休職から復職したあとの「大丈夫です」が苦しいとき
メンタル不調からの回復と感情の言語化
復職して2週間。上司に「無理しないでね」と言われるたびに、「はい、もう大丈夫です」と笑顔で答えている。本当は、朝の電車で胸がざわつくし、会議で発言するたびに「また迷惑をかけたら」と考えてしまう。でも、それをどう説明すればいいのかわからない。そんな苦しさを抱えていませんか。「大丈夫です」の奥にある気持ちを言葉にできると、回復はもっと安心して進められます。メンタル不調で休職中の方、そして復職したばかりの方に向けて、自分の気持ちとのつきあい方をお伝えします。
「もう大丈夫です」と言ってしまうのはなぜか
復職した方から、本当によく聞く言葉があります。「本当は大丈夫じゃないのに、『大丈夫です』としか言えないんです」。
「大丈夫です」は、とても便利な言葉です。相手を安心させ、会話を早く終わらせ、自分の弱さを見せずにすみます。休職という経験のあとでは、「もう周りに心配をかけたくない」「早く戦力に戻りたい」という気持ちが強くなるのは自然なことです。
けれども、「大丈夫です」をくり返していると、だんだん自分でも、本当は大丈夫なのかどうかがわからなくなっていきます。口から出る言葉と、心の中の状態が離れていくのです。
自分でもよくわからないんです」
このように、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を、中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では「感情迷子さん」と呼んでいます。心理学でいう「アレキシサイミア(失感情症)」に近い考え方で、感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を指します。病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。
なお、この記事は、医学的な診断や治療の代わりになるものではありません。治療や復職の時期、働き方の判断は、必ず主治医と相談してください。この記事でお伝えするのは、その相談をしやすくするための「気持ちの言葉」の整え方です。
復職後に揺れる3つの気持ち|再発の不安・周りの目・焦り
休職と復職は、多くの職場で起きている身近なことです
メンタル不調による休職は、決して珍しいことではありません。けれども、当事者になると「自分だけがこうなってしまった」と感じやすいものです。復職したあとに揺れやすい気持ちを、3つに分けて見てみましょう。
1つめ:再発への不安
「またあのときのようになったらどうしよう」。少し疲れただけで、「これは再発の前ぶれかもしれない」と身構えてしまう。不安が強いと、ふつうの疲れと注意すべきサインの区別がつきにくくなります。その結果、無理をしすぎるか、逆に必要以上に自分を制限するか、どちらかに偏りやすくなります。
2つめ:周りの目
「みんなは、私のことをどう思っているんだろう」。同僚が気をつかってくれるほど、かえって居心地が悪くなる。雑談に入るタイミングがわからない。「腫れものに触るように扱われている」という感覚は、復職した方がよく口にするものです。
3つめ:焦り
「休んだぶんを取り戻さなければ」。同期が先に進んでいるように見えて、早く元のペースに戻ろうとする。焦りは、回復途中の心身にとって大きな負荷になります。
焦りがやっかいなのは、それが「やる気」の顔をしてやってくることです。残業を申し出る、頼まれていない仕事まで引き受ける、休憩をとらずに作業を続ける。周りからは「元気になったね」と見えるかもしれません。けれども本人の内側では、「また評価を落としたくない」という不安が、アクセルを踏ませていることが少なくありません。行動の勢いが強いときほど、「この頑張りの奥には、どんな気持ちがあるだろう」と一度だけ立ち止まってみてください。そこに不安や恐れが見つかったら、それは無理をしているサインかもしれません。
この3つは、どれも復職後にごく自然に生まれる感情です。問題は、これらが言葉にならないまま「大丈夫です」の下に押しこめられてしまうことにあります。
不安も、居心地の悪さも、焦りも、
回復の途中にある自然な感情。
押しこめるより、名前をつけてあげよう。
感情を言葉にしにくいと、回復のサインも不調のサインも見えにくい
回復を進めるうえで大切なのは、自分の状態の変化に気づくことです。ところが、感情を言葉にしにくい状態だと、「少しよくなってきた」も「少し無理をしている」も、どちらも見えにくくなります。
感情より先に、体が教えてくれる
本に登場する30代の秘書、エミコさん(仮名)は、「原因不明の激しいめまい」を訴えてカウンセリングに来られました。気分の浮き沈みが激しい上司のもとで、理不尽な場面でも笑顔で応対を続けてきた方です。「そのとき、どう感じたのですか?」と聞いても、答えは「……わかりません」。そこで体の反応についてたずねると、少し考えて「そう言われてみると、胃がキュッとしたような感じがしました。1日の終わりには頭が重いように思うことが多かったです」と話してくれました。
エミコさんは長年、周りの期待に応えるために自分の感情を後回しにし続けてきました。その結果、感情の信号をキャッチしにくくなり、めまいや胃の痛みが唯一残された「心の叫び」になっていたのです。
心理学では、心拍、呼吸、胃の不快感といった体の内側の信号に気づく力を「内受容感覚」と呼びます。アレキシサイミアの傾向が強い人は、この内受容感覚の働きも弱まっていることがあるといわれています。逆にいえば、体のサインに注意を向ける練習は、感情に気づく力を取り戻す入り口になります。
- 朝、電車に乗る前に胸がざわつく、息が浅くなる
- 会議や面談のあと、どっと疲れる
- 週の後半になると、肩や首まわりのこりが強くなる
- 日曜の夕方になると、胃が重くなる
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める日が増えた
- 好きだったことに、あまり心が動かない
このチェックは診断ではありません。ただ、こうした体のサインが続いたり増えたりしているときは、「大丈夫です」の下で、何かの感情が動いている可能性があります。サインに気づいたら、自分で判断せず、主治医や産業医に伝えてください。
主治医や産業医に気持ちを伝える言葉|体→出来事→感情の順で
診察や産業医面談の時間は限られています。「最近どうですか」と聞かれて、とっさに「大丈夫です」と答えてしまい、あとで「本当はあのことを話したかったのに」と後悔した経験はありませんか。
気持ちを伝えるのが苦手な方におすすめしたいのが、「体→出来事→感情」の順で話す方法です。感情の名前がすぐに出てこなくても、体の変化なら言いやすく、出来事なら思い出しやすいからです。
メモを持っていくのは、まったく恥ずかしくない
診察室に入ると、緊張して言いたいことを忘れてしまう方はとても多いものです。前の晩に「体・出来事・感情」をメモに書いて持っていくだけで、伝えられることが格段に増えます。メモを医師に見せてもかまいません。
| つい言ってしまう言葉 | 体→出来事→感情で言いかえると |
|---|---|
| 「大丈夫です」 | 「平日は何とか出社できています。ただ、木曜あたりから疲れが抜けにくく、少し不安があります」 |
| 「特に変わりません」 | 「寝つきが悪い日が週に2回ほどあります。仕事の量が増えた週です。焦りのような感じがあります」 |
| 「仕事は順調です」 | 「業務はこなせています。でも、同僚との雑談のあと、ぐったりします。気をつかいすぎているのかもしれません」 |
産業医面談では、主治医の診察とは少し役割が違います。産業医は、仕事の内容や量、勤務時間が今のあなたに合っているかを一緒に考える立場です。「どの業務のときに、体や気持ちがどう動くか」を伝えると、業務の調整につなげやすくなります。
毎日の感情記録|1日3行の「回復ノート」
診察や面談で自分の状態を伝えるためには、日々の記録が大きな助けになります。とはいえ、回復途中の方に長い日記は負担です。ここでは、本で紹介しているワークを組み合わせた、1日3行の「回復ノート」を提案します。
心の体温チェック|体の感覚を1語で
夜、3秒だけ胸に手を当てて、「今日の心の温度は、温かい?冷たい?」と自分に聞きます。そして、体の感覚を1語でメモします。「肩が重い」「胸がざわざわ」「わりと軽い」。正解はありません。体に注意を向けることそのものが練習です。
今日のオノマトペ|気分をひと言で
今日の気分に合うオノマトペを探して書きます。「どんより」「そわそわ」「ほっ」「スッキリ」。正確な感情の名前でなくても、オノマトペなら言葉にしやすいのです。
3段階温度計|いちばん大きかった感情に強さをつける
今日いちばん大きかった感情に、「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で強さをつけます。「会議の前、そこそこ不安」「同僚に声をかけられて、ちょっとうれしい」。「何も感じなかった」と書く日があってもかまいません。それも大切な記録です。
1週間分たまったら、見返してみてください。「木曜は疲れがたまりやすい」「人と話した日は少し気分が上向く」など、自分のパターンが見えてきます。そのパターンこそが、主治医や産業医に伝えるべき情報です。
回復は、波を描きながら進む
回復ノートを続けていると、「昨日はよかったのに、今日はまた落ちている」と感じる日が必ずあります。そのたびに「やっぱりまだだめだ」と落ちこんでしまう方も少なくありません。けれども、メンタル不調からの回復は、多くの場合まっすぐな右肩上がりではなく、上がったり下がったりをくり返しながら、全体としてゆるやかに上向いていくものです。
ここで役立つのが、感情の言葉です。「今日はだめだった」とひとまとめにするのではなく、「朝はそこそこ不安だったけれど、昼に同僚と話してちょっとほっとした」と分けて書けると、悪い日の中にも、小さく回復している部分があることに気づけます。感情を細かく見分けられるほど、ネガティブな感情からの立ち直りが早いとも言われています。悪い日が続くときや、波の落ちこみが深くなってきたと感じるときは、ノートを持って早めに主治医に相談してください。
感情に名前をつけると、不安や恐怖に関わる脳の扁桃体の活動が下がることが、リーバーマン(Lieberman)らの研究(2007年)で示されています。また、社会心理学者ペネベーカー(Pennebaker)らのエクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)の研究では、感情に触れて書くことがストレスの軽減と関係していることが示されてきました。ただし、つらい出来事を深く掘り下げて書くと、かえって苦しくなることもあります。回復ノートは、短く、軽く、続けられる範囲にとどめてください。書くことが負担に感じる日は、休んでかまいません。
リワーク(復職支援プログラム)という選択肢
休職中の方、あるいは復職に不安がある方に知っておいてほしいのが、「リワーク」と呼ばれる復職支援プログラムです。リワークとは、休職中の方が、職場に戻る前に、通所しながら生活リズムを整え、働くための準備をするプログラムのことです。
- 決まった時間に通所することで、出勤に近い生活リズムをつくる
- グループでの作業や話し合いを通して、人と関わる練習をする
- 休職に至った経緯をふり返り、ストレスへの対処を考える
- 自分の状態や気持ちを言葉にして、ほかの参加者やスタッフと共有する
リワークは、精神科や心療内科などの医療機関、各地の地域障害者職業センター、民間の事業所などで行われています。実施機関によって内容や対象、費用が異なるため、利用を考えるときは、まず主治医に相談してください。
リワークのよいところは、同じように休職を経験した人たちと一緒に取り組めることです。グループの中で「私も、復職が近づくと不安で眠れなくなりました」という言葉を聞くと、自分だけではなかったという安心感が、自分の感情を言葉にする勇気につながります。感情は、ひとりで抱えているときより、誰かと分け合ったときに言葉になりやすいのです。
職場復帰の流れを知っておく
厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」で、休業の開始から、主治医による復職可能の判断、職場復帰支援プランの作成、最終的な復職の決定、復職後のフォローアップまでの流れを示しています。会社によっては、試し出勤のような制度を設けていることもあります。流れを知っておくと、「いつ、誰に、何を伝えればいいか」が見えて、不安が少し小さくなります。具体的な手続きは、人事部や産業保健スタッフに確認してください。会社側の視点については、人事・産業保健向けの記事でも扱っています。
職場の人にどこまで伝えるか|「大丈夫です」以外の答え方
復職後、同僚や上司に「もう大丈夫なの?」と聞かれるたびに、どう答えればいいか迷う方は多いでしょう。病気のことをどこまで話すかは、あなた自身が決めてよいことです。すべてを説明する必要はありません。
そのうえで、「大丈夫です」以外の答え方をいくつか持っておくと、気持ちがぐっと楽になります。
| 聞かれたこと | 答え方の例 |
|---|---|
| 「もう大丈夫なの?」 | 「少しずつ慣れているところです。気にかけてもらえてうれしいです」 |
