「どう叱ればいいかわからない」と悩む管理職へ。──658,000人のデータが示した、部下が自分から動き出す「たった1つの技法」

会議室のドアを閉める。

部下と一対一。月に一度の1on1ミーティング。

「最近、どう?」

「……まあ、普通です」

沈黙。

「何か困ってることは?」

「……特にないです」

5分で話が尽きる。

残り25分、何を話せばいいのかわからない。

部下はスマホの時計をちらりと見ている。

早く終わりたいのが、伝わってくる。

──管理職の方。

こんな1on1を、毎月繰り返していませんか。

中島輝です。

今日は「叱り方」ではなく、もっと根本的な話をします。

なぜ部下は「普通です」としか言わないのか。そしてどうすれば、本音を話してくれるのか。


部下が本音を言わない、本当の理由

「何を考えているかわからない」

「急に辞めると言い出す」

「指示待ちで、自分から動かない」

管理職の9割が、このどれかに悩んでいます。

そして多くの管理職は、原因を「部下の問題」だと思っている。

「最近の若い世代は主体性がない」

「ゆとり世代だから」「Z世代だから」

正直に言います。

原因は、部下ではなく、関係の「構造」にあります。

「叱ればパワハラと言われそうで怖い」

「褒めれば媚びてるみたいで気持ち悪い」

「何を言えばいいかわからないから、結局何も言えない」

「自分が若い頃は上司の背中を見て学んだ。今の子はそれができない」

──その葛藤、ものすごくわかります。

でも「叱り方」を変えても、根本は解決しません。

なぜなら「叱る」も「褒める」も、同じ構造の中にあるからです。


「叱る」も「褒める」も、実は同じ──縦の関係

多くのマネジメント研修では、

「叱り方のコツ」「褒め方のテクニック」を教えます。

でもアドラー心理学は、もっと根本的なことを指摘する。

「叱る」は、上から下への評価。

「褒める」も、上から下への評価。

どちらも「縦の関係」。構造は同じ。

「よくやった!」と褒められた部下は嬉しい。

でも同時に、無意識にこう感じている。

「この人に評価されている。良い評価をもらわなきゃ」

「失敗したら、評価が下がる」

「本音を言って、評価が下がったら怖い」

だから部下は「普通です」としか言えない。

評価される関係の中では、本音はリスクだから。


658,000人の調査が示した「承認」の威力

📊 リーダーの承認スキルとエンゲージメント

──Zenger & Folkman(2015) Harvard Business Review

リーダーシップ研究のゼンガー&フォークマンが、

658,000人の従業員データを分析した結果──

リーダーが「承認(recognition)」を頻繁に行うチームは、

エンゲージメント(仕事への没頭度)が上位10%に入る確率が、

そうでないチームの2.7倍。

ここで重要なのは──

「承認」は「褒める」とは違う。

褒める=「結果がすごい」(評価・縦の関係)

承認する=「あなたがここにいてくれて助かる」(存在の肯定・横の関係)

アドラー心理学では、これを「勇気づけ」と呼ぶ。

658,000人のデータが示したのは──

部下を動かすのは「評価」ではなく「承認」。

「あなたのここがすごい」ではなく、「あなたがいてくれて助かる」。

「やれ」と「やりたい」では、生産性が3倍違う

📊 自己決定理論SDTDeci & Ryan, 2000)被引用25,000

人が最も高いパフォーマンスを発揮するのは、

3つの基本欲求が満たされたとき:

① 自律性(自分で決めている感覚)

② 有能感(自分にはできるという感覚)

③ 関係性(信頼できる人とつながっている感覚)

