部下がついてこない、業績が伸び悩む…。リーダーが抱える問題は、スキル不足が原因ではないかもしれません。アドラー心理学と自己肯定感を土台に、人間関係も業績も好転させる本質的な問題解決能力を身につける方法を、自己肯定感の第一人者・中島輝が徹底解説します。
はじめに:なぜ、あなたの「頑張り」は空回りしてしまうのか?
「リーダーとして、常に強くあらねばならない」
「私がやらなければ、誰もやってくれない」
「もっとうまく人を動かせたら…」
個人事業主として、あるいは経営者として、日々多くの課題と向き合い、孤軍奮闘されているあなたへ。
次から次へと発生する問題、思うように動いてくれない部下、そして、誰にも相談できない孤独感。その重圧の中で、問題解決のために数々のビジネス書を読み、セミナーに参加し、スキルを磨いてきたのではないでしょうか。
それなのに、なぜか根本的な問題は解決せず、同じような壁に何度もぶつかってしまう…。
もし、そう感じているのなら、その原因は「問題解決のスキル不足」にあるのではありません。
こんにちは。自己肯定感の第一人者、中島輝です。
これまで多くの悩めるリーダーたちと向き合う中で、一つの結論にたどり着きました。
それは、真の問題解決能力は、テクニックやフレームワークの上にあるのではなく、その土台となる「自己肯定感」と「物事の捉え方」にかかっているということです。
特に、私たちを最も悩ませる「人間関係」の問題は、ロジカルシンキングだけでは決して解決できません。
この記事では、アルフレッド・アドラーの「アドラー心理学」と、私が体系化した「自己肯定感の育み方」を掛け合わせ、責任ある立場でチームを率いるあなたが、今後どんな困難な問題に直面しても、しなやかに、そして力強く乗り越えていける「本質的な問題解決能力」を身につけるための3つの具体的な方法を、ワークを交えながらお伝えします。
この記事を読み終える頃には、あなたは目の前の問題に対する見方が180度変わり、自分自身とチームの可能性を最大限に引き出すための、新たな羅針盤を手にしているはずです。
リーダーが陥る「問題解決の罠」とは?
私たちは、問題が発生すると、つい「なぜ、こうなったんだろう?」と原因を探し始めます。しかし、それこそが、あなたを問題解決から遠ざけてしまう第一の罠なのです。

1-1. 原因探しが、あなたを過去に縛り付ける
部下のミス、顧客からのクレーム、計画通りに進まないプロジェクト…。問題が起きるたびに、「誰のせいだ?」「どこで間違えた?」と過去を振り返り、犯人探しをしていませんか?
アドラー心理学では、これを「原因論」と呼びます。
原因を追究することは、一見、論理的で正しいアプローチに思えます。しかし、特に対人関係においては、原因探しは「叱責」「詰問」「自己弁護」を生み出し、関係性を悪化させるだけです。
- 「なぜ報告しなかったの?」→(部下は萎縮し、次は隠そうとする)
- 「あの時、ああ言ったじゃないか」→(相手は心を閉ざし、反発する)
原因探しは、私たちを過去に縛り付け、未来へ向かうエネルギーを奪います。そして何より、「だから、あなたにはできない」という無力感を本人と相手に植え付けてしまうのです。
1-2. 「私がなんとかしなければ」という過剰な責任感の正体
キャリアを重ねてこられたリーダーは、真面目で責任感が強い方が非常に多いです。その責任感は素晴らしい強みである一方、時として自分を追い詰める諸刃の剣にもなります。
「部下の成長も、チームの雰囲気も、会社の業績も、すべて私の責任」
そうやって、あらゆる問題を一人で抱え込んでいませんか?
その過剰な責任感の裏には、実は「他者を信用していない」「自分がコントロールしなければ安心できない」という、低い自己肯定感に根差した不安が隠れている場合があります。
すべてを自分で背負い込むリーダーの下では、部下は育ちません。なぜなら、リーダーが「課題」を奪ってしまっているからです。部下は指示待ちになり、当事者意識が欠如し、結果的にリーダーの負担は増え続ける…という悪循環に陥ります。
1-3. テクニックだけでは解決できない「対人関係」という最大の壁
ロジカルシンキング、フレームワーク、KPI管理…。ビジネスにおける問題解決の手法は数多く存在します。しかし、経営者やリーダーが直面する問題の9割は、「人」が関わる問題ではないでしょうか。
- 価値観の違う社員とのコミュニケーション
- モチベーションの低い部下の育成
- チーム内の対立
これらの問題は、ロジックや正論だけでは決して解決しません。なぜなら、人は感情で動く生き物だからです。
実際、かつてのようなトップダウンの支配型リーダーシップはもはや通用しません。相手の心に火をつけ、自発的な行動を促すには、テクニック以前に、リーダー自身の「あり方」と、相手への深い理解・信頼が不可欠なのです。
すべての鍵はアドラー心理学にあり!
では、どうすれば過去に囚われず、他者との健全な関係を築きながら、未来志向で問題を解決していけるのでしょうか。その答えを、アドラー心理学の3つの重要な視点から紐解いていきましょう。

