『待たせすぎ』と言われ続ける薬剤師へ
調剤の現場と感情の言語化
夕方の薬局。待合のいすは埋まり、カウンター越しに「まだ? 薬を出すだけでしょ」と声が飛ぶ。手元では、似た名前の薬と規格を指で確かめ、処方の用量に引っかかりを覚えて、医療機関に電話をかけるかどうか迷っている。患者さんからは「遅い」と言われ、医師からは「問題ないから出して」と言われ、ミスだけは絶対に許されない。そんな毎日のなかで、多くの薬剤師が「何も感じないようにする」ことで手を動かし続けています。凍らせた気持ちに名前をつけ、背負わなくていいものを下ろす方法を、感情の言語化とアドラー心理学の視点からお伝えします。
結論:「待たせすぎ」の言葉が刺さるのは、あなたが安全を守っているから
最初に結論をお伝えします。「待たせすぎ」と言われてつらいのは、あなたの仕事が遅いからでも、気持ちが弱いからでもありません。患者さんに見えていない確認作業を、一つも省かずに続けているからです。見えない仕事で守っているものを、見える時間だけで評価される。そのずれが、薬剤師の心をすり減らしていきます。
この記事のポイントは3つです。
- ミスの許されない緊張は、感情を「後回し」にさせる。調剤中は感情を脇に置くのが正しい。けれども、仕事が終わっても脇に置いたままにしておくと、気持ちは迷子になる。
- 患者さんの怒りには「目的」がある。アドラー心理学の目的論で見ると、「待たせすぎ」の多くは、体のつらさや不安を伝えようとする言葉でもある。
- 課題の分離で、背負う範囲をはっきりさせる。患者さんの機嫌や医師の判断はあなたの課題ではない。あなたの課題は、確かめて、伝えること。
背景にあるのは、心理学でアレキシサイミア(失感情症)と呼ばれる状態です。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことで、病名ではなく、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られる特性の濃淡です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、こうした状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。「迷子」という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。基本についてはアレキシサイミア(失感情症)とはをご覧ください。
もともと感情を言葉にするのが苦手でなかった人でも、「正確であること」「表情を変えずに対応すること」を毎日求められる環境に長くいると、感じる回路を絞って自分を守るようになります。強いストレスから心を守るための一時的な反応は、専門的には「2次性アレキシサイミア」と呼ばれます。気持ちが動かなくなったのは、あなたが冷たくなったからではなく、心があなたを守ってきた結果です。
数字と研究で見る調剤の現場の心理
薬剤師のしんどさは、個人の性格の問題ではなく、仕事の構造と人の心のしくみから説明できます。押さえておきたい知見を整理します。
| 知見 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 30万人超 | 全国で届け出ている薬剤師の数。その多くが薬局・病院・ドラッグストアで、患者さんと直接向き合っている | 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」 |
| 疑義照会の義務 | 処方せんに疑わしい点があるときは、処方した医師に問い合わせ、確かめたあとでなければ調剤してはならない | 薬剤師法 第24条 |
| バーンアウトの3つの側面 | 情緒的消耗感、脱人格化(相手を「人」ではなく「件数」として扱う)、個人的達成感の低下 | Maslach & Jackson(1981) |
| 感情労働 | 仕事のために自分の感情を管理し、ふさわしい表情や態度をつくること | A.R.ホックシールド『管理される心』(1983) |
| 感情のラベリング | 感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がる | Lieberman et al.(2007) |
注目したいのは、薬剤師法第24条です。疑わしい点を確かめることは、薬剤師の「こだわり」ではなく法律上の義務です。つまり、疑義照会で待ち時間が延びるのは、仕事が遅いからではなく、仕事をしているからです。ところが待合にいる患者さんには、その電話の中身は見えません。
