産後、夫婦の会話が「業務連絡」だけになったら|感情の言語化で乗り越える産後クライシス

産後、夫婦の会話が「業務連絡」だけになったら|感情の言語化で乗り越える産後クライシス

産後、夫婦の会話が「業務連絡」だけになったら
感情の言語化で乗り越える産後クライシス

夜中の授乳を終えて、ようやく横になったと思ったらまた泣き声。朝、夫に送ったLINEは「オムツ切れそう」「今日何時に帰る?」だけ。返ってくるのは「了解」のスタンプひとつ。週末に夫が「言ってくれればやったのに」と言った瞬間、何かがぷつんと切れて涙が止まらなくなった。そんな毎日を過ごしていませんか。会話が業務連絡だけになるのは、愛情がなくなったからではありません。睡眠不足と緊張の中で、気持ちが言葉になる前に行き場をなくしているだけかもしれないのです。出産後1〜3年の夫婦が、気持ちを言葉にして、もう一度「チーム」に戻るための方法をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「ミルク何時?」「オムツ買った?」だけの毎日

よくある相談の典型例
「夫と話しているはずなのに、
ひとりで子育てしている気がするんです」
場面1歳の子を育てる30代の女性。育休中で、夫は平日ほぼ終電帰り。会話は「明日ゴミの日」「予防接種の予約した?」ばかり。夫に悪気がないのはわかっている。けれど、寝かしつけのあと夫がスマホを見て笑っている姿を見ると、理由のわからない怒りがこみ上げ、気づくと黙って寝室に戻ってしまう。
この方は、夫に怒っているだけではありません。心細さ、置いていかれたようなさみしさ、「私ばかり」という悔しさ、そして子どもへの愛おしさ。たくさんの気持ちが一度に押し寄せて、どれが何なのか見分けられないまま「イライラ」という一つのかたまりになっているのです。かたまりのままの気持ちは、言葉にならず、爆発するか、黙るかのどちらかになりがちです。

出産後しばらくのあいだ、夫婦の関係がぎくしゃくすることは珍しくありません。「産後クライシス」という言葉が広く知られるようになったのも、多くの夫婦が同じ壁にぶつかっているからでしょう。赤ちゃんを迎えた喜びと同時に、夫婦の会話が減り、すれ違いが増えていく。そんな時期です。

この時期の会話を振り返ると、多くの夫婦に共通する特徴があります。それは、会話の中身が「事実」と「段取り」だけになっていることです。何時に授乳した、何を買う、誰が迎えに行く。生活を回すためには欠かせない情報ですが、そこに「疲れた」「うれしかった」「不安だった」という気持ちがほとんど入っていません。

この記事では、心理学のアレキシサイミアという視点から、産後の夫婦に起きている「気持ちの迷子」をひもといていきます。夫婦のどちらかを責めるためではありません。二人とも、気持ちを言葉にする余裕を失っているだけかもしれない、と知るためです。

感情迷子さんとは|産後は誰でも気持ちを見失いやすい

アレキシサイミア(失感情症)とは、自分の感情に気づき、ほかの感情と見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。感情がないのではなく、感情に言葉が届きにくくなっているのがポイントです。一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向があるとされ、病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡と考えられています。DSM-5やICD-11でも、独立した診断名にはなっていません。全体像はアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントにまとめています。

約10人に1人
ふだんから、感情に気づき言葉にすることが難しい傾向が強いとされる人の割合(研究により約10.1〜16.3%)
出典:TAS-20等を用いた複数の疫学研究(中島輝・自己肯定感アカデミー講座資料より)疫学データ

中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態を「感情迷子さん」と呼んでいます。迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。気持ちは消えたのではなく、帰り道が見えにくくなっているだけです。

