「大丈夫です」と玄関を閉める人に寄り添う|民生委員・見守り活動と感情の言語化

「大丈夫です」と玄関を閉める人に寄り添う|民生委員・見守り活動と感情の言語化

「大丈夫です」と玄関を閉める人に寄り添う
民生委員・見守り活動と感情の言語化

呼び鈴を押して数十秒。少しだけ開いたドアの向こうから、「大丈夫です、何もいりませんから」。そう言われて、閉まるドアの前で立ちつくす。郵便受けには新聞が3日分たまっていたのに――。民生委員や地域の見守り活動を続けている方なら、こうした経験が一度や二度ではないはずです。「大丈夫です」は、本当に大丈夫だという意味とは限りません。気持ちを言葉にできない人、言葉にすることを恐れている人の、精いっぱいの返事であることがあります。そして、帰り道に胸に残る「私では役に立てない」という重さも、言葉にされないまま積もっていきます。見守る相手と、見守るあなた自身。その両方の感情に、そっと名前をつけていきましょう。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論:「大丈夫です」は拒絶ではなく、自分を守るための言葉

最初に結論をお伝えします。訪問先で返ってくる「大丈夫です」「何もいりません」は、多くの場合、あなたを拒んでいる言葉ではありません。その人が、自分の中にある不安や恥ずかしさ、さみしさを言葉にできないとき、あるいは言葉にしたら崩れてしまいそうなときに、自分を守るために使う言葉です。

ですから、見守り活動で大切なのは、「大丈夫です」を突破して本音を聞き出すことではありません。「大丈夫です」と言える関係を保ちながら、言葉以外のサインに目を配り、必要なときにつなぐこと。そして、思うように関われない自分を責めすぎないことです。この記事では、その具体的な方法をお伝えします。

よくあるご相談の典型例
「何度行っても『大丈夫』と言われます。
私の訪問は迷惑なんでしょうか」
場面70代の女性。民生委員になって2期目。担当地区に、妻を亡くしてひとりで暮らす80代の男性がいる。月に一度訪ねるが、いつもインターホン越しに「大丈夫です」とだけ言われる。最近、庭の草が伸び放題になり、夜に電気がついていない日もある。気になるが、これ以上踏みこむと嫌われる気がして、どうしてよいかわからない。
この方の迷いの中には、「この人を放っておけない」という心配と、「迷惑だと思われたくない」という不安、そして「何もできていない」という無力感が同時にありました。相手の男性もまた、妻を亡くした悲しみや、人の手を借りることへの抵抗を言葉にできずにいるのかもしれません。玄関のドアをはさんで、二人の感情迷子さんが向きあっているのです。

このように、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はちゃんと動いているのに、言葉にたどり着く前に迷子になっている状態です。私はこれを「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とはの記事でくわしく解説しています。

とくに高齢の方は、配偶者との死別や病気、退職、体力の衰えといった喪失が重なる時期にいます。大きな喪失のあと、心を守るために感情が平板になる状態は「2次性アレキシサイミア」と呼ばれ、『心身症の診断と治療』でも紹介されています。また、いまの80代、90代の男性には「男は弱音を吐くな」と言われて育った方が多く、悲しみやさみしさを言葉にする回路がもともと細いこともあります。「大丈夫です」しか言わないのは、ほかの言葉が見つからないからなのかもしれません。

「大丈夫です」は、閉ざされた扉ではない。
言葉が見つからない人の、
いまできる精いっぱいの返事です。

数字で見る、民生委員と見守りの現場

民生委員は、民生委員法にもとづいて厚生労働大臣から委嘱される、非常勤の特別職の地方公務員です。給与は支給されない無報酬の立場で、児童福祉法により児童委員も兼ねています。任期は3年。担当する地区の住民の相談にのり、必要な支援につなぐ「地域のつなぎ役」です。全国に20万人以上の委員がいる一方で、なり手不足が各地で大きな課題になっています。

数字・研究で見るわかっていること
20万人以上
民生委員・児童委員
全国で地域の見守りと相談を担う委員の規模。無報酬で、なり手不足や委員の高齢化が課題になっている。
約4割
内閣府「人々のつながりに関する基礎調査」
孤独感が「ある」と答えた人の割合。訪問先の人だけでなく、見守る側の委員も孤独を感じていることがある。
約10人に1人
(研究により約10〜16%)
一般の人のうち、感情を言葉にしにくい傾向(アレキシサイミア傾向)が強い人の割合。担当地区にも、言葉で困りごとを伝えにくい人は必ずいる。
1983年
ホックシールド『管理される心』
社会学者ホックシールドが、仕事として感情を管理する「感情労働」を示した。無報酬の見守り活動にも、相手を不安にさせないよう自分の感情を抑える感情労働がある。

民生委員の仕事は、相談を受けることだけではありません。行政からの調査への協力、高齢者や子育て家庭の見守り、地域の会合への出席など、多岐にわたります。そのうえで、相手の前では穏やかな表情を保ち、心配や戸惑いを表に出さないことが求められます。ホックシールドが示した感情労働は、報酬の有無に関係なく、人の心をすり減らすことがあります。

つまり見守りの現場では、見守られる人の「言葉にならない感情」と、見守る人の「表に出せない感情」が、同時に存在しているのです。この記事が両方を扱うのは、そのためです。

玄関先の「大丈夫です」の下にある感情

「大丈夫です」の一言の下には、どんな感情があるのでしょうか。カウンセリングで、ひとり暮らしの高齢の方や、困りごとを抱えた方が少しずつ言葉にしてくださった気持ちを整理すると、次のようなものが多く見られます。

感情1
恥ずかしさ・情けなさ

部屋が片づいていない、身なりを整えられていない、お金に困っている。「こんな姿を人に見られたくない」という恥ずかしさは、人を玄関から遠ざける大きな理由です。とくに、かつて地域で役を務めていた方や、人の世話をする側だった方ほど、助けられる側になることに強い抵抗を感じます。

感情2
迷惑をかけたくない気持ち

「民生委員さんも忙しいのに」「子どもに知られたら心配をかける」。人に負担をかけることへの申し訳なさが、助けを求める言葉をのみこませます。この気持ちは遠慮深さの表れであると同時に、「迷惑をかける自分には価値がない」という思いにつながっていることもあります。

感情3
不安・警戒心

「何か調べられるのではないか」「施設に入れられるのではないか」。見知らぬ人が訪ねてくることへの警戒は、詐欺や悪質な訪問販売が多い時代にあって、自然な反応でもあります。民生委員という立場が十分に知られていないと、善意の訪問が不安を呼び起こすことがあるのです。

感情4
悲しみ・さみしさ(とその麻痺)

配偶者や友人を亡くした悲しみ、家族と疎遠になったさみしさ。あまりに大きな感情は、心を守るために感じないように閉じこめられることがあります。本人に聞いても「別に、さみしくはない」と答えるかもしれません。それは強がりではなく、本当に感じられなくなっているのかもしれません。

大切なのは、これらの感情を訪問する側が「当てよう」としないことです。「本当はさみしいんでしょう」と言われると、人はかえって心を閉ざします。感情に名前をつけるのは、相手が自分のペースでするもの。見守る側にできるのは、「そういう気持ちがあってもおかしくない」と心の中で想像しながら、急がずに関係を続けることです。

言葉以外のサインを見る|郵便受け・洗濯物・身なり

言葉で気持ちを伝えにくい人ほど、暮らしの様子や体に、言葉にならない状態が表れます。民生委員や見守りボランティアは、医師でも専門職でもありません。だからこそ、診断するのではなく「いつもと違う」に気づく目を持っていることが、大きな力になります。

  • 郵便受けに新聞やチラシが何日分もたまっている
  • 洗濯物が何日も干したまま、または全く干されなくなった
  • 夜になっても電気がつかない、逆に一日中ついている
  • 庭やベランダの手入れが急にされなくなった、ゴミが出されていない
  • 季節に合わない服装をしている、身なりや髪が整っていない
  • 以前より痩せた、顔色が悪い、足取りが不安定になった
  • 同じ話を何度もする、約束を覚えていないことが増えた
  • 「もういつ死んでもいい」「生きていても仕方ない」といった言葉が出る

これらのサインは、それだけで何かを決めつけるものではありません。旅行に出ているだけかもしれませんし、もともとそういう暮らし方の人もいます。大切なのは、「前と比べてどう変わったか」を見ることです。そのためにも、元気なときの様子を知っておくことが、見守りのいちばんの土台になります。

言葉にならない気持ちが表れる3つの場所 「何と言ったか」より「前と比べて何が変わったか」を見る 家のまわり 郵便受け・新聞 洗濯物・電気 庭・ゴミ出し 生活のリズムの変化 体と身なり 服装・髪・におい 痩せ・顔色 足取り・表情 自分をいたわる力の変化 言葉の調子 声の小ささ・間 同じ話のくり返し あきらめの言葉 気持ちの変化 気づいたら、ひとりで判断しない 地域包括支援センター・社会福祉協議会・行政へ相談
▲ 気持ちを言葉にしにくい人の変化は、家のまわり、体と身なり、言葉の調子に表れやすくなります。気づいたことはメモに残し、ひとりで判断せずに専門の窓口へ相談しましょう。

気づいたことは、日付と事実だけを短くメモしておくと役立ちます。「10月3日、新聞3日分。インターホン越しの声が小さい」。感情や推測を入れずに事実を残しておくと、地域包括支援センターなどに相談するとき、状況が正確に伝わります。

拒否には目的がある|アドラーの目的論で読みとく

私はカウンセリングで、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の心理学をベースにしてきました。アドラー心理学の大きな特徴の一つが目的論です。人の行動や感情は、過去の原因によって決まるのではなく、「何のために」という目的に向かって使われている、という考え方です。

この目的論で「大丈夫です」という拒否を見直すと、見え方が変わります。「なぜ拒否するのか」と原因を探すと、「性格が頑固だから」「人嫌いだから」という結論になりがちです。けれど「何のために拒否しているのか」と目的を考えると、その人が守ろうとしているものが見えてきます。

拒否の言葉その目的として考えられること
「何もいりません」助けられる側になることで、これまでの自分の姿(しっかり者、人の世話をする側)が崩れるのを防ぐ
「家族がいるから大丈夫」家族と疎遠になっていることを知られず、恥ずかしさから身を守る
「放っておいてください」自分の暮らしを自分で決める自由を守る。施設や入院を勧められる不安から距離をとる
(居留守を使う)人と会う疲れから身を守る。悲しみに触れられたくない

目的が見えると、関わり方も変わります。たとえば「自分の姿を守りたい」という目的があるなら、助ける・助けられるという縦の関係ではなく、「教えてください」「ご意見を聞かせてください」という横の関係で接するほうが、相手は扉を開けやすくなります。「この地区は昔どんな様子でしたか」と、相手の経験に敬意を払う問いかけは、恥ずかしさではなく誇りに触れる言葉です。

「助けに来ました」より「顔を見に来ました」
横の関係の声かけ

アドラー心理学では、人を上から評価したり導いたりする縦の関係ではなく、対等な横の関係を大切にします。「何かお困りのことはありませんか」は、相手を「困っている人」と位置づける言葉にもなりえます。「近くまで来たので、お顔を見に寄りました」「寒くなりましたね」。用件のない声かけのほうが、相手の自尊心を守りながら関係を続けられます。

背負いすぎない見守り|課題の分離と「つなぐ」役割

見守り活動を熱心に続ける方ほど、陥りやすいのが「この人の人生を、私がなんとかしなければ」という思いです。その責任感はとても尊いものですが、続けるうちに心と体をすり減らしてしまうことがあります。

課題の分離|「それは誰の課題か」

アドラー心理学には課題の分離という考え方があります。ある問題について「その結末を最終的に引き受けるのは誰か」を考え、自分の課題と相手の課題を分けて整理する方法です。岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』で広く知られるようになりました。

見守りに当てはめると、支援を受け入れるかどうか、どう暮らすかを決めるのは、最終的にはその人自身の課題です。民生委員の課題は、相手を変えることではなく、気にかけていることを伝え、必要なときに適切な窓口へつなぐこと。この線引きができると、「何度訪ねても扉を開けてもらえない」ことを、自分の失敗として背負わずにすみます。

見守りにおける「課題の分離」 相手の人生を背負わず、でも手は離さない 見守られる本人の課題 支援を受け入れるかどうか どこで、どう暮らすか 気持ちを話すかどうか、いつ話すか → 本人のペースを尊重する 民生委員・見守る人の課題 気にかけていると伝え続ける 変化に気づき、事実を記録する 必要なときに専門の窓口へつなぐ → ここに力を注ぐ 例外:命や健康に危険があると感じたとき 本人の同意を待たず、地域包括支援センター・119番・110番へ
▲ 支援を受けるかどうか、どう暮らすかは本人の課題です。見守る人の課題は、気にかけ続け、変化に気づき、つなぐこと。ただし命や健康に危険があるときは、迷わず専門機関に連絡します。

ただし、課題の分離は「放っておく」ことではありません。命や健康に危険があると感じたときは、ためらわず専門機関につなぐ。それは相手の課題に踏みこむことではなく、地域のつなぎ役としてのあなたの課題です。

つなぐ先を知っておく

つなぐ先1
地域包括支援センター

高齢の方の暮らし・介護・健康・権利を守るための総合相談窓口で、市区町村ごとに設置されています。「最近、様子が気になる高齢の方がいる」という段階で相談してかまいません。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が対応します。

つなぐ先2
社会福祉協議会

地域福祉の推進役で、見守りネットワークやボランティア活動、生活に困ったときの相談などを担っています。民生委員の活動とも深く関わる窓口です。年齢を問わず、暮らしの困りごと全般について相談先を一緒に考えてくれます。

つなぐ先3
行政の担当課・緊急時の通報

子育て家庭や障害のある方のことは市区町村の担当課へ。倒れているかもしれない、応答がなく異変があるといった緊急時は、迷わず119番・110番に通報してください。民生委員がひとりで鍵を開けたり、家に入ったりする必要はありません。

「もう死んでもいい」と言われたら

訪問の中で、「もういつ死んでもいい」「生きていても仕方がない」といった言葉を聞くことがあります。こうした言葉は、つらさを伝えるSOSとして受けとめてください。「そんなこと言わないで」と打ち消したり、聞かなかったことにしたりせず、「そう思うくらい、つらいんですね」と受けとめ、ひとりで抱えこまずに、地域包括支援センターや行政、かかりつけ医などにすぐ相談することが大切です。アレキシサイミアがこうした気持ちの原因というわけではありません。ただ、つらさを言葉にしにくい人のSOSは、周りに届きにくいのです。助けを求めることは、本人にとっても委員にとっても、弱さではありません。

こころの相談先
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・いのちSOS 0120-061-338
・厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
・命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

委員自身の無力感を言葉に|自己有用感と自己信頼感

ここからは、見守るあなた自身の感情の話です。民生委員や見守りボランティアの方からよく聞くのが、「私では何の役にも立てていない」という言葉です。何度訪ねても扉が開かない。つないだ先で支援が進まない。ある日、担当していた方が入院したと人づてに聞く。そのたびに、言葉にならない重さが心に残ります。

この重さをそのままにしておくと、やがて「民生委員なんて引き受けなければよかった」という思いや、訪問が近づくと気が重くなる、眠れないといった形で表に出てきます。無力感は、放っておくと静かに心を蝕む感情です。だからこそ、言葉にしてあげる必要があります。

6つの感で見る、委員の心

自己肯定感の「6つの感」は、木にたとえると、根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感です。見守り活動では、とくに2つの感が揺らぎやすくなります。

実|自己有用感
「役に立てている」という感覚

見守りは、成果が目に見えにくい活動です。扉が開かなくても、あなたが月に一度訪ねていることで、「誰かが気にかけてくれている」という事実がその人の暮らしに残っています。アドラー心理学では、貢献感は他人からの評価ではなく、自分が役に立てたと感じられることで得られるとされます。「今日も顔を見に行けた」「異変がないことを確かめられた」。それも立派な貢献です。

葉|自己信頼感
「自分の判断を信じていい」という感覚

「あのとき、もっと強く声をかけていれば」という後悔は、自己信頼感を揺らします。けれど、見守りの場で正解の関わり方は一つではありません。その時点で知っていたこと、できたことの中で、あなたは精いっぱい判断してきたはずです。自分の判断を責めるより、「次はここを見てみよう」と学びに変えることが、葉を茂らせることにつながります。

中島輝より一言

人のために動ける方ほど、自分の感情を後回しにします。見守り活動を続ける方のご相談を受けていると、「相手のつらさ」は細やかに語れるのに、「自分のつらさ」になると急に言葉が少なくなることに気づきます。それは、あなたが冷たいからではなく、相手を優先する習慣が身についているからです。どうか、帰り道にひとつだけ、「今日の私は、どんな気持ちだった?」と自分にも聞いてあげてください。

訪問で使える声かけと、委員同士の振り返り

最後に、訪問の場面と、委員自身の振り返りに使える工夫を紹介します。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で紹介しているワークを、見守りの現場に合わせて作り直したものです。

訪問の場面で

声かけ1|答えなくていい言葉
天気・季節・地域の話から

「急に冷えてきましたね」「今年は柿がよくなっていますね」。答えを求めない言葉は、気持ちを言葉にしにくい人にとって負担がありません。用件ではなく、関係そのものを続けるための声かけです。

声かけ2|体から聞く
「よく眠れていますか」「食事はとれていますか」

「お気持ちはどうですか」と聞かれても、感情迷子さんは答えにくいものです。睡眠や食事など、体のことから聞くと答えやすくなります。体の状態は気持ちの状態を映す鏡でもあります。

声かけ3|選べる言葉
「何かあったら」より「この番号に」

「何かあったら言ってくださいね」は、何かを言葉にできない人には使いにくい言葉です。連絡先を書いたメモを渡す、「次は〇日ごろに寄りますね」と予告する。具体的な手がかりを残すと、相手は自分のタイミングで手をのばせます。

委員自身の振り返り

振り返り1|訪問のあと・3秒
「心の体温チェック」

訪問から帰ったら、自分の心の温度を「温かい・ふつう・冷えている」で確かめます。冷えている日が続いたら、疲れがたまっているサイン。予定を詰めすぎていないか見直してください。

振り返り2|定例会で・5分
委員同士で「気持ち」も共有する

民生委員の定例会や地区の集まりでは、ケースの報告が中心になりがちです。そこに「その訪問で、自分はどんな気持ちだったか」を一言添える時間をつくってみてください。「扉が開かなくて、さみしかった」「つないだあと、ほっとした」。同じ立場の仲間に気持ちを言葉にすると、無力感はひとりで抱えるものではなくなります。ただし、個人が特定される情報の扱いには十分に気をつけ、守秘のルールの中で行いましょう。

振り返り3|夜に・2分
「感情だけ日記」で、抱えたものを下ろす

寝る前に、その日の出来事ではなく感情だけを3つ書き出します。「心配」「もどかしい」「でも、声が聞けてよかった」。書くことで、心にのせたままだったものを少し下ろせます。

見守り活動は、ひとりでするものではありません。担当地区の委員同士、地域包括支援センターや社会福祉協議会の職員、自治会の役員とも、日ごろから顔の見える関係をつくっておくことが、委員自身を守ることにもなります(地域の会合での感情の扱い方は、自治会・町内会と感情の言語化でくわしく書いています)。

よくあるご質問

何度訪ねても「大丈夫です」と言われます。訪問をやめたほうがいいでしょうか。
すぐにやめる必要はありません。訪問の頻度や時間を短くする、手紙やメモでの声かけに切り替えるなど、相手の負担が少ない形を探してみてください。「気にかけている人がいる」と伝わり続けることに意味があります。気になる変化があれば、地域包括支援センターなどに相談し、関わり方を一緒に考えてもらいましょう。
「本当は困っているのでは」と思っても、どこまで踏みこんでいいかわかりません。
支援を受けるかどうかを決めるのは、最終的にはご本人です。委員にできるのは、気にかけていることを伝え、必要なときに専門の窓口へつなぐことです。ただし、命や健康に危険を感じたときは、本人の同意を待たずに専門機関や119番・110番へ連絡してください。判断に迷うときは、ひとりで決めずに相談するのがいちばんです。
訪問先で強い口調で怒られてしまい、それ以来行くのが怖いです。
怖いと感じるのは自然なことです。その気持ちを「怖かった」「傷ついた」と言葉にし、委員の仲間や担当の職員に話してください。相手の怒りは、あなた個人ではなく、助けられることへの抵抗や不安に向けられていることが多いものです。次の訪問はほかの委員や職員と一緒に行くなど、ひとりで向きあわない工夫をしましょう。
見守り活動を続けるうちに、自分が疲れきってしまいました。
それだけ心をこめて関わってこられた証です。疲れは「休みたい」「誰かに分かち合いたい」というサインかもしれません。担当の数や役割を見直してもらう相談をしてよいですし、気分の落ちこみや眠れない状態が2週間以上続くときは、かかりつけ医や心療内科などに相談してください。あなた自身も、見守られてよい人です。
「大丈夫です」は、閉ざされた扉ではない。
言葉が見つからない人の、精いっぱいの返事。
そして、見守るあなたの気持ちにも名前を。
背負いすぎず、つなぎながら、
気にかけ続けることが、いちばんの見守りです。

自分を大切にしよう

民生委員や見守りボランティアが訪問先で受けとる「大丈夫です」「何もいりません」は、多くの場合、あなたを拒む言葉ではありません。恥ずかしさ、迷惑をかけたくない気持ち、警戒心、そして言葉にならない悲しみやさみしさから、自分を守るための言葉です。アドラー心理学の目的論で「何のために拒んでいるのか」と考えると、その人が守ろうとしている誇りや自由が見えてきます。助けるという縦の関係ではなく、顔を見に来たという横の関係で、関わりを続けていきましょう。

郵便受け、洗濯物、身なり、言葉の調子。言葉以外のサインに目を配り、気づいたことは事実だけをメモして、地域包括支援センターや社会福祉協議会につなぐ。支援を受けるかどうかは本人の課題であり、あなたの課題は、気にかけ続けることとつなぐこと。課題の分離ができると、扉が開かない日も、自分を責めずにいられます。月に一度の訪問が、その人の暮らしに「気にかけてくれる人がいる」という事実を残している。それは、6つの感の「実」である自己有用感を、あなた自身にならせてくれるものでもあります。

そして、見守るあなたの無力感やもどかしさも、どうか言葉にしてください。心の体温チェック、委員同士の気持ちの共有、感情だけ日記。人のために動ける人ほど、自分の気持ちを後回しにします。自分を大切にしよう。あなたが自分の感情を受けとめられたとき、扉の向こうで言葉を探している人の気持ちにも、もう少しやさしく寄り添えるようになります。

見守りとこころの相談先
・お住まいの地域の地域包括支援センター・社会福祉協議会(市区町村の窓口で案内しています)
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・いのちSOS 0120-061-338
・厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
・命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 民生委員法、児童福祉法(民生委員・児童委員の制度)
  • 内閣府「人々のつながりに関する基礎調査」(孤独・孤立の実態把握に関する全国調査)
  • Hochschild, A.R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.(邦訳『管理される心―感情が商品になるとき』世界思想社)
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
  • 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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