今回の東京五輪では、多くの日本人選手が金メダルを獲得しました。金メダリストと銀メダリストで大きな能力差はなく、メダルの色を分けたのは紙一重。体調や環境の変化もありますが、メンタルが影響した結果ともいえます。では、メンタルの差はどこから生まれるのか?
心理カウンセラーで、自己肯定感アカデミー代表の僕(中島輝)は、ベストセラー『嫌われる勇気』でも紹介された心理学者アルフレッド・アドラーが唱えた“目的論”が鍵を握っていると考えます(以下、中島輝氏寄稿)。
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目的を持つ人がうまくいく決定的な理由
「人間は目的に向かって生きる」とアドラーは唱えます。人生をどう考えるかは、自己決定性だと。目的をもってこの先をどうしていこうかと建設的に考えるのも、そのつど起きたことに対して、“なんでこうなったんだ”と非建設的に考えるのも、自己決定性。目標達成や夢の実現へどう生きるかは、自分自身が決めて歩んでいくのです。
メダリストもビジネスパーソンも同じ。いい仕事をする上でも、精神論や根性論ではなく、「何のために」の目的が明確であればあるほど、アドレナリンやセロトニンなどの脳内ホルモンが圧倒的に出やすくなります。
それによって実力が同じレベルだったとしても、結果は差となって現れます。オリンピアンなら、ただ「金メダルを取りたい」ではなく、「コレコレのために金メダルをとる」と思うかによって、脳内ホルモンや心の安定は全く違ってくるのです。
自分にとってハッピーな目的って何ですか?
ビジネスパーソンにもいえることですが、目的の持ち方は、“自分らしく生きていること”が、すごく大事です。例えば、嫌な仕事の連続で、人間関係でも疲れて、パフォーマンスがあがらない……となった時、「世界遺産を見るために年1回は海外旅行したい」と、人生の目的があったとします。
世界の景色を眺め、充実感を得るために「今」はあると考えられる。「未来」の目的に向かって紐づけられると、日々の課題や困難は「惰性の苦」ではなく、自分らしく生きるための流れになってくるはずです。
今の心情だけに焦点を当てずに、その先の目的に焦点を当てることで、仕事も人間関係も乗り越えていける。「仕事自体の成果を上げよう」を目的にするのではく、「楽しい」目的のために頑張る。そんなハッピーな目的はパフォーマンスを高めます。
生きがいややりがいを見出すコツとは
「年1回世界遺産を見るために」と思えれば、今まで仕事が嫌だったとしても、肯定的な側面で見られるようになります。仮に年1回の旅行を達成したら、「年に2回行けたら最高かも」と変わっていく。こうして自尊感情が高まっていき、どんな場面においても、生きがいややりがいを見出せるようになるんです。
実は仕事や人間関係って、0か100かで極端に変わるのではなく、要は自分の心の置き方の問題。目的を持って、やりがいを見出していくと、先の例では旅先の言語もいいなと思えたり、生活スタイルに憧れを持つなど、どんどん枠も広がります。
そのループで気持ちが前向きになると、自分を高めること、自分らしく楽しく生きることにつながっていく。そうすれば、 仕事や人間関係も含めて、積極的に人生に挑めるようになります。
鍵の閉め忘れが気になる人はヤバイかも…
ただ、いくら目的をもってやる気に満ちていても、気力を失い、ネガティブになる時はあります。これは「心のガソリン切れ」を起こしている状態。だから、やる気も出ないし、悲観的になります。
まず大切なのは、ガソリン切れになっている状態を「自分で気づいてあげる」こと。気づいたら、映画を見る、寝てしまう、美味しいもの食べる……好きなことでリフレッシュする。笑うのも泣くのもあり(笑)で、自分の情動を発散させましょう。
心のガソリン切れに気づきにくい人もいるかもしれません。知っておいて欲しいのは、前提として人の心は「浮き沈み」すること。心が沈むと、人との比較や嫉妬をし、気がかりや不安が多くなって、ネガティブな面を感じやすくなります。だから、「自分が悪い」と責める必要はありません。
例えば、外出時に鍵を閉めたのに不安になって、「閉めたかな」と何度も鍵をガチャガチャと開け閉めしてしまう。これは心が沈み始めたサインです。マイナス感情がいつもより多くなったと感じたら、ポジティブな行動を増やす。そうすれば、またパフォーマンスを高められます。
人は1日4.5万回もネガティブに考えてしまう
仕事中に、心のガソリンが切れたらですか? さすがに会社を抜けて遊びに行ったり、すぐリラックスするのは難しい状況。それなら、「リフレーミング」と言って、ある枠組みでとらえているものを、別の枠組みで見るようにする心理学の考え方が有効です。ネガティブになりがちな言葉を、ポジティブに置き変えていくのです。
例えば、「失敗しちゃうかも」を「なんとかなる」に変えれば、脳も「なんとかなる」ように動いてくれる。その瞬間だけ変わるのではなく、次へのアクションも変える習性もあることが大きい。根っからポジティブでなくても、これを続けていけば、前向きなスイッチを入れやすくなります。
そもそも悲観的になるのはしかたありません。人は「1日6万回思考する」と言われていて、そのうち4.5万回はネガティブな思考。マイナスに考えがちなのは、人間の生命維持機能として組み込まれているから。例えば、水溜まりがあれば避けますよね? 何か落ちてきたらとっさに除けますよね? そうやって、人間はネガティブな側面を多くして身を守ってきたわけです。
大事なのは“しなやかな自分軸”。「私はこういう人間」と決めつける必要はなくて、「私はこういう人間だけど、良い点も悪い点もある。悪くなったら誰かに助けてもらおう」と、 解決方法や代案を考えることです。それくらい“竹のように”しなやかに揺らげる人になる。これは折れない心を持つ「レジリエンス力」ともいえます。
イフゼンプランニングで脳からポジティブに!
ふだんから目的論を意識して習慣化するといいのが、イフゼンプランニングです。“もし”こうなったら、“~をする”と事前に決めておくメソッド。これも脳科学に基づいたものです。
例えば、「来週は嫌な案件が続いて、資料作成もヘビーで大変だな」とネガティブに思うのではなくて、「来週は大変だろう」から、「案件も資料作成もクリア」したら、「週末は家族と焼肉を食べに行こう」とか。困難や課題を抱えても、それらを終えたご褒美のイメージまで作っておきます。
究極はこの短縮版を習慣化すること。「今日、嫌だなー」じゃなくて、嫌なことをクリアしたら、「あのケーキを食べよう」と。特に今はリモートワークで自室にこもりがちな人は出社の移動もなく、人付き合いもない。そうなると、マンネリでネガティブになりやすい。
リモートワーカーはイフゼンプランニングの超短縮版として、マインドセットを心がけましょう。「歯を磨く」、「ハーブティを入れる」などを試すだけでもいいと思います。会社にいたら、ちょっと飲み物を買いに行くとか、自然にやってきたことですから。この切り替えだけでも、パフォーマンスは上がると思います。
短期・中期・長期で目標を変えてみる
若い人たちには、目標に向かって建設的に日々を過ごしてもらいたいと思います。その過程では嫌なことや困難が訪れます。それを乗り越えるために、短期・中期・長期と目的を持つと心も健全になるはず。
短期だったら、すぐにマインドセットすること。中期的には、イフゼンプランニングで、課題や困難が終わった後のご褒美パターンを作る。長期では、何のためにどんなことが一番ワクワクするのかな、と考えていく。
そうやって目標に向かって「今」があると思える人は、ピンチもチャンスに変えられます。目的論をもつことで、誰かに左右されることなく、自分の意思で人生を切り開いていけるのです。
2021 10-12 bizSPA!フレッシュに掲載された記事を加筆・修正したものです。
自己肯定感の第一人者である中島 輝と共に、自己肯定感の重要性を多くの人に伝えるために活動中。講師としての登壇経験が多く、自己肯定感をはじめとするセラピー・カウンセリング・コーチングの知識が豊富。メディアサイト「自己肯定感ラボ」を通じ、誰もが輝いて生きていくための情報を発信中。
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