不登校の子が「理由がわからない」と言うとき|感情迷子さんの視点で考える関わり方

不登校の子が「理由がわからない」と言うとき|感情迷子さんの視点で考える関わり方

不登校の子が「理由がわからない」と言うとき
感情迷子さんの視点で考える関わり方

「どうして学校に行けないの?」と聞いても、返ってくるのは「わかんない」だけ。責めたいわけではないのに、親も先生も途方に暮れてしまいます。でも、その「わからない」は、ごまかしではなく本当に「わからない」のかもしれません。気持ちを見分けて言葉にすることが難しい「感情迷子さん」の視点から、保護者と先生ができる関わり方をお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

「理由がわからない」は、うそでも甘えでもない

よくある相談の典型例
「行かなきゃいけないのはわかってる。
でも、なんでかわかんない」
場面中学2年生。朝になるとお腹が痛くなり、玄関で動けなくなる日が続いている。母親が「何かあったの?いじめ?先生?」と一つずつ聞いても、首を横に振るだけ。最後に小さな声でこう言った。
保護者の方は「本当は理由があるのに隠しているのでは」と感じるかもしれません。もちろんそういう場合もあります。けれど多くの相談に立ち会ってきた私の実感では、本人にも自分の気持ちの正体がつかめていないケースが少なくありません。心の中に重たいカタマリはある。でも、それが不安なのか、疲れなのか、悲しみなのか、見分けがつかないのです。
約34万6千人
令和5年度に「不登校」とされた小・中学生の数(過去最多)
出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」公的統計

不登校はもはや、どの家庭にも、どの教室にも起こりうることです。そして不登校の相談でとても多いのが、「本人に聞いても理由を言わない」「本人も理由がわからないと言う」という悩みです。

大人はつい、「理由がわかれば解決できる」と考えます。いじめならいじめへの対応を、勉強ならサポートを。ところが、理由が見えないと打つ手が見つからず、「本当は甘えているだけでは」「怠けているのでは」という疑いが頭をもたげてきます。

ここで、少し見方を変えてみてください。「わからない」は、答えを拒否する言葉ではなく、子どもが今いる場所を正直に伝える「現在地の報告」なのかもしれません。この記事では、その「わからない」の中身を、アレキシサイミア(失感情症)と「感情迷子さん」という考え方から読み解いていきます。

「わからない」は、逃げの言葉ではない。
心の中にあるものに、
まだ名前がついていないという報告。

子どもにも起こる「感情迷子さん」という状態

アレキシサイミア(失感情症)とは、感情がないのではなく、感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態をいいます。研究によって差はありますが、一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向が見られるとされます。病名ではなく、誰もが持っている特性の「濃淡」です。くわしくはアレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで解説しています。

私は近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』の中で、この状態を親しみを込めて「感情迷子さん」と呼びました。感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態のことです。

「迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています」
中島輝の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』より

迷子は、能力がないから迷子になるわけではありません。誰でも道がわからなくなることはあります。子どもの感情も、消えてしまったわけではなく、一時的に居場所や表し方を見失っているだけ。帰り道は、大人と一緒に探すことができます。

子どもの心は「感情の名前」を学んでいる途中

そもそも子どもは、大人以上に感情を言葉にするのが難しい存在です。赤ちゃんの頃から、泣いたときに「びっくりしたね」「さみしかったね」と映し返してもらうことで、少しずつ「この感じは『さみしい』なんだ」と覚えていきます。1961年のカタン(Katan)の観察では、保育園の子どもたちに気持ちの名前を教えると、感情のコントロールだけでなく考える力まで伸びたと報告されています。

ところが、思春期に入ると感情は一気に複雑になります。「悔しいけれど、ほっとした」「好きだけど、腹が立つ」。混ざり合った気持ちを見分ける言葉を、まだ十分に持っていない。そこに、友だち関係の緊張、勉強のプレッシャー、家庭の事情などが重なると、感情の処理が追いつかなくなり、心がいったん「待機状態」に入ることがあります。不登校は、その待機状態が「学校に行けない」というかたちで表に出たもの、と見ることもできるのです。

