子どもの気持ちがわからないと感じる父親へ
仕事脳のパパのための感情の言語化入門
夜9時すぎに帰宅すると、小学5年の娘が「今日さ、〇〇ちゃんがさ……」と話しかけてくる。3分ほど聞いたところで、つい口から出てしまう。「で、結論は?」。娘は「もういい」と自分の部屋へ戻り、妻からは「聞いてほしかっただけでしょ」と言われる。思い当たる方に、結論から申し上げます。子どもの気持ちがわからないのは、愛情が足りないからではありません。仕事で鍛えた「解決の回路」が、家でも先に動いているだけです。仕事中心に走ってきた30〜40代のお父さんに向けて、論理で納得できる感情の言語化の入門をお届けします。
結論|父親に必要なのは「聞く技術」より「気持ちの通訳」
最初に、この記事の要点を3つにまとめます。忙しい方は、ここだけ読んでいただいてもかまいません。
子どもの話は「報告」ではなく「気持ちの共有」である
職場の会話は、課題を見つけて解決するためのものです。けれど子どもが父親に話しかけるとき、多くの場合その目的は解決ではありません。「わかってもらえた」という感覚です。目的が違う会話に、仕事の型をそのまま当てはめると、子どもの言葉は止まってしまいます。
気持ちに名前をつけてあげると、子どもは自分で考えはじめる
「それは悔しかったな」と父親が感情に名前をつけると、子どもの心は落ち着き、そのあとで自分から解決を考えはじめます。共感は遠回りに見えて、実は解決への最短ルートです。この順番を入れ替えるだけで、会話は大きく変わります。
まず父親自身が、自分の感情を言葉にする練習をする
子どもの気持ちがわからない背景には、父親自身が自分の気持ちを言葉にしてこなかったことがあるかもしれません。これは性格ではなく、育った時代と、働き方がつくった「クセ」です。クセなので、1日数秒からの練習で変えられます。
ここで使う「感情迷子さん」とは、中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の言葉で、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を指します。心理学では「アレキシサイミア(失感情症)」と呼ばれ、感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態のことです。病名ではなく、誰もが持っている特性の濃淡だと考えられています。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで詳しく解説しています。
保護者会に集まった父親が20人いれば、2人前後いても不思議ではありません
「迷子」という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。感情の言葉は、失われたのではありません。しばらく使っていなかった道具が、引き出しの奥にしまわれているだけです。この記事では、それをもう一度取り出す手順を、できるだけ論理的に、順を追ってお伝えします。
「で、結論は?」が子どもの言葉を止めるしくみ
子どもが話してくれなくなったんです」
子どもは「わかってもらえた」を先に欲しがる
本の中で、私はこう書いています。悩んでいる人が本当に求めているのは、多くの場合「わかってもらえた」という感覚であり、「それは大変だったね」「つらいんだね」と言ってもらえるだけで気持ちがラクになり、自ら解決に向けて動けるようになることは多い、と。
カウンセリングの現場でもよく出会うのが、親やパートナーが懸命に解決策を伝えてきたのに、本人はずっと「わかってもらえなかった」と感じていたというケースです。助言の中身は正しい。けれど、正しさは心の扉が開いてからでないと届きません。扉が開く前の正論は、子どもにとって「また評価された」という体験になりやすいのです。
感情に名前がつくと、脳のアラームが下がる
ここには脳のしくみも関わっています。カリフォルニア大学のリーバーマン(Lieberman)らは2007年、感情に「怒り」「悲しみ」などの名前をつけると、脳の扁桃体(へんとうたい)の活動が下がることを報告しました。扁桃体は危険を察知して体を臨戦態勢にする、警報装置のような部位です。
つまり、子どもが「コーチに怒られた」と話しているとき、その子の頭の中ではまだ警報が鳴っています。警報が鳴ったままでは、「次はどうするか」を考える余裕はありません。父親が「それは悔しかったな」と気持ちに名前をつけると、警報が少し静まり、そこではじめて考える力が戻ってきます。共感は、甘やかしではなく、考える力を取り戻すための手順なのです。
解決策をやめなくていい。
順番を一つ入れ替えるだけでいい。
「気持ちの名前」が先、「次どうする」はその後。
解決を急ぐ父親の会話|よくある4つの型
仕事ができる父親ほど、子どもとの会話にも無意識に「型」が出ます。どれも悪意からではなく、早く楽にしてあげたいという誠実さから生まれるものです。ただ、子どもの側からは違って聞こえています。自分にどの型が多いか、確認してみてください。
| 型 | よく出る言葉 | 子どもにはこう聞こえる |
|---|---|---|
| 結論催促型 | 「で、結論は?」「要するに?」「手短に」 | 「話す価値がない」「まとまってから来い」 |
| 解決策提示型 | 「じゃあ、こうすればいい」「先生に言えば済む」 | 「気持ちはどうでもいい」「自分で考えるなと言われた」 |
| 正論・矛盾指摘型 | 「さっきと言ってることが違う」「だから言ったのに」 | 「責められている」「話すと損をする」 |
| 励まし・最小化型 | 「気にするな」「そんなことで泣くな」「大したことない」 | 「この気持ちは感じてはいけない」 |
4つ目の「励まし・最小化型」には、とくに注意が必要です。父親としては元気づけているつもりでも、子どもは「この気持ちは、ここでは出してはいけない」と学習します。それが繰り返されると、子どもは気持ちを家の外でも出さなくなり、やがて自分でも何を感じているのかわからなくなっていくことがあります。
なぜ父親は解決を急ぐのか
理由はシンプルです。職場では、それが正解だからです。会議は結論から話す。課題は切り分けて解決する。感情は脇に置いて、事実で判断する。こうした仕事の作法は、30〜40代の働き盛りの方にとって、毎日何時間も練習している「得意技」です。得意技は、疲れているときほど無意識に出ます。夜の帰宅後、子どもの話に仕事の型が出てしまうのは、ある意味で自然なことなのです。
もうひとつの理由は、子どもの悲しみや悔しさを見ているのが、父親自身にとってつらいからです。早く解決すれば、そのつらさから自分も抜け出せる。解決策を急ぐ気持ちの奥には、実は父親自身の「見ていられない」という感情が隠れていることがあります。
中島輝より一言
お父さん方とお話ししていると、「解決してあげないと、父親として役に立っていない気がする」という言葉をよく聞きます。でも、子どもにとって役に立つ父親とは、問題を片づけてくれる人だけではありません。「この人に話すと、気持ちが軽くなる」と思える人です。それは、解決策を出すよりずっと難しく、ずっと価値のある仕事だと私は思います。
「男は泣くな」と育った世代と規範的男性アレキシサイミア
いま30〜40代の父親の多くは、子どものころに「男の子なんだから泣かない」「弱音を吐くな」と言われた経験があるのではないでしょうか。部活では「気合いが足りない」、職場では「感情的になるな」。感情を出さないことが「大人の男」の条件として教えられてきた世代です。
アメリカの心理学者ロナルド・レヴァント(Levant)らは、こうした男性の育てられ方によって、感情を感じにくく言葉にしにくくなる傾向を「規範的男性アレキシサイミア(normative male alexithymia)」と呼びました。「規範的」とは、生まれつきではなく、社会の「男はこうあるべき」という規範によってつくられたという意味です。つまり、これは性格の欠陥ではなく、学習された結果です。学習されたものは、学び直すことができます。
「泣くのは無能の証拠」と教えられた経営者
本に登場する50代の経営者、ケンジさん(仮名)は、幼いころから「泣くのは無能の証拠」「泣いている暇があったら、解決策を探す」と教え込まれて育ちました。その信念のおかげで、20代で起業した会社を百名を超える規模に育てています。ところが、ある時期から「何のために働いているのかわからない」という虚無感を抱えるようになりました。
ケンジさんのように、感情を「ノイズ」として切り捨てる生き方は、仕事では一定の成果を生みます。けれど感情は、不快なものだけを選んで切り捨てることができません。悲しみや不安と一緒に、喜びや手応え、家族と過ごす時間のあたたかさまで感じにくくなっていくのです。本ではこれを「人生の彩り」という最大の報酬まで捨ててしまっていた、と表現しています。
感情を「感じないようにする」脳のしくみ
「泣くのは弱さ」「感情的になるのは非効率」という思い込みが強いと、実際には感情を持っている自分との間に矛盾が生まれます。心理学でいう認知的不協和です。脳はこの矛盾のストレスを解消するために、「最初から感じないようにしよう」という方向に働きます。こうして感情は「不要なもの」として処理されるようになり、本人も気づかないうちに、感情のセンサーの感度が下がっていきます。
この傾向は、家庭にも静かに影響します。講座資料では、アレキシサイミア傾向が対人関係の問題を測る尺度(IIP-64)で「冷たさ・距離感」「非主張的」と関連すること、また2008年の研究でパートナーとの関係満足度の低下と関連することが紹介されています。父親が冷たいのではありません。感情の受け渡しに使う回路が、長く使われずに細くなっているだけなのです。
中島輝より一言
中学生のころ、私はバスケットボール部にいました。試合に勝ってチームメイトが抱き合って喜んでいるとき、私だけが無表情で立っていたことを覚えています。うれしくなかったのではありません。喜びをどう出していいのか、出していいのかどうかも、わからなかったのです。子どもの前で感情を出せないお父さんの気持ちが、私には少しわかる気がします。
もしかして、父親自身が「感情に興味がない」タイプかもしれない
感情迷子さんには4つのタイプがあります。それぞれのタイプは、自己肯定感の「6つの感」と、木のたとえに対応しています。仕事中心で走ってきた父親に多いのは、とくにタイプ3「感情に興味がない」です。
| タイプ | 父親に現れやすい姿 | 土台になる感 |
|---|---|---|
| タイプ1 感情がわからない | 疲れやいら立ちに自分で気づかず、休日に寝込む、胃や腰に出る | 自尊心≒自己存在感(根) |
| タイプ2 感情を説明できない | 何か引っかかっても「まあいい」で済ませ、家族に気持ちが伝わらない | 自己受容感(幹) |
| タイプ3 感情に興味がない | 子どもの相談に即座に解決策を出す。家族の話にも論理で返す | 自己信頼感(葉) |
| タイプ4 想像できない | 子どもの夢に「現実的には」と返してしまう。自分の将来像が描けない | 自己決定感(花) |
タイプ3の人は、論理や合理性を重んじ、判断力や問題解決力に長けていることが多いのが特徴です。それ自体は大きな才能です。ただ、意識がいつも「外」に向いていて、「自分は今どう感じているか」を考える間がない。原稿では、タイプ3の多くは感情がわからないのではなく、「感情はノイズだ」と判断してシャットアウトしている、と説明しています。
「感情はノイズ」だった管理職、タカシさんの変化
本に登場する40代の管理職、タカシさん(仮名)は、部下が相談に来てもまず解決策を出し、家族が話しかけてきても論理的に返すのが当たり前だった方です。「最近、何のために働いているのかわからなくなった」という虚無感を抱えて相談に来られました。
タカシさんが取り組んだのは、相手の感情を想像するところから始める小さな練習でした。半年ほど経ったある日、タカシさんはこう話してくれました。
そしてタカシさんは「自分もなんだか、スッとするんです」と続けました。相手の感情に名前をつける練習が、そのまま自分の感情に気づく練習になっていたのです。職場で起きたこの変化は、家庭でもまったく同じように起こります。
父親のための「感情に興味がない」セルフチェック
次のうち、当てはまるものを数えてみてください。
- 子どもが話しはじめると、途中で「要点」を探しながら聞いている
- 子どもが泣いていると、理由より先に「どうすれば泣きやむか」を考える
- 家族から「何を考えているかわからない」と言われたことがある
- 仕事でうまくいっても、喜んだ記憶があまりない
- 休日に家にいても、頭の中は仕事の段取りのことが多い
- 自分の子どものころの「うれしかった記憶」がすぐに出てこない
- 妻に「話を聞いてほしいだけ」と言われて、正直よくわからなかった
- 体の不調(不眠・胃痛・腰痛など)を、忙しさのせいにして放っている
3つ以上当てはまる方は、感情の回路が少し細くなっているかもしれません。これは診断ではありません。「自分にもこういう傾向があるかもしれない」と気づくことが、変化の最初の一歩です。そして、根拠はなくても「なんとなくこう感じる」という感覚を切り捨てずに信じてあげること。それが「6つの感」でいう自己信頼感、木の「葉」を茂らせることにつながります。
小学生から中高生へ|年齢で変わる「気持ちのわかりにくさ」
「子どもの気持ちがわからない」と感じる理由は、父親の側だけにあるわけではありません。子どもの感情の出し方そのものが、成長とともに変わっていきます。年齢ごとの特徴を知っておくと、「わからない」を「そういう時期なんだ」に置きかえることができます。
| 年齢 | 気持ちの出し方 | 父親ができること |
|---|---|---|
| 小学校低学年 | 言葉より体や行動に出る。「おなかが痛い」「学校行きたくない」 | 体の訴えをまず受け止め、「何かいやなことあった?」と軽く添える |
| 小学校高学年 | 「別に」「普通」が増える。友だち関係の悩みが複雑になる | 答えやすい選択肢で聞く。「モヤモヤ? イライラ?」 |
| 中学生 | 親に話さなくなる。部屋にいる時間が長くなる | 聞き出さず、横並びの時間を確保する。父親が先に自分の話をする |
| 高校生 | 感情はあるが、どう扱えばいいか悩む。「さぁ」「別に」 | 結論を急がず、相談されたら5秒待つ。「どうしたい?」を尊重する |
思春期に親に気持ちを話さなくなるのは、発達のうえでごく普通のことです。本の中でも、胸の内には強い感情があるのにどう表現していいかわからない時期であり、特別に心配することはない、と書いています。友だちに話したり、日記を書いたり、絵や音楽で表現したりしているなら、無理に言葉を引き出そうとせず、見守ることも立派な関わりです。
「話さない」と「話せない」を見分けるサイン
一方で、次のような変化が続くときは、言葉にできないつらさを抱えているのかもしれません。
- 朝になると頭痛や腹痛を訴える日が続いている
- 眠れない、または極端に長く眠るようになった
- 食欲が大きく変わった
- 好きだったことに興味を示さなくなった
- ささいなことで急に怒りが爆発する
- 学校に行きしぶる日が増えた
こうしたサインが2週間以上続くときは、担任の先生やスクールカウンセラー、かかりつけの小児科などに相談してください。父親ひとりで抱える必要はありません。共働きの家庭で、平日の短い時間にできる関わりについては子どもの「別に」「普通」が気になる共働き家庭へ|忙しい毎日でできる感情の言語化もあわせてご覧ください。
子どもが話さないのは、
父親を拒んでいるからとは限らない。
まだ、気持ちに名前がついていないだけかもしれない。
向かい合うより横並び|風呂・車・キャッチボールの5分
父親と子どもの会話で、私がいちばんおすすめしているのが「横並び」の場面です。向かい合って座り、目を見て「最近どう?」と聞くと、子どもにとってはどうしても面談のように感じられます。とくに父親が仕事モードの口調だと、評価される場のように受け取られがちです。
一方、同じ方向を向いて何かをしているとき、人は話しやすくなります。目を合わせなくていい。沈黙があっても、手や目の前の作業がそれを埋めてくれる。「話さなくてもいい時間」の中でこそ、ぽろっと本音が出てくるものです。父親が得意な「一緒に何かをする」時間を、感情の言葉が育つ場所に変えていきましょう。
湯船で「今日の心の天気」を聞く
本で紹介している「比喩レッスン」の応用です。「今日の心の天気、晴れ?くもり?雨?」と聞くだけ。「くもりのち晴れ」のような答えが返ってきたら、「お、途中で晴れたんだ。何があった?」と一歩だけ進めます。父親も「パパは朝は雨、夕方からくもり」と自分の天気を言ってみてください。理由の説明は求めなくて大丈夫です。
音楽をきっかけに「3段階温度計」
中高生になると、車の中が貴重な会話の場になります。子どもが流している曲について「この曲って、どんな気分のとき聞きたくなる?」と聞いてみましょう。答えが出たら、「ちょっと・そこそこ・すごく」で言うと?と強さを聞きます。感情の強さを区別すると、ぼんやりしていた気持ちの解像度が上がります。前を向いて運転しているので、子どもは父親の表情を気にせずに答えられます。
ボールと一緒に「オノマトペ」を投げ合う
体を動かしながらだと、言葉は驚くほど出やすくなります。投げるたびに「今日の学校、オノマトペで言うと?」「ドヨーン」「お、ドヨーンか」。正確な感情語でなくてかまいません。「モヤモヤ」「ザワザワ」のような体の感覚に近い言葉でも、脳は感情のラベルとして受け取ります。サッカーのパス、バドミントンでも同じです。
父親が先に「感情つき」の話をする
中高生には、質問するより先に父親が自分の話をするほうが効果的です。「今日、会議で提案が通らなくて、ちょっと悔しかったんだよ」。事実だけでなく、感情をひとつ添えるのがポイントです。子どもは父親の話を聞きながら、「大人も悔しいと感じるんだ」「悔しいと言っていいんだ」と学びます。返事がなくても、その5分は無駄になっていません。
横並びの時間を続けるための3つのルール
- 聞き出さない。答えが「別に」なら「そっか」で終える
- 出てきた気持ちを評価しない。「そんなことで」は封印する
- 5分で終える。長くするより、回数を増やすほうが効く
仕事の技術を家に持ち帰る|5秒ルールと共感の一言
職場で部下や後輩の相談を受けるとき、すでにできていることがある方も多いはずです。実はその技術は、そのまま家で使えます。本の第4章で、タイプ3の感情迷子さん向けに紹介しているワークを、父親の場面に合わせて組み替えました。
5秒ルール:解決策が浮かんでも5秒待つ
子どもが話しはじめて、解決策が頭に浮かんだら、口に出す前に5秒だけ待ちます。その5秒の間に「この子は今、何を感じているんだろう?」と一度だけ自分に問いかけてください。答えはわからなくてかまいません。相手の行動を、その奥にある気持ちから理解しようとすることを、心理学ではメンタライゼーションと呼びます。5秒の問いかけは、その最小単位のトレーニングです。
共感の一言:正論の前に一言だけ
「こうすべきだ」と言いたくなったら、いったんこらえて「それは悔しかったな」「大変だったな」「悩むよな」と先に一言だけ言います。正論はそのあとで大丈夫です。本当にわかっていなくても、「わかろうとしてくれている」と感じると、子どもの心の扉は開きます。扉が開いてから届けたアドバイスは、同じ言葉でも違う温度で届きます。
感情タイムアウト:帰宅前に「今、どんな気分?」
1日3回スマホのアラームを設定し、鳴ったら3秒だけ「今、どんな気分?」と自分に問いかけます。父親におすすめのタイミングは、朝の通勤中、昼食後、そして帰宅直前です。最寄り駅の改札や、自宅の駐車場に着いたとき。「疲れてる」「イライラが残ってる」と気づけるだけで、その気分のまま子どもに「で、結論は?」と返してしまうことが減っていきます。
感情だけ日記:手帳の隅に1行
夜、手帳やスマホのメモに、今日の出来事ではなく感じたことだけを書きます。「娘が話しかけてきて、うれしかった。でも疲れていて、うまく返せなくてもどかしい」「とくに何も感じなかった」。最後の「何も感じなかった」も立派な記録です。出来事を並べるのが得意な方ほど、あえて出来事を書かないことが、いちばんのトレーニングになります。
そのまま使える言いかえ例
| 場面 | つい言ってしまう言葉 | 気持ちの名前を先に置いた言葉 |
|---|---|---|
| 友だちとけんかした | 「どっちが悪いの?」 | 「それはモヤモヤするな。何があった?」 |
| テストの点が悪かった | 「なんで勉強しなかったの」 | 「悔しいか? それとも、まあいいか?」 |
| 試合に負けて泣いている | 「泣くな、次がある」 | 「本気だったから悔しいんだよな」 |
| 部活をやめたいと言う | 「一度始めたことは続けろ」 | 「そう思うくらい、しんどいことがあるんだな」 |
| 将来の夢を語ってきた | 「現実的には難しいぞ」 | 「いいな! それで、なったら何をしたい?」 |
最後の例は、タイプ4のワーク「子どもの空想に全力で乗る」からです。本の中で、私は子育ての相談に来られた方に「お子さんが夢を語ったとき、まず全力で乗ってあげてください」とお伝えしていると書きました。夢に全力で乗ってもらえた体験は、子どもにとって「自分の想像を広げていい」という安心感になります。現実的な話は、もっとあとで十分です。
会議で部下にできていることは、
家でもできる。
違うのは、相手がいちばん大切な人だということだけ。
妻(パートナー)との役割の偏りを、感情の言葉でほどく
多くの家庭で、子どもの気持ちを受け止める役割は、気づかないうちに母親に偏っています。子どもは母親に話し、母親がそれを父親に「報告」する。父親は報告を受けて「で、どうする?」と判断する。まるで職場のような分業が、家庭の中にできあがっていることがあります。
この分業には、2つの問題があります。ひとつは、母親が家族全員の感情の窓口になり、疲れきってしまうこと。もうひとつは、子どもが「父親は判断する人、気持ちを話す相手ではない」と学んでしまうことです。父親が「最後に叱る役」「決める役」だけを担っていると、子どもは父親の前では本音を出さなくなります。
全部私が聞いて夫に伝えているんです」
夫婦の会話にも「共感の一言」を
子どもとの会話を変える近道は、実は夫婦の会話を変えることです。妻から子どもの話を聞いたら、解決策の前に「それは心配だな」「君も疲れたよな」と一言だけ添えてみてください。子どもは、両親がお互いの気持ちを受け止め合う姿を見て、感情の扱い方を学びます。家の中の会話の温度が変わると、子どもが父親に話しかけてくる回数も変わっていきます。
父親が「感情の窓口」を半分引き受ける
- 週に1回、子どもと父親だけの横並びの時間をつくる(5分でよい)
- 子どもの話を妻経由ではなく、ときどき直接聞く
- 叱る役を父親だけに固定しない。ほめる・喜ぶ場面にも父親が出る
- 自分がイライラしているときは「今日は疲れていて口調がきつかった、ごめん」と言う
- 妻の「聞いてほしいだけ」を、解決の依頼と区別して受け取る
4つ目は、とても大切です。父親が自分の感情に気づいて言葉にし、謝ることができると、子どもは「機嫌が悪いのは自分のせいではなかった」と安心します。そして「感情は言葉にして伝えていいものなんだ」ということを、説明ではなく父親の姿から学びます。
中島輝より一言
感情を言葉にすることは、親から子への最高のプレゼントのひとつだと私は思っています。お金や知識は、あとからでも手に入ります。でも、「悔しいと言っていい」「さみしいと言っていい」という安心感は、身近な大人の姿を通してしか受け取れません。仕事で鍛えた論理の力に、感情の言葉が加わったとき、お父さんは子どもにとって、いちばん頼れる相談相手になれるはずです。
よくあるご質問
「悔しかったな」の一言が、子どもの扉を開ける。
今週末の5分、横並びで、気持ちの名前を一つ。
自分を大切にしよう
子どもの話に「で、結論は?」と返してしまうのは、愛情が足りないからではありません。仕事で毎日使っている「解決の回路」が、家でも先に動いているだけです。子どもが求めているのは、多くの場合、解決ではなく「わかってもらえた」という感覚です。気持ちに名前をつけてもらうと、子どもの頭の中の警報は静まり、そこではじめて自分で考える力が戻ってきます。解決策を捨てる必要はありません。気持ちの名前を、一つ前に置くだけでいいのです。
「男は泣くな」と言われて育った世代の父親が、感情を感じにくく言葉にしにくいのは、規範的男性アレキシサイミアと呼ばれる、時代と文化がつくった傾向です。とくに仕事中心で走ってきた方には、感情を「ノイズ」として切り捨てるタイプ3の傾向が見られることがあります。それはかつて、あなたを仕事で支えてきた大切な力でもありました。責める必要はまったくありません。学習されたものは、学び直すことができます。
お風呂で心の天気を聞く。車の中で3段階温度計。キャッチボールでオノマトペ。帰宅前の3秒の感情タイムアウト。子どもが話しはじめたら5秒待って、共感の一言。どれも数秒から5分でできることです。そして何より、自分を大切にしよう。父親が自分の「疲れた」「悔しい」「うれしい」に気づいて言葉にできたとき、その姿は、子どもにとっていちばんの感情の教科書になります。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)原稿
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Levant, R.F. らによる「規範的男性アレキシサイミア(normative male alexithymia)」に関する研究
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
- Fonagy, P. et al. (2002). Affect Regulation, Mentalization, and the Development of the Self. Other Press.
- Bagby, R.M., Parker, J.D.A., & Taylor, G.J. (1994). The twenty-item Toronto Alexithymia Scale (TAS-20).

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。






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