『うちの子の気持ちがわからない』と悩む親へ
通級・特別支援と感情の言語化
学校から帰ってきた子が、急に大きな声を出して床に寝ころぶ。「どうしたの?」と聞いても返事はなく、しばらくすると何事もなかったように好きな動画を見はじめる。連絡帳には「今日は落ち着いて過ごせました」。親なのに、この子の気持ちがわからない。そう感じて、ひとりで自分を責めていないでしょうか。気持ちを言葉にするのが苦手な子にも、気持ちは確かにあります。そして、その気持ちは言葉以外の形で、毎日たくさん伝えられています。この記事では、通級指導教室や特別支援学級に通う子の保護者の皆さんに向けて、子どもの気持ちを「見える形」にする工夫と、親自身の気持ちの守り方をお伝えします。
「気持ちがわからない」のは、親の愛情不足ではない
本当にうれしいのか、わからないんです」
自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はあるのに言葉に届きにくい状態です(くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒント)。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡で、研究によって一般の人の約10〜16%に強い傾向があるとされます。
発達に特性のある子の中には、この傾向が重なって見られる子もいる、という研究があります。ただし、通級や特別支援学級に通っている子がみんな気持ちを言葉にできない、ということでは決してありません。気持ちをとても豊かに表現する子もいれば、言葉より絵や動きのほうが得意な子もいます。この記事でお伝えするのは、診断の話ではなく、目の前のわが子の気持ちに近づくための工夫です。
中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。言葉の道が細くても、気持ちには必ず帰り道があります。その道を一緒に探していきましょう。
数字で見る、通級・特別支援で学ぶ子どもたち
「うちの子だけが」と感じる方は少なくありません。けれども、学校での支援を必要とする子どもは、決して少数ではありません。
| データ・研究 | わかっていること |
|---|---|
| 文部科学省の調査(2022年) | 通常の学級の小中学生の約11人に1人が、学習面や行動面で困難を示すとされた。担任などの回答をもとにした数字で、診断を意味するものではない。 |
| 通級による指導 | 通常の学級に在籍しながら、一部の時間に別の教室で指導を受けるしくみ。利用する子どもは年々増え、2018年度からは高校でも制度化された。 |
| アレキシサイミア傾向 (TAS-20などの疫学研究) | 一般の人の約10〜16%に強い傾向。特性の濃淡で、誰にでも多かれ少なかれある。 |
| 気持ちの名前を教える (Katan, 1961) | 保育園の子どもに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールだけでなく考える力も伸びたという観察。 |
| 感情ラベリング (Lieberman et al., 2007) | 気持ちに言葉で名前をつけると、脳の扁桃体の活動が下がる。名前がつくと、気持ちは少し落ち着く。 |
8.8%という数字は、40人の学級なら3〜4人にあたります。通級や特別支援学級は、特別な子のための特別な場所ではなく、一人ひとりに合った学び方を選ぶための、ごく身近な選択肢になりつつあります。そして、気持ちの名前を知ることが心を育てるという研究は、言葉の発達がゆっくりな子にとっても希望になります。
気持ちを言葉にするのが苦手な子にも、
気持ちはちゃんとある。
届け方が、少し違うだけ。
言葉以外のサインを読む|体・行動・こだわりに出る気持ち
言葉にならない気持ちは、別の形で外に出てきます。氷山にたとえると、言葉は水面の上に出ているほんの一部で、水面の下には、体のサインや行動、こだわりとして表れる気持ちが大きく広がっています。
家で見られやすいサイン
- 学校のある日の朝だけ、おなかや頭が痛いと言う
- 帰宅後に急に大きな声を出したり、寝ころんだりする(学校でがんばった反動のことも)
- いつもより同じ動画や遊びをくり返す、手放せない物が増える
- 予定の変更に、いつも以上に強く反応する
- 夜になると泣く、寝つきが悪くなる
- 「楽しかった」「普通」と同じ答えばかりになる
- きょうだいや親に、いつもより強く当たる
大切なのは、サインを「問題行動」としてではなく、「気持ちのメッセージ」として受けとることです。たとえば、好きな動画をくり返し見るのは、不安な気持ちを落ち着けるための、その子なりの工夫かもしれません。帰宅後の大声は、学校で一日がまんしてきた気持ちが、安心できる家でやっと出てきた証かもしれません。
サインに気づいたら、まずは記録してみましょう。「いつ」「どこで」「何の前後に」を簡単にメモしておくと、気持ちが動きやすい場面が見えてきます。この記録は、あとで学校の先生と話すときにも役立ちます。
絵カードとスケールで「気持ちの見える化」
耳から聞く言葉より、目で見るもののほうがわかりやすい子は少なくありません。気持ちを絵や数字、色にして目に見える形にすると、言葉が出にくい子でも気持ちを伝えやすくなります。通級指導教室や特別支援学級でも、こうした工夫が広く使われています。家庭でもできる形で紹介します。
表情の絵から「今の気持ち」を指さす
にこにこ、しょんぼり、ぷんぷん、どきどき、ぐったりなど、表情の絵と気持ちの名前を組み合わせたカードを5〜6枚用意します。「今はどれに近い?」と聞いて、指さしてもらうだけで十分です。最初は少ない枚数から始め、慣れてきたら「ほっとした」「くやしい」など、カードを増やしていきます。
気持ちの強さを数字や温度計で表す
中島輝の近刊で紹介している「3段階温度計」を家庭向けにすると、「ちょっと」「けっこう」「すごく」の3段階になります。紙に温度計の絵をかいて、どこまで色を塗るかで表してもらうのもよい方法です。5段階のスケールが合う子もいます。強さがわかると、「すごく」のときは休む、という約束もつくりやすくなります。
一日の気持ちを色で塗る
カレンダーのマスに、寝る前にその日の気持ちを色で塗ります。何色が何の気持ちかは、子どもが自分で決めてかまいません。言葉がなくても、色が続くパターンから、曜日や行事と気持ちのつながりが見えてくることがあります。
「〜なのかな」と、気持ちの名前を添える
子どもが寝ころんだときに「疲れたのかな」、好きなお菓子を見つけたときに「うれしいね」。親が子どもの様子に気持ちの名前を添えて、そっと言葉にすることを続けます。正解でなくてかまいません。違っていれば、子どもが「ちがう」というしぐさをしたり、別のカードを指さしたりして教えてくれます。
どの工夫も、気持ちを当てるテストではありません。答えたくない日があってもいいし、毎回同じカードを選んでもいい。続けるうちに、「気持ちには名前がある」「伝えると受けとめてもらえる」という経験が少しずつ積み重なっていきます。
言葉が出なくても、指さしで伝えられる。
色で伝えられる。
伝わった経験が、言葉を育てていく。
学校の先生と「気持ちの言葉」をそろえる
子どもにとって、家と学校で気持ちの表し方が違うと混乱しやすくなります。通級指導教室や特別支援学級の先生と、使う絵カードや気持ちの言葉、スケールをそろえることができると、子どもはどちらの場所でも同じ方法で気持ちを伝えられるようになります。
先生との話し合いで伝えたいこと
- 家で使っている気持ちのカードやスケール(写真を見せると伝わりやすい)
- 気持ちが動きやすい場面の記録(「いつ・どこで・何の前後に」)
- 家で落ち着くための方法(好きな物、静かな場所、時間)
- 学校で「楽しかった」と言った日の、家での様子
- 本人が嫌がること、安心すること
学校によっては、支援の内容をまとめた計画(個別の教育支援計画や個別の指導計画)をつくって、保護者と一緒に見直す機会があります。そうした場で、「気持ちの伝え方」も支援の目標のひとつとして話題にしてみてください。学習や生活の目標だけでなく、気持ちを伝える力も、学校と家庭で一緒に育てていけるものです。
家でも『いま、ここ』って指さすようになりました」
先生も、子どもの気持ちを知りたいと願っています。「家ではこういう様子です」と伝えることは、先生への要求ではなく、子どもを一緒に支えるための情報共有です。気になることがあれば、スクールカウンセラーや、地域の発達相談の窓口に相談してもかまいません。
きょうだいや祖父母にどう説明するか
家族の中にも、子どもの特性や気持ちの表し方を、どう理解すればいいか戸惑っている人がいるかもしれません。説明のしかたひとつで、家族の関わり方は大きく変わります。
きょうだいへの説明
きょうだいは、「なんであの子ばっかり」「ずるい」と感じたり、逆に「自分ががまんしなきゃ」と気持ちをのみこんだりしがちです。説明するときは、「できない」ではなく「伝え方が違う」という言い方をおすすめします。
そのうえで、「あなたの気持ちも、いつでも聞きたいよ」と必ず添えてください。きょうだいにも、きょうだいなりの不満やさみしさ、心配があります。月に一度でも、その子だけと過ごす時間をつくると、きょうだいは「自分も大切にされている」と感じられます。きょうだいの気持ちについては、きょうだい児をテーマにした記事でもくわしく取り上げています。
祖父母への説明
祖父母の世代には、「しつけが足りない」「甘やかしすぎ」と受けとめられてしまうことがあります。悪気はなく、孫を心配しているからこその言葉です。説明するときは、次のような順番で伝えると受けとめてもらいやすくなります。
心配してくれていることへの感謝
「いつも気にかけてくれてありがとう」と、まず相手の気持ちを受けとめます。
「わがまま」ではなく「伝え方の違い」
「この子は、気持ちを言葉にするのに時間がかかるの。怒っているように見えるときは、困っているときが多いみたい」と、具体的な場面を例にして話します。
お願いしたいことを一つだけ
「大きな声で叱るより、『困ったね』と言ってもらえると落ち着くみたい」など、してほしいことを一つに絞って伝えます。たくさんお願いすると、責められていると感じさせてしまうことがあります。
親自身の悲嘆と受容|受け入れきれない自分を責めない
子どもに特性があるとわかったとき、あるいは通級や特別支援学級をすすめられたとき、多くの親はさまざまな気持ちを経験します。ショック、「まさか」という思い、悲しみ、怒り、自分を責める気持ち、そして少しずつの安堵。こうした気持ちが入り混じるのは、ごく自然なことです。
この親の気持ちについては、いくつかの考え方が知られています。小児科医のドローター(Drotar)らは1975年、ショックから否認、悲しみと怒り、適応、そして再起へと進む段階的な流れを示しました。一方、オルシャンスキー(Olshansky)は1962年、親の悲しみは一度で終わるものではなく、入学や進級など節目のたびによみがえる「慢性的悲哀(chronic sorrow)」だと述べています。日本では中田洋二郎が、受け入れる気持ちと受け入れられない気持ちがらせんのように行き来しながら進むという見方を示しています。
この見方が教えてくれるのは、「まだ受け入れられていない自分」を責めなくていいということです。ほかの家族が前向きに見えても、行事のたびに胸が痛んでも、それはあなたが子どもを大切に思っている証です。
親の気持ちにも名前をつける
子どもの気持ちを見える化するのと同じように、親自身の気持ちにも名前をつけてみてください。夜、子どもが眠ったあとに、「今日いちばん心が動いたのはいつ?」「そのとき、どんな気持ちだった?」と自分に聞いて、一言だけメモします。「悲しい」「くやしい」「ほっとした」「疲れた」。名前のついた気持ちは、少しだけ扱いやすくなります。
話せる相手がいることも大切です。同じ立場の親の会、学校のスクールカウンセラー、地域の発達相談の窓口など、気持ちを安心して話せる場所を一つ持っておくことが、長い子育ての支えになります。
中島輝より一言
小学生の頃、私は理由もわからないまま涙が流れることがありました。悲しいのか、怖いのか、自分でもわからない。周りの大人にも説明できませんでした。だから、気持ちを言葉にできない子どもの心細さが、少しわかる気がします。そして今、親の立場の方にお伝えしたいのは、わからなくても、そばにいてくれる人がいることが、子どもにとって何よりの安心になるということです。わかってあげられない日があっても、あなたはもう十分にそばにいます。
アドラー心理学|課題の分離と勇気づけ、6つの感の「幹」
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方の中から、ここでは2つを紹介します。
課題の分離|「それは誰の課題か」
岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった「課題の分離」は、「その問題の結末を最終的に引き受けるのは誰か」を考えて、自分の課題と他者の課題を分ける考え方です。特別支援の子育てでは、親が子どもの課題をすべて背負いこんでしまいがちです。
| 子どもの課題 | 親の課題 |
|---|---|
| 自分のペースで気持ちを伝えられるようになること | 気持ちを伝えやすい道具や環境を用意すること |
| 学校での友だちとの関わり | 困ったときに相談できる大人や場所とつないでおくこと |
| どのカードを選ぶか、今日は答えたくないか | 答えを急がせず、待つこと |
| (子どもの課題ではない) | 周りの目が気になる、将来が不安という親自身の気持ち |
表の最後の行が大切です。「周りにどう思われるか」「この先どうなるのか」という不安は、子どもの課題ではなく、親自身の課題です。そう分けると、親の不安を子どもにぶつけずにすみ、親は自分の気持ちを自分で手当てすることに目を向けられます。課題を分けることは、子どもを突き放すことではありません。子どもの力を信じて待ち、親は親にできることに集中するということです。
勇気づけ|「できたね」より「伝えてくれてありがとう」
アドラー心理学の勇気づけは、ほめたり叱ったりする上下の関係ではなく、横の関係から「ありがとう」「うれしい」と伝えることです。子どもが気持ちのカードを指さしてくれたら、「よくできたね」とほめるより、「教えてくれてありがとう。お母さん、うれしいよ」と伝えてみてください。気持ちを伝えることが「評価されるテスト」ではなく、「つながれる喜び」として子どもの中に残ります。
6つの感の「幹」=自己受容感
自己肯定感は、6つの感が支え合ってできています。木にたとえると、根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。この記事のテーマで一番大切にしたいのが、幹にあたる自己受容感、つまり「ありのままの自分でいい」という感覚です。
子どもにとっては、「うまく言えなくても、自分の伝え方で伝えていい」と感じられることが、自己受容感の土台になります。そして親にとっては、「わからない日があっても、受け入れきれない日があっても、それでいい」と自分を受けとめることが、自己受容感を育てます。親が自分を受けとめる姿は、子どもが自分を受けとめるお手本にもなるのです。
よくあるご質問
届け方が違うだけ。その届け方を、一緒に探せばいい。
わからない日があっても、あなたはもうそばにいる。
自分の気持ちに一つ、名前をつけてみませんか。
自分を大切にしよう
「うちの子の気持ちがわからない」と悩むのは、愛情が足りないからではなく、わかろうとし続けているからです。気持ちを言葉にするのが苦手な子にも、気持ちは確かにあり、体のサインや行動、こだわりとして毎日伝えられています。通常の学級の小中学生の約11人に1人が学習面や行動面で困難を示すとされる今、通級や特別支援学級は、一人ひとりに合った学び方を選ぶ身近な選択肢になりつつあります。
言葉以外のサインを記録し、絵カードやスケール、色で気持ちを見える化する。学校の先生と気持ちの言葉をそろえる。きょうだいには「伝え方が違う」と説明し、祖父母にはお願いを一つに絞る。アドラー心理学の課題の分離で、子どもの課題と親の課題を分け、気持ちを伝えてくれたら「ありがとう」と勇気づける。そうした積み重ねが、子どもの中に「自分の伝え方でいい」という自己受容感の幹を育てます。
そして、親の気持ちは、受け入れたと思ってはまた揺れる、行ったり来たりをくり返しながら進んでいくものです。揺れる自分を責めないでください。自分を大切にしよう。あなたが自分の気持ちに名前をつけ、受けとめることが、子どもの気持ちを受けとめ続ける力になります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(2022年)
- 文部科学省「通級による指導実施状況調査」/「高等学校における通級による指導の制度化」(2018年度開始)
- Drotar, D., Baskiewicz, A., Irvin, N., Kennell, J., & Klaus, M. (1975). The adaptation of parents to the birth of an infant with a congenital malformation: A hypothetical model. Pediatrics, 56(5), 710-717.
- Olshansky, S. (1962). Chronic sorrow: A response to having a mentally defective child. Social Casework, 43, 190-193.
- 中田洋二郎(1995)「親の障害の認識と受容に関する考察―受容の段階説と慢性的悲哀」『早稲田心理学年報』27
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店。Katan〔1961〕の観察を含む)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』(岸見一郎訳、アルテ)
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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