「何もしたくない」と部屋にこもる子どもへ|ひきこもりと感情迷子さん、親が知っておきたいこと

「何もしたくない」と部屋にこもる子どもへ|ひきこもりと感情迷子さん、親が知っておきたいこと

「何もしたくない」と部屋にこもる子どもへ
ひきこもりと感情迷子さん、親が知っておきたいこと

夕食をお盆にのせて、閉じたドアの前に置く。「ごはん、ここに置くね」。返事はありません。たまに顔を合わせて「これからどうするの?」と聞けば、「別に」「何もしたくない」。心配しているのに、言葉をかけるたびに距離が遠くなる気がする。「何もしたくない」は、何も感じていないという意味とは限りません。長い孤立の中で、気持ちが言葉への道を見失っていることがあるのです。10代後半から40代まで、ひきこもりの状態にあるお子さんを見守る親御さんに、今日からできる関わりと、ご自身の心の守り方をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「何もしたくない」「別に」の奥にあるもの

よくある相談の典型例
「何もしたくない。
どうしたいかなんて、わからない」
場面大学を中退してから4年、自室で過ごす時間が長くなった20代後半の息子さん。昼夜が逆転し、家族と顔を合わせるのは深夜の台所くらい。母親が思い切って「これから、どうしたいと思ってるの?」と聞くと、少し黙ったあとにこう答え、部屋に戻っていった。
この言葉を「やる気がない」「甘えている」と受けとるのは自然なことです。けれど、ご本人にとっては文字どおり「どうしたいのか、自分でもわからない」のかもしれません。何かを感じてはいる。でも、それが不安なのか、悔しさなのか、恥ずかしさなのか、見分けて言葉にする道が細くなっている。そんな状態が、長くこもる生活の中では起こりやすいのです。

ひきこもりの状態にあるお子さんを持つ親御さんから、私はこれまで数えきれないほどの相談を受けてきました。そのなかで、くり返し聞く言葉があります。「何を考えているのか、まったくわからない」。そして、それと同じくらい多いのが、お子さん自身の「自分でも、自分が何を感じているのかわからない」という言葉です。

親は子どもの気持ちがわからない。子どもも自分の気持ちがわからない。わからない同士が、閉じたドアをはさんで向き合っている。それが、多くのご家庭で起きていることです。

この記事では、その「わからなさ」を、心理学でアレキシサイミアと呼ばれる特性から見つめ直します。お子さんを分析したり、ラベルを貼ったりするためではありません。「何もしたくない」という言葉の奥で何が起きているかを知ると、かける言葉の選び方と、待ち方が変わるからです。

約146万人
15〜64歳で、広い意味でのひきこもり状態にあると推計される人の数
出典:内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和4年度)公的調査

内閣府の調査では、15〜64歳で広い意味でのひきこもり状態にある人は、推計でおよそ146万人とされています。若い世代だけの話ではなく、30代、40代、それ以上の年代にも広がっています。あなたのご家庭だけが特別なのではありません。まず、そのことをお伝えしたいと思います。

感情迷子さんとは|感情がないのではなく、言葉が届いていない

アレキシサイミア(失感情症)とは、自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。大切なのは、「感情がない」のではなく、「感情に言葉が届いていない」ということです。研究によって幅はありますが、一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向が見られるとされています。成り立ちや特徴はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにくわしくまとめました。

アレキシサイミアは病名ではありません。アメリカ精神医学会のDSM-5や世界保健機関のICD-11にも、独立した診断名としては載っていません。誰もが持っている特性の濃淡で、その度合いが強い人がいる、と考えます。

私の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を、親しみを込めて「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子は、能力がないから迷子になるのではありません。誰でも道がわからなくなることはあります。そして、迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。

部屋にこもるお子さんの気持ちも、消えてしまったわけではありません。帰り道が見えにくくなっているだけです。親にできるのは、その帰り道に、小さな灯りをひとつずつ置いていくことだと私は考えています。

