「HSP」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。HSPとは「Highly Sensitive Person」の頭文字をとった略語で、「感受性が非常に高く、周囲の環境からの影響を受けやすい過敏な人」を指します。
その特性から、一般の社会では「繊細過ぎて生きづらい」とも指摘されるHSPですが、心理カウンセラーの中島輝さんは、「HSPだからこそ、一般の人にはない『武器』を持っている」と語ります。
目次
HSPが「生きづらい…」とされる4つの特性
「感受性が非常に高く、周囲の環境からの影響を受けやすい過敏な人」を指す「HSP」は、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士によって概念化されました。全人口の15〜20%、約5人にひとりがあてはまる性質ですから、みなさんの身近な人も、あるいはあなた自身もHSPという可能性は決して低くありません。
じつは、わたしもそのひとり。HSPについてのアーロン博士の著書を読んだとき、「これは完全にわたしのことだ!」と思い、HSPについての研究をはじめました。HSPの特性は、主に次の4つだとされ、それぞれの頭文字をとって「DOES(ダズ)」と呼ばれています。
【HSPの4つの特性「DOES」】
1.Depth of processing(処理の深さ)
2.Overstimulated(神経の高ぶりやすさ、刺激の受けやすさ)
3.Emotional reactivity and high Empathy(感情への反応が強く、とくに共感力が高い)
4.Sensitivity to Subtleties(些細な刺激を察知する)
ひとつ目の特性は、「Depth of processing(処理の深さ)」です。非HSPと比べると、HSPは情報の処理が深く、同じものを見てもそこから処理する情報量が多いといわれています。たとえば、「午後の降水確率は70%」という天気予報を見たとき、非HSPはただ「傘を持って行こう」と思うだけかもしれません。
しかし、HSPの場合は深く考えるために、「折りたたみ傘と大きな傘とどっちを持っていこうか」「荷物になって邪魔だな」「おとといの降水確率は80%だったけど雨が降らなかった」「でも本当に降ったら嫌だし、服も靴も雨用のものにしようかな」「出かけたくなくなってきた」「気圧の変化のせいで頭痛がするかも」といったふうに、「一を聞いて十のことを想像して考える」傾向があります。
そのため、ものごとをはじめるときに様々なことを考え過ぎてしまい、実行に移すまでに時間がかかってしまうのです。
あらゆる刺激を強く受けるために、精神をすり減らす
ふたつ目の特性は、「Overstimulated(神経の高ぶりやすさ、刺激の受けやすさ)」です。他者の言動や気分に対して敏感で、悪気もないなにげない言動で傷つくこともあります。
具体的なシチュエーションを挙げると、HSPは飲み会が苦手です。飲み会の場の騒がしさ、タバコやアルコールのにおい、雑多な会話、気を遣わなければならない相手の存在といった刺激を過剰に受け取ります。そのためにだんだん疲れてくると、周囲からの「テンション低くない?」「楽しめていないのかな?」といった感情も鋭く感じて、さらに気疲れしてしまいます。
3つ目の特性は、「Emotional reactivity and high Empathy(感情への反応が強く、とくに共感力が高い)」です。相手の顔がちょっと不機嫌そうに見えただけでも、「なにか悪いことをしちゃったかな…」と考えるなど、周囲の人間の感情への反応が強いのです。また、人が怒られているのを見ると、自分も怒られているように感じて落ち込んだり傷ついたりすることもあります。
HSPの4つ目の特性は、「Sensitivity to Subtleties(些細な刺激を察知する)」です。HSPが敏感に反応するのは、人間関係にかかわることだけではありません。照明の明るさや空調による気温の変化、時計の音、人の体臭や口臭などあらゆる刺激に敏感です。そのため、日常生活でもほんの些細なことが気になり、集中すべきところで集中できないといったこともあります。
ここまでの特性を見てもらうとおわかりでしょう。HSPは、非HSPに比べて様々な刺激を日常生活のなかで強く受けてしまうために、精神をすり減らし、それこそ「生きづらい」というふうに感じることがあるのです。
HSPの特性は、見方を変えれば大きな「武器」になる
しかし、これらHSPの特性であるDOESは、見方を変えれば大きな「武器」にもなり得るのではないでしょうか。わたしは、DOESを武器としてみると、次のようなものになると考えます。
【「武器」としてのHSPの特性「DOES」】
1.処理の深さ→本質を見抜ける
2.神経の高ぶりやすさ、刺激の受けやすさ→多面的にものごとを見ることができる
3.感情への反応が強く、とくに共感力が高い→相手の立場で話を傾聴し、安心感を与えられる
4.些細な刺激を察知する→全体思考ができる
一を聞いて十のことを想像して考えるのですから、HSPの思考は非HSPのそれと比べると格段に深いものになります。つまり、ものごとの「本質を見抜ける」能力があると見ることができるのです。この力をビジネスパーソンが発揮できれば、顧客が本当に強く求めていること、真のニーズを察知することができると思います。
また、飲み会ひとつをとっても、場の騒がしさ、タバコやアルコールのにおいなど様々な刺激を受けるHSPは、見方を変えるとそれだけ幅広い情報を得て「多面的にものごとを見ることができる」といえます。ひとつの事象に対して多面的に見ることで、そこに潜んでいる問題に気づけるといったこともあるでしょう。
3つ目の「感情への反応が強く、とくに共感力が高い」は、そのまま武器になりますよね。他者に対する共感力が高いため、「相手の立場で話を傾聴し、安心感を与えられる」でしょう。接客業に限らず、ほとんどすべての仕事は多くの人とかかわりながら進める必要があります。この力が、ビジネスパーソンにとって大きな武器になることは明白です。
それから、些細な刺激も察知するということは、非HSPが見落としてしまうような情報も敏感に拾うことができるということを意味します。つまり、あらゆる要素、情報をしっかりと網羅して俯瞰する「全体思考ができる」わけです。
HSPのデメリットを抑えてメリットを生かす方法
ただし、HSPの特性が武器になるとわかったからといって、すぐにそれらのいい面だけを使えるようになるわけではありません。
よくいわれる話ですが、長所と短所は表裏一体のものです。HSPの特性が武器になるという一面はたしかにありますが、やはりその特性ゆえの生きづらさ、疲れやすさというものもあるのが事実です。ですから、なるべくHSPのデメリットやそれゆえの疲れやすさというものへの対処だけはきちんとやっておきましょう。そのために、わたしからは3つの方法をおすすめしておきます。
【HSPのデメリット・疲れやすさを抑える方法】
1.ひとりの時間をつくる
2.まわりの音や光をさえぎる
3.自分の気持ちを書き出す
HSPは、無意識のうちにも多種多様の刺激を感じています。そのため、刺激を受け過ぎて疲れてしまったと感じるようなときにはひとりになる時間をつくってみましょう。コロナ禍のいまなら、比較的やりやすいことかもしれません。
周囲の会話などの音や光が気になるときは、道具を使うのも手です。いまはノイズキャンセリング機能のあるヘッドホンやイヤホンがありますし、ブルーライトカット眼鏡や偏光グラスの眼鏡、サングラスなどを活用してみるのもいいでしょう。
また、HSPは他者の言動に対して敏感に反応し過ぎたり共感し過ぎてしまったりするため、本当の自分の気持ちを見失ってしまうこともあります。本当はなにをいいたかったのかわからなくなったり、本当にいいたかったことをいえなかったりすることが自分を苦しめることもあるのです。そういうストレスを抑えるため、自分の気持ちや考えを書き出して言語化し、自分の本心を客観視することも大切な習慣です。
2021-07-16 マイナビニュースに掲載された記事を加筆修正したものです。
自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。
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