産後は「2次性」の感情迷子になりやすい

アレキシサイミアには、若い頃から続く特性としての「1次性」と、強いストレスや環境の変化から心を守るための反応としての「2次性」があると考えられています。出産と、その後の夜も昼もない育児は、心と体にとって大きな変化です。もともと気持ちを話すのが得意だった人でも、産後しばらくは一時的に感情が見えにくくなることがあります。

産後の暮らし気持ちへの影響
細切れの睡眠が続く体の疲れと気持ちの疲れの区別がつきにくくなる
赤ちゃんの泣き声に常に気を張る「緊張」がふつうの状態になり、自分の気持ちに注意が向かない
大人と話す時間が減る気持ちを言葉にする機会そのものが少なくなる
体の回復とホルモンの変化理由のわからない涙やイライラが出やすくなる

つまり、産後に「自分の気持ちがよくわからない」「なぜこんなに怒っているのかわからない」と感じるのは、あなたの性格の問題ではなく、今の暮らしがそうさせている面が大きいのです。まずはそのことを知っておいてください。

爆発するか、黙るか|言葉になる前の気持ちの行き先

気持ちが言葉になるまでには、「体の信号に気づく」「どんな感情かを解釈する」「言葉に変える」という3つのステップがあります。睡眠不足や緊張が続くと、このステップのどこかで流れが細くなります。そうすると、言葉になれなかった気持ちは、別の出口から出てきます。

言葉にならなかった気持ちの「2つの出口」 睡眠不足と緊張のなかで、気持ちはかたまりのまま出口を探す 気持ちのかたまり さみしい・悔しい・不安・疲れた (見分けられないまま) 出口1|爆発する 些細なひと言で怒りがあふれる あとで自己嫌悪におちいる 出口2|黙る 「もういい」「別に」で会話を切る 体の不調や涙として出てくる 第3の出口|言葉にする 「ちょっと、さみしかった」 不完全な言葉でかまわない
▲ かたまりのままの気持ちは、「爆発」か「沈黙」という出口から出てきやすくなります。この記事で目指すのは、細くてもいいので「言葉」という3つめの出口をつくることです。

爆発は「わかってほしい」のサイン

夫の「手伝おうか?」のひと言に、自分でも驚くほど強く言い返してしまう。そのあとで「なんであんな言い方をしたんだろう」と落ち込む。こうした爆発の奥には、多くの場合、怒りよりも前にあった「さみしさ」や「心細さ」が隠れています。怒りは、ほかの気持ちが言葉にならなかったときに、いちばん先に表に出てきやすい感情なのです。

沈黙は「あきらめ」ではなく「消耗」

反対に、何も言わなくなる人もいます。「言っても伝わらない」「説明する気力もない」。沈黙は冷たさに見えますが、実際には気持ちを言葉にするエネルギーが残っていない状態であることがほとんどです。『感情迷子さんの本』では、言葉にできない感情は脳の中で「未完了のタスク」として残り続けると説明しています。やりかけのことほど記憶に残る「ツァイガルニク効果」と同じように、片づかない気持ちが心の中で渋滞し、慢性的な疲れにつながっていくのです。

怒りが止まらないのは、
あなたが怒りっぽいからじゃない。
まだ名前のない気持ちが、たくさんあるから。

「言ってくれればやったのに」のすれ違い|夫側の感情迷子

産後の夫婦のすれ違いで、もっともよく聞かれる言葉の一つが「言ってくれればやったのに」です。夫としては、責任を果たそうとする誠実な言葉のつもりかもしれません。けれど妻にとっては、「何をしてほしいかを考えるのも私の仕事なの?」という、さらに重い荷物に聞こえます。

ここで見落とされがちなのが、夫の側にも「感情迷子」が起きているという視点です。夫は夫で、仕事の責任、生活の変化、家での居場所のなさを感じていることがあります。ところが、それを「自分は今、どう感じているのか」としてつかまえられないまま、段取りや解決策の話だけをしてしまうのです。