「何もしたくない」は、
「何も感じていない」ではない。
感じていることに、まだ言葉が追いついていないだけ。

長い孤立で感情が平らになる|ひきこもりと2次性アレキシサイミア

アレキシサイミアには、大きく分けて2つのタイプがあると考えられています。

1次性2次性
性質子どもの頃から続く、その人の特性強いストレスから心を守るための一時的な反応
背景生まれ持った気質、育った環境、家庭の文化いじめ、受験や就職の挫折、職場でのつらい体験、長い孤立
家庭での見え方「小さい頃から気持ちを言わない子だった」「前はよく笑う子だったのに、こもり始めてから表情が消えた」

ひきこもりの状態にあるお子さんの多くは、こもり始める前に、何らかのつらい体験をしています。学校での人間関係、受験や就職の失敗、職場での叱責や過重な負担。そうした痛みが言葉にならないまま積み重なると、心は自分を守るために感じるボリュームを自分で下げることがあります。これが2次性のアレキシサイミアと呼ばれる状態です。

刺激の少ない毎日が、感情をさらに平らにする

もうひとつ見落とされやすいのが、こもる生活そのものが感情を平らにしていくという面です。感情は、人とのやりとりの中で動き、名前をつけられていきます。友人と笑う、誰かに腹を立てる、ほめられて照れる。そうした小さな揺れが少ない毎日が続くと、感情は動くきっかけを失い、だんだん「何も感じない」に近づいていきます。

ゲームや動画に何時間も没頭している姿を見ると、「好きなことだけしている」と映るかもしれません。けれど、なかには感じたくないことを感じないために、画面に意識を預けている方もいます。私が出会ったある高校生は、対戦ゲームで世界トップクラスの腕前を持ちながら、中学1年生から学校に行けなくなっていました。ゲームの話になると饒舌なのに、それ以外の話では言葉が少なくなり、将来のことを考えようとすると頭が痛くなってしまう、と話していました。

彼に、アニメの登場人物の気持ちを想像するワークをしてもらったところ、「自分ならここで泣いたりしない」と言っていたのが、やがて「このキャラなら泣くよね。わからなくはない」に変わりました。そして少しずつ、学校にも行けるようになったのです。感情は、安全な場所で少しずつ動かせば、また育っていきます。

中島輝より一言

私は5歳のとき、育ててくれた里親が夜逃げをして、突然いなくなりました。「もう誰も信じられない。自分のつらさを人に見せてたまるか」と、感情を表に出すのをやめました。そこから長いあいだ誰にも心を開かず、一人の世界に閉じこもっていました。暗闇から抜け出せたのは35歳のときです。こもっていた頃の私は、何も感じていなかったのではありません。感じたら崩れてしまいそうで、ふたをしていたのです。ドアの向こうのお子さんも、もしかするとそうなのかもしれません。

励ましも叱る言葉も届かない理由|言葉が「圧」に変わるとき

「このままでいいと思ってるの?」「みんな働いてるのに」「あなたならできるよ、がんばろう」。叱る言葉も励ます言葉も、親の愛情から出ています。けれど、感情迷子さんの状態にあるお子さんには、どちらも同じ「圧」として届いてしまうことが少なくありません。

理由はシンプルです。叱られても励まされても、それに応えるには「自分はどうしたいのか」「今、何を感じているのか」を言葉にする必要があります。それがいちばん難しい状態にいる人に、いちばん難しい問いを投げているのです。答えられないまま問いだけが重なると、本人の中には「わかってもらえない」「やっぱり自分はダメだ」という感覚だけが残り、ドアはさらに固く閉じていきます。

届きにくい言葉と、届きやすい言葉

届きにくい言葉代わりに届きやすい言葉
「これからどうするの?」「今日は寒いね。毛布、出しておいたよ」
「何を考えてるのか言ってよ」「言いたくなったら、いつでも聞くからね」
「がんばれば大丈夫だよ」「しんどい時期なんだろうなと思ってるよ」
「いつまでこうしているつもり?」「お母さんは、あなたが元気でいてくれたらうれしい」
「みんなはちゃんとしてるのに」(比べる言葉は、いったん飲み込む)

届きやすい言葉に共通しているのは、答えを求めていないことです。返事がなくても成り立つ言葉。体のことや季節のこと、親自身の気持ち。こうした言葉は、お子さんに「答えなければ」という負担をかけずに、「ここにいていい」というメッセージだけを届けます。