中島輝より一言

私は5歳のとき、育ててくれた里親が突然いなくなり、それ以来感情を表に出すのをやめました。小学生の頃、理由もなく涙が流れて、友だちに「どうしたの?」と聞かれても「わからない」「なんでもない」としか言えませんでした。ごまかしていたのではありません。本当にわからなかったのです。だから私は、「わからない」と言う子どもの言葉を、そのまま信じたいと思っています。

不登校の子に見られる、言葉にならないサイン

感情は、言葉にならないときほど体と行動を通って表に出てきます。感情迷子さんの状態にある子は、「つらい」と言うかわりに、次のようなサインを見せることがよくあります。

  • 朝になると、腹痛・頭痛・吐き気・だるさを訴える(休むと決まると昼には元気になる)
  • 日曜の夜や長期休みの終わりに、急に口数が減る、イライラする
  • 「別に」「普通」「わかんない」「大丈夫」という返事が増えた
  • 以前は好きだったテレビや遊びを「つまらない」と言うようになった
  • 表情が乏しくなり、笑う・怒るといった反応が小さくなった
  • ゲームや動画に長時間没頭し、やめさせようとすると激しく怒る
  • 寝つけない、夜中に何度も起きる、朝起きられないなど、睡眠のリズムが崩れている
  • 小さなことで突然泣いたり、物に当たったりして、本人も理由を説明できない

大切なのは、これらを「困った行動」ではなく「言葉のかわり」として見ることです。朝の腹痛は仮病ではなく、言葉にならなかった不安や緊張が、体の言葉で話しているのかもしれません。ゲームへの没頭は、処理しきれない感情から距離をとるための、子どもなりの避難場所であることもあります。

体の症状が続くときは、まず医療で確認を

一方で、腹痛や頭痛、朝起きられないといった症状には、体の病気が隠れていることもあります。思春期に多い起立性調節障害のように、体の側の治療が必要なケースもあります。「気持ちの問題だろう」と決めつけず、まずはかかりつけの小児科などで体の状態を確認する。そのうえで、心の側からの関わりを並行して考えていくのが安心です。

朝の腹痛は、うそではない。
言葉になれなかった気持ちが、
体を通って「助けて」と言っている。

4タイプ別|不登校の子の「わからない」の中身

『感情迷子さんの本』では、感情迷子さんを4つのタイプに分けています。同じ「わからない」でも、タイプによって中身が違い、大人の関わり方のコツも変わります。子どもを型にはめるためではなく、「この子の『わからない』はどの種類だろう」と想像するための地図として使ってください。複数のタイプが混ざっていることも、時期によって変わることもあります。

タイプ1|感情がわからない
「本当に何も感じていない気がする」子

自分がどんな気持ちなのか、本人にもつかめないタイプです。心の天気が晴れなのか雨なのかもわからない。そのぶん腹痛や頭痛など、体の不調として先に出やすいのが特徴です。「何がつらいの?」と聞かれても答えようがありません。このタイプには、気持ちではなく体のほうから聞くのが近道です。「お腹は今、重い感じ?キュッとする感じ?」と、体の感覚を一緒に言葉にしていきましょう。

タイプ2|感情を説明できない
「何かはある。でも言葉にならない」子

心の中にモヤモヤとしたカタマリがあることは、本人もわかっています。でも、それに合う言葉が見つからない。「ちゃんと説明しなきゃ」と思うほど言葉が出なくなり、結局「別に」「大丈夫」で終わらせてしまうタイプです。まじめで、言葉を大切にする子に多く見られます。正確でなくていい、途中の言葉でいいと伝え、色やオノマトペで表してもらうと、扉が少しずつ開きます。