夫に多いパターン心の中で起きていること
「疲れた?」と聞かれても「別に」「普通」と答える疲れや不安に気づいていない。または、どう言えばいいかわからない(感情を見分ける・伝える難しさ)
妻の愚痴に、すぐ解決策を出す気持ちより「問題」に目が向く。感情を扱うことに慣れていない(感情に興味が向きにくい傾向)
帰宅前に車の中でしばらく時間をつぶす家に入る前の緊張や居心地の悪さを、言葉にできずに行動で処理している

「何でもないよ」の奥にあるもの

『感情迷子さんの本』には、20代の男性ハヤトさん(仮名)が登場します。恋人に「いまどういう気持ちなわけ?」と聞かれても、「どうって……まぁ別に……」としか言えなかった方です。カウンセリングで彼は、「心の中にはモヤモヤと渦を巻いているカタマリがあるんです。でも、それに合う言葉が見つかりません」と話していました。気持ちがないのではなく、言葉を慎重に選ぼうとしすぎて、出口をふさいでいたのです。

産後の家庭で「何でもない」をくり返す夫にも、同じことが起きている場合があります。「どう思ってるの?」と詰め寄るほど、言葉はさらに遠ざかってしまう。ハヤトさんの場合、最初の鍵になったのは「ちゃんとした言葉にならなくていい。まずはカタマリに色を塗ってみましょう」という声かけでした。正確さよりも、まず外に出すことが先なのです。

「感情はノイズ」と考えてきた人

同じ本には、40代の管理職タカシさん(仮名)も登場します。「感情はノイズだ」と考え、部下が相談に来てもまず解決策を出し、家族が話しかけてきても論理的に返す。それが当たり前だったそうです。そのタカシさんが、相手の気持ちを想像する練習から始めて、半年ほどたったころ、「つらかったね、と言えるようになりました」と話してくれたといいます。そして「自分もなんだか、スッとするんです」と。

夫がもし「解決策しか言わない人」だとしても、それは冷たいからではないかもしれません。気持ちを扱う練習を、これまでしてこなかっただけという可能性があります。そして練習は、今からでもできます。

父親側の気持ちの扱い方については、父親向けの記事でも詳しく取り上げています。夫に読んでもらうきっかけにしてもよいでしょう。

睡眠不足は感情のセンサーを鈍らせる

産後の夫婦に起きる感情迷子の背景には、単純に「眠れていない」という事実があります。睡眠が足りないと、イライラしやすくなったり、涙もろくなったり、逆に何も感じなくなったりすることは、多くの人が経験から知っているでしょう。気持ちを細かく見分け、言葉にするという作業には、思っている以上に心の余力が必要なのです。

『感情迷子さんの本』の「心の体温チェック」の解説では、心と体はつながっていて、体のほうから心をチェックできると説明されています。緊張や不安があると体が冷えやすくなり、強いストレスを感じているときは胸がドキドキして呼吸が速くなる。産後のように自分の状態を振り返る時間がない時期こそ、気持ちより先に、体の状態に気づくことが入り口になります。

  • 赤ちゃんが寝ていても、自分は眠れない
  • 夫の帰宅の音を聞くと、肩に力が入る
  • 食事を立ったまま、数分で済ませている
  • 理由もなく涙が出る、またはまったく泣けない
  • 「楽しい」と感じた最後の日が思い出せない
  • 夫に話しかけられると、反射的に「何?」と強い口調になる

いくつか当てはまっても、自分を責める必要はありません。これは、心と体が「今、余力がないよ」と知らせてくれているサインです。サインに気づけたら、それはもう気持ちを言葉にする第一歩を踏み出しています。

夫婦で使える感情の言葉のワーク|寝かしつけのあとの5分で

産後の夫婦に「じっくり話し合いましょう」と勧めても、現実的ではありません。そんな時間も体力もないからです。ここでは、『感情迷子さんの本』の第4章のワークを、寝かしつけのあとや、LINEのやりとりの中でできる形に作り直して紹介します。

ワーク1|3秒|心の体温チェック
授乳やミルクのあと、胸に手を当てる

夜中の授乳を終えて布団に戻る前に、手のひらを胸に当てて「今、体は温かい?冷たい?」と3秒だけ自分に聞きます。「冷たい」「ざわざわ」「よくわからない」、どれでもかまいません。赤ちゃんのことで頭がいっぱいの1日のなかで、自分のための3秒をつくることが目的です。

ワーク2|30秒|今日のオノマトペ
業務連絡LINEに「ひと言」を足す

「オムツ買ってきて」のあとに、「今日はぐったり」「午後はほっ」「夕方バタバタ」とオノマトペを一つ足してみます。夫も、帰りの電車で「了解」のあとに「こっちはずっしり」と返してみる。オノマトペは、気持ちを言葉にするのが苦手な人でも選びやすい、体の感覚に近い言葉です。業務連絡のなかに、気持ちの小さな窓が開きます。

ワーク3|1分|3段階温度計
「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さを伝える

気持ちを伝えるときに、強さを3段階で添えます。「今日は、そこそこ疲れた」「すごく眠い」「ちょっとさみしかった」。強さがわかると、相手は「どのくらい手を貸せばいいか」が判断しやすくなります。「疲れた」だけでは伝わらなかったものが、「すごく疲れた。今日は先に寝たい」になると、夫も動きやすくなるのです。

ワーク4|1分|比喩レッスン
「今日の気持ちを天気でいうと?」

寝かしつけのあと、お互いに「今日の気持ちは、天気でいうと?」と聞き合います。「一日じゅう小雨」「夕方に雷」「今は少し晴れ間」。天気のたとえなら、相手を責める言葉にならずに、自分の状態を伝えられます。答えに対しては、意見ではなく「そうだったんだ」とだけ返すのがルールです。

ワーク5|5秒|5秒ルール(夫向け)
解決策を言う前に、5秒だけ待つ

妻が「今日ほんとに大変だった」と話しはじめたら、「じゃあ、こうすれば」と言いたくなっても5秒だけ待ち、「この人は今、何を感じている?」と心の中で一度だけ問いかけます。答えはわからなくてかまいません。そのあとに出す最初のひと言を、「大変だったね」にする。正論はそのあとで十分です。

名前をつけるだけで、気持ちは落ち着く

こうしたワークが役に立つ理由の一つに、「感情ラベリング」があります。今の気持ちに「不安」「イライラ」などと名前をつけると、脳の中で不安や恐怖に関わる扁桃体の活動が下がることが、リーバーマン(Lieberman)らの研究(2007年)で報告されています。『感情迷子さんの本』では、正確な感情語でなくても、「モヤモヤ」のようなオノマトペでも同じような効果があると紹介しています。完ぺきな言葉でなくていい。とりあえず出すことが、心の渋滞をほぐしていくのです。

中島輝より一言

産後のご夫婦の相談で、私がよくお願いするのは「話し合い」ではなく「ひと言の交換」です。長い話をする余力がない時期に、立派な言葉はいりません。「ずっしり」「ほっ」のひと言を毎日交換していると、不思議と相手の顔つきが見えてきます。夫婦の会話は、量よりも温度です。業務連絡に、ほんの少しだけ気持ちの温度を足してみてください。

「頼る」を言葉にする|家事・育児の分担を感情から話す

家事や育児の分担の話し合いは、産後の夫婦にとって避けて通れないテーマです。ところが、分担表をつくっても、アプリでタスクを共有しても、なぜかすっきりしない。そんな声もよく聞きます。それは、分担の話が「タスク」だけで、「気持ち」が置き去りになっているからかもしれません。

『感情迷子さんの本』には、仕事をしながらお子さんの中学受験に伴走していたマナミさん(仮名)の話があります。スケジュールを完璧にこなそうとして、自分の感情を無視していたマナミさんは、手帳の余白に一言だけ感情を書くことを続けました。すると、あるとき「今日は仕事が忙しくて疲れちゃったから、イライラしてごめんね」と家族に言えたそうです。お子さんは「なんだ。機嫌悪いのは私のせいかと思った」とほっとした様子だったといいます。

子どもの年齢も状況も違いますが、産後の家庭でも同じことが起きます。不機嫌の理由が言葉になっていないと、家族はそれを「自分のせい」と受けとりやすいのです。夫が妻の不機嫌を避けるように帰宅を遅らせ、妻はますます孤立する。その悪循環は、ひと言の「気持ちの説明」でほどけることがあります。

「お願い」に気持ちを一つ添える

タスクだけの伝え方気持ちを添えた伝え方
「お風呂、入れておいて」「今日は抱っこで腕がすごく重くて。お風呂お願いできると助かる」
「なんで言わないとやらないの?」「全部私が考えなきゃいけない気がして、心細くなってた」
「別に、いいよ」「今はうまく言えないけど、ちょっとモヤモヤしてる。あとで話したい」
(夫)「言ってくれればやったのに」(夫)「気づけなくてごめん。そんなに疲れてたんだね」

気持ちを添えると、お願いは「命令」でも「責め」でもなく、「チームの情報共有」になります。相手は、何をすればいいかだけでなく、なぜそれが必要なのかを理解できます。『感情迷子さんの本』でも、感情と思考を切り分けずに伝えることで、相手に「この人は今、こういう状態なんだ」と伝わり、信頼感が生まれると書かれています。

「うまく言えない」も立派な報告

それでも言葉が出てこない日はあります。そんなときは、「今はうまく言えない」と言えたら十分です。「うまく言えないけど、なんか苦しい」「怒ってるのか悲しいのか、自分でもわからない」。不完全な言葉を口にできることは、ありのままの自分を受け入れる自己受容感の表れです。自己肯定感の「6つの感」を木にたとえると、自己受容感は「幹」にあたります。幹が太くなるほど、どんな気持ちが来ても、しなやかに受けとめられるようになっていきます。

地域の支えを使う|産後ケア・こども家庭センター・保健師

産後の夫婦が気持ちを取り戻すうえで、もう一つ大切なのが「夫婦だけで抱えない」ことです。夫婦の会話が業務連絡になってしまうのは、二人とも限界まで頑張っているからでもあります。頑張りの総量そのものを減らすために、地域の支えを使ってください。

地域の支え1
自治体の産後ケア事業

市区町村が行う産後ケア事業では、助産師などによる心と体のケアや育児の相談、授乳の相談などを受けられます。施設に泊まる、日中に通う、自宅に来てもらうといった形があり、内容や費用、対象の時期は自治体によって異なります。「こんなことで使っていいのかな」と思う方ほど、一度問い合わせてみてください。休むことも、立派な育児の一部です。

地域の支え2
こども家庭センター(旧・子育て世代包括支援センター)

妊娠期から子育て期までの相談を、切れ目なく受けとめる窓口です。以前は「子育て世代包括支援センター」と呼ばれていたもので、現在は多くの自治体で「こども家庭センター」として整えられています。名称や場所は自治体によって違うので、役所のホームページや母子健康手帳の案内で確かめてみましょう。

地域の支え3
保健師の訪問・相談

赤ちゃんが生まれたあと、保健師や助産師が家庭を訪問する仕組みがあります。その後も、地域の保健センターなどで保健師に電話や面談で相談できます。「赤ちゃんのこと」だけでなく、「私の気持ちが最近おかしい」「夫婦でうまく話せない」という相談をしてもかまいません。

こうした場で話すときも、気持ちを上手に説明する必要はありません。「最近眠れなくて」「なんとなく涙が出る」と、体のことから話しはじめれば大丈夫です。専門職の方は、言葉になりきらない気持ちを受けとめることに慣れています。

夫も「相談していい人」

地域の窓口は、母親だけのものではありません。夫が「妻の様子が心配」「自分も最近しんどい」と相談することもできます。父親が相談に行くのはハードルが高いと感じるかもしれませんが、家族全体を支えるための窓口です。夫婦のどちらか一人が動くだけでも、家庭の風通しは変わります。

産後うつのサインと相談の目安

産後の気分の落ち込みのなかには、産後うつが隠れていることがあります。産後うつは、出産した女性の約10人に1人に起こるとされ、決して特別なことではありません。気持ちを言葉にしにくい状態が続くと、本人も周りも「疲れているだけ」と見過ごしてしまうことがあるので、目安を知っておくことが大切です。

2週間以上続いたら、相談を

  • 眠れない(赤ちゃんが寝ていても眠れない)状態が続いている
  • 涙が止まらない、または何をしても楽しくない
  • 「母親失格だ」「私のせいだ」と自分を責め続けてしまう
  • 赤ちゃんをかわいいと思えない自分がつらい
  • 食欲がない、または食べすぎてしまう
  • 家事や身の回りのことが手につかない

こうした状態が2週間以上続くときは、ひとりで抱えずに、出産した病院の産婦人科、地域の保健師、精神科や心療内科に相談してください。産婦人科の健診や保健師の訪問の際に、「最近こんな状態が続いていて」と伝えるだけでもかまいません。

夫や家族が気づいたときは、「病院に行ったほうがいい」と突き放すのではなく、「一緒に相談してみよう」「保健師さんに電話してみようか」と、橋渡しの言葉をかけてください。

「消えてしまいたい」と感じたら

産後のつらさのなかで、「いなくなってしまいたい」「消えてしまいたい」という思いがよぎることがあります。それは、あなたが弱いからでも、母親としてだめだからでもありません。それほどまでにつらい、という心のSOSです。そう感じたときは、その気持ちを誰かに伝えてください。助けを求めることは、弱さではありません。夫や家族が打ち明けられたときは、否定したり説得したりせず、「話してくれてありがとう」と受けとめ、一緒に相談先につながってください。

つらさを話せる相談窓口
出産した病院の産婦人科・お住まいの地域の保健師・こども家庭センター
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)でSNS相談先を探せます
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

夫婦がもう一度「チーム」に戻るために

産後クライシスを乗り越えた夫婦の多くは、劇的な話し合いをしたわけではありません。小さな「気持ちのひと言」を、少しずつ取り戻していったのです。最後に、夫婦がチームに戻るための考え方を整理します。

業務連絡から「チームの会話」へ|3つのステップ 一気に変えなくていい。ひと言ずつ、温度を足していく ステップ1 自分の体に気づく 心の体温チェック 「眠れていない」 「肩が重い」 ステップ2 ひと言を足す オノマトペ・3段階 「今日はずっしり」 「そこそこ疲れた」 ステップ3 受けとめ合う 5秒ルール・共感の一言 「そうだったんだ」 「大変だったね」 足りない分は、産後ケア・保健師など地域の支えで補う
▲ まず自分の体の状態に気づき、業務連絡にひと言の気持ちを足し、相手のひと言を受けとめる。夫婦だけで足りない分は、地域の支えで補います。順番どおりでなくても、できるところからで大丈夫です。

大切なのは、どちらか一方だけが頑張らないことです。妻だけが気持ちを言葉にする努力をしても、夫が受けとめる準備ができていなければ、また沈黙に戻ってしまいます。夫だけが共感の言葉を覚えても、妻が「どうせ口だけ」と感じていれば届きません。二人とも感情迷子になっている時期だからこそ、二人で少しずつ帰り道を探していく。それがチームに戻るということです。

そしてもう一つ。この時期のすれ違いは、夫婦の関係が壊れたしるしではありません。家族のかたちが大きく変わるときに、多くの夫婦が通る道です。気持ちを言葉にする練習は、子どもが大きくなってからも、夫婦の、そして家族の財産になっていきます。子どもは、両親が「疲れた」「うれしい」と言葉で伝え合う姿を見て、自分の気持ちの言葉を育てていくからです。