| 「無理しないでね」 | 「ありがとうございます。ペースをつかんでいる途中なので、困ったら相談させてください」 |
| 上司から「仕事、増やしても平気?」 | 「やってみたい気持ちはあります。ただ、正直まだ少し不安もあるので、段階的にお願いできますか」 |
| 同僚から休職中のことを聞かれた | 「体調を整えていました。今はこうして戻れてほっとしています」 |
どの答え方にも、小さな感情の言葉が入っていることに気づいたでしょうか。「うれしい」「不安」「ほっとしている」。感情を1つそえるだけで、相手は「この人は今こういう状態なんだ」と理解しやすくなります。本でも、感情を1つ加えるだけで、相手は状態を理解でき、信頼が生まれると紹介しています。
中島輝より一言
私は子どものころから、心の底では不安と孤独を抱えながら、表面上は「いい子」のふりをして生きてきました。何度も絶望しながら心理学の世界に救いを求め、ようやく暗闇から抜け出たのは35歳の頃です。ふり返ると、つらかったのは苦しさそのものだけでなく、「大丈夫なふり」を続けることでもありました。回復は、まっすぐな一本道ではありません。よい日と悪い日を行ったり来たりしながら、少しずつ進んでいくものです。悪い日があっても、それは後戻りではありません。「今日は少ししんどい」と言える日が増えることこそ、回復が進んでいる証なのです。
「消えたい」と感じたときは、ひとりで抱えないで
回復の途中で、気分が大きく落ち込み、「消えてしまいたい」「いなくなりたい」「死にたい」という思いがよぎることがあるかもしれません。それは、あなたが弱いからでも、回復に失敗したからでもありません。それほどまでにつらい、という心のSOSです。
そう感じたときは、どうかその気持ちを、主治医や家族、信頼できる人に伝えてください。うまく言葉にならなくてもかまいません。「最近、すごくしんどい」「消えたいと思うことがある」。それだけで十分です。助けを求めることは、弱さではありません。それは、自分を守るための、とても大切な行動です。
つらさを話せる相談窓口
まずは主治医・かかりつけの医療機関へ
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ
周りの人が打ち明けられたときは、否定したり、励ましたり、説得したりせずに、「話してくれてありがとう」と受けとめてください。そして、一緒に相談先につながることが大切です。
よくあるご質問
「少しずつ慣れているところです」。
その一言が、あなたの回復を守ります。
今夜の3行から始めてみませんか。
自分を大切にしよう
休職から復職したあと、「もう大丈夫です」と言ってしまうのは、周りに心配をかけたくない、早く元に戻りたいという、あなたの誠実さの表れです。けれども、その言葉の下に、再発への不安や周りの目への緊張、焦りが押しこめられたままだと、回復のサインも不調のサインも見えにくくなってしまいます。
体→出来事→感情の順で、主治医や産業医に今の状態を伝えること。1日3行の回復ノートで、自分のパターンを知ること。必要に応じてリワークのような支えを使うこと。そして、職場の人には「大丈夫です」の代わりに、小さな感情の言葉をそえて答えること。どれも、あなたの回復を安心して進めるための、小さくて確かな方法です。治療や働き方の判断は、これからも主治医と相談しながら進めてください。
回復は、よい日と悪い日を行き来しながら進んでいきます。しんどい日はしんどいと、うれしい日はうれしいと、まずは自分にだけでも言葉にしてあげてください。自分を大切にしよう。自分の気持ちに正直でいられることが、長く安心して働き続けるための、いちばんの土台になります。
つらさを話せる相談窓口
主治医・かかりつけの医療機関、職場の産業医・産業保健スタッフ
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- 厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」
- 厚生労働省・中央労働災害防止協会「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8, 162-166.
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。






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