ひとり親で「弱音を吐く暇がない」あなたへ
ひとりで抱えないための感情の言語化
朝6時に起きて、お弁当を詰め、子どもを送り出してから職場へ走る。夕方はお迎え、夕食、宿題、お風呂、明日の準備。子どもが寝たあと、洗濯物をたたみながら、ふと手が止まる。「私、今日、何を感じていたんだろう」。疲れているはずなのに、つらいのかどうかもよくわからない。弱音を吐く暇がないうちに、弱音の言葉そのものを見失ってしまうことがあります。シングルマザー、シングルファーザーとして毎日を回しているあなたへ。ひとりで抱え込まないための、感情の言葉の取り戻し方をお伝えします。
弱音を吐く暇がない毎日
やることを一つでも片づけたいんです」
厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」(令和3年度)によると、日本の母子世帯は約119.5万世帯、父子世帯は約14.9万世帯と推計されています。それだけ多くの人が、仕事と家事と育児を、ひとりで、あるいはほとんどひとりで担っています。
ひとり親の毎日は、段取りの連続です。次は何をする、その次は何をする。頭はいつも「やること」でいっぱいで、「自分はどう感じているか」に注意を向ける時間がほとんどありません。しかも、立ち止まって感じてしまうと、崩れてしまいそうで怖い。だから、感じないようにして走り続ける。それは、子どもと生活を守るための、まっとうな生き抜き方です。
ただ、その状態が何年も続くと、自分の気持ちが自分でもわからなくなっていきます。この記事では、それを責めるのではなく、後回しにしてきた気持ちを、少しずつ言葉にして取り戻していく方法を考えていきます。
感情迷子さんとは|後回しにした気持ちはどこへ行くのか
心理学にはアレキシサイミア(失感情症)という言葉があります。自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態のことです。感情がないのではなく、感じてはいるけれど、それをつかまえて言葉にするところで流れが細くなっている状態を指します。一般の人の約10〜16%に強い傾向があるとされ、病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。DSM-5やICD-11でも独立した診断名にはなっていません。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。
中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。もともとの特性だけでなく、強いストレスや、感情を後回しにせざるをえない生活が続くことで、一時的に感情迷子さんになることもあります。
気持ちは消えずに、体に出てくる
後回しにした気持ちは、消えてなくなるわけではありません。言葉にされないまま心の中にたまり、やがて体のサインとして出てくることがあります。
- 寝つけない、夜中に目が覚める、朝起きても疲れが残っている
- 肩こり、頭痛、胃の不調がずっと続いている
- 子どもの小さな失敗に、思った以上に強く怒ってしまう
- 休日になると何もする気が起きない
- 好きだったことを、楽しいと感じなくなった
- 「つらい?」と聞かれても、よくわからない
『感情迷子さんの本』には、30代の会社員アカネさん(仮名)の例が紹介されています。アカネさんはひとり親ではありませんが、職場でも家庭でも「大丈夫」「問題ありません」を繰り返し、体に不調が出るまで自分の限界に気づけなかったそうです。ワークに取り組んで数か月後、アカネさんは「今日は疲れてイライラしているから家事をサボるとか早めに休むといったことを、自分に許可を出せるようになりました」と話しています。気持ちがわかると、自分に必要なものがわかる。必要なものがわかると、人に頼れるようになる。ひとり親にとって、これはとても大切な流れです。
気持ちがわかると、必要なものがわかる。
必要なものがわかると、人に頼れる。
感情の言語化は、ひとりで抱えないための第一歩。
子どもの前で泣けないあなたへ
「子どもの前では泣いてはいけない」「親が弱いところを見せたら、子どもが不安になる」。ひとり親の多くが、そう考えて踏んばっています。自分しかいない。自分が崩れたら、この子はどうなるのか。その責任感は、子どもへの深い愛情から来ています。
けれど、泣かないようにすることと、悲しみを感じないようにすることは、いつのまにか一つになってしまいがちです。泣かないために、悲しいという気持ちそのものにふたをする。そのふたを何年も閉め続けると、悲しみだけでなく、うれしさや楽しさまで感じにくくなることがあります。感情は、一部分だけを止めることが難しいのです。
「泣く」と「伝える」は違う
子どもの前で大泣きする必要はありません。けれど、気持ちを短い言葉で伝えることは、子どもを不安にさせるどころか、安心させることがあります。たとえば、こんなふうにです。
| よくある言い方 | 気持ちを伝える言い方 |
|---|---|
| (無言で家事を続ける) | 「今日はお母さん、ちょっと疲れてるんだ。だから夕ごはんは簡単にするね」 |
| 「なんでもない、大丈夫」 | 「仕事でいやなことがあって、少しもやもやしてる。あなたのせいじゃないよ」 |
| (イライラを我慢して爆発する) | 「今、お父さん、イライラしてきた。5分だけベランダで深呼吸してくるね」 |
| 「平気だよ」 | 「さみしいなって思う日もあるよ。でも、あなたと一緒にいられてうれしい」 |
ポイントは、気持ちの名前と、子どものせいではないこと、そしてこれからどうするかをセットで伝えることです。子どもは親の様子の変化に敏感です。何も言われないほうが「自分のせいかな」と不安になります。短い言葉で伝えてもらえると、子どもは「お母さんにも、お父さんにも、そういう気持ちがあるんだ」「気持ちは言葉にしていいんだ」と学んでいきます。
そして、本当に泣きたいときのために、子どもの前ではない「泣ける場所」を一つ持っておきましょう。通勤の車の中、お風呂、子どもが寝たあとの台所。泣くことは、弱さではなく、たまった気持ちを外に出す大切な働きです。
窓口や周囲の目に感じる気後れ
ひとり親が気持ちを言葉にしにくい理由は、忙しさだけではありません。周りの目や、制度の窓口で感じる気後れも、気持ちを飲み込ませます。
なぜか『すみません』ばかり言っていました」
手当や支援の窓口で、自分の事情を説明する。学校の書類の「保護者」欄で手が止まる。保護者会で、家族の話題になる。「ひとり親だから」と思われたくなくて、つい頑張りすぎる。こうした小さな気後れの積み重ねは、「自分の事情や気持ちは、人に言わないほうがいい」という思い込みにつながっていきます。
けれど、制度や支援は、使う権利のある人が使うためにあります。窓口で気後れを感じたら、その気持ちを否定せず、「今、私は気後れしているな」と心の中で名前をつけてみてください。名前がつくと、気持ちに飲み込まれにくくなります。神経科学者リーバーマン(Lieberman)らの2007年の研究では、感情を言葉でラベリングすると、不安や恐れに関わる脳の扁桃体の活動が落ち着くことが示されています。
窓口に行く前に、聞きたいことをメモにしておくのも一つの方法です。そこに一行、「緊張しているので、ゆっくり説明してもらえると助かります」と書いておき、最初に伝えてみる。気持ちを一言添えるだけで、窓口とのやりとりがずいぶん変わることがあります。
「お母さん(お父さん)を困らせたくない」子どもの沈黙
ひとり親家庭で気をつけたいのが、子どもが親を気づかって、自分の気持ちを言わなくなることです。毎日忙しく働く親の姿を見ている子どもは、とても敏感です。「お母さんは疲れているから、学校でいやなことがあったのは言わないでおこう」「お父さんを困らせたくないから、さみしいとは言わない」。子どもなりの、精いっぱいのやさしさです。
- 「学校どうだった?」に、いつも「ふつう」「楽しかった」としか言わない
- 欲しいものや行きたい場所を言わなくなった
- 親の顔色を見て、先回りして手伝いをする
- 別れて暮らす親の話を、まったくしなくなった
- 腹痛や頭痛で、朝起きられない日が増えた
- きょうだいの世話を、自分から引き受けている
「しっかりした子」「手のかからない子」と言われる子ほど、気持ちを飲み込んでいることがあります。気持ちを言わないことが続くと、子ども自身も自分の気持ちがわからなくなっていくことがあるのです。
ここで起きているのは、親と子が互いを思いやるからこそ生まれる、「気づかいの連鎖」です。親は子どもを不安にさせまいと気持ちを飲み込む。子どもはその親を見て、親を困らせまいと気持ちを飲み込む。どちらも相手のためを思っているのに、家の中から気持ちの言葉が少しずつ消えていきます。逆にいえば、親が先に小さく気持ちを言葉にすれば、この連鎖は反対向きに回り始めます。
中島輝より一言
私は里親のもとで育ちました。5歳のとき、その里親が夜逃げをして、私は幼い心で「自分のつらさを人に見せてたまるか」と決め、感情を出すのをやめました。まわりの大人に迷惑をかけないこと、困らせないことが、子どもの私にとって生き延びる方法だったのです。だからこそ、親を気づかって黙る子の気持ちが、私には痛いほどわかります。そうした子に必要なのは、「あなたの気持ちを聞いても、私は困らないよ」と、大人のほうから伝えてもらうことです。その一言が、子どもの心のふたを、少しだけ開けてくれます。
子どもの気持ちを受けとめる準備
大切なのは、子どもを「もっと話しなさい」と責めることではありません。親が先に自分の気持ちを短く言葉にしてみせ、「あなたの気持ちも聞きたいな」と伝えることです。そして、子どもが話してくれたら、アドバイスより先に「そうだったんだ」「話してくれてありがとう」と受けとめる。それが続くと、子どもは「言っても大丈夫なんだ」と感じられるようになります。
別れて暮らす親のことや、亡くなった親のことを子どもが話題にしたときは、親として複雑な気持ちになるかもしれません。それでも、子どもがその親への気持ちを話せる余地を残しておくことが、子どもの心の安定につながります。
すきま時間でできる感情の言語化ワーク
「ワークをする時間なんてない」。ひとり親なら、そう思うのが当然です。そこで、『感情迷子さんの本』第4章のワークから、数秒から1分でできるものを、ひとり親の毎日に合わせて選びました。
信号待ちで胸に手を当てる
手のひらを胸に当てて、「今、自分の体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞きます。答えは「温かい」「冷たい」「よくわからない」のどれでもかまいません。原稿では朝起きたとき、昼食後、夜寝る前の1日3回をすすめていますが、ひとり親の方にはお迎えに向かう信号待ちや、子どもを寝かしつけたあとの布団の中がおすすめです。体に聞くことが、感情に気づく第一歩になります。
スマホのメモに「今日の音」を一つ
1日1回、今の気分をオノマトペでメモします。「ぐったり」「ほっ」「もやもや」「カリカリ」。正しい感情語を探す必要はありません。「お迎えに遅れそう、ヒヤヒヤ」「子どもが笑った、ほわっ」のように、出来事と一緒に書けば、それだけで立派な日記になります。
「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さをつける
感じた気持ちに、「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で強さをつけます。「疲れた」は、ちょっと疲れたのか、すごく疲れたのか。「すごく」が何日も続いていたら、それは助けを求めていいサインです。気持ちの強さがわかると、休むべきときもわかるようになります。
寝る前に、気持ちだけを書く
出来事ではなく、感情だけを日記に書くワークです。「今日は朝バタバタで焦った。昼は上司に褒められてうれしかった。夜は宿題でイライラした」。誰に見せるものでもないので、きれいに書く必要はありません。アメリカの社会心理学者ペネベーカー(Pennebaker)らが研究してきたエクスプレッシブ・ライティングのように、気持ちを紙に書き出すことで、心が整理されることが知られています。
子どもと気持ちを言い合う小さな習慣
自分の気持ちに少しずつ気づけるようになったら、子どもとも気持ちを言い合う習慣をつくってみましょう。時間がかからず、ひとり親家庭でも続けやすいものを紹介します。
夕食の「今日のお天気」
夕食のときに、家族それぞれが「今日の気分をお天気でいうと?」を言い合います。「晴れのち曇り」「ずっと雨」「ちょっとだけ雷」。『感情迷子さんの本』の「比喩レッスン」でも、気分を天気でたとえるのはとくにやりやすいと紹介されています。親も必ず参加して、「お母さんは曇り。仕事でちょっと疲れた」と言ってみてください。親が先に言うことで、子どもも言いやすくなります。
寝る前の「よかったこと・もやもやしたこと」
寝かしつけの時間に、「今日よかったこと一つ、もやもやしたこと一つ」を言い合います。もやもやを話してくれたら、解決しようとせず、「そうだったんだ。もやもやしたね」と気持ちをくり返すだけで十分です。『感情迷子さんの本』のワーク「共感の一言」のように、正しいことを言いたくなってもいったんこらえて、共感のひと言を先に出します。
完璧な親でなくていい。
「今日はちょっと疲れた」と言える親のそばで、
子どもは「気持ちを言っていい」と学んでいく。
こうした習慣は、毎日できなくてもかまいません。週に1回でも、気が向いたときだけでも大丈夫です。大切なのは、「この家では、気持ちを言葉にしていい」という空気を、少しずつ育てていくことです。
ひとりで抱えないための地域の支え
感情の言語化の目的は、自分ひとりで気持ちを処理できるようになることではありません。自分の気持ちがわかって、人に「助けて」と言えるようになることです。ひとり親を支える仕組みは、地域にいくつもあります。
| 支え | どんなときに |
|---|---|
| 自治体のひとり親相談窓口 | 手当、就労、住まい、養育費など、生活全般の相談。どこに聞けばいいかわからないときの入口になる |
| 母子・父子自立支援員 | 福祉事務所などに配置され、ひとり親の生活や仕事の悩みに寄り添って相談にのってくれる |
| ファミリー・サポート・センター | 保育園の送迎や、急な残業時の預かりなど、地域の会員どうしで子育てを助け合う |
| 子ども食堂・学習支援 | 子どもが安心して過ごせる場所、親がひと息つける場所。同じ立場の親と出会えることもある |
| こども家庭センターなどの子育て相談 | 子どもの様子が気になるとき、育児に疲れたときに相談できる |
窓口に電話するのは、気が重いものです。そんなときは、さきほどの3段階温度計を使ってみてください。「すごく疲れた」「すごく不安」が何日も続いているなら、それは相談していいサインです。「こんなことで相談していいのかな」と迷う段階で、相談してかまいません。
子ども食堂は、子どもの居場所であると同時に、親にとっても地域とゆるやかにつながる場になります。子どもの気持ちの言葉を育てる場としての子ども食堂については、子ども食堂で「おいしい」も「ありがとう」も言わない子へ|地域の居場所づくりと感情の言語化でも紹介しています。
ひとりで抱えないで(相談先の例)
お住まいの市区町村のひとり親相談窓口・母子父子自立支援員
ファミリー・サポート・センター(市区町村)
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(子ども本人も相談できます)
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ
よくあるご質問
それだけ必死に守ってきたから。
今日は3秒だけ、自分の気持ちに。
子どもも「気持ちを言っていい」と学んでいきます。
自分を大切にしよう
仕事、家事、育児をひとりで担うひとり親は、自分の気持ちをいつも後回しにしがちです。それは、子どもと生活を守るための、まっとうな生き抜き方でした。ただ、気持ちを感じる余裕がない状態が長く続くと、つらさが言葉になる前に、眠れなさや体の不調として出てくることがあります。子どもの前で泣けない。窓口で気後れする。子どもも親を気づかって、気持ちを言わなくなる。そうした積み重ねの中で、親も子も感情迷子さんになっていくことがあるのです。
取り戻す方法は、小さなことから始められます。信号待ちの心の体温チェック、スマホに書く今日のオノマトペ、3段階温度計、寝る前の感情だけ日記。子どもには、気持ちの名前と「あなたのせいじゃない」をセットで伝え、夕食の「今日のお天気」で気持ちを言い合う。そして、「すごく」が続いたら、それは誰かを頼っていいサインです。自治体のひとり親相談、母子・父子自立支援員、ファミリー・サポート・センター、子ども食堂。地域には、あなたを支える仕組みがあります。
毎日を回しているあなたは、それだけで十分に頑張っています。だからこそ、あなた自身の「疲れた」「さみしい」「うれしい」にも、ていねいに名前をつけてあげてください。自分を大切にしよう。自分の気持ちを大切にする親の姿は、子どもにとって、自分の気持ちを大切にしていいという、何よりの手本になります。
ひとりで抱えないで
市区町村のひとり親相談窓口・母子父子自立支援員
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Lieberman, M.D., et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
- 厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。






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