役職定年・50代で「やる気が出ない」とき|ミドルシニアのための感情の言語化とキャリアの再設計

役職定年・50代で「やる気が出ない」とき|ミドルシニアのための感情の言語化とキャリアの再設計

役職定年・50代で「やる気が出ない」とき
ミドルシニアのための感情の言語化とキャリアの再設計

4月から肩書きが外れた。席はそのままでも、会議の招集メールが届かなくなった。かつての部下だった課長から「これ、お願いできますか」と頼まれる。家では妻に「最近、怒りっぽいね」と言われ、自分でも理由がわからない。もし思い当たるなら、結論から申し上げます。その「やる気が出ない」は怠けではなく、言葉にできていない喪失感が形を変えて出てきたものかもしれません。役職定年や再雇用の前後にいる50代の方に向けて、感情の言語化とキャリアの再設計をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

結論|「やる気が出ない」の正体は、言葉にならない喪失感である

最初に、この記事の結論を3つにまとめます。

結論1
肩書きを失うことは、心にとって「喪失体験」である

役職定年は制度上の出来事ですが、心にとっては、長年かけて築いてきた立場や役割、人間関係を手放す出来事です。そこには悲しみ、悔しさ、さみしさ、不安が当然生まれます。それを感じるのは、まったく自然なことです。

結論2
言葉にされない喪失感は、怒りっぽさや無気力として表に出る

「男は弱音を吐くな」と育った世代ほど、喪失感を喪失感として感じとることが難しくなります。行き場をなくした感情は、イライラ、無気力、体の不調、お酒の量の増加という別の出口から出てきます。

結論3
感情を言葉にすると、次のキャリアが見えてくる

何を失ってつらいのかがわかると、自分が本当に大切にしてきたものがわかります。そこから、肩書きの外で役に立てる場所が見えてきます。この記事の後半で、未来日記を使った再設計のやり方を紹介します。

ここで使う「感情迷子さん」とは、中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉で、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を指します。心理学では「アレキシサイミア(失感情症)」と呼ばれ、一般の人の約10〜16%に強い傾向が見られるとされています。感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態です。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで詳しく解説しています。

そして、大きな喪失や長く続くストレスのあとに、心が自分を守るために感情の回路を一時的に絞ることがあります。これは「2次性アレキシサイミア」と呼ばれ、状況が落ち着くと薄れていくことが多いとされています。今の「何も感じない」「やる気が出ない」は、取り戻せる状態なのです。

肩書きを失うことは、小さくない「喪失体験」

約3割
従業員500人以上の企業のうち、役職定年制を導入している企業の割合
出典:人事院「民間企業の勤務条件制度等調査」(平成29年)公的調査

大企業を中心に、一定の年齢で管理職を退く役職定年制は広く取り入れられています。さらに、高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保が企業に義務づけられ、2021年からは70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。50代のうちに肩書きが外れ、そこから10年、15年と働き続ける。それが、今の50代にとっての標準的なキャリアになりつつあります。

制度としては合理的です。けれども、本人の心の中では、制度の説明だけでは片づかないことが起きています。

失ったものその奥にある感情
部長・課長という肩書き自分が何者なのかわからなくなる心細さ
意思決定の場への参加必要とされていないのではという不安、さみしさ
部下を育て、チームを動かす役割手応えを失ったむなしさ
給与の一部家族に申し訳ない気持ち、将来への不安
社内での「顔の広さ」周りの態度が変わったことへの悔しさ、恥ずかしさ

表の右側にある感情は、どれも自然なものです。ところが多くの方は、これらを「仕方ない」「制度だから」「みんな通る道だ」という言葉で、感じる前に処理してしまいます。頭では納得している。だからこそ、心のほうに残った感情は行き場を失うのです。

喪失のあとには、心を守るシャットダウンが起きる

大切なものを失ったとき、心は耐えきれない痛みから自分を守るために、感じる回路を一時的に絞ることがあります。うつ病の初期に「何も感じない」「無感動になった」と訴える人が多いのも、この働きと関係しています。役職定年のあとに「やる気が出ない」「何をしても面白くない」と感じるのは、心が弱いからではなく、心が自分を守ろうとしているのです。

ただし、その状態が長く続くと、本当の気持ちに触れられないまま時間だけが過ぎていきます。シャットダウンは、一時的な避難所であって、ずっと暮らす場所ではありません。

年下の上司のもとで働くとき、心の中で起きていること

役職定年や再雇用のあと、多くの方がかつての部下や、ずっと年下の社員を上司として働くことになります。これは特定の方ではなく、よくある相談の典型例です。

よくある相談の典型例
「別に、気にしていませんよ。
あいつは優秀ですから」
場面50代後半の男性。元営業部長で、役職定年後は同じ部の担当者として働いている。上司は、かつて自分が採用面接をした40代の課長。課長の指示に従うことには「何の問題もない」と言う。けれども話を続けるうちに、「会議で自分の意見がスルーされたとき、帰りにひとりで飲んで帰った」「最近、妻にきつく当たってしまう」と、ぽつりぽつりと出てきた。
この方は、年下の上司を認めていないわけではありません。認めている気持ちと、悔しさやさみしさが、同時に存在しているのです。感情は1つとは限りません。「認めている」と「悔しい」は矛盾せず、どちらも本当の気持ちです。その一方だけを言葉にし、もう一方を封じたとき、封じられた感情は別の場所で出口を探します。

混ざった感情を、混ざったまま言葉にする

心理学者のレイン(Lane)とシュワルツ(Schwartz)は、感情の気づきには段階があり、成熟した段階では「うれしいけれど、さみしい」のような混ざった感情を見分けて言葉にできると考えました。年下の上司のもとで働く心は、まさにこの「混ざった感情」の状態です。

「課長の判断は正しいと思う。でも、自分が決めていたころを思い出して、少しさみしい」。こう言葉にできると、どちらの感情も否定せずにすみます。そして、さみしさを認めたほうが、かえって課長を素直に支えられるようになることが多いのです。

年下の上司に使える「共感の一言」

本で紹介しているワーク「共感の一言」は、正しいことを言いたくなったら、まず共感の言葉を先に出すというものです。経験の長い方ほど、年下の上司のやり方に「それは違う」と言いたくなる場面があるでしょう。そのときは、「難しい判断だったね」「板挟みで大変だよね」と一言置いてから、経験にもとづく意見を伝えてみてください。同じ助言でも、相手の受けとり方がまったく変わります。それは、あなたの経験が組織に生きる、もっとも確かな形です。

「男は弱音を吐くな」で育った世代の感情の扱い方

今の50代が子どもだったころ、「男の子なんだから泣かない」「弱音を吐くな」という言葉は、ごく当たり前に使われていました。会社に入ってからも、「24時間戦えますか」という時代の空気の中で、感情を見せずに働くことが、一人前の証とされてきました。

本に登場する50代の経営者、ケンジさん(仮名)は、幼いころから「泣くのは無能の証拠」と教え込まれ、「泣いている暇があったら解決策を探す」ことを信じて生きてきた方でした。20代で起業し、社員100名を超える会社に育て上げた。けれども、ある時期から「最近、何のために働いているのかわからなくなった」という虚無感を抱えるようになったのです。

本では、ケンジさんについて「ノイズとして感情を切り捨てると同時に、『人生の彩り』という最大の報酬まで捨ててしまっていた」と書かれています。私はケンジさんに、「今のあなたに必要なのは、効率の悪い無意味な時間かもしれませんね」と伝えました。自分の感情そのものに価値があると思えたとき、ケンジさんははじめて涙をこぼしました。

規範的男性アレキシサイミアという考え方

「男は泣くな」のような価値観の中で育った男性に見られる、感情を感じにくい・表現しにくい傾向は、心理学で「規範的男性アレキシサイミア」と呼ばれることがあります。生まれつきの特性ではなく、育った文化や時代の中で身につけた「感情の扱い方のクセ」という見方です。

クセであるなら、変えることができます。50代、60代からでも遅くはありません。役職定年は、肩書きという鎧を脱ぐ時期でもあります。鎧を脱いだ今だからこそ、その下にずっとあった感情に触れることができるのです。

中島輝より一言

私は5歳のとき、育ててくれた里親が突然いなくなり、それ以来「自分のつらさを人に見せてたまるか」と感情を表に出すのをやめました。長いあいだ、うれしいはずの場面でさえ無表情でいたのです。ようやく暗闇から抜け出せたのは、35歳のころでした。感情にふたをしてきた年月が長くても、ふたは開けられる。私自身がその証拠だと思っています。50代のあなたにも、同じことが起きます。

怒りっぽさと無気力は、形を変えた感情のサイン

言葉にされなかった喪失感は、本人も気づかない形で表に出てきます。とくに50代の男性に多いのが、「怒りっぽさ」と「無気力」です。一見正反対に見えますが、どちらも、悲しみやさみしさや不安が言葉にならないまま出てきたものと考えられます。

  • 家族の些細な言葉に、以前よりカッとなる
  • テレビのニュースや店員の対応に、ひとりで腹を立てている
  • 出社しても、時間が過ぎるのを待っているだけのように感じる
  • 休日に趣味をする気が起きず、ソファで過ごしてしまう
  • 晩酌の量が増えた、または飲まないと眠れない
  • 理由のわからない肩こり、腰痛、胃の不調が続いている
  • 「今日どうだった?」と聞かれて「別に」「普通」としか言えない
  • 昔の同僚の昇進や活躍の話を聞くと、胸がざわつく
  • 「自分はもう役に立っていない」と思うことがある

このチェックは診断ではありません。ただ、4つ以上当てはまる場合は、言葉にならない感情がかなり溜まっていると考えてください。眠れない、食欲がない、何も楽しめない、朝起き上がれないといった状態が2週間以上続く場合は、うつ病などの可能性もあります。産業医や心療内科に早めに相談してください。

怒りの下には、別の感情がある

怒りは、ほかの感情を覆う「ふた」の役割をすることがあります。妻の何気ない一言にカッとなったとき、その怒りの下には「家でまで必要とされていない気がしてさみしい」「給料が減って申し訳ない」という感情が隠れていることがあるのです。

怒りを感じたら、「この怒りの下に、何がある?」と一度だけ自分に問いかけてみてください。答えがすぐに見つからなくてもかまいません。問いかけること自体が、怒りと自分のあいだに少しの距離をつくってくれます。

イライラも、無気力も、
あなたの性格が変わったのではない。
言葉になれなかった感情が、出口を探している。

自己有用感(実)を、肩書きの外で見つけ直す

自己肯定感は、1本の木にたとえることができます。根にあたる「自尊心≒自己存在感」、幹にあたる「自己受容感」、枝にあたる「自己効力感」、葉にあたる「自己信頼感」、花にあたる「自己決定感」、そして実にあたる「自己有用感」。この「6つの感」がつながって、1本の木をかたちづくっています。

肩書きが外れても、「実」は別の枝に実らせられる 根:自尊心≒自己存在感 幹:自己受容感 葉:自己信頼感/花:自己決定感/枝:自己効力感 肩書き 役職の実は落ちた 伝える 支える 新しい「実」の例 若手の相談相手になる 現場の知恵を言葉で残す 年下の上司を支える 地域や家族の役に立つ 学び直しで専門を深める 実:自己有用感 誰かの役に立てている という感覚
▲ 役職という「実」が落ちても、木そのものが枯れたわけではありません。根・幹・枝はそのまま残っています。長年の経験という枝に、別の形の「実」を実らせることができます。

本では、自己有用感を「自分は何かの役に立っているという感覚」と説明し、「誰かの役に立てること。それ自体が甘いご褒美」と表現しています。多くの50代の方にとって、この「実」は長いあいだ、役職と結びついていました。部下を育てる、部署の数字をつくる、決裁をする。肩書きが外れると、その実が一度に落ちたように感じるのです。

けれども、実が落ちても、木が枯れたわけではありません。根も、幹も、長年伸ばしてきた枝も、そのまま残っています。必要なのは、別の枝に新しい実を実らせることです。

「誰の、どんな役に立ったとき、うれしかったか」を思い出す

新しい実を見つける手がかりは、過去の感情の中にあります。これまでの仕事を振り返って、「誰の、どんな役に立てたとき、いちばんうれしかったか」を思い出してみてください。数字を達成したときでしょうか。若手が成長したときでしょうか。顧客から感謝されたときでしょうか。

実は、脳科学的には、過去を思い出す力と未来を想像する力は、脳の同じ回路(デフォルト・モード・ネットワーク)を使っているといわれます。過去のうれしかった感情を思い出すことは、そのまま次のキャリアを描く練習になるのです。「若手が初めて受注した日の、あの誇らしさ」を思い出せたなら、肩書きがなくても、若手の伴走者として役に立てる道が見えてきます。

未来日記で次のキャリアを描く

役職定年のあとのキャリアを考えるとき、多くの方はまず現実的な条件から考えます。給与、勤務日数、年金の受給開始、住宅ローンの残り。それはもちろん大切なことです。ただ、条件だけで考えると、現在の延長線上にある未来しか見えてきません。

本で紹介している「未来日記」は、1年後の自分がどんな気持ちで毎日を過ごしていたいかを、感情を想像しながら書くワークです。予定や目標ではなく、感情にフォーカスするのがポイントです。

未来日記|週末の5分
「1年後の私は、どんな気持ちで毎日を過ごしていたい?」

週末に5分だけ時間をとり、この問いから日記のかたちで書きます。たとえばこんな具合です。「朝、出社して若手から『ちょっと相談いいですか』と声をかけられる。頼りにされている感じが、くすぐったくてうれしい。帰りは早めに帰って、妻と夕飯の支度をする。焦りがなく、ゆったりしている」。五感を使ってイメージすると書きやすくなります。うまく書けなくて大丈夫です。月に1回でもかまいません。

望んでいるのは「肩書き」ではなく「感情」

本には、こんな一節があります。「大きな家が欲しい」というのも、大きな家そのものが欲しいというより、その家で過ごすときのゆったりした気持ちを望んでいる。私たちは、望む感情を手に入れるために行動していると言っても過言ではありません。

役職も同じかもしれません。「部長でいたかった」の奥にあったのは、「頼りにされている感覚」「自分の判断が誰かの役に立っている手応え」だったのではないでしょうか。そうだとすれば、その感情は、肩書きがなくても手に入れられる可能性があります。社内の相談役、専門職としての道、学び直し、副業、地域活動、資格を生かした独立。未来日記で望む感情がはっきりすると、選択肢の見え方が変わってきます。

「どうせ無理」と思ったら、小さな「もしも」から

本に登場する40代の女性ナオさん(仮名)は、期待して裏切られる痛みを避けるために、想像する力に鍵をかけていました。私たちには、何かを得る喜びよりも、失う痛みのほうを強く感じる性質があります。心理学でいう「損失回避の法則」です。役職を失ったばかりの方が「もう期待なんてしない」と感じるのは、自然な反応なのです。

そんなときは、大きな将来像を描こうとせず、「もし1日自由な時間があったら?」「もし会社の外で何か1つ教えるとしたら?」のような小さな「もしも」から始めてみてください。小さくて安全な想像が、閉じていた回路を少しずつ開いていきます。キャリアの再設計に迷ったときは、社内のキャリア相談窓口や、国家資格を持つキャリアコンサルタントに相談するのも1つの方法です。

家族との会話を取り戻す|妻や子どもに伝える言葉の型

役職定年の前後は、家族との関係が変わりやすい時期でもあります。帰宅時間が早くなり、家で過ごす時間が増える。けれども会話は増えない。むしろ「何を話せばいいかわからない」という方も少なくありません。妻の立場から見た夫の変化については、夫が気持ちを話さない、親の介護に疲れた…|50代からの人間関係と「感情迷子さん」でも取り上げています。

家族が知りたいのは、仕事の詳しい事情ではありません。あなたが今、どんな気持ちでいるのかです。それがわからないから、家族も不安になり、怒りっぽいあなたにどう接していいかわからなくなるのです。

いつもの言い方感情を1つ足した言い方
「別に、何もないよ」「正直、ちょっとさみしい。肩書きがなくなると、こういう感じなんだな」
(黙って晩酌をする)「今日は会議で意見が通らなくて、そこそこ悔しかった」
「給料のことは心配するな」「収入が減って、申し訳ない気持ちがある。一緒に考えてもらえると助かる」
(妻の話に)「それで、どうしたいの?」「それは大変だったね」と先に言ってから、意見を伝える

本に登場するマナミさん(仮名)は、手帳に「イライラ」と感情を書き続けるうちに、「今日は仕事が忙しくて疲れちゃったから、イライラしてごめんね」と家族に言えるようになりました。するとお子さんは「なんだ。機嫌悪いのは私のせいかと思った」とほっとしたそうです。感情を言葉にしないとき、家族は「自分のせいかもしれない」と思っていることがあるのです。

「ちょっと」「そこそこ」「すごく」と強さをつけて伝えるのも効果的です。「すごくつらい」と言うのは抵抗があっても、「ちょっとさみしい」なら言えるという方は多いものです。小さな言葉から始めてみてください。

50代からの感情の言語化|毎日できる3つの習慣

最後に、50代の毎日に取り入れやすい形に作り直したワークを3つ紹介します。どれも数秒から2分でできます。

習慣1|3秒×3回
感情タイムアウト|通勤電車、昼休み、帰宅の玄関前で

1日3回、スマホのアラームを設定して、鳴ったら「今、どんな気分?」と3秒だけ自分に聞きます。帰宅して玄関のドアを開ける前は、とくにおすすめのタイミングです。会社での感情を玄関の外で一度確かめておくと、家族に八つ当たりしにくくなります。「よくわからない」でも十分な答えです。

習慣2|2分
感情が動いた瞬間日記|寝る前に1行

夜、「今日、感情が動いた瞬間」を1つだけ手帳やスマホのメモに書きます。感情の名前がわからなければ、体が反応した瞬間を書けば大丈夫です。「会議で意見がスルーされて、肩が上がった」「若手に礼を言われて、胸がふわっとした」。感情を書き出すことがストレスの軽減と関係していることは、社会心理学者ペネベーカー(Pennebaker)らの研究でも示されてきました。

習慣3|随時、30秒
感情ことば帳|新聞、本、ドラマから言葉を借りる

新聞のコラム、小説の一節、ドラマのセリフ、昔好きだった歌の歌詞。「この気持ち、わかる」と感じた言葉を見つけたら、スマホや手帳にメモします。自分で言葉を作る必要はありません。誰かの言葉を借りるだけでいいのです。続けるうちに、自分の気持ちに近い言葉の引き出しが増えていきます。

感情に名前をつけると、不安や怒りに関わる脳の扁桃体の活動が下がることが、リーバーマン(Lieberman)らの研究(2007年)で示されています。年齢に関係なく、言葉にすることで心は落ち着くのです。

中島輝より一言

50代の男性の相談を受けていると、「今さら感情なんて」という言葉をよく聞きます。でも、これまで家族を支え、組織を支えてきた方だからこそ、これからは自分の感情を支える番だと私は思っています。肩書きが外れた今は、終わりではなく、自分の心と向き合う時間がやっと手に入った、新しい始まりです。

よくあるご質問

役職定年のあと、やる気が出ないのは甘えでしょうか?
甘えではありません。長年担ってきた役割を手放すことは、心にとって喪失体験です。悲しみや悔しさ、さみしさを感じるのは自然なことで、それが言葉にならないとき、やる気の低下として表れることがあります。まずは「自分は今、何かを失ってつらいのかもしれない」と認めることから始めてみてください。
妻に「最近怒りっぽい」と言われます。どうすればいいですか?
怒りの下に、さみしさや不安、申し訳なさが隠れていることがあります。カッとなったら「この怒りの下に何がある?」と自分に問いかけ、帰宅前に感情タイムアウトで気分を確かめてみてください。「ちょっとさみしい」など、小さな言葉で妻に伝えられるようになると、関係が変わりはじめることが多いものです。
年下の上司にどう接すればいいかわかりません。
年下の上司を認める気持ちと、悔しさやさみしさが同時にあるのは自然なことです。その両方を自分の中で認めたうえで、意見を伝える前に「難しい判断だったね」と共感の一言を置いてみてください。経験にもとづく助言が、上司に受けとめられやすくなります。
気分の落ち込みが続いています。どこに相談すればいいですか?
眠れない、食欲がない、何も楽しめない状態が2週間以上続く場合は、産業医、会社の相談窓口(EAPなど)、心療内科や精神科に相談してください。キャリアの迷いが中心であれば、社内のキャリア相談やキャリアコンサルタントに話すことも役立ちます。ひとりで抱え込まないことが大切です。
50代からでも、感情の言語化は身につきますか?
身につきます。感情の気づきは、練習によって何歳からでも育ち直すことができるとされています。「男は弱音を吐くな」という価値観の中で身についた感情の扱い方はクセのようなものなので、小さな習慣を続けることで少しずつ変わっていきます。
肩書きが外れても、
あなたの木は枯れていない。
新しい実は、感情を言葉にするところから。
今夜、帰宅前に3秒だけ。
「今、どんな気分?」と自分に聞いてみてください。

自分を大切にしよう

役職定年や再雇用で肩書きが外れることは、制度の上ではよくある出来事でも、心にとっては小さくない喪失体験です。そこで生まれる悲しみ、悔しさ、さみしさ、不安を、「仕方ない」「制度だから」と感じる前に処理してしまうと、感情は怒りっぽさや無気力、体の不調という形で出口を探します。「男は弱音を吐くな」で育った世代ほど、その流れに気づきにくいものです。

けれども、感情の扱い方は、育った時代の中で身についたクセです。クセは何歳からでも変えられます。年下の上司を認める気持ちと悔しさを、混ざったまま言葉にする。過去にうれしかった瞬間を思い出し、肩書きの外で自己有用感という「実」を実らせる場所を探す。未来日記で、1年後にどんな気持ちで過ごしていたいかを描く。そして家族に「ちょっとさみしい」と、小さな言葉で伝えてみる。

これまで家族のため、組織のために走り続けてきたあなたは、もう十分に役目を果たしてきました。ここから先は、自分の感情に耳を傾け、自分が本当に望む働き方と暮らし方を選んでいい時間です。自分を大切にしよう。50代からのキャリアは、感情を言葉にしたところから、もう一度あなたらしく始まります。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • 人事院「民間企業の勤務条件制度等調査」(平成29年)
  • 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正〜70歳までの就業機会確保〜」(2021年4月施行)
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
  • Levant, R.F. (1992). Toward the reconstruction of masculinity. Journal of Family Psychology, 5, 379-402.(規範的男性アレキシサイミア)
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
  • Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8, 162-166.
  • Schacter, D.L., Addis, D.R., & Buckner, R.L. (2007). Remembering the past to imagine the future: the prospective brain. Nature Reviews Neuroscience, 8, 657-661.
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

無断転載禁止
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP