感情を言葉にできない部下の育て方|4タイプ別・感情迷子さんの人材育成

感情を言葉にできない部下の育て方|4タイプ別・感情迷子さんの人材育成

感情を言葉にできない部下の育て方
4タイプ別・感情迷子さんの人材育成

指示には「はい」と答えるのに、あとから見ると方向がずれている。フィードバックをしても、表情が変わらず響いているのかわからない。「将来どうなりたい?」と聞いても答えが返ってこない。そんな部下に、どう関わればいいのでしょうか。カギは、部下の「能力」ではなく「感情を言葉にする回路」に目を向けること。感情迷子さんの4タイプ別に、職場で今日から使える育て方をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「何を考えているかわからない部下」は、育たない部下ではない

よくある相談の典型例
「指示にはいつも『はい、大丈夫です』。
でも、本当にわかっているのか……」
場面30代の課長。入社2年目の部下は真面目で、遅刻もなく、言われたことには必ず「はい」と答える。ところが、締め切り直前になって作業が止まっていたことが判明する。「わからなかったなら、なぜ聞かなかったの?」と尋ねると、部下は黙ってうつむいてしまった。
部下は、さぼっていたわけでも、上司を軽んじていたわけでもありません。「わからない」「不安だ」という自分の感情に気づくこと、それを上司に伝わる言葉にすることが、うまくいかなかったのです。

人材育成の相談を受けていると、「最近の若い人は何を考えているのかわからない」という声をよく耳にします。けれど、その「わからなさ」は世代の問題というより、感情を言葉にする力の問題であることが少なくありません。

心理学では、自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないわけではありません。研究によって幅はありますが、一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向が見られるとされる、誰もが持つ特性の濃淡です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。

私は近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で、こうした状態を「感情迷子さん」と呼びました。迷子は、能力がないから迷子になるわけではありません。誰でも道がわからなくなることはあります。そして、迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。部下の感情も、消えたわけではありません。上司の関わり方しだいで、帰り道はちゃんと見つかります。

「わからない部下」ではなく、
「まだ自分の気持ちに名前をつけられていない部下」。
そう見方を変えるだけで、育て方が変わる。

感情を言葉にできないと、成長のどこでつまずくのか

「仕事に感情は関係ない。必要なのはスキルと知識だ」。そう考える方もいるかもしれません。けれど、人が成長するプロセスには、実は感情が深く関わっています。

感情→思考→行動→結果

私は本の中で、人の行動が変わる流れを「感情→思考→行動→結果」と説明しました。何か結果を出したいとき、私たちは行動を変えようとします。でも、その行動を生み出しているのは思考であり、その根っこには感情があります。「この仕事、うまくいってうれしかった」「あの場面で失敗して悔しかった」。そうした感情が次の思考をつくり、行動を変え、結果を変えていくのです。

逆にいえば、感情を置き去りにしたまま行動だけを変えようとすると、「理屈はわかっているのに動けない」「なんとなくうまくいかない」ということが起きます。指示どおりに動けない部下の多くは、能力が足りないのではなく、このプロセスのどこかで感情が詰まっているのです。

成長のサイクルと、感情迷子さんがつまずく場所 感情 不安・悔しさ・手応え 思考 次はこうしよう 行動 相談・挑戦・工夫 結果 成長・成果 結果から生まれた感情が、次のサイクルを回す つまずき1|感情に気づけない 「わからない」「不安」に気づかないまま進み、 締め切り直前に止まってしまう → タイプ1・タイプ3に多い つまずき2|感情を伝えられない 気づいていても「大丈夫です」と言ってしまい、 相談や助けを求める行動につながらない → タイプ2・タイプ4に多い
▲ 成長は「感情→思考→行動→結果」のサイクルで進みます。感情迷子さんは、感情に気づけない(つまずき1)か、感情を伝えられない(つまずき2)ために、サイクルが回りにくくなっています。

気持ちに名前をつけると、考える力も伸びる

感情の言語化が「考える力」と深くつながっていることを示す、古い観察があります。1961年、カタン(Katan)は、保育園の子どもたちに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールだけでなく、考える力まで伸びたと報告しました。また、感情に名前をつけると、不安や怒りに関わる脳の扁桃体の活動が下がることも、のちの研究で示されています(Liebermanら, 2007)。

大人の職場でも同じことがいえます。「不安です」と言えた部下は、不安に飲みこまれずに、次に何をすればいいかを考えられるようになります。感情を言葉にする力を育てることは、考える力と行動する力を育てることでもあるのです。

感情迷子さん部下の4タイプと「育てたい感」

感情迷子さんには4つのタイプがあり、タイプごとにつまずきやすい場所が違います。また、私がお伝えしている自己肯定感の「6つの感」のうち、タイプごとにとくに育てたい感があります。

自己肯定感を一本の木にたとえると、根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、実が自己有用感にあたります。部下の木のどこが弱っているかがわかると、どこに水をやればいいかが見えてきます。

自己肯定感の木と、4タイプが育てたい場所 花=自己決定感 タイプ4「想像できない」 葉=自己信頼感 タイプ3「興味がない」 幹=自己受容感 タイプ2「説明できない」 根=自尊心≒自己存在感 タイプ1「わからない」 枝=自己効力感 実=自己有用感
▲ 自己肯定感の木。タイプ1は根(自尊心≒自己存在感)、タイプ2は幹(自己受容感)、タイプ3は葉(自己信頼感)、タイプ4は花(自己決定感)を意識して育てると、木全体が元気になり、感情の言葉も育ちやすくなります。
タイプ職場で誤解されやすい姿本当の困りごと育てたい感
タイプ1
感情がわからない
文句を言わない、頼りになる人限界に気づかず、体調を崩す自尊心≒自己存在感(根)
タイプ2
感情を説明できない
報連相ができない、主体性がない伝えたいのに言葉が見つからない自己受容感(幹)
タイプ3
感情に興味がない
優秀だが冷たい、後輩が育たない「何のために」がわからなくなる自己信頼感(葉)
タイプ4
想像できない
受け身、やりたいことがないこの先の自分が思い描けない自己決定感(花)

ここからは、タイプごとに具体的な育て方を見ていきます。なお、タイプは固定されたものではなく、複数が混ざっている人も珍しくありません。部下を分類するためではなく、関わり方の引き出しを増やすために使ってください。

タイプ1「感情がわからない」部下の育て方

書籍の事例より
「そのとき、どう感じたか……
わかりません」
場面エミコさん(仮名・30代)は、都内の企業で社長秘書として働いていた。社長の指示は急に変わり、そのたびに完璧に組んだスケジュールを組み直して各所に連絡する。自分のせいではないのに小言を言われることも。それでも常に笑顔で、誰からも頼りにされていた。そんなエミコさんが訴えたのは、原因不明の激しいめまいだった。
感情を尋ねても答えられなかったエミコさんも、「喉が詰まる感じや、胃がキュッとする感じはありましたか?」と体の反応を聞くと、「……そう言われてみると、胃がキュッとしたような感じがしました」と答えてくれました。感情より先に、体が反応していたのです。

職場でのよくある姿

  • どんな無理な依頼にも「大丈夫です」と引き受ける
  • 理不尽なことがあっても、表情を変えずに対応する
  • 頭痛・胃痛・めまいなど、原因のはっきりしない体調不良が続く
  • 「どう思う?」と聞かれると、固まってしまう

上司ができる関わり方

タイプ1の部下にとって、「どう感じた?」はいちばん答えにくい質問です。代わりに体を聞いてください。「あの会議のあと、肩に力が入ってなかった?」「最近、朝起きたときの体はどう?」。体の変化を言葉にすることが、感情に気づく入り口になります。

本人には、「心の体温チェック」というワークをすすめてみるのもいいでしょう。手のひらを胸に当てて、「今、自分の体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞く。朝、昼食後、夜の1日3回です。「よくわからない」でもかまいません。続けるうちに、自分の状態に気づく力が少しずつ育っていきます。

そして何より大切なのが、根っこにあたる自尊心≒自己存在感を育てることです。タイプ1の人は、「怒ってはいけない」「動揺してはいけない」と、無意識に自分の感情にブレーキをかけてきた人です。上司から「今回の件、腹が立って当然だよ」「疲れたって言っていいんだよ」と、感じることへの許可を出してあげてください。その一言が、根っこに水を届けます。

避けたい関わりおすすめの関わり
「何でも引き受けてくれて助かるよ」とさらに仕事を渡す「今、手持ちはどのくらい?重さで言うとどう?」と先に確認する
「どう感じたの?」と感情を聞く「そのとき、体はどうだった?」と体を聞く
体調不良を「自己管理不足」と注意する「体が何か教えてくれているのかもね」と受けとめる

タイプ2「感情を説明できない」部下の育て方

タイプ2の部下は、自分の中にモヤモヤがあることには気づいています。それを「わかってもらいたい」という気持ちもある。でも、どう言えばいいかわからず、結局「大丈夫です」「特にないです」と言ってしまいます。

本に登場するハヤトさん(仮名・20代)は、カウンセリングでこう話してくれました。「心の中にはモヤモヤと渦を巻いているカタマリがあるんです。でも、それに合う言葉が見つかりません」。言葉を慎重に選ぼうとしすぎて、感情の出口をふさいでしまっていたのです。タイプ2の人は、言葉を大切にする、誠実な人でもあります。

職場でのよくある姿

  • 報連相が遅い、あるいは結論だけで経緯がない
  • 会議で意見を求められると黙ってしまう
  • チャットで返信を打っては消し、結局送れない
  • 日報が「特になし」「問題なし」ばかりになる

上司ができる関わり方

タイプ2の部下に必要なのは、「正確に言わなくていい」という安心です。上司が「ちゃんと説明して」「結論から言って」と求めるほど、言葉は出てこなくなります。まずは不完全な言葉を歓迎することから始めましょう。

場面1|報連相
「事実+気持ち」のテンプレートを渡す

「報告は、①何が起きたか ②今の気持ちを一言 ③どうしたいか、の3つでいいよ」と型を渡します。気持ちは「ちょっと不安」「そこそこ焦ってる」のように、「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階をつけるだけで十分です。本で紹介している「3段階温度計」の応用です。型があると、何をどこまで言えばいいかがわかり、言葉が出やすくなります。

場面2|日報・週報
「今日のオノマトペ」欄をつくる

日報の最後に、今日の自分をオノマトペで一言書く欄をつくります。「新しい案件の打ち合わせ、ワクワク」「見積もりの修正が続いて、ずっしり」。オノマトペでも、感情にラベルをつけたのと同じように気持ちは整理されます。上司は、それにひと言コメントを返すだけでかまいません。

場面3|会議
その場で言えなくてもいいルートを用意する

タイプ2の人は、その場で即座に言葉にするのが苦手です。「会議のあとに、チャットで一言でも送ってくれたらうれしい」と伝えておくと、時間をかけて言葉を探すことができます。たとえば「さっきの案、なんとなくモヤモヤしていて、うまく言えないんですが……」という一文が届いたら、大切な意見の芽です。

土台として育てたいのは、幹にあたる自己受容感です。「うまく言えなくても、それでいい」「言葉にならない自分も、まるごと認める」。その受容があってはじめて、人は不完全な言葉を口にできるようになります。上司が「途中の言葉で十分伝わったよ」と返すたびに、部下の幹はしなやかさを取り戻していきます。

タイプ3「感情に興味がない」部下の育て方

タイプ3の部下は、論理的で判断が速く、成果を出せる人です。チームのエースや、次の管理職候補として期待されていることも多いでしょう。ただ、感情を「ノイズ」として切り捨てる傾向があり、それが二つの形で問題になります。

一つは後輩や周囲との関係です。相談されると即座に正論を返し、相手は「わかってもらえなかった」と感じて離れていきます。もう一つは本人自身の燃え尽きです。走り続けた先で、ある日「何のために頑張っているのかわからない」という虚無感におそわれることがあります。

エースが「何のために」を見失うとき

本に登場するケンジさん(仮名・50代)は、20代で起業し、百名を超える社員を抱える会社に育てた経営者です。幼いころから「泣くのは無能の証拠」と教えこまれ、感情は目標達成のノイズだと信じてきました。それは確かに成果につながりました。けれど、感情を切り捨てると同時に、「人生の彩り」という最大の報酬まで捨ててしまっていたのです。タイプ3の部下を育てるときは、この構図を頭に置いておくことが大切です。

上司ができる関わり方

場面1|後輩指導
「5秒ルール」と「共感の一言」をスキルとして教える

タイプ3の部下には、共感を「性格」ではなく「リーダーに必要なスキル」として伝えると、すんなり受けとってもらえます。後輩に相談されたら、解決策が浮かんでも5秒だけ待ち、「この人は今、何を感じている?」と問いかける。そして「それは大変だったね」と一言添えてから、アドバイスに入る。「共感が先にあると、同じアドバイスでも相手が動いてくれる確率が上がる」と、合理的な言葉で説明してください。相手の行動を、その奥にある感情や考えから理解しようとする力を、心理学ではメンタライゼーションと呼びます(Fonagyら)。5秒の問いかけは、その最小単位のトレーニングです。

場面2|振り返り
成果の振り返りに「感情の問い」を一つ混ぜる

プロジェクトの振り返りで、成果や課題を確認したあとに、「数字はさておき、やってみてどうだった?」と一つだけ聞いてみます。最初は「特に何も」と返ってくるかもしれません。それでもかまいません。この問いを毎回くり返すことで、意識が少しずつ内側に向きはじめます。

場面3|本人のセルフケア
「感情だけ日記」をすすめる

夜、1日を振り返って、出来事ではなく感じたことだけを書くワークです。「達成感があった。でも空回りした感じも少しある」「とくに何も感じなかった」。最後の「何も感じなかった」も立派な記録です。情報整理が得意なタイプ3の人ほど、日記が出来事の記録になりがちなので、あえて出来事を書かないことがトレーニングになります。気持ちを書き出す効果は、ペネベーカー(Pennebaker)らのエクスプレッシブ・ライティングの研究で知られていますが、そこでも出来事だけでなく感情に触れて書くことが大切だとされています。

土台として育てたいのは、葉にあたる自己信頼感です。根拠がなくても「なんとなくこう感じる」という感覚を、価値のないものとして切り捨てずに信じてあげること。上司が「その違和感、大事にしていいと思うよ」と伝えることで、部下は自分の直感を仕事に活かせるようになっていきます。

タイプ4「想像できない」部下の育て方

タイプ4の部下は、目の前の仕事を堅実にこなします。ミスが少なく、安心して任せられる存在です。ところが、キャリア面談で「3年後、どうなっていたい?」と聞くと、言葉が出てきません。「特にないです」「今の仕事をきちんとやれれば」。上司から見ると、意欲がないように映ることもあります。

本に登場するナオさん(仮名・40代公務員)は、子どものころ「現実を見なさい」と言われて育ち、高校生のころに思い描いた建築家の夢も、ハードルの高さを感じて早々にあきらめました。期待して裏切られる痛みを避けるために、想像力に鍵をかけていたのです。タイプ4の人の「やりたいことがない」は、意欲がないのではなく、想像することにブレーキがかかっている状態なのです。

上司ができる関わり方

場面1|キャリア面談
大きな目標ではなく、小さな「もしも」から

いきなり「将来の夢は?」と聞くと、失敗のリスクが頭に浮かんでしまいます。代わりに、「もし1日、好きな仕事だけしていい日があったら、何をする?」「もし予算も人も気にしなくていいなら、どんな企画をやってみたい?」と、小さくて安全な「もしも」を投げかけてみてください。正解のない問いを楽しむうちに、想像の回路が開いていきます。

場面2|目標設定
「何を達成したいか」の前に「どんな気持ちで働いていたいか」

本で紹介している「未来日記」の考え方を、目標設定に応用します。「1年後のあなたは、どんな気持ちで毎日働いていたい?」と、まず感情を聞くのです。「もう少し任されている感じがほしい」「お客さんにありがとうと言われて、ほっとしていたい」。望む感情が見えると、そこから逆算して、具体的な目標が自然に立てられるようになります。

場面3|顧客対応
「お客さまは今、何を感じている?」を想像する練習

タイプ4の人は、他人の感情を想像するのも苦手なことがあります。「キャラクター感情読み」というワークは、ドラマや映画の登場人物に「この人は今、何を感じている?」と問いかけるものですが、職場では事例やロールプレイで同じことができます。「このクレームを書いたお客さまは、どんな気持ちだったと思う?」。答え合わせはいりません。想像してみること自体がトレーニングです。

場面4|部下が夢を語ったとき
まず全力で乗る

タイプ4の部下が、珍しく「いつか、こんなことをやってみたいんですけど」と口にしたら、それは大切な瞬間です。「でも予算がね」「現実的には難しいよ」と返す前に、「いいね!それ、どんな感じにしたい?」と全力で乗ってください。本では「子どもの空想に全力で乗る」というワークとして紹介していますが、大人の夢でも同じです。乗ってもらえた体験が、「想像を広げていいんだ」という安心になります。

土台として育てたいのは、花にあたる自己決定感です。「自分で決めた」と感じられる体験の積み重ねが、花を咲かせます。担当する作業の順番、資料の構成、勉強会のテーマなど、小さなことから本人に選んでもらう機会を意識的につくってください。

評価面談とフィードバックで感情を扱うコツ

半期や年度末の評価面談は、上司と部下にとって緊張する場面です。とくに感情迷子さんの部下は、評価を伝えられても表情が変わらず、上司は「響いているのか」「納得しているのか」がわからないまま面談を終えてしまいがちです。ここでは、評価面談を「感情を扱う場」として設計するコツを紹介します。

STEP 1|面談の冒頭
評価の前に、本人の振り返りを感情で聞く

いきなり評価を伝えるのではなく、「この半年を天気にたとえると、どんな感じだった?」と聞くところから始めます。「前半はどしゃぶり、後半は少し晴れ間が」。比喩なら、感情語が苦手な人でも答えやすくなります。本で紹介している「比喩レッスン」の考え方です。

STEP 2|評価を伝える
事実と、上司自身の気持ちをセットで伝える

「この案件で売上目標を達成した」という事実だけでなく、「正直、あの粘り強さには驚いたし、うれしかった」と上司の気持ちを添えます。改善点を伝えるときも、「ここが足りない」だけでなく「ここが伸びると、もっと楽になると思って伝えている」と意図と気持ちを言葉にします。上司が感情を言葉にするお手本を見せることが、部下の言葉を育てます。

STEP 3|伝えたあと
5秒待ち、強さで聞く

評価を伝えたら、すぐに次の話に進まず、5秒待ちます。そのうえで「今の評価を聞いて、納得感はちょっと?そこそこ?すごく?」と3段階で聞いてみてください。「納得していますか?」と聞けば「はい」としか返ってこない質問も、3段階なら本音に近い答えが返ってきます。

STEP 4|面談のあと
「あとから言葉にしていい」ルートを残す

感情迷子さんは、その場で反応できなくても、あとから気持ちが追いついてくることがあります。「今日の話で、あとから思ったことがあれば、チャットで一言でも送ってね」と伝えておきましょう。面談の内容を簡単なメモにして渡すのも、タイプ2の人には助けになります。

フィードバックは「共感の一言」のあとに

日常のフィードバックでも基本は同じです。ミスを指摘する前に、「焦ったよね」「あの状況なら迷うのもわかる」と一言添える。正論は、そのあとで十分に届きます。共感の一言は甘やかしではありません。フィードバックを相手の心に届けるための、いちばん効率のいい準備なのです。

なお、「大丈夫です」と言いながら突然辞めてしまう部下のサインや、1on1での聞き方については、「大丈夫です」と言って辞めていく社員|人材不足の陰にある感情迷子さん問題でくわしく紹介しています。

育てる上司自身のタイプを知る

部下の育て方を考えるとき、見落とされがちなのが上司自身のタイプです。上司もまた、感情迷子さんの傾向を持っていることがあります。そして、上司と部下のタイプの組み合わせによって、すれ違い方には特徴があります。

上司のタイプ起きやすいすれ違い意識したいこと
タイプ1傾向自分の限界にも部下の限界にも気づきにくく、チーム全体が無理をしがち自分の体のサインを確認する習慣を持つ
タイプ2傾向部下に気持ちを伝えられず、ほめたいのに言葉が出ない「うれしかった」「助かった」の一言から始める
タイプ3傾向部下の相談にすぐ正論を返し、部下が本音を言わなくなる5秒ルールと共感の一言を習慣にする
タイプ4傾向部下のキャリアや夢の話に乗れず、現実的な指摘で終わる部下の「もしも」に全力で乗る練習をする
書籍の事例より
「それだけで、部下の表情が変わるんですね。
驚きました」
場面40代の管理職、タカシさん(仮名)は「感情はノイズだ」と思って生きてきた。部下が相談に来ても、まず解決策を出すのが当たり前だった。半年ほどたったある日、「部下が落ち込んでいるとき、つらかったね、と言えるようになりました」と話してくれた。
タカシさんは続けてこう言いました。「そして、自分もなんだか、スッとするんです」。部下の感情を想像する練習は、上司自身が自分の感情に気づく練習にもなるのです。

部下を育てることは、上司自身が育つことでもあります。私自身、5歳で育ての親と離れたことをきっかけに感情を閉ざし、中学のバスケ部では、チームが勝ってみんなが大喜びする中で一人だけ無表情で立っていた子どもでした。そこから感情を取り戻すまでに、長い時間がかかりました。だからこそ言えるのは、感情の言葉は、何歳からでも育て直せるということです。上司も、部下も、です。

中島輝より一言

育成に悩む上司の方に、私がいつもお伝えしていることがあります。それは、「部下の言葉を育てたいなら、まず上司が自分の気持ちを言葉にしてみせてください」ということです。「今日の会議、正直ちょっと緊張した」「このプロジェクト、うまくいってほっとしている」。上司が感情を言葉にする姿を見て、部下は「ここでは気持ちを話してもいいんだ」と学びます。育成は、言葉よりも先に、背中から始まります。

よくあるご質問

部下のタイプは、どうやって見分ければいいですか?
厳密に見分ける必要はありません。「体調不良が多い→タイプ1かも」「大丈夫ですが口ぐせ→タイプ2かも」「正論で後輩を追いつめがち→タイプ3かも」「将来の話になると黙る→タイプ4かも」と、関わり方のヒントとしてゆるく使ってください。複数のタイプが混ざっている人も多く、環境によって変わることもあります。
感情の話をすると、仕事の話がおろそかになりませんか?
感情の問いは、1回の面談で一つか二つで十分です。むしろ、感情が整理されると「何がわからないのか」「何に困っているのか」がはっきりし、仕事の話が早く進むようになります。感情を扱うことは、仕事の話を深めるための準備だと考えてください。
オノマトペや天気で気持ちを聞くのは、ビジネスの場にふさわしくないのでは?
最初は違和感があるかもしれません。ただ、感情語が苦手な人にとって、オノマトペや比喩は答えやすい「入り口」です。上司が先に「今日の僕はソワソワです」と言ってみせると、場の空気がやわらぎ、部下も答えやすくなります。チームの文化として定着すると、短時間でお互いの状態を共有できる便利な道具になります。
タイプ3のエース社員を管理職に昇進させても大丈夫でしょうか?
問題解決力や判断力は、管理職にとって大きな強みです。昇進の前後で、5秒ルールや共感の一言を「リーダーのスキル」として身につける機会を用意すると、強みがさらに活きるようになります。本人の燃え尽きを防ぐためにも、成果以外の「やってみてどうだった?」という問いを定期的に投げかけてください。
体調不良が続く部下には、どう対応すればいいですか?
まずは業務量を確認し、体のサインを責めずに受けとめてください。そのうえで、産業医や医療機関など専門家への相談をすすめることが大切です。この記事で紹介している関わり方は、医学的な診断や治療の代わりにはなりません。
部下の「わからない」は、
まだ名前のついていない気持ち。
上司の問いかけ一つで、言葉は育ちはじめる。
体を聞く、強さを聞く、もしもを聞く。
4タイプに合わせた小さな問いが、部下の成長を支えます。

自分を大切にしよう

「何を考えているかわからない部下」は、育たない部下ではありません。自分の気持ちに気づくこと、それを言葉にすることが、まだうまくいっていないだけです。人の成長は「感情→思考→行動→結果」のサイクルで進みます。感情に名前がつくと、考える力も行動する力も伸びていきます。

タイプ1の部下には、体を聞き、感じることへの許可を出す。タイプ2の部下には、不完全な言葉を歓迎し、「事実+気持ち」の型を渡す。タイプ3の部下には、共感をリーダーのスキルとして教え、内側に目を向ける問いを投げかける。タイプ4の部下には、小さな「もしも」から想像の回路を開き、自分で選ぶ機会をつくる。そして評価面談やフィードバックでは、評価の前に気持ちを聞き、共感の一言のあとに正論を届ける。4タイプそれぞれの木の、弱っている場所に水をやることが、感情迷子さんの部下を育てる道筋です。

そして忘れないでほしいのは、部下を育てる上司のあなた自身も、一本の木だということです。部下のために走り続けて、自分の気持ちを置き去りにしていませんか。今日の仕事を終えたら、「今日はどんな一日だった?」と、自分にも問いかけてみてください。自分を大切にしよう。自分の気持ちを大切にできる上司のもとで、部下の言葉は豊かに育っていきます。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ)
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16.
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science.
  • Fonagy, P. et al. (2002). Affect Regulation, Mentalization, and the Development of the Self.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Opening Up: The Healing Power of Expressing Emotions. Guilford Press.
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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