては、子どもに次のようなメッセージとして届いてしまうことがあります。

大人の言葉子どもに届きやすいメッセージ言いかえの例
「いい子にしてて」いやな気持ちは出さないほうがいい「困ったら、ママの手をぎゅってしてね」
「ほら、ハグしてあげて」自分のからだのことは、大人が決める「ハグでも、手をふるだけでも、ハイタッチでもいいよ」
「笑ってたじゃない」笑っていたなら、いやだったはずがない「笑ってたけど、本当はいやだったんだね」
「そんなことで泣かないの」この程度の「いや」は、いやと感じてはいけない「びっくりしたね。いやだったね」
「おじさんがかわいそうでしょ」相手の気持ちのほうが、自分の気持ちより大事「おじさんにはママから言っておくね」

とくに注意したいのが、親戚や知人とのからだの触れあいです。「せっかく会いに来てくれたのに」「失礼でしょう」と、子どもの「いや」より大人の関係を優先してしまう場面は、どの家庭にも起こります。けれども、子どもが体をこわばらせているとき、その感覚は本物です。

そんなときは、親が子どもの代わりに境界を言葉にしてあげてください。「今日はちょっと照れてるみたい。手をふるのでいいかな?」。相手の大人も、たいていは笑って受けとめてくれます。そして子どもは、「自分の『いや』を、お母さんは守ってくれる」という経験を一つ積みます。

「いい子」と「自分を守れる子」は両立する

あいさつや思いやりを教えることと、からだの境界を教えることは、対立しません。あいさつは言葉で、からだの触れあいは本人が選ぶ。この線を引くだけで、礼儀と安全は両立します。手のかからない「いい子」の心の中については、『手のかからないいい子』ほど危ない?|我慢する子どもと感情の言語化でもくわしく取り上げています。

中島輝より一言

私は5歳のとき、育ててくれた里親が夜逃げをして、その日を境に感情を出すのをやめました。泣いても、いやだと言っても、状況は変わらない。幼い私はそう学んで、「いや」を言わないことで自分を守ろうとしたのだと思います。だからこそ、子どもの「いや」が届く場所の大切さを、身にしみて感じています。「いや」と言える場所があることは、それだけで子どもの心の命綱になります。

同意の考え方を家庭で|「いいよ」も「いや」も選べるように

同意(consent)という言葉を聞くと、大人の話のように感じるかもしれません。けれども、その中身はとてもシンプルです。「相手のからだや持ち物に触れる前には、『いい?』と聞く。相手は『いいよ』も『いや』も選べる。『いや』と言われたら、やめる」。これなら、幼児にも伝えられます。

年齢に合わせた同意の伝え方

幼児期
「いい?」と聞く習慣を、大人が見せる

着替えを手伝うとき、髪を結ぶとき、写真を撮るとき。「シャツ、脱がせてもいい?」「写真、撮ってもいい?」と一言聞きます。大人が子どものからだに触れる前に許可をとる姿が、何よりの教材になります。

小学校低学年
遊びの中で「やめて」を練習する

くすぐりっこや追いかけっこの最中に、「『ストップ』って言ったら、すぐやめるルールね」と決めておきます。子どもが「ストップ」と言ったら、大人は必ずすぐやめる。この一貫性が、「自分の言葉には力がある」という感覚を育てます。

小学校高学年
気持ちが変わってもいいことを伝える

「さっきはいいよと言ったけど、やっぱりいや」も、言ってよいこと。友だちとの写真の共有やSNSでの投稿も、相手の「いいよ」が必要なこと。同意は一度きりの返事ではなく、いつでも取り消せることを話してみてください。

同意を教えるときにもう一つ大切なのは、子どもが友だちに「いや」と言われたときの気持ちも受けとめることです。「いやって言われて、悲しかったね」。自分の「いや」が尊重される経験と、相手の「いや」を尊重して少しさみしい思いをする経験。その両方が、境界の感覚を育てます。

「いい?」と聞く。
「いいよ」も「いや」も、どちらも正解。
「いや」と言われたら、やめる。

子どもが「いやなことがあった」と話してくれたら

からだの境界を教えていくと、ある日、子どもが「〇〇くんにいやなことされた」「先生にさわられて、いやだった」と話してくれることがあります。内容によっては、大人の心が大きく揺れます。だからこそ、その瞬間の受けとめ方を、前もって知っておくことが助けになります。

  • 手を止めて、子どもの目線の高さで聞く
  • 「話してくれてありがとう」「話してくれてうれしい」と最初に伝える
  • 「あなたは悪くない」とはっきり言う
  • 「どうしてすぐ言わなかったの」「本当なの?」と問い詰めない
  • 根掘り葉掘り聞き出そうとせず、子どもが話したことをそのまま受けとめる
  • 話した内容をメモしておく(子どもの言葉のまま)
  • 大人が一人で抱えず、相談先につなぐ

大人の驚きや怒りは、子どもに「話したせいで大変なことになった」と受けとられることがあります。気持ちが揺れたら、まず深呼吸をして、「教えてくれて本当によかった」と伝えてください。くわしい事情を聞き取るのは、専門の機関に任せてよいのです。何度も同じ話をさせることは、子どもの負担になります。

相談できるところ

子どものことで心配なときの相談先
児童相談所虐待対応ダイヤル 189(いちはやく・24時間)
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター #8891
警察の性犯罪被害相談電話 #8103
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(文部科学省)
チャイルドライン 0120-99-7777(18歳まで)
命や安全に危険が迫っているときは、迷わず110番・119番へ

「虐待とまでは言えないかもしれない」「確信がない」と迷う必要はありません。189は、心配な気持ちを相談するための番号でもあります。園や学校、かかりつけの小児科、自治体の子育て相談窓口に話してみることもできます。医学的なことや心のケアについては、医師や専門家と相談しながら進めてください。

アドラー心理学で考える|課題の分離と横の関係

オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の心理学は、子育てと教育の分野で大きな影響を与えてきました。私も長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。からだの境界を考えるとき、とくに役に立つのが次の二つの考え方です。

課題の分離|「からだのことを決めるのは、その子自身」

課題の分離とは、「それは最終的に誰が引き受けることなのか」で、自分の課題と相手の課題を分ける考え方です。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになりました。

からだに触れられるかどうかは、その子のからだの持ち主である、その子自身の課題です。親戚のおじさんががっかりするかどうかは、おじさんの課題。親は、子どもの代わりに「ハグしなさい」と決めることはできません。親にできるのは、子どもが自分で選べるように環境を整えること、そして子どもが選んだ「いや」を守ることです。

一方で、課題の分離は「放っておく」ことではありません。子どもの安全を守ることは、親と大人の課題です。子どもが「いや」と言えなかったとしても、それを子どもの責任にはしません。境界を教えることと、守りきれなかったことを子どもに背負わせないことは、いつもセットです。

横の関係|「言うことを聞かせる」から「一緒に考える」へ

アドラー心理学では、上から評価したり命令したりする縦の関係ではなく、立場は違っても人として対等な横の関係を大切にします。親子は年齢も役割も違いますが、「あなたの気持ちは、私の気持ちと同じくらい大切」という姿勢は持つことができます。

縦の関係の中で「大人の言うことを聞くのがいい子」と教えられた子は、大人から「いや」なことをされたときにも、言うことを聞かなければと感じてしまうおそれがあります。横の関係の中で育った子は、「大人にも『いや』と言っていい」と知っています。それは、反抗的になることではなく、自分を守る力を持つことです。

縦の関係と横の関係で、子どもの「いや」はどう変わる? 縦の関係 大人 子 「言うことを聞くのがいい子」 →「いや」をしまい込みやすい 横の関係 大人 子 「あなたの気持ちも同じくらい大切」 →「いや」を言葉にしやすい
▲ 縦の関係では、子どもは大人の期待に合わせて感情をしまいやすくなります。横の関係では、気持ちが双方向に行き来し、「いや」も言葉になりやすくなります。

6つの感の根を育てる|自尊心≒自己存在感と「いや」の力

自己肯定感は、一本の木にたとえることができます。根にあたるのが自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。この「6つの感」のうち、からだの境界といちばん深くつながっているのが、根の自尊心≒自己存在感です。

自尊心≒自己存在感とは、「自分はここにいていい。自分は大切な存在だ」と感じられる感覚のことです。「自分のからだは自分のもの」「自分の気持ちは大切にされていい」という感覚は、この根から育ちます。根がしっかりしている子は、誰かに境界を越えられそうになったとき、「これはおかしい」と感じ、「いや」と言うことができます。

日々の関わり育つ感覚
「いや」と言ったら、受けとめてもらえた自分の気持ちには価値がある(自尊心≒自己存在感)
「いやだったね」と名前をつけてもらえたこの気持ちは感じていい(自己受容感)
「ストップ」と言ったら、大人がやめてくれた自分の言葉で状況を変えられる(自己効力感)
ハグするか手をふるか、自分で選べた自分のことは自分で決めていい(自己決定感)

反対に、「いや」を言うたびに叱られたり、笑ってごまかされたりする経験が重なると、子どもは「自分の感じたことは、たいしたことではない」と学んでしまうことがあります。根が細くなると、思春期以降、友だち関係や恋愛、職場で、相手に合わせすぎて自分を見失いやすくなります。

根を育てるために、特別なことは必要ありません。子どもが「いや」と言ったら、まず「いやなんだね」と言葉で返す。それだけです。いつもその「いや」を聞き入れる必要はありません。歯みがきや道路の手つなぎのように、安全のために「いや」でもやらなければならないことはあります。そのときも、「いやなのはわかったよ。でも、これは大事だからやろうね」と、気持ちを受けとめたうえで行動を決めることができます。

感情を受けとめる関わりについては、「泣かないの!」をやめると子どもは強くなる|感情コーチングとアドラーの勇気づけも参考にしてください。

「いやなんだね」と返してもらえた回数だけ、
子どもの根は深くなる。
根の深い子は、自分を守ることができる。

よくあるご質問

何でも「いや」と言うようになったら、困りませんか?
「いや」を受けとめることと、すべて言うとおりにすることは違います。「いやなんだね」と気持ちを受けとめたうえで、安全や健康のために必要なことは「でも、これはやろうね」と伝えてかまいません。気持ちを言葉にしてもらえた子は、かえって切り替えが早くなることも多いものです。
プライベートゾーンの話は、何歳から始めればいいですか?
お風呂や着替えでからだの部位の名前を覚える2〜3歳ごろから、日常の中で少しずつ伝えられます。一度にまとめて教えるより、絵本や着替えの場面などで、短く何度も繰り返すほうが子どもの心に残ります。園や学校で学んだことを、家で「どんなこと習ったの?」と聞いてみるのもよいきっかけです。
祖父母に「孫を抱っこさせて」と言われると断りにくいです。
祖父母の愛情は本物ですし、悪気はありません。事前に「最近、からだのことは本人が選ぶようにしているの」と伝えておくと、その場で角が立ちにくくなります。子どもには「抱っこでも、手をつなぐのでもいいよ」と選択肢を示し、選べた経験を一緒に喜んでください。
「いや」と言えずに我慢してしまう子には、どうしたらいいですか?
言葉より先に、指で3段階を示す、顔のカードを指さすなど、言葉以外で伝えられる方法を用意してみてください。そして、言えなかったことを責めず、あとから話してくれたら「教えてくれてありがとう」と伝えます。感じ方や伝え方には一人ひとり違いがあります。気になることが続く場合は、園や学校、専門家に相談してください。
子どもがいやな目にあったかもしれないと思ったら、どこに相談すればいいですか?
確信がなくても、児童相談所虐待対応ダイヤル189に相談できます。性に関わる被害が心配なときは、ワンストップ支援センター(#8891)や警察の相談電話(#8103)があります。かかりつけの小児科や園・学校、自治体の子育て相談窓口も頼ってください。一人で抱えず、早めに相談することが子どもを守ります。
「いや」は、わがままではない。
自分のからだと心を守るための、最初の言葉。
その言葉が届く場所を、家庭の中に。
今日、子どもが「いや」と言ったら、
まず「いやなんだね」と返してみませんか。

自分を大切にしよう

「いや」と言える子は、自分を守ることができます。それは、わがままを言う力ではなく、からだの感覚に気づき、それを言葉にし、信頼できる大人に届ける力です。プライベートゾーンや「いやな秘密は話していい」という約束、「いや・にげる・はなす」の合言葉は、その力を形にしたものです。そして、それが本当に働くためには、毎日の小さな「いや」が家庭の中で受けとめられている必要があります。

「いい子にして」「ハグしてあげて」は、愛情から出る言葉です。ただ、あいさつは言葉で、からだの触れあいは本人が選ぶ、という線を引くだけで、礼儀と安全は両立します。アドラー心理学の課題の分離は、「からだのことを決めるのはその子自身。でも、守るのは大人の役目」という整理を、横の関係は「大人にも『いや』と言っていい」という安心を教えてくれます。その積み重ねが、6つの感の根である自尊心≒自己存在感を育てます。

子どものからだと心を守ろうとするとき、親自身も不安や迷いを抱えます。「私も小さいころ、いやと言えなかったな」と思い出す方もいるかもしれません。その気持ちにも、どうか名前をつけてください。自分を大切にしよう。大人が自分の「いや」を大切にする姿こそが、子どもにとって「自分も大切にされていい」と感じられる、いちばん確かなお手本になります。

困ったときの相談先
児童相談所虐待対応ダイヤル 189(24時間)
ワンストップ支援センター #8891/警察の性犯罪被害相談電話 #8103
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310
チャイルドライン 0120-99-7777(18歳まで)
危険が迫っているときは、迷わず110番・119番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • こども家庭庁「児童相談所虐待対応ダイヤル『189』」、児童相談所での児童虐待相談対応件数(年次統計)
  • 文部科学省・内閣府「生命(いのち)の安全教育」教材・指導の手引き
  • UNESCO ほか(2018)『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』(浅井春夫ほか訳、明石書店)
  • Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16.
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5).
  • Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『子どもの教育』(岸見一郎訳、アルテ)
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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