保育園で「気持ちを言えない子」が気になったら
保育士が今日からできる感情の言葉の育て方
自由あそびの時間、使っていたブロックを友だちに取られても、泣きも怒りもせずに固まっている4歳児。「どうしたの?」としゃがんで聞いても、下を向いたまま。午睡のあと、連絡帳を書く手がふと止まる。「あの子、大丈夫かな」。そんなふうに気になる子がいるなら、この記事はあなたのためのものです。気持ちを言えない子は、感じていないのではなく、感じたものにまだ名前がついていないだけかもしれません。保育の現場で今日から使える声かけと観察のポイント、そして保育士さん自身の心の守り方をお伝えします。
「気持ちを言えない子」は、感じていないわけではない
手がかからない子なのに、なぜか気になって」
自分の気持ちに気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。大人の研究から生まれた言葉で、一般の人のおよそ10人に1人(研究によって約10〜16%)に強い傾向があるといわれます。病名ではなく、誰もが持つ特性の「濃い・薄い」の話です。くわしい全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。
ただし、ここで大切な前提があります。乳幼児は、そもそも感情を言葉にする力を育てている途中です。0〜5歳の子が気持ちをうまく言えないのは、ごく自然なこと。保育園で出会う「気持ちを言えない子」に、大人のアレキシサイミアの物差しをそのまま当てはめる必要はありません。
そのうえで、私がこの記事でお伝えしたいのは、保育の毎日には、感情の言葉を育てる機会が数えきれないほどあるということです。中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。保育士さんは、子どもが自分の気持ちに帰ってくる道を、毎日いちばん近くで照らしている人なのです。
気持ちを言えない子は、
気持ちがない子ではない。
名前を知る前の、とちゅうにいる子。
0〜5歳は「感情の言葉」が育つまっさかり
心理学者のレイン(Lane)とシュワルツ(Schwartz)は、人が感情に気づく力は5つの段階を通って育つと考えました。このモデルは、子どもの考える力の発達を説明したピアジェの理論をもとにしています。保育士さんにとっては、子どもの姿を見るときの「地図」として役立ちます。
保育園で過ごす0〜5歳は、図のちょうど段階1から段階3へ上っていく時期にあたります。0歳児は、気持ちを体ごと表します。泣く、反り返る、ぱっと笑う。1〜2歳児になると、かむ、たたく、物を投げる、走り出すといった「行動」で表すことが増えます。いわゆるイヤイヤ期のかんしゃくは、気持ちが大きく動いているのに、それに見合う言葉がまだないことのあらわれともいえます。
そして2歳を過ぎるころから、「いや」「すき」「こわい」「たのしかった」といった、おおまかな感情の言葉が出てきます。「うれしいけど、ちょっとどきどきする」のように混ざった気持ちを語れるようになるのは、もっと先です。年長さんが「くやしい」と「かなしい」を言い分けられたら、それは大きな育ちの証です。
「早く言えるように」ではなく「言葉を手渡す」
この地図を持っていると、保育の見方が少し変わります。気持ちを言えない子を前にしたとき、「なんで言えないの」ではなく、「今この子は段階2あたりにいて、行動で気持ちを出しているんだな。じゃあ言葉を一つ手渡してみよう」と考えられるようになるからです。感情の言葉は、教えこむものではなく、大人から少しずつ手渡され、子どもが自分のものにしていくものです。
保育園から始まった研究|気持ちに名前をつけると子どもが変わる
保育士さんにぜひ知っていただきたい研究があります。1961年、アメリカで子どもの臨床にたずさわった精神分析家アニー・カタン(Katan)は、保育園の子どもたちを観察した報告を発表しました。アレキシサイミア研究の第一人者であるテイラー(Taylor)らの専門書『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』でも、子どもの感情の発達を説明する大切な研究として紹介されています。
感情のコントロールだけでなく、考える力や、空想と現実を区別する力まで育った
カタンの観察では、気持ちに名前をつけることを教わった子どもたちは、それまで体の行動(たたく、暴れるなど)で出していた気持ちを、言葉で出せるようになったといいます。気持ちの出口が「体」から「言葉」へ移ったことで、感情が落ち着きやすくなりました。さらに、考える力や、物事をまとめる力、「こうだったらいいな」という願いと現実とを区別する力にも、よい影響があったと記されています。
テイラーらはこの研究にふれながら、子どもの感情の気づきが上の段階へ育つのは、「自分の気持ちを言葉で名づけてもらい、確かめてもらえる環境」で育ったときだと述べています。家庭はもちろん、子どもが1日の大半を過ごす保育園は、まさにその環境になりうる場所です。
大人の脳でも、名前をつけると落ち着く
名前をつけることの力は、大人でも確かめられています。2007年、カリフォルニア大学のリーバーマン(Lieberman)らの研究では、怒りや恐れの表情の写真を見ながらその感情に言葉で名前をつけると、不安や恐れに関わる脳の扁桃体の活動が下がることがわかりました。「感情ラベリング」と呼ばれる働きです。
子どもがかんしゃくを起こしているときに、保育士さんが「くやしかったね」と言葉をかけると、すっと落ち着くことがあります。経験的に知っているその場面の裏側では、こうしたことが起きているのかもしれません。気持ちに名前をつけることは、心を落ち着かせ、考える力を育てる、保育そのものなのです。
保育室で気づきたい、言葉にならない気持ちのサイン
気持ちを言葉にしにくい子は、言葉のかわりに体や行動でサインを出しています。次のような姿が続くときは、「この子の気持ちは今どこにあるかな」と一歩立ち止まって見てみてください。
- 転んだり、物を取られたりしても、表情があまり変わらない
- 「どうしたの?」と聞くと、固まる・下を向く・その場を離れる
- 「いや」「べつに」「わかんない」など、同じ言葉ばかりで返す
- 理由のはっきりしない「おなかいたい」「あたまいたい」が、決まった時間帯(登園直後、降園前、行事の前)に出る
- 気持ちが動いたあとに、かむ・たたく・物を投げるなど、急に行動が出る
- 友だちが泣いていても、気づかないように見える。または逆に、ぴたりと動きを止めてじっと見ている
- ごっこ遊びや絵本の場面で、登場人物の気持ちを聞くと答えに困る
- お絵かきで同じ色ばかり使う、または色を選ばずに白いままにしておくことが多い
- 午睡が浅い、食べる量が急に変わるなど、生活のリズムに変化がある
これは診断のためのチェックではありません。当てはまるからといって、その子に何かの「問題」があるわけではないことを、まず確認しておきましょう。年齢、気質、家庭の状況、その日の体調によって、子どもの姿はいくらでも変わります。
観察のポイントは「いつ・どこで・何のあとに」
保育記録や連絡帳に書くときは、「気持ちを言えない」とまとめるより、場面の事実をそのまま書きとめるほうが、あとで役に立ちます。たとえば「午前の自由あそびでブロックを取られたあと、5分ほどその場で固まる。声をかけると首をふる。降園前に『おなかいたい』」。こうした記録が数日分たまると、「行事の練習のある日に多い」「お迎えが遅い日に出やすい」といったパターンが見えてくることがあります。
私の近刊では、感情迷子さんを4つのタイプに分けています。大人向けの分類ですが、子どもを見るときのヒントにもなります。
| タイプ | 保育室で見られやすい姿 | 関わりのヒント |
|---|---|---|
| タイプ1 感情がわからない | 痛い・くやしい場面でも反応が薄い。体の不調として出やすい | 体の感覚から一緒に言葉にする(「おなか、ぎゅってなった?」) |
| タイプ2 感情を説明できない | 何かあるのは伝わるのに、言葉が出ずに固まる・泣き出す | 正しい言葉を求めず、オノマトペや色で出してもらう |
| タイプ3 感情に興味がない | 電車の名前や数字には詳しいが、気持ちの話には乗ってこない | 好きなことの話の中で「そのとき、どんな気持ち?」と添える |
| タイプ4 想像できない | ごっこ遊びに入りにくい、「もしも」の話に困る | 保育士がまず楽しそうに空想して見せる |
なお、気持ちのわかりにくさは、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達の特性と重なることもあります。ただ、保育士が診断をする必要はありませんし、してはいけません。気になる姿が続くときは、園内で共有し、看護師や園長、地域の発達相談、巡回相談の専門職と連携していきましょう。
情動調律|保育士の「映し返し」が感情の言葉を育てる
子どもの感情の言葉はどうやって育つのでしょうか。カギになるのが「情動調律(じょうどうちょうりつ)」という考え方です。乳幼児の研究者スターン(Stern)が示したもので、大人が子どもの気持ちの動きに、表情や声のトーン、リズムを合わせて応えることをいいます。
たとえば、0歳児が積み木を倒して「きゃっ」と声を上げたとき、保育士さんが目を丸くして「わあっ!」と同じくらいの高さの声で応える。これが情動調律です。子どもは、自分の内側で起きた「何か」が、外の大人に届き、形を持って返ってくるのを体験します。テイラーらは、こうして大人に気持ちを受けとめてもらい、意味のある形にして返してもらう経験が、子どもが自分の感情をまとめ、調整できるようになる土台だと説明しています。
「映し返し」の3つのコツ
まず体と表情で合わせる
言葉より先に、しゃがんで目の高さを合わせ、子どもと同じくらいの表情になることから始めます。悲しそうな子には少し眉を下げて、うれしそうな子には目を輝かせて。0〜1歳児クラスでは、これだけで十分な情動調律になります。
気持ちの言葉は「推測」として差し出す
「くやしいんでしょ」と決めつけず、「くやしかったのかな?」と、問いかけの形で差し出します。子どもが首をふったら、「そっか、くやしいのとはちがうんだね。びっくりした?」と別の言葉を出してみる。合っているかどうかより、「先生はあなたの気持ちをわかろうとしているよ」と伝わることが大切です。
気持ちと行動を分けて伝える
かみつきやたたきが出たときも、気持ちは受けとめ、行動にはルールを示すのが基本です。「とられて、いやだったね。でも、かむのはなし。『かえして』って言おうね」。気持ちまで否定されると、子どもは「この気持ちは出してはいけないんだ」と学び、気持ちそのものにふたをするようになってしまいます。
中島輝より一言
私は幼いころ、忙しい両親にかわって里親に育てられました。その里親が、5歳のある日、突然いなくなってしまった。それ以来、私は感情を外に出すことをやめました。小学生のころ、理由もなく涙が流れて、友だちに「どうしたの?」と聞かれても「わからない」としか言えなかったことを覚えています。あのころの私のそばに、「びっくりしたね」「さみしかったね」と言葉を手渡してくれる大人がいたら。保育士さんの仕事の話を聞くたびに、そう思わずにはいられません。
明日から使える声かけ|場面別の言いかえ
保育の現場は忙しく、とっさに出る言葉はどうしても「行動を止める言葉」になりがちです。それは当然のことで、安全を守るために必要な言葉でもあります。そのあとにひと言、気持ちの言葉を足す。それだけで、子どもに届くものが変わります。
| 場面 | つい言いがちな言葉 | 気持ちの言葉を足すと |
|---|---|---|
| おもちゃの取り合いで固まっている | 「順番でしょ」 | 「使いたかったんだよね。とられて、いやだったね。じゃあ順番、どうしようか」 |
| 転んでも泣かずに立ち上がった | 「えらいね、強いね」 | 「いたかったね。ひざ、じんじんする? がまんしなくていいんだよ」 |
| 朝、保護者と離れるときに無表情 | 「ママ、すぐ来るからね」 | 「おうちの人と離れるの、さみしいね。先生と一緒にお見送りしようか」 |
| 運動会の練習前に「おなかいたい」 | 「大丈夫、大丈夫」 | 「おなか、ぎゅってなるね。どきどきしてるのかな」 |
| 友だちをたたいてしまった | 「たたいちゃだめ!」 | 「たたくのはだめ。でも、何かいやなことがあったんだよね。何がいやだった?」 |
| 「わかんない」と言う | 「わかんないじゃないでしょ」 | 「そっか、わかんないんだね。わかんないって教えてくれて、ありがとう」 |
とくに注目してほしいのが、転んでも泣かない子への「えらいね、強いね」です。ほめ言葉として自然に出てくるものですが、くり返されると子どもは「いたいと感じないほうが、ほめられる」と学ぶことがあります。痛みや悲しみを感じたことを先に受けとめ、そのうえで「自分で立てたね」と行動を認める。この順番を意識してみてください。
「わかんない」も立派な気持ちの報告
表の最後の場面は、とても大切です。「わかんない」と言えた時点で、その子は自分の内側をのぞいて、「よくわからない何かがある」ことに気づいています。私自身、小学生のころ、家庭教師の先生に「何も感じなかったなら、何も感じなかったと書いたらいいよ」と言われて、とても救われた経験があります。「わかんない」をそのまま受けとめてもらえた子は、次に「なんか、もやもやする」と一歩先の言葉を出せるようになります。
保育室でできる「感情の言葉あそび」
私の近刊では、感情迷子さんのタイプ別に、短い時間でできるワークを紹介しています。もともとは大人向けのワークですが、保育室の毎日の流れの中に、あそびとして組み込めるものがたくさんあります。ここでは保育向けに作りかえて紹介します。
心の体温チェック →「おむね、ぽかぽか? ひんやり?」
原型は、胸に手を当てて「今、体は温かい?冷たい?」と3秒だけ聞くワークです。朝の会で、みんなで胸に手を当てて「おむね、ぽかぽかかな?ひんやりかな?」と聞いてみましょう。「ぽかぽか」「ひんやり」「わかんない」、どれでも正解です。体の感覚に目を向けることが、気持ちに気づく最初の入り口になります。保育士さんも一緒に答えると、子どもは安心して乗ってきます。
五感スイッチ →「このおと、すき? にがて?」
原型は、五感を一つずつ意識して「心地いい/心地悪い」の2択で答えるワークです。給食の時間に、「みそ汁のにおい、すき?」「たくあんのぽりぽりって音、すき?にがて?」と、2択で聞いてみます。「すき・きらい」よりも手前にある、体の「心地いい・心地悪い」の感覚に気づく練習です。苦手な子を責めない雰囲気づくりも忘れずに。
色彩感情カレンダー →「きょうのきもちシール」
原型は、その日の気分に近い色を1色選んでカレンダーに塗るワークです。保育室では、何色かの丸シールを用意して、降園前に「きょうのきもちの色」を1枚選んで貼るあそびにできます。理由は聞かなくて大丈夫。続けるうちに、子ども自身も保育士さんも、気持ちの変化に気づけるようになります。同じ色が何日も続いたり、色を選ばない日が続いたりするときは、記録しておくとよいでしょう。
今日のオノマトペ →「どきどき? もやもや? にこにこ?」
「どんな気持ち?」と聞かれると固まってしまう子も、「どきどきしてる?もやもや?それとも、にこにこ?」と選択肢を出すと答えやすくなります。日本語はオノマトペが豊かな言語です。感情の名前がまだわからなくても、体の感覚に近いオノマトペなら選べる子はたくさんいます。保育室に、表情イラストとオノマトペを並べた「きもちのポスター」を貼っておくのもおすすめです。
キャラクター感情読み →「このこ、いまどんなきもち?」
原型は、ドラマや映画の登場人物の気持ちを想像するワークです。絵本の読み聞かせの途中で、「このくま、いまどんなきもちかな?」とページを止めて聞いてみましょう。答え合わせは必要ありません。物語の中の気持ちは、自分の気持ちよりも安全に想像できます。絵本は、子どもにとっていちばん身近な「気持ちの練習場」です。
子どもの空想に全力で乗る →「いいね!それでどうする?」
子どもが「きょうはケーキやさん!」「ぼく、うちゅうにいくの」と空想を始めたら、「いいね!どんなケーキ?」「どこの星に行く?」と全力で乗ってください。空想に乗ってもらえた体験は、「想像を広げていいんだ」という安心感になり、想像する力や、ほかの人の気持ちを思い描く力の土台になります。ごっこ遊びに入りにくい子には、保育士さんが先に楽しそうに空想して見せるのが近道です。
特別な教材はいらない。
朝の会、給食、絵本、ごっこ遊び。
保育の毎日が、そのまま感情の教室になる。
ここで紹介したワークは、自己肯定感の「6つの感」でいうと、木の根にあたる「自尊心≒自己存在感」を育てる関わりでもあります。「どんな気持ちでも、先生は受けとめてくれる」「わたしはここにいていい」。そう感じられる経験が、感情の言葉を育てる土の役目を果たします。
保護者への伝え方|「心配」を「一緒に見守る」に変える
気になる姿を保護者に伝えるのは、保育士さんにとって気を使う場面です。伝え方によっては、保護者が「うちの子に何か問題があるの?」「家庭のせいだと言われた」と受けとってしまうこともあります。ポイントは、「問題の報告」ではなく「その子の気持ちの様子の共有」として伝えることです。
「できごと+気持ちの推測+保育士の関わり」で書く
「今日は泣かずに我慢していました」より、「お友だちにブロックを取られて、少し固まっていました。くやしかったのかなと思い、『いやだったね』と声をかけると、うなずいてくれました」のように書きます。気持ちの言葉が入った連絡帳は、保護者が家で子どもに声をかけるときのヒントにもなります。
よかった場面と一緒に、短く
お迎えの時間は、保護者も仕事帰りで疲れています。長い話は避け、「今日、絵本のくまさんを見て『さみしそう』って言ってたんですよ」のように、気持ちの言葉が出たよい場面を一つ伝えるのがおすすめです。家でも「さみしそうって思ったんだね」と話題にしてもらえれば、園と家庭で同じ言葉が育ちます。
「家ではどうですか?」から始める
気になることを話し合うときは、まず「おうちでは、どんなときに笑ったり怒ったりしていますか?」と家庭での姿を聞くところから始めます。園では見せない表情を家で見せていることも少なくありません。そのうえで「園ではこんな姿があって、こう関わっています。おうちでも一緒にやってみませんか」と、方法を共有します。
保護者を責めない、診断めいたことを言わない
保護者に伝えるときに避けたいのは、「愛情不足では」「家で気持ちを聞いてあげていますか」といった、家庭を責めるように聞こえる言葉です。そして、「発達に何かあるかもしれません」「○○の傾向があります」といった診断めいた言葉も、保育士が口にすべきではありません。必要な場合は、園長や看護師と相談し、地域の発達相談や巡回相談、かかりつけの小児科など、専門職につなぐ形で話を進めましょう。
保護者自身が、仕事と子育てに追われて自分の気持ちを後回しにしていることもあります。共働き家庭の関わり方については、子どもの「別に」「普通」が気になる共働き家庭へ|忙しい毎日でできる感情の言語化でくわしくお伝えしています。保護者向けの資料として紹介していただくのもよいと思います。
保育士自身の感情労働とセルフケア
最後に、どうしてもお伝えしたいことがあります。子どもの気持ちを受けとめ続ける保育の仕事は、自分の感情を調整しながら働く「感情労働」の代表的な仕事です。泣いている子の前では穏やかに、保護者の前では明るく、どんなに忙しくても笑顔で。そうしているうちに、保育士さん自身が「自分が今どう感じているのか、わからない」状態になってしまうことがあります。
自分の気持ちだけがわからないんです」
保育士さんのための、1日1分のセルフケア
自分にも「心の体温チェック」
朝の会で子どもにする問いかけを、出勤前の自分にもしてみましょう。胸に手を当てて「今日のわたし、ぽかぽか?ひんやり?」。答えが「ひんやり」なら、それを知っておくだけで十分です。今日は無理をしすぎない、と心づもりができます。
3段階温度計で、自分の疲れを測る
休憩時間に、今の気持ちを「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で確かめます。「そこそこイライラ」「すごく疲れた」。感情の強さを区別できる人ほど、つらい気持ちからの回復が早いという研究があります。「すごく」が何日も続くときは、主任や園長に相談するサインです。
感情だけ日記
夜、今日あったことではなく、今日感じたことだけを1〜2行で書きます。「お迎えのときの○○ちゃんの笑顔でほっとした」「書類が終わらず焦った」。保育記録とは逆に、出来事は書かなくてかまいません。気持ちを書き出すことがストレスを軽くすることは、心理学者ペネベーカー(Pennebaker)らの多くの研究で示されています。
そして何より、一人で抱えないこと。気になる子への関わりも、保護者対応も、自分の疲れも、園の仲間と言葉にして分け合うことが大切です。職員会議やちょっとした休憩時間に「今日、正直しんどかった」と言える職場は、子どもにとっても気持ちを言いやすい場所になります。眠れない、食欲がない、涙が止まらないといった状態が続くときは、心療内科などの医療機関や、職場の相談窓口を頼ってください。
中島輝より一言
保育士さんは、子どもの気持ちに名前をつける専門家です。でも、その専門家が自分の気持ちに名前をつけてもらえる機会は、驚くほど少ない。だから私は、保育士さん向けの講演では最後に必ずこう伝えます。「今日もおつかれさまでした。たくさんの『くやしかったね』を言ったあなたの心も、きっとたくさん動いていましたね」。あなたの気持ちも、子どもの気持ちと同じくらい大切です。
よくあるご質問
子どもの心に、気持ちの名前を灯す。
そしてあなたの心にも、同じ言葉を。
保育の毎日が、子どもの心の土を耕しています。
自分を大切にしよう
保育園で出会う「気持ちを言えない子」は、気持ちがないのではなく、感じたものにまだ名前がついていない、とちゅうの子です。0〜5歳は、体や行動で表していた気持ちが、少しずつ言葉に移っていく時期。カタンの保育園の観察が示したように、気持ちに名前をつけることを教わった子どもは、感情を落ち着かせる力だけでなく、考える力まで育っていきます。
そのために保育士さんができることは、特別なことではありません。表情と声で気持ちを受けとめ、「くやしかったのかな?」と言葉を添えて返す情動調律。行動を止める言葉のあとに足す、ひと言の気持ちの言葉。朝の会の「おむね、ぽかぽか?」、給食の2択、きもちシール、絵本の「このこ、どんなきもち?」、ごっこ遊びの「いいね!」。そして、保護者とは「心配」ではなく「一緒に見守る」姿勢で言葉を共有し、気になる姿が続くときは専門職と連携することです。
そして、子どもの気持ちを毎日受けとめているあなた自身の気持ちにも、どうか名前をつけてあげてください。疲れた、焦った、ほっとした、うれしかった。感情労働の現場で働く保育士さんの心は、本当はたくさん動いています。自分を大切にしよう。自分の気持ちを大切にできる保育士さんのそばで、子どもたちは「感じていいんだ」と安心して、自分の言葉を育てていきます。
本記事の参考資料・科学的根拠
- 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
- Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
- Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16.
- Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
- Stern, D.N. (1985). The Interpersonal World of the Infant. Basic Books.
- Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5).
- Pennebaker, J.W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3).
- 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。






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