聞き返すのが申し訳なくて黙ってしまう
聞こえの悩みと感情の言語化
孫が何か話して、みんながどっと笑う。自分だけ何がおかしいのかわからないまま、少し遅れて笑顔をつくる。「え?」と聞き返すのは、今日はもう三回目。四回目はさすがに申し訳なくて、わかったふりをしてうなずいてしまう――。聞こえにくさを抱える方から、こうしたお話をよくうかがいます。黙ってしまうのは、気が弱いからでも、会話に興味がなくなったからでもありません。聞き返すたびに生まれる「申し訳なさ」や「恥ずかしさ」が、言葉にならないまま積もっていくのです。この記事では、聞こえの悩みの奥にある気持ちと、ご本人とご家族が会話の輪に戻るための方法をお伝えします。
結論:黙ってしまうのは「遠慮」ではなく、心を守るための撤退
最初に結論をお伝えします。聞こえにくさを抱える人が会話から黙って退いていくのは、性格の問題ではなく、何度も小さく傷ついた心が自分を守ろうとする反応です。聞き返すたびに相手の顔がくもる。言い直してもらっても、やはり聞き取れない。そのたびに「申し訳ない」「情けない」「みじめだ」という気持ちが生まれますが、多くの人はそれを言葉にしません。言葉にしないかわりに、会話そのものから少しずつ距離をとるようになります。
ですから、必要なのは「もっと聞き返していいのよ」という励ましだけではありません。聞こえにくさにまつわる気持ちに名前をつけ、本人と家族がその気持ちを分け合えるようにすること。そして、耳そのものについては耳鼻咽喉科で相談し、聞こえを補う手段を検討すること。この「心」と「耳」の両方からの手当てが、会話の輪に戻る近道になります。
最近は黙って座っているだけなんです」
このように、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情は動いているのに、言葉にたどり着く前に迷子になっている状態です。私はこれを「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉です。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはでくわしく解説しています。
聞こえにくさは、この「感情迷子」を生みやすい状況です。会話は、気持ちを言葉にして受けとめてもらう、いちばん身近な場です。その会話から退くと、気持ちを言葉にする機会そのものが減っていきます。耳の問題が、心の言葉の問題へと静かに広がっていくのです。
黙ってしまうのは、弱さではない。
何度も小さく傷ついた心が、
自分を守ろうとしているサイン。
数字で見る、聞こえの悩みと心の関係
聞こえにくさは、決して一部の人だけの問題ではありません。世界保健機関(WHO)が2021年に公表した『World Report on Hearing(聴覚に関する世界報告書)』では、世界で15億人以上が何らかの聞こえにくさを抱えており、2050年には約25億人に達すると推計されています。年齢とともに聞こえが落ちていく加齢性難聴は、誰にとっても身近な変化です。
| 数字・研究で見る | わかっていること |
|---|---|
| 約25億人 WHO『World Report on Hearing』(2021年) | 2050年に何らかの聞こえにくさを抱えると推計される人の数。高齢化とともに増えていく。 |
| 約1割 日本補聴器工業会「JapanTrak 2022」 | 日本で「自分は聞こえにくい」と感じている人の割合。一方で、そのうち補聴器を持っている人は15%前後にとどまり、欧米の多くの国より低いと報告されている。 |
| 12の要因 Lancet委員会(Livingston ら, 2020年) | 認知症の発症に関わる、生活の中で働きかけられる要因の一つとして難聴が挙げられた。2024年の報告でも引き続き重要な要因とされている。 |
| 孤立・孤独 複数の研究のレビュー | 聞こえにくさのある高齢者は、社会的な孤立や孤独感を抱えやすいという関連が報告されている。 |
ここで、ひとつ誤解を正しておきたいと思います。Lancet委員会の報告は、「聞こえにくい人は認知症になる」と言っているのではありません。認知症にはさまざまな要因が関わっており、難聴はその中の「働きかけられる可能性のある要因」の一つとして挙げられた、ということです。難聴と認知機能の関係については、補聴器などで聞こえを補うことの効果を含め、現在も研究が続いています。
私がこの報告で大切だと思うのは、むしろ次の点です。研究者たちは、難聴が認知機能に関わる道筋の一つとして、会話や人づきあいが減ることを挙げています。聞こえにくさそのものだけでなく、聞こえにくさによって人と話さなくなること、気持ちを交わさなくなることが、心と頭の働きに影響している可能性があるのです。つまり、「聞き返すのが申し訳なくて黙る」という心の動きは、決して小さな問題ではありません。
耳の状態や認知機能について気になることがある場合は、自己判断せず、まず耳鼻咽喉科で相談してください。聞こえの検査を受けることで、原因や今の状態がわかります。この記事では、医学的な判断ではなく、聞こえの悩みに伴う「気持ち」の側面をお伝えしていきます。
聞き返せない人の心の中|申し訳なさ・恥・疲れ
聞こえにくさを抱える人が会話から退いていくとき、その心の中では、いくつもの感情が重なっています。ご本人も「なんとなく黙ってしまう」としか感じていないことが多いので、ひとつずつ名前をつけてみましょう。
「また相手の手を止めてしまう」
聞き返すたびに、相手は話を止め、もう一度言い直さなければなりません。相手の時間や流れを奪っている気がして、申し訳なさが積もっていきます。とくに、人に迷惑をかけないことを大切にしてきた世代の方ほど、この申し訳なさを強く感じやすいようです。
「とんちんかんな返事をしてしまった」
聞き間違えたまま返事をして、場の空気が一瞬止まる。笑われたわけではなくても、「頭がぼんやりしてきたと思われたのでは」という恥ずかしさが残ります。この恥ずかしさは、人に言いにくい感情の代表です。
「聞き取るだけで精一杯」
聞こえにくい状態で会話を追うのは、全身を耳にするような大変な作業です。口の動きを見て、前後の文脈から推測し、聞こえた断片をつなぎ合わせる。にぎやかな場から帰るとどっと疲れるのは、それだけ頭と心を使っているからです。
「みんなが笑っているのに、自分だけ」
同じ部屋にいるのに、自分だけ会話の外にいる。ひとりでいるときより、人の輪の中にいるときのほうが孤独を感じるという方は少なくありません。このさみしさは、「聞こえない」という事実より、ずっと深く心に残ります。
「どうせもう年だから」
聞こえの衰えを「年のせい」と受けとめようとするとき、その裏には、思うようにならない体へのいら立ちや、失われていくものへの悲しみが隠れていることがあります。あきらめの言葉は、ときに怒りや悲しみをしまいこむための言葉でもあるのです。
「わかったふり」は、やさしさから生まれる
聞こえにくさのある方の多くが、聞き取れなかったのに、わかったふりをしてうなずいた経験を持っています。これは相手をだまそうとしているのではなく、場の流れを止めたくない、相手に手間をかけさせたくないという、やさしさから生まれる行動です。
ただ、わかったふりを続けると、会話の中身はどんどん遠ざかり、「自分はここにいてもいなくても同じだ」という感覚が強まっていきます。わかったふりは、やさしさであると同時に、自分の気持ちを置き去りにする行動でもあるのです。
「何度言わせるの」の裏にある家族の気持ち
聞こえの悩みは、ご本人だけのものではありません。一緒に暮らす家族もまた、言葉にしにくい気持ちを抱えています。
つい声がきつくなってしまって」
家族のいら立ちは、決して冷たさから来るものではありません。多くの場合、その下には次のような気持ちがあります。
- 親が老いていく姿を見たくない、という悲しみ
- このまま認知症になるのでは、という不安
- 毎日の小さなすれ違いで、心の余裕がなくなっている疲れ
- 補聴器をすすめても聞いてくれない、という無力感
- きつく言ってしまった自分への罪悪感
家族がこうした気持ちに気づかないまま「何度言わせるの」と言葉を投げると、本人はますます聞き返せなくなります。逆に、家族が「きつく言ってごめんね。お父さんが聞こえにくくなっていくのが、なんだか心配で」と、自分の気持ちを言葉にできると、会話の空気は大きく変わります。
「大きな声」より「伝わる話し方」
聞こえにくい人に話すとき、つい大きな声を出しがちです。けれど、大きな声は、聞こえにくい人にとって音が割れたように響き、かえって聞き取りにくいことがあります。さらに、大きな声は「怒られている」ように感じさせてしまいます。次のような工夫が、一般的に伝わりやすいとされています。
| ついやりがちなこと | 伝わりやすい工夫 |
|---|---|
| 背中ごしや、別の部屋から話しかける | 正面に回って、顔と口元が見える位置で話す |
