地方移住・Uターンで心が疲れたら|新しい地域になじむための感情の言語化

地方移住・Uターンで心が疲れたら|新しい地域になじむための感情の言語化

地方移住・Uターンで心が疲れたら
新しい地域になじむための感情の言語化

山の見える古民家、朝の澄んだ空気、子どもがのびのび遊べる環境。思い描いていた暮らしは、確かにここにある。それなのに、週末の草刈りや地区の集まり、「どこから来たの?」と何度も聞かれるやりとりのあと、なぜかどっと疲れてしまう。「自分で選んだのだから」「せっかく来たのだから」と思うほど、そのつらさは誰にも言えなくなります。新しい土地で心が疲れるのは、あなたが移住に向いていないからではありません。環境が大きく変わったとき、気持ちは言葉になる前に、置き去りにされやすいのです。地方移住やUターン、転勤でなじみのない地域に来た方に、気持ちを言葉にして、自分のペースで地域とつながる方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「せっかく来たのだから」と言えないつらさ

よくある相談の典型例
「移住してよかった、と言わなきゃいけない気がして。
本当は、ずっと疲れているんです」
場面都市部から家族で中山間地域に移住して2年目の40代の女性。リモートワークを続けながら、子どもを地元の小学校に通わせている。SNSには畑の野菜や夕焼けの写真を載せ、都会の友人からは「うらやましい」と言われる。けれど、地区の行事の段取りや近所づきあいの「暗黙のルール」がつかめず、集まりのあとはいつも頭痛がする。夫に話そうとしても、「自分たちで決めたことだし」と言葉を飲み込んでしまう。
この方は、移住を後悔しているわけではありません。景色が好きで、子どもの笑顔もうれしい。それと同時に、緊張、心細さ、居場所のなさ、「うまくやれていない」という焦りがある。「よかった」と「つらい」が同時にあることを、自分でも整理できないまま、「よかった」のほうだけを言葉にしているのです。

地方移住やUターン、Iターンは、人生の大きな決断です。仕事を変え、住まいを変え、人間関係を一から築き直す。その決断が大きいほど、「失敗だった」と思いたくない気持ちも強くなります。そして、つらさを感じても、それを認めることが「自分の選択を否定すること」のように思えてしまうのです。

転勤や家族の事情で、自分の意思とは関係なくなじみのない土地に来た人も、同じように言葉を飲み込みがちです。「仕事だから仕方ない」「家族のためだから」。理由がはっきりしているぶん、気持ちのほうは後回しにされやすいのです。

この記事では、新しい土地で起きる心の疲れを、心理学のアレキシサイミアという視点からひもといていきます。そして、気持ちを言葉にしてから地域とつながるという、少し順番を入れ替えた方法を提案します。

感情迷子さんとは|新しい土地で気持ちが迷子になる理由

アレキシサイミア(失感情症)とは、自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。感情がないのではなく、感情に言葉が届きにくくなっている状態です。一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向があるとされ、病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡と考えられています。DSM-5やICD-11でも、独立した診断名にはなっていません。基本はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。

約10人に1人
ふだんから、感情に気づき言葉にすることが難しい傾向が強いとされる人の割合(研究により約10.1〜16.3%)
出典:TAS-20等を用いた複数の疫学研究(中島輝・自己肯定感アカデミー講座資料より)疫学データ

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。新しい土地で気持ちを見失っても、それは帰り道が一時的に見えにくくなっているだけです。

環境の変化は、心の「処理能力」を使い切る

移住や転勤のあとは、毎日が「初めて」の連続です。ゴミの出し方、店の場所、病院の選び方、地区の人の名前、方言のニュアンス。覚えることと気を配ることが一度に押し寄せ、心はそれを処理するだけで手いっぱいになります。こうした時期には、自分がどう感じているかに目を向ける余裕がなくなり、気持ちは後回しにされていきます。

アレキシサイミアには、若い頃から続く特性としての「1次性」と、強いストレスや大きな変化から心を守るための反応としての「2次性」があると考えられています。移住や転勤のあとに「自分の気持ちがよくわからない」と感じるのは、この2次性に近い状態かもしれません。環境が落ち着き、安心できる関係が育ってくると、薄れていくことが多いものです。