「わかってもらえた」が先、解決策はそのあと

『感情迷子さんの本』でも、悩んでいる人が本当に求めているのは、多くの場合「わかってもらえた」という感覚だとお伝えしています。カウンセリングの場でよく出会うのが、ご家族が懸命に解決策を伝えてきたのに、本人はずっと「わかってもらえなかった」と感じていた、というケースです。

本当にわかっていなくてもかまいません。「わかろうとしてくれている」と感じたとき、人の心の扉は開きます。扉が開いてから届いたアドバイスは、同じ言葉でも、違う温度で心に入っていきます。進路や仕事の話は、その順番を守ってからで遅くはありません。

答えを求める言葉は、ドアを閉める。
返事のいらない言葉は、ドアの前に灯りを置く。

4タイプで見る「ドアの向こうの気持ち」

『感情迷子さんの本』では、感情迷子さんを4つのタイプに分けています。お子さんを決めつけるためではなく、関わり方の引き出しを増やすための見方として読んでください。どのタイプにも少しずつ当てはまる、ということもよくあります。

タイプ1|感情がわからない
「わからない」「なんか体がだるい」が口ぐせ

気持ちが体の感覚のまま、ひとかたまりで感じられています。頭痛や腹痛、だるさを訴えることが多いのも特徴です。体の訴えは、まず体の訴えとして受けとめることが大切です。「頭が痛いのはつらいね」と受けとめ、続くようなら受診をすすめましょう。気持ちを聞くより、「温かいお茶、飲む?」と体をいたわる言葉のほうが届きます。

タイプ2|感情を説明できない
「別に」「普通」で会話が終わる

何かを感じてはいるけれど、言葉にする手前で止まっています。「正確に言わなければ」という真面目さが、かえって言葉を遠ざけていることもあります。選べる形で差し出すと答えやすくなります。「今日はちょっと疲れた、そこそこ疲れた、すごく疲れた、でいうとどれ?」。一言でも返ってきたら、それは大切な気持ちの報告です。

タイプ3|感情に興味がない
「気持ちとかどうでもいい」「考えても意味ない」

気持ちの話を避け、理屈や情報の話なら応じてくれるタイプです。人の気持ちに敏感すぎて、巻き込まれるのが怖いから感情を見ないようにしている、という場合もあります。本人が詳しい分野の話を「教えてもらう」ことから入ると、会話の糸口ができます。「そのゲーム、どこが面白いの?」と、評価せずに興味を向けてみてください。

タイプ4|想像できない
「将来とか考えられない」「どうせ無理」

未来の自分を思い描くことが難しくなっています。期待して裏切られた経験が、想像にブレーキをかけていることもあります。いきなり将来の話をするより、小さな「もしも」から。「もし1日自由に使えるとしたら、何する?」「もし好きなものを一品頼めるなら?」。答えがなくてもかまいません。想像してみること自体が練習になります。

中島輝より一言

どのタイプであっても、「わからない」「別に」は、立派な気持ちの報告です。何も返ってこないよりずっといい。そう思って、その一言を受けとってあげてください。「そっか、わからないんだね」とそのまま返すだけで、お子さんは「わからなくても責められない」と知ることができます。

ドア越し・LINE・食事のメモ|負担の少ない接点のつくり方

ひきこもりの状態にあるお子さんとの関わりで大切なのは、「会話を増やすこと」より「接点を途切れさせないこと」です。顔を合わせて話すことが負担なら、もっと負担の少ない接点から始めればいいのです。

負担の少ない接点の階段 下の段から、お子さんのペースで。上がったり下がったりしてかまわない 気配 あいさつ・生活音 メモ 食事に添える ひと言 LINE 返信のいらない 短い連絡 ドア越し 答えを求めない 声かけ 同じ空間 横並びで テレビ・食事 どの段にも「答えなくていい」という安心を添えて
▲ 接点は、いきなり「話し合い」から始めなくてかまいません。気配やメモのように、お子さんが答えなくても成り立つ関わりから積み重ねていくと、安心感が少しずつ育っていきます。
接点1|食事のメモ
お盆にのせる「1行の手紙」

食事をドアの前に置くなら、小さなメモを1枚添えてみてください。「今日は雨で、庭のあじさいがきれいでした」「肉じゃが、少し甘めにしてみたよ」。質問は書きません。親が今日感じたことを、1行だけ書きます。これは、原稿のワーク「感情が動いた瞬間日記」を親が実践して、そっと見せているようなものです。感情の言葉にふれる機会が、少しずつ増えていきます。