タイプ3|感情に興味がない
「学校に行く意味がわからない」と理屈で語る子

「授業は動画で勉強できる」「学校は非効率」と、論理的に説明するタイプです。一見しっかりしていて、悩んでいるようには見えません。けれどその奥には、感情を「役に立たないもの」として切り捨ててきた心が隠れていることがあります。理屈で言い負かそうとすると、かえって心を閉ざします。まず「なるほど、そう考えているんだね」と受けとめ、理屈の奥にある「しんどさ」に、5秒だけ想像を向けてみることから始めましょう。

タイプ4|想像できない
「将来なんて考えられない」と言う子

「この先どうしたい?」と聞くと、頭が真っ白になってしまうタイプです。楽しい未来を想像することにブレーキがかかっていて、「どうせうまくいかない」「考えても仕方ない」と感じています。期待して裏切られた経験が、想像力に鍵をかけていることもあります。大きな夢や進路の話ではなく、「もし1日自由だったら何する?」のような小さな「もしも」から、安全に想像する練習をしていきます。

タイプよく出る言葉大人の最初の一手育てたい「感」
1 わからない「わかんない」「お腹痛い」体の感覚から一緒に言葉にする自尊心≒自己存在感(根)
2 説明できない「別に」「大丈夫」色・オノマトペ・途中の言葉を歓迎する自己受容感(幹)
3 興味がない「意味ない」「非効率」理屈を否定せず、感情に5秒だけ目を向ける自己信頼感(葉)
4 想像できない「どうせ」「考えられない」小さな「もしも」で想像を試運転する自己決定感(花)
自己肯定感の木と、4タイプが詰まりやすい場所 枝=自己効力感 実=自己有用感 花 葉 幹 根 タイプ4 想像できない 自己決定感(花) タイプ3 興味がない 自己信頼感(葉) タイプ2 説明できない 自己受容感(幹) タイプ1 わからない 自尊心≒自己存在感(根)
▲ 自己肯定感を一本の木にたとえると、4タイプはそれぞれ詰まりやすい場所が違います。どのタイプでも、まず根っこ(自尊心≒自己存在感)に「そのままで大切」という水をやることが土台です。

表の右端は、自己肯定感を一本の木にたとえた「6つの感」(自尊心≒自己存在感=根、自己受容感=幹、自己効力感=枝、自己信頼感=葉、自己決定感=花、自己有用感=実)のうち、各タイプがとくに詰まりやすい場所です。不登校の子の多くは、「学校に行けない自分はダメだ」と、木の根っこから自信を失いかけています。タイプが何であれ、まず根っこに水をやる。つまり「行けなくても、あなたはあなたのままで大切」と伝え続けることが、すべての土台になります。

「なぜ?」と聞くほど言葉が遠ざかる理由

心配な大人ほど、つい「なんで?」「何があったの?」と聞いてしまいます。けれど感情迷子さんの状態にある子にとって、「なぜ」は最も答えにくい質問です。

感情を言葉にするには、次の3つのステップが必要です。①体の信号に気づく → ②どんな感情かを解釈する → ③言葉に変換する。さらに③の言葉には、「自分がわかる言葉」と「相手に伝わる言葉」の2段階があります。「なんで行けないの?」という質問は、いきなり最後の「相手に伝わる言葉で、理由まで説明する」ことを求めているのです。①や②でつまずいている子には、届きようがありません。

「なぜ?」より「どんな感じ?」 感情が言葉になるまでの3ステップと、大人の質問の届く場所 ① 体の信号に気づく お腹が重い・胸がザワザワ ② 感情を解釈する 不安?疲れ?さみしい? ③ 言葉に変換する 理由まで人に説明する 「なんで行けないの?」 いきなり③を求める → フリーズ 「朝、お腹はどんな感じ?」「モヤモヤ?ソワソワ?」 ①②に寄り添う質問 → 答えやすい まずは「自分がわかる言葉」でじゅうぶん 正確でなくても、名前がつくだけで心は少し落ち着く
▲ 「なぜ?」は、3ステップの最後を一気に求める質問です。体の感覚や、選びやすい言葉から聞いていくと、子どもは自分のペースで言葉に近づいていけます。