新しい土地での体験心のなかで起きやすいこと
暗黙のルールがわからない常に緊張し、「失敗しないように」に意識が向く
昔からの知り合いがいない気持ちを話す相手がいず、言葉にする機会が減る
「移住してよかったね」と言われるつらさを口にしにくくなる
仕事や家族の手続きに追われる気持ちより「段取り」が優先される

理想と現実のギャップ|地域行事・消防団・回覧板

移住前に思い描いていた暮らしと、実際の暮らし。そのあいだには、多かれ少なかれギャップがあります。とくに戸惑う人が多いのが、地域の「つきあい」の濃さです。

  • 地区の草刈りや水路の掃除、祭りの準備など、行事への参加が思ったより多い
  • 回覧板や地区の連絡が紙中心で、回し方や期限のルールがわからない
  • 消防団や自治会の役を、早い段階で頼まれる
  • 家族構成や仕事、収入のことまで、何度も聞かれる
  • 行事を休むと、何か言われているのではと気になる
  • Uターンなのに、「昔の自分」として見られ、今の自分を知ってもらえない

こうした地域のつきあいは、長い時間をかけて地域の暮らしを支えてきた仕組みでもあります。悪いものではありません。けれど、慣れない人にとっては、ひとつひとつが小さな緊張の積み重ねになります。そして、その緊張がどんな気持ちなのかを言葉にできないまま、「なんとなく疲れた」「頭が痛い」「行事の前の晩は眠れない」と、体のほうにサインが出てくるのです。

「なんとなく疲れた」の中身を分けてみる

「疲れた」という言葉は便利ですが、その中にはいろいろな気持ちがまざっています。行事のあとの「疲れた」を、少しだけ分けてみると、次のようなものが見えてくるかもしれません。

「疲れた」の中にある気持ちたとえばこんな場面で
緊張何をすればいいのかわからないまま、作業の輪に入ったとき
心細さまわりは知り合いどうしで、自分だけが話の輪に入れないとき
悔しさ都会でのやり方を否定されたように感じたとき
うれしさ「来てくれて助かったよ」と声をかけられたとき
もどかしさ言いたいことがあったのに、言えなかったとき

「疲れた」のなかに「うれしさ」がまざっていることもあります。気持ちを分けてみると、全部がつらいわけではないことに気づけます。それだけで、地域との距離の取り方は変わってきます。

「よそ者」感はどこから来るのか

移住した人の多くが口にするのが、「いつまでたっても、よそ者のような気がする」という感覚です。地域の人が冷たいわけではないのに、どこか輪の外にいるような気がする。その感覚は、何年住んでもふっと戻ってくることがあります。

「よそ者感」の正体は、一つではありません。地域の側に、昔からの関係や言葉の文化があるのは確かです。けれどそれと同時に、自分の側の「失敗したくない」「嫌われたくない」という緊張が、輪の外に自分を置いてしまっていることもあります。そして、その緊張を言葉にできないまま、笑顔と「大丈夫です」で乗り切っていると、本当の自分を知ってもらう機会がなかなか訪れません。

「よそ者」と感じるのは、
あなたが受け入れられていないからとは限らない。
まだ、自分の気持ちを話せていないだけかもしれない。

「ちゃんとしなきゃ」が言葉をふさぐ

『感情迷子さんの本』に登場する20代の男性ハヤトさん(仮名)は、気持ちを聞かれると「別に、何でもないよ」と答えてしまう方でした。心の中にはモヤモヤしたカタマリがあるのに、言葉を慎重に選ぼうとしすぎて、感情の出口をふさいでいたのです。

新しい地域にいるときの私たちも、少し似ています。「変なことを言って浮いたらどうしよう」「この地域の言い方で言わなければ」。正しく、うまく言おうとするほど、口数は減り、表情はかたくなります。ハヤトさんにとって最初の鍵になったのは、「ちゃんとした言葉にならなくていい」という許可でした。地域の人との会話も、最初から上手でなくていいのです。

感情を言葉にしてから地域とつながる|順番を入れ替える

新しい地域になじもうとするとき、多くの人は「まず地域に出ていく」ことから始めます。行事に参加し、あいさつをし、役を引き受ける。それはとても大切なことです。けれど、自分の気持ちがわからないまま地域に出ていくと、相手に合わせることばかりが増えて、消耗してしまうことがあります。

そこで提案したいのが、順番を入れ替えることです。まず自分の気持ちを言葉にし、そのうえで、地域とのつながり方を選ぶ。気持ちがわかると、「この集まりは楽しい」「これは少し負担」と、自分なりの距離感が見えてきます。

地域とつながる「順番」を入れ替える 自分の気持ちを知ってから、つながり方を選ぶ 消耗しやすい順番 ① とにかく全部の行事に出る ② 笑顔で「大丈夫です」と合わせる ③ 気づいたら疲れ果てている 自分の気持ちが置き去りになる なじみやすい順番 ① 自分の気持ちに名前をつける ② 心地いい・負担を見分ける ③ 自分のペースでつながる 気持ちごと地域に入っていける
▲ 気持ちがわからないまま地域に合わせ続けると、消耗しやすくなります。先に自分の気持ちに名前をつけ、心地いいことと負担なことを見分けてから、つながり方を選ぶ。そのほうが、長く地域となじんでいけます。

「心地いい・心地悪い」を軸にする

『感情迷子さんの本』のワーク「五感スイッチ」では、五感の一つひとつに「心地いい?心地悪い?」と2択で問いかけます。この「心地いい・心地悪い」は、「好き・嫌い」よりずっと手前にある、本能に近い感覚だと本では説明されています。理由がうまく言えなくても、大切な判断の軸になるのです。

地域のつきあいにも、この軸を使ってみてください。「この人と話していると、なぜか心地いい」「この集まりは、少し心地悪い」。理由はあとからでかまいません。心地いい場所と人を少しずつ増やしていくことが、新しい土地での安心の土台になります。

近所づきあいや地域の人間関係の疲れについては、ご近所・地域の人間関係に疲れる理由|感情を言葉にできない大人のつながり直しでも詳しく取り上げています。

ナオさんの「想像する力」|新しい暮らしを描き直す

『感情迷子さんの本』には、地方公務員として働く40代の女性ナオさん(仮名)が登場します。仕事も家事も完ぺきにこなしているのに、全身が重く感じるような疲れを抱えていた方です。

書籍の事例
「夢ですか?……
毎日を無事に終わらせることしか考えていないので……」
場面「将来の夢はありますか?」とたずねられたナオさんの答え。子どもの頃は理想の家を絵に描いたりしたが、「現実を見なさい」と言われて育った。高校生の頃には建築家になりたいという夢を思い描いたものの、いくつものハードルを感じてあきらめた。それ以来、「挑戦をやめてよかった」と思うためにも、今の生活を完ぺきにしようとしてきた。
ナオさんは、期待して裏切られる痛みを避けるために、想像する力に鍵をかけていたのです。映画やドラマを見ても「どうせ作り話だから」と冷めてしまい、心が震える体験から遠ざかっていました。

ナオさんは、カウンセリングで「ありえない空想でもいいんですよ」という言葉を受けとり、少しずつ想像を広げる練習を始めました。最初はすぐに現実的な考えに戻ってしまいましたが、「自由に想像していい」と自分に許可を出したことで、子どもの頃のような空想を楽しめるようになっていきます。そして、「私はもっといろいろなことにチャレンジできるのかもしれない」という気持ちが生まれたそうです。

移住者は「想像の鍵」をかけやすい

ナオさんは移住者ではありません。けれど、新しい土地で暮らす人も、ナオさんと同じように想像力に鍵をかけてしまうことがあります。移住前には、あれほど自由に新しい暮らしを思い描いていたのに。理想と現実のギャップを経験すると、「もう期待しないほうが傷つかない」と、心が想像をやめてしまうのです。心理学では、何かを得る喜びより失う痛みを強く感じる性質を「損失回避」と呼びます。

すると、毎日は「行事をこなす」「失敗しない」「波風を立てない」の連続になり、なぜこの土地を選んだのか、ここでどんな気持ちで暮らしたかったのかが見えなくなっていきます。

「どこに住むか」ではなく「どんな気持ちで暮らしたいか」

『感情迷子さんの本』では、私たちは望む感情を手に入れるために行動していると説明しています。大きな家が欲しいのは、その家で過ごすときのゆったりした気持ちが欲しいから。移住も同じです。私たちが本当に求めていたのは「田舎の家」そのものではなく、そこで感じたかった「のびのびした気持ち」「ほっとする気持ち」「誰かとつながっている温かさ」だったのではないでしょうか。

暮らしを「描き直す」ための問いかけ 条件ではなく、感じたかった気持ちに立ち返る 条件の問い どこに住む? どんな家?どんな仕事? 行事にどこまで出る? ギャップがあると行き詰まりやすい 気持ちの問い ここで、どんな気持ちで 暮らしたかった? それを感じられる場所は? 形を変えても、叶え直せる 自分で描き直した実感が「自己決定感(花)」を育てる
▲ 「どこに住むか」「何をするか」という条件の問いだけで考えると、理想と現実のギャップに行き詰まりやすくなります。「ここでどんな気持ちで暮らしたかったか」という気持ちの問いに立ち返ると、形を変えて叶え直す道が見えてきます。

そう考えると、理想と現実にギャップがあっても、暮らしを描き直すことができます。地域の行事が思ったより大変でも、「ほっとする気持ち」を感じられる場所や時間は、別のところにつくれるかもしれない。想像する力は、新しい暮らしを「やり直す」ためではなく、「描き直す」ための力なのです。そして、自分の暮らしを自分で描き直せたという実感は、自己肯定感の「6つの感」のうち、木の「花」にあたる自己決定感を育てます。

新しい土地で使える感情の言語化ワーク

ここでは、『感情迷子さんの本』の第4章のワークを、移住・Uターン・転勤のあとの暮らしに合わせて作り直して紹介します。どれも短い時間でできるものばかりです。

ワーク1|1分|五感スイッチ
朝の散歩や窓辺で、この土地を「感じる」

朝の1分、窓を開けたり家の前に出たりして、見えるもの、聞こえる音、におい、空気の温度、足元の感触に一つずつ「心地いい?心地悪い?」と問いかけます。「鳥の声は心地いい」「湿気は少し心地悪い」「よくわからない」でもかまいません。選んだ土地を「こなす場所」ではなく「感じる場所」に戻すワークです。

ワーク2|すきま時間|もしもタイム
小さな「もしも」で想像の回路をひらく

運転中や家事の合間に、「もし明日1日、何の予定もなかったら、この町で何をする?」と小さな「もしも」を考えてみます。「もし近所に一軒だけお店を開けるとしたら?」でもかまいません。大きな夢ではなく、安全で小さな空想から始めるのがポイントです。

ワーク3|5分|未来日記
「1年後、この土地でどんな気持ちで暮らしていたい?」

週末の5分を使って、1年後の自分がこの土地でどんな気持ちで毎日を過ごしていたいかを日記のように書きます。予定や目標ではなく、感情にフォーカスするのがポイントです。「朝、縁側でコーヒーを飲みながら、ほっとしている」「近所の人と立ち話をして、くすっと笑っている」。五感を使って書くと、想像しやすくなります。

ワーク4|1分|3段階温度計
行事のあとの「疲れ」に強さをつける

地区の集まりや行事のあと、感じた気持ちに「ちょっと・そこそこ・すごく」のどれかを選びます。「そこそこ緊張した」「ちょっとうれしかった」「すごく疲れた」。強さがわかると、次に参加するときの心づもりや、休む判断がしやすくなります。

ワーク5|随時|子どもの空想に全力で乗る
子どもの「ここで○○したい!」に乗ってみる

子どもと一緒に移住した方は、子どもが「裏山に秘密基地をつくりたい」「川で魚を手づかみしたい」と言ったら、現実的な心配をいったん脇に置いて「いいね!どんな基地にする?」と全力で乗ってみてください。子どもの空想に乗ることは、大人の想像力を取り戻す練習にもなります。子どもがいない方は、パートナーや友人の「いつか○○したい」に乗ってみましょう。

言葉にすると、気持ちは落ち着く

気持ちに名前をつけることには、心を落ち着かせる働きがあります。今の気持ちに「緊張」「心細い」などと名前をつけると、不安や恐怖に関わる扁桃体の活動が下がることが、リーバーマン(Lieberman)らの研究(2007年)で報告されています。正確な言葉でなくてもかまいません。「モヤモヤ」「ずっしり」のようなオノマトペでも、気持ちのラベルになります。

家族のなかの温度差|パートナー・子どもと気持ちを分け合う

家族で移住した場合、家族のなかで「なじみ方」に差が出ることがよくあります。子どもはすぐに友だちができた。パートナーは仕事で地域の人と関わる機会がある。自分だけが、家と行事の往復で孤立している。あるいはその逆もあります。

この温度差は、言葉にしないままでいると、「私だけが我慢している」「あなたは楽しそうでいいね」という気持ちのかたまりになり、ある日、爆発することがあります。移住を言い出したのがどちらかによっても、言いにくさは変わります。言い出した側は「自分のせいで」と、ついてきた側は「今さら言っても」と、それぞれ言葉を飲み込みやすいのです。

「よかった」と「つらい」を両方言っていい

家族で話すときは、「よかったこと」と「つらいこと」を、両方セットで話すことを意識してみてください。「景色は本当に好き。でも、地区の集まりはそこそこしんどい」。両方を言えることで、相手は「移住そのものを否定されている」と感じずに、つらさのほうにも耳を傾けやすくなります。

言葉を飲み込んだとき気持ちを添えたとき
「別に、大丈夫」「大丈夫なところもあるけど、行事の前はそこそこ緊張してる」
「あなたはいいよね」「あなたが地域になじんでいてうれしい。でも、私はちょっと置いていかれた気がしてる」
(黙って行事に出る)「今月は二つとも出るのはしんどい。一つはお願いできる?」

子どもの「つまんない」にも耳を澄ます

子どもも、新しい環境のなかで言葉にならない気持ちを抱えていることがあります。「つまんない」「別に」「前の学校のほうがよかった」。そんなときは、すぐに「そのうち慣れるよ」と返すのではなく、「前の友だちに会いたくなるよね」「新しいところって、そわそわするよね」と、気持ちの候補を差し出してみてください。親自身が自分の気持ちを言葉にしている姿は、子どもにとって何よりのお手本になります。

中島輝より一言

新しい土地で頑張っている方ほど、「つらい」と言うことを、自分への裏切りのように感じてしまいます。でも、つらさを言葉にすることは、選択を否定することではありません。むしろ、自分の気持ちを丁寧に扱える人ほど、その土地を長く好きでいられると、私は感じています。「よかった」と「つらい」は、同じ心の中に並んでいていいのです。

ひとりで抱えない|移住相談窓口・移住者のネットワーク・心の相談

新しい土地で心が疲れたとき、その気持ちを話せる相手を、地域の内と外の両方に持っておくことが助けになります。地域の人には言いにくいことも、同じ立場の人や、外の窓口になら話せることがあります。

相談先1
自治体の移住相談窓口・移住コーディネーター

多くの自治体には、移住を担当する窓口や、移住者の暮らしを支えるコーディネーターがいます。移住前の相談だけでなく、移住後の暮らしの困りごとや、地域とのつきあい方の相談に乗ってくれることもあります。「行事のことで迷っている」「誰に聞けばいいかわからない」という段階で相談してかまいません。

相談先2
移住者どうしのネットワーク・地域おこし協力隊のつながり

同じように外から来た人どうしのつながりは、心強い支えになります。地域によっては、移住者の交流会や、地域おこし協力隊の経験者を中心としたネットワークがあります。「それ、私も最初は戸惑った」というひと言は、どんなアドバイスよりも心を軽くしてくれるものです。

相談先3
心と体の相談先

眠れない、食欲がない、何をしても楽しくない、頭痛や胃の不調が続くといった状態が長く続くときは、かかりつけ医や心療内科・精神科、地域の保健センターの保健師、精神保健福祉センターに相談してください。新しい土地では「どこに行けばいいかわからない」こともあるので、役所や移住相談窓口で聞いてみるのも一つの方法です。

元の土地とのつながりも大切に

新しい地域になじもうとするあまり、元の土地の友人や家族とのつながりを断ってしまう人もいます。けれど、昔からの友人に「実はちょっと疲れてる」と話せることは、新しい土地で頑張るための大切な支えです。オンラインで話すだけでもかまいません。内閣府の「人々のつながりに関する基礎調査」では、孤独感が「ある」と答えた人は約4割にのぼります。新しい土地でさみしさを感じるのは、決してあなただけではありません。孤独や孤立については「さみしい」と言えない大人たち|孤独・孤立とアレキシサイミアの深い関係も参考にしてください。

よくあるご質問

自分で選んで移住したのに、つらいと感じる自分が情けないです。
自分で選んだからこそ、つらさを認めにくいのは自然なことです。新しい土地で疲れを感じるのは、環境の大きな変化に心が一生懸命対応しているしるしです。「よかった」と「つらい」は同時にあっていい気持ちです。どうか自分を責めないでください。
地域の行事や役をすべて引き受けるべきでしょうか?
地域によって考え方はさまざまなので、一律の正解はありません。まず自分の気持ちに「心地いい・負担」の2択で問いかけ、そのうえで、移住相談窓口や先に移住した人、信頼できる地域の方に相談してみてください。できないことを「今は難しい」と伝えることも、長くつきあうためには大切です。
Uターンで地元に戻りましたが、昔の自分として見られるのがつらいです。
Uターンには、移住とは違う難しさがあります。地元の人にとっては「昔のあなた」の印象が強く、今のあなたを知ってもらうには時間がかかるものです。自分の今の気持ちや考えを、少しずつ言葉にして伝えていくことで、関係は更新されていきます。
転勤で来た土地で、どうせ数年しかいないと思うと、なじむ気になれません。
その気持ちも大切な感情です。無理になじもうとする必要はありません。ただ、「どうせ」と思うことで、心地いい場所や人に出会う機会まで閉ざしてしまうのはもったいないことです。小さな「もしも」で、この土地で楽しめそうなことを一つ想像してみてください。
気持ちが沈んだ状態が続いています。どこに相談すればいいですか?
眠れない、何をしても楽しくない状態が続くときは、かかりつけ医や心療内科・精神科、地域の保健センターの保健師、精神保健福祉センターに相談してください。新しい土地で相談先がわからないときは、役所や移住相談窓口に聞いてみましょう。
新しい土地で疲れるのは、
あなたが一生懸命、暮らしをつくっているから。
まず気持ちに名前をつけてから、地域とつながろう。
「よかった」と「つらい」は、同じ心に並んでいていい。
想像する力で、この土地での暮らしを描き直していけます。

自分を大切にしよう

地方移住やUターン、転勤でなじみのない地域に来たとき、心が疲れるのは、あなたが移住に向いていないからではありません。地域行事や回覧板、よそ者感、暗黙のルール。初めてのことが一度に押し寄せると、心は処理するだけで手いっぱいになり、自分の気持ちを見分けて言葉にする余裕を失いやすくなるのです。そこに「せっかく来たのだから」という思いが重なると、つらさはますます言葉にならなくなります。

だからこそ、順番を入れ替えてみてください。まず自分の気持ちに名前をつけ、心地いいことと負担なことを見分けてから、地域とのつながり方を選ぶ。「疲れた」の中身を分けてみる。行事のあとに3段階で強さをつける。五感でこの土地を感じ直す。ナオさんのように、小さな「もしも」や未来日記で、ここでどんな気持ちで暮らしたいかを描き直す。家族とは「よかった」と「つらい」を両方話す。そして、移住相談窓口や移住者のネットワーク、心の相談先を頼ってください。

新しい土地で暮らしをつくっているあなたは、それだけで大きな挑戦を続けています。その挑戦のなかで感じている緊張も、心細さも、ふとしたうれしさも、すべてあなたの大切な気持ちです。自分を大切にしよう。自分の気持ちを言葉にできるようになるほど、あなたは自分らしいかたちで、この土地とつながっていけます。

相談できる窓口
お住まいの自治体の移住相談窓口・保健センターの保健師・精神保健福祉センター
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • 内閣府「人々のつながりに関する基礎調査」
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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