健診で「困っていません」と笑う母親に|保健師・子育て支援と感情の言語化

健診で「困っていません」と笑う母親に|保健師・子育て支援と感情の言語化

健診で「困っていません」と笑う母親に
保健師・子育て支援と感情の言語化

4か月児健診の個別相談。「何か困っていることはありますか」と聞くと、お母さんはにっこり笑って「いえ、特にありません。よく寝てくれるので」。問診票のチェックもほとんど空欄。けれど、目の下のくまや、赤ちゃんを抱く腕のこわばりが気になる――。市町村の保健師や子育て支援センターの職員なら、こうした場面に何度も出会っているはずです。「困っていません」の笑顔は、困っていないことの証明ではありません。「ちゃんとした母親でいなければ」という思いや、自分の疲れを感じとる余裕のなさが、本当の気持ちを言葉の手前で止めていることがあります。産後うつの見落としを防ぐために、点数と言葉の「外側」をどう聞くか。支援する側の心の守り方とあわせてお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:「困っていません」の笑顔は、助けを求められないサインかもしれない

最初に結論をお伝えします。健診や訪問で「困っていません」と笑う母親の中には、本当は困っているのに、それを感じとれない、あるいは言葉にできない人がいます。産後の心身の変化、睡眠不足、そして「母親なのだから弱音を吐いてはいけない」という思いが重なると、つらさは自分でも気づかないうちに心の奥へ押しこめられてしまいます。

だからこそ、母子保健の現場では「困っていますか」と聞いて「いいえ」と返ってきたところから、本当の面談が始まると考えてみてください。質問紙の点数、言葉、そして言葉以外のサイン。この3つを重ねて見ることで、笑顔の下にある気持ちに近づくことができます。

よくあるご相談の典型例
「健診ではいつも『順調ですね』と言われていました。
でも、本当は毎晩泣いていたんです」
場面30代の女性。第一子の出産後、夫は仕事が忙しく、実家も遠い。新生児訪問でも健診でも「大丈夫です」と答え、質問紙も低い点数だった。子どもが1歳を過ぎたころ、何も手につかなくなり、自分から相談窓口に電話をかけた。「あのとき誰かに『眠れていますか』と聞かれていたら、言えたかもしれない」と振り返る。
この方は、嘘をついていたわけではありません。当時は、自分がつらいと感じていることに、自分でも気づけていなかったのです。「泣いているのは寝不足のせい」「みんなやっていること」。そうやって感情に別の理由をつけるうちに、本当の気持ちは言葉にならないまま積もっていきました。

このように、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はちゃんと動いているのに、言葉にたどり着く前に迷子になっている状態です。私はこれを「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはの記事でくわしく解説しています。

アレキシサイミアには、性格としての傾向(1次性)と、強いストレスのもとで心を守るために感情が一時的に平板になる状態(2次性)があることが、『心身症の診断と治療』で紹介されています。出産と産後の育児は、心身にとって大きな変化が重なる時期です。もともと感情を言葉にするのが得意な人でも、この時期には一時的に感情迷子さんになることがある。その前提で面談にのぞむことが、見落としを防ぐ第一歩です。

「困っていません」は、答えの終わりではない。
気持ちを言葉にできない人が、
いま言える精いっぱいの言葉なのです。

数字で見る、産後のこころと母子保健の現場

産後うつは、決してまれなものではありません。多くの自治体では、新生児訪問や産婦健診、乳幼児健診の場で、産後の気分の落ちこみを早く見つけるための質問紙が使われています。ここでは、母子保健の現場で知っておきたい研究と道具を整理します。

数字・研究で見るわかっていること
10項目
EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)
Cox らが1987年に英国で発表した自己記入式の質問票。過去7日間の気分を10項目で尋ねる。日本語版も作られ、新生児訪問や産婦健診などで広く使われている。
約10人に1人
(研究により約10〜16%)
一般の人のうち、感情を言葉にしにくい傾向(アレキシサイミア傾向)が強い人の割合。質問紙に「自分の気持ち」を正確に答えること自体が難しい人もいる。
2007年
Lieberman ら
感情に名前をつけると、脳の扁桃体の活動が下がることを示した研究。「疲れていますね」「不安になりますよね」と気持ちに名前をつけて返すことは、それだけで心を落ち着かせる。
1983年
ホックシールド『管理される心』
仕事として自分の感情を管理する「感情労働」を示した研究。母子保健の専門職も、相手を安心させるために自分の感情を整え続けている。

ここで注目したいのは、EPDSが「自分の気持ちを自分で評価して答える」質問票だということです。とても有用な道具ですが、感情に気づきにくい状態にある人は、実際より低く答えてしまうことがあります。また、「高い点数をつけたら、ダメな母親だと思われる」「子どもを取り上げられるかもしれない」と感じて、意識的に低く答える人もいます。点数が低いことは、安心材料の一つではあっても、すべてではないのです。

「ちゃんとした母親でいなければ」という縛り

健診で「困っていません」と答える母親の心の中には、多くの場合、「ちゃんとした母親でいなければ」という強い思いがあります。この思いは、愛情や責任感から生まれるものです。けれど同時に、つらさを感じたり言葉にしたりすることを、自分に許さない縛りにもなります。

縛り1
「母親なのだから、かわいいと思えて当然」

産後、わが子を見ても思ったほど気持ちが動かない、ときにはいら立ちを感じる。こうした感覚は、睡眠不足やホルモンの変化の中では誰にでも起こりえます。けれど「母親失格だ」という恐れから、その感覚は誰にも話せないまま心の奥にしまわれます。

縛り2
「みんなやっているのだから、弱音を吐けない」

SNSには、楽しそうに育児をする投稿があふれています。周りと比べて「私だけがうまくできない」と感じると、つらさを口にすることが「負け」のように思えてしまう。比べる相手が多い時代ほど、母親は孤立しやすくなります。

縛り3
「相談したら、評価される」

保健師や医師は、母親にとって「助けてくれる人」であると同時に、「わが子の育ちをチェックする人」にも見えます。本音を話したら、育児ができていないと判断されるのではないか。この不安が、健診の場での笑顔をいっそう固くします。

こうした縛りの下にある感情は、疲れ、不安、孤独、罪悪感、そして「もっと自分を見てほしい」というさみしさです。けれど縛りが強い人ほど、これらを感情として感じる前に「私の努力が足りないだけ」と理屈で片づけてしまう。これが、母親が感情迷子さんになりやすい理由です。

6つの感でいえば、ここで大きく揺らいでいるのが、木の幹にあたる自己受容感です。自己受容感とは、よいところもうまくいかないところも含めて「これが今の自分だ」と受け入れられる感覚のこと。「かわいいと思えない日がある私」「泣いてしまう私」を受け入れられないとき、人はその感情そのものを見ないようにします。面談の目的の一つは、母親が自分の感情を「あっていいもの」として受け入れられるよう、そっと支えることなのです。

産後に揺らぎやすい「幹」=自己受容感 自己肯定感の6つの感を一本の木にたとえると 葉:自己信頼感 花:自己決定感 実:自己有用感 枝:自己効力感 幹 自己 受容感 根:自尊心≒自己存在感 「泣いてしまう私」 「かわいいと思えない日」 を受け入れられると幹が太くなる 面談でできること 感情を「あっていいもの」として 受けとめて返す
▲ 6つの感は、根=自尊心≒自己存在感、幹=自己受容感、枝=自己効力感、葉=自己信頼感、花=自己決定感、実=自己有用感。産後は「ちゃんとした母親」の縛りによって、幹にあたる自己受容感が揺らぎやすくなります。

EPDSと面談を組み合わせる|点数の「外側」を聞く

EPDSは、産後の気分の落ちこみを見つけるための大切な道具です。ただし、それは診断のための道具ではなく、面談のきっかけをつくるための道具として使うと、いっそう力を発揮します。日本語版では一般に9点以上が支援を考える目安とされていますが、点数の高い低いだけで判断せず、回答の中身と面談での様子をあわせて見ることが大切です。

気持ちに近づく「3つの窓」 点数・言葉・言葉以外のサインを重ねて見る 質問票の点数 EPDSなど 項目ごとの回答 面談での言葉 睡眠・食事・ 支えてくれる人 言葉以外のサイン 表情・声・赤ちゃんとの 関わり・身なり 重なりを 見る
▲ 質問票の点数が低くても、面談での言葉や言葉以外のサインに気になる点があれば、継続して関わる理由になります。どれか一つの窓だけで判断しないことが、見落としを防ぐ鍵です。

点数の「外側」を聞く3つの工夫

工夫1
気持ちより先に、体と暮らしを聞く

「気分はどうですか」と聞かれても、感情迷子さんは答えにくいものです。「夜は何時間くらい続けて眠れていますか」「ご自分の食事はとれていますか」と、体と暮らしのことから聞くと答えやすくなります。答えが具体的になるほど、本人も自分の状態に気づきやすくなります。

工夫2
強さを数字や段階で聞く

「つらいですか」ではなく、「疲れを0から10で表すと、いまはどのくらいですか」と聞いてみます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で紹介している「3段階温度計」の考え方です。感情に名前をつけられなくても、強さなら答えられることがあります。「7くらいかな」と答えた人に「7はかなり高いですね」と返すことで、本人が自分のつらさを認めるきっかけになります。

工夫3
「多くの方が」で、感情を差し出す

「この時期は、多くのお母さんが『かわいいはずなのに涙が出る』とおっしゃいます」と、よくある感情を一般化して差し出すと、本人は「私だけじゃない」と感じ、言葉にしやすくなります。感情を言い当てるのではなく、選べる言葉をそっと置くイメージです。

また、EPDSの10番目の項目は、自分を傷つけるという考えが浮かんだことがあるかを尋ねるものです。この項目に少しでも回答がある場合は、合計点にかかわらず、その場でていねいに話を聞き、ひとりで抱えずにチームで対応を検討してください。

「消えたい」と言われたら

面談の中で、「消えてしまいたい」「いなくなったほうが楽かもしれない」という言葉が出ることがあります。こうした言葉は、つらさを伝えるSOSとして受けとめてください。驚いたり打ち消したりせず、「そう思うくらい、つらかったんですね。話してくださってありがとうございます」と受けとめ、その日のうちに上司や精神保健の担当、医療機関と連携することが大切です。アレキシサイミアがこうした気持ちの原因というわけではありません。ただ、つらさを言葉にしにくい人のSOSは、周りに届きにくいのです。助けを求めることは、母親としての失格ではなく、子どもと自分を守るための大切な行動です。

妊娠・出産・子育てとこころの相談先
・お住まいの自治体の子育て世代包括支援センター(こども家庭センター)・保健センター
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・いのちSOS 0120-061-338
・厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
・命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

言葉以外のサインを見る|健診・訪問での観察のポイント

気持ちを言葉にしにくい人ほど、表情や声、身なり、赤ちゃんとの関わりに、言葉にならない状態が表れます。保健師はふだんから子どもの発育や発達を観察していますが、同じ目を母親自身にも向けてみてください。

  • 笑顔はあるが、目が笑っていない、表情の変化が少ない
  • 声が小さい、話すテンポが遅い、質問への返事に間がある
  • 赤ちゃんが泣いても反応が遅い、または過剰に慌てる
  • 赤ちゃんの話はよくするが、自分のことになると言葉が少なくなる
  • 身なりに気を配る余裕がない様子、急な体重の変化
  • 「大丈夫です」「特にありません」がくり返される
  • 新生児訪問の日程を何度も変更する、健診の受診が遅れる
  • 家に誰も手伝ってくれる人がいない、または話にほとんど出てこない

これらは、一つあるだけで何かを決めつけるものではありません。大切なのは、気になったことを記録に残し、次の接点につなげることです。新生児訪問(乳児家庭全戸訪問)、各健診、子育て支援センターでの日常の関わり。母子保健には、母親と出会える機会が何度もあります。一度の面談ですべてを聞き出そうとせず、「また会える関係」をつくることが、いちばんの見守りになります。

子育て支援センターの職員の方は、健診の場よりも気軽な関係の中で母親と接しています。「今日は顔色がいいですね」「最近、少し疲れていませんか」といった何気ない一言が、母親にとっては自分の状態に気づくきっかけになります。気になる様子があれば、本人の了解を得ながら、保健師につなぐ流れを日ごろから決めておきましょう。

父親にも声をかける|「支える側」の感情迷子

産後のこころの支援というと、どうしても母親に目が向きます。けれど近年は、父親も産後に気分の落ちこみやうつ状態を経験することがあるという研究が増えています。そして父親は、母親以上に自分の感情を言葉にしにくい立場にいることがあります。

「妻のほうが大変なのだから、自分が弱音を吐くわけにはいかない」「男は家族を支えるもの」。こうした思いの中で育った男性は、疲れや不安を感じても、それを「仕事が忙しいだけ」と片づけてしまうことが少なくありません。「男は泣くな」という価値観の中で感情を押しこめるクセがついた状態は、「規範的男性アレキシサイミア」と呼ばれることもあります。

「お父さんは、眠れていますか」
健診や訪問で父親が同席したときの一言

父親が健診や訪問に同席したら、母親だけでなく父親にも「お父さんご自身は、眠れていますか」「お仕事との両立で、疲れはたまっていませんか」と声をかけてみてください。父親が自分のことを聞かれる機会は、驚くほど少ないものです。この一言で、父親は「自分も支えられていい存在なんだ」と気づき、夫婦で気持ちを話すきっかけにもなります。

また、母親の様子を父親がどう感じているかを聞くことは、母親の状態を知る手がかりにもなります。「最近、奥さまの様子で気になることはありますか」。母親本人が言葉にできない変化を、身近な家族が感じとっていることがあるからです(産後の夫婦の気持ちのすれ違いについては、産後の夫婦と感情の言語化でくわしく書いています)。

勇気づけと横の関係|アドラー心理学で変わる面談

私はカウンセリングで、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の心理学をベースにしてきました。アドラー心理学の考え方は、母子保健の面談にもそのまま生かせます。

縦の関係から、横の関係へ

アドラー心理学では、人を上から評価したり指導したりする縦の関係ではなく、対等な横の関係を大切にします。健診の場は、どうしても「専門家が母親をチェックする」縦の関係になりがちです。母親が「困っていません」と笑うのは、評価される場で弱みを見せたくないからでもあります。

横の関係の面談とは、「指導する人」ではなく「一緒に赤ちゃんの育ちを見守る仲間」として座ることです。「〇〇してください」より「〇〇してみるのはどうでしょう」。「ちゃんとできていますね」より「毎日、本当によくやっていらっしゃいますね」。言葉の選び方一つで、面談の空気は変わります。

ほめるのではなく、勇気づける

アドラー心理学の勇気づけは、ほめることとは違います。ほめるのは「よくできた」と上から評価すること。勇気づけは、相手の存在や努力そのものに目を向け、「ありがとう」「助かります」「あなたがいてくれてよかった」と横から伝えることです。

ほめる(縦の関係)勇気づける(横の関係)
「体重がしっかり増えていて、えらいですね」「夜中の授乳を続けてこられて、本当にお疲れさまです」
「完璧なお母さんですね」「うまくいかない日があっても、こうして健診に来てくださってありがとうございます」
「もっと頑張りましょう」「頑張りすぎていないか、少し心配です。休めている時間はありますか」

とくに「完璧なお母さんですね」は、ほめ言葉のつもりでも、母親をさらに「ちゃんとした母親」の縛りに閉じこめてしまうことがあります。勇気づけの言葉は、結果ではなく過程に、できていることではなく存在そのものに目を向けます。これが、自己受容感という幹を太くし、「つらい」と言っても大丈夫だという安心感につながります。

中島輝より一言

私は幼いころ、感情を外に出すのをやめてしまった子どもでした。小学生のころ、理由もなく涙が流れることがありましたが、なぜ泣いているのか自分でもわかりませんでした。だから、健診で笑顔を見せる母親の話を聞くと、「この方も、自分の涙の理由をまだ言葉にできていないのかもしれない」と思うのです。理由がわからない涙も、ちゃんと意味のある感情です。「理由がわからなくても、泣いていいんですよ」。その一言が、言葉の扉をそっと開けることがあります。

多職種連携と、保健師自身の感情労働

ひとりで抱えない、つなぐ

母親のこころの不調に気づいたとき、保健師がひとりで対応を背負う必要はありません。産科・小児科・精神科などの医療機関、子育て支援センター、子育て世代包括支援センター(こども家庭センター)、保育の現場、必要に応じて児童福祉の担当部署。母子保健は、多職種のチームで支える仕事です。

連携のときに大切なのは、母親本人の気持ちを置き去りにしないことです。「専門の先生にも相談してみませんか」と伝えるとき、母親は「自分は問題のある母親だと思われた」と受けとるかもしれません。「あなたとお子さんを、もっとたくさんの人で応援したいんです」と目的を伝え、本人の了解を得ながら進めることで、つながりは「監視」ではなく「応援」として受けとられます。ただし、母子の安全に関わる緊急性が高い場合は、迷わず組織として対応してください。

支援する人の感情も、言葉にする

社会学者ホックシールドは『管理される心』(1983)で、仕事として自分の感情を管理する感情労働を示しました。保健師や子育て支援の職員は、まさに感情労働の担い手です。不安な母親の前では穏やかに、つらい話を聞いたあとも次の面談では笑顔で。自分の動揺や心配、ときには無力感を、仕事の顔の下にしまい続けています。

とくに、関わっていた家庭で心配な出来事が起きたとき、支援者は「あのとき気づいていれば」と自分を責めがちです。その感情を言葉にしないまま抱えこむと、支援者自身が感情迷子さんになり、やがて燃え尽きにつながります。

セルフケア1|面談のあと・3秒
心の体温チェック

面談が終わったら、自分の心の温度を「温かい・ふつう・冷えている」で確かめます。冷えている日は、記録を書く前に深呼吸を一つ。自分の状態に気づくだけで、次の面談への引きずりが減ります。

セルフケア2|カンファレンスで・5分
ケースの報告に「自分の気持ち」を一言添える

事例検討やカンファレンスでは、母子の状況の報告に加えて、「この訪問で、私は〇〇と感じました」と一言添える時間をつくってみてください。「心配で帰ってからも気になった」「力になれなかった気がした」。同僚と気持ちを分かちあうことで、ひとりで抱えていた重さが軽くなります。

セルフケア3|一日の終わり・2分
感情だけ日記

寝る前に、その日の出来事ではなく感情だけを3つ書き出します。「緊張」「ほっとした」「もどかしい」。書くことは、心にのせたままの荷物を下ろす作業です。支援者が自分の感情を受けとめられるほど、母親の言葉にならない感情にも気づきやすくなります。

よくあるご質問

EPDSの点数は低いのに、どうしても気になる母親がいます。
点数が低くても、面談での言葉や言葉以外のサインに気になる点があれば、継続して関わる十分な理由になります。気持ちに気づきにくい状態の人や、評価を恐れる人は、点数が実際より低く出ることがあります。気になった点を記録に残し、次の健診や訪問、電話での声かけなど、接点を増やしていきましょう。
「大丈夫です」としか言わない母親に、どう声をかければいいですか。
気持ちを直接聞くより、睡眠や食事など体と暮らしのことから聞いてみてください。「疲れを0から10で表すと?」と強さで聞く方法や、「多くのお母さんが〇〇とおっしゃいます」とよくある感情を差し出す方法も役立ちます。一度で話してもらおうとせず、「また会える関係」をつくることを大切にしましょう。
父親に声をかけると、母親が気を悪くしないか心配です。
「ご家族みなさんの健康を大切にしたいので」と目的を伝えれば、多くの場合は自然に受けとめてもらえます。父親が自分の疲れを話せるようになると、夫婦で気持ちを話すきっかけにもなり、結果として母親の支えにもつながります。
支援していた家庭のことが頭から離れず、眠れない日があります。
それは、あなたが真剣に関わってきた証です。その気持ちを、同僚や上司、スーパービジョンの場で言葉にしてください。ひとりで抱えるほど、感情は重くなります。気分の落ちこみや眠れない状態が2週間以上続くときは、職場の産業保健スタッフや医療機関にも相談しましょう。支援する人にも、支えは必要です。
子育て支援センターの職員でも、母親のこころの不調に関われますか。
関われます。むしろ、健診よりも気軽な日常の関わりの中でこそ、母親は本音をもらしやすいものです。診断や判断をする必要はありません。「いつもと違う」に気づいたら、本人の了解を得ながら保健師につなぐ流れを、日ごろからチームで決めておくと安心です。
「困っていません」の笑顔の下に、
まだ言葉になっていない気持ちがある。
点数と言葉の外側に、そっと耳を澄ませて。
母親も、父親も、そして支援するあなたも、
「つらい」と言っていい人です。

自分を大切にしよう

健診や新生児訪問で「困っていません」と笑う母親の中には、本当は疲れや不安、孤独を抱えているのに、それを感じとれない、あるいは言葉にできない人がいます。「ちゃんとした母親でいなければ」という縛りと、産後の大きな心身の変化が、感情を言葉の手前で止めているのです。EPDSは大切な道具ですが、点数だけでは見えないものがあります。体と暮らしから聞く、強さで聞く、よくある感情を差し出す。そして表情や声、赤ちゃんとの関わりといった言葉以外のサインを重ねて見ることで、笑顔の下の気持ちに近づくことができます。

アドラー心理学の横の関係と勇気づけは、健診の場を「評価される場」から「一緒に見守る場」へと変えてくれます。「完璧ですね」ではなく「いつもお疲れさまです」。その一言が、6つの感の幹である自己受容感を支え、「つらいと言ってもいいんだ」という安心感を育てます。父親にも「眠れていますか」と声をかけ、多職種のチームで、本人の気持ちを置き去りにせずにつないでいきましょう。

そして、母子を支えるあなた自身の感情も、同じくらい大切です。心の体温チェック、カンファレンスでの一言、感情だけ日記。感情労働を続ける人ほど、自分の気持ちを後回しにします。自分を大切にしよう。あなたが自分の感情を受けとめられたとき、目の前の母親の笑顔の奥にある気持ちにも、きっともう一歩近づけるようになります。

妊娠・出産・子育てとこころの相談先
・お住まいの自治体の子育て世代包括支援センター(こども家庭センター)・保健センター
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・いのちSOS 0120-061-338
・厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
・命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • Cox, J.L., Holden, J.M., & Sagovsky, R. (1987). Detection of postnatal depression: Development of the 10-item Edinburgh Postnatal Depression Scale. British Journal of Psychiatry, 150, 782-786.
  • Hochschild, A.R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.(邦訳『管理される心―感情が商品になるとき』世界思想社)
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science.
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

無断転載禁止
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP
自己肯定感アカデミー
一般財団法人 自己肯定感学会 公式サイト