自身の引きこもり経験克服を機に独自のコーチングメソッドを開発し、多数の企業経営者、アスリートなどのカウンセリングを務める中島輝氏。ベストセラー『自己肯定感の教科書』の著者であり、“自己肯定感の第一人者”として注目を集める人気カウンセラーが、社会で生き抜くために必要な実践的な技術を連載形式でお届けする。
目次
自分にダメ出しをする人間は他人にもダメ出しをする
実際にわたしの研修を受けてもらい、成果をあげた組織も数多くあります。ある研究所の例を紹介しましょう。その研究所のプロジェクトチームは、個々の能力だけを見ればとても優秀な人材が集まった組織なのですが、メンバーの半数以上が軽いうつ状態になってしまったというのです。そこでわたしに相談が寄せられたわけですが、実際にそのプロジェクトチームの内情をヒアリングして分析していくと、あまりに人間関係がギスギスしていて、みんな誰を信じていいのかわからなくなっているといった状況でした。
そこでわたしは考え、メンバーに向かって「『すべてがうまくいくわけがない』ということを前提としましょう」と伝えました。なぜなら、そのチームのメンバーの多くが、優秀であるがゆえに「すべてうまくいかないとダメだ! こんなことではダメなんだ!」と考える完璧主義者の集まりだったからです。
完璧を目指すことは素晴らしいことですよね。でも、完璧を目指すということは、自分に対しても他人に対しても、「どこかに完璧じゃない部分はないか?」と粗探しをすることにもつながっていきます。自分にダメ出しをする人間は、結局のところ自分のことすら認められません。つまり、自己肯定感が低い人間です。そして、同じように他人にもダメ出しをするのですからメンバーと協力することもできず、チームとして最大限の成果を出すことは難しくなります。
でも、「すべてがうまくいくわけがない」ことを前提とすれば、自分や他人のミスを認められるようになり、確実に協力体制が生まれていきます。そうして、自己肯定感も徐々に高まっていく感じを受けました。その考え方がチームに浸透するには半年かりましたが、お互いを認め合い、そして褒め合えるようになり、未来に向かって一緒に進んでいけるチームになりました。
「習慣/一瞬」×「他力/自力」で育む自己肯定感
チーム運営や企業のマネジメントをする人たちであれば、そこにいる大切な人材に自己肯定感を高めてもらいたいと考えると思います。その方法はいくつもあるのですが、ここではわたしが提唱する「4つの窓」というものを紹介します。
【自己肯定感を高める「4つの窓」】
「習慣/一瞬」と「他力/自力」というそれぞれ対照的な要素を持つふたつの軸が交差する4つの窓をイメージしてください。それぞれの窓に、自己肯定感を高める方法を見出すことができます。
ひとつ目は「一瞬×他力」。それの意味するところは、いまこの瞬間にできることであり、自分自身ではなく他人や周囲のものを利用する方法です。わたしは、この方法として自分へのご褒美をおすすめします。好きなものを食べたり欲しいものを買ったりして頑張った自分をねぎらうのです。食べ物など、他力によって自分を認めるわけです。
ふたつ目は「一瞬×自力」ですから、すぐにできて自分の力で行うもの。散歩や瞑想をしてリラックスするなどが手軽でいいと思います。3つ目は「習慣×他力」で、これは文字どおり長期にわたってやり続けることであり、自分以外のものを利用する方法です。利害関係がない好きなスポーツのコミュニティなどに入って、自分がワクワクする時間をつくるということもいいでしょうね。
仕事や家庭の雑事から少し距離を置いて、自分自身を振り返るひとりだけのミーティングをしてみましょう。
最後は「習慣×自力」。これは、あらゆることのポジティブな面を自分自身で見つけることを習慣にするというものです。ゴルフをする人ならよくわかると思いますが、コース上に池があるとつい「池に入れちゃダメだ!」と考えてしまいますよね。すると、なぜかボールは池に飛び込んでいく。
そうなる理由は、池というネガティブな面にばかりフォーカスする癖がついてしまっているからです。でも、池のまわりにはフェアウェイというポジティブな面がいくらでも広がっています。そこにフォーカスしてネガティブな面の存在をなるべく小さくしていくことで、ものごとのポジティブな面をとらえられるようになり、自己肯定感も高まっていきます。
組織全体の自己肯定感を高める「心理的安全性」
自己肯定感を高めるために個人でできることを紹介しましたが、仮に自分だけ自己肯定感を高めても、組織のなかに自己肯定感が低い人がたくさんいたら困りますよね。
ただ、個人の働きかけによって組織全体の自己肯定感を高めることはなかなか難しいのが実情です。そこでわたしは、組織の在り方そのものを変えていく必要性を感じています。いま、組織づくりにおける重要なキーワードに「心理的安全性」というものがありますが、それこそ、組織全体の自己肯定感を高めるためにも重要だと思うのです。
心理的安全性とは、職場など組織において、「組織に属する人間が安心して自由に自己表現や自己主張ができる環境が担保されている状態」を指します。周囲の顔色を伺うことなく自己表現や自己主張ができる人は、紛れもなく自分を肯定できている人です。しっかりと心理的安全性が確保された組織に属する人間は、総じて自己肯定感が高くなります。
心理的安全性を高めていくための方法が様々あるなかで、「1on1ミーティング」に時間を割いてみるのはどうでしょうか。まずはチームや企業でマネジメントする側がそういった習慣を構築していく必要がありますが、「1対1」の状態で、そこにいる人間たちが自分の想いをしっかりと共有していくことは、これからの時代における組織運営に欠かせないものになっていくと見ています。
これまでのチームや企業では、マネジメント側の人間が選手や部下を集めて、そこで一方的に指示を出していくことがほとんどでした。でも、時代は確実に変化しています。時代背景的にも自己肯定感を高めにくいなか、「1on1ミーティング」のような一人ひとりのメンバーの心に寄り添っていくような取り組みを行っていくことで、組織は変わっていくはずです。
心理カウンセラーの立場としての理想をいえば、コーチングやメンタルトレーニングのスキルを持つ人材を組織に配置することも、一考していく必要があると考えています。
2021-05-05 SPODUCATIONに掲載された記事を加筆修正したものです。
自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。
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