接点2|LINE
返信のいらない「スタンプ1つ」から

同じ家にいても、LINEのほうが楽というお子さんは少なくありません。「おやすみ」のスタンプ1つ、「コンビニ行くけど、何かいる?」の一文。既読がつくだけで十分です。既読すらつかない日があっても、責めずに続けてください。返事がきたら、内容より「返してくれたこと」に「ありがとう」を。

接点3|ドア越しの声かけ
天気と体のことだけ、毎日同じ時間に

ドアの前で話すときは、「今日は冷えるね」「お風呂、沸いてるよ」くらいの短い言葉で。毎日同じ時間帯に、同じ調子で声をかけることが安心につながります。返事を待たずに、その場を離れて大丈夫です。

接点4|横並びの時間
向き合わず、同じものを見る

リビングに出てくる時間ができたら、向き合って話すより、同じテレビ番組や同じ料理を「横並び」で楽しむ時間を大切にします。ドラマを見ながら「この人、今どんな気持ちなんだろうね」とつぶやくのは、原稿のワーク「キャラクター感情読み」の応用です。答えを求めず、親が先に「私なら悔しいかも」と言ってみてください。

親が「感情の言葉の手本」になる

感情迷子さんの状態にあるお子さんにとって、いちばん身近な感情の教科書は親です。「疲れたなあ」「今日はうれしいことがあった」「ちょっとイライラしてるから、先にお風呂入るね」。親が自分の気持ちを、責めずに短く言葉にする姿を見せることが、お子さんの中で止まっていた感情の言葉を、少しずつ動かしていきます。

仕事をしながらお子さんを支えていたある母親(マナミさん・仮名)は、手帳の余白に「イライラ」「焦りでグルグル」と、1日1回だけ感情を書くようにしました。続けるうちに、家族に「今日は疲れちゃったから、イライラしてごめんね」と言えるようになり、お子さんは「なんだ、機嫌が悪いのは私のせいかと思った」とほっとした様子だったそうです。親の感情が言葉になると、子どもは「自分のせいではない」と安心できるのです。

「死にたい」と言われたとき|SOSとして受けとめる

長くこもる生活の中で、お子さんが「もう消えたい」「生きていても意味がない」「死にたい」と口にすることがあります。親として、これほど胸がつぶれる言葉はありません。

まずお伝えしたいのは、その言葉は、言葉にしにくかったつらさが、ようやく外に出てきたSOSだということです。感情を言葉にしにくい人は、つらさが周りに届きにくい傾向があります。だからこそ、その一言が出たことには意味があります。

  • 「そんなこと言わないで」とすぐに打ち消さず、「そう思うくらい、つらいんだね」とまず受けとめる
  • 話してくれたことに「話してくれてありがとう」と伝える
  • 理由を問い詰めたり、説教したりしない
  • 親ひとりで抱えず、その日のうちに相談窓口や医療機関、支援機関に相談する
  • 本人にも「助けを求めることは弱さではない」と伝える

「死にたい」は、本当は「こんなにつらいことを、わかってほしい」という気持ちの表れであることが少なくありません。つらさを受けとめてもらえた経験は、それだけで心を支えます。そして、親自身も、助けを求めていいのです。

つらさを相談できる窓口
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(文部科学省)
チャイルドライン 0120-99-7777(18歳まで)
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

親自身の孤立と罪悪感|8050問題を家族だけで抱えない

ひきこもりの相談で、私がいちばん気にかけているのは、実はお子さんだけではありません。親御さん自身の孤立です。

よくある相談の典型例
「育て方が悪かったんです。
だから、私がなんとかしないと」
場面40代の娘さんが10年以上ひきこもっている70代の母親。夫は「おまえの甘やかしだ」と言うだけで関わろうとしない。親戚には「仕事を探している」と説明し、近所の人に娘のことを聞かれると話題を変える。相談に来たのは、体調を崩して入院したのがきっかけだった。
この方は、娘さんのことを誰にも話さないまま、長い年月を過ごしてきました。罪悪感、恥ずかしさ、怒り、将来への不安。いくつもの気持ちが混ざり合ったまま、「なんとかしないと」という一言に押し込められていたのです。親もまた、感情迷子さんになっていました。