心理学者クリスティーナ・マスラックらは、人を相手にする仕事の燃え尽き(バーンアウト)を3つの側面で整理しました。なかでも注意したいのが「脱人格化」です。忙しさが限界を超えると、目の前の患者さんを「次の処方せん」としか感じられなくなる。これは冷たさではなく、感じ続けると壊れてしまう心が、感じる量を減らしている状態です。アレキシサイミアの2次性の反応ととてもよく似ています。
待ち時間が延びるのは、
あなたが手を抜かずに確かめているから。
その「見えない仕事」が、患者さんの命を守っている。
ミスが許されない緊張が、感情を凍らせる
でも最近、家でも何も感じないんです」
調剤の仕事には、感情を凍らせやすい条件がそろっています。
条件1|「正しくて当たり前」の評価
100枚の処方せんを正しく調剤しても、誰もほめてはくれません。けれども1枚の取り違えは、患者さんの体に関わる大きな問題になります。正確さはゼロ点から始まり、減点しかない。この仕組みの中では、「よくできた」という喜びを感じる機会がほとんどありません。
条件2|感情が「集中の邪魔」になる
いら立ったまま計数調剤をすると、数え間違いが起きやすくなる。だから薬剤師は、腹が立っても、悲しくても、それを一度横に置いて手元に集中します。これはプロとして正しい技術です。問題は、横に置いた感情を、あとで取りに戻る時間がないことです。ピークが終わればすぐに在庫の発注、薬歴の記載、翌日の準備。置き去りの感情は積もっていきます。
条件3|「ヒヤリ」の記憶を一人で抱える
監査で取り違えに気づいて事なきを得た。それでも、その夜は眠れない。「もし気づかなかったら」という想像が頭から離れない。ヒヤリ・ハットの恐怖は、報告書には書けても、気持ちとして誰かに話す機会がないことが多いのです。
こうした条件が重なると、感情は「ないこと」にされ、かわりに体に出てきます。肩や首まわりのこわばり、休日の頭痛、食欲のむら。アレキシサイミアの研究では、言葉にならなかった感情は、体の不調や行動として出てきやすいことが知られています。
中島輝より一言
医療の現場で働く方のカウンセリングをしていると、「ミスをしないこと」と「感じないこと」が、いつの間にか同じ意味になっている方によく出会います。でも本当は逆です。自分がいま焦っている、疲れていると気づける人のほうが、ミスの手前で立ち止まれる。感情に気づくことは、安全を守る力の一部なのです。
「まだですか」の奥にある患者さんの気持ち|アドラーの目的論
オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は、人の感情や行動を「原因」ではなく「目的」から見ることを提案しました。これを目的論といいます。怒りは、何かに押されて出てくるだけのものではなく、相手を動かしたり、自分の困りごとを伝えたりするために使われる、と考えるのです。中島輝もアドラー心理学をベースにカウンセリングを続けてきました。
この見方で、待合から飛んでくる言葉を見直してみます。
| 患者さんの言葉 | その怒りが果たそうとしている目的(の例) |
|---|---|
| 「薬を出すだけでしょ」 | 熱やだるさで座っているのがつらい。早く横になりたいことを伝えたい |
| 「前はこんなに待たなかった」 | 仕事を抜けてきた焦り。自分の事情をわかってほしい |
| 「なんでまた病院に電話するの」 | 自分の処方に問題があるのかという不安を、怒りで覆っている |
| 「説明はいいから早くして」 | 病気の話を人前でしたくない恥ずかしさ。会話を短くしたい |
| (子どもを抱いた親の)ため息 | 子どもがぐずる中で、周りの目が気になっている緊張 |
目的論で見ると、「待たせすぎ」の多くは、あなたへの評価ではなく、患者さん自身のつらさや不安の表れだとわかります。だからといって、理不尽な言葉をすべて受けとめる必要はありません。ただ、「この人は私を責めている」とだけ受けとると、心はますます固くなります。「この人は、具合が悪くてつらいんだな」と言葉にできると、同じ言葉でも刺さり方が変わります。
暴言や威圧が続く場合は、個人で耐えるものではなく、店舗や組織として対応する問題です。カスタマーハラスメントへの考え方は、理不尽な言葉を飲み込み続けるあなたへ|カスタマーハラスメントと感情の言語化でくわしく扱っています。
待ち時間の「見えない工程」を言葉にする
