子ども食堂で「おいしい」も「ありがとう」も言わない子へ|地域の居場所づくりと感情の言語化

子ども食堂で「おいしい」も「ありがとう」も言わない子へ|地域の居場所づくりと感情の言語化

子ども食堂で「おいしい」も「ありがとう」も言わない子へ
地域の居場所づくりと感情の言語化

夕方5時、公民館の調理室にカレーの匂いが広がる。「いただきます」の声が飛び交うなか、いつも端の席に座る小学4年生の男の子は、黙ってスプーンを動かし、食べ終わるとすっと立ち上がって帰っていく。「おいしかった?」と聞いても、返ってくるのは小さなうなずきだけ。「ありがとうくらい言えたらいいのに」と思いかけて、いや、そうじゃない、と打ち消す。その子は、気持ちがないのではなく、気持ちを言葉にする練習の機会が少なかったのかもしれません。子ども食堂や学習支援、地域の居場所づくりに関わる方へ。食卓という場所だからこそできる、子どもの感情の言葉の育て方と、支える大人自身を守る方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「おいしい」も「ありがとう」も言わない子

よくある相談の典型例
「毎週来てくれるのに、
楽しいのかどうか、まったくわからないんです」
場面地域の子ども食堂を立ち上げて3年目の、60代の女性運営者。月2回の開催に、毎回欠かさず来る小学生の兄弟がいる。ほかの子たちはおしゃべりしながら食べるのに、二人はいつも無言。おかわりは黙ってお皿を差し出す。好きなメニューを聞いても「別に」「なんでもいい」。ボランティアの中には「愛想がない」「しつけの問題では」と言う人もいて、どう関わればいいのか迷っている。
毎回欠かさず来るという事実は、この場所が兄弟にとって大切な場所になっていることを物語っています。ただ、その気持ちを「楽しい」「ありがとう」という言葉にすることが、まだできないのです。言わないことと、感じていないことは、まったく別のことです。

子ども食堂は、全国で1万か所を超えました。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの調査によるものです。食事を提供するだけでなく、学習支援、遊び場、高齢者との交流など、地域の多世代の居場所として広がっています。その現場で、多くの運営者やボランティアが、言葉の少ない子どもとの関わりに悩んでいます。

1万か所超
全国の子ども食堂の数。地域の居場所として広がり続けている
出典:NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 調査民間調査

「おいしい」「ありがとう」が言えない子を前にすると、大人はつい「礼儀」や「しつけ」の問題として受けとりがちです。けれど、心理学のアレキシサイミアという視点から見ると、そこには別の姿が見えてきます。この記事では、言葉の少ない子どもを「困った子」ではなく「気持ちの言葉を育てている途中の子」として見る見方と、地域の食卓だからこそできる関わりを考えていきます。

感情迷子さんとは|言わないのは、言葉がまだ育っていないから

アレキシサイミア(失感情症)とは、自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態のことです。感情がないのではなく、感情に気づいたり言葉にしたりするところで、流れが細くなっている状態を指します。大人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向があるとされ、病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡と考えられています。DSM-5やICD-11でも独立した診断名にはなっていません。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。子どもの場合はなおさらです。子どもの感情の言葉は、大人とのやりとりの中で、これからいくらでも育っていきます。

子どもの「別に」「なんでもいい」の中身

子どもが「別に」「なんでもいい」と答えるとき、その奥にはさまざまな可能性があります。本当にどちらでもいい場合もあれば、好き嫌いを言っていいのかわからない、自分が何を好きなのか考えたことがない、言ったところで聞いてもらえないと思っている場合もあります。

子どもの様子心の中で起きているかもしれないこと
「おいしい?」にうなずくだけおいしいと感じていても、それを言葉にして伝える習慣がない
好きなメニューを聞いても「なんでもいい」自分の好みに注意を向けたことがあまりない/選んでいいと思っていない
食べ終わるとすぐ帰る居心地はよくても、その場にどう居ればいいのかがわからない
急に不機嫌になる、物に当たる疲れ・さみしさ・不安などがかたまりのまま出てきている

どれが当てはまるかは、子どもによって違います。大切なのは、一つの理由に決めつけないことです。「この子はこういう家庭の子だから」と決めつけた瞬間、その子の本当の気持ちは、もっと見えにくくなってしまいます。

気持ちを受けとめてもらう経験が少ない子もいる

子どもの感情の言葉は、生まれつき備わっているものではありません。転んで泣いたときに「痛かったね」と言ってもらう。うれしそうにしているときに「よかったね、うれしいね」と声をかけてもらう。そうした大人とのやりとりの中で、子どもは自分の体の中で起きていることに名前があることを学んでいきます。

アレキシサイミア研究の古典であるテイラー(Taylor)らの著書『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』では、精神分析家クリスタル(Krystal)の考えが紹介されています。乳幼児の感情は、はじめは体の感覚と混ざり合った未分化なもので、養育者に受けとめられ、言葉を添えてもらう経験を通して、少しずつ「悲しい」「怖い」「うれしい」と見分けられるようになっていく、という見方です。そして、強すぎるストレスや、気持ちを受けとめてもらえない環境が長く続くと、この育ちがうまく進まないことがある、と考えられています。

また、愛着の研究からは、気持ちを表したときに受けとめてもらえなかった経験が重なると、子どもが「気持ちは出さないほうが安全だ」と学んでしまうことがあると考えられています。

「家庭のせい」と決めつけないために

ただし、ここはとても大切なところです。言葉の少ない子が、みな家庭で何か問題を抱えているわけではまったくありません。もともとの気質でおとなしい子もいますし、発達の特性で言葉にするのに時間がかかる子もいます。家族が仕事で忙しく、ゆっくり話す時間がとれないだけの家庭もあります。親自身が、気持ちを言葉にするのが苦手な場合もあるでしょう。

地域の居場所に関わる大人に求められているのは、原因を推理することではありません。「この子は、気持ちを受けとめてもらう経験を、もう少したくさん必要としているのかもしれない」。そう考えて、目の前の食卓でその経験を一つずつ届けていくことです。それは、家庭の代わりではなく、家庭とは別の場所で、もう一つの「受けとめてもらえる経験」を重ねるということです。

中島輝より一言

私は里親のもとで育ちました。5歳のとき、その里親が突然いなくなり、私は幼い心で「誰も信じられない。自分のつらさを人に見せてたまるか」と決め、気持ちを表に出すのをやめました。表情のない子どもだったと思います。もしあのころ、ごはんを一緒に食べながら「あったかいね」と声をかけてくれる大人が近くにいたら、と考えることがあります。言葉が返ってこなくても、声をかけられた記憶は、子どもの中に確かに残ります。何年もたってから、その記憶が帰り道を照らしてくれることがあるのです。

気持ちの言葉は「受けとめられる」ことで育つ

では、子どもの感情の言葉はどのように育っていくのでしょうか。手がかりになる研究があります。

テイラーらの著書では、カタン(Katan)による1961年の報告が紹介されています。保育園の子どもたちに自分の気持ちに名前をつけることを教えたところ、感情をコントロールする力や考える力が伸びたというものです。気持ちに名前がつくと、子どもは気持ちに振りまわされるのではなく、気持ちを「扱える」ようになるのです。

感情の気づきには段階がある

心理学者のレーン(Lane)とシュワルツ(Schwartz)は、感情への気づきには段階があると考えました。大まかにいうと、次のように進んでいきます。

感情への気づきの5段階(レーンとシュワルツ) 食卓での声かけは、子どもが一段ずつ上がるための「手すり」になる 1 体の感覚 おなかすいた・寒い 2 行動 ぷいっと帰る 物に当たる 3 ひとつの感情 「うれしい」 「いやだ」 4 まざった感情 楽しいけど ちょっとさみしい 5 自分と相手 あの子も 緊張してるかも 言葉の少ない子は 1〜2段めにいることが多い
▲ 感情への気づきは、体の感覚(1)、行動(2)から始まり、ひとつの感情(3)、まざった感情(4)、自分と相手の感情の区別(5)へと進むと考えられています。食卓で大人が気持ちに言葉を添えることは、子どもが次の段に上がるための手すりになります。

「おいしい」と言えない子、ぷいっと帰ってしまう子は、まだ「体の感覚」や「行動」の段階で気持ちを表していることが多いのです。そこで大人が「おなかいっぱいになったね」「今日はちょっと疲れてたかな」と、体の感覚や行動に言葉を添えてあげる。そのくり返しが、子どもを次の段階へと押し上げていきます。

このとき気をつけたいのは、大人が気持ちを外から決めてしまわないことです。言葉を添えるのは、子どもが「自分で感じる」ための手助け。大人が先回りして「楽しかったでしょ」と決めつけるのではなく、「どうだった?」「ちょっと?そこそこ?すごく?」と、子どもが選べる形で問いかけることがポイントです。

食卓は感情の言葉が生まれる場所|「どんな味?」「あったかいね」

子ども食堂が、感情の言葉を育てる場としてすぐれている理由があります。それは、食べることが五感をフルに使う体験だからです。味、匂い、温かさ、食感、器の音。食卓には、体の感覚から気持ちの言葉へとつながる入り口が、いくつも用意されています。

『感情迷子さんの本』の「五感スイッチ」のワークでは、一つひとつの感覚に「心地いい?心地悪い?」と問いかけます。「心地いい」「心地悪い」は、「好き」「嫌い」のずっと手前にある、より本能的な感覚だと説明されています。好き嫌いをうまく言えない子でも、「あったかいのは心地いい?」なら答えやすいのです。

食卓で使える声かけ

よくある声かけ感情の言葉が育つ声かけ
「おいしい?」(はい・いいえで終わる)「どんな味がする?甘い?しょっぱい?」
「ちゃんと『ありがとう』言おうね」「今日はあったかいね。おばちゃんは、このスープでほっとしたよ」(大人が先に気持ちを言う)
「好きなもの、何?」「カレーとハンバーグなら、どっちが心地いい感じ?」
「なんで残すの?」「今日はおなか、どのくらい?ちょっと・そこそこ・いっぱい?」
「楽しかったでしょ」「今日のお天気でいうと、どんな気分だった?」

特に効果的なのは、大人が先に、自分の気持ちを言葉にしてみせることです。「このおみそ汁、あったかくてほっとするなあ」「今日はみんなが来てくれて、うれしいな」。子どもに答えを求めず、大人がひとりごとのように気持ちを口にする。それを聞くことで、子どもは「気持ちってこうやって言えばいいんだ」と自然に学んでいきます。

「ありがとう」より先に、「おかえり」を

「ありがとう」を言えるようになってほしい、という願いはもっともです。でも、感情の言葉を育てるうえでは、子どもにお礼を言わせることより、大人が子どもの来訪を喜ぶ言葉を伝えることのほうが先かもしれません。「来てくれてうれしいよ」「おかえり」。自分の存在が喜ばれていると感じられること。それは自己肯定感の「6つの感」の根にあたる自尊心≒自己存在感を育てることにつながります。根が育つと、「ありがとう」は、いつか自然に出てくるものです。

「ありがとう」を言わせるより、
「来てくれてうれしいよ」を伝える。
存在を喜ばれた子は、いつか自分から言葉を返してくれる。

子ども食堂・学習支援で使える関わりのコツ

食卓以外の時間にも、感情の言葉を育てるチャンスはあります。学習支援や遊びの時間に使える関わり方を、『感情迷子さんの本』第4章のワークをもとに紹介します。

関わり1|1分|色彩感情カレンダー
「今日の気分」を色シールで貼る

入口に月のカレンダーを貼り、来た子に「今日の気分に近い色」のシールを1枚だけ貼ってもらいます。言葉にしなくても、色なら選べる子は多いものです。理由は聞かなくてかまいません。「今日は青なんだね」とだけ返します。黒や白ばかりが長く続くなど、気になる変化があれば、スタッフの間でそっと共有しておきます。

