長い自粛生活によりコロナ太りに悩まされている人もいるかもしれませんが、心理カウンセラーの中島輝氏は、その原因は単なる運動不足ではないと指摘します。『1分自己肯定感 一瞬でメンタルが強くなる33のメソッド』の著書である中島氏がその原因を分析するとともに、コロナ太り解消のための食事術をご紹介します。
目次
自己肯定感は生きるエネルギーの源泉
コロナ禍が続く中、外での活動を長く制限される人が多くなっています。マイナスな情報の氾濫に影響され、ネガティブな感情に傾きがちな人も少なくありません。
こうしたとき、私たちは身近にあるポジティブなことを探していきます。さまざまなものがありますが、その代表例として「食べる」という根源的な欲求を満たす行動に移ることが挙げられます。
自己肯定感が低下すると、何もしたくなくなることがあります。そんな中、自分の心を満たそうとし、食べる機会が増えたりするのです。
こんな経験はありませんか?
イライラしているときに食べると落ち着いた、落ち込んでいるときに食べると機嫌がよくなった。これを、心理学ではエモーショナル・イーティング(感情の摂食)と呼び、ネガティブな感情をポジティブに満たすための欲求なのです。
コロナ禍において、ネガティブな情報を見る・聞く、孤独になりがちで将来が心配になる、先の見えない経済状況で未来のお金の心配をする、そうすると、人間はストレスを強く感じやすくなります。
ストレスを感じると体内では、ストレスホルモンとも言われているコルチゾールが放出されます。また、コルチゾールはタンパク質や炭水化物、脂肪代謝の調節をしてくれる大切なホルモンです。そして、コルチゾールが過剰放出されると、甘いもの・辛いもの・揚げものなどが無性に欲しくなります。これらの食べ物には脳が幸せだと感じるドーパミンやエンドルフィンを分泌させる働きがありストレスを和らげてくれるのです。
いかがですか? 自己肯定感が低下するとネガティブな感情や思考になりストレスを感じ、それを補うために私たちは食べてしまう。さらに移動制限を強いられるコロナ禍は太りがちになるのです。
そもそも自己肯定感とは、「6つの感」によって支えられています。すなわち「自尊感情」「自己受容感」「自己効力感」「自己信頼感」「自己決定感」「自己有用感」です。それぞれの「感」が相互に作用し合うことで、自己肯定感は高くもなり低くもなります。
コロナ太りになっている人は、もしかしたら「自己決定感」に問題があるかもしれません。自己決定感とは、自分で決定できるという感覚です。私たちの日常は選択の連続ですが、「私が決めた」という「人生を自分でコントロールできている感覚」と幸福度とが比例することは、数多の心理学の研究で指摘されています。ところがコロナ禍という特殊な環境では、自分でコントロールできないことが多々発生します。自己決定感が低下するのは無理からぬことです。
「自己有用感」もコロナ禍の影響を受けやすい要素です。自己有用感とは、自分が何かの役に立っているという感覚です。周囲の人や社会とのつながりの中で自分が役立っていると感じられることで、人は承認欲求が満たされます。コロナ禍で人や社会とのつながりが絶たれてしまっては、自己有用感が得られないのは当然です。
そして危険なのは、自分を信じられる感覚である「自己信頼感」の欠如です。自己信頼感が揺れてしまうと、悲観的なフィルターを使って自分や世の中を見るようになっていき、ネガティブな感情がさらに強くなってしまいます。
私たちは、ネガティブとポジティブの間を行ったり来たりしながら生きています。うまくいっている人は、自分をフラットな状態に持っていき、感情を上手にコントロールする方法を知っているのです。
では、どうすれば自己肯定感を高めることができるのでしょうか。まず大事なのは、自己肯定感が下がっている自分に気づくことです。
メンタルに変調をきたしているときは食生活も乱れがちですが、栄養が偏った食事ばかりだと太るだけでなく、メンタルのバランスはますます崩れるという悪循環に陥ってしまいます。自分の心の状態に気づくことさえできれば、自己肯定感はちょっとの努力で高めることができます。
そこで今回は、自己肯定感アップにもダイエットにも効く最適な食事術をご紹介しましょう。
「地中海食」と「食事日記」でコロナ太りを解消
心臓や血管の細胞をつくるのも、思考や感情をつかさどっている脳の働きを支えるのも、自分が口にする食事です。例えば塩分や動物性脂肪の多い食事は血管に悪影響を及ぼしますし、ブドウ糖は脳のエネルギー源となるように、食べ物から得る栄養は体やメンタルに強い影響を与えます。
こうした観点から、「体やメンタルを喜ばせる食事」として世界的に効果が証明されている「地中海食」があります。主にギリシャや南イタリアなど地中海沿岸地域で取られているメニューですが、下記の特徴があります。
◎野菜を多く取る
◎脂肪分は、オリーブオイルなどの良質なものから摂取する(動物性の油やサラダ油は控えめ)
◎タンパク質は、魚介類を中心に摂取する
◎チーズやヨーグルトを摂取する
◎肉類は鶏肉が多めで、牛肉や豚肉といった赤身肉はごく少量
毎食を地中海食にすることは難しいですし、その必要はありません。ジャンクフードを食べたくなることもあるでしょうし、その気持ちは無理に抑え込まず、食べたいものを食べてください。ただし回数を減らし、多くても週1回にしましょう。
ここで、実際に私が「自己肯定感ダイエット」と呼んでいる、メンタルの改善で15キロの減量に成功した患者のカウンセリング事例をご紹介します。
32才会社員のS.Tさんは、本社の営業に配属されて1年、接待が月に5、6回あり、1年で5キロ体重が増えました。太りやすいという自覚もあったため、毎週末は仲間とフットサルで2時間汗を流すなどして、5キロの体重増を維持していました。
あるとき、仕事の成果を思うように上げられず、プライベートもうまくいかなくなったことをきっかけに、自暴自棄となりました。仲間と会うのを避けるようになり、家にこもって動画を見つつ、お菓子やピザを食べる週末を10カ月間も過ごすことに。こうして、さらに10キロも体重が増えてしまったのです。
こうした中で、筆者のところに相談しに訪れてくれました。
そこで、筆者がアドバイスしたのは、未来の自分を見据えて、どんな希望があるかワクワクした未来を想像してもらうことでした。ポイントは、それを実現するために、今の体重や食習慣でいいのかを確認してもらい、ベストな体重も考えてもらうことです。
食事を書き出す「習慣」でダイエット成功
彼が掲げた自分の理想の目標実現は、今よりも15キロ減の、元の姿に戻ることでした。体重管理の大切さを認識させたうえで、次に食習慣を見直します。そこで、地中海食を週6日、1日は思いっきり自由なものを食べていい日を設けて、毎日の食べたもの、時間、カロリーを書いて記録してもらいました。『1分自己肯定感 一瞬でメンタルが強くなる33のメソッド』(マガジンハウス)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
書くことは自己肯定感の改善に非常に有益で、感情浄化作用があります。筆記療法もあるように、うつ症状の軽減にも役立つという数多くの心理学エビデンスがあります。
2つ目は、「新しい食習慣の習慣化に役立つ」ということ。私たちの人生の40%は習慣で成り立っているといわれます。習慣化は無意識的な行動までにもっていくことですから、書くことを意識すれば可視化でき、書いて記録することで、習慣の反発期もなんなく乗り越えて新しい食習慣を手に入れることができます。「レコーディングダイエット」とも言われ、数多くの人がこの方法でダイエットを成功しています。
彼には、その他にもつらいときには乗り越えたときの楽しいことを計画してもらうということも行ってもらった結果、特別な運動をするでもなく、半年で15キロ減となったのです。2年経過した今も彼は体重維持ができ、さらにプライベートも大きく好転したと、報告を受けました。
こうした自分なりの節制を実現するために、日々食べたものについて「食事日記」をつけることをおすすめします。メニューをノートにパッと1分で書き残す、あるいはスマホで写真に撮るだけでもOKです。週1回ペースでこの食事日記を見返し、何を食べた後に心身のコンディションがよかったかを把握しましょう。
上記を中心とした食事を1カ月ほど続けると、一定のパターンがわかり、自分に合った食習慣が見えてくるはずです。それを続けていけば達成感が生まれ、自然と自己肯定感が向上しますし、コロナ太りも改善するかもしれません。ぜひ皆さんも取り組んでみてください。
2021-04-03 東洋経済オンラインに掲載された記事を加筆修正したものです。
自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。
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