『特に問題ありません』と言う学生たち
大学教職員のための感情の言語化
ゼミの個別面談で「最近どう?」と聞くと、学生は少し考えてから「特に問題ありません」と答える。研究室のミーティングでは誰も質問をしない。キャリア面談でも「やりたいことは、特にないです」。ところが学期の途中で、その学生が急に授業に来なくなり、休学届が出てくる。「特に問題ありません」は、問題がないという報告ではなく、困りごとを言葉にできていないサインであることが少なくありません。学生相談室、キャリアセンター、ゼミ・研究室の教員など、学生と向き合う教職員が明日から使える関わり方を、結論から順にお伝えします。
結論:「特に問題ありません」は、問題がないという報告ではない
結論からお伝えします。面談で「特に問題ありません」と答える学生の中には、困りごとがないのではなく、困りごとを感情として見分け、言葉にすることができていない学生がいます。教職員がその前提に立つだけで、面談の質問、ゼミの運営、相談窓口へのつなぎ方は大きく変わります。
この記事のポイントは3つです。
- 学生の「沈黙」は、意欲のなさではなく感情の迷子であることがある。評価する立場の教員の前では、特に本音が出にくい。
- 「特に問題ありません」には目的がある。アドラー心理学の目的論で見ると、それは「評価を下げたくない」「迷惑をかけたくない」「傷つきたくない」ための言葉であることが多い。
- 声かけは「縦」から「横」へ。評価や指導の言葉ではなく、感情を差し出す横の関係の言葉が、学生の自己決定を支える。そして、一人で抱えず学内外の窓口とつなぐ。
背景にあるのは、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる状態です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではありません。一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる、誰もが持つ特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。
大学生の時期は、親元を離れる、人間関係が一から変わる、成績や研究、進路の選択が次々に迫るなど、環境の変化が非常に大きい時期です。もともと感情を言葉にするのが得意な学生でも、強いストレスが続くと、心は自分を守るために感じる回路を一時的に絞ることがあります。この反応は「2次性アレキシサイミア」と呼ばれ、安心できる関わりが増えると薄れていくことが多いとされています。教職員の関わりが意味を持つのは、まさにこの点です。
数字で見る大学生のメンタルヘルス
大学生のメンタルヘルスは、国内外で重要な課題とされています。教職員が押さえておきたい数字と知見を整理します。
| 知見 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 若い世代の死因 | 日本では、10代後半から30代の死因の第1位が自殺であり、若い世代の心の健康は社会的な課題となっている | 厚生労働省「自殺対策白書」 |
| 合理的配慮 | 2024年4月の改正障害者差別解消法の施行により、私立大学を含む事業者にも、障害のある学生への合理的配慮の提供が義務化された | 内閣府・文部科学省 |
| 心理的安全性 | チームの中で、対人関係のリスクをとっても安全だと感じられることが、学習行動や発言を促す | Edmondson(1999) |
| 感情のラベリング | 感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がる | Lieberman et al.(2007) |
| 筆記開示 | つらい体験について感情を含めて書き出すことが、大学生の心身の健康によい影響を与えうる | Pennebaker の一連の研究 |
Auerbach らの研究は、精神的な不調が「一部の特別な学生」の問題ではないことを示しています。そして同じ研究では、不調を抱える学生の多くが、専門的な支援につながっていないことも課題として指摘されています。困っている学生が多いのに、相談窓口にはなかなか来ない。そのすき間にいるのが、「特に問題ありません」と答える学生たちです。
だからこそ、学生相談室のカウンセラーだけでなく、日常的に学生と接するゼミ教員、研究室の指導教員、キャリアセンターや教務の職員が、感情の言語化の視点を持つことに意味があります。学生が最初に「なんとなく様子がおかしい」と見せる相手は、専門職ではなく、身近な教職員であることが多いからです。
ゼミ・研究室の沈黙は「意欲がない」ではない
誰も何も言わないんです」
ゼミや研究室の沈黙を、教員は「最近の学生は意欲がない」「受け身だ」と受けとりがちです。けれども沈黙の下には、多くの場合、言葉になっていない感情があります。
沈黙の下にある、よくある感情
| 表に見える姿 | 下にあるかもしれない感情 |
|---|---|
| 質問しない、意見を言わない | 「的外れなことを言ったら恥ずかしい」という不安 |
| 「順調です」と言う | うまくいかない焦り、失望されることへの恐れ |
| 報告がぎりぎりになる、連絡が途絶える | できていないことを伝える気まずさ、罪悪感 |
| 研究室に来る日が減る | 居場所のなさ、同期と比べた劣等感、疲れ |
| 指示されたことだけを淡々とこなす | 「自分で決めて失敗したくない」という恐れ |
「評価する人」の前では、本音は出にくい
ゼミ教員や指導教員は、学生にとって成績や単位、学位、推薦状、就職の行方を左右する存在です。教員にそのつもりがなくても、学生から見れば、関係は大きく非対称です。その前で「困っています」「わかりません」と言うことは、学生にとって大きなリスクに感じられます。
エドモンドソン(Edmondson, 1999)の研究が示すように、人は「対人関係のリスクをとっても安全だ」と感じられて、はじめて質問や失敗の報告をするようになります。ゼミや研究室の沈黙を破るには、学生に「もっと発言しなさい」と求めるより、発言しても安全だと感じられる場を、教員の側からつくることが先なのです。
学生の沈黙は、
意欲がないのではなく、
言葉にしても安全かどうかを確かめている時間。
「特に問題ありません」の目的論|アドラーで読む学生の言葉
私は長年、アドラー心理学をベースにカウンセリングを行ってきました。オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の考え方の中心の一つが「目的論」です。人の行動や感情は、過去の原因によって決まるのではなく、何らかの目的のために使われていると考えます。
この視点で見ると、「特に問題ありません」という言葉も、学生がある目的のために選んでいる言葉だと理解できます。それは嘘をついているということではありません。学生自身も気づかないうちに、自分を守るための言葉を選んでいるのです。
「特に問題ありません」に込められやすい目的
評価を下げたくない
困っていると言えば、「できない学生」と思われるかもしれない。教員の評価を守るために、困りごとを見せない。成績や推薦に関わる相手ほど、この目的は強くなります。
迷惑をかけたくない
先生は忙しそうだ。自分のことで時間をとらせるのは申し訳ない。相手への配慮のつもりで、困りごとを引っ込める。まじめで周りに気を遣う学生に多い目的です。
自分の弱さと向き合いたくない
「困っている」と言葉にすると、自分がうまくいっていないことを認めることになる。認めたくない気持ちから自分を守るために、「問題ない」と自分にも言い聞かせる。
面談を早く終わらせたい
何を話せばいいのかわからない。沈黙が気まずい。面談という場の居心地の悪さから抜け出すために、いちばん短い答えを選ぶ。
目的が見えてくると、教職員の関わり方も変わります。「本当に問題ないの?」と問い詰めるのではなく、その目的が必要なくなるような関わりを考えるのです。評価を下げたくない学生には、「ここで話したことは成績とは関係ない」と伝える。迷惑をかけたくない学生には、「話してくれると、こちらも助かる」と伝える。学生の言葉の「目的」に目を向けることは、学生を責めることではなく、学生の安心をつくることです。
中島輝より一言
私自身、長いあいだ「つらい」と言えずに過ごした時期がありました。周りから「大丈夫?」と聞かれるたびに「大丈夫」と答えていたのは、本当に大丈夫だったからではありません。「大丈夫じゃない」と口にした瞬間に、自分が崩れてしまいそうでこわかったのです。だから私は、「特に問題ありません」という学生の言葉を、そのまま受けとらないようにしてほしいと思います。かといって、無理にこじ開ける必要もありません。「いつでも話していいよ」という扉を、開けたままにしておいてください。
ハラスメント相談で言葉が出てこないとき
大学には、アカデミック・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメントなどの相談窓口が設けられています。けれども、ハラスメントを受けた学生ほど、そのつらさを言葉にすることが難しいという現実があります。
なぜ言葉が出てこないのか
- 相手が指導教員など、自分の将来に関わる立場の人である
- 「自分が悪かったのかもしれない」と、自分を責めている
- 何が起きたのかを時系列では話せても、どう感じたかが言葉にならない
- 思い出すとつらいので、心が自動的に感じないようにしている
- 「この程度で相談していいのか」と迷っている
- 相談したことが相手に知られることを恐れている
強いストレスや傷つき体験のあとに、感情が平板になったり、出来事を淡々としか語れなくなったりすることは、心が自分を守るための自然な反応です。淡々と話しているからといって、つらくないわけではありません。相談を受ける教職員がこのことを知っておくだけで、学生の訴えを過小評価してしまうことを防げます。
相談を受けるときに大切にしたいこと
「話してくれてありがとう」から始める
内容の真偽を確かめる前に、相談に来たこと自体をねぎらいます。ハラスメントの相談は、学生にとって大きな勇気を必要とする行動です。
感情を急いで聞き出さない
「そのとき、どう感じましたか」と聞いても答えられない学生には、無理に感情を言葉にさせず、「眠れていますか」「食事はとれていますか」と、体の状態から尋ねます。体の変化は、言葉にならない感情の手がかりになります。
決めるのは学生、という原則を守る
申し立てをするか、記録だけ残すか、まずは相談にとどめるか。選択肢と、それぞれで何が起きるかを説明したうえで、決めるのは学生です。守秘の範囲と、安全に関わる場合の例外についても、最初に正直に伝えます。
ハラスメントの判断や手続きは、各大学の規程と専門の窓口に従ってください。個々の教職員が一人で判断しようとせず、ハラスメント相談窓口や学生相談室と連携することが、学生を守ることにつながります。
教職員が使える声かけ|縦の関係から横の関係へ
アドラー心理学では、人間関係を「縦の関係」と「横の関係」に分けて考えます。縦の関係とは、評価する人とされる人、指導する人とされる人という上下の関係です。横の関係とは、立場や役割は違っても、人として対等な関係です。
教員と学生のあいだには、評価や指導という役割上の上下があります。それ自体はなくせません。けれども、声かけの言葉を横の関係のものにすることはできます。縦の関係の言葉は「評価」や「指示」になりやすく、学生は身構えます。横の関係の言葉は「感謝」や「共感」「自分の気持ち」を伝えるもので、学生は安心して自分の気持ちに目を向けやすくなります。
| 縦の関係の声かけ(身構えやすい) | 横の関係の声かけ(話しやすい) |
|---|---|
| 「何か問題はありますか?」 | 「最近、いちばん大変なことは何?」 |
| 「進捗が遅れていますね」 | 「ここまで進めてくれてありがとう。いま、どこで止まっている感じ?」 |
| 「もっと積極的に発言してください」 | 「さっきの発表、私はここがおもしろかった。あなたはどう思った?」 |
| 「やりたいことを決めなさい」 | 「これまでで、少しでも心が動いた授業や経験はある?」 |
| 「大丈夫?」 | 「最近ちょっと疲れて見えるけど、眠れてる?」 |
面談で使える「3つの入口」
感情を言葉にしにくい学生には、いきなり「どう感じている?」と聞くより、答えやすい入口から入るのが効果的です。書籍原稿で紹介しているワークを、面談向けにアレンジして紹介します。
心の体温チェック
「いまの調子を、体温にたとえると何度くらい?」と聞きます。数字で答えられる問いは、「特に問題ありません」以外の答えを引き出しやすくなります。「35度くらい、ちょっと低め」と返ってきたら、「低めなんだね。いつごろから?」と続けます。
3段階温度計
「研究(授業)のしんどさは、弱・中・強のどれくらい?」と、選択肢で答えられる問いを使います。感情の名前がわからなくても、強さなら答えられる学生は多いものです。
共感の一言
「私も院生のころ、実験がうまくいかなくて、焦って眠れない時期があったよ」と、教員自身の気持ちを先に差し出します。教員が感情を言葉にすることで、学生は「ここでは気持ちを話してもいいんだ」と感じやすくなります。
一人で抱えない|学内外の連携とつなぎ方
学生の様子が気になったとき、教職員が一人ですべてを解決する必要はありません。むしろ、一人で抱え込まず、適切な窓口につなぐことが、教職員の大切な役割です。
学内でつなげる主な窓口
- 学生相談室(カウンセラーによる心理相談)
- 保健管理センター(医師・看護師による健康相談)
- 障害学生支援室(修学上の困りごと、合理的配慮の相談)
- ハラスメント相談窓口
- キャリアセンター(進路・就職の相談)
- 教務・学生課(休学、履修、奨学金などの手続き)
つなぐときのコツ
「学生相談室に行ってみたら?」と言うだけでは、多くの学生は行きません。「相談室は、問題のある学生が行く場所」と感じている学生が少なくないからです。つなぐときは、次の点を意識してみてください。
「あなたのため」ではなく「私が心配だから」と伝える
「あなたは問題があるから相談室へ」ではなく、「最近疲れて見えて、私が少し心配なんだ」と、教員の気持ちとして伝えます。学生は責められたと感じにくくなります。
できれば一緒に予約する、場所を案内する
学生の了解を得たうえで、その場で予約の方法を一緒に確認したり、相談室の場所まで案内したりすると、最初の一歩のハードルが大きく下がります。
つないだあとも、関係を切らない
相談室につないだら終わりではありません。「また研究室でね」「いつでも声をかけて」と、日常の関係を続けることが、学生の安心につながります。守秘の範囲は相談室と確認し、学生の了解なく詳細を共有しないようにします。
命に関わるサインに気づいたら
まれに、学生が「消えたい」「いなくなりたい」と口にしたり、身の回りの整理を始めたりすることがあります。こうした言葉は、つらさを伝えるSOSです。驚いて話をそらしたり、「そんなこと言わないで」と打ち消したりせず、「そう思うほどつらいんだね。話してくれてありがとう」と受けとめてください。感情を言葉にしにくい学生は、SOSが周りに届きにくいことがあります。だからこそ、小さな言葉や変化を見逃さないことが大切です。
厚生労働省は、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞き、必要な支援につなげ、見守る人を「ゲートキーパー」と呼び、その養成を進めています。教職員はまさにゲートキーパーの役割を担える立場です。そして、決して一人で抱えず、学生相談室や保健管理センター、上司と速やかに共有してください。命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ連絡してください。
つらい気持ちを話せる相談窓口
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
厚生労働省「まもろうよ こころ」でSNS相談先を探せます
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ
助けを求めることは、弱さではありません。学生にも、そして学生を支える教職員自身にも、そのことを伝えてください。
学生の自己決定感を育てる|進路・研究・休学の相談で
自己肯定感の「6つの感」を一本の木にたとえると、大学生の時期に特に育てたいのは、木の花にあたる「自己決定感」です。自己決定感とは、自分の人生を自分で選び、決めているという感覚のことです。
大学生は、履修、ゼミ、研究テーマ、進学か就職か、休学するかどうかなど、人生で初めて大きな選択を次々に迫られる時期にいます。けれども、自分の気持ちがわからないと、何を基準に選べばいいのかもわかりません。「やりたいことが特にない」の下には、選べないのではなく、自分の気持ちが見えていない状態があることが多いのです。
教職員が「決めない」ことの大切さ
学生が迷っているとき、教職員はつい「こっちがいいと思うよ」と答えを示したくなります。親切のつもりでも、学生が自分の気持ちを確かめないまま、教員の意見に従って決めてしまうと、うまくいかなかったときに「先生がそう言ったから」と感じやすくなり、自己決定感は育ちません。
アドラー心理学の「課題の分離」の考え方では、その選択の結果を最終的に引き受けるのは誰かを考えます。進路や研究の選択は、学生自身の課題です。教職員の役割は、答えを決めることではなく、学生が自分の気持ちを言葉にし、自分で決めるのを支えることです。
選択を支える問いかけ
- 「それぞれの道を選んだ自分を想像すると、どんな気持ちになる?」
- 「これまでで、時間を忘れて取り組めたことは何だった?」
- 「やりたくないことは、はっきりしている?」
- 「誰かの期待を抜きにしたら、どうしたい?」
- 「決めるまでに、あと何を知りたい?」
こうした問いは、書籍原稿のワーク「未来日記」や「感情が動いた瞬間日記」の考え方を面談に取り入れたものです。選択肢の条件より先に、それぞれの選択肢に対する感情を言葉にする。それが、学生の自己決定を支える近道になります。就職活動の自己分析については、学生向けに書いた自己分析が進まない就活生へを、面談の参考資料として紹介することもできます。
休学は「失敗」ではなく、一つの選択
休学や留年の相談では、学生が強い罪悪感や恥ずかしさを抱えていることがあります。「休学したら終わり」「親に申し訳ない」。そうした感情が言葉にならないまま、決断を先延ばしにしてしまう学生もいます。教職員は、休学も、自分の心と体を守るための一つの選択であると伝え、学生が自分の気持ちを整理する時間をつくってください。手続きや経済面の相談は、教務・学生課や奨学金の窓口と連携しましょう。
教職員自身の感情の言語化
最後に、学生を支える教職員自身の感情についてお伝えします。教育、研究、学内業務、外部資金の申請、学生対応。教職員の多くが、大きな負担の中で働いています。そして、学生の困りごとに向き合うことは、教職員自身の心にも負担をかけます。
教職員に起きやすい感情
- 学生が休学・退学したとき、「自分の指導が悪かったのでは」と自分を責める
- 何度声をかけても反応がない学生に、無力感やいら立ちを感じる
- 重い相談を受けたあと、そのことが頭から離れない
- 忙しさの中で、学生に十分な時間をとれない罪悪感がある
- 研究者としての評価と、教育者としての役割のあいだで板挟みになる
こうした感情を、教職員は「教員として当然の責任」と飲み込みがちです。けれども、教職員自身が感情を言葉にできていないと、学生の感情に寄り添う余裕もなくなります。学生に「気持ちを言葉にしていい」と伝えるなら、教職員自身にも同じことが必要です。
教職員のためのセルフケア
感情だけ日記:学生対応のあとに
重い面談のあとに、出来事ではなく自分が感じたことだけを一言ずつ書きます。「心配」「無力感」「少しほっとした」。書くことで、学生の問題と自分の感情を分けて扱えるようになります。
事例を「感情」も含めて共有する
守秘に配慮したうえで、学生相談室のカウンセラーや同僚の教職員と、対応の内容だけでなく、自分がどう感じたかも含めて話す場を持ちます。一人で抱えないことは、学生にとっても教職員にとっても大切です。
学生の人生の選択は学生自身の課題であり、教職員がすべてを背負う必要はありません。できることをして、あとは学生の力を信じる。それもまた、アドラー心理学のいう横の関係です。教職員自身が心身の不調を感じる場合は、学内の産業医や相談窓口、医療機関に相談してください。
よくあるご質問
まだ言葉になっていない気持ちがある。
答えを急がず、扉を開けておいてください。
教職員の役割は、自分で決める力を支えることです。
自分を大切にしよう
面談で「特に問題ありません」と答える学生、ゼミや研究室で沈黙する学生の多くは、意欲がないのでも、困りごとがないのでもありません。評価する立場の教職員の前で、困りごとを感情として見分け、言葉にすることが難しくなっているのです。アドラー心理学の目的論で見ると、その言葉は「評価を下げたくない」「迷惑をかけたくない」といった、自分を守るための目的に使われていることがわかります。
だからこそ、教職員にできることがあります。縦の関係の評価や指示ではなく、横の関係から感謝や共感、自分の気持ちを差し出す。体や数字など答えやすい入口から問いかける。ハラスメントや命に関わるサインには一人で判断せず、学内外の窓口とつなぐ。そして、進路や研究の選択では答えを決めず、学生が自分の気持ちを言葉にして自分で決めるのを支える。その関わりが、学生の自己決定感という心の花を咲かせていきます。
学生のことを思ってこの記事を読んでくださったあなたも、教育と研究と業務のあいだで、本当によく頑張っています。学生に「気持ちを言葉にしていい」と伝えるように、あなた自身の疲れや無力感も、どうか言葉にしてあげてください。自分を大切にしよう。教職員が自分を大切にすることが、学生が安心して自分を大切にできる場をつくります。
つらい気持ちを話せる相談窓口
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Auerbach, R.P., et al. (2018). WHO World Mental Health Surveys International College Student Project: Prevalence and distribution of mental disorders. Journal of Abnormal Psychology, 127(7), 623-638.
- 厚生労働省「自殺対策白書」
- 厚生労働省「ゲートキーパー」に関する資料、「まもろうよ こころ」
- 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の改正(2024年4月施行)に関する資料
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
- Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』ダイヤモンド社
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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