先代と比べられ続ける後継者へ
事業承継と言葉にできない重圧
社長の椅子に座って3年。それでも取引先からは「先代はお元気?」と聞かれ、古参の社員は大事な話になると会長室へ向かう。新しいやり方を提案すると、父である会長は「うちはそういう会社じゃない」と一言で終わらせる。家に帰れば、配偶者に「あなたはいつも親の顔色ばかり見ている」と言われる。事業承継は「経営の引き継ぎ」であると同時に、親子・家族・社員の「感情の引き継ぎ」でもあります。そこで生まれる怒り・遠慮・罪悪感は、言葉にされないまま後継者の肩に積み重なっていきます。アドラー心理学と感情の言語化の視点から、先代と比べられ続ける重圧のほどき方をお伝えします。
結論:事業承継は「経営」と「感情」の二つの引き継ぎ
結論からお伝えします。事業承継がこじれる原因は、株式や資産、経営ノウハウの引き継ぎだけではありません。先代と後継者、家族、古参社員のあいだで動いている感情が言葉にされないまま、「経営の議論」の形をとってぶつかり合っていることが少なくないのです。
この記事のポイントは3つです。
- 先代との衝突の多くは、方針の違いの下に感情の違いがある。「認めてほしい」「自分の人生をかけたものを否定されたくない」という気持ちが、言葉にならないまま意見の対立として表に出る。
- 比べられる苦しさは、劣等感の扱い方で変わる。アドラー心理学の「劣等感」と「劣等コンプレックス」の区別を知ると、先代との比較を成長の材料に変えられる。
- 先代の期待は先代の課題。課題の分離とライフスタイルの視点で、「継ぐべき」「長男だから」という思い込みと、自分で決めることを切り分ける。
背景にあるのは、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる状態です。感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。
家業を継ぐ人は、子どもの頃から「家の事情」を優先して育つことが多く、自分の気持ちより、家や会社にとって何が必要かを先に考えるクセが身についていることがあります。それは責任感の強さでもありますが、同時に、自分の感情に気づきにくくなる原因にもなります。経営者全般の感情の扱い方については感情を見せない経営者が組織を止めるで扱いました。この記事では、「継ぐ」「継がれる」という関係そのものに生まれる感情に焦点を当てます。
数字と研究で見る事業承継と感情
事業承継は、いまや日本の中小企業全体の大きなテーマです。あわせて、家族と経営が重なる会社に特有の構造を研究した知見があります。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 経営者の高齢化 | 中小企業の経営者の年齢分布のピークが、年を追って高い年代へ移ってきたことが繰り返し示されている。承継のタイミングを逃す会社も少なくない | 中小企業庁『中小企業白書』 |
| 家族経営の3つの円 | 同族企業を「家族」「所有(株主)」「経営(会社)」の3つの円の重なりとして捉える考え方。1人が複数の立場を持つことで、役割と感情がからみ合う | タジウリとデービスによるスリー・サークル・モデル |
| 感情のラベリング | 感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がる | Lieberman et al.(2007) |
| 筆記開示 | つらい体験について感情を含めて書き出すことが、心身の健康によい影響を与えうる | Pennebaker の一連の研究 |
| 約10〜16% | 一般の人のうち、アレキシサイミア傾向が強いとされる人の割合 | TAS-20等を用いた複数の疫学研究 |
家族経営の研究でよく知られるスリー・サークル・モデルは、後継者の苦しさをよく説明してくれます。後継者は、会社では「社長」、家では「息子・娘」、株の上では「承継者」という複数の立場を同時に生きています。会議で父に反論すれば、それは経営上の意見であると同時に、「親に逆らう子」でもあります。立場が重なっているからこそ、ひとつの言葉に何重もの感情が乗ってしまうのです。
中小企業白書が示してきた経営者の高齢化は、裏を返せば、多くの会社で「まだ譲れない先代」と「まだ任されない後継者」が長い時間を共に過ごしているということでもあります。その時間が長いほど、言葉にならない感情は積み重なっていきます。
先代と比べられる重圧|劣等感と劣等コンプレックスの違い
『先代ならこうしなかった』と言われる気がして」
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングを行ってきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は、劣等感そのものは悪いものではないと考えました。「もっとよくなりたい」という目標があるからこそ生まれる感情であり、人を成長させるバネにもなるからです。
問題になるのは、劣等感を理由に行動をやめてしまったり、劣等感を隠すために虚勢を張ったりする「劣等コンプレックス」の状態です。後継者の場面にあてはめると、次のようになります。
| 劣等感(健全) | 劣等コンプレックス(不健全) |
|---|---|
| 「先代の人脈にはまだ及ばない。自分なりの関係をつくろう」 | 「どうせ自分は先代のようにはなれない」と、取引先との関係づくりを避ける |
| 「現場のことは古参の方が詳しい。教わりながら判断しよう」 | なめられまいとして、現場の意見を聞かずにトップダウンで決める |
| 「先代とは違う強みを、言葉にしてみよう」 | 先代のやり方をすべて否定し、改革の数で自分の価値を示そうとする |
アドラー心理学では、健全な努力は他人との比較ではなく、「理想の自分」との比較から生まれると考えます。後継者が比べられるのは、たいてい全盛期の先代です。けれども、先代にも、継いだばかりの頃や、迷い続けた時期があったはずです。比べるべきは、先代という他人ではなく、「自分はどんな経営者でありたいのか」という自分自身の理想です。
そのためには、まず比べられたときに動く感情に名前をつけることから始めます。「先代ならこうしなかった」と言われたとき、胸の中にあるのは悔しさでしょうか。恥ずかしさでしょうか。それとも、「自分の努力を見てほしい」というさみしさでしょうか。感情に名前がつくと、劣等感は「自分を責める材料」から「次の一歩の手がかり」に変わります。
先代との衝突の下にある感情|怒り・遠慮・罪悪感
後継者と先代の衝突は、表面上は「設備投資をするかどうか」「取引先を見直すかどうか」といった経営の議論として起こります。けれども、その議論がいつも同じところで行き詰まるとしたら、議論の下で動いている感情が、言葉にされていないのかもしれません。
後継者の中にある3つの感情
- 怒り:「任せると言ったのに、結局口を出す」。怒りの下には、認めてほしい、信頼してほしいという願いがあることが多い。
- 遠慮:「親だから強く言えない」「まだ元気な父の顔をつぶせない」。遠慮が続くと、言いたいことが溜まり、ある日爆発しやすくなる。
- 罪悪感:先代のやり方を変えることは、親が築いてきたものを否定するように感じられる。改革を進めるたびに、親を裏切っているような気持ちになる。
この3つは、同時に存在していることがほとんどです。怒っているのに遠慮して言えず、言えたら言えたで罪悪感が残る。混ざった感情は、ひとかたまりのままだと「もやもや」「イライラ」としか感じられません。だからこそ、ひとつずつ名前をつけて分けることが大切です。
先代の側にも、言葉にならない感情がある
先代の「口出し」の下には、多くの場合、自分の人生をかけて育てた会社を守りたい気持ち、必要とされなくなるさみしさ、老いへの不安があります。アドラー心理学の目的論で見ると、先代の口出しには「自分はまだ必要な存在だと確かめる」という目的が隠れていることもあります。
先代の感情を理解することは、先代の言うとおりにすることではありません。ただ、「この人はいま、会社を手放すさみしさの中にいるのかもしれない」と見えると、議論の言葉を少し変えることができます。「父さんのやり方は古い」ではなく、「父さんが守ってきたこの部分は残したい。そのうえで、ここは変えさせてほしい」。感情を受けとめたうえで方針を話すと、議論が前に進みやすくなります。
中島輝より一言
私は中学生の頃、バスケットボール部の試合で勝っても、一人だけ無表情でした。喜んでいいのかどうか、自分でもわからなかったのです。後継者の方のお話をうかがうと、ときどきそのときの自分を思い出します。業績を伸ばしても、「先代の土台があったから」と言われ、自分の手柄として喜べない。喜びさえ言葉にできなくなると、人は自分のがんばりを自分で認められなくなります。小さな成果でいいので、「これは私が決めて、私がやったことだ」と、言葉にしてあげてください。
「先代の期待は先代の課題」|課題の分離とライフスタイル
アドラー心理学の「課題の分離」は、岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった整理です。「その選択の結末を最終的に引き受けるのは誰か」を考え、自分の課題と他者の課題を分けていきます。
後継者を苦しめるものの一つが、先代の期待です。「おまえなら、もっとできるはずだ」「この会社を100年続けてほしい」。期待されること自体は、ありがたいことでもあります。けれども、その期待にすべて応えようとすると、後継者は自分の人生を生きられなくなります。
| 誰の課題か | 内容 |
|---|---|
| 先代の課題 | 後継者にどんな期待を持つか。期待どおりにならなかったとき、その気持ちをどう扱うか。会社をどのタイミングで手放すか |
| 後継者の課題 | どんな経営者になりたいか。会社をどう導くか。先代の期待のうち、どれを引き受け、どれを引き受けないか |
| 一緒に話し合う課題 | 承継の時期と手順。株式や資産の扱い。社内外への伝え方。経営の権限の線引き |
「先代の期待に応えられない自分はだめだ」と感じたら、「期待を持つのは先代の課題。私の課題は、自分がどうしたいかを決めること」と言葉にしてみてください。先代を突き放すのではありません。先代の期待を尊重しながらも、自分の人生の舵を自分で握り直すための整理です。
「長男だから」「継ぐのが当たり前」というライフスタイル
アドラー心理学には「ライフスタイル」という考え方があります。日常語の生活様式ではなく、その人が子どもの頃から身につけてきた、自分・他者・世界についての信念の体系のことです。
家業のある家で育った人は、たとえば次のようなライフスタイルを持っていることがあります。
- 「家のことを優先するのが、よい子どもだ」
- 「自分の気持ちを言うのは、わがままだ」
- 「親の期待に応えてはじめて、自分には価値がある」
- 「弱音を吐いたら、跡取りとして失格だ」
こうした信念は、子どもの頃には家族の中で生きていくために役立ってきたものです。けれども、大人になって経営者になったいまも、同じ信念のまま動いていると、自分の感情を後回しにし続けて、気づいたときには心も体も疲れきっていることがあります。
アドラー心理学では、ライフスタイルは自分で選び直すことができると考えます。まずは、自分がどんな信念で動いているのかを言葉にしてみることです。「私は『弱音を吐いたら失格』だと信じてきた。でも、本当にそうだろうか」。信念に気づくことが、選び直しの第一歩になります。
古参社員との関係|「若」と呼ばれる居心地の悪さ
後継者の苦しさは、先代との関係だけではありません。長年会社を支えてきた古参社員との関係も、言葉にしにくい感情が多く生まれる場所です。
入社した頃から「若」「ぼっちゃん」「お嬢」と呼ばれ、何をしても「さすが社長の子」か「やっぱり社長の子」と言われる。年上の部下に指示を出すたびに、相手の表情をうかがってしまう。古参社員の中には、自分が子どもの頃から知っている人もいて、上司と部下という関係に切り替えにくいのです。
古参社員の側の感情
一方で、古参社員の側にも感情があります。先代と共に会社を育ててきた誇り。先代が退くことへのさみしさ。新しいやり方についていけるかという不安。「自分の居場所はこれからもあるのか」という恐れ。後継者への反発に見えるものの下に、喪失感や不安があることは少なくありません。
縦の関係ではなく、横の関係で
アドラー心理学では、人と人との関係を、上下で評価し合う「縦の関係」ではなく、役割は違っても人として対等な「横の関係」で築くことをすすめます。後継者が「なめられないように」と上に立とうとすると縦の関係になり、反発が強まりがちです。かといって、遠慮して何も言わなければ、経営の判断ができません。
横の関係を築く手がかりになるのが、アドラー心理学の「勇気づけ」です。ほめたり叱ったりして相手を動かすのではなく、「ありがとうございます」「〇〇さんがいてくれて助かりました」と、相手の貢献に感謝を伝える関わり方です。
経験に敬意を伝える
「この工程のことは、〇〇さんがいちばんよく知っています。判断の前に、〇〇さんの考えを聞かせてください」。指示ではなく相談から入ると、相手の誇りを守りながら、自分が決める立場であることも示せます。
自分の気持ちを少しだけ開く
「正直、父と比べられるのはプレッシャーです。だからこそ、〇〇さんの力を借りたい」。気持ちを一言添えると、古参社員は「試されている」のではなく「頼られている」と感じやすくなります。
変えないものを先に伝える
「先代が大切にしてきた品質へのこだわりは、これからも変えません。そのうえで、ここを変えたいと思っています」。何を守るかを先に言葉にすると、変化への不安がやわらぎます。
「継がない」「まだ決められない」という選択と罪悪感
この記事を読んでいる方の中には、「継ぐかどうか、まだ決められない」「継がないと決めたけれど、親に申し訳ない」という方もいらっしゃると思います。
家業を継がないという選択は、親の人生や家の歴史を背負わないという選択のように感じられ、強い罪悪感を生みます。「自分のせいで、何代も続いた会社が終わるかもしれない」。そう思うと、自分の本当の気持ちを確かめることさえ怖くなります。
罪悪感の中身を分けてみる
「申し訳ない」という気持ちは、ひとかたまりに見えて、実はいくつもの感情が混ざっています。
- 親をがっかりさせたくないという悲しみ
- 「わがままな子だと思われたくない」という恥
- 社員や取引先の生活への責任感と不安
- 本当は別の道に進みたいという希望と、それを望むことへの後ろめたさ
- 継いだら自分の人生がなくなるのではという恐れ
こうして分けてみると、「申し訳ない」の中に自分の希望も混ざっていることに気づくかもしれません。罪悪感の大きさは、それだけ家族を大切に思っている証でもあります。けれども、罪悪感だけで人生の大きな決断をすると、継いでも継がなくても、後悔が残りやすくなります。
継ぐかどうかは、最終的にはあなた自身が引き受けるあなたの課題です。そして、会社をどう残すか(親族以外への承継、社員への承継、第三者への引き継ぎなど)は、先代と一緒に、専門家の力も借りながら考える課題です。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センター、商工会議所や商工会、税理士などの専門家に相談すると、選択肢が具体的に見えてきます。「継ぐか、会社が終わるか」の二択ではないことを知るだけでも、心は少し軽くなります。
きょうだいと配偶者|家族の中で言葉にならない感情
事業承継は、後継者と先代だけの問題ではありません。きょうだいや配偶者の中にも、言葉にならない感情が動いています。
きょうだいの間の感情
後継者に選ばれたきょうだいと、選ばれなかったきょうだい。その間には、表には出にくい感情があります。選ばれなかった側は「親は自分より兄(姉)を信頼していた」というさみしさや、株式や資産の扱いをめぐる不公平感を抱えることがあります。選ばれた側も、「自分だけが重荷を背負わされた」という不満や、「きょうだいに申し訳ない」という気持ちを抱えています。
こうした感情は、子どもの頃からの関係と重なって、言葉にされないまま何年も残ることがあります。そして、相続の場面などで一気に表に出て、家族の関係そのものを壊してしまうことも少なくありません。お金や株の話をする前に、「本当はどう感じていたのか」を話す場を持つことが、のちの大きなこじれを防ぎます。
配偶者の立場
後継者の配偶者もまた、難しい立場にいます。家業に入って働いている場合は、義理の親でもある先代と、上司と部下の関係にもなります。家業の外にいる場合は、「家の事情」に振り回される生活の中で、自分の気持ちを言う場所がないと感じていることがあります。
配偶者に「あなたはいつも親の顔色ばかり見ている」と言われたら、それは責めているというより、「私たちの家族のことも見てほしい」という願いかもしれません。後継者自身が自分の感情を言葉にできるようになると、配偶者の言葉の下にある気持ちにも気づきやすくなります。
家族で話すときの3つの約束
「経営の話」と「気持ちの話」を分ける日をつくる
経営会議の延長で家族の話をすると、立場の上下が持ち込まれます。数字や方針を決める場とは別に、気持ちを話す時間をとります。
「私は」を主語にして話す
「兄さんはずるい」ではなく、「私は、相談してもらえなかったのがさみしかった」。相手を責める言葉ではなく、自分の気持ちを伝える言葉を選びます。
決めることを急がない
気持ちを話す場では、結論を出さなくてかまいません。「今日は、それぞれの気持ちがわかった」で十分です。感情が共有されてはじめて、具体的な話し合いが前に進みます。
後継者のための感情の言語化ワーク|自己決定感と自己信頼感を育てる
自己肯定感の「6つの感」を一本の木にたとえると、後継者の苦しさと特に深く関わるのが、花にあたる「自己決定感」と、葉にあたる「自己信頼感」です。
自己決定感は、「自分の人生を自分で選んでいる」という感覚です。「継ぐのが当たり前」の中で育った人は、継いだことさえ「自分で選んだ」と感じにくく、どれだけ働いても、どこか他人の人生を生きているような感覚が残ることがあります。自己信頼感は、「自分の判断を信じられる」という感覚です。先代と比べられ続けると、この感覚が揺らぎ、「本当にこれでいいのか」と、決めたあとも迷い続けてしまいます。
どちらの感覚も、自分の感情に気づき、言葉にすることから育ちます。自分が本当は何を感じ、何を望んでいるかがわかると、先代の基準ではなく、自分の基準で判断できるようになるからです。書籍原稿のワークを、後継者の場面に合わせてアレンジして紹介します。
感情が動いた瞬間日記:「先代」の場面だけ記録する
一日の終わりに、先代や古参社員とのやりとりで心が動いた瞬間を一つだけ書きます。「会議で父に遮られたとき、悔しかった」「古参の〇〇さんが新しい提案に賛成してくれて、ほっとした」。1か月続けると、自分がどんな場面で強く感情を動かされるのか、パターンが見えてきます。
3段階温度計:大きな判断の前に感情の強さを測る
設備投資や人事など大きな判断の前に、いまの感情を「ちょっと・そこそこ・すごく」で測ります。「先代を見返したい気持ちが『すごく』強い」とわかったら、その判断は一晩寝かせます。感情が強いときほど、判断と感情を切り離す時間が自分を守ります。
比喩レッスン:いまの重圧を何かにたとえる
「いまの私の重圧は、まるで〇〇のようだ」と、たとえで表してみます。「先代の大きな影の中を歩いているようだ」「重いリュックを下ろせないまま山を登っているようだ」。たとえにすると、言葉にしにくい感情の輪郭が見え、人にも伝えやすくなります。
未来日記:10年後の自分の会社を「気持ち」で書く
「10年後、私はどんな気持ちで会社にいたいか」を書きます。売上や規模ではなく、「社員と笑って新しい挑戦を話している、わくわくした気持ち」のように、望む気持ちを書くのがポイントです。それは、先代の期待でも世間の基準でもない、あなた自身の経営の軸になります。
先代の背中を追うのではなく、
自分の気持ちを地図にして歩く。
そのとき、継いだ会社は「自分の会社」になる。
経営の重圧を、誰にも話せずに抱え込んでいる後継者は少なくありません。社内では弱みを見せられず、家族には心配をかけたくない。だからこそ、利害関係のない第三者に話す場を持つことも大切です。同じ立場の後継者が集まる勉強会や、カウンセラーなどの専門家に、途中の言葉のままでいいので、気持ちを話してみてください。
よくあるご質問
「いま、私は何を感じている?」
その問いが、自分の経営の軸を取り戻す一歩です。
感情を言葉にしてはじめて、承継は前に進みます。
自分を大切にしよう
事業承継は、株式や資産、経営ノウハウの引き継ぎであると同時に、親子・家族・社員のあいだで動く感情の引き継ぎでもあります。家族・経営・所有という3つの円が重なる中心に立つ後継者は、ひとつの言葉に何重もの感情を乗せながら、先代と比べられる重圧の中で日々判断を重ねています。その苦しさが言葉にならないのは、あなたが弱いからではなく、立場が重なりすぎているからです。
先代との衝突の下にある怒り・遠慮・罪悪感に、ひとつずつ名前をつける。劣等感を、先代との比較ではなく「なりたい自分」との差として受けとめ直す。先代の期待は先代の課題だと整理し、「長男だから」「弱音は失格」というライフスタイルに気づく。古参社員とは横の関係で、勇気づけの言葉を交わす。きょうだいや配偶者とは、お金の話の前に気持ちを話す。そうした小さな言葉の積み重ねが、自分で選ぶ自己決定感と、自分の判断を信じる自己信頼感を育てていきます。
先代の大きな背中を見ながら、ここまで会社と家族を支えてきたあなたは、本当によく頑張っています。その頑張りを、「まだ足りない」と自分を責めることには使わないでください。「今日は父と意見がぶつかった。悔しかった。でも、自分の考えは伝えられた」。その一言で十分です。自分を大切にしよう。あなたが継ぐのは先代の人生ではなく、あなた自身の人生です。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- 中小企業庁『中小企業白書』
- Tagiuri, R., & Davis, J.A. Bivalent attributes of the family firm.(スリー・サークル・モデル)Family Business Review.
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8, 162-166.
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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