言葉にならない気持ちは「やりかけの宿題」になる

言葉にできない感情は、心の中で「未完了のタスク」として残り続けます。完了したことよりも、途中で中断したことのほうが記憶に残る「ツァイガルニク効果」と同じことが起きるのです。片づかない感情が次々にたまると、心はどんどん渋滞していき、何もしていないのにぐったり疲れてしまいます。

逆にいえば、正確でなくても名前がつけば、感情は「完了」に近づきます。感情に名前をつけると、不安や恐れに関わる脳の扁桃体の活動が下がることが研究で示されています(Lieberman et al., 2007)。「モヤモヤ」のようなオノマトペでも、同じような効果があると考えられています。不登校の子に必要なのは、理由の説明ではなく、まず心の中のカタマリに小さな名札をつけてあげることなのです。

家庭でかけたい言葉・避けたい言葉

ここからは、ご家庭で使える具体的な言葉をご紹介します。どれも、子どもに「正しく説明すること」を求めず、「感じていることを、そのまま置いていい場所」をつくるための言葉です。

避けたい言葉言いかえの例
「なんで行けないの?」「行けない朝って、体はどんな感じがする?」
「理由がないなら行けるでしょ」「理由がわからなくても大丈夫。わからないって教えてくれてありがとう」
「みんな行ってるのに」「あなたにはあなたのペースがあるよ」
「甘えてるだけでしょ」「それだけしんどいんだね。今はしっかり休もう」
「将来どうするの?」「今日、ちょっとでも楽しかったことある?」
「はっきり言って」「うまく言えなくていいよ。モヤモヤ?チクチク?近いのはどれ?」

選択肢を差し出すと、子どもは選べる

カウンセリングでは、気持ちを言葉にしにくいお子さんにオノマトペを使うことがよくあります。「友だちのこと、どう思ってる?」と聞いても答えが出てこないとき、「モヤモヤしてる?それともチクチク?ソワソワ?」と聞いていくと、ちゃんと選んでくれるのです。

『感情迷子さんの本』より
「お母さんのことは……
チクチク」
場面お母さんへの気持ちを「チクチク」と表現したお子さん。「チクチクってどんな感じ?」と掘り下げていくと、「怒られるとき、なんで怒られているのかわからないから困っている」という気持ちが出てきた。
「お母さんが怖い」「怒られてショック」とは違う、「困っている」という本当の気持ちが見つかったのは、最初の「チクチク」があったからです。オノマトペは、感情の言語化の入り口になります。

答えを急がず、こちらの気持ちを先に差し出す

子どもが黙ってしまったら、無理に答えを引き出そうとせず、大人が感じたことを「仮の言葉」として差し出してみるのも有効です。「今日は少し疲れてそうに見えるな」「もしかしたら、ちょっと不安もあるのかな。違ってたら教えてね」。当たっていなくてもかまいません。「違う」と言えたなら、それも子どもが自分の内側を見た証拠です。

そして、どんな答えが返ってきても、「教えてくれてありがとう」で受けとめてください。「わからない」でも、「別に」でも、です。感情を出しても責められなかったという経験の積み重ねが、子どもの心の根っこを少しずつ太くしていきます。

中島輝より一言

保護者の方にいつもお伝えしているのは、「学校に戻すこと」をゴールにしないということです。ゴールは、子どもが自分の気持ちを少しでも言葉にできて、「わかってもらえた」と感じること。その安心感が育つと、子どもは自分で次の一歩を選びはじめます。登校は、その結果としてついてくることが多いのです。

親子でできる、気持ちに名前をつける小さなワーク

『感情迷子さんの本』の第4章で紹介しているワークの中から、子どもと一緒に取り組みやすいものを選び、家庭向けにアレンジしました。どれも数秒から数分でできます。「やらせる」のではなく、大人も一緒に遊ぶ感覚で取り入れてみてください。

3秒|タイプ1におすすめ
心の体温チェック

手のひらを胸に当てて、「今、体はあったかい?つめたい?」と3秒だけ聞きます。答えは「あったかい」「つめたい」「よくわからない」のどれでもOK。朝起きたとき、夜寝る前に、親子で一緒にやってみましょう。気持ちを直接聞かずに、体から心の状態をのぞくワークです。親が先に「お母さんは今日、ちょっとつめたいかな」と言ってみせると、子どもも答えやすくなります。

1分|タイプ1におすすめ
色彩感情カレンダー

色鉛筆を用意し、夜寝る前に「今日の気分に近い色」を1色選んで、カレンダーのマスに塗ります。言葉にできなくても、色なら選べる子は多いものです。しばらく続けると、色の変化がその子の心のリズムを教えてくれます。理由は聞かなくてかまいません。「青い日が続いてるね」と、ただ眺めるだけでじゅうぶんです。

30秒|タイプ2におすすめ
今日のオノマトペ

夕食どきなどに、「今日を音で言うと?」と聞いてみます。「ずーん」「ふわふわ」「ザワザワ」。家族みんなで一つずつ言い合うと、ゲームのように楽しめます。正しい感情語でなくていいという安心感が、言葉の扉を開きます。

随時|タイプ4におすすめ
子どもの空想に全力で乗る

子どもが「もしも」の話をしたら、どんなに突飛でも「いいね!それでどうする?」と全力で乗ります。「ゲームの世界に住めたら」「猫になれたら」。現実的なツッコミは、今は入れなくていいのです。夢や空想に乗ってもらえた経験は、「想像を広げていい」という安心感になり、閉じかけた未来への想像力を少しずつ取り戻させてくれます。

「白」が続くときは、そっと注意を

色彩感情カレンダーについて、ひとつ大事なことがあります。カウンセリングの場面でお子さんにこのワークをしてもらうと、白ばかりを選ぶ子がいます。年齢の低い子ほどカラフルな色にひかれるものなので、白を選び続けるのは、「放っておいてほしい」「知られたくないことがある」というメッセージであるケースがあるのです。いじめなど、言えない事情が隠れていることもあります。黒や白が何日も極端に続くときは、責めずに見守りながら、学校や専門家にも相談してみてください(数日続く、ときどき選ぶ程度なら心配はいりません)。

好きなことは心の入り口|ゲームで突出していた高校生

不登校の子の中には、ゲームやイラスト、動画づくりなど、特定の分野で驚くほどの集中力や思考力を発揮している子がいます。大人から見ると「ゲームばかりして」と心配になりますが、実はそこに回復の入り口が隠れていることがあります。

『感情迷子さんの本』より
「このキャラなら泣くよね。
わからなくはない」
場面ある対戦ゲームで世界トップクラスの腕を持つ高校生。中学1年生から不登校で、高校にもあまり通えていなかった。ゲームの話になると饒舌で感情豊かなのに、それ以外の話になると言葉が少なくなり、価値観の違う人のことは「よくわからない」と想像するのをやめていた。将来を考えようとすると頭が痛くなってしまう。
彼に取り組んでもらったのが、アニメの登場人物の気持ちを想像する「キャラクター感情読み」です。現実の人の気持ちを想像するのは抵抗があっても、アニメならゲーム感覚でできました。以前は「自分ならここで泣いたりしない」と思っていた彼が、やがて上の言葉を口にするように。「不思議なことに、周りの人が自分のことを少し理解してくれるようになった気がする」と話し、徐々に学校にも行けるようになりました。

彼の思考力や想像力は、なくなっていたわけではありません。特定の分野に集中していただけです。その力を、少しずつほかの分野に広げていけばいい。好きなことを取り上げるのではなく、好きなことを「心の入り口」として使うという発想です。

家庭でできる「キャラクター感情読み」

子どもが好きなアニメやドラマを一緒に見ながら、ときどき「この人、今どんな気持ちだと思う?」と聞いてみてください。答え合わせは必要ありません。フィクションですから、読み違えても誰も傷つきません。大人も「お母さんは、ちょっと悔しそうに見えたな」と自分の想像を話してみましょう。他者の気持ちを想像する力(メンタライゼーション)は、自分の気持ちに気づく力も育てます。

好きなことに夢中になれる力は、
感じる力が眠っていない証拠。
そこから、心の地図は広がっていく。

先生と学校ができること|相談先につなぐ目安

学校の先生は、子どもの「言葉にならないサイン」に最初に気づける立場にいます。担任の先生、養護教諭、スクールカウンセラーが、それぞれの場所から感情迷子さんの視点を持つだけで、子どもの居場所は大きく変わります。

教室・保健室でできる関わり

関わり1
「理由」より「今の状態」を聞く

家庭訪問や電話で「どうして来られないの?」と聞くかわりに、「最近、夜は眠れてる?」「朝はどんな感じ?」と、体と生活の状態を聞いてみてください。答えやすい質問は、子どもにとって「先生とつながっていていい」という合図になります。

関わり2
気持ちを選べる道具を用意する

オノマトペや表情イラストを並べたカード、「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で強さを選べる温度計シートなどを保健室や相談室に置いておくと、言葉が出ない子も指さしで伝えられます。感情語を教室に掲示するのも、クラス全体の「感情の語彙」を増やす助けになります。

関わり3
一人で抱えず、チームで見守る

担任一人で背負わず、学年の先生、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーと情報を共有してください。教育支援センター(適応指導教室)やフリースクールなど、学校以外の学びの場を保護者と一緒に検討することも、子どもの選択肢を広げます。

専門家や医療につなぐ目安

次のような様子が見られるときは、家庭や学校だけで抱えず、スクールカウンセラー、小児科、児童精神科・心療内科などの専門家に早めに相談してください。

  • 体の不調が長く続き、学校を休んでも改善しない
  • 眠れない、食べられない、または極端に食べすぎる状態が2週間以上続いている
  • 一日中ほとんど表情がなく、好きだったことにも反応しなくなった
  • 自分を傷つける行為や、「消えたい」「いなくなりたい」などの言葉がある
  • 家族の会話がほとんどなくなり、保護者自身も眠れないほど追いつめられている

とくに「消えたい」「死にたい」といった言葉は、つらさを伝えるSOSとして受けとめ、すぐに専門家へつないでください。24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)、チャイルドライン(0120-99-7777、18歳まで)など、子ども本人が使える相談窓口もあります。命の危険が迫っているときは、迷わず119番・110番へ。関わり方については「つらい」と言えない子どもを守る|感情の言語化と自殺予防のために大人ができることでくわしくお伝えしています。

また、不登校の背景にいじめが隠れていて、子どもが「大丈夫」と言って隠していることもあります。その見分け方と関わり方はいじめを「大丈夫」と隠す子どもたち|感情を言葉にできない心理と大人ができることをご覧ください。

保護者自身の感情も、置いてけぼりにしない

最後に、見落とされがちなことをお伝えします。子どもの不登校に向き合う保護者の方自身が、感情迷子さんになっていることがとても多いのです。「親が不安になってはいけない」「しっかりしなければ」と、自分の気持ちに蓋をしてしまう。

『感情迷子さんの本』に登場するマナミさん(仮名)は、仕事をしながらお子さんの中学受験に伴走し、自分の感情を完全に無視して頑張っていました。手帳の余白に一言だけ感情を書くようにしたところ、「イライラ」「焦りでグルグル」と書けるように。やがて「今日は疲れちゃったから、イライラしてごめんね」と家族に言えたとき、お子さんは「なんだ、機嫌が悪いのは私のせいかと思った」とほっとした顔を見せ、家の中に笑顔が増えたそうです。大人が自分の気持ちに名前をつける姿は、子どもにとって何よりのお手本になります。

よくあるご質問

「理由がわからない」と言うのは、本当は言いたくないだけではありませんか?
言いたくない気持ちが混ざっていることもあります。ただ、多くの場合は「言いたくない」と「言葉にできない」が重なっています。どちらであっても、問い詰めるほど言葉は遠ざかります。「言えるときがきたら聞かせてね」と伝え、体の様子や好きなことの話など、答えやすいところから関わってみてください。
ゲームばかりしているのですが、取り上げたほうがいいですか?
いきなり取り上げると、子どもは唯一の避難場所を失い、心をさらに閉ざしてしまうことがあります。生活リズムが大きく崩れている場合はルールづくりが必要ですが、同時に「どんなところが面白いの?」と関心を向けてみてください。好きなことの話は、感情を言葉にする練習の入り口になります。
アレキシサイミア傾向があると、不登校になりやすいのですか?
不登校の原因は一つではなく、友だち関係、学習、家庭、体調、発達の特性など、さまざまな要因が重なっています。アレキシサイミア傾向が「原因」と決めつけることはできません。ただ、つらさを言葉にしにくい子は、周りに気づかれないまま限界まで頑張ってしまいやすい、ということは言えます。
発達障害との関係が気になります。
自閉スペクトラム症(ASD)などの発達特性とアレキシサイミア傾向は重なることが多いと報告されていますが、別の概念です。「気持ちを言葉にしにくい」という表れが似ていても、背景や必要な支援は子どもによって違います。気になる場合は、スクールカウンセラーや専門の医療機関に相談してみてください。
親として、どこまで待てばいいのでしょうか?
「待つ」は「何もしない」ではありません。体の不調の確認、生活リズムの見守り、気持ちを置ける場所づくりなど、できることはたくさんあります。そして、保護者自身が一人で抱え込まないことが大切です。学校、スクールカウンセラー、地域の相談機関、医療など、親子を支える人を少しずつ増やしていってください。
「わからない」は、心の現在地。
理由を探すより、名前を一緒に探そう。
子どもの帰り道は、きっと見つかる。
感情は消えていない。迷子になっているだけ。
大人が「わかろうとする」ことが、いちばんの道しるべです。

自分を大切にしよう

不登校の子が口にする「理由がわからない」は、うそでも甘えでもなく、心の中のカタマリにまだ名前がついていないという、正直な現在地の報告であることが少なくありません。感情を見分けて言葉にすることが難しい「感情迷子さん」の状態にある子は、言葉のかわりに、朝の腹痛やだるさ、表情の乏しさ、ゲームへの没頭といったサインで気持ちを伝えています。

「わからない」の中身は、子どもによって違います。体から先に反応するタイプ、言葉にならないタイプ、理屈で気持ちを切り捨てるタイプ、未来を想像できないタイプ。どのタイプでも、大人にできることは共通しています。「なぜ?」と問い詰めるかわりに、体の感覚や色、オノマトペ、小さな「もしも」から、一緒に気持ちの名前を探すこと。そして、体の不調が続くときや「消えたい」といった言葉があるときは、ためらわず医療や専門家につなぐことです。

そして、子どもを支えるあなた自身の気持ちにも、どうか名前をつけてあげてください。不安、焦り、悲しみ、疲れ。それを感じるのは、あなたが子どもを大切に思っているからです。大人が自分の感情を大切にする姿は、子どもにとって「感じていいんだ」という何よりのメッセージになります。自分を大切にしよう。その安心感が、子どもの帰り道を照らす灯りになります。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • 文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • Katan, A. (1961). Some thoughts about the role of verbalization in early childhood. The Psychoanalytic Study of the Child, 16.
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5).
  • Fonagy, P. et al. (2002). Affect Regulation, Mentalization, and the Development of the Self. Other Press.
  • Bagby, R.M., Parker, J.D.A., & Taylor, G.J. (1994). The twenty-item Toronto Alexithymia Scale (TAS-20).
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

無断転載禁止
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP