『学校に行かない』を選んだ子の心の中
フリースクール・居場所と感情の言語化
フリースクールに通いはじめて3か月。最初はソファで眠ってばかりだった子が、ある日、スタッフとカードゲームをしながら声を上げて笑った。その帰り道、親の頭に浮かぶのは「でも、勉強は?」「いつ学校に戻るの?」。不登校の小中学生は全国で約34万6千人と過去最多になり、学校以外の学びの場を選ぶ家庭も増えています。実は、2016年に成立した法律も、国の通知も、「学校に戻ること」だけをゴールにしない考え方を示しています。この記事では、フリースクールや教育支援センターに通う子の保護者と運営スタッフの皆さんに向けて、居場所で子どもの感情が戻ってくるしくみと、大人の焦りのほどき方をお伝えします。
「学校に行かない」を選んだ子の心の中で起きていること
ゲームをしているときだけ、少し顔がゆるむんです」
自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はあるのに言葉に届きにくい状態です(くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒント)。その中には、生まれ持った特性としての傾向のほかに、強いストレスから心を守るために一時的に感情が平板になる「2次性」のものがあることが知られています。そして2次性のものは、ストレスが去り、安心できる環境が整うと、薄れていくことが多いとされています。
学校に行けない理由を聞かれて、子どもが「わからない」と答えるのは、ごまかしているからではありません。理由が一つではなく、いくつもの気持ちがからまり合っていて、本人にも見分けられないことが多いのです。不登校の子の「理由がわからない」という言葉については、不登校の子が「理由がわからない」と言うとき|感情迷子さんの視点で考える関わり方でくわしく取り上げています。この記事では、その先、学校以外の居場所に通いはじめてからの心の回復に焦点を当てます。
中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。フリースクールや教育支援センターは、迷子になった気持ちが帰ってくるための「居場所」になれる場所です。
数字と制度で見る、学校以外の学びの場
不登校の子どもが増えるなか、国の制度も「学校に戻すこと」一辺倒から、子ども一人ひとりに合った学びの場を認める方向へと変わってきました。主な流れを整理します。
| 年 | 制度・通知 | ポイント |
|---|---|---|
| 1992年 | 文部省(当時)の通知 | 学校外の公的機関や民間施設で相談・指導を受けている場合、一定の要件のもとで校長の判断により出席扱いにできることが示された。 |
| 2016年成立 (2017年施行) | 教育機会確保法 (義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律) | 不登校の子どもの休養の必要性や、学校以外の場での学習活動の重要性を踏まえた支援を、国や自治体に求めた。 |
| 2019年 | 文部科学省の通知 「不登校児童生徒への支援の在り方について」 | 支援は「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、子どもが自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立することを目指す、と明記された。 |
| 2023年 | COCOLOプラン | 学びたいと思ったときに学べる環境を整えることなどを柱とした、不登校対策の方針。 |
教育支援センター(以前は「適応指導教室」と呼ばれていた、自治体が設ける通いの場)や、民間のフリースクールは、こうした流れの中で、子どもが安心して過ごせる「学校以外の居場所」としての役割を担ってきました。
法律も国の通知も、
「学校に戻ること」だけをゴールにしていない。
大切なのは、その子が自分の道を歩けるようになること。
「学校復帰がゴール」ではない|安心が先、学びはそのあと
フリースクールに通いはじめた子を見て、大人はつい「次は学校へ」「次は勉強を」と、先のことを考えてしまいます。けれども、心の回復には順番があります。安心がないところに、感情は戻ってきません。感情が動かないところに、「やってみたい」という気持ちは生まれません。
