自己分析が進まない就活生へ
「やりたいことがわからない」は感情の言語化で解ける
自己分析シートの「あなたの強みは?」「将来やりたいことは?」の欄を前に、カーソルだけが点滅している。友人はもうエントリーシートを何社も出しているのに、自分は1行目から進まない。「やりたいことがない自分は、どこかおかしいのだろうか」。そう感じている方に、最初にお伝えしたいことがあります。自己分析が進まない原因は、経験の少なさでも、意欲の低さでもないことが多いのです。足りないのは「何をしたか」の材料ではなく、「そのとき心がどう動いたか」を言葉にする回路です。自己分析とは、実は感情の分析です。この記事では、就活生のあなたと、そばで見守る親御さんに向けて、感情の言語化から「やりたいこと」を見つける方法をお伝えします。
「やりたいことがわからない」と手が止まる本当の理由
そこから何が言えるのかわからないんです」
就職活動の自己分析では、「経験を棚卸ししよう」「強みを3つ挙げよう」とよく言われます。けれど、出来事をいくら並べても、それだけでは「自分は何を大切にしている人間なのか」にはたどり着けません。同じ「部活の主将をした」という経験でも、ある人は「みんなが一つになった瞬間がうれしかった」と言い、別の人は「自分の判断で結果が変わる手ごたえが楽しかった」と言います。価値観の違いは、出来事ではなく、そのとき動いた感情の違いに表れるのです。
ところが、多くの学生さんは、小学校から大学まで「何をしたか」「どんな結果を出したか」で評価される経験を重ねてきました。「そのとき、どう感じた?」と聞かれる機会は、驚くほど少なかったはずです。感情を言葉にする練習をしてこなかった人が、いきなり「あなたの価値観は?」と聞かれて詰まるのは、ごく自然なことです。
やりたいことが「ない」のではない。
心が動いた瞬間が、
まだ言葉になっていないだけ。
自己分析は「感情の分析」である|意外と知られていない前提
自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はちゃんと生まれているのに、それをつかまえて名前をつけるところでつまずいている状態です。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃い・薄いだと考えられています。基本的なしくみはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。
私は、この状態にある人を「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で使っている言葉で、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を指します。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。就活で「自分がわからない」と感じているあなたも、自分の気持ちへの帰り道を一時的に見失っているだけです。
数字で見る|自己分析と感情の言語化
| データ | 内容と出典 |
|---|---|
| 約3割 | 大学を卒業して就職した人のうち、3年以内に離職する人の割合(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」)。入社後の「こんなはずではなかった」を減らすには、選ぶ段階で自分の感情と価値観を知っておくことが役に立ちます。 |
| 約10〜16% | アレキシサイミアの傾向が強いとされる人の割合(一般人口を対象にした複数の研究)。10人に1人ほどは、もともと感情を言葉にしにくい特性を持っています。 |
| 名前をつけると落ち着く | 感情に言葉でラベルをつけると、不安や恐れに関わる脳の扁桃体の活動が下がるという実験結果(Lieberman et al., 2007)。言語化は、気持ちを整理するだけでなく、落ち着いて考える土台にもなります。 |
離職の理由はさまざまで、自己分析だけで防げるものではありません。ただ、カウンセリングの現場で入社1〜2年目の方の話を聞いていると、「条件で選んだけれど、何がうれしくて働くのかを考えたことがなかった」という声に何度も出会います。自分の感情を知ることは、内定のためだけでなく、入社後の自分を守るための準備でもあります。
自己分析のどこでつまずくか|4つのタイプ
感情迷子さんには、大きく4つのタイプがあります。自己分析でのつまずき方も、タイプによって少しずつ違います。
| タイプ | 自己分析でよくあるつまずき |
|---|---|
| タイプ1 感情がわからない | 「楽しかった経験は?」と聞かれても、どれも「普通」に感じる。疲れや胃の重さなど、体の反応のほうが先に出る。 |
| タイプ2 感情を説明できない | 何か心が動いたのはわかるのに、書こうとすると「やりがいを感じた」「成長できた」のような決まり文句になる。 |
| タイプ3 感情に興味がない | 「気持ちより実績を書くべき」と考え、数字と役職だけでエントリーシートを埋める。面接で「それで、あなたは?」と聞かれて困る。 |
| タイプ4 想像できない | 「10年後どうなっていたい?」で頭が真っ白になる。現実的な選択肢しか浮かばず、どれにも心が動かない。 |
どのタイプに当てはまっても、心配はいりません。感情を言葉にする力は、何歳からでも育てられます。ここから先は、その具体的な方法を、就活の作業そのものに組み込む形で紹介します。
モチベーショングラフは「出来事」ではなく「感情」で描く
自己分析でよく使われるのが、横軸に年齢、縦軸にモチベーションをとって人生の浮き沈みを描くモチベーショングラフです。ところが、このグラフでつまずく人はとても多いのです。理由ははっきりしています。多くの人が「出来事の良し悪し」でグラフを描いてしまうからです。
「受験に合格した=上」「試合に負けた=下」。これでは、世間一般の評価をなぞっているだけで、あなたらしさは出てきません。合格したのにどこか空しかった人もいれば、試合に負けたあとのチームの時間がいちばん心に残っている人もいます。グラフに描くべきなのは、出来事の評価ではなく、そのときのあなたの感情の動きです。
感情でグラフを描く3つの手順
山と谷に「感情の名前」を書き込む
いつものようにグラフを描いたら、山と谷の一つひとつに「うれしい」ではなく「ほっとした」「誇らしい」「悔しい」「さみしい」のように、できるだけ具体的な感情の名前を書き込みます。思いつかなければ「なんかモヤモヤ」でもかまいません。
「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さをつける
書き込んだ感情に、3段階温度計の要領で強さをつけます。「ちょっと誇らしい」「すごく悔しい」。強さを分けると、グラフの高さが出来事の評価から、あなた自身の心の動きへと描き直されていきます。
「すごく」がついた場面の共通点を探す
「すごく」がついた場面を並べて、誰といたか、何をしていたか、どんな役割だったかを見比べます。「人に頼られたとき」「一人で黙々と仕上げたとき」「初めてのことに挑んだとき」。共通点こそが、あなたのモチベーションの源泉です。
ポイントは、ネガティブな感情も同じだけ大切に扱うことです。「すごく悔しい」「すごく嫌だった」の場面には、あなたが譲れないもの、守りたいものが隠れています。悔しさは「本当はこうありたかった」という願いの裏返しだからです。
感情が動いた瞬間日記を「自己分析ノート」に変える
過去を振り返るグラフと並行して、ぜひ取り組んでほしいのが「感情が動いた瞬間日記」です。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で紹介している2分のワークで、夜に1日を振り返り、感情が動いた瞬間を1つだけ書くというシンプルなものです。
なぜ過去の振り返りだけでは足りないのか。理由は、記憶はあとから書きかえられるからです。数年前の出来事を思い出すとき、私たちは「今の自分にとって都合のよい解釈」をつい混ぜてしまいます。一方、今日感じたことを今日書けば、生の感情がそのまま残ります。就活期間中の日々こそ、自己分析の新鮮な材料の宝庫です。
就活生向けの書き方
- 説明会や面接のあと、「肩が上がった」「声が弾んだ」など体が反応した瞬間を1つ書く
- その瞬間に名前をつける(わくわく、緊張、違和感、退屈、憧れ など)
- 「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さを添える
- できれば「何がそうさせたのか」を一言だけ足す(社員同士の会話、仕事の説明、オフィスの雰囲気)
- 1週間たったら読み返し、「すごく」がついた言葉に印をつける
たとえば、「A社の説明会。若手社員が失敗談を笑って話していた。そこそこほっとした」「B社の面接。条件はいいのに、終わったあとどっと疲れた。ちょっと違和感」。こんな1行で十分です。疲れや違和感は、言葉になる前の大事な情報です。条件表には出てこない「自分に合う・合わない」を、体は先に知らせてくれています。
気持ちを書き出すことの効果については、心理学者ジェームズ・ペネベーカー(Pennebaker)の筆記開示(エクスプレッシブ・ライティング)の研究がよく知られています。出来事だけでなく、そのときの感情に触れて書くことが、ストレスの軽減につながると報告されてきました。書くことは、それ自体が言語化のトレーニングです。
中島輝より一言
就活中の学生さんに日記をすすめると、「面接の反省を書けばいいですか?」とよく聞かれます。反省はもちろん大切です。でも、反省ばかりのノートは、自分の足りないところの一覧になってしまいます。書いてほしいのは「何がダメだったか」ではなく「何に心が動いたか」です。それを読み返したとき、あなたはきっと、思っていたよりずっと豊かに感じている自分に出会えるはずです。
「好き」「嫌い」「違和感」のリストから価値観を言葉にする
「あなたの価値観は?」と聞かれて、すぐに答えられる人は多くありません。価値観は、いきなり言葉で考えようとすると出てこないものです。そこでおすすめしたいのが、感情から価値観を逆算する方法です。
3つのリストをつくる
| リスト | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 好き | 時間を忘れたこと、またやりたいと思ったこと | 後輩に教える/資料をきれいに整える/初対面の人と話す |
| 嫌い | 強いストレスを感じたこと、二度とやりたくないこと | 理由の説明がない指示/成果を人に横取りされる/毎日同じ作業 |
| 違和感 | はっきり嫌ではないけれど、なぜか引っかかったこと | 「若いうちは何でもやれ」という言葉/全員一律の評価 |
それぞれ10個ずつを目安に書き出してみてください。特に大切なのが「違和感」のリストです。違和感は、感情迷子さんがいちばん見落としやすい、小さくてあいまいな感情です。でも、「好き」や「嫌い」ほど強くないからこそ、周りに合わせて飲みこんできた本音が隠れていることが少なくありません。
リストを価値観の言葉に翻訳する
3つのリストができたら、それぞれの項目に「なぜそう感じたのか」を一言ずつ添えます。そして、次のように翻訳していきます。
- 「後輩に教えるのが好き」「成果を横取りされるのが嫌い」→ 人の役に立っている実感を大切にしたい
- 「理由の説明がない指示が嫌い」「全員一律の評価に違和感」→ 納得して動きたい、一人ひとりを見てほしい
- 「初対面の人と話すのが好き」「毎日同じ作業が嫌い」→ 変化と新しい出会いがあると力が出る
「嫌い」や「違和感」は、裏返すと「こうありたい」という願いになります。ネガティブな感情を否定せず、価値観の材料として使う。これが感情の言語化を自己分析に生かす、いちばんの近道です。
「嫌い」と「違和感」は、
あなたの価値観の裏側に書かれた
もう一つの自己紹介。
ガクチカは「何をしたか」より「何に心が動いたか」
エントリーシートや面接で必ず聞かれる「学生時代に力を入れたこと」、いわゆるガクチカ。多くの学生さんが「特別な経験がない」と悩みます。けれど、採用担当者が知りたいのは、経験の派手さではなく、その経験を通してあなたがどんな人なのかです。そして「どんな人か」がいちばん伝わるのは、行動の理由になった感情です。
よくある書き方と、感情を入れた書き方
| よくある書き方 | 感情を入れた書き方 |
|---|---|
| 飲食店のアルバイトで新人教育を担当し、マニュアルを改善して離職を減らしました。 | 新人が入ってはすぐ辞めていくのを見て、自分も最初の1か月は毎日不安だったことを思い出し、放っておけない気持ちになりました。その不安を減らしたくて、つまずきやすい作業を写真つきのマニュアルにまとめました。 |
| ゼミでリーダーとして論文を取りまとめ、期限内に提出しました。 | 議論が進まず、正直焦りといら立ちを感じていました。でも、黙っているメンバーにも考えがあるはずだと思い直し、一人ずつ話を聞くと、意見が出そろった瞬間に大きな安心を感じました。 |
右側の書き方では、行動の前後に感情が入っています。「不安だったことを思い出して放っておけなかった」という一文があるだけで、その人の優しさや当事者意識が、言われなくても伝わります。面接官は、その感情のパターンが自社の仕事の中でどう生きるかを想像できるのです。
ガクチカを組み立てる4つの問い
そのとき、最初に心が動いたのはどの瞬間?
行動を始めるきっかけになった感情を探します。「見ていられなかった」「悔しかった」「おもしろそうだと思った」など。
途中でいちばん苦しかったのは、どんな気持ち?
焦り、孤独、迷い。苦しい感情を正直に書くと、それをどう乗り越えたかに説得力が生まれます。
終わったとき、どんな気持ちが残った?
達成感だけとは限りません。「ほっとした」「少しさみしかった」「もっとやれた気がする」。正直な感情ほど、その人らしさが出ます。
その気持ちは、今のあなたの何につながっている?
経験から生まれた感情が、志望動機や将来像とどうつながるかを一言で書きます。ここが、ガクチカと「やりたいこと」をつなぐ橋になります。
アドラー心理学で読み解く「決められない」の正体
私はアドラー心理学をベースにカウンセリングを行ってきました。アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は、オーストリアの精神科医で、「人は過去の原因に動かされるのではなく、目的に向かって生きている」と考えた人です。就活で「やりたいことがわからない」と立ち止まるとき、アドラーの2つの考え方が、思いがけないヒントをくれます。
目的論|「決めない」ことには目的があるかもしれない
アドラー心理学の目的論では、感情や行動は「何かのせいで起きる」のではなく、「何かのために使われている」と考えます。この見方をあてはめると、「やりたいことがない」の見え方が変わります。
もしかすると、やりたいことが「ない」のではなく、「決めない」ことで守っている何かがあるのかもしれません。たとえば、本気で「これがやりたい」と言ってしまうと、落ちたときに深く傷つく。だから、どこにも本気にならずにいれば、不採用になっても「別に第一志望じゃなかったし」と思える。決めないことには、傷つかないで済むという目的が隠れていることがあるのです。
これは、あなたが弱いからではありません。むしろ、自分を守ろうとする心の賢い働きです。ただ、その守り方は、同時に「本当にやりたいこと」からもあなたを遠ざけてしまいます。日記やリストの中で「すごく」がついた感情を見つけたら、「これを本気で目指したら、何が怖い?」と自分に聞いてみてください。怖さに名前がつくと、その怖さを抱えたままでも一歩を選べるようになります。
課題の分離|親の期待は、親の課題
もう一つは課題の分離です。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになった整理で、「それは最終的に誰が結果を引き受ける課題か」を見分ける考え方です。
就活では、親の期待が大きな影響を持ちます。「安定した会社に」「地元に戻ってきてほしい」「せっかく大学まで行かせたのだから」。こうした言葉を受け取ると、自分の感情よりも先に「親をがっかりさせたくない」という気持ちが動き、自分が何を感じているのかがわからなくなります。
| あなたの課題 | 親の課題 |
|---|---|
| どんな仕事を選ぶか/どんな働き方をしたいか/選んだ結果を引き受けること | わが子の選択をどう受けとめるか/期待どおりでなかったときの自分の気持ちをどう扱うか |
どの会社を選ぶかは、あなたの人生の課題です。一方で、その選択を見て親ががっかりするかどうか、その気持ちとどう向き合うかは、親の課題です。親の気持ちを大切に思うことと、親の期待どおりに生きることは別のことです。課題を分けると、親の期待にふたをされていた自分の感情が、少しずつ聞こえてくるようになります。
自己肯定感の6つの感|自己決定感と自己信頼感を育てる
私が提唱している自己肯定感の「6つの感」は、心を1本の木にたとえています。根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。就活で特に揺らぎやすく、同時に大きく育つチャンスがあるのが、花の自己決定感と葉の自己信頼感です。
自己決定感(花)|「自分で選んだ」と思えること
自己決定感とは、自分の人生を自分で選んでいると感じられる感覚です。就活では、周りの友人と同じ業界を受ける、診断ツールの結果に従う、親がすすめる会社を選ぶ、といった形で、知らないうちに「選ばされている」状態になりやすいものです。たとえ同じ会社に入るとしても、「自分の感情を確かめたうえで選んだ」と思えるかどうかで、入社後の踏ん張りはまったく違ってきます。
自己信頼感(葉)|自分の感覚を信じられること
自己信頼感とは、自分の感覚や判断を信じられる感覚です。感情迷子さんは、自分が感じたことより「正解」を探そうとします。けれど、就活には一つの正解がありません。日記やリストで自分の感情を記録し、それをもとに小さな選択を重ねるたびに、「自分の感覚はあてにしていい」という手ごたえが育っていきます。説明会に行くか行かないか、どの企業の選考を続けるか。小さな決断に、感情という根拠を添えてみてください。
そして、この2つを支えるのが、幹にあたる自己受容感です。「やりたいことがわからない今の自分」を否定せず、「今はまだ言葉になっていないだけ」と受けとめる。そこから、花も葉も育ち始めます。
面接で気持ちを伝える|そのまま使える例文
感情を言葉にする準備ができたら、面接でも少しずつ使ってみましょう。ポイントは、「出来事+感情+そこから大切にしていること」の3点セットで話すことです。面接での緊張や、不採用が続いたときの落ち込みへの向き合い方は、就活中の気持ちの扱い方をまとめた記事で紹介しています。
「インターンで、現場の方が『このシステムで残業が減った』とうれしそうに話してくれたとき、胸が熱くなるのを感じました。誰かの困りごとが目の前で軽くなる瞬間に、私はいちばんやりがいを感じるのだと気づきました。御社なら、その瞬間に何度も立ち会えると考えています」
「レギュラーを外されたとき、正直に言うと、悔しさよりも恥ずかしさのほうが大きかったです。仲間にどう見られているかが気になって、練習に行くのがつらい時期もありました。でもその恥ずかしさを先輩に打ち明けたことで、自分は人の目より、自分で納得できるかを大事にしたいのだとわかりました」
「自分の気持ちに気づくのが遅いところです。以前は疲れていても無理を続けてしまうことがありました。今は1日1回、心が動いた瞬間をメモする習慣をつけていて、早めに『少し焦っている』と気づいて周りに相談できるようになりました」
感情を話すと「感情的な人だと思われないか」と心配する方もいます。けれど、感情を言葉で説明できることと、感情に振り回されることは正反対です。自分の気持ちを落ち着いて言葉にできる人は、職場でも報告や相談がしやすい人として映ります。
面接官が知りたいのは、
立派な実績よりも、
「この人は何に心を動かす人か」。
親御さんへ|わが子の自己分析をどう見守るか
ここからは、就活生を見守る親御さんに向けてお伝えします。わが子が「やりたいことがない」と言うと、不安になって「〇〇業界はどうなの?」「公務員も考えたら?」と選択肢を差し出したくなるものです。その気持ちは、子どもを思う愛情そのものです。
ただ、先ほどの課題の分離の視点に立つと、選択肢を差し出すほど、子どもは自分の感情ではなく親の顔色を手がかりに選ぶようになることがあります。親にできるいちばんの応援は、答えを渡すことではなく、子どもが自分の感情に気づく手伝いをすることです。
声かけの言いかえ
| ついかけてしまう言葉 | 感情に気づく手伝いになる言葉 |
|---|---|
| 「どこの会社を受けるの?」 | 「説明会、どこがいちばん印象に残った?」 |
| 「そんな会社で大丈夫?」 | 「その会社の、どんなところが気になったの?」 |
| 「やりたいことくらいあるでしょう」 | 「小さいころ、時間を忘れてやっていたことって何だったかな」 |
| 「落ちてもまだ次があるよ」 | 「今回は悔しかったね。どのあたりが一番こたえた?」 |
子どもが「別に」「普通」としか答えなくても、問い詰める必要はありません。「そうか、まだうまく言葉にならないんだね」と受けとめるだけで十分です。答えを急かさない安心感こそが、子どもが自分の内側をのぞく勇気になります。
そしてもう一つ。親御さん自身が、自分の気持ちを言葉にしてみてください。「あなたが遠くに就職したら、正直さみしい。でも、あなたが選んだなら応援したい」。期待を押しつけるのではなく、自分の感情として伝えたうえで、選ぶのはあなた、と手渡す。それが、子どもにとっていちばん心強い見守りになります。
中島輝より一言
私は幼いころ、育ててくれた里親が夜逃げしたことをきっかけに、自分の感情を出すのをやめてしまいました。中学のバスケ部で試合に勝っても、一人だけ表情が動かない子どもでした。だから、「何がやりたいの?」と聞かれて言葉が出てこない若い方の気持ちが、他人事とは思えません。感情の言葉は、遅れてもちゃんと育ちます。私自身、35歳でようやく暗闇から抜け出し、自分の気持ちを言葉にできるようになりました。今がゆっくりでも、大丈夫です。
よくあるご質問
心が動いた瞬間から、言葉にしていくもの。
今日の「ちょっと」を、1行だけ書いてみよう。
あなたの選択には、あなたらしい理由が宿ります。
自分を大切にしよう
自己分析が進まないのは、経験や意欲が足りないからではありません。多くの場合、出来事と価値観をつなぐ「感情」が、まだ言葉になっていないだけです。自己分析とは感情の分析です。モチベーショングラフを感情で描き直す。感情が動いた瞬間日記を自己分析ノートにする。「好き」「嫌い」「違和感」のリストから価値観を翻訳する。ガクチカに「何に心が動いたか」を書き込む。どれも、今日から始められる小さな作業です。
アドラー心理学の目的論で見ると、「やりたいことがない」の裏には、傷つかないための「決めない」という選択が隠れていることがあります。そして課題の分離で見ると、親の期待は親の課題で、選ぶのはあなたの課題です。怖さや遠慮に名前をつけられたとき、あなたは自分の感情を根拠に選べるようになり、自己肯定感の花である自己決定感と、葉である自己信頼感が育っていきます。
就活は、ときに自分を「商品」のように扱わなければならない、しんどい時間です。だからこそ、不採用の通知に落ち込んだ夜も、何も書けなかった日も、「今日はそう感じたんだね」と自分の気持ちを受けとめてあげてください。自分を大切にしよう。あなたの心が動いた瞬間の一つひとつが、まだ誰も読んだことのない、あなただけの自己紹介になっていきます。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』(岸見一郎訳、アルテ)
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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