ご近所・地域の人間関係に疲れる理由|感情を言葉にできない大人のつながり直し

ご近所・地域の人間関係に疲れる理由|感情を言葉にできない大人のつながり直し

ご近所・地域の人間関係に疲れる理由
感情を言葉にできない大人のつながり直し

回覧板を回すだけで気が重い。PTAの役を頼まれると、断れずに「大丈夫です」と言ってしまう。ご近所の何気ない一言が、夜まで胸に残る。もし思い当たるなら、それはあなたの人づきあいが下手だからではなく、地域の中で飲み込んできた感情が、まだ言葉になっていないからかもしれません。町内会・PTA・民生委員など地域に関わる大人に向けて、感情の面から「つながり直し」のヒントをお伝えします。

中島 輝(中島輝)
心理カウンセラー/自己肯定感アカデミー会長/「6つの感」理論創始者/著書累計77万部/15,000人臨床/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ・累計32刷)『働く人のための自己肯定感』著者

地域の人間関係が「なんだか疲れる」のはなぜか

よくある相談の典型例
「別に嫌なことがあったわけじゃないんです。
でも、集まりのあとはぐったりして」
場面40代女性。小学校のPTAで広報委員、地元の町内会では班長。会合では笑顔で引き受け、帰宅すると何もする気が起きない。「どんな気持ちでしたか?」と聞くと、少し考えてから「……よくわかりません。みんな頑張っているので、私もやらなきゃ、とは思いました」。
この方は人づきあいが苦手なわけではありません。むしろ、場の空気を読み、波風を立てないように自分の気持ちを後回しにすることが上手すぎたのです。言葉にされなかった「本当は荷が重い」「少し不公平だと感じる」という気持ちが、ぐったりした疲れとして体に出ていました。

地域の人間関係には、職場や友人関係とは違う、独特の難しさがあります。私はそれを、次の3つの特徴で説明することが多いです。

地域の関係の特徴感情に起きやすいこと
選べない関係
隣に誰が住むかは選べない
「合わない」と感じても、それを認めると暮らしにくくなるので、感じないようにしてしまう
長く続く関係
引っ越さない限り終わらない
一度ぶつかると何年も気まずい。だから小さな不満を飲み込み続け、モヤモヤが積み重なる
役割で結ばれた関係
班長・役員・当番など
「役だから」「順番だから」が優先され、「やりたくない」「不安だ」という気持ちを言う場がない

つまり地域は、構造的に「感情を飲み込んだほうが、その場はうまくいく」場所なのです。飲み込むこと自体は、大人の知恵でもあります。ただ、それを何年も繰り返すうちに、心は「これ以上傷つかないように」と感情のスイッチを少しずつ弱めていきます。その結果、何が嫌なのかもわからないまま、ただ「疲れる」という感覚だけが残るのです。

地域で疲れてしまうのは、
あなたが弱いからではない。
言葉にならなかった気持ちが、疲れとして残っているだけ。

感情迷子さんとは|地域で見えにくい「気持ちの迷子」

自分の感情に気づき、見分け、言葉にすることが難しい状態を、心理学ではアレキシサイミア(失感情症)と呼びます。「感情がない」のではありません。感情は確かに生まれているのに、それをつかまえて名前をつけるところで迷ってしまう状態です。研究によって幅はありますが、一般の人の約10〜16%、およそ10人に1人に強い傾向が見られるとされ、病名ではなく誰もが持つ特性の濃淡だと考えられています。基本的な特徴や原因については、アレキシサイミア(失感情症)とは|感情に名前がつけられない人の特徴・原因・回復のヒントで詳しく解説しています。

私の近刊『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』では、この状態を親しみを込めて「感情迷子さん」と呼んでいます。感情をうまく認識・表現しにくくなっている状態のことです。迷子は、能力がないから迷子になるわけではありません。そして、迷子という言葉には、帰る場所があるという前提が含まれています。

約10人に1人
アレキシサイミア傾向が強いとされる人の割合(研究により約10〜16%)
町内会の班が10世帯なら、1世帯に1人くらいいても不思議ではない
出典:TAS-20等を用いた複数の疫学研究疫学データ

地域の中で、感情迷子さんはとても見えにくい存在です。会合では穏やかで、頼まれたことはきちんとこなし、「しっかりした人」「感じのいい人」と思われていることも少なくありません。周りの期待に応え、空気を読み、一生懸命に生きてきた「やさしい頑張り屋さん」であることの裏返しでもあるのです。だからこそ、本人も周りも、その人が限界に近づいていることに気づきにくいのです。

中島輝より一言

私は子どもの頃、異常なほど周りに気を遣う「いい子」でした。本当は苦しいし、怒ってもいたのに、無表情でやり過ごしていたので、周囲は私の感情に気づかなかったと思います。地域の集まりで、いつもにこやかに場を回している方を見ると、私はつい「この方は、自分の気持ちを話せる場所を持っているだろうか」と思ってしまいます。にこやかさは、ときに心の鎧でもあるのです。

町内会・PTA・ご近所づきあいでよくある5つの場面

ここでは、地域で暮らす方からよく聞く場面を5つ取り上げます。どれも特定の誰かの話ではなく、多くの方に共通する「よくある典型例」です。それぞれの場面で、どんな感情が言葉にならずに残りやすいかを見てみましょう。

場面1|役員決め
PTAや町内会の役を断れない

くじ引きや推薦で役が回ってきたとき、「仕事も介護もあって正直きつい」と思っていても、口から出るのは「大丈夫です」。言葉にならなかったのは、不安・負担感・「なぜ私ばかり」という不公平感です。引き受けたあと、会合の前日になると頭痛や胃の重さが出る、という方も少なくありません。

場面2|生活音・ゴミ出し
ご近所トラブルを我慢し続ける

夜の足音、ゴミの出し方、駐車の位置。直接言うのは角が立つので我慢していると、ある日小さなきっかけで自分でも驚くほどの怒りが噴き出すことがあります。その怒りは、その日の出来事ではなく、何か月も言葉にならなかった「困っている」「わかってほしい」の積み重ねです。

場面3|移住・転居
新しく来た人と、昔からの住民

移住してきた人は「よそ者扱いされている気がする」と感じ、昔からの住民は「この町のやり方を軽く見られている気がする」と感じる。どちらも本当はさみしさや戸惑い、居場所への不安を抱えているのに、表に出るのは「ルールを守ってほしい」「古いやり方は非効率だ」という事実や正論の言葉です。

場面4|高齢の親
実家の親と「近所の目」

離れて暮らす高齢の親について、近所の方から「最近お母さん、ゴミの日を間違えるのよ」と言われる。ありがたいはずなのに、恥ずかしさ・申し訳なさ・心配・責められたような痛みが一度に押し寄せ、「すみません、言っておきます」としか言えない。親の側も「迷惑をかけたくない」と困りごとを口にしないことがあります。

場面5|グループLINE・SNS
文字だけのやりとりで傷つく

PTAや自治会の連絡がグループLINEになり、短い文字のやりとりが増えました。表情や声のトーンがない文字は、受け取る側の不安によって何倍にも冷たく読めるものです。既読の数、返信の早さ、スタンプの有無。言葉にしない小さな傷つきが、通知のたびに積み重なっていきます。

5つの場面に共通するのは、口に出る言葉と、心の中の感情がずれていることです。そして、そのずれは本人にもはっきりとは自覚されていないことが多いのです。

4タイプの感情迷子さんは、地域でこう見える

感情迷子さんには4つのタイプがあります。タイプによって、地域での見え方も、周りからの誤解のされ方も違います。ご自身や、気になる方を思い浮かべながら読んでみてください。

タイプ地域での姿周りの誤解届きやすい声かけ
タイプ1
感情がわからない
役を黙々とこなし、気づくと体調を崩している。「疲れた」とは言うが、何がつらいのかは本人もわからない「何でも引き受けてくれる人」「最近、眠れてますか?」と体のことから聞く
タイプ2
感情を説明できない
モヤモヤはあるのに、会合で意見を求められると「特にありません」。帰り道に言いたかったことが浮かぶ「意見のない人」「何を考えているかわからない」「うまく言えなくていいですよ。モヤっとした感じでも」と不完全な言葉を歓迎する
タイプ3
感情に興味がない
段取りや規約に強く、トラブルにはすぐ解決策を出す。相談した人が「わかってもらえない」と感じることも「冷たい」「理屈っぽい」「その段取り、助かります。みんな少し不安みたいで」と人の気持ちの情報を添える
タイプ4
想像できない
「前例どおりで」が口ぐせ。新しい行事や町の将来の話になると黙ってしまう「やる気がない」「保守的」「もし予算も手間も気にしなくていいなら?」と小さな「もしも」で誘う

タイプ1|秘書のエミコさんと「地域の便利屋さん」

書籍に登場するエミコさん(仮名・30代)は、怒りっぽい社長と周囲の間に立ち、いつも笑顔で調整役を務めていた秘書でした。原因不明の激しいめまいで相談に来られ、「そのとき、どう感じたのですか?」と聞くと首をかしげて黙ってしまいます。ところが体の反応を聞くと、「……胃がキュッとしたような感じがしました」。地域にも、エミコさんとよく似た方がいます。板挟みの調整役を引き受け続け、感情より先に体が悲鳴を上げるタイプです。このタイプの方には、気持ちより先に体のことを聞くほうが、ずっと答えやすいのです。

タイプ3|「正論の人」は、実は困っている

自治会の会計や防災の担当に多いのが、タイプ3の方です。問題を整理する力は抜群なのに、相談に来た人は「わかってもらえなかった」と感じて帰ってしまう。本人は本人で「せっかく解決策を出したのに伝わらない」というストレスを抱えています。解決策は、安心した状態でなければ相手の心に届きません。このタイプの方は、能力が高いぶん、最初の一言に共感を足すだけで、驚くほど周りとの関係が変わります。

無口な人も、理屈っぽい人も、
前例にこだわる人も、
心の中では、ちゃんと何かを感じている。

ご近所トラブルが「こじれる」仕組み|感情が言葉になる前に行動に出る

ご近所トラブルの多くは、最初はとても小さな出来事です。それが何年もの確執になってしまうのは、感情が言葉にならないまま、事実と行動だけでやりとりが続くからです。

ご近所トラブルがこじれる流れ・ほどける流れ 小さな出来事 夜の物音・ゴミの出し方 感情が生まれる 困る・不安・軽く見られた 言葉にならないと…(こじれる) ① 我慢する → モヤモヤが溜まる(未完了の感情) ② 体に出る → 眠れない・胃が重い・物音に過敏 ③ 行動に出る → 張り紙・無視・強い口調 ④ 相手は「攻撃された」と受けとる ⑤ 事実と正論の応酬 → 何年も続く気まずさ 言葉にできると…(ほどける) ① 自分の中で名前をつける 「私、そこそこ困ってるんだな」 ② 出来事+感情で伝える 「夜の音で目が覚めて、少し困っていて」 ③ 相手も感情で返しやすくなる 「気づかなくて、申し訳なかったです」 ④ 解決策はそのあとで 「22時以降は気をつけますね」 感情が先、解決策はあと
▲ 言葉にならなかった感情は、体の不調や「張り紙」「無視」などの行動として出てきやすくなります。自分の中で感情に名前をつけ、出来事と感情をセットで伝えると、相手も防御せずに受けとりやすくなります。

言葉にならない感情は「未完了のタスク」として残る

やり終えたことより、途中で中断したことのほうが記憶に残りやすい。心理学ではこれをツァイガルニク効果と呼びます。言葉にならなかった感情も同じで、脳の中で「未完了のタスク」として残り続けます。だから、何か月も前の一言が、夜になるとよみがえってくるのです。次の小さな出来事がやってきたとき、前の感情がまだ片付いていないので、心の中はどんどん渋滞していきます。そして、ある日の「ほんのささいなこと」で、渋滞が一気にあふれ出すのです。

「事実だけ」で話すと、かえって角が立つ

トラブルのとき、私たちは感情を出すと角が立つと思い、事実だけを伝えようとします。「規約では21時以降は静かにすることになっています」。けれど、受けとる側にとって、感情の見えない事実は「責められている」と感じやすいのです。逆説的ですが、「夜中に目が覚めてしまって、少し困っていて」と自分の状態を添えたほうが、相手は身構えずに話を聞けます。

感情→思考→行動→結果
『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』より

行動の根っこには、いつも感情があります。感情を無視して行動だけを変えようとすると、「理屈はわかっているのに、なぜかうまくいかない」ことが起きます。ご近所との関係も同じです。張り紙の文面を整えるより先に、自分が何に困っているのかに名前をつける。そこから関係は変わり始めます。

地域活動で使える「気持ちを添える」ひと言集

感情を言葉にするといっても、ご近所の前で心の内をさらけ出す必要はまったくありません。大切なのは、事実や用件にほんの少し気持ちを添えることです。書籍でも「感情と思考は切り分けずに伝えてみてください」とお伝えしています。地域の場面に置きかえると、たとえばこんな言い換えができます。

場面言いがちな言葉気持ちを添えた言葉
役を頼まれたとき「大丈夫です、やります」「やってみたい気持ちはあるのですが、介護もあって少し不安です。会計以外なら引き受けられそうです」
ご近所への相談「規約で決まっていますので」「夜に目が覚めてしまって、そこそこ困っていて。ご相談できたらと思って」
会合で意見を聞かれて「特にありません」「うまく言えないんですが、少しモヤっとしているところがあって。また整理してお伝えしてもいいですか」
高齢の親のことを言われて「すみません、言っておきます」「教えてくださってありがたいです。実は私も心配していたところで」
役員どうしのLINE「了解です」「了解です。準備ありがとうございます、ほっとしました」
苦情を受けたとき「それは規約上…」「それは困りましたよね。まず状況を教えてください」(解決策はそのあと)

ポイントは、感情の言葉は正確でなくていいということです。「少し」「そこそこ」「うまく言えないけど」といったクッションの言葉は、感情迷子さんにとって大きな助けになります。心の中は誰にも見えませんから、その言葉が正確かどうかを判断できる人はいません。とりあえず近そうな言葉にしてみるだけで、渋滞していた気持ちは流れ始めます。

中島輝より一言

40代の管理職タカシさん(仮名)は、「感情はノイズだ」と思って生きてきた方でした。半年ほどワークを続けたある日、「部下が落ち込んでいるとき、つらかったね、と言えるようになりました。それだけで表情が変わるんですね」と話してくれました。共感の一言は、職場でも地域でも同じように効きます。苦情の電話を受ける自治会長さんほど、最初の一言に「それは困りましたね」を足してみてほしいのです。

地域で暮らす大人のための5つのミニワーク

書籍の第4章では、4タイプそれぞれに合ったワークを紹介しています。どれも1〜2分(長くても5分)でできるものばかりです。ここでは、その中から地域の場面に合わせてアレンジしたものを5つ選びました。自分のタイプに当てはまらなくても、すべての感情迷子さんに効果があります。

ワーク1|心の体温チェック(3秒)
会合や当番の前に、胸に手を当てる

集会所に入る前、回覧板を持って玄関を出る前に、手のひらを胸に当てて「今、自分の体は温かい? 冷たい?」と3秒だけ聞きます。「冷たい」「よくわからない」でもかまいません。緊張や不安があると体温は下がりやすく、強いストレスでは胸がドキドキします。体のほうから心をチェックする習慣が、タイプ1の方の感情の入り口になります。

ワーク2|今日のオノマトペ(30秒)
集まりのあと、帰り道に一言メモ

会合や行事のあと、スマホのメモに今の気分をオノマトペで書きます。「役員会、ずっしり」「夏祭りの片付け、ほわほわ」「LINEの既読、ソワソワ」。正確な感情語でなくても、名前のなかった不快感に輪郭が与えられ、脳の中で感情が整理されます。きっかけの出来事も一緒にメモすると、「自分はどんな場面で疲れやすいか」のパターンが見えてきます。

ワーク3|3段階温度計(1分)
ご近所へのモヤモヤに強さをつける

気になることがあったら、「ちょっと・そこそこ・すごく」の3段階で強さを選びます。「隣の駐車、ちょっとモヤモヤ」「班長の負担、すごく重い」。強さがわかると、「これは自分の中で流していい」「これは誰かに相談したほうがいい」という判断がしやすくなります。感情を細かく区別できる人ほど、ネガティブな感情からの回復が早いという研究もあります。

ワーク4|5秒ルール+共感の一言(35秒)
苦情や相談を受けたら、5秒待つ

自治会長、民生委員、PTA役員など、相談を受ける立場の方へ。解決策が浮かんでも、5秒だけ待って「この人は今、何を感じている?」と心の中で問いかけます。答えはわからなくていいのです。そのうえで「それは不安でしたね」「大変でしたね」と共感の一言を先に出し、正論はそのあとに。タイプ3の方にとくにおすすめです。

ワーク5|もしもタイム(1分)
「もし、この町で1日好きに過ごせたら?」

役員会の雑談や家族との会話で、小さな「もしも」を考えて遊びます。「もし予算も人手も気にしなくていいなら、どんな行事をしたい?」「もしこの商店街に1軒お店を出せるなら?」。現実的な答えに戻ってしまっても大丈夫です。安全な「もしも」から想像の回路を試運転することが、タイプ4の方にとって、町の未来を思い描く力の準備になります。

地域の集まりは、感情の練習場にもなる。
3秒の体温チェック、30秒のオノマトペ。
小さな一歩で十分です。

安心して感情を出せる地域の場をつくる

感情迷子さんが感情を取り戻していくとき、何よりの助けになるのは「ここでは何を感じてもいいし、うまく言えなくてもいい」と思える場所です。家庭や職場だけでなく、地域にもそういう場所があれば、どれほど心強いでしょう。町内会、PTA、子ども会、サロン活動。役割で結ばれた集まりも、少しの工夫で安心の場に変わります。

安心して気持ちを出せる地域の場|3つの層 外側:仕組み 役割の見える化・「できない」を言える選択肢・交代制 中間:ふるまい 共感の一言を先に・途中の言葉を歓迎・否定しない 中心:安心感 何を感じてもいい うまく言えなくていい 外側の仕組みが、中心の安心感を守る
▲ 安心の場は、気合いや人柄だけではつくれません。「できない」と言える仕組み(外側)、共感から始めるふるまい(中間)があってはじめて、「何を感じてもいい」という安心感(中心)が守られます。

仕組み|「できない」と言える選択肢を用意する

役員決めで「できません」と言うには、とても大きなエネルギーが要ります。感情迷子さんにとってはなおさらです。だからこそ、仕組みの側で「できる・条件つきでできる・今年は難しい」の3択を用意しておくと、気持ちを言葉にするハードルがぐっと下がります。仕事の内容と量を一覧にして見える化する、1年交代ではなく半年交代や2人1組にする、といった工夫も、「何が負担なのかわからないまま引き受ける」ことを防ぎます。

ふるまい|会合の最初に「今日の天気」を聞く

会合の冒頭に1分だけ、「今の気分をお天気でたとえると?」と一人ひと言ずつ聞くチェックインを取り入れてみてください。「くもり時々晴れ」「ちょっと小雨」。理由は言わなくていいことにします。感情語は難しくても、天気なら答えやすいものです。これは書籍の「比喩レッスン」の応用で、たとえようとすること自体が感情を言葉にするトレーニングになります。「今日は小雨です」と言った人には、少し声をかけやすくもなります。

ふるまい|「途中の言葉」を歓迎する

「うまく言えないんですけど」「まとまっていないんですが」と話し始めた人に、「大丈夫ですよ、そのままどうぞ」と返す。意見が出なかったときに「特にない、で大丈夫です。あとから思いついたらLINEでも」と逃げ道をつくる。タイプ2の方は、こうした小さな受け止めがあってはじめて、不完全な言葉を口にできるようになります。

民生委員・見守り活動の方へ

見守りや訪問の場面では、「何か困っていることはありませんか?」と聞いても「大丈夫です」が返ってくることがほとんどです。感情迷子さんにとって「困っていること」は、とても答えにくい質問だからです。そんなときは、「最近、よく眠れていますか?」「食事はおいしく食べられていますか?」と体のことから聞いてみてください。気持ちは言えなくても、体のことなら答えられる方は多いのです。地域の孤立という面からは、「さみしい」と言えない大人たち|孤独・孤立とアレキシサイミアの深い関係もあわせて読んでみてください。

  • 役や当番について「できる・条件つき・今年は難しい」を選べる
  • 仕事の内容と量が一覧で見える
  • 会合の最初に、ひと言ずつ気分を話す時間がある(理由は不要)
  • 意見が出なくても責めない。あとから伝える方法がある
  • 相談や苦情には、まず共感の一言から入る
  • グループLINEでは、用件に「ありがとう」「助かります」を添える
  • 新しく来た人に、役割より先に「よく来てくださいました」を伝える

地域は「自己有用感」を育てる場所でもある

自己肯定感を木にたとえると、根が自尊心≒自己存在感、幹が自己受容感、枝が自己効力感、葉が自己信頼感、花が自己決定感、そして実が自己有用感(自分は誰かの役に立っているという感覚)です。地域の活動は、本来この「実」を実らせてくれるものです。ただし、感情を飲み込んで役を引き受けるだけでは、実はなかなか甘くなりません。「やってよかった」「ありがとうと言われてうれしかった」という感情を味わえてはじめて、役に立った経験が自分の栄養になるのです。だから、地域の活動で「うれしい」「ほっとした」をお互いに言葉にし合うことは、決して無駄なおしゃべりではありません。

よくあるご質問

近所づきあいがしんどいのは、私の性格の問題でしょうか?
性格の問題と決めつける必要はありません。地域の関係は「選べない・長く続く・役割で結ばれた」関係なので、誰にとっても感情を飲み込みやすい構造があります。疲れやすさは、あなたがそれだけ周りに気を配ってきた証でもあります。まずは「今日はずっしり」と、疲れに名前をつけるところから始めてみてください。
役員会でいつも黙ってしまう方がいます。どう関わればいいですか?
意見を求める前に「うまくまとまっていなくて大丈夫ですよ」と前置きしたり、その場で言えなくても後から伝えられる方法(メモやLINE)を用意したりするのがおすすめです。黙っているのは意見がないからではなく、言葉を慎重に選ぼうとしすぎているからかもしれません。
ご近所トラブルで相手に気持ちを伝えると、かえって感情的だと思われませんか?
感情的にぶつけることと、感情を言葉で添えることは違います。「夜に目が覚めてしまって、少し困っています」のように、出来事と自分の状態を落ち着いて伝えるのは、相手を責めない伝え方です。強い怒りを感じているときは、3段階温度計で強さを確かめ、少し落ち着いてから伝えると安心です。
高齢の親が近所で孤立していないか心配です。何から始めればいいですか?
電話や帰省のとき、「さみしくない?」と聞くより、「最近よく眠れてる?」「ご飯おいしい?」と体や暮らしのことから聞いてみてください。気持ちは言えなくても、体のことなら答えやすいものです。必要に応じて地域包括支援センターや民生委員の方とつながっておくことも、親御さんとあなた自身の安心につながります。
感情迷子さんかもしれないと思ったら、病院に行くべきですか?
アレキシサイミアは病名ではなく、誰もが持つ特性の濃淡です。日常のワークで少しずつ変わっていくことが多いので、まずはできることから試してみてください。ただし、眠れない・食べられない・体の不調が続くといった状態があるときは、医療機関や専門家に相談することをおすすめします。
地域で疲れてしまうのは、
あなたが周りを大切にしてきたから。
今度は、自分の気持ちにも「ひと言」を。
感情は、安心できる関わりの中で、
何歳からでも言葉になっていきます。

自分を大切にしよう

ご近所や地域の人間関係に疲れてしまうのは、地域が「選べない・長く続く・役割で結ばれた」関係であり、感情を飲み込んだほうがその場はうまくいく構造を持っているからです。役を断れない、トラブルを我慢し続ける、移住者と昔からの住民がすれ違う、高齢の親をめぐる近所の目、文字だけのグループLINE。どの場面でも、口に出る言葉と心の中の感情がずれたまま、疲れだけが残っていきます。

感情を言葉にしにくい「感情迷子さん」は、およそ10人に1人。地域では「しっかりした人」「何でも引き受けてくれる人」に見えやすく、本人も周りも限界に気づきにくい存在です。けれど、体のことから聞く、不完全な言葉を歓迎する、共感の一言を先に出す、小さな「もしも」で誘う。そんな関わりがあれば、4つのどのタイプの方も、少しずつ自分の気持ちを言葉にしていけます。会合の最初の「今日の天気」、「できない」と言える仕組み。安心して感情を出せる場は、特別な人でなくてもつくることができます。

そして何より、あなた自身の気持ちを大切にしてください。回覧板を持つ前の3秒の体温チェック、帰り道の30秒のオノマトペ。「今日はずっしり」と言えたあなたは、もう自分の内側に目を向けています。迷子には、帰る場所があります。自分を大切にしよう。あなたが自分の気持ちを大切にできたとき、地域のつながりも、もっとやわらかく、あたたかいものになっていくはずです。

本記事の参考資料・科学的根拠

  • Taylor, G.J., Bagby, R.M., & Parker, J.D.A. (1997). Disorders of Affect Regulation: Alexithymia in Medical and Psychiatric Illness. Cambridge University Press.(邦訳『アレキシサイミア―感情制御の障害と精神・身体疾患』星和書店)
  • A.N.シン「心身症とアレキシサイミア(失感情症)」永田勝太郎ほか訳、『心身症の診断と治療』所収
  • Sifneos, P.E. (1973). The prevalence of ‘alexithymic’ characteristics in psychosomatic patients. Psychotherapy and Psychosomatics.
  • Nemiah, J.C., & Sifneos, P.E. (1970). Affect and fantasy in patients with psychosomatic disorders.
  • Lane, R.D., & Schwartz, G.E. (1987). Levels of emotional awareness. American Journal of Psychiatry, 144, 133-143.
  • Bagby, R.M., Parker, J.D.A., & Taylor, G.J. (1994). The twenty-item Toronto Alexithymia Scale (TAS-20).
  • Preece, D. et al. (2017). The attention-appraisal model of alexithymia.
  • Krystal, H. (1988). Integration and Self-Healing: Affect, Trauma, Alexithymia. Analytic Press.
  • ソン・ウォンピョン『アーモンド』(矢島暁子訳、祥伝社)
  • 中島輝・自己肯定感アカデミー「アレキシサイミア 感情の鈍麻:失感情」講座資料
  • 中島輝『感情を言語化すれば人生はうまくいく 感情迷子さんの本』(近刊)
  • Lieberman, M.D. et al. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18, 421-428.
  • Kashdan, T.B., Barrett, L.F., & McKnight, P.E. (2015). Unpacking emotion differentiation. Current Directions in Psychological Science.
  • Fonagy, P. et al. (2002). Affect Regulation, Mentalization, and the Development of the Self. Other Press.
監修|中島 輝
心理カウンセラー・自己肯定感アカデミー会長・「6つの感」理論創始者
著書累計77万部・15,000人臨床・回復率95%
本記事は心理学的知見に基づく一般情報です。医学的診断や治療の代わりにはなりません。心身に不調を感じる場合は、医療機関・専門家へのご相談をおすすめします。

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