2019年の文部科学省の通知が「学校に登校するという結果のみを目標にしない」と述べているのは、まさにこの順番を大切にするためだと私は受けとめています。学校に戻ることも、別の学び方を選ぶことも、④の「自分で選ぶ」の中にある選択肢の一つです。どの道を選ぶにしても、その前に①〜③の段がしっかりしていることが、子どもが自分の足で歩いていく力になります。
もちろん、学ぶ機会を手放してよいということではありません。体験活動やオンライン教材、個別の学習支援など、学校以外にも学びの道はたくさんあります。ただ、心が回復していない段階で学習を急がせると、「やっぱり自分はダメだ」という気持ちを強めてしまうことがあります。学びは、感情が戻ってきてからでも遅くありません。
居場所で感情が戻ってくるとき|4つの段階
フリースクールや教育支援センターに通いはじめた子どもには、時間をかけて、次のような変化が見られることがよくあります。順番や速さは一人ひとり違い、行ったり来たりもします。
眠る、ぼんやりする、一人で過ごす
最初のうちは、ソファで眠ってばかり、隅で黙ってスマホを見ているだけ、ということも珍しくありません。これは怠けではなく、張りつめていた心と体が休みを取っている状態です。教育機会確保法が「休養の必要性」に触れているのも、この段階を大切にするためです。
ゲーム、絵、料理、生きもの、音楽
好きなことに夢中になる時間が増えてきます。「好き」は、最初に戻ってくる感情であることが多いものです。大人から見ると「遊んでいるだけ」に見えても、心の中では「楽しい」「おもしろい」という感情の回路が再びつながりはじめています。
笑う、怒る、泣く、すねる
声を上げて笑うようになる一方で、急に怒ったり、小さなことで泣いたりすることも出てきます。大人は「悪くなった」と心配しがちですが、ブレーキが外れて、止まっていた感情が動きだしたサインであることが多いのです。
「あのとき、本当はつらかった」
何気ない会話の中で、学校にいた頃の気持ちをぽつりと話すことがあります。感情が言葉になると、子どもは自分の経験を少し離れたところから見られるようになり、「これからどうしたいか」を考える余裕が生まれてきます。
ここで泣くよね」
急に怒る、急に泣く。
それは悪化ではなく、
止まっていた気持ちが動きだしたサインかもしれない。
スタッフができる関わり|「気持ちを聞かない」から始める
フリースクールや教育支援センターのスタッフの方からは、「子どもの気持ちを聞きたいのに、何を聞いても『別に』で終わる」という声をよく聞きます。意外に思われるかもしれませんが、感情迷子さんの子どもには、最初は気持ちを直接聞かないほうがうまくいくことが多いのです。
横並びの時間をつくる
向かい合って「どう思っているの?」と聞かれると、子どもは面接されているように感じて身構えます。それより、一緒にゲームをする、料理をする、散歩をする、絵をかくといった、横に並んで同じものを見る時間のほうが、ふとした言葉が出やすくなります。
気持ちの「入口」になるワーク
中島輝の近刊で紹介しているワークの中から、居場所で使いやすいものを紹介します。
| ワーク | 居場所での使い方 |
|---|---|
| 五感スイッチ(1分) | 料理や工作の時間に「どんなにおい?」「手ざわりはどう?」と、感情ではなく感覚を聞く。答えやすく、気持ちへの入口になる。 |
| キャラクター感情読み | 好きなアニメやゲームのキャラクターについて「このとき、どんな気持ちだったと思う?」と聞く。自分のことでないので、話しやすい。 |
| 共感の一言(30秒) | スタッフが「それは悔しいね」「おもしろそう」と、子どもの話に気持ちの言葉を一つ添える。答えは求めない。 |
| 色彩感情カレンダー(1分) | 帰る前に、今日の気分を色で選んでもらう。言葉にしなくても気持ちを表せる。続けると変化が見えてくる。 |
怒りや涙が出たときは
段階3で感情があふれたとき、スタッフは対応に迷うことがあります。安全を守るための線は引きつつ、「怒っていいんだよ。でも、物は投げないでね」と、感情そのものは否定しないことが大切です。落ち着いたあとで、「さっきは、何が一番いやだった?」と短く聞いてみてください。言葉にならなければ、それで十分です。気持ちを出しても受けとめてもらえた、という経験が、次の言葉を育てます。
スタッフ自身の気持ちにも