2-1. 視点①「原因論」から「目的論」へ:未来を創る魔法の問い
アドラー心理学の根幹をなすのが「目的論」です。これは、人の行動や感情には、必ず「目的」がある、と考えるアプローチです。
「原因論」が過去を向いているのに対し、「目的論」は未来を向いています。
原因論的な問い
「なぜ、部下はミスをしたのか?」
目的論的な問い
「どうすれば、部下は自信を持って仕事に取り組めるようになるか?」
いかがでしょうか。問いを変えるだけで、思考の方向性が「犯人探し」から「未来創造」へとシフトするのがわかりますか?
問題が起きた時こそ、リーダーの腕の見せ所です。過去を責めるのではなく、「では、これからどうするか?」「私たちの目的は何か?」という未来への問いを投げかけることで、チーム全体のエネルギーは建設的な方向へと向かっていきます。
2-2. 視点②「課題の分離」:あなたの心の負担を9割減らす境界線
あなたが抱えているその問題は、本当に「あなたの課題」でしょうか?アドラー心理学の「課題の分離」は、この一点を明確にする、極めて強力な処方箋です。
「課題の分離」とは、「その選択によってもたらされる結末を、最終的に引き受けるのは誰か?」という視点で、自分の課題と他者の課題を切り分けることです。
例えば、「部下がなかなか成長しない」という悩み。
- ■ 部下の課題: 経験から学び、スキルを習得し、成長するかどうか。これは最終的に部下自身が引き受けることです。
- ■ あなたの課題: 部下が成長しやすいように、情報を提供したり、フィードバックをしたり、挑戦の機会を与えたりと、できる限りの援助をすること。
部下が成長するかどうかまでを、あなたがコントロールすることはできません。それは「他者の課題への介入」であり、相手の自律性を奪い、あなたの心の負担を増やすだけです。
あなたは、あなたの課題に100%集中すればいいのです。
「どうすれば、もっと良いサポートができるだろうか?」
この境界線を引くだけで、あなたは過剰な責任感から解放され、驚くほど心が軽くなるのを感じるでしょう。
2-3. 視点③「共同体感覚」:”貢献”こそが最強のリーダーシップ
課題の分離は、「相手を突き放す」ことではありません。分離した上で、次に向かうのが「共同体感覚」です。
共同体感覚とは、「他者を仲間だとみなし、そこに自分の居場所があると感じられること」です。そして、その感覚は「他者への貢献」によって育まれます。
リーダーとしてのあなたの究極の目的は、会社やチームという共同体へ貢献することです。そして、部下一人ひとりも、その共同体への貢献を求めています。
「この仕事は、お客様のどんな喜びに繋がっているのか」
「あなたの頑張りが、チームをどれだけ助けているか」
リーダーがこの「貢献」という視点を持ち、それをメンバーに伝え続けることで、チームには一体感が生まれます。人は「自分は役に立っている」と実感できた時に、最も強く、自発的な力を発揮するのです。
これは、支配や管理とは全く違うアプローチです。相手を対等なパートナーとして信頼し、共通の目的に向かって協力する「ヨコの関係」を築くこと。これこそが、新時代のリーダーシップであり、アドラー心理学が目指すゴールなのです。
問題解決能力の絶対的土台。「自己肯定感」が低いと起こる3つの悲劇
アドラー心理学のこれらの視点は、非常にパワフルです。しかし、どれだけ素晴らしい知識を得ても、それを実践するリーダー自身の「心の土台」がぐらついていては、宝の持ち腐れになってしまいます。
その土台こそが、「自己肯定感」です。
自己肯定感とは、「ありのままの自分を、かけがえのない存在として肯定する感覚」のこと。この感覚が低いと、問題に直面した時に、次のような悲劇が起こります。

自己肯定感が低いと起こる3つの悲劇
悲劇①:他人の評価に怯え、決断ができない
自己肯定感が低いと、自分の価値を「他人の評価」に委ねてしまいます。「嫌われたくない」「無能だと思われたくない」という恐れが先に立ち、困難な問題に対する決断を先延ばしにしたり、当たり障りのない選択しかできなくなったりします。
リーダーの決断の遅れは、ビジネスにおいて致命的です。チームは進むべき方向を見失い、チャンスを逃し続けます。
悲劇②:無意識に「マウンティング」し、人が離れていく
自己肯定感の低さは、時として「自分を大きく見せたい」という防衛的な態度に繋がります。自分の弱さを隠すために、部下のミスを過剰に責めたり、自分の功績をことさらにアピールしたり…。
こうした「マウンティング」的な態度は、無意識だとしても、確実に周囲の人の心を傷つけ、信頼を失います。結果として、優秀な人材は離れていき、リーダーはますます孤独になっていくのです。
悲劇③:失敗を過度に恐れ、挑戦できなくなる
自己肯定感が低いと、「失敗=自分の価値の否定」と捉えてしまいます。一度の失敗で深く傷つき、「もう二度とあんな思いはしたくない」と、新たな挑戦やリスクを避けるようになります。
しかし、変化の激しい現代において、挑戦しないことは「衰退」を意味します。リーダーが挑戦を恐れれば、その組織の成長は止まってしまいます。部下もまた、リーダーの姿を見て、挑戦をしない「安全第一」の文化に染まっていくでしょう。
【完全実践マニュアル】問題解決3ステップ
ここからは、これまでお伝えしてきたアドラー心理学の視点と自己肯定感を、実際のビジネスシーンでどう活かしていくのか、具体的な3つのステップとワーク形式で解説します。
ぜひ、今あなたが抱えている問題を一つ、思い浮かべながら取り組んでみてください。