関わり2|30秒|今日のオノマトペ
宿題が終わったら「どんな音?」

学習支援で宿題を終えた子に、「終わった今の気持ち、音でいうと?」と聞きます。「すっきり」「へとへと」「もやもや」。算数が「ぐるぐる」だった、と言える子もいます。オノマトペは体の感覚に近い言葉なので、気持ちを言葉にするのが苦手な子でも答えやすいのです。

関わり3|随時|キャラクター感情読み
絵本やアニメで「この子は今、どんな気持ち?」

読み聞かせやアニメの話題のときに、「この子、今どんな気持ちだと思う?」と聞いてみます。自分の気持ちを話すのは抵抗があっても、物語の登場人物の気持ちなら想像しやすい子がいます。『感情迷子さんの本』には、ゲーム以外の話になると言葉が少なくなっていた高校生が、アニメで登場人物の気持ちを想像する練習を続けるうちに、「このキャラなら泣くよね。わからなくはない」と思えるようになった例が紹介されています。

関わり4|5秒|5秒ルール(大人向け)
注意する前に、5秒だけ待つ

子どもが乱暴な言葉を使ったり、ほかの子とぶつかったりしたとき、すぐに「だめでしょ」と言う前に5秒だけ待ち、「この子は今、何を感じている?」と心の中で問いかけます。そのうえで「くやしかったんだね」「いやだったんだね」と、気持ちを先に言葉にしてから、ルールの話をします。気持ちを受けとめてもらった子は、ルールの話も聞きやすくなります。

無理に話させない、でも声はかけ続ける

言葉の少ない子に、無理に話させる必要はありません。返事がなくても、声をかけ続けること。それが、地域の居場所にできるいちばん大切な関わりです。黙って食べて帰る子も、大人の「今日も来てくれたね」を聞いています。その積み重ねが、子どもにとっての「帰ってこられる場所」をつくっていきます。

学校に行きづらさを抱えた子どもへの関わりについては、不登校の子が「理由がわからない」と言うとき|感情迷子さんの視点で考える関わり方も参考になります。

「気になる子」に気づいたら|ひとりで抱えずにつなぐ

地域の居場所は、ときに、家庭や学校では見えにくい子どものサインに最初に気づく場所にもなります。いつも同じ服を着ている、食事をむさぼるように食べる、体にあざがある、帰りたがらない、急に来なくなった。言葉の少ない子ほど、SOSは言葉ではなく、様子や体に出てきます。

そうしたサインに気づいたとき、大切なのはひとりで抱えないこと、そして自分たちだけで解決しようとしないことです。子ども食堂のボランティアは、調査や判断をする立場ではありません。気づいたことを記録し、運営の責任者と共有し、必要なところにつなぐ。それが、地域の大人にできるいちばん確かな役割です。

気づいたときの流れ

  • 見たこと・聞いたことを、日時とともに事実として記録する(推測や評価は書かない)
  • 個人で判断せず、運営の責任者と共有する
  • 子どもには「話してくれてありがとう」と受けとめ、「誰にも言わない」とは約束しない
  • 学校(担任、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー)と連携する
  • 市区町村の子ども家庭相談の窓口(こども家庭センターなど)に相談する
  • 虐待が疑われるときは、ためらわず児童相談所へ連絡する

気になる子に気づいたときのつなぎ先
子どもが通う学校(担任・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー)
市区町村の子ども家庭相談の窓口(こども家庭センターなど)
児童相談所 虐待対応ダイヤル「189」(いちはやく・24時間)
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(子ども本人も相談できます)
チャイルドライン 0120-99-7777(18歳まで)
命の危険が迫っているときは、迷わず110番・119番へ

「189」への連絡は、虐待だと確信がなくてもかまいません。「もしかしたら」という段階で相談できる仕組みです。連絡した人が誰かは守られます。「余計なお世話かも」「間違っていたら申し訳ない」とためらう気持ちは自然なものですが、確かめるのは専門機関の仕事です。地域の大人がつないでくれたことで守られる子どもが、たくさんいます。

支える大人が燃え尽きないために

子ども食堂や地域の居場所を支えているのは、多くが仕事や家事、介護の合間に時間をつくって関わっているボランティアの方々です。食材の調達、調理、片づけ、会計、子どもとの関わり、気になる子への心配。熱心な人ほど、自分の気持ちを後回しにして、気づいたときには疲れきっていることがあります。

「子どもたちのためだから」「私が休んだら回らない」。そう思って頑張り続けるうちに、子どもの笑顔を見てもうれしいと感じなくなった、イライラしやすくなった、開催日が近づくと気が重い。これは、支える側の大人が「感情迷子」になりかけているサインかもしれません。

  • 子どもに会っても、以前のように「うれしい」と感じない
  • ほかのボランティアのやり方に、イライラすることが増えた
  • 気になる子のことが、家に帰っても頭から離れない
  • 「私がやらなければ」と、休むことに罪悪感がある
  • 開催日の前の晩、なかなか眠れない

大人同士で、気持ちを言葉にする時間を

燃え尽きを防ぐためにおすすめしたいのは、片づけのあとの5分間、スタッフ同士で「今日の気持ち」をひとことずつ言い合うことです。「今日はあの子が笑ってくれて、ほっとした」「人手が足りなくて、正直へとへと」「○○ちゃんのことが少し心配」。報告や反省会ではなく、気持ちのひとことだけを出し合います。言われたほうは、意見を言わずに「そうだったんだ」と受けとめるだけでかまいません。

『感情迷子さんの本』では、感情と思考を切り分けずに伝えることで、相手に「この人は今、こういう状態なんだ」と伝わり、信頼感が生まれると書かれています。スタッフ同士が気持ちを伝え合える場は、子どもにとっても「気持ちを言っていい場所」の手本になります。そして、休むこと、できないことを「できない」と言うことも、居場所を長く続けるための大切な仕事です。

地域の食卓が、子どもの「帰る場所」になる

子ども食堂で「おいしい」も「ありがとう」も言わなかった子が、ある日ふと、「これ、おいしい」とつぶやく。何か月も通ってきた子が、帰りぎわに「また来る」と言う。地域の居場所に関わる方の多くが、そうした小さな瞬間に立ち会ってきたのではないでしょうか。その一言は、何度も声をかけられ、受けとめられてきた経験が、ようやく言葉になった瞬間です。

地域の食卓で、感情の言葉が育つまで 返事がなくても、声をかけ続けることがすべての土台 存在を喜ぶ 「おかえり」 「来てくれて うれしいよ」 根:自己存在感 五感に言葉を 「あったかいね」 「どんな味?」 体の感覚から 選べる形で聞く 色・音・3段階 「ちょっと?すごく?」 気持ちを見分ける 子どもの言葉 「これ、おいしい」 「また来る」 いつか自然に 気になるサインは、ひとりで抱えず学校・行政・189へつなぐ
▲ 存在を喜ぶ言葉を土台に、五感に言葉を添え、選べる形で気持ちを聞く。その積み重ねの先に、子ども自身の言葉が生まれます。気になるサインに気づいたときは、地域の大人だけで抱えずに専門機関へつなぎます。

地域の食卓は、家庭の代わりにはなれません。でも、家庭とも学校とも違う、もう一つの「受けとめてもらえる場所」にはなれます。気持ちを受けとめてもらう経験は、一か所でしか得られないものではありません。週に一度、月に二度の食卓での「あったかいね」が、子どもの心のどこかに積もっていきます。

そして、子どもに気持ちの言葉を届けようとする大人自身もまた、自分の「うれしい」「疲れた」「心配」に名前をつけていくことで、無理なく長く関わり続けることができるのです。

よくあるご質問

「ありがとう」を言わない子に、言うように教えたほうがいいですか?
お礼の言葉を教えること自体は悪いことではありません。ただ、気持ちの言葉が育っていない段階で言わせることを優先すると、形だけの言葉になりやすいものです。まずは大人が「来てくれてうれしい」「ごちそうさまって言ってもらえると、作った人はうれしいんだよ」と、自分の気持ちを先に伝えるところから始めてみてください。
話しかけても返事がない子には、どう関わればいいですか?
無理に返事を求めず、声をかけ続けてください。「今日も来てくれたね」「このスープあったかいね」と、答えを必要としない声かけがおすすめです。うなずきや表情の変化も、立派な返事です。色シールや「ちょっと・そこそこ・すごく」のように、選ぶだけで答えられる形も役に立ちます。
家庭に問題があるのではと心配な子がいます。どこまで踏みこんでいいですか?
家庭の事情を調べたり、保護者を問い詰めたりすることは、ボランティアの役割ではありません。気づいたことを事実として記録し、運営の責任者と共有したうえで、学校や市区町村の子ども家庭相談の窓口に相談してください。虐待が疑われるときは、確信がなくても児童相談所の「189」に連絡できます。
ボランティアを続けるのがつらくなってきました。やめるのは無責任でしょうか?
無責任ではありません。疲れを感じたら、まずは「疲れている」と言葉にして、運営の仲間に伝えてください。回数を減らす、役割を変える、しばらく休むといった選択肢もあります。支える大人が元気でいることが、居場所を長く続けるためにいちばん大切です。
感情の言葉が少ない子は、発達の特性があるのでしょうか?
言葉が少ない理由はさまざまで、気質、環境、発達の特性など、外から見ただけではわかりません。決めつけずに関わることが大切です。気になる場合は、保護者の了解のもとで学校や地域の相談窓口、専門機関と連携してください。判断は専門家にまかせて大丈夫です。
「おいしい」が言えない子は、
気持ちの言葉を育てている途中の子。
今日の食卓で、大人が先に「あったかいね」。
返事がなくても、声をかけられた記憶は残ります。
その積み重ねが、子どもの「帰る場所」になっていきます。

自分を大切にしよう

子ども食堂で「おいしい」も「ありがとう」も言わない子は、礼儀を知らない子でも、気持ちのない子でもありません。気持ちを受けとめてもらい、言葉を添えてもらう経験が、まだ足りていないのかもしれない子です。感情の言葉は、大人とのやりとりの中で、体の感覚、行動、ひとつの感情、まざった感情へと、少しずつ育っていきます。その原因を家庭に決めつけず、目の前の食卓で「受けとめてもらえる経験」を一つずつ届けていくことが、地域の居場所にできる大切な役割です。

「来てくれてうれしい」と存在を喜ぶ。「あったかいね」「どんな味?」と五感に言葉を添える。色や音、3段階など、選べる形で気持ちを聞く。大人が先に、自分の気持ちを口にしてみせる。そして、気になるサインに気づいたときは、ひとりで抱えずに、学校や市区町村の子ども家庭相談、児童相談所の「189」につなぐ。片づけのあとにはスタッフ同士で「今日の気持ち」をひとことずつ出し合い、疲れたときは休む。それが、居場所を長く続けるための工夫です。

子どもたちのために時間と心を使っているあなたは、それだけで地域の大切な支えです。だからこそ、あなた自身の「うれしい」「疲れた」「心配」にも、ていねいに名前をつけてあげてください。自分を大切にしよう。自分の気持ちを大切にできる大人のそばで、子どもたちは、自分の気持ちも大切にしていいのだと学んでいきます。

ひとりで抱えないで
市区町村の子ども家庭相談の窓口(こども家庭センターなど)
児童相談所 虐待対応ダイヤル「189」
24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310
チャイルドライン 0120-99-7777(18歳まで)
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(支える大人の相談にも)
命の危険が迫っているときは、迷わず110番・119番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)。Krystal の外傷と感情の分化、Katan(1961)、Lane & Schwartz の感情の気づきの段階を参照
  • Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness: A cognitive-developmental theory and its application to psychopathology. American Journal of Psychiatry, 144(2), 133-143.
  • NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ「こども食堂全国箇所数調査」
  • こども家庭庁 児童相談所虐待対応ダイヤル「189」
  • 文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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