患者さんの不満の多くは、「何に時間がかかっているかわからない」ことから生まれます。工程が見えない待ち時間は、実際より長く感じられるからです。
「お待たせしてすみません」だけをくり返すと、謝る側の心は削られていきます。「いま、〇〇を確認しています」と工程を伝える言葉は、謝罪ではなく説明です。説明できる言葉を持つと、「遅い私が悪い」という感じ方から、「安全のために確かめている」という感じ方に、少しずつ戻っていけます。
医師との板挟み|疑義照会の電話の前後に起きていること
薬剤師の板挟みは、カウンターの外だけではありません。処方した医師と、目の前の患者さんの間にも立っています。疑義照会の電話一本の前後には、言葉にされない感情がいくつも動いています。
| タイミング | 表に出る言葉・行動 | その下にあるかもしれない感情 |
|---|---|---|
| 電話をかける前 | 処方せんを何度も見直す | 「こんなことで電話していいのか」という遠慮、迷い、緊張 |
| 電話がつながらない | 「折り返しをお待ちしています」 | 焦り、待合の患者さんへの申し訳なさ |
| 強い口調で返された | 「承知しました、失礼しました」 | 恥ずかしさ、悔しさ、自分の判断への自信のゆらぎ |
| 変更になった | 「ありがとうございます」 | ほっとした安堵、でも誰にも言えない「確かめてよかった」という誇り |
| 患者さんに説明する | 「先生に確認がとれました」 | 待たせた後ろめたさ、説明の言葉選びへの気づかい |
とくに見落とされやすいのが、「確かめてよかった」という誇りです。疑義照会で処方が変わったとき、それは薬剤師が患者さんを守った瞬間です。けれども多くの場合、その誇りを誰かと分かち合う時間はなく、次の処方せんに手が伸びていきます。怒りや悔しさだけでなく、誇りや安堵もまた、言葉にされないまま流れていくのです。
病院の薬剤部で働く方の場合は、病棟での医師・看護師とのやりとり、カンファレンスでの発言のしにくさも加わります。チーム医療の中で「薬の専門家として言うべきこと」と「場の空気」の間で揺れる気持ちも、同じように言葉にしてよい感情です。
疑義照会の電話は、遠慮と緊張と誇りの三重奏。
誇りの部分こそ、
自分で言葉にしてあげてほしい。
課題の分離で「背負わなくていいもの」を下ろす
アドラー心理学には、課題の分離という考え方があります。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られた整理で、「それは誰の課題か」を見分け、他人の課題には踏み込まず、自分の課題は引き受ける、というものです。その選択の結末を最終的に引き受けるのは誰か、で考えます。
真面目な薬剤師ほど、すべてを自分の課題として背負いがちです。患者さんの機嫌も、医師の機嫌も、待ち時間も、自分がなんとかしなければと思ってしまう。けれども整理してみると、背負う範囲はもっと小さくてよいことがわかります。
たとえば、ていねいに説明しても患者さんが不機嫌なまま帰っていく。そのとき「私の説明が悪かった」と一晩中反省する必要はありません。わかりやすく伝える努力はあなたの課題ですが、それをどう受けとるかは患者さんの課題です。疑義照会で医師に強い口調で返されたときも、照会したことはあなたの課題を果たした結果であり、その口調は医師の課題です。
課題の分離は、冷たく突き放すための考え方ではありません。自分の課題に全力を注ぐために、他人の課題から手を離すための考え方です。背負う荷物が軽くなると、感情に気づく余白が生まれます。
服薬指導で患者さんの気持ちを聞く|薬の説明の前の30秒
薬剤師は、患者さんの「気持ち」を聞ける数少ない医療者でもあります。診察室では言えなかったことが、薬局のカウンターでぽつりと出てくることは珍しくありません。ここでは、患者さんの感情に気づき、言葉にする手伝いをする服薬指導のコツを紹介します。
患者さんの中にも、感情を言葉にしにくい感情迷子さんがいます。「別に」「大丈夫です」としか言わない方、副作用を聞いても「特にない」と答えるのに、表情は浮かない方。体のつらさが、言葉の代わりに表情や態度に出ていることがあります。
薬の話の前に、体の話を一つ聞く
「お変わりないですか?」は「はい」で終わりやすい質問です。かわりに「この1週間、夜は眠れていますか?」「食事はとれていますか?」と、具体的な体の様子を一つだけ聞きます。体の話は、感情の話への入り口になります。
選べる言葉を差し出す
「飲み始めてどうですか?」と聞いて答えが出ないときは、「少し不安な感じですか、それとも面倒な感じですか?」のように、選択肢を出します。自分の気持ちを言葉にしにくい人も、選ぶことならできることが多いのです。
気持ちを映し返す
「毎日こんなに飲むのはうんざりする」と言われたら、正しい飲み方を説明する前に「毎日だと、うんざりしますよね」と一度映し返します。気持ちを受けとめてもらえた人は、そのあとの説明を聞く余裕が生まれます。
大切なのは、薬剤師が患者さんのカウンセラーになることではありません。聞いた気持ちのうち、治療に関わることは処方医に伝える、生活の困りごとは地域の相談先を紹介する。感情を言葉にしてもらい、それを適切な人につなぐことも、薬剤師にしかできない貢献です。医学的な判断は医師と連携して行います。
ドラッグストアでは、処方せんのない相談も多く寄せられます。「眠れないので市販薬を」という相談の奥に、仕事や家族の悩みがあることも少なくありません。「最近、何か気になることがありましたか?」の一言が、受診や相談につながるきっかけになることがあります。
調剤の現場でできる感情の言語化ワーク
忙しい薬局や病院で、長いワークはできません。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で紹介しているワークを、調剤の現場向けに作り直しました。どれも1分以内でできます。
手洗いのたびに「心の体温チェック」
調剤の前後には必ず手を洗います。そのたびに、「いまの心は、冷たい・ぬるい・熱い、のどれ?」と自分に聞きます。名前をつけなくてもかまいません。温度を感じるだけで、感情の存在に気づく練習になります。
ピーク明けの「3段階温度計」
処方せんの波がひと段落したら、焦り・いら立ち・疲れの3つについて、それぞれ「1(少し)・2(けっこう)・3(かなり)」で点数をつけます。3が並んだ日は、意識して休憩をとるサインです。数字にすると、感情が「扱えるもの」に変わります。
疑義照会のあとの「感情ことば帳」
照会の電話を切ったら、手帳の隅に一語だけ書きます。「どきどき」「むっ」「ほっ」「よしっ」。オノマトペでかまいません。とくに処方が変わったときの「よしっ」は、自分が患者さんを守った記録になります。
帰り道の「感情だけ日記」
電車やバスの中で、今日あった出来事を書くのではなく、感情だけを3つスマホのメモに書きます。「焦った」「悔しかった」「ありがたかった」。出来事は書かないので、患者さんの情報に触れずにすみます。守秘の意識が強い医療者にも続けやすい方法です。
感情を言葉にすることには、科学的な裏づけもあります。心理学者マシュー・リーバーマンらの研究(2007年)では、感情に名前をつけるだけで、不安や恐れに関わる扁桃体の活動が下がることが示されました。言葉にすることは、気持ちを大げさにすることではなく、落ち着かせることなのです。
手を洗うたびに3秒。
電話を切るたびに一語。
それだけで、感情は迷子にならずにすむ。
自己有用感という「実」を、自分の手で確かめる
自己肯定感は、6つの感が木のように支え合って育ちます。根にあたる自尊心≒自己存在感、幹の自己受容感、枝の自己効力感、葉の自己信頼感、花の自己決定感、そして実の自己有用感です。
薬剤師の心でいちばん揺らぎやすいのが、自己有用感です。自己有用感とは「自分は誰かの役に立っている」という感覚のこと。木でいえば、ほかの5つの感が育った先に実る果実にあたります。
薬剤師の仕事は、本来とても役に立っている仕事です。飲み合わせの危険を防ぎ、高齢の患者さんの残薬を整理し、子どもの飲みにくい薬を飲みやすくする工夫を伝える。けれども、守ったことは「何も起きなかった」という形でしか現れないため、役に立った実感が持ちにくいのです。
アドラー心理学では、人は「自分は共同体の役に立っている」という貢献感を持てたときに、自分には価値があると感じられると考えます。そして大切なのは、その貢献感は他人からの感謝を待たなくても持てる、という点です。
「守ったことリスト」をつくる
1週間に一度、自分が防いだこと、整えたこと、伝えたことを3つ書き出してみてください。
- 疑義照会で、用量の確認をした(処方が変わったかどうかは問わない)
- お薬手帳から、他院の薬との重なりに気づいた
- 一人暮らしの高齢の方に、飲み忘れを防ぐ方法を一緒に考えた
- 不安そうな患者さんに、「心配なことがあれば電話してください」と伝えた
- 新人の監査の見落としを、責めずに一緒に確認した
このリストは、誰かに見せるためのものではありません。「何も起きなかった」の裏にある自分の仕事を、自分の目で確かめるための記録です。役に立てたことを自分で知っている人は、「待たせすぎ」の一言で根こそぎ揺らぐことが少なくなります。