よくあるご質問

夫に気持ちを話しても「で、どうしたいの?」と言われてしまいます。
解決策を求めるのは、夫なりに役に立ちたいという気持ちの表れかもしれません。話す前に「今日は解決じゃなくて、聞いてほしいだけ」と最初に伝えてみてください。夫にも、この記事の「5秒ルール」を一緒に試してもらうとよいでしょう。
イライラして夫にきつく当たってしまい、あとで自己嫌悪になります。
産後のイライラは、睡眠不足や疲れ、言葉にならないさみしさが重なって出てくることが多いものです。自分を責めるより、落ち着いたときに「さっきは疲れていて、きつい言い方になってごめんね」と気持ちを添えて伝えてみてください。それだけで、相手の受けとり方は大きく変わります。
夫が「別に」「普通」しか言いません。気持ちがないのでしょうか?
気持ちがないのではなく、気持ちに気づいたり、言葉にしたりするのが苦手なだけかもしれません。「どう思ってるの?」と問い詰めるより、「今日は天気でいうと何?」「疲れた、ちょっと・そこそこ・すごく、どれ?」と選べる形で聞くと答えやすくなります。
産後ケアや保健師さんに相談するほどのことではない気がします。
「相談するほどではない」と感じる時期こそ、相談してほしいタイミングです。産後ケアや保健師の相談は、困りごとが大きくなる前に使うための仕組みでもあります。「眠れない」「なんとなくつらい」という一言から話しはじめてかまいません。
産後うつかどうか、自分で判断できますか?
自分で判断する必要はありません。眠れない、涙が止まらない、自分を責め続ける状態が2週間以上続くときは、産婦人科、保健師、精神科・心療内科に相談してください。早めに相談することで、回復の道筋も見えやすくなります。
会話が業務連絡だけになったのは、
二人とも、精いっぱい頑張っているから。
今日のLINEに、気持ちのひと言を足してみよう。
「ずっしり」「ほっ」「そこそこ疲れた」。
不完全なひと言が、夫婦をもう一度チームにしていきます。

自分を大切にしよう

産後、夫婦の会話が「ミルク何時?」「オムツ買った?」の業務連絡だけになってしまうのは、愛情がなくなったからではありません。睡眠不足、ワンオペ、生活の大きな変化のなかで、夫婦のどちらもが、気持ちを見分けて言葉にする余裕を失っているのです。言葉になれなかった気持ちは、爆発や沈黙、理由のわからない涙として出てきます。夫の「言ってくれればやったのに」や「別に」も、気持ちを扱うことに慣れていない感情迷子のサインかもしれません。

立派な話し合いはいりません。胸に手を当てて体の温度を確かめる。業務連絡のLINEにオノマトペを一つ足す。「ちょっと・そこそこ・すごく」で強さを伝える。解決策の前に5秒待ち、「大変だったね」と返す。お願いごとに気持ちを一つ添える。そして、夫婦だけで抱えずに、産後ケアやこども家庭センター、保健師といった地域の支えを使ってください。眠れない、涙が止まらない、自分を責める状態が2週間以上続くときは、産婦人科や保健師、精神科に相談しましょう。

赤ちゃんのために毎日を回しているあなたは、それだけで十分に頑張っています。だからこそ、自分の「疲れた」「さみしい」にも、名前をつけてあげてください。自分を大切にしよう。あなたが自分の気持ちを大切にすることが、夫婦の会話に温度を取り戻し、子どもが気持ちの言葉を育てる土台になっていきます。

ひとりで抱えないで
出産した病院の産婦人科・地域の保健師・こども家庭センター
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
いのちSOS 0120-061-338
厚生労働省「まもろうよ こころ」(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)
命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421-428.
  • こども家庭庁・厚生労働省 産後ケア事業、こども家庭センターに関する資料
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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