「わかりません」としか言わない生徒の心の中|塾・習い事の講師が知りたい感情の言語化

「わかりません」としか言わない生徒の心の中|塾・習い事の講師が知りたい感情の言語化

「わかりません」としか言わない生徒の心の中
塾・習い事の講師が知りたい感情の言語化

個別指導のブースで、解説をひと通り終えて「ここまで大丈夫?」と聞く。返ってくるのは「……わかりません」。どこがわからないのかを聞いても、また「わかりません」。ピアノのレッスンで「今の演奏、自分ではどうだった?」と聞いても、うつむいたまま固まってしまう。結論からお伝えすると、その「わかりません」は学習内容ではなく、自分の気持ちがわからないというサインであることが少なくありません。1対1で生徒と向き合う講師だからこそできる関わり方を、順番にお話しします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「わかりません」の中に隠れているもの

よくある相談の典型例
「説明を変えても、
返事はずっと『わかりません』なんです」
場面30代・個別指導塾の数学講師。中学2年の女子生徒は、宿題はきちんとやってくる。けれど授業中に質問すると「わかりません」、どこまでわかったかを聞いても「わかりません」。別の解き方を見せると、ノートには正しく写す。小テストの点数も悪くない。それなのに、毎回の授業の最後は「わかりません」で終わる。
この生徒は、内容が理解できていないわけではなさそうです。「間違えたら恥ずかしい」「何を聞かれているのかわからなくて焦る」「先生をがっかりさせたくない」。そうした気持ちが混ざり合い、名前のつかないまま「わかりません」という一言になって出てきている可能性があります。

塾や習い事の講師の方から、「わからない」と言う生徒への対応に悩んでいるという声をよく聞きます。説明を工夫しても変わらない。問題を易しくしても同じ答えが返ってくる。そのうち、講師のほうが「自分の教え方が悪いのか」と自信をなくしてしまうこともあります。

ここで一度、視点を変えてみてください。「わかりません」には、少なくとも2種類あります。一つは、学習内容がわからない「わからない」。もう一つは、今の自分の状態や気持ちがわからない「わからない」です。後者は、どれだけ丁寧に教え方を変えても解消しません。必要なのは説明ではなく、気持ちに目を向ける関わりなのです。

「わかりません」は、問題の答えではなく、
今の自分の気持ちを説明できない、
という答えかもしれません。

「学習のわからない」と「気持ちのわからない」を見分ける

二つの「わからない」は、外から見ると同じ言葉です。けれど、よく観察すると違いが見えてきます。次の表を、授業やレッスン中の観察の目安にしてみてください。

観察のポイント学習の「わからない」気持ちの「わからない」
どこでつまずくか特定の単元・技術で止まる単元に関係なく、質問されると止まる
ヒントを出すと少しずつ進めるヒントを出しても固まったまま
一人で解かせると同じところで間違える意外と解ける・弾ける
体の様子考えこんで手が止まる顔がこわばる、呼吸が浅い、手をぎゅっと握る
出やすい時期新しい単元・難しい曲テストや発表会の前、面談の前後、家で何かあったとき
「わかりません」を聞いたときの見分けかた いきなり説明をやり直す前に、ひとつだけ確かめる 「わかりません」 「一人でやってみて」と少し離れると、進む? 進まない 進む 学習の「わからない」 つまずいた一歩手前まで戻る 説明・教材を工夫する 気持ちの「わからない」 説明を止めて、体と強さを聞く 「今、緊張はちょっと?すごく?」
▲ 講師がそばで見ているときだけ「わかりません」が出るなら、内容より「見られている」「間違えたくない」という気持ちが関わっている可能性があります。もちろん両方が混ざっていることも多いので、決めつけずに様子を見てください。

見分けるためのいちばん簡単な方法は、講師が少し距離をとってみることです。「3分だけ一人でやってみて。先生はあっちで採点してるね」と離れてみる。それで手が動き出すなら、内容はある程度わかっていて、「見られている緊張」や「間違えることへの恐れ」が言葉を止めていた可能性があります。

もう一つは、問いの形を変えることです。「わかった?」「どこがわからない?」という質問は、生徒にとって「わかっていない自分」を説明させられる問いでもあります。代わりに、「この問題、ちょっと難しい?そこそこ?すごく難しい?」と強さを選んでもらう。言葉を選ぶ負担が減るだけで、答えが返ってきやすくなります。

アレキシサイミアと感情迷子さん|教室で見える4つのタイプ

自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。「感情がない」という意味ではなく、感情は生まれているのに、それをつかまえて名前をつけるところがうまくいかない状態です。基本的な考え方はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。

研究によって幅はありますが、一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向があるといわれます。週に何十人もの生徒を受け持つ講師なら、その中に何人かいても不思議ではありません。ただし病名ではありません。DSM-5やICD-11に独立した診断名としては載っておらず、誰もが持っている特性の「濃い・薄い」と考えられています。

私はこの状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』で使っている言葉で、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を指します。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。今は道に迷っていても、気持ちとつながる道は必ず残っているのです。

タイプ塾・習い事で見えやすい姿講師のかかわりのヒント
タイプ1
感情がわからない
検定や発表会の前に腹痛・頭痛。「緊張してる?」と聞くと「してないです」。気持ちではなく体を聞く。「手、冷たくなってない?」
タイプ2
感情を説明できない
悔しそうな顔なのに「別に」「何でもないです」。振り返りシートが一言で終わる。正確な言葉を求めず、音・強さ・たとえで答えてもらう。
タイプ3
感情に興味がない
点数や順位には反応するが、「楽しい?」と聞くと「意味がわからない」。理屈を否定せず、「この曲の作曲者は、どんな気分で書いたと思う?」と分析として問う。
タイプ4
想像できない
「志望校は?」「どんなふうに弾きたい?」に答えられない。答え合わせのない「もしも」から入る。「もし合格したら、最初に何をする?」

書籍原稿には、20代のハヤトさん(仮名)が登場します。何かあったのは明らかなのに、聞かれると「別に、何でもないよ」と答えてしまう。タイプ2の典型です。生徒の「別に」「わかりません」も、ごまかしではなく、本人にとってそれがいちばん正直な答えであることが多いのです。

1対1の講師だからできること

塾や習い事の講師と生徒の関係は、学校の先生とも、親とも違います。この違いは、感情の言葉を育てるうえで大きな強みになります。

  • 評価から少し離れている:通知表や内申をつける立場ではないので、生徒は弱みを見せやすい
  • 1対1や少人数の時間がある:クラスメイトの目を気にせずに話せる
  • 長く続く関係が多い:小学生から高校生まで、同じ講師に習い続けることもある
  • 「好き」から始まった場所である:習い事の多くは、もともと本人が興味を持って始めたもの
  • 親でも先生でもない「ななめの大人」:家や学校では言えないことを話せる相手になりうる

思春期の子どもにとって、親や学校の先生は「縦の関係」です。友だちは「横の関係」。そのどちらでもない「ななめの関係」の大人は、子どもが安心して本音を出せる貴重な存在です。毎週同じ時間に会い、同じブースや同じピアノの前で向き合う。その積み重ねが、生徒にとって「ここでは気持ちを言ってもいい」という感覚を育てていきます。

中島輝より一言

私が小学生のとき、週に一度家に来てくれる家庭教師の先生がいました。先生と一緒に夕飯を食べるのが、私はとても楽しみでした。その先生は、ローマ字の勉強だといって、出来事を1行、感想を1行、ローマ字で日記に書かせてくれたのです。「散歩に行って、飼っていた犬が元気になった。嬉しかった」というような、ごく簡単な日記です。先生は1週間分を見ながら「へえ、こういうことがあったんだね。嬉しかったね」と言ってくれました。感想が思いつかない日に「何も感じなかったの?」と聞かれて「うん」と答えると、「じゃあ、何も感じなかったと書いたらいいよ」。そうか、それでもいいんだ、と思いました。当時はローマ字の練習のつもりでしたが、書いたものを見てもらえたことで気持ちが落ち着き、感情を言葉にする力の土台になったと、今になって感じています。

この体験からお伝えしたいのは、講師の方が特別なカウンセリングをする必要はないということです。教科の学習の中に、ほんの1行、気持ちを書く余白をつくる。そしてそれを読んで、「そうだったんだね」と返す。それだけで、生徒の中に気持ちを言葉にする習慣が育っていきます。「何も感じなかった」と書いてもいい、という安心感もセットで伝えてあげてください。気持ちを書き出すことで心の負担が軽くなることは、筆記開示の研究(Pennebaker)でも示されています。

授業の最後の1分でできる「出来事+気持ち」の1行

WORK 1|1分|学習塾・家庭教師
今日の授業を「出来事1行+気持ち1行」で

授業ノートの最後に、「今日やったこと」と「そのときの気持ち」を1行ずつ書いてもらいます。「関数のグラフをかいた。最初はモヤモヤ、最後はちょっとスッキリ」。気持ちの行は空欄でも「何も感じなかった」でもOKにしておきます。

WORK 2|30秒|ピアノ・音楽
今日の演奏を音の言葉で

弾き終えたあと、「今の演奏を音で表すと?」と聞きます。「ガタガタ」「するっと」「ドキドキ」。書籍原稿の「今日のオノマトペ」を、レッスン向けにしたものです。演奏の評価ではなく、弾いていたときの自分の感じを聞くのがポイントです。

WORK 3|3秒|スイミング・スポーツ
泳ぐ前の心の体温チェック

プールに入る前、手のひらを胸に当てて「今、体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞きます。水の冷たさとは別に、胸の中が熱い・冷たいを感じ分ける練習になります。進級テストの日の緊張を、自分で気づけるようになっていきます。

WORK 4|1分|英会話・語学
気持ちの単語を一つ増やす

英会話では「How are you?」に「I’m fine.」で終わりがちです。そこで、今日の気分にいちばん近い単語を一つ選んでもらいます。tired、nervous、excited、bored。母語より外国語のほうが、かえって気持ちを口にしやすい子もいます。日本語ではどう言うかも、あわせて聞いてみてください。

成績面談・発表会・検定の前後に起きていること

塾や習い事には、生徒の気持ちが大きく揺れる「節目」があります。成績面談、模試の結果返却、ピアノの発表会、英検や漢検、スイミングの進級テスト。この前後は、感情を言葉にしにくい生徒にとって特に負担の大きい時期です。

節目の前に出やすいサイン

  • 検定や発表会の数日前から、遅刻や欠席が増える
  • 「おなかが痛い」「頭が痛い」と言ってレッスンを早退する
  • 練習量が急に増える、または急にまったく練習しなくなる
  • 「どうせ落ちる」「別にどうでもいい」と投げやりな言葉が増える
  • ふだんは笑っているのに、その話題になると表情が固まる

こうしたサインは、緊張や不安が言葉にならないまま、体や行動に出ているものと考えられます。体調不良が続く場合は、まず保護者に伝えて医療機関で確かめてもらうことが大前提です。そのうえで、「緊張してる?」ではなく「今、手は冷たい?温かい?」と体の言葉で聞くと、答えが返ってきやすくなります。

結果が出たあとの声かけ

結果が出たあと、講師はつい結果の分析から入りがちです。「ここで点を落としたね」「次はこの曲のここを練習しよう」。もちろん大切なことですが、その前に、結果に対する生徒の気持ちを一度言葉にする時間をとってみてください。

結果から入る声かけ気持ちを通す声かけ
「偏差値が5下がったね。原因を分析しよう」「結果を見たとき、どんな感じがした?……ちょっと?すごく?そっか。じゃあ、次に向けて一緒に見てみよう」
「発表会、途中で止まったところを直そう」「弾き終わったとき、胸はどんな感じだった?止まったところ、悔しかったよね」
「合格おめでとう。次の級に進もう」「合格した瞬間、どんな気持ちだった?そのうれしさ、少し味わってから次の話をしよう」

感情に名前をつけるだけで、脳の扁桃体(不安や怒りに反応する警報装置のような部分)の活動が落ち着くことが、研究で示されています(Lieberman et al., 2007)。気持ちを言葉にした生徒ほど、結果の分析にも落ち着いて向き合えるのです。うれしい結果のときこそ、喜びを言葉にする練習のチャンスでもあります。

「やめたい」と言い出したとき

習い事や塾をやめたい、と生徒が言い出すことがあります。講師としては残念な気持ちになるのも当然です。けれど、感情を言葉にしにくい生徒の「やめたい」は、本当にやめたいのではなく、言葉にならない何かを伝えるための精一杯の一言であることがあります。

「やめたい」の中には、たとえばこんな気持ちが混ざっていることがあります。

  • 発表会や検定のプレッシャーがこわい
  • 友だちに抜かれて、悔しくて恥ずかしい
  • 本当は部活や別のことをやりたい
  • 親の期待に応えられない自分がつらい
  • 講師や教室の誰かとの関係で、言えないことがある
  • 疲れていて、とにかく休みたい

このとき、すぐに「もったいないよ」と引きとめたり、「そう、じゃあ親御さんと相談して」と手続きの話に進んだりすると、その奥にある気持ちに触れる機会を逃してしまいます。まずは「そう思うくらい、何かしんどいことがあるんだね」と受け止める。そのうえで、「やめたい気持ちは、ちょっと?そこそこ?すごく?」と強さを聞いてみてください。

「やめたいと言ってくれてありがとう。どっちに決めても先生は応援する。その前に、やめたいと思ったのはどんなときだったか、少しだけ教えてくれる?」
「やめたい」と言われたときの声かけの例

結論を急がず、「やめたいと思った場面」を一緒に探すことで、本当の気持ちが見えてくることがあります。そのうえでやめると決めたなら、それも本人が自分の気持ちで選んだ大切な決断です。

自己肯定感の「6つの感」でいえば、自分で決めたという感覚は、木の花にあたる自己決定感を育てます。続けるにしてもやめるにしても、自分の気持ちを言葉にしたうえで選べた経験は、その子の自己肯定感の土台に残ります。大人が「やめる=失敗」と決めつけないことが、何より大切です。

実際の現場では、「やめる」と「続ける」のあいだにある選択肢を示すことも役に立ちます。1か月だけ休会する、検定の受験を見送って好きな曲だけ弾く期間をつくる、通う回数を減らす。選択肢が2つしかないと、気持ちを言葉にしにくい生徒は「じゃあ、やめる」と極端な答えを選びがちです。いくつかの道を並べて、「どれがいちばん、ほっとする?」と体の感覚で選んでもらうと、本人の気持ちに近い答えが見つかりやすくなります。

保護者面談で、子どもの気持ちを「通訳」する

塾や習い事の講師には、保護者面談という大切な場面があります。成績や上達の報告に加えて、ぜひ意識してほしいのが、子どもが言葉にできていない気持ちを、講師が代わりに言葉にして保護者に届けるという役割です。私はこれを、気持ちの「通訳」と呼んでいます。

講師は、子どもと保護者のあいだの「気持ちの通訳」 事実(観察)+気持ちの推測+提案、の3点セットで伝える 生徒 「わかりません」 「別に」 言葉にならない気持ち 講師 ①見た事実 ②気持ちの推測 ③家でできる提案 決めつけずに届ける 保護者 「やる気がない?」 「何を考えてるのか」 見えない不安 生徒本人が「言わないで」と言ったことは伝えない。信頼がいちばんの土台
▲ 講師は、教室で見た生徒の様子を、保護者が受け取りやすい言葉に置きかえて届けることができます。ただし、気持ちはあくまで「推測」として伝え、本人との約束を守ることが前提です。

3点セットの伝え方

STEP 1|見た事実
「最近、模試の前の授業で、手が止まることが増えています」

まずは評価を入れずに、教室で実際に見たことを伝えます。「やる気がない」「集中力がない」という言葉は使わないのがポイントです。

STEP 2|気持ちの推測
「もしかすると、結果への不安が大きいのかもしれません」

気持ちはあくまで推測として、「かもしれません」で伝えます。子どもが言えずにいる気持ちに、講師が仮の名前をつけてあげるイメージです。

STEP 3|家でできる提案
「お家では、結果よりも『疲れてない?』と声をかけてあげてください」

最後に、保護者が家でできる小さなことを一つだけ提案します。保護者を責めるのではなく、一緒に子どもを支える仲間として話す姿勢が大切です。

保護者の多くは、子どもの成績や上達だけでなく、「うちの子は何を考えているんだろう」という不安を抱えています。講師が気持ちを通訳することで、保護者は子どもの「わかりません」の奥にあるものに気づけるようになります。中学受験や思春期の親子の関わりについては、中学受験・思春期の子が「何も感じない」と言うとき|感情迷子さんと親の関わり方でもくわしく書いています。

なお、面談の中で、家庭での強い叱責や、眠れない・食べられないなどの状態が続いていることがわかった場合は、講師一人で抱えないでください。教室の責任者と共有し、必要に応じて学校のスクールカウンセラーや医療機関への相談をすすめるなど、専門家につなぐことも講師の大切な役割です。

講師自身の感情|結果を求められる仕事の疲れ

最後に、講師の方ご自身の気持ちにも目を向けてみてください。塾や習い事の講師は、生徒の結果がそのまま自分の評価に結びつきやすい仕事です。合格実績、検定の合格率、発表会の出来。保護者からの期待、教室の方針、退会を防ぐプレッシャー。個人で教室を開いている方なら、経営の不安も重なります。

そんな中で、講師もまた「感じる前に次へ進む」ことをくり返しています。生徒の前では常に明るく、保護者の前では落ち着いて、不合格の報告を受けた日も次の授業では笑顔で。感情を整え続ける仕事は、知らないうちに自分の気持ちを見えにくくしていきます。

  • 生徒が合格しても、うれしさより「ほっとした」しか感じない
  • 「わかりません」と言われると、以前よりイライラする
  • 授業のない日も、生徒の成績のことが頭から離れない
  • 自分の教え方に自信が持てなくなってきた
  • 生徒がやめると、自分が否定されたように感じる

当てはまる項目があっても、講師失格ということではありません。それだけ真剣に生徒と向き合ってきた証拠です。おすすめしたいのは、授業のあとに「感情だけ日記」をつけることです。今日の授業内容ではなく、「〇〇さんが初めて質問してくれてうれしかった」「保護者面談で緊張した」と、感じたことだけをメモします。

そしてもう一つ。講師同士で「しんどさ」を言葉にする場を持つことです。同じ教室の講師、同じ楽器の先生仲間など、技術や合格実績の話だけでなく、「最近どう?」と言い合える関係があるだけで、一人で抱え込まずにすみます。自分の気持ちに名前をつけられる講師は、生徒の気持ちにも気づきやすくなります。

よくあるご質問

「わかりません」が学習の問題か気持ちの問題か、見分けがつきません。
両方が混ざっていることも多いので、無理に見分けなくてもかまいません。まず講師が少し離れて一人で取り組ませてみる、強さを選ぶ質問に変えてみる、という2つを試してください。それで反応が変わるなら、気持ちが関わっている可能性があります。学習面での困りごとが続く場合は、保護者と相談し、学校や専門機関とも連携してください。
授業時間が限られていて、気持ちを聞く余裕がありません。
長い時間は必要ありません。授業の最後の1分で「出来事1行+気持ち1行」を書く、レッスン後に音の言葉で一言聞く、といった短い方法で十分です。毎回同じ形で続けることで、生徒の中に気持ちを振り返る習慣が育っていきます。
保護者面談で、子どもが話した気持ちを伝えてもいいですか?
本人が「言わないで」と言ったことは、原則として伝えないでください。信頼関係が崩れると、生徒は二度と本音を話さなくなります。伝えるときは、教室で見た事実と講師の推測として話し、本人の言葉をそのまま引用しない工夫をしましょう。ただし、本人の安全に関わる内容は、教室の責任者と相談したうえで保護者や専門家と共有してください。
「やめたい」と言う生徒を引きとめるべきでしょうか?
引きとめるか送り出すかより先に、「やめたい」の奥にある気持ちを一緒に探すことをおすすめします。プレッシャー、悔しさ、疲れ、人間関係など、理由がわかれば、休会や目標の変更など別の選択肢が見えることもあります。そのうえでやめると決めたなら、本人の決断を尊重し、「よく自分で考えたね」と伝えてあげてください。
「わかりません」に、
説明を足す前に、気持ちを聞いてみる。
1対1の時間は、感情の言葉を育てる場所になります。
出来事1行、気持ち1行。
その小さな余白が、生徒の一生の力になるかもしれません。

自分を大切にしよう

「わかりません」としか言わない生徒は、怠けているわけでも、講師を困らせたいわけでもありません。学習内容ではなく、自分の気持ちがわからないために言葉が止まっていることがあります。少し距離をとる、強さを選ぶ質問に変える。それだけで、生徒の反応が変わることがあります。

塾や習い事の講師は、評価から少し離れた「ななめの大人」として、生徒が安心して気持ちを出せる存在になれます。授業の最後の1行、レッスン後の音の言葉、検定や発表会の前後の体の質問、「やめたい」の奥にある気持ちへのまなざし。そして保護者面談では、子どもが言えずにいる気持ちを、事実と推測と提案の3点セットで通訳してあげてください。

私自身、家庭教師の先生が見てくれたローマ字の日記に救われた子どもでした。「何も感じなかったと書いたらいいよ」という一言は、今も心に残っています。だからこそ、講師の皆さんにお伝えしたいのです。自分を大切にしよう。生徒も、保護者も、そして毎日真剣に教えている講師自身も。教える仕事の中で生まれる喜びも疲れも、言葉にしていいのです。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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