80代の親が50代の子どもの生活を支える状態は「8050問題」と呼ばれ、親の高齢化とともに社会の課題として語られるようになりました。けれど、数字や言葉の大きさよりも先に知っておいてほしいのは、家族だけで抱え込むほど、親子ともに孤立が深まりやすいということです。

罪悪感は「育て方の答え」ではない

「自分の育て方のせいだ」と考える親御さんはとても多いのですが、ひきこもりの背景は一つではありません。本人の気質、学校や職場での出来事、社会の状況。いくつもの要因が重なっています。罪悪感は、それだけお子さんを大切に思っている証拠ではあっても、原因の答えではありません。

親のための「心の体温チェック」

お子さんの気持ちに目を向ける前に、親自身の気持ちにも目を向けてください。原稿のワーク「心の体温チェック」は、手のひらを胸に当てて「今、自分の体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞くものです。朝起きたとき、お子さんの部屋の前を通ったあと、夜寝る前。「冷たい」「ざわざわする」「よくわからない」、どの答えでもかまいません。自分の状態に気づくことが、自分をいたわる第一歩です。

そして、夫婦で意見が食い違うことも少なくありません。「甘やかしだ」と言う側も、実は不安や無力感を言葉にできずにいることがあります。「あなたはどう感じてる?」より「私は今、こんなふうに不安なの」と、自分の気持ちを主語にして伝えてみてください。責め合いから、同じ側に立つ話し合いへと変わっていくきっかけになります。孤独や孤立については「さみしい」と言えない大人たち|孤独・孤立とアレキシサイミアの深い関係でも書いています。

中島輝より一言

お子さんが変わるのを待つあいだ、親御さんが自分の人生を止めてしまう必要はありません。好きなお茶を味わう、友人と会う、趣味の時間を持つ。親が自分を大切にしている姿は、「人生には楽しいこともある」という、言葉より確かなメッセージになります。それは決して、お子さんを見捨てることではありません。

地域の支援につなぐ|ひきこもり地域支援センターと家族会

ひきこもりの支援は、お子さん本人が相談に行けなくても始められます。まず親が相談することから、支援はつながっていくのです。

家族を支える地域のつながり 本人が動けなくても、親の相談から支援は始められる 親・家族 まず相談する ひきこもり地域支援センター 都道府県・指定都市 市区町村の相談窓口 福祉・保健の担当課など 家族会 同じ立場の親とつながる 医療機関・専門家 心身の不調があるとき 親がつながると、やがて本人へとつながる道ができる
▲ ひきこもりの相談は、本人より先に家族が始めることが多いものです。親が地域の窓口や家族会とつながることで、孤立がほどけ、お子さんへの関わり方にも余裕が生まれます。

相談できる主な窓口

窓口1
ひきこもり地域支援センター

ひきこもりに特化した相談窓口で、各都道府県と指定都市に設けられています。家族からの相談を受けつけ、訪問支援や居場所づくり、関係機関との連携などを行っています。お住まいの地域のセンターは、自治体のホームページで「ひきこもり地域支援センター」と検索すると見つかります。

窓口2
市区町村の相談窓口

身近な市区町村にも、ひきこもりや生活の困りごとを相談できる窓口があります。担当する課の名前は自治体によって違いますので、役所の代表番号に「ひきこもりの相談をしたい」と伝えれば、担当につないでもらえます。保健所や保健センターで、心の健康の相談を受けているところもあります。

窓口3
家族会

同じ立場の親どうしが集まり、経験や気持ちを分かち合う場です。全国組織としてKHJ全国ひきこもり家族会連合会があり、各地に家族会があります。「うちだけじゃなかった」と知ること、自分の気持ちを話せる場所を持つことは、親の孤立をほどく大きな力になります。

窓口4
医療機関・専門家

眠れない、食べられない、強い不安や落ち込みが続くといった心身の不調が見られるときは、精神科や心療内科などの医療機関への相談も考えてください。本人が受診を嫌がる場合でも、家族だけで相談を受けつけている医療機関や、自治体の精神保健福祉センターがあります。

支援につながったからといって、すぐに状況が変わるとは限りません。けれど、親が一人で悩む時間が減るだけで、家の中の空気は確かに変わっていきます。その変化は、ドアの向こうにも伝わります。学校に行けない段階のお子さんについては不登校の子が「理由がわからない」と言うとき|感情迷子さんの視点で考える関わり方も参考にしてください。

親が相談することは、
子どもをあきらめることではない。
親子の帰り道を、一緒に探す仲間を増やすこと。

よくあるご質問

うちの子はアレキシサイミアなのでしょうか?
アレキシサイミアは病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。親が「この子はアレキシサイミアだ」と判断する必要はありません。「気持ちを言葉にしにくい状態なのかもしれない」という視点を、関わり方のヒントとして持っておくことが大切です。心身の不調が続く場合は、医療機関や専門家に相談してください。
何年も返事がありません。声をかけ続ける意味はありますか?
あります。返事がなくても、声やメモは届いています。答えを求めない言葉を、同じ調子で続けることが「ここにいていい」という安心につながります。そのうえで、親自身が疲れきってしまわないよう、地域の相談窓口や家族会など、親を支えてくれる場所も持ってください。
ゲームや動画ばかりしています。取り上げたほうがいいですか?
いきなり取り上げると、本人にとって数少ない安心の場を失うことになり、関係がこじれやすくなります。ゲームや動画が、つらい気持ちを感じないための避難場所になっている場合もあります。まずは「どこが面白いの?」と興味を向けて、会話の入り口として使ってみてください。生活リズムなどの心配は、支援機関とも相談しながら考えていきましょう。
夫(妻)が協力してくれず、つらいです。
ひきこもりへの向き合い方は、夫婦でも違って当然です。協力しない側も、不安や無力感をうまく言葉にできずにいることがあります。相手を責める言葉より、「私は今、こんなふうに不安なの」と自分の気持ちを伝えてみてください。夫婦だけで話がまとまらないときは、家族会や支援センターに一緒に相談に行くのもよい方法です。
親が先にいなくなったら、と考えると眠れません。
多くの親御さんが抱える、切実な不安です。その不安こそ、ひとりで抱えずに言葉にしてほしい気持ちです。ひきこもり地域支援センターや自治体の窓口では、将来の暮らしや制度についての相談も受けつけています。不安を「誰かと一緒に考えられること」に変えていくことが、親子両方の安心につながります。
「何もしたくない」の奥には、
まだ名前のついていない気持ちがある。
答えを求めない言葉で、帰り道に灯りを。
そして、毎日ドアの前に立つあなた自身の気持ちにも、
今日ひとつ、名前をつけてあげてください。

自分を大切にしよう

「何もしたくない」「別に」と部屋にこもるお子さんの心には、気持ちがないのではなく、気持ちを言葉にしにくくなっている状態が隠れていることがあります。感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をアレキシサイミアと呼び、つらい体験や長い孤立が重なると、心を守るための2次性の反応として感情が平らになりやすくなります。だからこそ、叱る言葉も励ます言葉も、答えを求める「圧」として届いてしまうのです。

親にできるのは、答えを求めない接点を途切れさせないことです。食事に添える1行のメモ、返信のいらないLINE、ドア越しの天気と体のひと言、横並びで同じものを見る時間。そして、親自身が「疲れた」「うれしい」と自分の気持ちを短く言葉にして見せること。「死にたい」という言葉が出たときは、つらさを伝えるSOSとして受けとめ、ひとりで抱えずに相談窓口や医療機関につないでください。ひきこもり地域支援センターや自治体の窓口、家族会は、本人が動けなくても、親の相談から使うことができます。

そして、お子さんを支え続けているあなた自身も、罪悪感や不安を言葉にできないまま、長い時間を過ごしてきたのかもしれません。胸に手を当てて「今、どんな感じ?」と自分に聞いてみてください。自分を大切にしよう。親が自分をいたわり、誰かとつながることが、ドアの向こうのお子さんへ届く、いちばん確かな灯りになります。

つらさを話せる窓口
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(文部科学省)
チャイルドライン 0120-99-7777(18歳まで)
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • 内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和4年度)
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Fonagy, P., et al. (2002). Affect Regulation, Mentalization, and the Development of the Self. Other Press.
  • KHJ全国ひきこもり家族会連合会
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

無断転載禁止
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP