推しの前では泣けるのに、自分のことでは泣けないあなたへ|推し活と感情の言語化

推しの前では泣けるのに、自分のことでは泣けないあなたへ|推し活と感情の言語化

推しの前では泣けるのに、自分のことでは泣けないあなたへ
推し活と感情の言語化

金曜の夜、配信ライブのラストでアンコールの一曲が始まった瞬間、気づけば涙がぼろぼろ。タオルで顔を押さえながら、ふと思う。今週、上司に理不尽に叱られたときも、友だちの結婚報告に複雑な気持ちになったときも、私は一度も泣かなかったのに。推しのことならこんなに心が動くのに、自分のことになると、気持ちがよくわからない。そんなあなたへ。推し活は、気持ちに鈍くなった心の「逃げ場」ではなく、感情を取り戻すための頼もしい入口です。好きを大切にしたまま、自分の気持ちにも名前をつけていく方法を一緒に見ていきましょう。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

推しの前では泣けるのに、自分のことでは泣けない

よくある相談の典型例
「推しの誕生日には朝から泣けるのに、
自分の誕生日は、何も感じなかったんです」
場面アイドルグループを応援して5年になる20代後半の会社員女性。推しの誕生日には祝福の投稿をつくり、ファン仲間とカフェでお祝いをする。推しの言葉に救われたことも数えきれない。一方で、自分の誕生日は「別に普通の日」。仕事で大きなミスをして落ち込んだはずの日も、帰宅して推しの動画を見たら「まあいいか」と流してしまった。最近、「私って、自分の気持ちがよくわからないのかも」と思うようになった。
推しには豊かに心が動くのに、自分のことでは感情がぼんやりする。それは冷たいからでも、現実逃避だからでもありません。感じる力はちゃんとある。ただ、その力がいま、推しという安全な場所で主に働いているのです。

推し活は、今や多くの人の日常の一部です。アイドル、俳優、アーティスト、アニメやゲームのキャラクター、スポーツ選手、VTuber。推しがいることで、毎日に張りが生まれ、つらい時期を乗り越えられたという人もたくさんいます。推しを好きでいる気持ちは、それだけで十分に尊いものです。

そのうえで、こんな感覚に心当たりはありませんか。

  • 推しのライブや作品では泣けるのに、自分の悲しいことでは涙が出ない
  • 推しの魅力なら何時間でも語れるのに、「最近どう?」と聞かれると「普通」しか出てこない
  • 推しへの手紙はすらすら書けるのに、自分の気持ちを日記に書こうとすると手が止まる
  • 嫌なことがあっても、推しを見て「なかったこと」にしてしまう
  • 推しの喜びは自分のことのようにうれしいのに、自分の喜びは「たいしたことない」と流してしまう

いくつか当てはまっても、心配はいりません。この記事では、心理学のアレキシサイミア(失感情症)という考え方を手がかりに、推しを通して動く感情を、自分の気持ちに気づく力へとつなげていく方法をお伝えします。推し活をやめる必要はまったくありません。むしろ、推し活こそが、最高の練習場になるのです。

それは悪いことじゃない|推しは「感情の入口」

アレキシサイミアとは、自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態のことです。感情がないのではなく、感じてはいるけれど、それをつかまえて言葉にするところで流れが細くなっている状態です。研究によって約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向があるとされ、病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡と考えられています。DSM-5やICD-11でも独立した診断名にはなっていません。基本はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。

約10人に1人
感情に気づき、言葉にすることが難しい傾向が強い人の割合(研究によって約10〜16%)。特別な人だけの話ではない
出典:Taylor, Bagby & Parker『アレキシサイミア』ほか各国の調査研究研究知見

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。推しの前で涙があふれるあなたは、帰る道の途中にちゃんと明かりを持っている人です。

ゲームの話なら饒舌だった高校生

『感情迷子さんの本』には、ある対戦ゲームで世界トップクラスの腕を持つ高校生の話が出てきます。ゲームの話になると感情豊かに語るのに、それ以外の話になると途端に言葉が少なくなる。価値観の違う人のことは「よくわからない」と、想像するのをやめてしまっていました。彼に取り組んでもらったのが、アニメの登場人物の気持ちを想像するワークです。現実の人の感情を想像するのには抵抗があっても、アニメならゲーム感覚でできたそうです。やがて彼は、「このキャラなら泣くよね。わからなくはない」と思えるようになり、「周りの人が自分のことを少し理解してくれるようになった気がする」と話してくれたといいます。

このエピソードが教えてくれるのは、特定の分野で発揮されている感じる力・想像する力は、ほかの分野にも広げていけるということです。推しに向かってこれほど豊かに動く感情があるなら、その力を自分の生活に向ける道は、すでに半分できているのです。

推しの前で動く心は、
あなたの「感じる力」がちゃんと生きている証拠。
その力を、少しずつ自分にも向けていこう。

なぜ自分の気持ちには名前がつきにくいのか

では、なぜ推しのことなら心が動くのに、自分のことになると感情がぼんやりするのでしょうか。理由はいくつか考えられます。

推しは「安全な距離」にいる

推しへの感情は、たとえ涙が出るほど強くても、自分の生活が直接おびやかされることはありません。推しの卒業に泣いても、明日の仕事は変わらない。だからこそ、心は安心して全力で動けます。一方、自分の生活の感情は違います。上司への怒りを認めたら、明日から職場で普通にふるまえなくなるかもしれない。友人の結婚にもやもやしていると認めたら、自分が嫌な人間に思えてしまう。感じることにリスクがあるとき、心は無意識にブレーキをかけます。

「わかりやすい物語」があると、感情は動きやすい

推しの活動には、デビュー、成長、挫折、復活といった物語があります。ライブの演出や作品の構成は、感情が動くように丁寧に作られています。一方、私たちの毎日は、出来事が淡々と続き、どこが「泣くところ」なのか教えてくれる人はいません。自分の生活の感情は、自分で見つけて、自分で名前をつけるしかないのです。

推しで気持ちを「上書き」している

嫌なことがあった日に推しの動画を見て元気になる。それは、とても健全な気分転換です。ただ、毎回それだけで終わらせていると、嫌な気持ちが何だったのかを確かめる前に、上書きされてしまうことがあります。気分は回復しても、気持ちの正体は置き去りのまま。それが積み重なると、自分の気持ちに鈍くなっていくことがあります。

推しで動く心を、自分の気持ちへつなぐ橋 推し活をやめるのではなく、推し活から始める 推しの世界 安全な距離 わかりやすい物語 共感してくれる仲間 感情が動きやすい 自分の生活 感じるとリスクがある 物語がない毎日 自分で名前をつける 感情がぼんやりしやすい 感情の橋 推し感情読み・ことば帳 比喩・置き換え 推しで見つけた感情の言葉を、自分の出来事にも使ってみる
▲ 推しの世界は、安全な距離と物語があるので感情が動きやすい場所です。自分の生活は、感じることにリスクがあり、自分で名前をつける必要があるため、感情がぼんやりしやすくなります。推しで見つけた感情の言葉を、自分の出来事にも使ってみることが、二つの世界をつなぐ橋になります。

推し活をそのまま感情の練習にする4つのワーク

ここからは、『感情迷子さんの本』のワークを推し活向けにアレンジして紹介します。どれも推し活の時間の中でできるものばかり。好きなことをしながら、感情の言葉が自然に増えていくのがポイントです。

ワーク1|3秒|推し感情読み
推しや登場人物の「今の気持ち」を想像する

ワーク「キャラクター感情読み」の推し活版です。ライブ映像、MV、ドラマ、アニメを見ながら、「この瞬間、推しは何を感じている?」と3秒だけ考えます。答え合わせは不要です。「MCで少し言葉に詰まった。うれしいのと、ほっとしたのと、ちょっと照れくさいのがまざってる感じかな」。推しの表情を細かく読むのは、ファンなら得意なはず。そこで出てきた「ほっとした」「照れくさい」といった言葉が、あなた自身の感情の語彙になります。

ワーク2|30秒|推しの言葉で感情ことば帳
歌詞や推しの言葉から「私の気持ちに近い」をメモする

ワーク「感情ことば帳」は、歌詞やセリフ、誰かの投稿など、「これ、私の気持ちに近い!」と感じた言葉をスマホにメモするものです。自分で言葉を作る必要はなく、誰かの言葉を借りればいいのです。推しの歌詞やインタビューの一節、ラジオでの何気ないひと言。「刺さった」と感じた言葉には、たいていあなたの気持ちが映っています。メモに「なぜ刺さったか」を一言添えると、さらに効果的です。

ワーク3|1分|推し比喩レッスン
今日の気持ちを、推しの曲や場面にたとえる

ワーク「比喩レッスン」は、「今の気持ちは○○みたい」と何かにたとえるものです。推し活をしている人は、「今日の私は、あの曲の2番のサビ前みたい」「あのドラマの最終話直前の主人公の顔」のように、推しの作品にたとえるのがおすすめです。ぴったりのたとえを探そうとすると、自然に自分の気持ちを細かく観察することになります。ファン仲間に話すと、思いがけず深く伝わることもあります。

ワーク4|1分|もしも推しだったら
自分の出来事を、推しの身に置き換えてみる

自分のことになると感情がぼんやりするなら、「同じことが推しに起きたら、私はどう感じる?」と置き換えてみます。「推しが上司に理不尽に叱られていたら?」と考えると、「許せない」「かわいそう」「悔しかっただろうな」と、すぐに感情が湧いてくるはずです。その感情は、本当は今日のあなた自身が感じていたものかもしれません。最後に「推しにかける言葉」を、そのまま自分にかけてあげてください。

名前をつけると、心は落ち着く

神経科学者リーバーマン(Lieberman)らの2007年の研究では、感情に言葉でラベルをつけると、不安や恐れに関わる脳の扁桃体の活動が下がることが示されています。推し活で増えた感情の言葉は、自分のつらい出来事に名前をつけるときの、頼もしい道具になります。言葉の引き出しが多いほど、気持ちを正確につかまえやすくなるのです。

ファン同士のSNSコミュニティで疲れたとき

推し活の楽しさの一つは、同じ推しを好きな仲間とつながれることです。SNSで感想を言い合い、遠征先で会い、何年も続く友情が生まれることもあります。一方で、ファン同士の関係に疲れてしまうという声もよく聞きます。

  • チケットの当落やグッズの量で、比べたり比べられたりしてしまう
  • 解釈の違いで、タイムラインがぎすぎすする
  • 「にわか」「古参」といった言葉に、居心地の悪さを感じる
  • 仲間の投稿に毎回反応しないといけない気がして、疲れる
  • 本当はもやもやしているのに、「わかる!」と合わせてしまう

推しへの感情は豊かに語れるのに、ファン仲間との関係で生まれた自分の感情は、言葉にしにくい。そんなことはありませんか。「推しを好きな者どうし、仲よくしなきゃ」という思いが、もやもやを押し込めてしまうのです。

「5秒ルール」と「共感の一言」で、関係をやわらかく

『感情迷子さんの本』のワーク「5秒ルール」は、誰かの投稿や言葉に反応する前に、5秒だけ「この人は今、何を感じている?」と自分に問いかけるものです。解釈違いの投稿にむっとしたときも、5秒置いて「この人は、推しのこの場面が本当に好きなんだな」と想像してみる。それだけで、反射的な言い返しを防げます。

仲間が落ち込んでいるときには、ワーク「共感の一言」を。落選を嘆く仲間に「次があるよ」「一般で取れるかも」と励ましや情報を返す前に、「つらいね」「あんなに楽しみにしてたもんね」とひと言。わかってもらえたと感じると、人は自分で立ち直る力を取り戻します。

推しへの「好き」は語れるのに、
仲間へのもやもやは言えない。
その気持ちにも、名前をつけていい。
ファンコミュニティと上手につきあうために

「うらやましい」「置いていかれた気がする」「少し疲れた」。どれも、仲間を大切に思うからこそ生まれる自然な気持ちです。感じたことを否定せず、ときには通知を切ってひと休みすることも、推し活を長く楽しむための工夫です。

SNSとの距離の取り方は、子ども向けの記事ではありますがSNSと感情の言語化をテーマにした記事も参考になります。

推しの卒業・活動休止のロスと向き合う

推し活をしていると、いつか必ず訪れるのが、推しの卒業、グループの解散、活動休止、作品の完結です。その知らせを受けたとき、強いショックや喪失感に襲われる人は少なくありません。何も手につかない、眠れない、ふと涙が出る、何を見ても楽しくない。こうした「推しロス」は、決して大げさなことではありません。

よくある相談の典型例
「たかが推しのことで、
こんなに落ち込む自分が情けないんです」
場面8年間応援してきた俳優が、芸能活動を休止すると発表した30代の女性。発表の夜は泣き続け、翌週は仕事中も集中できなかった。周りに話すと「また新しい推しが見つかるよ」と言われ、それ以上は話せなくなった。推しの写真を見るとつらく、かといって見ないと心に穴があいたようで、どうしていいかわからない。
長い時間をかけて心を寄せてきた存在を失うのは、立派な喪失体験です。「たかが」と自分の気持ちを小さく扱うと、悲しみは行き場を失い、長引きやすくなります。

ロスの気持ちは、ひとつではない

推しロスの中には、さまざまな気持ちがまざっています。会えなくなる悲しさ、知らせが突然だったことへの驚きや怒り、もっと応援できたのではという後悔、推しの決断を応援したい気持ち、推しが中心だった毎日がなくなる不安。そして、これまでの日々への感謝。これらが一度に押し寄せるので、自分でも何を感じているのかわからなくなるのです。

推しロスの中にまざっている気持ち ひとかたまりの「つらい」を、一つずつほどいてみる 推しロス なんだかつらい 悲しさ 会えなくなる 驚き・怒り 突然すぎる 後悔 もっと応援できた 不安 毎日がからっぽに 感謝
▲ 「推しロスでつらい」というひとかたまりの気持ちの中には、悲しさ、驚きや怒り、後悔、不安、そして感謝がまざっています。一つずつ名前をつけて眺めると、気持ちの重さが少し持ち運びやすくなります。

この中で、見落とされやすいのが感謝です。悲しみが大きいときほど、感謝の気持ちは奥に隠れてしまいます。けれど、推しと過ごした時間に「ありがとう」と言える気持ちが見つかると、喪失は少しずつ、失ったものから、もらったものへと姿を変えていきます。また、「怒り」を感じる自分を責める必要もありません。大好きだったからこそ、突然の知らせに心が追いつかないのは自然なことです。どの気持ちも、推しを大切に思ってきたあなたの心から生まれたものです。

そんなときは、ワーク「3段階温度計」で、一つひとつの気持ちの強さを確かめてみてください。「悲しさはすごく」「怒りはちょっと」「感謝はそこそこ」。気持ちを分けて眺めると、ひとかたまりだった重さが、少し持ち運びやすくなります。

推しへの「ありがとうの手紙」を書く

出すあてがなくてもかまいません。推しへの手紙を書いてみましょう。出会ったときのこと、救われた言葉、一緒に過ごした(と感じた)季節。そして今の気持ちを、そのまま書きます。心理学者ペネベーカー(Pennebaker)の研究では、つらい出来事について感情も含めて書き出すことが、心身の健康によい影響を与えることが報告されています。書くことで、推しと過ごした時間を「失ったもの」から「自分の一部になったもの」へと、少しずつ置き直していけます。

推しロスは、悲しむことを自分に許したぶんだけ、やわらいでいくものです。ただし、気分の落ち込みや眠れない状態が2週間以上続く、日常生活に大きな支障が出ているという場合は、一人で抱えずに、かかりつけ医や心療内科、自治体の相談窓口に相談してください。

自分の生活の感情にも名前をつける練習

推しで感情を動かす練習ができてきたら、いよいよ自分の生活の感情にも目を向けていきましょう。いきなり大きな出来事から始める必要はありません。推し活のついでにできる、小さな一歩からで十分です。

練習1|3秒|推しを見る前の体温チェック
動画を開く前に、自分の今の気分を確かめる

ワーク「心の体温チェック」は、手のひらを胸に当てて「今、体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞くものです。推しの動画を開く前に、これをやってみてください。推しで気分を上書きする前に、今日の自分の気分を一度だけ確かめる。それだけで、気持ちの置き去りを防げます。

練習2|2分|推し日記に「私」の一行を
推しの記録の最後に、自分の気持ちを一行書く

ライブの感想やその日の推しの記録をつけている人は、最後に「今日の私」の一行を足してみましょう。「今日は仕事で疲れていたけど、配信で笑えてほっとした」「推しががんばっているのを見て、私も少し勇気が出た」。推しの記録と自分の気持ちが並ぶことで、二つの世界が少しずつつながっていきます。

練習3|5分|推しと一緒の未来日記
1年後の自分の「気持ち」を想像して書く

ワーク「未来日記」は、「1年後の私は、どんな気持ちで毎日を過ごしていたい?」と問いかけ、予定や目標ではなく感情を想像して書くものです。「1年後、推しのツアーで遠征している私は、仕事も落ち着いて、晴れやかな気持ちで新幹線に乗っている」。推しを楽しむ未来の自分を思い描くと、自分の生活で大切にしたいことも見えてきます。

中島輝より一言

カウンセリングで「何か好きなものはありますか?」と尋ねると、それまで言葉少なだった方が、推しの話になったとたん目を輝かせて話し始めることがあります。そのたびに私は、「この方の感じる力は、ちゃんと生きている」と安心するのです。好きなものを好きと言える力は、自己肯定感の木でいえば、花(自己決定感)を咲かせる力でもあります。誰に何を言われても、自分はこれが好きだと選んでいるのですから。その力を、どうか自分にも向けてあげてください。推しを大切にするのと同じ熱量で、自分を大切にしていいのです。

ひとり暮らしで推し活が生活の中心になっている方は、ひとり暮らしと感情の言語化をテーマにした記事もあわせてどうぞ。

よくあるご質問

推し活に夢中になりすぎるのは、現実逃避でしょうか?
推し活は、毎日に楽しみや張りを与えてくれる大切な時間です。それ自体を現実逃避と決めつける必要はありません。気をつけたいのは、嫌な気持ちを毎回推しで上書きして、自分の気持ちを確かめる時間がなくなっている場合です。推しを見る前に自分の気分を一度確かめる、推し日記に自分の一行を足すなど、小さな工夫で両立できます。
推しのことで泣けるのに、身内の不幸では泣けませんでした。おかしいですか?
おかしくありません。身近で大きな出来事ほど、心が自分を守るためにブレーキをかけ、感情が一時的にまひしたように感じることがあります。泣けないことは、悲しんでいないことではありません。時間がたってから、ふとした瞬間に気持ちがあふれてくることもあります。自分を責めずに、気持ちが動くのを待ってあげてください。
ファン仲間とのSNSに疲れてしまいました。やめたほうがいいですか?
やめるかどうかを急いで決める必要はありません。まず、疲れの正体に名前をつけてみてください。比べてしまうつらさなのか、反応しなければという義務感なのか、特定の人とのもやもやなのか。それによって、通知を切る、見る時間を決める、距離を置く相手を選ぶなど、対処が変わります。推しを好きな気持ちを守ることを、いちばんに考えてください。
推しの活動休止から、何か月も立ち直れません。
長く心を寄せてきた存在を失うのは、大きな喪失体験です。悲しみが長引くのは不思議なことではありません。ただ、気分の落ち込みや眠れない状態が2週間以上続く、仕事や生活に大きな支障が出ている場合は、かかりつけ医や心療内科、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)などに相談してください。気持ちを話せる相手がいるだけでも、心は少し軽くなります。
推しの前で泣けるあなたは、
感じる力をちゃんと持っている。
その力を、少しずつ自分にも。
推し活は、感情を取り戻すための最高の練習場。
推しを大切にするのと同じ熱量で、自分を大切に。

自分を大切にしよう

推しの前では泣けるのに、自分のことでは泣けない。それは冷たいからでも、現実逃避だからでもありません。推しは安全な距離にいて、わかりやすい物語があり、共感してくれる仲間もいる。だからこそ心は安心して動けます。一方、自分の生活の感情は、感じることにリスクがあり、自分で名前をつけなければなりません。推しの前で動く心は、あなたの感じる力が生きている証拠です。

その力を、自分にも向けていきましょう。推しの気持ちを想像する推し感情読み、歌詞から集める感情ことば帳、推しの作品にたとえる比喩レッスン、自分の出来事を推しに置き換える「もしも推しだったら」。ファン仲間との関係でもやもやしたら、5秒ルールと共感の一言を。推しの卒業や活動休止のロスには、気持ちを分けて眺め、ありがとうの手紙を書いてみてください。そして、推しを見る前に、自分の今日の気分を一度だけ確かめる習慣を。

推しを好きでいられるあなたは、好きなものを自分で選び、全力で大切にできる人です。その熱量を、どうか自分にも分けてあげてください。自分を大切にしよう。推しに向けていた「がんばったね」「ありがとう」を自分にもかけられるようになったとき、推し活はもっと楽しく、毎日はもっとあなたらしいものになっていきます。

ひとりで抱えないで(相談先の例)
かかりつけ医・心療内科、自治体の保健センター
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
厚生労働省「まもろうよ こころ」(SNSやチャットの相談先を探せる)
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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