| 大きな声で同じ言葉をくり返す | 少しゆっくり、はっきり話す。伝わらなければ別の言葉に言い換える |
| テレビをつけたまま話す | 話す前に音を下げる。静かな場所を選ぶ |
| 長い文で一気に話す | 短く区切り、大事な言葉(日時・名前)を最初に伝える |
| 「もういい」と話を打ち切る | メモやスマートフォンの文字表示も使って、最後まで伝える |
そして何より、本人が聞き返したときに「聞き返してくれてありがとう」という態度で応えること。聞き返すことは、会話に参加し続けようとする意思の表れです。その意思を受けとめてもらえると、本人は会話の輪に戻りやすくなります。
補聴器をためらう気持ちを言葉にする
耳鼻咽喉科で検査を受け、補聴器をすすめられても、なかなか使い始められない方は少なくありません。家族がすすめると、かえってかたくなになることもあります。その「ためらい」の中にも、言葉になりにくい感情が隠れています。
「年寄りに見られたくない」
補聴器を「老いの象徴」のように感じ、自分が老いたことを人に見せる恥ずかしさや、老いを認めたくない気持ちが生まれます。これは、自分らしさを守りたいという、ごく自然な気持ちです。
「まだそこまで悪くない」
聞こえの低下はゆっくり進むため、本人は自分の聞こえにくさに気づきにくいものです。「認めてしまったら、もう戻れない」という不安が、「まだ大丈夫」という言葉になっていることもあります。
「使ってみたけれど、うるさくて」
補聴器は、つけた日から元の聞こえに戻る道具ではありません。聞こえを補う音に脳が慣れるまでには時間がかかり、調整を重ねることが大切だとされています。最初の違和感で「自分には合わない」とがっかりし、そのがっかりを誰にも話せないまま、引き出しにしまってしまう方もいます。
「高いお金をかけて失敗したくない」
費用への不安も、ためらいの大きな理由です。家族に負担をかけたくない、という申し訳なさが重なることもあります。補聴器を選ぶときは、耳鼻咽喉科の医師(補聴器相談医)や、認定補聴器技能者のいる専門店に相談し、試聴や調整の期間を設けてもらうと安心です。聞こえの程度によっては、公的な支援が受けられる場合もあるので、お住まいの市区町村の窓口に確かめてみてください。
家族が補聴器をすすめるときは、「つけなさい」と結論から伝えるより、本人のためらいの気持ちを先に聞くほうがうまくいきます。「補聴器って、どんなところが嫌だと思う?」「つけたら、どんな気持ちになりそう?」と尋ね、出てきた気持ちを否定せずに受けとめる。そのうえで「お母さんと、もっといろんな話がしたいから」と、家族側の気持ちを伝えてみてください。
中島輝より一言
カウンセリングで聞こえの悩みをうかがうと、多くの方が最初は「年だから仕方ないんです」とおっしゃいます。けれど、もう少しお話を聞いていくと、「本当は、孫の話をちゃんと聞きたい」「夫と昔みたいに冗談を言い合いたい」という言葉が出てきます。「仕方ない」の奥には、「本当はこうしたい」という願いが眠っています。その願いを言葉にできたとき、補聴器は「老いの象徴」から「大切な人とつながる道具」へと意味を変えます。
アドラーが最初に注目した「器官劣等性」と劣等感
アドラー心理学を創始したアルフレッド・アドラー(1870〜1937、オーストリアの精神科医)は、その初期の研究で、体のある部分が弱かったり、うまく働かなかったりすること(器官劣等性)に注目しました。アドラーは、人は体の弱さを抱えたとき、それを補おうとする力を持っていると考えました。私自身も、アドラー心理学をベースにカウンセリングを続けてきました。
アドラーは、ここからさらに考えを深め、「劣等感」と「劣等コンプレックス」を区別しました。聞こえの悩みに当てはめると、次のように整理できます。
| 劣等感 | 劣等コンプレックス | |
|---|---|---|
| 意味 | 「前のようには聞こえない」「もっとこうありたい」と感じる、ごく自然な気持ち | 劣等感を理由にして、人生の課題から退くこと |
| 聞こえの悩みでは | 「聞こえにくくなって悔しい」「もっと話に加わりたい」 | 「どうせ聞こえないから、集まりには行かない」「耳が悪いから、話しても無駄」 |
| 向かう先 | 補う工夫を探す、助けを求める、成長のバネにする | 会話や人づきあいから身を引き、孤立が深まる |
大切なのは、劣等感そのものは悪いものではないということです。「前のように聞こえない」と感じるのは、自分の状態を正直に見つめている証拠です。問題になるのは、その劣等感を言葉にしないまま、「どうせ」という形で人とのつながりから退いてしまうときです。
アドラーの考え方に立てば、聞き返せずに黙ってしまう心の動きは、「聞き返して恥をかかないため」「相手に迷惑をかけないため」という目的を持った行動として見ることもできます。その目的は、自分を守るという意味では理にかなっています。ただ、その代わりに失っているもの、つまり人とつながる喜びのほうが、ずっと大きいかもしれません。
共同体感覚|「聞こえにくい自分」のままで輪の中にいていい
アドラーは、心の健康の土台として共同体感覚を大切にしました。共同体感覚とは、「自分はこの人たちの仲間であり、ここにいていい」と感じられる感覚です。
聞こえにくさを抱えると、「ちゃんと聞き取れない自分は、この場にふさわしくない」と感じやすくなります。けれど、共同体感覚は「完璧に会話についていけること」の上に成り立つものではありません。聞こえにくい自分のままで、それでも輪の中にいていいと感じられること。そのためには、本人が「聞こえにくいので、ゆっくり話してもらえるとうれしい」と伝え、周りがそれを自然に受けとめる関係が必要です。
「助けてほしい」と伝えることは、迷惑をかけることではなく、相手に貢献の機会を差し出すことでもあります。孫が「おばあちゃん、こっち向いて話すね」と言ってくれたとき、孫もまた、誰かの役に立てる喜びを感じているのです。
6つの感で見る|聞こえと自尊心≒自己存在感
自己肯定感は、6つの感が支え合う一本の木にたとえられます。根にあたる自尊心≒自己存在感、幹の自己受容感、枝の自己効力感、葉の自己信頼感、花の自己決定感、そして実の自己有用感です。聞こえの悩みで最も揺らぎやすいのは、木の根である自尊心≒自己存在感です。
会話についていけない経験が重なると、「自分はいてもいなくても同じだ」「みんなの迷惑になっているだけだ」という感覚が生まれます。これは、聞こえの問題が、存在そのものへの自信にまで広がってしまった状態です。
根を支えるのは、「聞こえにくくても、あなたがここにいてくれてうれしい」というメッセージです。家族が会話の中で本人の方を向いて話す、話題をふる、意見を聞く。そうした小さな関わりが、「自分はこの輪の一員だ」という感覚を取り戻させます。
根が安定してくると、幹の自己受容感(聞こえにくい自分も自分だと受け入れる)、枝の自己効力感(工夫すれば会話に加われる)も育ちやすくなります。補聴器を試してみる、集まりで「聞こえにくいので前の席に座らせてください」と伝える。そうした一歩を自分で選べたとき、花の自己決定感が咲きます。
会話の輪に戻るための小さな練習
ここからは、ご本人とご家族が日常の中でできる、小さな練習を紹介します。中島輝の近刊で紹介しているワークを、聞こえの悩みに合わせて組み立て直しました。
心の体温チェック
会話のあとや、集まりから帰ったあとに、「今の心の温度は、あたたかい・ふつう・冷たい、のどれ?」と自分に聞いてみます。聞き取れなかった場面のあとで心が冷たくなっていたら、「さみしかったんだな」「疲れたんだな」と、そのまま受けとめます。気持ちに気づくことが、すべての出発点です。感情に名前をつけると、脳の扁桃体の反応が落ち着くという研究(Lieberman ら, 2007年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校)もあります。
3段階温度計で「申し訳なさ」を測る
聞き返したくなったとき、心の中の「申し訳なさ」を「小・中・大」の3段階で測ってみます。「今は中くらい申し訳ないけれど、聞き返さないともっと話がわからなくなる」。気持ちを測ると、気持ちに振り回されずに次の行動を選べるようになります。
感情ことば帳に「聞こえの気持ち」を書く
手帳やノートの1ページを「聞こえの気持ち」のページにして、「申し訳ない」「恥ずかしい」「置いてけぼり」「ほっとした」「うれしかった」など、その日に感じた言葉を一つ書き足していきます。ほっとした日、うれしかった日の言葉も書くのがポイントです。
「聞き返しOK」の合言葉を決める
家族で「聞こえなかったら、遠慮なく『もう一回』と言っていい」という約束を、言葉にして決めておきます。本人が手を軽く挙げる、耳に手を当てる、などの合図を決めておくのもよい方法です。約束があると、聞き返すことへの申し訳なさが小さくなります。
「聞こえにくい」と先に伝える一言を用意する
集まりや病院、お店などで使える一言を、あらかじめ用意しておきます。「耳が少し遠いので、ゆっくり話していただけると助かります」。先に伝えておくと、相手も話し方を工夫しやすくなり、本人も聞き返しやすくなります。言いにくければ、メモに書いて見せる方法もあります。
「もう一回お願い」は、迷惑の言葉ではない。
あなたと話し続けたい、という
つながりの言葉。
会話の輪から退いていたことで、ひとりの時間が長くなっていた方は、「さみしい」と言えない大人たちと孤独・孤立の記事もあわせて読んでみてください。気持ちを言葉にすることが、人とつながり直す力になることをお伝えしています。
中島輝より一言
私は幼いころ、自分の気持ちを出すのをやめて生きていた時期があります。誰かに何かを頼むことが、相手に迷惑をかけることのように思えて、黙っているほうが楽だったのです。けれど、大人になって気づきました。黙っていることで守れるものより、言葉にすることで受けとれるもののほうが、ずっと多い。「もう一回言って」と頼めたとき、相手はたいてい、うれしそうに言い直してくれます。
よくあるご質問
あなたはこの輪の大切な一員です。
「もう一回お願い」から、会話をもう一度。
その両方が、大切な人とのつながりを取り戻します。
自分を大切にしよう
聞こえにくさを抱える人が会話から黙って退いていくのは、性格のせいではありません。聞き返すたびに生まれる申し訳なさ、恥ずかしさ、聞き取ることの疲れ、輪の外にいるさみしさ、そして「もう年だから」というあきらめが、言葉にならないまま積もり、心が自分を守ろうとしているのです。家族のいら立ちの下にもまた、親が老いていく悲しみや不安が隠れています。
WHOの報告が示すように、聞こえにくさは誰にとっても身近な変化です。Lancet委員会は難聴を認知症に関わる要因の一つとして挙げましたが、それは「聞こえにくい人は認知症になる」という意味ではなく、聞こえを補い、会話やつながりを保つことの大切さを教えてくれるものだと私は受けとめています。アドラーが注目したように、人は弱さを抱えたとき、それを補う力を持っています。劣等感を「どうせ」に変えず、工夫と助けを求める力に変えていくこと。そして、聞こえにくい自分のままで輪の中にいていいと感じられる共同体感覚が、自尊心≒自己存在感という根を支えます。
耳のことは耳鼻咽喉科で相談し、心のことは言葉にして分け合う。「もう一回お願い」「ゆっくり話してくれると助かる」と言えた日は、あなたが人とのつながりを選んだ日です。自分を大切にしよう。聞こえにくくなっても、あなたの声も、あなたの気持ちも、この輪に必要なものです。
相談先
・耳鼻咽喉科(聞こえの検査・補聴器の相談。補聴器相談医がいる医療機関もあります)
・お住まいの市区町村の障害福祉の窓口(聞こえに関する公的な支援の相談)
・地域包括支援センター(高齢の方の暮らし・健康・介護の総合相談)
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
本記事の参考資料・科学的根拠
- World Health Organization (2021). World Report on Hearing. WHO.
- Livingston, G. et al. (2020). Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet, 396.
- Livingston, G. et al. (2024). Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet.
- 一般社団法人日本補聴器工業会「JapanTrak 2022 調査報告」
- Shukla, A. et al. (2020). Hearing loss, loneliness, and social isolation: A systematic review. Otolaryngology–Head and Neck Surgery.
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5).
- アルフレッド・アドラー『器官劣等性の研究』(1907年)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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