ステップ1:『課題の分離』で本当の問題を見極める
まず、あなたが「問題だ」と感じていることを、漠然とした悩みから「具体的な課題」へと整理します。ここで使うのが「課題の分離」です。
【ワーク1】「これは誰の課題?」仕分けシート
準備するもの: 紙とペン
やり方:
今、あなたが抱えている問題について、関係者ごとに「誰が」「何に」困っているのか、そして「その結末を最終的に引き受けるのは誰か?」を書き出してみましょう。
<記入例>
テーマ:期待している若手社員Aさんのモチベーションが低く、指示待ちになっている。
| 課題 | 誰の課題? |
|---|---|
| 仕事に意欲的に取り組むか | 他者(Aさん)の課題 |
| Aさんの話に耳を傾け、理解しようと努める | 自分の課題 |
| Aさんが挑戦したくなる仕事をお願いしてみる | 自分の課題 |
ポイント:
いかがでしょうか。こうして書き出すと、「Aさんのモチベーションを”上げる”」のは私の課題ではない、ということが明確になります。それはAさん本人の課題であり、私にできるのは、あくまで彼女が自らモチベーションを見出すための「援助」です。
このワークによって、自分がコントロールできないことで悩むのをやめ、**今、自分が集中すべき「自分の課題」**がクリアになります。これだけで、問題解決は大きく前進します。
ステップ2:『目的論』で未来志向の解決策を生み出す
自分の課題が明確になったら、次はその課題をどう解決していくか、未来志向で考えていきます。ここで使うのが「目的論」です。過去の原因や現状の不満を嘆くのではなく、「どうなったら理想か?」という未来から逆算して、今できることを考えます。
【ワーク2】ネガティブをポジティブに変換する「魔法の質問」
やり方:
ステップ1で見つかった「自分の課題」について、以下の質問に答えてみてください。
Q1. この状況を通じて、私たちはどんな状態になることを目指しているんだろう?(目的)
A. Aさんが自分の仕事に誇りを持ち、主体的に動けるようになっている状態。
Q2. その理想の状態を実現するために、まず最初にできる、ほんの小さな一歩は何だろう?
A. まずは1on1の時間をとり、「最近、どんなことに興味がある?」と雑談から始めてみる。
ポイント:
魔法の質問は、あなたの視点を「問題」そのものではなく、「可能性」と「未来」へと強制的にシフトさせます。解決策が見つからない時ほど、「どうすれば?」という未来への問いかけが、あなたの脳をクリエイティブにし、新たなアイデアを生み出すのです。
ステップ3:『共同体感覚』でチームを巻き込み、”勇気づけ”で動かす
解決策の方向性が見えたら、最後は実行フェーズです。ここで重要なのが、あなた一人で頑張るのではなく、仲間であるチームメンバーを巻き込んでいくことです。その原動力が「共同体感覚」であり、具体的なアクションが「勇気づけ」です。
「勇気づけ」とは、アドラー心理学の根幹をなす概念で、困難を克服する活力を与えることを意味します。褒める(praise)が上下関係からの評価であるのに対し、勇気づけ(encourage)は、対等な仲間(ヨコの関係)からの共感と信頼のメッセージです。
<勇気づけの具体例>
× 褒める(評価): 「すごいね!優秀だね!」(Youメッセージ)
〇 勇気づけ(共感・感謝): 「助かったよ、ありがとう!あなたのおかげで、プロジェクトが前に進んだよ」(Iメッセージ)
× ダメ出し(欠点指摘): 「ここがダメだから、直しなさい」
〇 勇気づけ(信頼・期待): 「この部分は、あなたの強みである〇〇を活かせば、もっと良くなると思うんだけど、どうかな?」
「勇気づけ」は、相手の存在そのものを認め、感謝と信頼を伝えるコミュニケーションです。これによって相手は「自分は共同体に貢献できている」と感じ、自己肯定感が高まり、自ら動くエネルギーが湧いてくるのです。
【チェックテスト】あなたの「勇気づけ」コミュニケーション度チェック
あなたは普段、部下やメンバーと、どのようなコミュニケーションをとっていますか?当てはまるものにチェックを入れてみましょう。
- 部下の良い点よりも、悪い点や改善点に目が行きがちだ。
- 「ありがとう」「助かるよ」という言葉を、意識して伝えるようにしている。
- 会話の際、つい自分の話が多くなってしまう。
- 結果だけでなく、部下が努力したプロセスや工夫した点にも注目している。
- 相手のためを思って、厳しい指摘をすることが多い。
- 失敗した部下に対して、「なぜそうなった?」と原因を問い詰めてしまうことがある。
- 「あなたならできると信じているよ」というメッセージを伝えている。
- 部下の意見や提案を、まずは最後まで聴くことを心がけている。
- 成果を出した部下を「すごい」「天才だ」と褒めることがある。
- チーム全体の目標達成のために、個々のメンバーがどう貢献しているかを伝えている。
<診断結果>
● チェックが0~3個:
もしかしたら、あなたの言葉は無意識に相手の「勇気をくじいて」いるかもしれません。まずは「ありがとう」から始めてみましょう。
● チェックが4~7個:
勇気づけを意識できていますね!さらにIメッセージ(私は~と感じる)を意識すると、より気持ちが伝わります。
● チェックが8~10個:
素晴らしい勇気づけリーダーです!あなたの周りには、自己肯定感の高いメンバーが育っているはずです。
まとめ:問題解決とは、あなた自身の「あり方」を問い直す旅

今回は、人を導くリーダーが直面する困難な問題を乗り越えるため、アドラー心理学と自己肯定感を土台にした、3つのステップをご紹介しました。
- 【課題の分離】で、背負いすぎた荷物を下ろし、自分が集中すべきことを見極める。
- 【目的論】で、過去への後悔から未来への創造へと、思考の舵を切る。
- 【共同体感覚】と【勇気づけ】で、仲間を信頼し、チーム全体の力で問題を乗り越える。
これらは単なるテクニックではありません。リーダーである、あなた自身の「あり方」そのものを変革する、一生涯使える心のOS(オペレーティングシステム)です。
問題が起きた時、それはあなたを悩ませる「壁」ではありません。それは、あなた自身とチームがさらに成長するための「扉」なのです。
扉を開ける鍵は、あなたの心の中にすでにあります。
それは、自分自身を信じ、仲間を信じる「自己肯定感」という名の、温かく力強い光です。
この記事が、あなたがリーダーとして、一人の人間として、より輝くための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
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もし、あなたがアドラー心理学や自己肯定感について、より専門的に学び、ご自身のビジネスや人生に活かすだけでなく、今度はあなたが「他者を勇気づけるプロ」として活躍したい、という想いが芽生えたのなら。
私が主宰する「アドラー流メンタルトレーナー資格取得講座」で、その方法を体系的に学んでみませんか?
経営者、起業家、カウンセラー、コーチなど、多くのリーダーたちが、ここで学んだ知識とスキルを活かして、自分と周囲の人生を豊かに変えています。
アドラー心理学 × 自己肯定感
▼アドラー流メンタルトレーナー資格取得講座▼

自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。





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