机の上に、白い封筒が置いてあった。
表書きに「退職願」。
3人目だ。この半年で。
採用に3カ月かけた。
技術を教えるのに半年かけた。
やっと一人前になったと思ったら──辞める。
「また一から採用か」
そう思った瞬間、どっと疲れが押し寄せた。
──歯科医院の院長、美容院のオーナー、
小規模で専門技術を扱う経営者の方。
この「また辞めた」のループに、心当たりはありませんか。
中島輝です。
今日は「スタッフが辞める本当の理由」と、その処方箋の話をします。
「最近の若い子は根性がない」
「給料だって悪くないのに」
「休みも増やした。福利厚生も整えた。なのに辞める」
「結局、うちみたいな小さい職場は踏み台にされるんだ」
──そう思いたくなる気持ち、わかります。
でも正直に言います。
「根性がない」のではなく、「本音を言えない」のかもしれません。
そしてそれは、あなた自身が気づいていない構造的な問題です。
Googleが4年かけて見つけた「最強チームの条件」

世界最先端の企業Googleが、
「成果を出すチームに共通するものは何か」を調べた
大規模プロジェクトがあります。
📊 Google「Project Aristotle」(2012-2016)
180チーム・4年間をかけた調査。
成果を出すチームの最重要因子は──
メンバーのIQでも、スキルでも、経験年数でもなく、
「心理的安全性(Psychological Safety)」だった。
心理的安全性とは──
「ここでは本音を言っても大丈夫」
「間違えても責められない」
「質問しても馬鹿にされない」
と感じられる環境のこと。
心理的安全性が高いチームでは──
学習行動が2.1倍(Edmondson, 1999, ASQ)
離職意向が有意に低下
イノベーション発生率が上昇
つまり──
スタッフが辞めるのは「根性がない」からではなく、
「安心して働ける」と感じていないから。
歯科医院も美容院も、技術職の小規模チームです。
Googleの180チームと本質は同じ。
「この職場では本音を言っても大丈夫」と感じられるかどうか。
それが、スタッフが残るか辞めるかの分岐点です。
院長・オーナーが気づかない「縦の関係」
ここで大事なことを、正直にお伝えします。
心理的安全性が低い職場には、共通点があります。
トップが「縦の関係」で接している。
アドラー心理学では、人間関係を「縦」と「横」で捉えます。
縦の関係=上下。評価する側と評価される側。
横の関係=対等。お互いの存在を認め合う関係。
「なんでこんなミスするの?」──これは批判。縦の関係。
「ここはこうした方がいいね」──これは指導。まだ縦。
「今日、あの対応よかったね。助かったよ」──これは勇気づけ。横の関係。
多くの院長・オーナーは、
技術を教えるプロです。
でも「人を育てる」トレーニングは受けていない。
だから無意識に「指導」と「批判」ばかりになる。
悪意はない。でもスタッフは萎縮する。
萎縮すると本音が言えなくなる。
本音が言えないと──辞める。
H.Mさんが朝礼で変えた「たった一言」
H.Mさん、48歳。歯科医院の院長。
開業12年目。スタッフ7名。
講座に来たきっかけは、冒頭と同じ──
半年で3人辞めたこと。
「技術は自信がある。患者さんの評判もいい。
でもスタッフが定着しない。
採用→教育→退職のループで、もう疲れた」
講座の中で、H.Mさんは自分の「朝礼」を振り返った。
毎朝こう言っていた。
「今日も一日、ミスのないように頑張りましょう」
──悪い言葉ではない。でもこの一言は、
「ミス=ダメ」というメッセージを毎朝スタッフに送り続けている。
スタッフはこう受け取る。
「ミスしたら怒られる」「この職場はミスが許されない」
──心理的安全性の正反対。
講座後、H.Mさんは朝礼の一言を変えた。
「昨日も一日、ありがとうございました。
今日もみなさんがいてくれるから、安心して診療ができます」
スタッフの反応は、最初は「え?」という戸惑い。
1週間後、ひとりの歯科衛生士が小さく「ありがとうございます」と返した。
2週間後、別のスタッフが「院長、昨日の件なんですけど──」と自分から相談してきた。
3カ月後、H.Mさんは言いました。
「半年間ゼロだったんです。退職が。
それだけじゃない。スタッフが笑っている。
受付で患者さんに話しかける声が、前と全然違う。
明るくなったんです。
そしたら患者さんの紹介も増えた」
朝礼の一言を変えただけ。
技術も、給料も、休日も、何も変えていない。
「頑張りましょう(評価・縦)」が「ありがとう(承認・横)」に変わった。
それだけで、チームの空気が根本から変わった。
チームの「ポジティブ比率」が業績を決める
📊 Losada比率──チームの感情比率と業績の関係
──Losada & Heaphy(2004) American Behavioral Scientist
60のビジネスチームの会議を分析した結果──
高業績チーム:ポジティブ発言 : ネガティブ発言 = 5.6 : 1
中業績チーム:同比率 = 1.9 : 1
低業績チーム:同比率 = 0.4 : 1(ネガティブの方が多い)
つまり──
チーム内のポジティブな関わりが3:1を超えると業績が向上し始め、
5:1を超えると「高業績チーム」の領域に入る。
これはゴットマンの夫婦5:1ルールと同じ構造。
家庭でも職場でも、人間関係の法則は共通している。
H.Mさんの歯科医院で起きたことは、
この研究が予測した通りの結果でした。
朝礼の一言が「ポジティブ比率」を押し上げ、
スタッフの安心感が生まれ、
チームの空気が変わり、
それが患者さんにも伝わった。

「でも、心理学と経営は関係ないでしょ」
「うちは歯科医院(美容院)であって、心理学の教室じゃない」
「スタッフに優しくしたら、なめられるんじゃない?」
──ここが、多くの経営者がはまる落とし穴です。
「優しくする」のではありません。
「心理的安全性を設計する」のです。
設計にはスキルが必要。だから学ぶ価値がある。
技術は教えられる。「人を育てる技術」は、誰にも教わっていない
歯科医師免許を取るまでに6年。
美容師免許を取るまでに2年。
その間に「人間関係の技術」を学ぶ授業は、ほぼゼロ。
開業して初めて「人を雇う」「人を育てる」という課題に直面する。
でも誰にも教わっていないから、自己流でやるしかない。
自己流が行き詰まったとき、「また辞めた」が始まる。
技術は教えられた。でも「人を育てる技術」は、誰にも教わっていない。
アドラー心理学は、その「教わっていなかった1ピース」を埋めるものです。
勇気づけ。課題の分離。横の関係。心理的安全性の設計。
すべて、2日間の講座で「体験」として学べます。
次にスタッフから退職願を受け取る前に。
次の「また辞めた」が来る前に。
あなた自身が先に変わる。
それが、いちばん効率的で、いちばん確実な「経営戦略」です。
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