成果を出し続けるハイパフォーマーほど感情を置き去りにする
燃え尽きる前の感情の言語化
深夜のデッキ修正、早朝のクライアントコール、四半期ごとの数字。評価は常に上位で、周りからは「あの人は強い」と言われている。けれども最近、大きな案件が決まっても以前ほど高揚しない。週末は寝て終わり、日曜の夜になると理由のわからない重さが胸に広がる。それは能力の限界ではなく、置き去りにしてきた感情が出しているシグナルかもしれません。成果を出し続けてきたあなたにこそ知ってほしい、燃え尽きる前の感情の言語化について、結論から解説します。
結論:感情は非合理なノイズではなく、意思決定に欠かせないデータ
先に結論を3つお伝えします。
- ハイパフォーマーの多くは、感情を「非合理なノイズ」として切り捨てることで成果を出してきた。それは一定期間は機能する
- しかし、切り捨てた感情は消えずに蓄積し、燃え尽きの前兆として「何も感じない」「何のために働いているのかわからない」という形で表れる
- 感情を「意思決定のデータ」として扱い直すことで、パフォーマンスを落とさずに燃え尽きを防ぐことができる
感情を言葉にする力が弱まった状態を、中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では「感情迷子さん」と呼んでいます。感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態のことです。心理学では「アレキシサイミア(失感情症)」として研究されてきた概念に近く、感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を指します。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。詳しい定義はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。
長時間労働や強いプレッシャーが続くと、もともとの傾向が弱い人でも一時的に同じような状態になることがあります
本では、感情迷子さんを4つのタイプに分けています。その中でハイパフォーマーに多いのが、タイプ3「感情に興味がない」です。論理や合理性を重んじ、判断力や問題解決力に長けている。いつも忙しく、さまざまなことに関心を持っている。本はこれを「才能の1つ」と認めたうえで、行き過ぎると自分の内側にあるものを価値がないと切り捨ててしまう、と指摘しています。
数字とスピードの世界で、感情が「非合理」に見えてしまう理由
外資系企業、戦略コンサルティング、投資銀行、資産運用。こうした職場では、成果は数字で測られ、判断には常にスピードが求められます。ロジックの通らない発言は会議で通らず、「で、結論は?」「根拠は?」が日常の言葉です。この環境に適応した人ほど、自分の内側の声にもこう問いかけるようになります。「その気持ちに、根拠はあるのか」と。
「感情的になるのは非効率」という信念の正体
本では、タイプ3の人の多くは感情がわからないのではなく、「感情はノイズだ」と意識的あるいは無意識に判断して、シャットアウトしていると説明しています。その背景にあるのが、心理学でいう認知的不協和です。「感情的になるのは非効率だ」「弱さを見せてはいけない」という信念が強いと、実際には感情を持っている自分との間に矛盾が生まれます。脳はその矛盾のストレスを解消するために、「最初から感じないようにしよう」という方向へ働くのです。
本には、目標を達成したときの喜びでさえ「この程度で喜んではダメだ」と見ないようにする人がいる、とも書かれています。大型案件のクロージングのあと、祝杯もそこそこに次の案件の資料を開いてしまう。そんな経験に心当たりがある方もいるのではないでしょうか。
弱みを見せられない職種文化
評価が相対的で、Up or Out の文化が残る職場では、「つらい」「不安だ」と口にすることがキャリアのリスクに見えます。チームの前では常に自信のあるふりをし、クライアントの前では一切の迷いを見せない。それが職業上の作法になっているからこそ、オフの時間になっても「迷いを見せない自分」から降りられなくなるのです。
| 職場で求められる作法 | 内側で起きていること | 続くと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 結論から話す・根拠を示す | 根拠のない感覚を「なかったこと」にする | 違和感に気づくのが遅れる |
| 迷いを見せない | 不安を感じる前に打ち消す | 不安が体の不調として出る |
| 常に次の目標へ | 達成の喜びを味わわない | 「何のために」がわからなくなる |
| 完璧な品質で出す | 失敗への恐れが常に背景にある | 慢性的な緊張と疲労 |
完璧主義が感情を置き去りにする仕組み
ハイパフォーマーの多くは、程度の差はあれ完璧主義の傾向を持っています。完璧主義そのものは悪ではなく、高い品質を支える力です。けれども、アレキシサイミアに関する研究では、完璧主義は感情を言葉にしにくい状態と関連する要因の1つとして挙げられてきました。
完璧主義の人は、「正しい答え」を求めます。それは感情に対しても同じです。「この気持ちは怒りなのか、焦りなのか、正確に定義できないなら口にしないほうがいい」。そうやって、あいまいな感情を外に出す前に握りつぶしてしまうのです。本では、「正確に言わなくては」「うまく表現しなくては」と思うあまり、言葉にできないストレスを抱える人の姿が描かれています。正確さを重んじる人ほど、感情の出口が狭くなるのです。
さらに本では、言葉にできない感情は脳の中で「未完了のタスク」として残り続けると説明しています。途中で中断したことのほうが記憶に残る「ツァイガルニク効果」と同じです。常に脳のメモリを消費している状態なので、慢性的な疲れを感じやすくなる。仕事のタスク管理は完璧でも、感情のタスクは未完了のまま積み上がっていく。これが、ハイパフォーマーの「理由のわからない疲れ」の一因です。
タスクは完了させても、
感情は未完了のまま積み上がる。
それが「理由のわからない疲れ」の正体のひとつ。
燃え尽きの前兆は「何も感じない」から始まる
世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類ICD-11で燃え尽き症候群(バーンアウト)を、病気ではなく「職業上の現象」として位置づけ、エネルギーの枯渇や消耗感、仕事への心理的な距離(否定的・皮肉な感情)、職務上の効力感の低下という3つの側面で説明しています。この概念のもとになったのは、心理学者マスラック(Maslach)らの研究です。
カウンセリングの現場で感じるのは、この3つが表に出る前に、もっと静かなサインが出ていることが多い、ということです。それが「何も感じない」です。
典型例:「数字は出ているのに、何も感じない」
でも、何をしても手応えがない」
本に登場する50代の経営者、ケンジさん(仮名)も、「最近、何のために働いているのかわからなくなった」という虚無感を抱えていました。幼いころから「泣くのは無能の証拠」と教え込まれ、感情はノイズだと信じて成果を出してきた方です。本は、ノイズとして感情を切り捨てると同時に、「人生の彩り」という最大の報酬まで捨ててしまっていたと表現しています。経営者に向けた話は感情を見せない経営者が組織を止める|トップのための感情言語化マネジメントでも取り上げていますが、構造はハイパフォーマーでもまったく同じです。
ソマティック・マーカー仮説:感情は意思決定の「データ」である
「感情は判断を曇らせる」。多くのハイパフォーマーが信じてきたこの前提に、別の見方を示したのが、神経科学者アントニオ・ダマシオ(Damasio)が提唱したソマティック・マーカー仮説です。
ここでは概念の紹介にとどめますが、おおまかにいうと、私たちが選択肢を前にしたとき、過去の経験に結びついた体の反応(ソマティック=身体の、マーカー=しるし)が、「こっちは危ない」「こっちはよさそう」と判断を方向づけている、という考え方です。ダマシオは、感情の働きに関わる脳の部位に損傷を受けた人が、知能や論理的な思考力は保たれているのに、日常の意思決定で大きな困難を抱えた例を報告しています。感情は、合理的な判断の邪魔者ではなく、判断を支える土台の一部であるという見方です。
本の中でも、「なんとなく気が乗らない」「なんとなくワクワクする」という根拠のない感覚について、「あなたの本質はこっちがいいと言っていますよ」というサインだと書かれています。データの世界に置き換えれば、感情は、まだ言語化も数値化もされていない「先行指標」のようなものです。
| 感情のシグナル | データとしての読み方 | 確認すべき問い |
|---|---|---|
| 案件の説明を聞いて胸がざわつく | まだ言語化されていないリスクの可能性 | 「どの前提に引っかかっているか?」 |
| 提案書を何度直しても手が重い | 価値観や目的とのずれの可能性 | 「誰のための、何のための資料か?」 |
| あるクライアントの会議の前だけ緊張が強い | 関係性の課題、期待値のずれの可能性 | 「相手に何を言えていないか?」 |
| 成果を出しても何も感じない | 疲労の蓄積、目的の見失いの可能性 | 「最後に心から喜んだのはいつか?」 |
ポイントは、感情を「そのまま従うべき命令」として扱うのではなく、「検証すべきデータ」として扱うことです。ざわつきを無視するのでも、ざわつきに振り回されるのでもなく、「このざわつきは何を示しているか」と問いを立てる。それは、あなたがふだん市場のデータに対してやっていることと同じです。
この4ステップで大切なのは、②のラベルづけを飛ばさないことです。論理的な人ほど、①で違和感に気づいた瞬間、いきなり③の原因分析に入ろうとします。けれども、自分の状態に名前がついていないまま分析を始めると、「なぜざわつくのか」の答えを、手持ちのロジックの中だけで探してしまうのです。いったん「そこそこ不安」と名前をつけると、不安が何に向いているのかが見えやすくなり、検証の対象も絞りやすくなります。本でも、感情を言語化するには「体の信号に気づく」「感情を解釈する」「言葉に変換する」という3つのステップが必要だと説明しています。感情を扱う手順は、データを扱う手順と、思っている以上に似ているのです。
ラベルをつけるだけで、脳の「考える力」が戻る
強いストレスを受けると、不安や恐怖に反応する扁桃体が活発になり、考えたり計画したりする前頭前野の働きが一時的に落ちることが知られています(Arnsten, 2009)。一方で、感情に名前をつけると扁桃体の活動が下がることが、リーバーマン(Lieberman)らの研究(2007年)で示されています。プレッシャーのかかる局面ほど、「今、焦っている」と自分の状態を言語化することが、判断の質を守るのです。
会議の合間にできる、ハイパフォーマーのための感情ワーク
本で紹介しているワークを、スケジュールの詰まったハイパフォーマーの1日に合わせて作り直しました。どれも短時間で、ほかの業務を圧迫しないものです。
感情タイムアウト|カレンダーに「3秒の予定」を入れる
本では、スマホのアラームを1日3回設定し、鳴ったら「今、どんな気分?」と自分に問いかけるワークを紹介しています。外側に意識が向いている人は、内側を見るきっかけが自然には訪れません。だからきっかけを外側から強制的に作るのです。会議と会議の間、移動の直前など、カレンダー通知を使うと続けやすくなります。答えは「よくわからない」でもかまいません。
5秒ルール|メンバーの相談に即答しない
チームメンバーから相談を受けたとき、解決策がすぐ浮かんでも5秒だけ待ち、「この人は今、何を感じている?」と心の中で問いかけます。ハイパフォーマーほど、問題を構造化して即座に答えを出せます。けれども本にあるとおり、悩んでいる人が本当に求めているのは、多くの場合「わかってもらえた」という感覚です。相手の内面を想像する練習は、自分の内面に気づく力も育てます。
感情だけ日記|1日の終わりにログではなく感情を書く
多くのハイパフォーマーは、1日を振り返るとき「何をしたか」を正確に記録します。このワークでは、あえて出来事を書かず、感情だけを書きます。「クロージングでそこそこ安堵した」「レビューのあと、すごく悔しかった」「とくに何も感じなかった」。本では、「何も感じなかった」も立派な記録であり、出来事ではなく感情の記述があってはじめて効果が出る、と説明しています。
未来日記|1年後の「気持ち」から逆算する
週末の5分を使って、「1年後の私は、どんな気持ちで毎日を過ごしているか」を書きます。キャリアプランは「何を達成するか」で書きますが、未来日記は「どう感じているか」で書くのが特徴です。「肩書きは上がったが毎日が重い」のか、「忙しいが手応えがある」のか。望む感情から逆算すると、次に選ぶべき案件やポジションが違って見えてくることがあります。
本の中で、ケンジさんに向けて「今のあなたに必要なのは、効率の悪い無意味な時間かもしれませんね」と伝える場面があります。効率を極めてきた人にとって、いちばん難しく、いちばん効果があるのは、あえて何も生み出さない時間を自分に許すことなのかもしれません。
エグゼクティブ・コーチングとカウンセリングの使い分け
ハイパフォーマーにとって、専門家の力を借りることは、決して弱さの証明ではありません。トップアスリートにコーチがいるように、高い負荷の中で成果を出し続ける人ほど、外部の視点を持つ価値は大きくなります。ただし、目的によって相手を選ぶことが大切です。
| エグゼクティブ・コーチング | カウンセリング | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 目標達成、リーダーシップ、行動の変化 | 心の負担の軽減、感情の整理、生きづらさの理解 |
| 向いている状態 | エネルギーはあり、次の成長に向かいたい | 何も感じない、眠れない、疲れが抜けない |
| 扱う時間軸 | 主に現在と未来 | 過去の経験も含めて扱うことがある |
| 感情との関わり | 行動の妨げになる感情を整理する | 感情そのものに気づき、受け止める |
燃え尽きの前兆として紹介した①②の段階なら、コーチングの中で「感情をデータとして扱う」練習をすることも役に立ちます。けれども、③④に近づいているときは、まずカウンセリングや医療機関で心と体を休めることが先です。エネルギーが枯れた状態で目標設定をしても、さらに自分を追い込むだけになりかねません。
専門家を選ぶときの3つの問い
- このセッションのあと、少しでも「ほっとする」感覚があるか
- 相手は、成果の話だけでなく、あなたの感じていることにも関心を向けているか
- 「わからない」「うまく言えない」と言っても、急かされないか
社内に産業医や相談窓口がある場合は、それも遠慮なく使ってください。リモート中心の働き方で、チームとの感情のやりとりが減っている方は、リモートワークの感情の言語化について書いた記事も参考になるはずです。
中島輝より一言
私は幼いころから長いあいだ、自分のつらさを人に見せないと決めて生きてきました。表面上はうまくやっているように見せながら、心の中では何も感じられない。何度も絶望しながら心理学の世界に助けを求め、ようやく暗闇から抜け出せたのは35歳のころです。振り返ると、いちばん遠回りだったのは「一人で何とかしよう」としたことでした。あなたはすでに、多くのことを一人で成し遂げてきた人です。だからこそ、自分の感情については、誰かの力を借りていいのです。
6つの感の木のたとえでいえば、タイプ3の人がとくに育ててほしいのは「葉」にあたる自己信頼感です。本では、根拠がないように思えても自分の直感や感覚を信じることで、木の葉は青々と茂る、と書かれています。数字やロジックで自分を証明し続けるのではなく、自分の感覚そのものを信頼できること。それが、長く成果を出し続けるための土台になります。
しんどさが続くときは、ひとりで抱えないで
社内の相談窓口・産業医・保健師
厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よくあるご質問
まだ数字になっていない、最初のシグナル。
燃え尽きる前に、そのデータを読もう。
立ち止まって自分を点検するタイミングです。
自分を大切にしよう
成果を出し続けてきたあなたは、多くのものを切り捨てることで、スピードと品質を手に入れてきたのだと思います。その中には、迷いや不安、そして喜びといった感情も含まれていたかもしれません。それは間違いではありませんでした。ただ、切り捨てた感情は消えておらず、今、「何も感じない」というシグナルになって、あなたに点検を求めているのです。
感情は、非合理なノイズではありません。意思決定を支えるデータであり、燃え尽きを知らせる先行指標です。3秒の感情タイムアウト、5秒ルール、2分の感情だけ日記、5分の未来日記。どれもあなたのパフォーマンスを奪うものではなく、長く走り続けるためのメンテナンスです。そして、しんどさが続くときは、コーチやカウンセラー、医療の専門家の力を借りてください。
あなたの価値は、四半期の数字だけで決まるものではありません。うれしいときにうれしいと感じ、つらいときにつらいと言える自分を、取り戻してあげてください。自分を大切にしよう。感情を大切にできるハイパフォーマーは、チームの感情にも気づけるリーダーになり、より遠くまで成果を届けられるようになります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Damasio, A.R. (1994). Descartes’ Error: Emotion, Reason, and the Human Brain. Putnam.(邦訳『デカルトの誤り―情動、理性、人間の脳』筑摩書房)
- World Health Organization (2019). Burn-out an “occupational phenomenon”: International Classification of Diseases (ICD-11).
- Maslach, C., Schaufeli, W.B., & Leiter, M.P. (2001). Job burnout. Annual Review of Psychology, 52, 397-422.
- Arnsten, A.F.T. (2009). Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nature Reviews Neuroscience, 10, 410-422.
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
- 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。







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