リモートワークで気持ちが伝わらない、わからない
テキストとオンライン会議の感情の言語化
上司から届いたチャットは「確認しました」の一言だけ。怒っているのか、問題ないのか、何度読み返してもわからない。オンライン会議ではほとんどの人がカメラオフで、自分の発言がどう受け止められたのか見当もつかない。会議が終わってノートパソコンを閉じると、部屋はしんと静かで、なんだかずっと疲れている。リモートワークのしんどさの多くは、仕事の量ではなく、感情の行き場がなくなることから生まれています。職種を問わず、画面越しに働くすべての人とマネージャーに向けて、感情の言語化の方法をお伝えします。
リモートワークで「気持ちがわからない」が増える理由
オフィスで働いていたころ、私たちは言葉以外の多くの情報から、相手の気持ちを読み取っていました。声のトーン、表情、うなずき、ため息、席に戻ってきたときの足どり。「今日の課長、機嫌がいいな」「隣の後輩、なんだか元気がないな」。そうしたことに、ほとんど無意識に気づいていたのです。
リモートワークでは、この「言葉以外の情報」が大きく削られます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』でも、SNSやチャットなどの短文のコミュニケーションが増えたことが、「言語化」が注目される背景の1つだと書かれています。対面と違って表情や声のトーンがないため、誤解のないように伝えることがとても難しくなっているのです。
本ではまた、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。心理学で「アレキシサイミア(失感情症)」として研究されてきた概念に近いもので、感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を指します。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。
もともとの傾向が弱い人でも、人との交流が減り、ストレスが続く環境では、一時的に同じような状態になることがあります
リモートワークでは、2つのことが同時に起きます。相手の感情が「読めない」こと、そして自分の感情を「出す場がない」ことです。オフィスでは自然に流れていた感情が、画面の内側と外側で行き止まりになる。それが、リモートワーク特有の疲れやすれ違いの正体です。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。働き方に合わせた工夫で、感情の通り道はつくり直すことができます。
チャットの短文はなぜ誤解を生むのか
「確認しました」「了解です」「修正お願いします」。チャットのやりとりは、仕事を速く進めるために、どんどん短くなっていきます。けれども、短い文字には感情の情報がほとんど含まれていません。そのため、受け取った側は、空白になっている感情の部分を、自分の不安で埋めて読んでしまうのです。
| 届いたメッセージ | 送り手の本当の気持ち | 受け手が読み込みがちな気持ち |
|---|---|---|
| 「確認しました」 | 問題なし。むしろよくできている | 何か不満があるのでは |
| 「ここ、修正お願いします」 | 小さな直し。急ぎではない | 怒られている、評価が下がった |
| 「ちょっと話せますか?」 | 軽い相談をしたいだけ | 何かやらかしたのかもしれない |
| (既読のまま返信なし) | 会議中で見ていない | 無視されている、嫌われている |
心理学の研究では、メールの送り手は、自分の文章に込めた皮肉や冗談などのトーンが相手に伝わっていると思いがちなのに、実際には送り手が思うほどには伝わっていないことが示されています(Kruger et al., 2005)。送る側は「伝わっているつもり」、受け取る側は「わからないまま不安」。このすれ違いが、毎日少しずつ積み重なっていくのです。
読み返しても答えが出ないのは、感情の情報がないから
一言だけのチャットを何度も読み返してしまうのは、あなたが気にしすぎだからではありません。そもそもその文章の中に、答えになる感情の情報が入っていないのです。本では、言葉にできない感情は脳の中で「未完了のタスク」として残り続ける、と説明しています。「あの『確認しました』はどういう意味だったんだろう」という引っかかりも、同じように未完了のまま頭の片隅に残り、集中力と体力を少しずつ奪っていきます。
短いチャットに足りないのは、
丁寧さではなく「感情の情報」。
一言足すだけで、相手の不安は消えていく。
カメラオフと雑談ゼロが、感情のセンサーを鈍らせる
オンライン会議でカメラをオフにすることには、通信の負荷を減らしたり、家の様子を見せずに済んだりと、もっともな理由があります。ただ、全員がカメラオフの会議が続くと、相手の感情を読み取る練習の機会が、毎日少しずつ失われていきます。
本の中では、相手の内面を想像する力を「メンタライゼーション」として紹介しています。イギリスの精神科医ピーター・フォナギー(Fonagy)らが発展させた考え方で、自分や相手の行動を、感情や思考といった内面の状態から理解しようとする力のことです。そして、相手の内面を想像することをくり返すうちに、自分の内面にも目が向くようになっていくと書かれています。逆にいえば、相手の表情を見る機会が減ると、自分の感情に気づく力も弱まりやすいのです。
雑談は「感情の通り道」だった
オフィスでのちょっとした雑談、「昨日の試合見た?」「最近寝不足で」。一見ムダに思えるこうした会話は、実は小さな感情を気軽に出し合う通り道でした。リモートワークでは、会議は議題から始まり、議題が終われば終わります。仕事の話はできても、「ちょっと疲れてて」と言うタイミングはどこにもありません。
大切なのは、リモートワークで感情そのものが減ったわけではない、ということです。会議で発言したあとの「伝わったかな」という不安も、締め切りを乗り越えたときの安堵も、オフィスにいたころと同じように生まれています。減ったのは、その感情が外に流れ出る機会のほうです。だからこそ、オフィスで自然に起きていたことを、リモートでは少しだけ意識して言葉にする必要があります。それは決して難しいことではありません。この記事の後半で紹介する「3行の型」「チェックイン」「終業の儀式」は、どれもこの通り道をつくり直すための小さな工夫です。
誰とも話していない気がするんです」
一人の部屋で、感情が行き場を失うとき
オフィスなら、イラッとするメールを受け取っても、隣の同僚と目を合わせて苦笑いすれば少し気が晴れました。うれしい知らせがあれば、「やった」と声に出して誰かとハイタッチできました。一人の部屋では、怒りもうれしさも、受け止めてくれる相手がいないまま、自分の中で行き止まりになります。
行き止まりになった感情には、主に3つの行き先があります。
- 体に出る:肩こり、頭の重さ、眠りの浅さ、夕方の強いだるさ
- 家族に向かう:仕事中のいら立ちが、終業直後の家族への言葉に出てしまう
- 感じなくなる:何が起きても「別に」と思うようになり、仕事の手応えも薄れる
本では、感情は感じないようにすればするほど心の底に居座り続け、抑え込んだ感情は体の不調や漠然とした重さとなって別の形で出てくると書かれています。リモートワークで「なぜか疲れる」「家族にきつくあたってしまう」という悩みの奥には、こうした感情の行き止まりが隠れていることが少なくありません。
とくに注意したいのは、「感じなくなる」という3つ目の行き先です。体に出る不調や家族へのいら立ちは、本人も周りも気づきやすいものです。けれども、何が起きても「別に」と思うようになる変化は静かに進むため、自分ではなかなか気づけません。褒められても、ミスを指摘されても、同じように心が動かない。休日に好きだったことをしても、以前ほど楽しくない。そんな状態に心当たりがあるなら、それは怠けや性格の問題ではなく、感情の通り道が細くなっているサインかもしれません。マネージャーの立場の方は、メンバーのチャットの文面がだんだん短く、そっけなくなっていないかにも目を向けてみてください。文字だけのやりとりでは、その小さな変化が、数少ない手がかりになります。
本に登場する30代の会社員、アカネさん(仮名)も、何年も自分がどう感じているのかわからないまま働き続け、職場でも家庭でも「大丈夫」「問題ありません」をくり返していた方です。体に不調が出るまで、自分の限界に気づけなかったといいます。そのアカネさんが、ワークに取り組んで数か月後に話してくれたのが、次の言葉でした。
サポートをお願いしたいです、と言えるようになって」
チャットに感情を一言添える「3行の型」
では、実際のチャットにどう感情を入れればいいのでしょうか。おすすめは、「用件」「感情」「お願い・次の一歩」の3行の型です。感情の1行には、本の「3段階温度計」にならって「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さを添えると、相手は温度感を正確につかめます。
場面ごとの例を挙げてみます。
| 場面 | 用件だけ | 感情を一言添えた3行の型 |
|---|---|---|
| 進捗が遅れている | 「遅れています」 | 「A案件、2日ほど遅れています。正直そこそこ焦っています。優先順位を15分だけ相談させてください」 |
| 部下の成果物を受け取った | 「確認しました」 | 「確認しました。データの整理がとても丁寧で、ちょっと感動しました。このまま進めてください」 |
| 依頼を断りたい | 「今週は難しいです」 | 「今週は締め切りが重なっていて、正直かなり余裕がありません。来週の水曜以降なら対応できます」 |
| 会議で言い過ぎたかも | (何も送らない) | 「さっきの会議、少し強い言い方になってしまって気になっています。意図は○○でした。何かあれば教えてください」 |
絵文字やスタンプは「補助」として使う
絵文字やリアクションスタンプも、感情の情報を補う道具として役立ちます。ただし、絵文字は受け手によって解釈が分かれることもあります。大事な場面ほど、絵文字に任せず、言葉で感情を書くことをおすすめします。言葉にする過程そのものが、自分の感情を整理する練習にもなるからです。
マネージャーが最初に使う
この型は、マネージャーが先に使うことで、チームに広がりやすくなります。上司が「正直、この数字には少し焦っています」と書けば、メンバーも「実は私も不安でした」と書きやすくなります。感情を書いても大丈夫という空気は、立場の上の人の一言からつくられるのです。
オンライン会議の最初の1分「チェックイン」
リモートワークで失われた「雑談」の代わりに、意図的に感情の通り道をつくる方法があります。それが、会議の最初に一人ひとこと、今の気分を話す「チェックイン」です。議題に入る前の1〜2分で、全員が順番に「今の気分」を短く言葉にします。
お題は「今の気分を天気かオノマトペで」
「今の気分は?」と聞かれても、いきなり感情語で答えるのは難しいものです。本の「比喩レッスン」と「今日のオノマトペ」を応用して、「天気」か「オノマトペ」で答えるルールにすると、ぐっと答えやすくなります。「くもりのち晴れです。午前の会議がやっと終わってほっとしてます」「バタバタです」。それだけで十分です。
ファシリテーターが最初に、少しだけ本音で
最初に話す人の温度が、その場の温度を決めます。マネージャーやファシリテーターが「正直、今日はちょっと眠いです」と少し肩の力を抜いた本音を出すと、メンバーも「元気です」以外の言葉を出しやすくなります。
コメントせず「ありがとう」で受け取る
誰かが「今日はどしゃぶりです」と言っても、その場で理由を掘り下げたり、アドバイスをしたりはしません。「ありがとうございます」で受け取り、次の人へ進みます。気になる場合は、会議のあとに個別のチャットで「さっき、どしゃぶりって言ってたけど大丈夫?」と声をかけるのがよいでしょう。
チェックインは、カメラオフの会議でも声だけでできます。全員の顔が見えなくても、声のトーンと一言の内容から、相手の今の状態がずいぶん伝わってくるはずです。本の「5秒ルール」のように、相手の言葉を聞いたら5秒だけ「この人は今、何を感じているだろう」と想像してみてください。相手の内面を想像する練習は、カメラオフの画面越しでもできるのです。
自分の意見や気持ちを安心して出せる状態は、心理学で「心理的安全性」と呼ばれます。エドモンドソン(Edmondson)が1999年の研究で提唱した概念で、Googleが社内のチーム研究「プロジェクト・アリストテレス」で、成果を上げるチームに共通する最も重要な因子として挙げたことでも知られています。チェックインは、心理的安全性を育てる、いちばん小さく、いちばん続けやすい習慣の1つです。
成果を求められる職場で感情を置き去りにしがちな方には、成果を出し続けるハイパフォーマーほど感情を置き去りにする|燃え尽きる前の感情の言語化も参考になります。
仕事の終わりに感情を切り替える「終業の儀式」
オフィス勤務なら、帰り支度をして、駅まで歩き、電車に揺られるあいだに、仕事モードから家モードへ自然と切り替わっていました。リモートワークでは、ノートパソコンを閉じた1秒後には、もう家にいます。仕事中に生まれた感情が、片づかないまま家庭の時間に流れ込んでしまうのです。
そこでおすすめしたいのが、終業時に毎日同じ手順をくり返す「終業の儀式」です。本のワークを組み合わせて、3分でできる形にしました。
心の体温チェック
パソコンを閉じる前に、手のひらを胸に当てて「今、自分の体は温かい? 冷たい?」と3秒だけ聞きます。本では、心を直接見ることはできなくても、体のほうから心をチェックすることができると説明しています。「よくわからない」でもかまいません。
感情だけ日記を1〜3行
今日の業務内容ではなく、今日感じたことだけを書きます。「午前の会議、ちょっと緊張した」「先輩のチャットにすごく救われた」「とくに何も感じなかった」。書き出した感情は「完了」の箱に入り、家に持ち込まずに済むようになります。感情に触れて書くことがストレスの軽減と関係していることは、ペネベーカー(Pennebaker)らの筆記開示の研究でも示されてきました。
体で「区切り」をつける
パソコンを閉じたら、立ち上がって窓を開ける、部屋着に着替える、玄関から一度外に出て戻ってくる、など、毎日同じ動作をします。体の動きで区切りをつけると、心もそれに合わせて切り替わりやすくなります。仕事用のチャットの通知を切るのも、この儀式に含めるとよいでしょう。
中島輝より一言
小学生のころ、私はときどき、とめどなく涙が流れてくることがありました。自分でもなぜ泣いているのかわかりません。友だちに「どうしたの?」と聞かれても、「わからない」「なんでもない」と言うしかありませんでした。言葉にできなかった感情が、行き場を失って、涙という形であふれていたのだと今は思います。一人の部屋で働くあなたの中にも、言葉になる場所を待っている感情があるはずです。終業の3分は、その感情に「おつかれさま」と声をかける時間にしてください。
6つの感の木のたとえでいえば、「うまく言えないけど、なんかモヤモヤする」と不完全な言葉のまま感情を認めることは、「幹」にあたる自己受容感を育てます。そして、チャットの一言でチームの誰かを安心させられた経験は、「実」にあたる自己有用感を実らせます。画面越しでも、感情の言葉は人と人をつなぐ力を持っているのです。
しんどさが続くときは、ひとりで抱えないで
社内の相談窓口・産業医・保健師
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よくあるご質問
チャットに一言、会議の最初に一言。
それだけで、気持ちは届きはじめる。
言葉になる場所をつくってあげましょう。
自分を大切にしよう
リモートワークで「気持ちが伝わらない、わからない」と感じるのは、あなたのコミュニケーション力が足りないからではありません。表情や声、雑談といった、感情を運んでいた通り道が、働き方の変化によって細くなっているからです。それは、職種や役職を問わず、画面越しに働く誰にでも起こることです。
通り道は、つくり直すことができます。チャットに「少し不安があります」と一言添える。会議の最初に「今日はくもりです」と言い合う。パソコンを閉じる前に、胸に手を当てて3秒だけ自分の体温を確かめる。どれも小さな工夫ですが、その一言が、相手の不安を減らし、自分の感情の行き場をつくります。アカネさんのように、「少し不安なのでサポートをお願いしたい」と言えるようになったとき、働き方そのものが変わっていくはずです。
一人の部屋で働く毎日は、思っている以上に心のエネルギーを使っています。だからこそ、自分の感情に「おつかれさま」と声をかけてあげてください。自分を大切にしよう。自分の感情を大切にできる人は、画面の向こうにいる同僚の感情にも、きっと気づけるようになります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Kruger, J., Epley, N., Parker, J., & Ng, Z.W. (2005). Egocentrism over e-mail: Can we communicate as well as we think? Journal of Personality and Social Psychology, 89, 925-936.
- Fonagy, P. et al. (2002). Affect Regulation, Mentalization, and the Development of the Self. Other Press.
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44, 350-383.
- Google re:Work「効果的なチームとは何か」(プロジェクト・アリストテレス)
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8, 162-166.
- 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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