現場で見たことを誰にも話せない消防団員へ|地域の防災と感情の言語化

現場で見たことを誰にも話せない消防団員へ|地域の防災と感情の言語化

現場で見たことを誰にも話せない消防団員へ
地域の防災と感情の言語化

夜中にサイレンが鳴り、作業着のまま詰所へ走る。燃えていたのは、子どものころから知っている家だった。消火を終えて朝に帰宅し、何事もなかったようにスーツに着替えて会社へ向かう。家族に「どうだった?」と聞かれても、「まあ、大丈夫だった」としか言えない――。現場で見たこと、感じたことを言葉にできないまま日常に戻るのは、あなたが冷たいからでも、弱いからでもありません。地域を守るために動く人の心にも、守られる時間が必要です。この記事では、消防団員と地域の防災ボランティアの方へ、言葉にならない気持ちとの向きあい方をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:話せないのは弱さではなく、惨事のあとの自然な反応

最初に結論をお伝えします。火災や事故、災害の現場に出たあとに、眠れない、場面が頭に浮かぶ、何も感じない、といった変化が起きるのは、異常な出来事に対する「普通の反応」です。そして、その体験を言葉にできないことも、心が自分を守るために働いている証拠です。

ただし、言葉にできない状態が長く続くと、心と体の負担は少しずつ積み重なります。大切なのは、無理に語ることでも、黙って耐え続けることでもなく、自分のペースで「言葉にできる場所」を持っておくことです。この記事では、その具体的な方法をお伝えします。

よくあるご相談の典型例
「仲間には言えないんです。
自分だけ引きずってるなんて」
場面40代の男性。地元の工場に勤めながら、消防団に入って10年になる。半年前、夜間の交通事故の現場で、救急隊が到着するまでの交通整理と救助の補助にあたった。それ以来、夜にサイレンを聞くと胸がざわつき、車の運転中にふと、あのときの光景がよみがえる。分団の仲間はいつもどおりに見えるので、自分だけがおかしいのだと思い、誰にも話していない。
この方の中には、あの場面への恐ろしさと、「もっとできたのでは」という後悔、そして「自分だけ弱いと思われたくない」という恥ずかしさが重なっていました。仲間が平気そうに見えたのは、仲間もまた同じように黙っていたからかもしれません。分団の中で、何人もの感情迷子さんが、それぞれひとりで抱えていたのです。

このように、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情は動いているのに、言葉にたどり着く前に迷子になっている状態です。私はこれを「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはでくわしく解説しています。

強いストレスやつらい体験のあと、心を守るために感じる回路を一時的に絞る状態は「2次性アレキシサイミア」と呼ばれます。現場で動いているあいだは、恐怖や悲しみを感じていたら手が止まってしまう。だから心は、感情をいったん脇に置きます。それ自体はとても賢い働きです。問題は、脇に置いた感情を、あとで取りに戻る機会がないことなのです。

現場で感情を脇に置けたのは、あなたの強さ。
でも、置いたままにしなくていい。
あとで、自分のペースで取りに戻っていい。

数字で見る、消防団と惨事ストレス対策

消防団は、消防組織法にもとづいて市町村に置かれる消防機関です。団員は、ふだんは会社員や自営業、農業などそれぞれの仕事を持ちながら、火災や災害のときに出動する非常勤の特別職の地方公務員です。地域の防災の中心を担っていますが、団員の数は減り続けており、総務省消防庁の統計では2022年に初めて80万人を下回りました。

数字・研究で見るわかっていること
80万人を下回る
総務省消防庁(2022年)
全国の消防団員数。減少と高齢化が続き、一人ひとりの団員にかかる負担は大きくなっている。
1983年
ジェフリー・ミッチェル
救急・消防の隊員が悲惨な現場のあとに受けるストレスに対し、組織として備える考え方を提唱。のちに惨事ストレス・マネジメント(CISM)として広まった。
2002年
コクラン・レビュー(Roseら)
出来事の直後に一回だけ体験を詳しく語らせる「デブリーフィング」には、心の不調を予防する効果がはっきり認められないと報告。無理に語らせないことが重視されるようになった。
2011年
WHO「心理的応急処置(PFA)」
つらい出来事のあとの支援として、安全と安心の確保、話を無理に聞き出さずに寄り添うこと、必要な支援につなぐことを示した手引き。
約10人に1人
(研究により約10〜16%)
一般の人のうち、感情を言葉にしにくい傾向(アレキシサイミア傾向)が強い人の割合。分団の中にも必ずいる。

この表で特に知っておいていただきたいのは、「話せば楽になる」は、半分だけ正しいということです。体験を言葉にすることは回復を助けます。けれど、準備ができていないうちに、人前で細かく語らされることは、かえって負担になることがあるとわかってきました。総務省消防庁も、消防職員・団員の惨事ストレス対策として、専門家が現場の組織を支援する仕組みを設けています。

つまり大切なのは、「語らせる」ことではなく、「語りたくなったときに語れる関係と場所」を用意しておくことです。これは、分団という小さな共同体だからこそできることでもあります。

惨事ストレスとは|現場のあとに心と体に起きること

惨事ストレスとは、火災、事故、災害など、ふだんの生活では出会わないような悲惨な場面に関わったことで生じるストレスのことです。被害を受けた本人だけでなく、救助や支援にあたった人にも起こることが知られています。現場で起きることは、多くの場合、次のような形で表れます。

反応1|よみがえる
場面が頭に浮かぶ・夢に見る

サイレンの音、煙のにおい、似た場所を通ったとき。きっかけがあると、その場面がありありと思い出されることがあります。思い出したくないのに浮かんでくるので、自分でコントロールできないことへの不安も生まれます。

反応2|避ける
その話題や場所を避ける・何も感じない

現場の近くを通らないように遠回りする。ニュースで火災の映像が流れるとチャンネルを変える。感情が平板になり、うれしいことも悲しいことも感じにくくなるのも、この反応の一つです。「自分は何も感じていないから大丈夫」と思っている人ほど、実はこの状態にいることがあります。

反応3|張りつめる
眠れない・いらいらする・びくっとする

体が「また何か起きるかもしれない」と身構えたままになり、寝つけない、ささいなことでいらいらする、物音に過敏になるといった状態が続きます。家族への口調がきつくなって、あとで自己嫌悪におちいる方も少なくありません。

反応4|自分を責める
「もっとできたはず」という思い

救えなかったものがあると、「あと5分早く着いていれば」「自分の判断が遅かった」と、自分を責める気持ちが生まれます。実際には、その場でできる最善を尽くしていたとしても、この思いはなかなか消えません。

これらの反応の多くは、時間とともに少しずつ和らいでいきます。けれど、数週間たっても強いまま続く、仕事や家庭生活に支障が出ている、お酒の量が増えて止められないといったときは、ひとりで抱えずに、医療機関や専門家に相談してください。ここでの説明は、診断のためのものではありません。「自分にもこういうことが起きている」と気づくための手がかりとしてお使いください。

現場のあとに起きやすい4つの反応 異常な出来事に対する、普通の反応。多くは時間とともに和らぐ よみがえる 場面が浮かぶ 夢に見る 音やにおいで 思い出す 避ける 話題や場所を 避ける 何も感じない (感情の平板化) 張りつめる 眠れない いらいらする 物音に敏感 自分を責める 「もっと早く」 「自分のせい」 という思い こんなときは、ひとりで抱えず専門家へ 数週間たっても強いまま続く/仕事や家庭に支障が出ている お酒の量が増えて止められない/気分の落ちこみが続く
▲ 悲惨な現場に関わったあとには、よみがえる・避ける・張りつめる・自分を責める、といった反応が起きやすくなります。多くは時間とともに和らぎますが、長く続く場合や生活に支障が出る場合は、医療機関や専門家に相談してください。

「男は黙って」の文化が、心の回復を遅らせる

消防団は、地域の中でも伝統と規律を大切にしてきた組織です。その文化が、いざというときの素早い連携を支えてきました。一方で、「弱音を吐くな」「男は黙って背中で語れ」という空気が、つらさを言葉にすることをためらわせている面もあります。

心理学者ロナルド・レヴァントは、「男は泣くな」「弱みを見せるな」と教えられて育った男性に、悲しみや不安を言葉にしにくい傾向が見られることを「規範的男性アレキシサイミア」と呼びました。これは生まれつきの性質ではなく、育ってきた環境の中で身につけた「感じないようにする技術」です。だからこそ、あとから少しずつほどいていくこともできます。

「大丈夫か」と聞かれても、「大丈夫です」としか言えない

出動のあと、団長や先輩が「大丈夫か」と声をかけてくれることがあります。けれど、上下関係のはっきりした場で「大丈夫か」と聞かれて、「大丈夫ではありません」と答えられる人は多くありません。「大丈夫か」という問いは、「大丈夫です」という答えを引き出しやすい問いなのです。

答えにくい声かけ答えやすい声かけ
「大丈夫か」「今日はきつい現場だったな。俺も正直、こたえた」
「気にするな、仕方なかった」「みんなでやれることはやった。それでも、残るものはあるよな」
「何かあったら言えよ」「今週どこかで、飯でも行こう」
「お前は弱いな」(冗談でも)「眠れないとか、そういうのは誰にでもあるらしいぞ」

答えやすい声かけに共通しているのは、声をかける側が、先に自分の感情を少しだけ見せていることです。経験を積んだ団員が「俺もこたえた」と一言いうだけで、若い団員は「感じていいんだ」と知ることができます。分団の文化は、上に立つ人の一言から変わっていきます。

本業と団活動のはざまで|言えない疲れと罪悪感

消防団員の多くは、会社などに勤めながら活動しています。夜中の出動のあと、睡眠不足のまま出勤する。訓練や行事で週末がつぶれる。本業と団活動、そして家庭の三つの役割のあいだで、疲れは言葉にされないまま積み重なっていきます。

  • 出動で仕事を抜けるとき、職場に申し訳なさを感じる
  • 現場のことを職場の人には話せないので、何事もなかったようにふるまっている
  • 家族の行事より団の行事を優先して、家族に負い目がある
  • 辞めたいと思うことがあるが、人手不足を知っているので言い出せない
  • 団の飲み会や付き合いが負担だが、断ると居づらくなりそうだ
  • 出動のあと、体は疲れているのに頭が冴えて眠れない

このチェックの多くに共通しているのは、「申し訳なさ」と「言い出せなさ」です。地域のため、仲間のためという思いが強い人ほど、自分の疲れを後回しにします。けれど、疲れを言葉にしないまま活動を続けると、ある日突然、体調を崩したり、何もかもが嫌になってしまったりすることがあります。

「疲れた」「しんどい」と言うことは、活動から逃げることではありません。長く続けるために、自分の状態を正直に伝えることです。分団の中で、出動や訓練の負担を分け合う話し合いができれば、それは団全体を守ることにもつながります。

家族にどう話すか|話しすぎず、隠しすぎず

現場から帰ったとき、家族にどこまで話すべきか迷う方は多いと思います。悲惨な場面を詳しく話せば、家族を怖がらせてしまう。何も話さなければ、家族は「何を考えているのかわからない」と不安になる。大切なのは、出来事の細部ではなく、自分の状態と気持ちを伝えることです。

伝え方1|出来事は短く
「昨日の火事に出た。きつい現場だった」

何があったかを詳しく説明する必要はありません。「きつい現場だった」の一言で、家族はあなたの状態を想像できます。細かい場面は、話したくなったときに、話せる相手に話せばよいのです。

伝え方2|状態を伝える
「しばらく眠りが浅いかもしれない」

これから起きるかもしれない変化を、先に伝えておきます。「いらいらしていたら、それは現場の疲れのせいだと思ってほしい」。そう言っておくだけで、家族はあなたの態度を自分への怒りと受けとらずにすみます。

伝え方3|頼みごとを一つ
「今日は静かに過ごしたい」「一緒に散歩に行こう」

家族は「何かしてあげたい」と思っていても、何をすればよいかわからずにいます。具体的な頼みごとを一つ伝えると、家族も安心して支えることができます。

一方、家族の側にも言葉にできない感情があります。出動のたびに「無事に帰ってくるだろうか」と心配する。家族の予定が団の行事で変わる不満。そして帰ってきたあなたの様子が違うことへの戸惑い。家族の気持ちもまた、言葉にされてよいものです。「出動のとき、本当は心配だった」と伝えてもらえたら、それを責めずに受けとめてください。

災害のときに地域で起きる感情については、被災した住民の側から書いた災害と感情の言語化の記事もあわせてお読みください。支える側と支えられる側、それぞれの心の動きが見えてきます。

貢献感と共同体感覚|アドラー心理学で見る「支える人」の心

私はカウンセリングで、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の心理学をベースにしてきました。アドラー心理学の中心にあるのが共同体感覚です。自分は家族や地域、社会という共同体の一員であり、そこに居場所があり、仲間を信頼し、誰かの役に立っているという感覚のことです。

消防団員や防災ボランティアは、まさにこの共同体感覚を体現している人たちです。報酬のためでも、名誉のためでもなく、「自分の地域は自分たちで守る」という思いで動いている。その思いは、アドラーが人の心の健康の土台と考えたものそのものです。

貢献感は「結果」ではなく「関わったこと」から生まれる

ところが惨事のあと、多くの団員がこの感覚を見失います。「救えなかった」「何もできなかった」という思いが、「自分は役に立たなかった」という結論につながってしまうからです。

アドラー心理学では、貢献感は他人からの評価や、目に見える成果によって決まるものではないと考えます。自分が誰かのために関わった、共同体の一員として力を尽くした。その主観的な感覚が貢献感です。火を消しきれなかった現場でも、延焼を防いだ家がある。救えなかった命があっても、その場に駆けつけ、家族のそばにいた団員がいる。結果がどうであれ、あなたがそこにいたことは、地域にとって確かな貢献です。

「何ができなかったか」と同じくらい、
「何をしたか」を言葉にする
貢献感を取り戻す問いかけ

惨事のあと、心はどうしても「できなかったこと」に向かいます。それは責任感の強さの表れです。そのうえで、「あの現場で、自分は何をしたか」を一つずつ言葉にしてみてください。「ホースを延ばした」「交通整理をした」「近所の人を避難させた」。小さなことでかまいません。それらはすべて、共同体への貢献です。

貢献感の2つの見方 アドラー心理学では、貢献感は「結果」ではなく「関わり」から生まれる 結果だけで測る 「全焼を防げなかった」 「救えなかった」 「自分は役に立たなかった」 → 実(自己有用感)がしぼむ 関わりに目を向ける 「夜中に駆けつけた」 「延焼を防いだ家がある」 「家族のそばにいた」 → 実(自己有用感)が守られる 「できなかったこと」を否定しなくていい そのうえで「自分がしたこと」も同じだけ言葉にする
▲ 結果だけで自分の価値を測ると、うまくいかなかった現場のあとに自己有用感がしぼんでしまいます。駆けつけたこと、役割を果たそうとしたことに目を向けると、貢献感は守られます。

共同体感覚は、「ひとりで抱えない」ことでもある

共同体感覚には、「仲間を信頼する」という側面もあります。現場で互いに命を預け合う仲間は、心のつらさを預け合える仲間にもなれるはずです。「自分だけが引きずっている」と思っているとき、それは共同体の中で孤立している状態です。勇気を出して一人の仲間に「実は、あれからよく眠れない」と話したとき、「実は俺も」と返ってくることは、決して珍しくありません。

6つの感で見る|自己有用感を守る

自己肯定感の「6つの感」は、木にたとえて説明できます。根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。消防団員や防災ボランティアにとって、とくに大切で、同時に惨事のあとに揺らぎやすいのが実にあたる「自己有用感」です。

実|自己有用感
「自分は誰かの役に立っている」という感覚

自己有用感は、地域のために動く人を支える大きな力です。訓練に参加する、夜中の出動に応じる、祭りの警備に立つ。その一つひとつが、「自分はこの地域に必要とされている」という実を結ばせます。ただ、この実が「成果」とだけ結びついていると、うまくいかなかった現場のあとに、一気にしぼんでしまいます。