子どもの回復は一直線ではありません。うまくいったと思った翌週に来なくなることもあり、スタッフも無力感や迷いを抱えます。運営は少人数で、経営の不安を抱えながら続けている場所も多いでしょう。スタッフ同士で「今日、心が動いたこと」を一言ずつ話す時間をつくると、気持ちの抱えこみを防ぐ助けになります。
親の焦りを言葉にする|「このままで大丈夫?」の中身
子どもが居場所で少しずつ元気になっても、親の不安はなかなか消えません。夜になると「このままで大丈夫なのか」と考えて眠れなくなる。そんな方も多いと思います。この「このままで大丈夫?」という一言の中には、実はいくつもの気持ちが混ざっています。
| 「このままで大丈夫?」の中身 | その気持ちの正体 | 手当ての方向 |
|---|---|---|
| 勉強が遅れる、進学できない | 将来への不安 | 学び直しの道や進路の情報を集める。スタッフに相談する |
| 育て方が悪かったのでは | 罪悪感 | 原因探しより、これからの関わりに目を向ける |
| 親戚や近所にどう言えば | 世間体・恥ずかしさ | 説明の言葉を一つ決めておく。全員にわかってもらう必要はない |
| なぜうちの子だけ | 悲しみ・怒り | 同じ立場の親の会などで、気持ちを話せる場を持つ |
| 仕事や家事との両立がきつい | 疲れ | 休む、頼る。送迎や付き添いを家族で分担する |
焦りをひとかたまりのままにしておくと、つい子どもに「いつまでこうしているの?」とぶつけてしまいがちです。けれども、中身を分けてみると、それぞれに違う手当てがあることが見えてきます。罪悪感には原因探しより今に目を向けること、恥ずかしさには説明の言葉を決めること、疲れには休むこと。気持ちに名前がつくと、焦りは少しずつ「扱えるもの」に変わっていきます。
そして、ここでアドラー心理学の「課題の分離」も役に立ちます。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られた考え方で、「その結末を最終的に引き受けるのは誰か」で課題を分けます。どの道を選び、どう歩むかは、最終的には子ども自身の課題です。親の課題は、子どもが選べるように情報と安心を用意し、自分の不安を自分で手当てすることです。親が自分の焦りを子どもに背負わせなくなると、子どもは安心して自分のペースを取り戻せます。
アドラー心理学|所属感と目的論で「行かない」を見る
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングをしてきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方の中から、「学校に行かない」を理解するのに役立つ2つの見方を紹介します。
所属感|人は「ここにいていい」場所を求める
アドラー心理学では、人は誰でも「自分はこの共同体の一員だ」と感じられる所属感を求めていると考えます。学校の教室で居場所を感じられなくなった子どもは、所属感が大きく揺らいでいます。フリースクールや教育支援センターが大切なのは、勉強の場である前に、「何もしなくても、ここにいていい」と感じられる場所だからです。
所属感は、「役に立てた」という貢献感からも育ちます。居場所で年下の子にゲームを教える、昼ごはんの準備を手伝う。スタッフが「ありがとう、助かった」と伝えることは、アドラー心理学でいう勇気づけであり、子どもの「ここにいていい」という感覚を強くします。
目的論|「行かない」は、何のためか
アドラー心理学のもう一つの特徴が目的論です。人の行動や感情は、過去の原因によって決まるだけでなく、何かの目的のために選ばれていると考えます。
この見方を不登校に当てはめるとき、誤解のないようにお伝えしたいことがあります。目的論は、「わざと行かないのだ」と子どもを責めるための考え方ではありません。むしろ、「行かない」という選択には、これ以上傷つかないように自分を守るという、大切な目的があると理解するための見方です。そう考えると、「なぜ行けないの?」という原因探しから、「今、この子は何を守ろうとしているのだろう」という問いに変わります。
「今、何を守ろうとしているのかな」へ
原因を問われると、子どもは責められているように感じて黙ってしまいます。目的に目を向けると、大人は子どもの選択の中に「自分を守る力」を見つけられます。その力を認めることが、子どもが再び動きだすための勇気づけになります。
中島輝より一言
私自身、長い間、外の世界に出られない時期を過ごしました。あの頃の私には、「なぜ出られないのか」を説明する言葉がありませんでした。今ふり返ると、あれは心が壊れないように自分を守っていた時間だったのだと思います。35歳で少しずつ暗闇から抜け出せたのは、「そのままのあなたでいい」と言ってくれる人と場所があったからです。居場所には、人を再び歩かせる力があると、私は信じています。
6つの感の「根」|自尊心≒自己存在感を取り戻す
自己肯定感は、6つの感が支え合ってできています。私はこれを1本の木にたとえています。根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。
学校に行けなくなった子どもの多くは、木の根にあたる自尊心≒自己存在感、つまり「自分は存在しているだけで価値がある」という感覚が大きく揺らいでいます。「学校に行けない自分はダメだ」「みんなに迷惑をかけている」。そう感じていると、感情を感じること自体がつらくなり、心はますますブレーキをかけます。
根を育てる、大人の言葉
根を育てるのは、成果をほめる言葉ではなく、存在そのものを受けとめる言葉です。
- 「来てくれてうれしい」(何をしたかではなく、来たことそのものに)
- 「あなたがいると、ここが楽しい」
- 「今日は休みたい日なんだね。それでいいよ」
- 「話したくなったら、いつでも聞くよ」
- 「おかえり」(家に帰ってきたとき、何も聞かずに)
こうした言葉を受けとり続けた子どもは、少しずつ「自分はいてもいいんだ」と感じられるようになります。根が張ると、止まっていた感情が戻り、やがて「これをやってみたい」「こっちの道を選びたい」という自己決定感の花が咲きはじめます。それが学校に戻るという選択であっても、別の道であっても、自分で選んだ道なら、子どもは自分の足で歩いていけます。
よくあるご質問
安心が戻れば、感情が戻る。感情が戻れば、言葉が戻る。
道を選ぶのは、そのあとでいい。
何も聞かずに伝えてみませんか。
自分を大切にしよう
不登校の小中学生は約34万6千人と過去最多になり、フリースクールや教育支援センターなど、学校以外の居場所を選ぶ家庭も増えています。2016年に成立した教育機会確保法は休養の必要性に触れ、2019年の文部科学省の通知は、学校に登校するという結果のみを目標にしないと明記しました。「学校に行かない」を選んだ子の心の中では、傷つかないように自分を守るために、感情にブレーキがかかっていることがあります。
心の回復は、安心、感情が戻る、言葉になる、自分で選ぶ、という順番で進むことが多いものです。居場所では、休む、好きなことに戻る、感情があふれる、言葉になる、という変化が、行ったり来たりしながら起きていきます。スタッフは気持ちを直接聞くより横並びの時間をつくり、好きなものを入口に感情への橋をかける。親は「このままで大丈夫?」の中身を分けて、自分の焦りを手当てする。アドラー心理学の所属感と目的論は、「行かない」を責めるのではなく、その子の守る力を認める見方を教えてくれます。
そして何より大切なのは、「何もしなくても、ここにいていい」という自尊心≒自己存在感の根を育てることです。見守る親やスタッフの皆さんも、不安や迷いを抱えています。その気持ちにも名前をつけてください。自分を大切にしよう。大人が自分を大切にする姿が、子どもにとって「自分も大切にされていい」と感じられる、何よりの居場所になります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(令和5年度)
- 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法、2016年)
- 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(2019年)
- 文部科学省「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」(2023年)
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収(1次性/2次性アレキシサイミア)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』(岸見一郎訳、アルテ)
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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