外発的動機(命令・報酬・罰)による行動と、

内発的動機(自分からやりたい)による行動では、

創造性・持続性・生産性に2-3倍の差。

つまり──

「やれ」と言って動かすより、

「やりたい」と思わせた方が、

結果が2-3倍良くなる。

自律性支援型のリーダーの下では──

部下の内発的動機づけが有意に高く、

離職率は有意に低い。

──Baard, Deci & Ryan(2004) Journal of Applied Social Psychology

指示命令ではなく、自律性を支援する。

評価ではなく、存在を承認する。

これが「勇気づけマネジメント」の核心です。


T.Oさんの1on1が変わった日

T.Oさん、52歳。製造業の部長。部下28名。

入社30年。

自分自身が「背中を見て学べ」の文化で育った。

上司に褒められた記憶はほとんどない。

叱られて伸びた──そう信じてきた。

講座に来たきっかけは、ある出来事だった。

1on1で、若手社員に「最近どう?」と聞いた。

いつもの「普通です」を予想していた。

でも、その日は違った。

若手が──泣いた。

「すみません……もう限界かもしれません。

 でも部長には言えなかったんです。

 何を言っても『気合いが足りない』と言われると思って」

T.Oさんはショックだった。

叱ったつもりはなかった。

でも、部下は「何を言っても気合い論で返される」と感じていた。

自分の「背中を見せるマネジメント」が、

部下の口を閉ざしていたことに、初めて気づいた。

「でも、自分も叱られて育った。それで結果出してきた」

「優しくしたら、なめられるんじゃないか」

「厳しさも必要でしょう。甘やかすのとは違う」

──その通り。甘やかすのとは違います。

「勇気づけ」は甘やかしではありません。

「あなたにはできる」と信じて、自分で考える機会を与えること。

それは「厳しさ」より、はるかに難しい技術です。


T.Oさんが変えた「たった2つのこと」

講座後、T.Oさんは2つだけ変えた。

1つ目:1on1の冒頭を変えた

「最近どう?」→「今週、助かったことがあってさ。あの件、ありがとう」

「どう?」は部下に丸投げの質問。答えようがない。

「ありがとう」は具体的な承認。部下の脳に「自分は役に立っている」という信号を送る。

2つ目:「どうすればいいですか?」に答えなくなった

以前は部下が「どうすればいいですか?」と聞くと、すぐに答えを出していた。

講座後は──

「あなたはどうしたい?」と聞き返すようにした。

最初、部下は戸惑った。

「え、自分で決めていいんですか?」

「うん。やってみて。何かあったら一緒に考えよう」

これがSDTの「自律性支援」そのもの。

答えを与えるのではなく、自分で決める機会を与える。


3カ月後に起きた変化

T.Oさんのチームに起きた変化は、静かだったけれど確実だった。

1on1で「普通です」と言う部下がいなくなった。

代わりに「実は相談したいことがあるんですけど」が増えた。

若手が自分からアイデアを出すようになった。

会議で意見が出るようになった。

残業が月20時間減った──指示待ちの時間が減ったから。

T.Oさんは言いました。

30年間、部下に『背中を見ろ』と言ってきた。

 でも本当は、自分が『部下の顔を見ていなかった』んです。

 1on1で初めて部下の目を見て『ありがとう』と言った日、

 部下の表情が変わった。

 それを見て──自分の表情も変わったのがわかった」

あなた自身が「勇気づけ」を受けたことはありますか

最後に、少し厳しいことを聞きます。

あなた自身は、上司から「勇気づけ」をされた経験がありますか?

「すごいな」と褒められたことはあるかもしれない。

「もっと頑張れ」と叱られたことはあるかもしれない。

でも──

「あなたがいてくれて助かっている」

「あなたの判断を信じている」

と言われた経験は?

もしないなら──

自分が経験したことのないものを、部下に与えることはできません。

だからまず、あなた自身が「勇気づけ」を体験する必要がある。

その体験を持って初めて、部下に同じことができるようになる。

講座の2日間で起きることの中で、

最も多くの管理職が驚くのがここです。

「部下のために学びに来たのに、

 いちばん勇気づけられたのは自分だった」

まず自分が満たされる。

そのあとで、部下に与える。

これがアドラー心理学のマネジメントの順序です。

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