救えなかった命を数えてしまうあなたへ|動物保護活動と感情の言語化

救えなかった命を数えてしまうあなたへ|動物保護活動と感情の言語化

救えなかった命を数えてしまうあなたへ
動物保護活動と感情の言語化

譲渡会で、ずっと残っていた老犬に家族が決まった。帰りの車でひとり泣くほどうれしいのに、家に着くと、先週間に合わなかった子猫の顔が浮かぶ。スマートフォンを開けば、「なぜもっと早く動かない」というコメント。それでも明日の朝には、また給餌とケージの掃除が待っている――。救えなかった命を数えてしまうのは、あなたが弱いからではありません。それだけ一匹一匹の命を真剣に見てきたからです。ただ、その痛みを言葉にしないまま走り続けると、心は少しずつすり減っていきます。この記事では、動物保護の現場で生まれる感情に名前をつけ、活動を続けるための心の守り方をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:救えなかった数を数えるのは、命を真剣に見てきた証

最初に結論をお伝えします。動物保護に関わる人が抱える疲れの正体は、体力の消耗だけではありません。救いたい命への共感が強いほど、その痛みを自分の中に取り込んでしまう「共感疲労」です。そして、この共感疲労は、感情を言葉にしないまま抱え込むほど深まっていきます。

保護活動の現場では、「つらいなんて言っていられない」「動物のほうがもっとつらい」という空気が生まれやすいものです。けれど、支える人の心が倒れてしまえば、救える命も減ってしまいます。自分の感情を見つめ、名前をつけ、仲間と分け合うことは、活動から逃げることではなく、活動を長く続けるための大切な技術です。

よくあるご相談の典型例
「うれしいはずの譲渡の日も、
なぜか心が動かなくなってきたんです」
場面40代の女性。会社勤めのかたわら、地域の保護団体で猫の預かりボランティアを続けて6年目。自宅には常に数匹の保護猫がいる。最近、譲渡が決まってもあまりうれしいと感じなくなり、休日は何もする気が起きない。「こんな自分は活動を続ける資格がない」と思い始めている。
この方は冷たくなったのではありません。長いあいだ、喜びも悲しみも後悔も全部飲み込んで走り続けてきた結果、心が感じる回路を一時的に絞っているのです。強いストレスから心を守るためのこうした反応は、誰にでも起こりえます。

このように、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情は動いているのに、言葉にたどり着く前に迷子になっている状態です。私はこれを「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉です。とくに、大きなストレスや喪失が続いたあとに感情が平板になるものは、「2次性」のアレキシサイミアと呼ばれ、環境が落ち着くと薄れていくことが多いとされています。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはでくわしく解説しています。

心が動かなくなったのは、
冷たくなったからではない。
感じすぎてきた心が、休みを求めているサイン。

数字で見る、動物保護の現場と共感疲労

環境省の統計によると、全国の自治体で引き取られ、殺処分される犬や猫の数は、この20年ほどで大きく減ってきました。かつては年間数十万頭にのぼっていた数が、近年は年間1万頭前後の水準になっています。この減少の裏には、自治体の職員、獣医師、そして各地の保護団体やボランティアの、地道で長い努力があります。

一方で、数が減ったからといって、現場の負担が軽くなったわけではありません。多頭飼育の崩壊現場からの保護、高齢の飼い主が飼えなくなった動物の引き取り、病気や障害のある子の長期の世話。一頭あたりにかかる手間と、関わる人の心の負担は、むしろ重くなっているという声も聞かれます。

数字・研究で見るわかっていること
年間1万頭前後
環境省「動物愛護管理行政事務提要」
近年の犬猫の殺処分数。大きく減ったが、ゼロではない。その数の向こうに、関わった人の痛みがある。
共感疲労
チャールズ・フィグリー(1995年)
苦しむ存在を助けようとする人が、その苦しみに共感し続けることで心身が消耗していく状態。もとは医療・救援の分野で研究され、のちに動物に関わる仕事にも広げて研究された。
3つの側面
B.H.スタム「ProQOL(援助者の生活の質尺度)」
援助する人の心を、「共感満足(役に立てた喜び)」「燃え尽き」「二次的外傷性ストレス」の3つの面から捉える。喜びと消耗は同時に存在しうる。
ケアと別れの矛盾
Reeve ら(2005年)
動物を大切に思って働く人ほど、守りきれない命との別れに強いストレスを感じやすいことが、動物保護施設の職員を対象にした研究で報告されている。

この表から見えてくるのは、保護活動の心の負担は、命を大切に思う気持ちと切り離せないということです。共感があるから活動を始め、共感があるから続けられる。そして同じ共感が、心をすり減らす原因にもなります。だからこそ、共感を手放すのではなく、共感によって生まれた感情を言葉にして外に出すことが大切なのです。

スタムのProQOLの考え方で私が希望を感じるのは、「共感満足」という視点です。役に立てた喜び、命をつないだ手応えは、消耗と同じくらい確かに存在します。ただ、疲れているときほど、私たちは喜びより痛みのほうを強く覚えてしまいます。痛みと喜びの両方に名前をつけることが、心のバランスを取り戻す第一歩になります。

現場で積もる5つの感情|喜び・別れ・無力感・怒り・罪悪感

保護活動に関わる人の心の中では、毎日いくつもの感情が交錯しています。「疲れた」「しんどい」の一言にまとめてしまわず、その中身を見分けてみましょう。

感情1|無力感
「全部は救えない」という痛み

どれほど手を尽くしても、受け入れられる数には限りがあります。保護の依頼を断らなければならないとき、「自分が断ったせいで」という無力感と痛みが残ります。この無力感は、限られた力で精一杯やっている人ほど強く感じるものです。

感情2|罪悪感と後悔
「もっと早く気づいていれば」

体調の変化に気づくのが遅れた、もう少し早く病院に連れて行けば。終わったことを何度も思い返し、自分を責めてしまうのは、命への責任を真剣に感じている証です。けれど、後悔だけを抱え続けると、心は前に進めなくなります。

感情3|怒り
「なぜ捨てるのか」「なぜわかってくれないのか」

飼育放棄をした人、無責任な繁殖、行政の対応、協力してくれない周囲。怒りは、守りたいものがあるからこそ生まれる感情です。ただ、行き場のない怒りは、やがて自分自身や仲間に向かってしまうことがあります。

感情4|別れのさみしさ
「よかった」と「行かないで」が同時にある

手をかけて世話をした子が新しい家族のもとへ旅立つとき、うれしさと同時に、ぽっかり穴があくようなさみしさを感じます。このさみしさを「喜ぶべき日に悲しむなんて」と押し込めると、感情はますます迷子になります。

感情5|喜びと誇り
「この子は助かった」という確かな手応え

おびえていた子が初めて手からごはんを食べた日、譲渡先から届いた元気な写真。こうした喜びもまた、言葉にして味わわないと、日々の忙しさに流されてしまいます。喜びを言葉にすることは、心のエネルギーを補給することでもあります。

保護活動の心の天秤|喜びと消耗は同時にある スタムのProQOLの考え方を参考に作図 共感満足 譲渡が決まった喜び 命をつないだ手応え 仲間との一体感 共感疲労 燃え尽き・無力感 つらい場面の記憶 後悔・怒り 両方に名前をつけると、天秤は少しずつ釣り合いを取り戻す
▲ 保護活動に関わる人の心には、役に立てた喜び(共感満足)と、消耗や痛み(共感疲労)が同時に存在します。疲れているときほど痛みの側ばかりが重く感じられますが、喜びの側にも言葉を与えることで、心のバランスは回復しやすくなります。

譲渡の喜びと「送り出すさみしさ」

保護活動のいちばんうれしい瞬間は、新しい家族が決まる日でしょう。けれど、その日にこそ、言葉にしにくい感情が生まれます。

よくあるご相談の典型例
「譲渡の日、笑顔で送り出したのに、
帰ってから涙が止まらなくて」
場面30代の女性。人に慣れず、最初は触ることもできなかった保護犬を半年かけて預かった。ようやく家族が決まり、譲渡の日は笑顔で見送った。けれど空になったケージを見たとたん、涙があふれた。「喜ぶべきことなのに、泣くなんておかしい」と自分を責めている。
この涙は、おかしなものではありません。半年間、心をかけてきた存在との別れには、うれしさと同時に喪失の悲しみが伴います。「おかしい」と打ち消すのではなく、「さみしいんだな」「それだけ大切だったんだな」と受けとめることが、次の子を迎える力になります。

預かりボランティアの方の中には、別れがつらいから、あえて情を移さないようにしているという方もいます。それも心を守るための一つの方法です。けれど、感情を感じないように努力し続けると、やがて喜びも感じにくくなっていきます。

おすすめしたいのは、送り出しを「小さな区切りの儀式」にすることです。最後の日に写真を撮る、短い手紙を書く、仲間と「よかったね」「さみしいね」と両方の気持ちを言葉にし合う。悲しみに居場所をつくってあげると、悲しみは長くとどまらずに通り過ぎていきます。

一方、保護した子を看取ることになったときの悲しみは、譲渡の別れとはまた違う重さを持ちます。看取りや、救えなかった命への悲しみについては、ペットロスと感情の言語化の記事で書いた「公認されない悲嘆」の考え方も参考になるかもしれません。保護活動での別れもまた、周りから「あなたの子ではないのに」と理解されにくい悲しみだからです。

SNSの批判に心が削られるとき

いまの保護活動にとって、SNSは欠かせない道具です。里親募集、支援の呼びかけ、活動報告。多くの命がSNSを通じて家族とつながってきました。けれど同時に、SNSは心を深く傷つける言葉が届く場所でもあります。

  • 「譲渡条件が厳しすぎる」「保護団体は偉そうだ」という批判
  • 救えなかった子の報告に対する「なぜもっと早く動かなかった」という責め
  • 寄付の使い道を疑うコメント
  • 活動のやり方をめぐる、ほかの保護団体や個人との対立
  • 保護したことそのものへの、事情を知らない人からの非難

こうした言葉を受けたとき、多くの方は「反論したい怒り」と「自分が悪いのかもしれないという不安」と「わかってもらえないさみしさ」を同時に感じています。けれど、活動の顔として発信している以上、感情的な返信はできません。飲み込んだ言葉は、夜、ひとりになったときに何度も頭の中でくり返されます。

批判を読む前と後に、気持ちを確かめる

SNSの言葉から心を守るために、次のような工夫を団体やチームで取り入れてみてください。

やりがちなこと心を守る工夫
夜中にひとりでコメントを読み続けるコメントを確認する時間帯を決め、夜は見ない
批判にすぐ返信する返信は一晩おいて、ほかのメンバーと相談してから
ひどい言葉を自分だけで抱える受け取った言葉と、そのとき感じた気持ちをチームで共有する
すべての批判を「自分への評価」として受けとる「改善に役立つ意見」と「受けとらなくてよい攻撃」を分ける

匿名の誹謗中傷がひどい場合は、ひとりで耐え続ける必要はありません。総務省が支援する「違法・有害情報相談センター」など、インターネット上の書き込みについて相談できる窓口があります。悪質な場合は、警察や弁護士に相談することも選択肢です。

課題の分離と貢献感|アドラー心理学で見る保護活動

アドラー心理学を創始したアルフレッド・アドラー(1870〜1937、オーストリアの精神科医)の考え方は、保護活動に関わる人の心を軽くするヒントを与えてくれます。私自身も、アドラー心理学をベースにカウンセリングを続けてきました。ここでは2つの考え方を紹介します。

課題の分離|「それは誰の課題か」

課題の分離とは、ある問題について「最終的にその結果を引き受けるのは誰か」を考え、自分の課題と他人の課題を分けて整理する考え方です。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになりました。

保護活動では、本来は自分の課題ではないものまで背負い込みやすくなります。

  • 動物を手放した飼い主の選択 → その飼い主の課題
  • SNSで批判を書き込む人の考え方 → 書き込んだ人の課題
  • 譲渡したあとの家庭での日々 → 新しい家族の課題(団体は相談に乗れるが、すべてを管理はできない)
  • 地域や社会の仕組みの問題 → 社会全体の課題(一人のボランティアが背負うものではない)
  • 今日、目の前の子に何ができるか → あなたの課題

課題を分けることは、冷たく突き放すことではありません。自分の課題に力を注ぐために、自分のものではない重荷をいったん下ろすことです。「全部救えなかった」という痛みの中には、もともと一人では背負いきれない社会の課題が混ざっていることに気づくと、心が少し軽くなります。

貢献感|救った数ではなく、関わった事実

アドラーは、人が幸せを感じるための大切な感覚として貢献感、つまり「自分は誰かの役に立っている」という感覚を挙げました。そして大切なのは、その感覚が他人からの評価や、目に見える成果の大きさによって決まるものではないということです。

保護活動に関わる人は、つい「何頭救えたか」「何頭救えなかったか」という数で自分の価値を測ってしまいます。けれど、救えなかった子にも、あなたが世話をした時間、あたたかい寝床、名前を呼んだ声がありました。その子の最後の時間が、ひとりきりではなかったこと。それもまた、確かな貢献です。

救えた数でも、救えなかった数でもなく、
一匹一匹と関わったその時間が、
あなたの貢献のかたち。

中島輝より一言

人や動物を支える活動をしている方ほど、「自分のことは後回し」が当たり前になっています。カウンセリングで「最近、あなた自身はどんな気持ちですか」と尋ねると、多くの方が言葉に詰まります。そして少しして、「考えたこともなかった」とおっしゃいます。誰かのために流してきた涙と同じだけ、あなた自身の気持ちにも目を向けてよいのです。それは決して、わがままではありません。

6つの感で見る|「関わった実感」が自己有用感を育てる

自己肯定感は、6つの感が支え合う一本の木にたとえられます。根にあたる自尊心≒自己存在感、幹の自己受容感、枝の自己効力感、葉の自己信頼感、花の自己決定感、そして実の自己有用感です。保護活動に関わる人にとって、いちばん大きく揺れ動くのは、木の実にあたる自己有用感、つまり「自分は役に立っている」という感覚です。

譲渡が決まった日には、自己有用感はたわわに実ります。けれど、救えなかった日、批判を受けた日には、実が一気に落ちてしまったように感じます。自己有用感を「成果」だけで支えていると、活動の浮き沈みに心が振り回されてしまうのです。

揺らぎやすい自己有用感根を張った自己有用感
「何頭救えたか」で自分の価値を測る「今日この子に何ができたか」を見る
批判を受けると「自分は役に立っていない」と感じる批判と自分の価値を分けて考えられる
救えなかった子のことで自分を責め続けるその子と過ごした時間にも意味を見いだせる
休むことに罪悪感がある休むことも、長く続けるための役割だと思える

自己有用感を安定させるためには、木の根や幹も大切です。「つらいと感じる自分も、活動を続ける資格がある」と受け入れる自己受容感、そして「自分は今の活動の量でいい」と自分で決める自己決定感。預かる頭数を減らす、活動を少し休む、といった選択を自分で決められると、心の木は嵐にも倒れにくくなります。

燃え尽きないための感情のセルフケアとチームの振り返り

ここからは、ボランティア個人と、保護団体のチームでできる感情のケアを紹介します。中島輝の近刊で紹介しているワークを、保護活動の現場に合わせて組み立て直しました。

ワーク1|1分
3段階温度計で「しんどさ」を測る

活動の前後に、心のしんどさを「小・中・大」の3段階で測ります。「大」の日が続いているなら、それは休みが必要なサインです。数字や段階にすると、「まだ大丈夫」と無理を重ねる前に気づくことができます。

ワーク2|2分
感情だけ日記

寝る前に、その日の出来事ではなく感情だけを書きます。「うれしい(○○ちゃんがごはんを食べた)」「くやしい(保護の依頼を断った)」「さみしい」。出来事の記録は活動日誌に任せて、このノートには気持ちだけを置いていきます。言葉にして書き出すことで心の負担が軽くなることは、ペネベーカーの筆記開示の研究でも報告されています。

ワーク3|30秒
「できたことリスト」に一行

救えなかったことばかりが頭に残る日こそ、今日できたことを一行だけ書き足します。「ケージを掃除した」「薬を飲ませた」「譲渡希望者に返信した」。小さな行動の積み重ねが、自己有用感の実を支えます。

ワーク4|チームで10分
つらい出来事のあとの「気持ちの振り返り」

保護した子を看取ったあとや、つらい現場に入ったあとには、チームで短い振り返りの時間をとります。何があったかの確認だけで終わらせず、「そのときどう感じたか」を一人一言ずつ話します。ほかの人の言葉を評価せず、「そう感じたんだね」と受けとめるのがルールです。災害や救助の現場で使われる振り返りの考え方は、消防団員と感情の言語化の記事でも紹介しています。

ワーク5|団体の仕組み
「休む」を役割として決める

団体の中で、休む期間をとることを当たり前にする仕組みをつくります。預かりの間に休止期間を設ける、SNSの担当を交代制にする、一人に連絡が集中しないようにする。休むことを個人の弱さではなく、団体の仕組みにすると、罪悪感なく休めるようになります。

燃え尽きのサインを知っておく

援助職の燃え尽きを研究したクリスティーナ・マスラックは、燃え尽き症候群の特徴として、心のエネルギーが尽きる「情緒的消耗感」、相手を思いやれなくなる「脱人格化」、やりがいを感じられなくなる「個人的達成感の低下」を挙げています。次のようなサインが続くときは、活動を減らす、休むことを考えてください。

  • 譲渡が決まっても、うれしいと感じなくなった
  • 動物や譲渡希望者に対して、いら立ちや冷たさを感じることが増えた
  • 休日も活動のことが頭から離れず、眠れない
  • 救えなかった子の場面が、くり返し頭に浮かぶ
  • 「自分がやめたら誰がやるのか」と、休むことができない

こうした状態が長く続く場合や、気分の落ち込み、眠れない、食べられないといった体の不調があるときは、心療内科などの医療機関や専門家に相談してください。

よくあるご質問

譲渡が決まってもうれしいと感じなくなりました。活動をやめるべきでしょうか?
やめるかどうかを決める前に、まず休むことを考えてみてください。喜びを感じにくくなるのは、長く続いた共感疲労のサインであることが多く、心が休息を求めている状態です。活動の量を減らす、一時的に休む、といった選択をしても、それまでのあなたの貢献が消えるわけではありません。
救えなかった子のことを思い出すたびに、自分を責めてしまいます。
自分を責めてしまうのは、それだけその子の命を大切に思っていた証です。「もっとこうしていれば」という気持ちを、感情だけ日記や、その子への手紙として書き出してみてください。そして、救えなかったことの中には、一人では背負いきれない社会の課題が含まれていることも思い出してください。
SNSでひどいことを書かれ、眠れなくなりました。
まず、夜にコメントを読むのをやめ、確認する時間を決めてください。受けた言葉はひとりで抱えず、団体の仲間と共有しましょう。悪質な誹謗中傷が続く場合は、違法・有害情報相談センターなどの窓口、警察や弁護士に相談することもできます。眠れない日が続くときは、医療機関にも相談してください。
家族に「そこまでしなくても」と言われ、わかってもらえません。
家族の言葉の裏には、あなたの心と体を心配する気持ちがあることも多いものです。活動の大変さを説明するより、「こういうことがあって、悲しかった」「こういうことがあって、うれしかった」と、気持ちを言葉にして伝えてみてください。気持ちが伝わると、家族は活動の理解者に変わっていくことがあります。
団体の代表として、スタッフの燃え尽きを防ぐには何ができますか?
つらい出来事のあとに短い振り返りの時間をとること、休む期間を仕組みとして決めること、SNS対応や連絡が一人に集中しないようにすることが大切です。そして代表自身も、自分の気持ちを話せる相手を団体の外に持ってください。リーダーが弱音を言葉にできる団体では、スタッフも安心して気持ちを話せるようになります。
救えなかった命を数える夜は、
関わった命を思い出す夜にしてもいい。
あなたの心も、守られるべき大切な命です。
感情に名前をつけ、仲間と分け合うこと。
それが、長く活動を続けるための力になります。

自分を大切にしよう

動物保護に関わる人が抱える疲れの正体は、体力の消耗だけでなく、救いたい命への共感が生む共感疲労です。全部は救えない無力感、「もっと早く」という後悔、行き場のない怒り、送り出すさみしさ、そしてSNSの言葉に削られる心。そうした感情を言葉にしないまま走り続けると、やがて喜びさえ感じにくくなっていきます。それは冷たくなったのではなく、感じすぎてきた心が休みを求めているサインです。

フィグリーが名づけた共感疲労と、スタムが示した共感満足は、同じ一人の心の中に同時に存在します。アドラー心理学の課題の分離は、飼い主の選択や社会の課題まで背負い込んだ重荷をいったん下ろすことを教えてくれます。そして貢献感は、救えた数ではなく、一匹一匹と関わった時間そのものに意味があることを思い出させてくれます。その実感が、自己有用感という木の実を、成果の浮き沈みに左右されない確かなものにしていきます。

感情だけ日記をつける、できたことを一行書く、チームで「どう感じたか」を分け合う、休むことを仕組みにする。どれも、活動から逃げることではなく、活動を長く続けるための技術です。自分を大切にしよう。たくさんの命に心を注いできたあなた自身もまた、大切にされるべき一つの命です。

相談先
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・違法・有害情報相談センター(インターネット上の書き込みに関する相談)
・眠れない・食べられない状態が続くときは、心療内科などの医療機関へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 環境省「動物愛護管理行政事務提要」(犬・猫の引取り及び処分の状況)
  • Figley, C.R. (Ed.) (1995). Compassion Fatigue: Coping with Secondary Traumatic Stress Disorder in Those Who Treat the Traumatized. Brunner/Mazel.
  • Figley, C.R., & Roop, R.G. (2006). Compassion Fatigue in the Animal-Care Community. Humane Society Press.
  • Stamm, B.H. (2010). The Concise ProQOL Manual. ProQOL.org.
  • Reeve, C.L., Rogelberg, S.G., Spitzmüller, C., & DiGiacomo, N. (2005). The caring-killing paradox: Euthanasia-related strain among animal-shelter workers. Journal of Applied Social Psychology, 35(1).
  • Maslach, C., & Jackson, S.E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of Occupational Behaviour, 2.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3).
  • Doka, K.J. (Ed.) (1989). Disenfranchised Grief: Recognizing Hidden Sorrow. Lexington Books.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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