実を守る|「関わり」に目を向ける
結果と自分の価値を切り離す

自己有用感を守るためには、アドラーの貢献感の考え方と同じく、結果ではなく関わりに目を向けることが大切です。「被害をゼロにできたか」ではなく、「自分はあの場で、自分の役割を果たそうとしたか」。この問いに「はい」と答えられるなら、あなたの実はしぼんでいません。

幹|自己受容感
「引きずっている自分」も認める

実を支えるのは幹です。眠れない自分、場面がよみがえる自分、いらいらしてしまう自分。「こんなことで揺れる自分は団員失格だ」と否定するのではなく、「あれだけの現場だったのだから、揺れて当然だ」と認めること。それが自己受容感です。幹がしっかりしていれば、実は再び実ります。

中島輝より一言

私は5歳のときに、育ててくれた里親が夜逃げしていなくなるという体験をしました。それ以来、私は長いあいだ、感情を外に出すのをやめていました。そうしないと、自分を保てなかったからです。だから、つらい場面のあとに「何も感じない」「話せない」という方の気持ちが、少しだけわかる気がします。感じないようにしたのは、あなたが自分を守ろうとした証です。そして、守るために閉じた扉は、安心できる場所で、少しずつ開けていくことができます。

分団でできる、無理に語らせない振り返り

最後に、分団や防災ボランティアのグループでできる工夫を紹介します。ポイントは、「詳しく語らせる」のではなく、「語りたい人が語れる場をつくる」ことです。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』のワークを、現場向けに作り直しています。

工夫1|出動のあと・3秒×3回
「感情タイムアウト」で体を落ち着かせる

撤収のあと、車に乗る前に、3秒かけて息を吸い、3秒かけて吐く。これを3回くり返します。現場で張りつめていた体に、「もう終わった」と知らせるための時間です。分団全員でやると、自然な区切りになります。

工夫2|詰所で・1分
「3段階温度計」で、いまの状態だけを共有する

現場の細かい話ではなく、「いまの自分の状態」を1〜3で言うだけにします。「1:いつもどおり」「2:ちょっとこたえた」「3:かなりきつい」。数字なら、言葉にしにくい人でも伝えられます。3と答えた人がいたら、その場で深掘りせず、後日、信頼できる人が個別に声をかけます。

工夫3|数日後に・5分
食事や雑談の中で「どうしてる?」

惨事ストレスの反応は、現場の直後よりも数日たってから出てくることがあります。数日後に、食事や作業のついでに「最近、眠れてるか」と声をかける。改まった場より、雑談の中のほうが本音は出やすいものです。

工夫4|ひとりで・2分
話せないときは「感情だけ日記」

人に話すのが難しいときは、ノートにその日の感情だけを書き出します。出来事の描写は書かなくてかまいません。「怖かった」「くやしい」「ほっとした」。心理学者ペネベーカーの研究では、気持ちを書くことが心身の健康によい影響を与えることが示されています。ただし、書いていて苦しくなるときは無理に続けず、そこでやめてください。

団長・分団長ができること

分団の中で、上に立つ人ができることは大きいものです。自分自身が「今日はこたえた」と口にする。眠れない、つらいという団員を責めず、「それは普通の反応だ」と伝える。必要なときは、市町村の消防本部や保健センター、医療機関などの専門家につなぐ。そして、団員の本業や家庭の事情に配慮して、出動や行事の負担が一部の人に偏らないようにする。それが、団員の心を守り、団を長く続けていくための土台になります。

よくあるご質問

現場のことを思い出して眠れません。これはPTSDなのでしょうか。
悲惨な場面に関わったあとに、眠れない、場面が浮かぶといった反応が出るのは珍しいことではなく、多くは時間とともに和らぎます。診断は医師にしかできませんので、この記事で判断せず、つらさが数週間たっても続く、生活に支障が出ているといった場合は、医療機関や専門家に相談してください。早めに相談することは、決して大げさではありません。
仲間はみんな平気そうなのに、自分だけ引きずっている気がします。
同じ現場でも、受けとめ方は人によって違います。また、平気そうに見える仲間も、実は言葉にしていないだけかもしれません。引きずっているのは、あなたが弱いからではなく、それだけ真剣に向きあった証です。信頼できる仲間に一言だけ話してみる、話せなければ専門家に相談するなど、ひとりで抱えない方法を選んでください。
出動のあと、家族にきつく当たってしまいます。
張りつめた状態が続くと、ささいなことでいらいらしやすくなります。家族には、落ち着いているときに「現場のあとは、いらいらしやすくなるみたいだ。あなたのせいじゃない」と伝えておいてください。帰宅前に数回深呼吸をする、ひとりで静かに過ごす時間をもらうなどの工夫も役立ちます。
分団の中で、つらそうな団員にどう声をかければいいですか。
「大丈夫か」より、「きつい現場だったな。俺もこたえた」と、こちらの気持ちを先に少し見せるほうが、相手は話しやすくなります。無理に詳しく聞き出す必要はありません。「何かあれば」ではなく「今度飯でも」と具体的に誘い、気にかけていることを伝え続けてください。様子が心配なときは、専門家につなぐことも大切な役割です。
団活動を辞めたいと思っていますが、人手不足なので言い出せません。
その迷いは、地域への責任感の強さの表れです。まずは「辞めたい」の下にある気持ち(疲れ、家族への負い目、現場への怖さなど)を分けて書き出してみてください。休団や役割の変更など、辞める以外の選択肢が見つかることもあります。どの選択をするにしても、あなたがこれまで地域のために動いてきた事実は変わりません。
現場で感情を脇に置けたのは、あなたの強さ。
でも、置いたままにしなくていい。
地域を守る人の心にも、守られる時間を。
無理に語らなくていい。
語りたくなったときに語れる仲間と場所を、分団の中に。

自分を大切にしよう

火災や事故、災害の現場に関わったあと、見たことを誰にも話せない、何も感じない、眠れないといった変化が起きるのは、異常な出来事に対する普通の反応です。現場で感情を脇に置けたのは、心が自分を守るために働いた結果です。ただ、脇に置いた感情を取りに戻る機会がないまま日常に戻ると、心と体の負担は少しずつ積み重なっていきます。「男は黙って」の文化、本業との両立、家族への遠慮が、その重さを言葉にすることをさらに難しくしています。

近年の研究では、出来事の直後に無理に詳しく語らせることより、語りたくなったときに語れる関係と場所を用意しておくことが大切だとわかってきました。アドラー心理学の共同体感覚と貢献感の考え方では、あなたが地域のために駆けつけたこと、その場で役割を果たそうとしたことそのものが、確かな貢献です。結果と自分の価値を切り離し、「何をしたか」を言葉にすることで、6つの感の実である自己有用感は守られます。

撤収のあとの深呼吸、詰所での3段階温度計、数日後の「最近、眠れてるか」の一言、そして話せないときの感情だけ日記。小さな工夫が、あなたと仲間の心を守ります。自分を大切にしよう。地域の人の命と暮らしを守ってきたあなた自身も、守られてよい、かけがえのない一人です。

こころの相談先
・お住まいの市町村の保健センター・精神保健福祉センター
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
・命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 消防組織法(消防団の位置づけ)、総務省消防庁「消防白書」・消防団の現況に関する資料
  • 総務省消防庁 惨事ストレス対策に関する資料
  • Mitchell, J.T. (1983). When disaster strikes: The critical incident stress debriefing process. Journal of Emergency Medical Services, 8.
  • Rose, S., Bisson, J., Churchill, R., & Wessely, S. (2002). Psychological debriefing for preventing post traumatic stress disorder (PTSD). Cochrane Database of Systematic Reviews.
  • World Health Organization (2011). Psychological First Aid: Guide for Field Workers.(邦訳『心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド』)
  • Levant, R.F. (1992). Toward the reconstruction of masculinity. Journal of Family Psychology.(規範的男性アレキシサイミア)
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science.
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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