笑顔の接客のあとに肌が荒れる理由|接客・美容で働く女性の感情労働と言語化

笑顔の接客のあとに肌が荒れる理由|接客・美容で働く女性の感情労働と言語化

笑顔の接客のあとに肌が荒れる理由
接客・美容で働く女性の感情労働と言語化

閉店まで笑顔で接客して、最後のお客さまを「ありがとうございました」と見送る。バックヤードに戻ってユニフォームを脱いだとたん、顔の筋肉がこわばっていることに気づく。家でメイクを落とすと、あごのまわりにまたポツポツが増えている。今日の自分が楽しかったのか、疲れていたのかさえ、よくわからない。もし思い当たるなら、それは笑顔の仕事を誠実に続けてきたあなたの心と体が、言葉の代わりに出しているサインかもしれません。美容部員、アパレル販売、エステティシャン、ホテルスタッフなど、接客の現場で働く女性に向けてお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

笑顔でお客さまを見送ったあと、鏡の前で気づくこと

よくある相談の典型例
「お店ではちゃんと笑えるんです。
でも家に帰ると、何も感じなくて」
場面20代後半・百貨店の化粧品カウンターで働く美容部員。売上目標のある繁忙期、立ちっぱなしで1日20人以上を接客する。お客さまからは「いつも感じがいいね」と言われる。ところが休みの日は一日中ベッドから出られず、友人からの誘いにも「楽しそう」と思えない。最近は肌荒れが治らず、自分が扱っている商品を使ってもよくならない。
この方は接客が嫌いなわけではありません。むしろお客さまに喜んでもらえることにやりがいを感じています。ただ、仕事の笑顔をつくり続けるうちに、自分自身の本当の感情に気づく回路が細くなっていたのです。その分、言葉にならなかった疲れが、肌や眠り、休日の動けなさとして表に出ていました。

感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。感情がないのではなく、感情はあるのに、それを受け取って名前をつけるところで迷子になっている状態です。基本的なことはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで詳しく解説しています。

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、この状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態のことで、本の中では「迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています」と書いています。今は迷子でも、帰り道は必ずあります。

約10人に1人
感情に気づき、言葉にすることが難しい傾向が強い人の割合(研究により約10〜16%)。
病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です
出典:TAS-20等を用いた複数の疫学研究、中島輝・自己肯定感アカデミー講座資料疫学データ

そして接客の仕事には、この「迷子」を生みやすい特徴があります。感じたことではなく、求められる感情を表に出し続けるという特徴です。ここから、その仕組みを順番に見ていきましょう。

感情労働とは|ホックシールドが名づけた「心の管理」

アメリカの社会学者アーリー・ホックシールド(Hochschild)は、1983年の著書『管理される心』の中で、「感情労働(emotional labor)」という考え方を示しました。客室乗務員の仕事を調べるなかで、彼女たちが体や頭だけでなく、自分の感情そのものを仕事のために管理していることに注目したのです。

感情労働とは、仕事として求められる感情を表に出すために、自分の感情を調整することをいいます。お客さまの前でにこやかでいる。理不尽なことを言われても、穏やかな声で応じる。疲れていても、明るいトーンで「いらっしゃいませ」と言う。ホックシールドは、こうした労働では感情が商品の一部になると考えました。

仕事の種類使っているもの接客の現場での例
肉体労働体力・技術長時間の立ち仕事、商品の品出し、施術の手技
頭脳労働知識・判断肌質に合わせた提案、在庫やサイズの把握、予約の調整
感情労働感情の管理笑顔、やわらかい声、クレームへの落ち着いた対応、お客さまの気分に合わせた雰囲気づくり

美容部員、アパレル販売、エステティシャン、ホテルスタッフ。どの仕事も、この3つを同時にこなしています。しかも感情労働の部分は、目に見えにくく、疲れとして数えられにくい。「今日は立ちっぱなしで疲れた」とは言えても、「今日は笑顔をつくり続けて疲れた」とは、なかなか言葉にしないものです。

笑顔は、あなたの大切な技術。
でもその技術には、
目に見えない「心の体力」が使われている。

表層演技と深層演技|笑顔を続けるうちに自分の感情がわからなくなる理由

ホックシールドは、感情を管理するやり方を2つに分けました。表層演技と深層演技です。

表層演技と深層演技|笑顔の裏で起きていること 表層演技 表情や声だけを整える 外側:にこやかな笑顔 内側:イライラ・疲れはそのまま 外と内の「ずれ」を抱え続ける → 消耗感がたまりやすい 深層演技 感じ方そのものを変えようとする 外側:自然な笑顔 内側:「本当に楽しい」と感じようとする 続けすぎると、本当の感情と 仕事の感情の境目がぼやける どちらも、自分の感情に「気づく時間」がないと迷子になりやすい 大切なのは演技をやめることではなく、仕事のあとに本当の感情へ戻る道を持つこと
▲ 表層演技は表情だけを整え、内側の感情とのずれを抱え続けます。深層演技は感じ方そのものを変えようとするため、続けすぎると本当の感情との境目がわかりにくくなります。どちらも、仕事のあとに自分の感情へ戻る時間があることが大切です。

表層演技|外と内の「ずれ」を抱え続ける

表層演技は、内側の感情はそのままに、表情や声だけを整えるやり方です。心の中ではイライラしていても、口角を上げて「かしこまりました」と言う。接客の現場では、誰もが日常的にしていることでしょう。

働く人の感情労働を調べた研究(Grandey, 2003)では、表層演技が多い人ほど、情緒的な消耗感が高くなりやすいと報告されています。外側と内側の「ずれ」を抱え続けること自体が、心のエネルギーを使うからです。

深層演技|感じ方そのものを変えようとする

深層演技は、「このお客さまにも事情があるのかもしれない」と考えて、本当に穏やかな気持ちになろうとするやり方です。プロ意識の高い人ほど、自然にこちらを身につけていきます。ずれが少ないぶん、表層演技より消耗しにくいともいわれます。

ただし、ホックシールドは深層演技にも代償があると指摘しました。感じ方を仕事に合わせて変えることをくり返すうちに、「今のこの気持ちは、本当の私の気持ち?それとも仕事の気持ち?」という境目がぼやけていくのです。「楽しいと思うように」「嫌だと思わないように」と心を整え続けた結果、仕事のあとに「本当はどう感じていたのか」がわからなくなる。これが、接客の現場で起きやすい感情迷子の入り口です。

「相手が笑う → 自分も微笑む」
ソン・ウォンピョン『アーモンド』(矢島暁子訳、祥伝社)より

感情を感じにくい少年ユンジェに、母が教えた「行動の公式」の一つです。感じられない分を、公式で補う。接客の笑顔とは事情がまったく違いますが、感情より先に「こういう場面ではこうする」という型が動く点は、毎日マニュアル通りの笑顔を重ねている人にとって、どこか身に覚えがあるかもしれません。型があるのは悪いことではありません。ただ、型の内側にある自分の感情にも、ときどき目を向けてあげてほしいのです。

大事なことなので、もう一度お伝えします。表層演技も深層演技も、悪いことではありません。どちらも接客のプロとしての大切な技術です。問題になるのは、演技を終えたあとに、自分の本当の感情に戻る道がなくなっているときです。

肌・食欲・眠り・生理のリズムに出る、言葉にならない疲れ

アレキシサイミアという言葉は、もともと心身症の研究から生まれました。心身症とは、発症や経過に心理的なストレスが深く関わっている体の不調のことです。言葉にならなかった感情は、自律神経や内分泌の働きを通して、体のほうに表れやすくなると考えられています。

接客や美容の仕事をしている方の場合、それは次のような形で出てくることがあります。最近の自分に当てはまるものがあるか、見てみてください。

  • 肌荒れや吹き出物が、忙しい時期やクレームのあとに増える
  • 休憩中に食欲がわかない、または帰宅後に甘いものや食べ物が止まらない
  • 疲れているのに寝つけない、夜中に目が覚めて仕事のことを考えてしまう
  • 生理の周期や体調のリズムが、以前より乱れがちになった
  • 閉店後、顔の筋肉や肩、ふくらはぎがこわばってなかなかほぐれない
  • 休日は一日中動けず、楽しみにしていた予定もキャンセルしてしまう
  • 「今日、楽しかった?」と聞かれても、「普通」としか答えられない
  • お客さまの前では平気なのに、帰り道に理由のわからない涙が出ることがある

いくつか当てはまったとしても、それはあなたが弱いからではありません。笑顔の仕事を誠実に続けてきた分だけ、体が代わりに「疲れた」と言っているのです。

体の不調は、まず専門の医師へ

ここで大切な注意があります。肌荒れや生理のリズムの乱れ、眠れなさには、ストレス以外にもさまざまな原因があります。「心のせいだ」と自分で決めつけず、肌の不調は皮膚科へ、生理のリズムの変化は婦人科へ、眠れない状態が続くときは内科や心療内科へ相談してください。この記事は、体の治療に代わるものではありません。

そのうえで、医学的な手当てと並行して、心の側からもできることがあります。それが、体に出てきたサインを、感情の言葉に「翻訳」してあげることです。「肌が荒れている」の奥に「この2週間、ずっと気を張っていた」があるかもしれない。そう気づくだけでも、心と体の負担は少しずつ軽くなっていきます。

中島輝より一言

私は里親のもとで育ち、5歳のときにその里親がいなくなりました。その日から、私は感情を出すことをやめました。誰にも心配をかけないように、いつも平気な顔をしていたのです。でも、体は正直でした。顔で隠した感情は、消えるのではなく、体のどこかにたまっていく。笑顔で人を支えている方ほど、そのことを知っておいてほしいと思います。笑顔をやめる必要はありません。笑顔のあとに、自分の気持ちに戻る時間を持ってほしいのです。

「お客さまの前では平気なのに」が続くとき

接客の現場で働く方から、よく聞く言葉があります。「お客さまの前では平気なんです」。この言葉には、2つの意味が重なっています。

ひとつは、プロとしてきちんと仕事ができているという意味です。これは本当に素晴らしいことです。もうひとつは、お客さまの前以外の場所で、平気ではない自分がいるという意味です。こちらが見過ごされがちです。

接客の現場に多い3つのパターン

パターン現場での様子心の中で起きていること
「感じがいい」と言われ続けるどのお客さまにも同じ温度で笑顔を向けられる。店長からの評価も高い感じたことより、求められる感情が先に出るようになっている
「大丈夫です」が口ぐせシフトの追加も、難しいお客さまの担当も笑顔で引き受ける疲れや不安が、自分でも「大丈夫」の下に隠れて見えない
休日に電池が切れる出勤日は元気なのに、休みの日は動けない仕事のための「効率モード」が切れたとたん、たまった疲れが一気に出る

本では、自律神経の理論であるポリヴェーガル理論にふれながら、私たちの神経系には外の世界に対処するための「効率モード」と、内側の安全を確かめる「安全モード」があると説明しています。接客中の私たちは、お客さまの表情や声のトーンを読み取り、次の一言を選び続ける、効率モードのフル稼働状態です。そのまま休憩に入り、そのまま帰宅すると、安全モードに切り替わるきっかけがありません。

同じように、オフィスで「大丈夫です」と笑ってしまう働く女性の悩みについては、職場で「大丈夫です」と笑ってしまう私へ|働く女性のための感情迷子さん脱出法で詳しく書いています。接客の仕事とは場面が違いますが、通じるところがあるはずです。

カスタマーハラスメントのあと、心をどう手当てするか

接客の仕事をしていると、どうしても避けられないのが、理不尽な要求や暴言、長時間の拘束といったカスタマーハラスメント(カスハラ)です。厚生労働省も「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し、企業として従業員を守る取り組みを求めています。カスハラは、あなた一人で受け止めるべきものではありません。

そのうえで、カスハラのあとに起きやすいのが、「何も感じない」「意外と平気」という反応です。強いストレスを受けたとき、心は自分を守るために、感じる回路を一時的に絞ることがあります。平気に見えるのは、傷ついていないからではなく、傷つきから心を守るためのシャットダウンかもしれません。数日たってから、眠れなくなったり、同じような年代のお客さまに体がこわばったりすることもあります。

その場で|30秒
バックヤードで、体の感覚を1つだけ言葉にする

対応が終わったら、できればいったん売り場を離れます。そして「手が冷たい」「心臓がドキドキしている」「肩が上がっている」と、体の感覚を1つだけ言葉にします。感情の名前はまだつけなくて大丈夫です。手を洗う、冷たい水を飲むなど、体の感覚を切り替える動作も役に立ちます。

その日のうちに|1分
信頼できる人に、事実と一言だけ伝える

店長や先輩に、何があったかを報告するとき、「正直、ちょっと怖かったです」「すごく悔しかったです」と感情を一言だけ添えてみてください。報告は事実だけで終わりがちですが、感情を言葉にすることで、自分の中でも出来事に区切りがつきやすくなります。職場として対応を考えてもらうための大切な情報にもなります。

帰ってから|2分
「私が悪かったのかな」を、いったん横に置く

カスハラを受けた人の多くが、あとから「私の言い方が悪かったのかも」と自分を責めます。振り返りが必要なことがあったとしても、それは翌日以降で十分です。その日の夜は、「理不尽なことを言われて、つらかった」と、自分の気持ちを自分で認めることを優先してください。自分に向かって「つらかったね」と声をかけてあげることも、立派な手当てです。

眠れない、思い出すと体がこわばる、出勤しようとすると気分が悪くなる、といった状態が続く場合は、一人で抱え込まず、職場の相談窓口や医療機関に相談してください。心の不調は、早めに手当てするほど回復しやすくなります。

休憩中・帰り道・メイクを落とす時間でできる4つのワーク

ここからは、接客の仕事の流れに合わせて、本の第4章のワークを置き換えて紹介します。新しく時間をつくる必要はありません。休憩、帰り道、メイクを落とす時間という、毎日すでにある時間を使います。

仕事の顔から、自分の顔へ戻る4つのスイッチ 効率モードから安全モードへ、少しずつ切り替える 休憩の はじめ 休憩の 一杯 帰り道 の改札 メイクを 落とす時 心の体温チェック 胸に手を当てて 3秒 五感スイッチ 心地いい?悪い? 1分 今日のオノマトペ モヤモヤ?ずっしり? 30秒 色彩感情カレンダー 今日の色を1つ 1分
▲ 休憩のはじめ、休憩の一杯、帰り道、メイクを落とす時間。接客の仕事の流れの中に、自分の感情へ戻るための小さなスイッチを置く例です。
ワーク1|3秒
心の体温チェック|休憩室の椅子に座ったら

休憩に入って椅子に座ったら、スマホを見る前に、手のひらを胸に当てて「今、自分の体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞きます。「冷たい」「よくわからない」「ドキドキしている」、どれでもかまいません。接客中は外側にばかり向いていた意識を、3秒だけ内側に戻す練習です。本では、体の信号に気づきやすい人は感情を見分ける力も高い、という報告が紹介されています。

ワーク2|1分
五感スイッチ|休憩の一杯を味わうときに

休憩中に飲むお茶やコーヒーを使います。香り、温度、味、カップの手触り、休憩室の音。1つずつ「心地いい?心地悪い?」の2択で答えます。美容の仕事をしている方は、香りや肌ざわりに敏感な人が多いはずです。その感覚を、お客さまのためだけでなく、自分の「心地いい」を知るために使ってあげてください。「好き・嫌い」よりずっと手前にある、本能的な感覚です。

ワーク3|30秒
今日のオノマトペ|帰り道、改札を通るときに

改札を通ったら、今日1日の気分をオノマトペで1つ選びます。「モヤモヤ」「ずっしり」「ふわふわ」「ピリピリ」。「悲しい」「悔しい」といった感情の言葉は出てこなくても、体の感覚に近いオノマトペなら選びやすいものです。本では、オノマトペにも感情に名前をつけるのと同じように、気持ちを整理する効果があると説明しています。余裕があれば「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で強さもつけてみてください。

ワーク4|1分
色彩感情カレンダー|メイクを落とす時間に

夜、メイクを落としながら「今日の気分を色にすると何色?」と考え、手帳やスマホのカレンダーに1色だけ塗ります。毎日たくさんの色に触れている方なら、「くすんだベージュ」「にごったピンク」のように、細かい色で表せるかもしれません。それも立派な感情の言葉です。しばらく続けると、繁忙期は寒色が続く、休み明けは明るい色が多いといった、自分の心のリズムが見えてきます。仕事の顔を落とす時間を、本当の自分の顔に戻る時間にしてあげてください。

メイクを落とすように、
仕事の感情も、一日の終わりにそっと落とす。
その下にある素顔の気持ちに、今日の名前を。

職場の仲間とできる「感情の申し送り」

感情労働の疲れは、一人で手当てするより、同じ現場で働く仲間と分かち合うほうが軽くなります。シフトの交代や閉店後の片づけのとき、業務の申し送りに加えて、感情の申し送りを一言だけ添えてみてください。

業務だけの申し送り感情の一言を添えた申し送り
「〇〇様のご予約、明日に変更です」「〇〇様のご予約、明日に変更です。電話が長くて、正直ちょっと疲れました」
「クレーム対応は終わりました」「クレーム対応は終わりました。まだ少しドキドキしているので、5分だけ休憩もらえますか」
「今日の売上はこれです」「今日の売上はこれです。目標に届いて、すごくほっとしました」

感情を一言添えると、仲間は「この人は今、こういう状態なんだ」と理解しやすくなり、お互いをフォローしやすくなります。本でも、事実に感情を合わせて伝えることで信頼が生まれると書いています。

店長・リーダーの方へ

現場のリーダーの方は、スタッフの「大丈夫です」をそのまま受け取らず、「さっきのお客さま、大変だったね」と、こちらから感じたことを言葉にして差し出してみてください。本で紹介している「共感の一言」です。解決策や反省点を伝えるのは、そのあとで十分です。「わかってもらえた」という安心感があると、スタッフは次のお客さまに向かう力を取り戻せます。また、カスハラを受けたスタッフを一人で対応させない、対応後に休憩をとれるようにするなど、仕組みで守ることも欠かせません。

よくあるご質問

接客の笑顔をやめないと、感情迷子さんから抜け出せませんか?
いいえ、やめる必要はありません。笑顔は接客のプロとしての大切な技術です。大切なのは、仕事のあとに自分の本当の感情に戻る時間を持つことです。休憩や帰り道、メイクを落とす時間など、数秒から数分のワークで、仕事の感情と自分の感情を切り替える練習をしてみてください。
肌荒れは、ストレスが原因なのでしょうか?
肌の不調には、ストレス以外にもさまざまな原因があります。自分で判断せず、まずは皮膚科を受診してください。そのうえで、忙しい時期やつらい出来事のあとに悪化しやすいと感じるなら、医学的な手当てと並行して、心の疲れに目を向けてみることも役に立ちます。
クレームを受けても「何も感じない」のですが、慣れたということでしょうか?
経験を重ねて落ち着いて対応できるようになることもありますが、強いストレスから心を守るために、感じる回路を一時的に絞っている場合もあります。眠りや食欲の変化、あとから体がこわばるなどのサインがあれば、心が無理をしているのかもしれません。信頼できる人に話す、相談窓口を使うなど、一人で抱えないでください。
休日に何もできないのは、怠けているからですか?
怠けではありません。仕事中にフル稼働していた「効率モード」が切れたとたん、たまっていた疲れが一気に表に出ているのかもしれません。休日に動けない自分を責めるより、平日の休憩や帰り道に少しずつ疲れを言葉にしておくと、休日に疲れがまとめて出にくくなります。
感情を言葉にすると、かえって仕事中につらくなりませんか?
接客中に感情を深く掘り下げる必要はありません。ワークは休憩や仕事のあとに行います。感情に名前をつけると、脳の扁桃体の活動が落ち着くという研究(Lieberman et al., 2007)もあり、むしろ気持ちが整理されて、次の接客に向かいやすくなる人が多いです。
お客さまに向けてきた、あのやさしい笑顔を。
今日は少しだけ、自分の気持ちにも向けてあげて。
メイクを落とすとき、今日の気分に名前を。
笑顔の仕事を長く続けるために、心の素顔を大切に。

自分を大切にしよう

接客や美容の仕事は、体と頭に加えて、自分の感情そのものを使う感情労働です。表情や声だけを整える表層演技も、感じ方そのものを変えようとする深層演技も、プロとしての大切な技術です。ただ、それを続けるうちに、仕事の感情と本当の自分の感情の境目がぼやけ、「今日の自分がどう感じていたのか」がわからなくなることがあります。言葉にならなかった疲れは、肌荒れ、食欲や眠りの乱れ、生理のリズム、休日の動けなさとして表に出てくることがあります。

体の不調は、まず皮膚科や婦人科などの医師に相談してください。そのうえで、体のサインを感情の言葉に翻訳してあげることが、心の側からできる手当てです。カスタマーハラスメントのあとに「平気」と感じるときも、それは心が自分を守っているのかもしれません。一人で抱えず、仲間や職場、相談窓口を頼ってください。

休憩の3秒の心の体温チェック、休憩の一杯で試す五感スイッチ、帰り道のオノマトペ、メイクを落とすときの色彩感情カレンダー。どれも、すでにある時間の中でできることです。お客さまを大切にしてきたあなたの笑顔は、本物の技術です。だからこそ、仕事の顔を落としたあとの素顔の気持ちにも、やさしく目を向けてください。自分を大切にしよう。あなたの心が満たされていることが、次のお客さまへの、いちばんの笑顔になります。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Hochschild, A.R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.(邦訳『管理される心―感情が商品になるとき』石川准・室伏亜希訳、世界思想社)
  • Grandey, A.A. (2003). When “the show must go on”: Surface acting and deep acting as determinants of emotional exhaustion and peer-rated service delivery. Academy of Management Journal, 46(1), 86-96.
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • Porges, S.W.(ポリヴェーガル理論)
  • ソン・ウォンピョン『アーモンド』(矢島暁子訳、祥伝社)
  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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