ひとりの運転席で感情を押し込めるドライバーへ|物流・運輸の現場と感情の言語化

ひとりの運転席で感情を押し込めるドライバーへ|物流・運輸の現場と感情の言語化

ひとりの運転席で感情を押し込めるドライバーへ
物流・運輸の現場と感情の言語化

午前4時、まだ暗い営業所で点呼を受け、「体調よし、睡眠よし」と答えてエンジンをかける。高速の渋滞で到着時刻がじりじり迫り、ようやく着いた倉庫では「遅い」と言われ、何時間も荷待ちをする。ハンドルを握っているあいだ、話し相手はいない。帰りのサービスエリアでおにぎりをかじりながら、今日、自分がどう感じていたのか思い出せない。ひとりの運転席で押し込めた感情は、消えずに疲れとなって、あなたの運転に影響しているかもしれません。ドライバーと運行管理者のために、結論からお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:運転席で押し込めた感情は、疲れと事故のリスクになって戻ってくる

はじめに結論です。長時間ひとりで運転するドライバーが「別に何も感じない」「慣れた」と言うとき、多くの場合、感情がなくなったのではなく、運転に集中するために感情を押し込める習慣が身についています。そして、押し込めた焦りや怒りや不安は、消えずに残り、疲れやすさ、イライラ、眠気、判断のゆらぎとして、ハンドルを握る手に戻ってきます。

だからこそ、感情を言葉にすることは、気持ちの問題であると同時に安全運転の問題でもあります。休憩のたびに今の気分を一語つぶやく。点呼のときに「眠い」「イライラしている」を正直に言える。運行管理者がその一言を受けとめる。こうした小さな言葉が、ドライバー自身と、道路を使うすべての人を守ります。

こうした状態を、中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では「感情迷子さん」と呼んでいます。感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態のことです。心理学では「アレキシサイミア(失感情症)」として研究されてきました。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を指します。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。基本的な考え方はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。

業種別で最多
過重な仕事による脳・心臓疾患で労災と認められた件数は、業種別で「道路貨物運送業」が最も多い状態が続いています。
長時間の運転、不規則な勤務、強い緊張が重なる仕事だからです
出典:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」公的統計

感情に気づき、言葉にすることが難しい傾向が強い人は、研究によって約10〜16%、およそ10人に1人といわれます。けれども、もともとの傾向が弱い人でも、長時間ひとりで緊張を強いられる環境が続くと、心は感じるスイッチを弱めて自分を守ろうとします。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。感じる力は、運転の合間に取り戻すことができます。

長時間ひとりの運転席で、感情が行き場を失う

ドライバーの仕事のいちばんの特徴は、長い時間をひとりで過ごすことです。オフィスで働く人なら、嫌なことがあれば隣の同僚に「今のひどくない?」とこぼせます。けれども運転席には、その相手がいません。湧いてきた感情は、言葉にされる機会がないまま、次の交差点、次の配送先へと運ばれていきます。

中島輝の近刊では、言葉にできない感情は脳の中で「未完了のタスク」として残り続ける、と説明しています。途中で中断したことのほうが記憶に残りやすい「ツァイガルニク効果」と同じことが、感情でも起きるのです。朝の荷待ちのいら立ち、昼の渋滞の焦り、午後の客からの一言の悔しさ。どれも小さなことでも、未処理のまま積み重なれば、脳のメモリを少しずつ使い続けます。「1日座っていただけなのに、ぐったり疲れる」の正体の一部は、ここにあるのかもしれません。

職種よくある場面押し込めがちな感情
長距離トラック深夜の高速、荷待ち、車中泊さみしさ、焦り、理不尽さ
宅配・ルート配送時間指定、再配達、不在続き苛立ち、むなしさ、追われる感覚
タクシー酔客、道順への文句、売上のプレッシャー怒り、こわさ、悔しさ
路線・観光バス遅延への苦情、車内トラブル、乗客の安全緊張、申し訳なさ、責任の重さ

職種によって場面は違いますが、共通しているのは、感情が動いた瞬間に、それを言葉にする相手も時間もないということです。そのうち、「いちいち感じていたら運転できない」と心が判断し、感じること自体を省略するようになります。孤独と感情の関係については、「さみしい」と言えない大人たち|孤独・孤立とアレキシサイミアの深い関係でも取り上げています。

「慣れた」は、ブレーカーが落ちたサインかもしれない

ベテランのドライバーから「もう何があっても腹も立たない」と聞くことがあります。それが本当の落ち着きなら、すばらしいことです。ただ、休みの日に何をしても楽しくない、家族と話していても上の空、好きだった食べ物の味がしない、という状態が続いているなら、それは慣れではなく、心のブレーカーが落ちたままになっているのかもしれません。

「何も感じない」は、強さではなく、
ひとりの運転席で心が
自分を守っているサイン。

渋滞と時間指定。焦りを感じないふりをしていませんか

物流や運輸の仕事には、つねに時間のプレッシャーがあります。「何時までに着」「この便に間に合わせて」「次の予約が入っている」。そこに、事故渋滞や工事規制、天候の悪化が重なります。ハンドルを握りながら、時計とカーナビの到着予想時刻を何度も見比べる。このとき体の中では、心拍が上がり、肩に力が入り、呼吸が浅くなっています。

本では、感情は「外からの刺激 → 体の反応 → 脳がそれを読み取る」という流れで生まれると説明しています。感情迷子さんは、この体の反応を脳がうまく読み取れなくなっている状態です。焦っているのに「焦っていない」と思い込んでいると、体は焦ったまま、本人だけがそれに気づかないというずれが生まれます。車間距離が詰まる、黄色信号で無理に進む、といった運転の変化は、こうしたずれから起こることがあります。

運転席で起きている「感情のずれ」 体は反応しているのに、頭は「平気」と思っているとき、運転に影響が出やすい 出来事 渋滞・時間指定 荷主や客の一言 細切れの睡眠 体の反応 心拍が上がる 肩・手に力が入る 呼吸が浅くなる 頭の中 「別に平気」 「慣れてるから」 (気づかない) ずれたままだと 車間が詰まる・無理な進入 ぐったり疲れる・眠気 一言で名前をつけると 「今、そこそこ焦ってる」 → 気づけば、運転を調整できる
▲ 渋滞や時間指定のプレッシャーで体は反応しているのに、頭は「平気」と思い込んでいる。このずれに一言で名前をつけると、自分の状態に気づき、運転を落ち着かせるきっかけになります。

「焦ってる」と声に出すだけで、変わること

感情に名前をつけると、不安や恐怖に反応する脳の扁桃体の活動が下がることが、リーバーマン(Lieberman)らの研究(2007年)で示されています。運転中に長い文章を考える必要はありません。「今、焦ってるな」と声に出してつぶやくだけで、自分の状態に気づき、アクセルを踏む足をゆるめるきっかけになります。到着が遅れそうなときは、安全な場所に停めてから連絡を入れる。遅れることよりも、焦ったまま運転することのほうが、ずっと大きなリスクです。

荷主や客からの理不尽を、そのまま持ち帰らない

ドライバーの仕事には、自分ではどうにもならない理不尽がつきものです。予定より何時間も待たされたうえに「早く降ろして」と急かされる。決められていない荷役作業を当然のように頼まれる。タクシーで道順に文句を言われ、バスで遅延の責任を問われる。頭を下げて「すみません」と言ったあと、悔しさや怒りはどこへ行くのでしょうか。

よくある相談の典型例
「客に怒鳴られても、もう何も感じないんです。
でも、家に帰ると子どもの声がうるさくて仕方ない」
40代・タクシー運転手(典型例)夜勤で酔ったお客さんに理不尽なことを言われても、笑顔で「申し訳ありません」と返すのが当たり前になった。ところが最近、明け番で家に帰ると、子どもの声やテレビの音にひどくイライラし、家族に強く当たってしまう。そんな自分が嫌で相談に来た。
車内で押し込めた怒りや悔しさは、感じないようにしているだけで、消えてはいません。安全な場所に戻ったとたん、別の相手、別の場面に漏れ出してしまうのです。家族にイライラするのは、愛情がないからではなく、行き場のない感情がたまっているサインです。

車に戻ったら「3段階」で温度を測る

理不尽な出来事のあと、次の運転を始める前に、本の「3段階温度計」を使って感情の強さを確かめます。「ちょっと腹が立った」「そこそこ悔しい」「すごく嫌だった」。強さまで言葉にできると、感情に飲み込まれにくくなります。本では、感情を細かく区別できる人ほど、ネガティブな感情からの回復が早いという研究も紹介されています。

「すごく」が出たときは、すぐに走り出さないことが大切です。深呼吸を3回し、水を一口飲み、心拍が落ち着いてからエンジンをかけます。怒りを抱えたまま運転しないことは、自分と周りを守るための、プロとしての判断です。

運転席では書かない、話さない

ここで紹介する言葉の練習は、すべて停車中・休憩中に行ってください。走行中にスマホにメモをしたり、長く考え込んだりすることは危険です。走行中にできるのは、せいぜい「焦ってるな」と一言つぶやく程度まで。言葉にする作業は、必ず安全な場所に停めてからにします。

睡眠不足は、感情のブレーキを弱める

早朝の出庫、深夜の運行、車中泊、細切れの仮眠。ドライバーの睡眠は、どうしても不規則になりがちです。そして睡眠不足は、体の疲れだけでなく、感情の扱いにも大きく影響します。

睡眠を奪われた人の脳では、不快な画像を見たときの扁桃体の反応が大きく高まり、それを抑える前頭前野とのつながりが弱まることが、ユー(Yoo)とウォーカー(Walker)らの研究(2007年)で報告されています。つまり、寝不足のときは、ささいなことにカッとなりやすく、しかもその感情を自分で調整しにくくなるのです。渋滞や割り込みへのイライラが、いつもより強く出るのはこのためです。

  • いつもなら気にならない割り込みに、強く腹が立つ
  • 信号待ちで、気づくとぼんやりしている
  • 同じ道なのに、曲がる場所を間違えそうになる
  • 理由もなく気分が沈む、または妙に高ぶっている
  • 休憩しても、だるさが抜けない

こうしたサインが出ているときは、気合いで乗り切ろうとせず、安全な場所に停めて休んでください。道路交通法でも、過労や病気などで正常な運転ができないおそれがある状態での運転は禁じられています。

眠いとき、体調が悪いとき、
気持ちが大きく乱れているときは
運転しない。休む。運行管理者に伝える。

「眠い」「だるい」と言うのは、弱音ではありません。自分の状態を正確に把握し、事故を防ぐための報告です。感情や体の状態に気づく力は、そのまま安全運転の力につながっています。

休憩中にできる、運転席の感情ワーク

ここからは、休憩中や待機中にできるワークを紹介します。本で紹介しているワークを、運転の仕事に合わせて作り直しました。いずれもエンジンを止め、安全な場所に停車してから行ってください。全部やる必要はありません。1つ選んで、1週間試してみてください。

ワーク1|3秒
心の体温チェック|パーキングブレーキを引いたら

停車してパーキングブレーキを引いたら、ハンドルから手を離し、手のひらを胸に当てて「今、体は温かい? 冷たい? かたい?」と3秒だけ確かめます。長時間の運転で、肩や手のひらがこわばっていることに気づく人が多いはずです。体の信号に気づく練習が、感情に気づく力の土台になります。

ワーク2|3秒×3回
感情タイムアウト|休憩のたびに

1日の休憩のうち3回、たとえば最初の休憩、昼の休憩、最後の休憩で、「今、どんな気分?」と3秒だけ自分に聞きます。本では、外のことに意識が向いている間は内側を見るきっかけがやってこないので、決まったタイミングで外側からきっかけを作ることが大切だと書かれています。答えは「よくわからない」「なんか疲れてる」でかまいません。

ワーク3|1分
五感スイッチ|サービスエリアの一服で

缶コーヒーやお茶を、1分だけ五感で味わいます。手に伝わる温度、香り、味、外の風の音、空の色。一つずつ「心地いい? 心地悪い?」の2択で答えます。運転中はずっと前方と計器に向いていた注意を、自分の感覚に戻す時間です。暑さ寒さや疲れに気づきにくい人ほど、体を守ることにつながります。

ワーク4|2分
感情だけ日記|運行を終えて帰庫したら

日報には走行距離や時間を書きますが、この日記には感情だけを書きます。「朝の荷待ち、そこそこイライラ」「常連のお客さんにありがとうと言われて、ちょっとうれしい」「とくに何も感じなかった」。本では、「何も感じなかった」も立派な感情の記録だとしています。感情に触れて書くことがストレスの軽減と関係していることは、ペネベーカー(Pennebaker)らの筆記開示の研究でも示されてきました。

中島輝より一言

小学生のころ、私は理由もなく涙が流れてくることがありました。悲しいわけでも、痛いわけでもないのに、ふと気づくと頬がぬれている。今思えば、言葉にできなかった感情が、行き場を探してあふれていたのだと思います。ドライバーの方から「帰りの高速で、なぜか急に泣きそうになった」という話を聞くと、あのころの自分を思い出します。それは、あなたが弱いからではありません。ひとりで運んできた気持ちが、出口を探しているのです。次の休憩で、その気持ちに一言、名前をつけてあげてください。

点呼のときの一言で、運行管理者が気づけること

運行管理者にとって、点呼はドライバーの状態を確かめる大切な場です。酒気帯びの有無に加え、疾病、疲労、睡眠不足など、安全に運転できないおそれがないかを確認することが求められています。ところが現実には、「体調は?」「大丈夫です」の一往復で終わってしまうことが少なくありません。

「大丈夫です」としか言わないドライバーの多くは、うそをついているわけではありません。自分の疲れや不調に、本人が気づいていないことがあるのです。だからこそ、点呼の聞き方を少し変えるだけで、見えてくるものがあります。

いつもの聞き方気持ちに届く聞き方見えてくること
「体調は大丈夫?」「昨日は何時間くらい眠れた?」睡眠不足を数字で把握できる
「問題ない?」「今日の調子、天気にたとえると?」「くもり」「小雨」から、言葉にしにくい不調が見える
「気をつけて」「昨日の便、待ち時間長かったね。しんどくなかった?」前日の負担と気持ちを受けとめられる
(帰庫時に何も言わない)「お疲れさま。今日いちばん大変だったのは?」理不尽な出来事やヒヤリハットが共有される
点呼に「気持ちの一言」を足す流れ 乗務前 睡眠時間を数字で聞く 調子を「天気」で一言 「くもり。4時間しか寝てない」 管理者の受けとめ 「言ってくれて ありがとう」 休憩・運行を一緒に調整 帰庫時 「今日いちばん 大変だったのは?」 理不尽・ヒヤリを共有 正直に言った人が損をしない / 叱らない / 翌日の点呼でひと声 眠い・体調が悪いときは運転させない。本音が出る点呼が、事故を防ぐ
▲ 乗務前は睡眠時間と「天気」の一言、帰庫時は「いちばん大変だったこと」。運行管理者がそれを受けとめて運行を調整することで、点呼が本音を言える場に変わります。

正直に言った人が損をしない仕組みに

点呼で「眠い」「少し調子が悪い」と言ったとき、叱られる、評価が下がる、仕事を減らされて収入が減ると感じれば、ドライバーは言わなくなります。正直な一言には「言ってくれてありがとう」と返し、運行の調整や休憩の追加を一緒に考える。この対応を積み重ねることでしか、本音が出る点呼はつくれません。

本で紹介されている「共感の一言」は、正しいことを言いたくなったら、まず「大変だったね」と共感の一言を先に出してから、というワークです。正論はそのあとで伝えてかまいません。「遅れた理由は?」の前に「渋滞、大変だったね」。その一言が、次の点呼でドライバーが本音を言えるかどうかを左右します。

「2024年問題」のいま、心の状態を安全管理に入れる

2024年4月から、トラック・バス・タクシーなど自動車運転の業務にも、時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されました。あわせて、拘束時間や休息期間のルールを定めた「改善基準告示」も見直され、トラックでは1日の休息期間を継続11時間以上与えるよう努めることを基本に、9時間を下回らないこととされています。いわゆる「2024年問題」です。

労働時間のルールが整うことは、ドライバーの健康を守るうえで大きな前進です。一方で、現場からは「同じ荷物を、より短い時間で運ばなければならない」「収入が減るのが不安」という声も聞かれます。時間が短くなったぶん、焦りやプレッシャーが濃くなることも考えられます。

本に登場する仮名事例
「そのとき、どう感じたのですか?」
「……わかりません」
エミコさん(30代・仮名)本に登場する秘書のエミコさんは、理不尽なことを言われても常に笑顔で対応し続けた結果、原因不明のめまいに悩まされるようになりました。体の反応を聞くと、「胃がキュッとしたような感じがしました」と答えています。
職種は違っても、相手の都合に合わせ、自分の感情を後回しにし続ける構造は、ドライバーの仕事とよく似ています。言葉にされなかった感情は、体の不調として表に出てくることがあるのです。

運行管理に「心の状態」の項目を

時間の管理だけでなく、心の状態も安全管理の一部として扱うことが、これからの運輸の現場には欠かせません。たとえば、次のような取り組みが考えられます。

  • 点呼で、睡眠時間に加えて「今日の調子を天気で」の一言を聞く
  • 帰庫時に、ヒヤリハットと一緒に「今日いちばんしんどかったこと」を共有する
  • 理不尽な荷主対応や客とのトラブルがあったドライバーには、翌日の点呼でひと声かける
  • 月に一度、ドライバーどうしが運転の苦労を話せる場をつくる

組織の中で、自分の気持ちや意見を安心して出せる状態を、心理学ではエドモンドソン(Edmondson)が1999年の研究で「心理的安全性」と名づけました。ひとりで走る仕事だからこそ、営業所に戻ったときに本音を言える場が、ドライバーの心と安全を支えます。現場で働く人の感情については、兄弟記事の「弱音は吐かない」現場の職人たちへ|建設・製造の現場と感情の言語化も参考にしてください。

6つの感の木のたとえでいえば、自分の状態に気づくことは「根」にあたる自尊心≒自己存在感を、「今日は休む」と自分で決めることは「花」にあたる自己決定感を育てます。無理をしないと決められるドライバーは、長く安全に走り続けることができます。

しんどさが続くときは、ひとりで抱えないで
運行管理者・会社の相談窓口・産業医・かかりつけ医
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556

よくあるご質問

運転中に感情のことを考えると、かえって危なくないですか?
そのとおりです。運転中は運転に集中してください。走行中にできるのは「焦ってるな」と一言つぶやく程度までで、書く、考え込むといった作業は、必ず停車中・休憩中に行います。むしろ、休憩中に感情を整理しておくことで、運転中に感情に振り回されにくくなります。
点呼で「眠い」と言うと、仕事を外されそうで言えません。
その不安はもっともです。ただ、眠気や体調不良を隠して運転することは、ご自身と周りの命に関わります。運行管理者の側にも、正直に言った人が不利にならない対応が求められます。言いにくいときは、「昨日は4時間しか眠れなかった」と事実だけを伝えるのでもかまいません。
理不尽な客や荷主に、どう気持ちを切り替えればいいですか?
無理に切り替えようとしなくて大丈夫です。まず車に戻ったら、「そこそこ悔しい」「すごく腹が立った」と強さをつけて名前をつけてください。「すごく」のときは、深呼吸と水分補給をして、落ち着いてから走り出します。感情を否定せず、認めてあげることが、結果的にいちばん早い切り替えになります。
運行管理者として、ドライバーの変化に気づくポイントは?
返事が短くなる、「大丈夫です」しか言わなくなる、表情が乏しくなる、ささいなことで同僚ともめる、ヒヤリハットが増える、といった変化はサインのことがあります。気づいたら、責めるのではなく「最近どう? しんどくない?」と気持ちを聞く一言をかけてください。
自分はアレキシサイミアなのでしょうか。病院に行くべきですか?
アレキシサイミアは、DSM-5やICD-11の独立した診断名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。長時間の緊張や睡眠不足で、一時的に感情が見えにくくなることもよくあります。ただし、眠れない、食欲がない、何をしても楽しくないといった状態が2週間以上続く場合や、日中の強い眠気が続く場合は、産業医や医療機関に相談してください。
エンジンを止めたら、気分を一言。
「眠い」「焦ってる」は、安全のための報告。
言葉にできるドライバーが、道路を守る。
感情は、運転を邪魔するものではなく、
自分の状態を知らせてくれる大切な計器です。

自分を大切にしよう

ひとりの運転席で、渋滞に耐え、時間に追われ、理不尽な言葉を飲み込みながら、毎日荷物と人を運んでいる。その仕事がなければ、私たちの暮らしは1日も回りません。それでも「何も感じなくなった」と気づいたとしたら、それはあなたが冷たくなったからではなく、ひとりで感情を運び続けてきたからです。

停車したら、手を胸に当てて3秒だけ体の温度を確かめる。理不尽なことがあったら、「そこそこ悔しい」と強さをつけて名前をつける。眠いときは、正直に「眠い」と言って休む。点呼で「今日はくもりです」と言ってみる。どれも小さな一言ですが、その一言が、あなた自身の心と体、そして道路を使うすべての人の安全を守ります。

無事に帰ってくること。それがドライバーにとって、いちばん大切な仕事です。そのために、まずは自分の気持ちと体を大切にしてください。自分を大切にしよう。自分の状態に正直になれるドライバーこそが、長く、安全に走り続けることができます。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
  • Yoo, S.S., Gujar, N., Hu, P., Jolesz, F.A., & Walker, M.P. (2007). The human emotional brain without sleep: A prefrontal amygdala disconnect. Current Biology, 17, R877-R878.
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44, 350-383.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8, 162-166.
  • 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」
  • 厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」(2024年4月施行)
  • 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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