教壇に立って半年、笑えなくなった先生へ
新任教員と感情の言語化
4月、「どんなクラスにしよう」と胸をふくらませていた。それが秋になるころには、日曜の夕方になると胃が重くなり、朝の教室の前で深呼吸しないと扉を開けられない。子どもの前で笑おうとしても、顔がうまく動かない。職員室で「どう、慣れた?」と聞かれれば、反射的に「大丈夫です」と答えてしまう。笑えなくなったのは、あなたが教師に向いていないからではありません。不安や悔しさ、恐れを言葉にする場がないまま、感情を押し込め続けてきたサインかもしれないのです。新任・若手の先生と、その先生を支える指導教員・管理職に向けて、感情の言語化という視点から、いまできることをお伝えします。
結論:笑えなくなったのは「向いていない」からではない
結論からお伝えします。教壇に立って数か月で笑えなくなる、眠れなくなる、休日も学校のことが頭から離れない。これは、決して珍しいことでも、あなたの能力不足の証拠でもありません。多くの新任教員が、言葉にならない不安や恐れを抱えながら、「大丈夫です」と言い続けています。問題は、つらさそのものよりも、そのつらさを言葉にする場がないことにあります。
この記事のポイントは3つです。
- 新任期のつらさには、名前のある「型」がある。理想と現実の落差(リアリティ・ショック)、学級経営への不安、保護者対応の恐れ。自分だけではないと知ることが、最初の支えになる。
- 「できない」と言えないことが、感情を凍らせる。教員は感情を整えて子どもの前に立つことを求められる仕事。押し込めた感情は、笑顔の消失や体の不調として表に出る。
- 劣等感は、比べる相手を変えれば成長の力になる。アドラー心理学の視点と、小さな「できた」を言葉にする習慣が、揺らいだ自己効力感を取り戻す。
この記事の背景にあるのは、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる考え方です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではありません。一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。そしてもともと傾向が強くない人でも、強いストレスが続くと、心を守るために感じる回路を一時的に絞ることがあります(2次性アレキシサイミア)。「笑えない」「何も感じない」は、がんばりすぎた心が自分を守っている状態ともいえるのです。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。「迷子」という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。
数字で見る教員のメンタルヘルス
「教員の心の不調」は、もはや個人の問題ではなく、社会全体で向き合うべき課題として報じられるようになりました。まずは数字から見てみましょう。
この数字には、休職に至る前の病気休暇の人や、つらさを抱えながら教壇に立ち続けている人は含まれていません。同じ調査では、条件付採用期間(多くは採用から1年)のあいだに退職する新任教員の中に、精神疾患を理由とする人が少なくないことも示されています。教壇に立ってまもない時期は、とくに心が揺らぎやすい時期なのです。
| 知見 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 新任期の悩み | 新任教員が感じる問題を国際的に整理した研究で、もっとも多く挙げられたのは「学級の規律(クラスの統制)」だった | Veenman(1984) |
| 燃え尽き(バーンアウト) | 対人援助職の燃え尽きは「情緒的消耗感」「脱人格化(相手を人として感じにくくなる)」「個人的達成感の低下」の3つで捉えられる | Maslach & Jackson(1981) |
| 感情労働 | 仕事の一部として、自分の感情を管理し、求められる表情や態度を保つ労働。教員もその代表的な職業の一つ | ホックシールド『管理される心』(1983) |
| 自己効力感の4つの源 | 「できる」という感覚は、①自分の成功体験 ②人の成功を見る ③言葉での励まし ④心身の状態の4つから育つ | Bandura(1977) |
| 感情のラベリング | 感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がる | Lieberman et al.(2007) |
燃え尽きの3つのサインのうち、「脱人格化」はとくに知っておいてほしいものです。子どもの顔がみんな同じに見える、子どもの言葉に心が動かない、事務的にしか関われない。これは冷たい人になったのではなく、心が消耗しきって、感じる力を一時的に下げている状態です。「笑えなくなった」は、まさにこのサインの一つかもしれません。
新任の半年目に起きること|リアリティ・ショックと「できない」と言えない心
今は何も感じないんです」
リアリティ・ショック|描いていた教室と、目の前の教室
新しい職業に就いた人が、思い描いていた理想と現実の落差に衝撃を受けることを、リアリティ・ショックと呼びます。教員の場合、オランダの研究者ヴェーンマン(Veenman)は、新任教員が直面するこの落差を「実践ショック」として整理しました。
教育実習では、指導教員がつくった学級の土台の上で授業をしていました。けれども新任になると、学級づくりも、授業も、保護者とのやりとりも、校務分掌も、いきなり一人で担うことになります。「こんなはずじゃなかった」という気持ちは、怠けや甘えではなく、多くの新任教員がくぐる自然な反応です。
アメリカで新任教員の支援に携わってきたエレン・モア(Ellen Moir)は、1年目の教員の気持ちが「期待」→「生き残り」→「幻滅」→「立ち直り」→「ふり返り」という波をたどることを紹介しました。アメリカの学年暦では秋から冬にかけて「幻滅」の谷が来るとされ、日本の4月始まりの学年に置き換えると、ちょうど夏休み明けから秋にかけての時期に重なります。教壇に立って半年で笑えなくなるのは、この谷の底にいるからかもしれません。そして大切なのは、谷のあとには「立ち直り」が来ると示されていることです。
「できない」と言えない職員室
新任教員が気持ちを言葉にしにくい理由の一つに、職員室の空気があります。先輩たちは忙しそうで、声をかけるのも申し訳ない。「こんなことも聞くの?」と思われたくない。初任者研修で「先生」として扱われる以上、「できません」とは言いにくい。
そして教員という仕事は、もともと感情を整えて子どもの前に立つことが求められる、感情労働の側面が強い仕事です。いらだっても笑顔で、不安でも落ち着いた声で。それを毎日続けるうちに、「本当は自分がどう感じているのか」が、だんだんわからなくなっていきます。
「大丈夫です」は、本当に大丈夫な人の言葉とは限らない。
「大丈夫じゃない」と言える場所がない人の、
精一杯の言葉であることも多い。
学級崩壊への不安|教室で感情を押し込めるとき
新任教員が抱える不安の中で、もっとも大きいものの一つが「学級がうまくまとまらなくなるのではないか」という恐れです。ヴェーンマンの研究でも、新任教員の悩みのトップは学級の規律でした。立ち歩き、私語、指示が通らない。一つひとつは小さなことでも、「このまま崩れていったらどうしよう」という不安が、毎日少しずつ積み重なっていきます。
不安が怒りの顔をして出てくる
不安や焦りが言葉にならないまま積み重なると、それは怒りの形で表に出やすくなります。子どもの小さな私語に、必要以上に大きな声を出してしまう。帰り道、「なんであんな言い方をしたんだろう」と自己嫌悪におちいる。翌日は怒らないようにと感情を抑え込み、今度は子どもの前で表情が消える。怒りすぎる日と、何も感じない日を行ったり来たりするのは、感情を見分けて言葉にする余裕がなくなっているサインです。
| 教室で出てくる反応 | その奥にあるかもしれない気持ち |
|---|---|
| 私語に大声で注意してしまう | 「なめられたらおしまい」という恐れ、学級が崩れる不安 |
| 特定の子にきつく当たってしまう | どう関わればいいかわからない無力感 |
| 授業中、子どもの顔を見られない | うまくいっていない自分を見られる恥ずかしさ |
| 子どもに何も感じなくなる | 消耗しきった心が、感じる回路を絞っている |
| 隣のクラスの笑い声を聞くとつらい | 比べてしまう悔しさ、自分はダメだという思い |
教室の「困った」を、言葉にして共有する
学級経営の悩みは、一人で抱えるほど大きく見えます。「最近、5時間目に立ち歩きが増えていて、正直どうしたらいいか不安です」。このように、出来事と気持ちをセットで言葉にして、指導教員や学年主任に伝えてみてください。出来事だけを報告すると「こうしたら?」という助言で終わりがちですが、気持ちを添えると、相手も「実は自分も最初の年はね」と、経験を分けてくれることがあります。
保護者対応の夜|言葉にならない怒りと恐れ
放課後にかかってくる保護者からの電話、連絡帳に書かれた厳しい言葉。保護者対応は、新任教員にとってもっとも緊張する場面の一つです。自分より年上の保護者から強い口調で言われると、頭が真っ白になる。電話を切ったあとも、帰宅してからも、言われた言葉が頭の中で何度もくり返される。
「申し訳ありません」の下に押し込めた気持ち
保護者対応の場で、新任教員は「申し訳ありません」「確認いたします」と、ていねいに対応しようと必死です。その下には、恐れ、悔しさ、理不尽さへの怒り、自分の力不足への恥ずかしさが渦巻いています。けれども、それを表に出すわけにはいきません。その結果、行き場をなくした感情が、夜眠れない、食欲がない、翌朝体が動かない、という形で表れることがあります。
保護者対応のあとにしたい「3分の言語化」
何が起きたかを書く
「〇〇さんの保護者から、宿題の量について電話があった」。事実だけを短く書き出します。頭の中でぐるぐるしていた出来事が、紙の上で一つの出来事として形になります。
体と気持ちに名前をつける
「電話の最中、手が冷たくなった。こわかった。切ったあと、悔しかった」。感情は一つでなくていい。こわい、悔しい、悲しい、腹が立つ、恥ずかしい。混ざっている感情を、そのまま並べます。
誰に共有するかを決める
「明日の朝、学年主任に経緯を報告し、こわかったことも一言伝える」。保護者対応は、一人で抱えるものではありません。組織として対応するためにも、早めに共有することが大切です。
言葉にした気持ちを誰かに伝えると、不思議と少し軽くなります。研究でも、感情に名前をつけると扁桃体の活動が下がることが示されています(Lieberman et al., 2007)。気持ちを書き出すことは、自分の心を守るための大切な「業務」だと考えてください。
先輩と比べてしまう私|アドラーの劣等感と劣等コンプレックス
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。アルフレッド・アドラー(1870〜1937、オーストリアの精神科医)は、劣等感について、とても大切なことを教えてくれています。
劣等感は、成長のバネになる
アドラーは、劣等感そのものは悪いものではなく、「よりよくなりたい」という人間の自然な向上心から生まれるものだと考えました。隣のクラスの先輩の授業を見て「自分もあんなふうになりたい」と感じる。それは、あなたが教師として成長しようとしている証拠です。
問題になるのは、劣等感が劣等コンプレックスに変わったときです。劣等コンプレックスとは、劣等感を「だから自分はダメなんだ」「だから何をしても無駄だ」と、行動しない理由に使ってしまう状態のことです。
| 劣等感(成長のバネ) | 劣等コンプレックス(行動しない理由) |
|---|---|
| 「先輩の学級づくりを見習いたい」 | 「自分は先輩みたいにはなれない。向いていない」 |
| 「今日の授業は失敗した。次はここを変えよう」 | 「どうせまた失敗する。準備しても無駄だ」 |
| 「保護者対応が苦手だから、学年主任に相談しよう」 | 「こんなことも一人でできない自分が恥ずかしい」 |
| 比べる相手:昨日の自分、理想の自分 | 比べる相手:ほかの先生、周りの評価 |
アドラー心理学では、健全な劣等感は「他者との比較」ではなく「理想の自分との比較」から生まれると考えます。ベテランの先生と、教壇に立って半年の自分を比べれば、差があるのは当たり前です。比べる相手を、ほかの先生から「4月の自分」「理想の自分」に変えてみてください。4月にはできなかったことが、いまできるようになっていることに、きっと気づくはずです。
不完全である勇気
アドラー派の心理学者たちは、「不完全である勇気」という言葉を大切にしてきました。完璧な教師になろうとするのではなく、失敗する自分、できない自分を認めたうえで、それでも一歩を踏み出す勇気のことです。子どもたちに「間違えても大丈夫」と教える教師自身が、自分の間違いを許せない。そんな矛盾に、心当たりはないでしょうか。
中島輝より一言
私のところには、教員の方からの相談も多く寄せられます。真面目で、子ども思いで、責任感が強い方ほど、「自分が至らないから」と一人で抱え込んでいます。けれども、「できない」と言えることは、教師としての弱さではなく、子どもに「助けを求めていい」と身をもって教える力です。「先生だって、困ったときは人に相談するんだよ」。その姿こそ、子どもたちにとって最高の教材になると、私は思っています。
自己効力感を取り戻す|小さな「できた」を言葉にする
自己肯定感の「6つの感」を木にたとえると、自尊心≒自己存在感が根、自己受容感が幹、自己効力感が枝、自己信頼感が葉、自己決定感が花、自己有用感が実にあたります。新任期にもっとも揺らぎやすいのが、枝にあたる自己効力感、つまり「自分にはできる」という感覚です。
心理学者バンデューラ(Bandura)は、自己効力感は次の4つから育つと考えました。新任教員の毎日に当てはめると、具体的な取り戻し方が見えてきます。
「できなかったこと」より「できたこと」を数える
新任期の先生は、一日の終わりに「できなかったこと」ばかりを数えがちです。授業が時間内に終わらなかった、あの子に声をかけられなかった、提出物の確認が追いつかない。けれども同じ一日の中に、朝、あの子が「おはよう」と言ってくれた。音読の声がそろった。休み時間に一緒に笑った、という「できた」も、きっとあったはずです。
バンデューラの4つの源のうち、もっとも強いのは①の自分の成功体験です。ただし、成功体験は「気づいて、言葉にしないと」心に残りません。小さな「できた」を言葉にして書き留めることで、それははじめて自己効力感の枝を伸ばす栄養になります。
若手の先生のための感情の言語化ワーク
ここでは、中島輝の近刊で紹介しているワークを、学校の毎日に合わせてアレンジして紹介します。忙しい先生でも続けられるように、どれも短い時間でできるものにしました。
教室の扉の前で「心の体温チェック」
朝、教室の扉を開ける前に、「いまの心の温度は?」と自分に聞きます。「ひんやり」「ふつう」「ぽかぽか」。ひんやりの日は、「今日は少し不安なんだな」と認めるだけで十分です。気づいたうえで扉を開けると、子どもの小さな言動に振り回されにくくなります。
放課後の3段階温度計
子どもたちが帰ったあと、今日の「疲れ」「不安」「手ごたえ」をそれぞれ1〜3でメモします。1週間続けると、何曜日のどの時間がつらいのか、何があると手ごたえを感じるのかが見えてきます。指導教員に相談するときの材料にもなります。
「できた」と「感情が動いた瞬間」を1つずつ
帰宅前に、今日の「できた」を1つ、心が動いた瞬間を1つ書き留めます。「給食当番がスムーズに回った」「〇〇さんが初めて手を挙げて、うれしかった」。うまくいかなかった日ほど、小さな「できた」を探してみてください。
感情ことば帳をつくる
「つらい」「疲れた」の一語で終わらせず、「焦っている」「悔しい」「さみしい」「申し訳ない」「ほっとした」と、少し細かい言葉を手帳の後ろに書きためていきます。言葉が増えるほど、自分の気持ちを見分けやすくなります。
「途中の言葉」で一人に話す
うまく説明できなくても、「うまく言えないんですけど、最近ちょっと苦しくて」と、信頼できる一人に話してみてください。同期の先生、大学時代の友人、家族。学校の外の人でもかまいません。完成した言葉でなくていいのです。
休むことも、教師の仕事のうち
次のような状態が2週間以上続いているときは、心が休息を求めているサインかもしれません。一人で我慢せず、医療機関(心療内科・精神科など)や、勤務先の教育委員会・共済組合などが設けている相談窓口に相談してください。厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」でも、相談先を探すことができます。
- 夜眠れない、または朝早く目が覚めてしまう
- 日曜の夕方から、強い憂うつや体の不調がある
- 食欲がない、または食べすぎてしまう
- 子どもの前で笑えない、何をしても楽しくない
- 出勤の準備をしようとすると涙が出る、体が動かない
休むことは、逃げることではありません。心と体を整えることは、子どもの前に立ち続けるための大切な準備です。医学的な判断は医師にゆだね、自分を責めずに相談してください。
指導教員・管理職へ|「大丈夫です」の奥を聞く勇気づけ
ここからは、新任・若手教員を支える指導教員、学年主任、管理職の方に向けてお伝えします。若手の「大丈夫です」は、本当に大丈夫な場合もあれば、「大丈夫じゃないと言っていいのかわからない」という意味の場合もあります。その違いを見分けるのは簡単ではありません。だからこそ、言葉以外のサインと、声のかけ方が大切になります。
気にかけたいサイン
- 表情が乏しくなった、職員室で笑わなくなった
- 帰りが極端に遅い、または週末も学校に来ている
- 質問や相談が急に減った
- 小さなミスが増えた、提出物が遅れがちになった
- 欠勤や遅刻、体調不良の訴えが増えた
アドラーの勇気づけ|評価ではなく、横の関係から
アドラー心理学の勇気づけは、ほめたり叱ったりして相手を動かす「縦の関係」ではなく、対等な「横の関係」から、相手が自分の力を信じられるように支える関わりです。指導教員は、どうしても「指導する人」という縦の立場になりがちです。だからこそ、意識して横の関係の言葉を使うことに意味があります。
| 縦の関係の言葉 | 横の関係の言葉(勇気づけ) |
|---|---|
| 「もっとしっかりしないと」 | 「最近、遅くまで頑張っているね。体は大丈夫?」 |
| 「なんで早く相談しなかったの?」 | 「話してくれてありがとう。一緒に考えよう」 |
| 「私が新任のころはもっと大変だった」 | 「私も1年目は、5時間目が本当に苦手だったんだ」 |
| 「授業、よくできていたよ」 | 「あの場面で〇〇さんに声をかけていたの、いいなと思った」 |
| 「大丈夫?」 | 「最近、正直どのくらいしんどい?1〜10で言うと?」 |
とくに効果的なのは、指導する側が自分の失敗や不安を先に話すことです。「私も1年目は毎晩泣いていた」と聞くと、若手は「この人には言っていいんだ」と感じます。また、「大丈夫?」と聞くと「大丈夫です」としか返ってこないことが多いので、「1〜10で言うと?」と数字で聞くと、本音が出やすくなります。
組織として「言える」しくみをつくる
個人の声かけに加えて、学校として若手が気持ちを言葉にできるしくみをつくることも大切です。週1回、10分でも指導教員と話す時間を固定する。学年会の最初に「今週の気分を一言」のチェックインを入れる。保護者対応は必ず複数で受ける、というルールを明文化する。こうしたしくみは、若手だけでなく、ベテランを含む職員室全体の心を守ります。教室で気持ちを言葉にできない子どもへの関わり方については、教員のための感情の言語化の記事もあわせてご覧ください。
若手が「できない」と言える職員室は、
子どもが「わからない」と言える教室をつくる。
大人の安心が、子どもの安心になる。
よくあるご質問
言葉にできなかった気持ちが、たまっているだけ。
「できない」と言えることは、教師の力になる。
その積み重ねが、自己効力感という枝を伸ばします。
自分を大切にしよう
教壇に立って数か月で笑えなくなる。それは、理想と現実の落差、学級経営への不安、保護者対応の恐れを、言葉にする場がないまま押し込めてきたサインかもしれません。精神疾患で休職する教員が過去最多となるなか、新任期のつらさは、個人の弱さではなく、多くの先生が直面している課題です。感情を整えて子どもの前に立つ仕事だからこそ、自分の気持ちを見分け、言葉にする時間が必要なのです。
先輩と比べて落ち込むときは、劣等感を「理想の自分との差」として、成長のバネに変えてみてください。小さな「できた」を毎日書き留め、出来事と気持ちをセットで指導教員に伝え、必要なときは休む。そして支える側の先生方は、評価ではなく横の関係から勇気づけ、若手が「できない」と言える職員室をつくる。その積み重ねが、「自分にはできる」という自己効力感を、少しずつ取り戻させてくれます。
この記事を読んで、教室の扉の前で深呼吸している自分を思い浮かべた先生は、それだけ子どもたちに真剣に向き合ってきた方です。あなたが教師を目指した日の気持ちは、消えてしまったのではありません。疲れた心の奥で、少し休んでいるだけです。子どもたちに「困ったら相談していいんだよ」と伝えるように、その言葉をあなた自身にもかけてあげてください。自分を大切にしよう。先生が自分を大切にできることが、子どもたちにとって何よりの学びになります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- 文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」(令和5年度)
- Veenman, S. (1984). Perceived problems of beginning teachers. Review of Educational Research, 54(2), 143-178.
- Moir, E. (1990). Phases of first-year teaching. California New Teacher Project.
- Maslach, C., & Jackson, S.E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of Occupational Behaviour, 2(2), 99-113.
- A.R.ホックシールド『管理される心―感情が商品になるとき』(石川准・室伏亜希訳、世界思想社)
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.
- Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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