自己有用感が育つと、その下にある根、自尊心≒自己存在感も安定していきます。「ミスをしない私」だけでなく、「疲れることもある私」「腹が立つこともある私」も、ここにいてよい。その感覚が、長くこの仕事を続ける力になります。
薬局長・管理薬剤師の方へ|ヒヤリ・ハットを話せるチームに
個人の工夫だけでは、調剤の現場の感情は守れません。管理する立場の方に、チームとしてできることをお伝えします。
組織行動学者エイミー・エドモンドソンは、病院のチームを調べる中で、ミスの報告が多いチームほど、実はチームワークがよいという意外な事実に気づきました。ミスが多いのではなく、ミスを話せる雰囲気があったのです。ここから生まれたのが、心理的安全性(Edmondson, 1999)という考え方です。
チームでできる3つのこと
ヒヤリ・ハットの共有に「気持ち」の欄を足す
報告の目的は再発防止です。そこに「そのとき、どんな気持ちだったか」を一言添える欄をつくります。「焦っていた」「話しかけられて集中が切れた」。感情は、ミスが起きやすい条件を教えてくれる大事な情報です。
閉局後の5分チェックアウト
終業時に一人ひとこと、「今日いちばん心が動いたこと」を話します。きつい患者さん対応のあとなら「怖かった」、疑義照会で処方が変わったなら「よかった」。感情を一人で持ち帰らない習慣が、燃え尽きを防ぎます。
「ありがとう」を言葉にする
アドラー心理学の勇気づけは、上から評価してほめることではなく、横の関係から「助かった」「ありがとう」を伝えることです。「あの照会、よく気づいたね。助かった」。正確さが当たり前の職場だからこそ、見えない仕事に光を当てる一言が必要です。
患者さんからの暴言が続く場合は、担当者一人に任せず、管理者が前に出る、記録を残す、本部や医療機関と共有するなど、組織として対応してください。「我慢できる人」に負担が集まる仕組みは、いちばん真面目な人から順に燃え尽きさせます。
よくあるご質問
あなたは、確かめて守っている。
その誇りにも、そっと名前を。
言葉にした感情は、明日の安全を支える力になります。
自分を大切にしよう
「待たせすぎ」と言われ続ける薬剤師の心がすり減るのは、あなたが弱いからではありません。疑わしい点を確かめるという見えない仕事を、一つも省かずに続けているからです。ミスの許されない緊張の中で感情を脇に置く技術が身につき、それが仕事のあとも戻らなくなると、気持ちは迷子になり、体のこわばりや休日の無気力として表に出てきます。
アドラー心理学の目的論で見ると、患者さんの「まだですか」の多くは、体のつらさや不安を伝える言葉です。そして課題の分離で整理すると、あなたの課題は「確かめて、正確に調剤し、わかる言葉で伝えること」であり、患者さんの機嫌や医師の口調まで背負う必要はありません。服薬指導の30秒で患者さんの気持ちを聞くこと、手洗いのたびの心の体温チェック、照会のあとの一語。小さな言葉の積み重ねが、凍った感情をほどいていきます。
「何も起きなかった」一日の裏には、あなたが守ったものがたくさんあります。守ったことリストで、それを自分の目で確かめてください。自己有用感という実は、他人の感謝を待たなくても、自分の手で確かめることができます。焦りも、悔しさも、誇りも、どれもあなたの大切な感情です。自分を大切にしよう。あなたが自分の心を大切にすることが、患者さんの安全を長く守ることにつながっています。
本記事の参考資料・科学的根拠
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5).
- Maslach, C., & Jackson, S.E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of Occupational Behaviour, 2.
- A.R.ホックシールド『管理される心―感情が商品になるとき』(石川准・室伏亜希訳、世界思想社)
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2).
- 薬剤師法 第24条(処方せん中の疑義)
- 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』(岸見一郎訳、アルテ)
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







コメント